白王みずきSS(第二回戦)

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dangerousss

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第二回戦第一試合 白王みずき

名前 魔人能力
白王みずき みずのはごろも
羽山莉子 メルティーボム

採用する幕間SS
【白王みずき幕間SS】
(ちょっと百合に目覚めさせられかけてます。ついでに鞘にメダルを貰いました)
【白王みずき 幕間SS こやしもん】
(ウンコに対する“覚悟”があります。あと第一回戦の互いの試合についての知識があります)
【山なしオチなしの幕間SS】
(莉子が灰堂のサングラスを貰いました)

試合内容


「よっこいしょ!」

 年寄りくさい掛け声と共に、武骨な床に一つの人影が生まれた。
 トーナメント参加者、希望崎学園一年の風紀委員・白王みずきである。
 前回とは違い、今回は下着も忘れずきちんと制服を着こなした準備万端の様子でフィールドに降り立った彼女は、その場でキョロキョロと辺りを見回す。

「ここ……やっぱり……」

 二回戦のフィールドたる地下闘技場は、三本の大きな柱で仕切られていた。
 広い部屋の四隅に立てられた松明の灯りが、砂場や武器塚、そして忌まわしき肥溜めなどの存在を明るみにし、ここが夢の中で見たのと同じ場所であることを示していた。
 少女の頬を嫌な汗が流れるが、すぐさま気を取り直す。

「相手の方――羽山せんぱいは、まだいらっしゃってないようですね」

 一回戦もそうだったが、どうやら今回も自分の方が先に到着したらしい。
 とは言え、一回戦の如くフィールドではしゃいでいて先制されてはたまらないし、それにしたって地下闘技場でいったい何を遊べばいいというものだろう。
 壁に背を預け、二つに縛った髪を指先で弄りながら待っていると、ほどなくして、みずきの出現した位置とは対角線上の場所に新たな人影が生まれた。

「よっ――と!」

 すたんっ、と快闊な音を響かせ、対戦相手の少女、希望崎学園二年のバスケ部員・羽山莉子が姿を現した。
 みずきも女子としては決して身長が低いわけではなかったが、目の前の存在はそんなみずきよりもさらに長身であり、後頭部で揺れるポニーテールと併せ、見る者全てに健康なアスリートの印象を与えていた。
 莉子は辺りを窺いながら数歩前に出で、やがてみずきの姿をみとめ口を開いた。

「ん、君が対戦相手の白王みずきちゃんね。……ふぅん、DVDよりも可愛いじゃん!」

「なっ――!」

 太陽の如く明るい極上の笑顔で真正面から「可愛い」と言われ、みずきは赤面した。

「(お、思い出しました……。このひと、天然ジゴロというか、すごく“危うい”方でしたね……!)」

 ファンクラブが存在する程の人気を誇る莉子にまつわる様々な噂は、そういった話が大好物なクラスメートたちによってみずきの耳にも入っていた。
 そのうちの一つが、ファンの間でまことしやかに囁かれる羽山莉子の七つの天然ジゴロスキルの一つ、「羽山スマイル」であった。
 曰く、彼女の穢れなき微笑みを向けられた者は、その魅力に抗うことはできない、と。

「(いけない、いけない……。このひとは対戦相手、すなわち敵です!)」

 ふるふると頭を振り、不思議な熱に浮かされかけた思考を正常に戻す。
 同時に一回戦終了直後の鞘とのやりとりがリフレインし、どうして最近の自分は女の子と、こんな……と、正体のわからない感情が薄い胸に去来した。
 無意識に兄から貰ったミサンガに添えられていた右手をぎゅっと握ると、少女もまた前へと進み出た。

「……あなたは、羽山せんぱい、ですね。本日はよろしくおねが――」

「莉子でいいって! 私も、みずきちゃん、って呼んでいいよね?」

「あ、はい、えっと、莉子せんぱい……」

 気安く懐に潜り込み、可愛らしい声で名前を呼ぶ天然ジゴロスキル「羽山コール」で、またもみずきは調子を狂わされていた。
 ――いけないっ。どうにもこのひとのペースに乗せられちゃってる……。
 そう釈然としないものを感じていると、莉子の方はぐっと伸びをし、その場でバスケプレイヤーめいた軽快なステップを刻み始めた。

「じゃあ、自己紹介も終わったし、そろそろ始めよっか」

「あっ……はい、おねがいします!」

 前哨戦は莉子が優勢か――。果たして、実際の戦いの行方や如何に。
 トーナメント二回戦第一試合、白王みずき 対 羽山莉子。
 互いの“目指すもの”を賭けた決戦の幕が切って落とされた――!


 序盤は、互いに距離を測りあいながらの銃撃戦の様相を呈していた。
 二人とも一回戦の模様が映されたDVDでお互いの能力は把握していたからだろう、みずきの水弾はチョコの爆風で相殺され、逆に莉子の投げるチョコボールは水弾によって弾かれ、あらぬ位置へと転がっていく。
 両者の能力の応酬はどちらも相手に決定的なダメージを与えることなく、それぞれの残弾数を緩やかに減らしてゆくのみだった。
 だが、互いに決定打を浴びていなかったが、その消耗の差は誰の目にも明らかだった。

「はあっ……! はあっ……!」

「にししっ♪ みずきちゃんよ、そろそろ苦しくなってきたのでないかい?」

 肩で荒い息をつくみずきとは対照的に、これっぽっちも疲れてないように見える莉子。
 バスケ部が誇る優秀なアスリート・莉子は、持ち前の体力と卓越した空間把握能力によって、様々なギミックが施されたこの地下闘技場においても精確無比な銃撃戦を演じてみせ、未だ余裕綽々といった様子であった。
 一方のみずきも運動神経は悪くなかったが、所