“ケルベロス”ミツコプロローグ

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dangerousss3

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プロローグ

それは、少し前の話。
まだ僕達姉弟が3人だった頃の話だ。

◆◆◆

タタタタタタ…。
軽機関銃の音と閃光と鉛玉が暴徒をなぎ払っていく。
武装した寮生が窓に取り付けた武器でこの島に続く連絡橋に押し寄せる魔人や暴徒に攻撃しているのだ。

希望崎学園、『黒樺寮』、別名『物置寮』。
学園の端、倉庫が密集した物資集積エリアの入口にある学生寮。
元々は学園建設に従事していた建設作業員の寮を改修した物であり、一部プレハブというボロい建物だ。

ほとんどの学園生徒にも顧みられない学園の最果てに住む生徒は魔人。
しかし、世間一般で言う魔人、すなわち人を超えた異能をもつ特殊能力者とは少し違う。
ここに住む魔人達はどうしようもなく使えない特殊能力しか持たない弱小魔人であり、他の魔人から見下されるような。
それでいて魔人特有の優れた身体能力を持たない為に一般人にすら迫害される。
弱能力魔人のコミュニティであるSLGの会に所属する勇気や甲斐性も持たない。
学園の最下層、そんな生徒達が行き着く場所が、この物置寮だ。
ようは気楽なダメ魔人の溜まり場で。
僕達は今、そこで雇われの警備、傭兵のような事をしている。

「ヒャッハー!!肉塊になりたい奴は前にでろ!!スライスでもステーキ肉でもミンチでも注文どーりにしたげるからさぁーッ!!」
肉切り包丁と料理鋏で敵を肉塊に変えていくのは僕の姉の一人。

「お姉さまは全く、品がありませんわぁ。うふふふふ。」
噴霧器から怪しげな農薬を散布し鋏で切り刻みて暴徒を殺処分していくのも僕の姉の一人。


「無茶しないでよ、姉ちゃん、姉さん!!僕達の仕事は殺すことじゃないんだ!!」
キュルルル…、両手のアイアンロッド(実際は特殊合金製)を滑らかに動かし服の下に仕込んだ糸車からリリアン糸を引き出し編み上げる。
僕の武器はこの編み棒だ。
「はっ!!」
クモの巣状に編み上げたリリアンネットが暴徒たちを鎮圧する。
鋏でネットを切り外して次の糸を編み上げる。
僕の名前は歩峰光吾。姉は蜜子と満子。

「生かして帰しても別に感謝されませんわ。余計に恨まれるなら禍根を断つべきでしょう、みっちゃん。」
「ミツゴ君はさァー。優しいねェー!!でもミツコちゃんの言うとおりでさァー!!このゴミクズどもからみんなを守るのがァー!!私達の仕事なのよォ?」

世界を襲った未曾有の危機。
核兵器とウィルスによる経済の崩壊。
数少ない生き残りの世界。
力あるものが全てを手に入れる。

そして、この場所には食料をはじめとした数多くの物資がある。
住んでいるのは弱小者達。
魔人や徒党を組んだ一般人たちに標的にされるのは必然だった。

僕たち姉弟も特殊な能力を持たない。
名の知れた魔人の一族にあって。
つながりの強い魔人の一族にとって。
能力を持たない事は一族のために力を生かせない事を意味する。

家族はそれでも気にせずにいるけれど。
でも、どこか肩身の狭さが。
幸いにして魔人としては優れた身体能力を持つことはできた。
それを活かして技術を磨くこともした。
でも、どこか後ろめたさがあって。
魔人狩りなどもするような凶悪な姉でさえ。
だから、僕たちはここに住んでいる。

きっと僕たちは理不尽に怒りを感じているのだ。

「お姉さま。みっちゃん。あらかた逃げ出したようですわ。」
「もうちょっと、バラバラに解体させてくれればいいのにねェー。」

上の姉の蜜子は。
上の姉といっても僕たちは三つ子だ、年齢に差はない。
ただなんとなく、生まれた順に。

蜜子姉ちゃんは直感と腕力とセンスで生きる。
暗黒お料理部に所属する料理人であり。
弱小魔人を虐げる魔人を殺す殺人鬼でもある。

下の姉、満子姉さんは知識に富む。
かなり偏った知識ではある化学や数学、生物学。
園芸部に所属し科学的園芸と華道を嗜む、園芸術(ガーデニングアーツ)を使う。
少数を虐げる多数を虐殺する殺人鬼。

そして僕は、手芸部に所属する。探偵だ。
探偵といっても物探しや、ペットを探すのが主だけれど。

「ではお姉さま、休憩の時間にしましょう美味しい料理を…」
「まーコレで一息つけるよねェー、ミツコちゃん。ミツコちゃん?」

それは、僕達の前に現れた。
圧倒的な力をもち突然に。
ミツコ姉さんは、バラバラの、バラバラに…。


「お前ェーッ!!ミツコちゃんに何を!!」
ミツコ姉ちゃんの一撃は、攻撃も。
体が、砕け。血が。

「…ッ!!」

相手を拘束するリリアンネットで相手を拘束。
糸を操り周囲の瓦礫を投擲。
そして糸による切断。
全力での攻撃。

僕が手芸部で身につけた技の全部が…。
僕の目の前に広がる血の海が。
どうして、寮のみんなの血が。
意識が…。

これは僕達の世界を壊す…。
何かだ…。
「細かいところは解らなくてもいい、どういう物かだけ解かればいい。」
「こんな能力を知っているかな?自分の不運と引換えに運命を捻じ曲げ世界を救う能力がある。君たちの力はそれに近い。」
「君たちは魔人を、それも特異点存在の魔人を殺し、その魂の一部を奪い取る能力を得た。」
「それは単独では特に意味のない力だ。戦闘力が上がるわけでもない。日常生活で役に立つわけでもない。奪った力で強くなれるわけでもない。魔人を殺したときに魂の一部を奪う事ができる、今までも君たちはそうしてきたはずだ。君たちの一族にはそういう力がある。」

「奪ってどうするというんですか?」

「奪った力でこの世界の歪みを正すことができる。たとえば治癒法のない病。核戦争。滅びた街。」
「そして君たちを襲ったアレ。本来、世界はそう脆くはない。安易に世界を歪ませることはできない。だが、この世界はそういう風になってしまっている。おそらくは何らかの力が影響しているのだ。僕はそれを世界の敵と呼んでいるのだが。」
「それを無かったことにするのだ。魔人がいるという少しだけ不思議で混沌とした暴力もあるが気楽な世界に戻すのだ。それが君たちが本来持っていた力に僕の力を少し混ぜ合わせた、君たちの特殊能力だ。」
「この先、あの闘技場に集まるのは物語の主役というべき特異点魔人だ。それを殺して魂を奪い世界を救え。」

「…。」
「あーあ、どーするぅー?」
「お姉さまは本当に考えがありませんね」
「ミツコちゃんはどーなのよ?」
「さあ、どうしましょうか?」
「あんたも考えがないよねェー」
「とりあえずは元に戻りたいですわね」
「まあ、胸もないし股にこんなのぶら下げてもねェー」
「服も可愛いのが着れませんわ」
「服は着れば良くない?顔は同じだよォー?」
「ちょっと僕の口で独り言みたいに会話するのやめてよ」
「じゃあミツゴ君はどーしたいの?」
「結局いつもどうりでしょう?私達は好きに動く、決めるのはみっちゃんですよ」

「僕は…」

◆◆◆

「おはッ!!体が動くぅー。やはー!!」
「次は私の番ですわよ、お姉さま」
「僕の体だからね」
「服は可愛いのにしましょう」
「調理器具も揃えないとなァー」
「ちょっと聞いてる?僕の体だからね」


「仲が良くて羨ましいね。そんな風に体の操作は切り替えが可能だ。体格も似ているから、動きに問題はないだろう。さて、ボクはもう行くよ。仕事があるからね。」

「あ、まって。名前を。」
「学園坂…ここではない別の世界の…転校生だ」

僕達は世界を救う。
主役を殺して世界の敵を潰す。
僕たちの名前はミツコ。
世界の敵の敵だ。








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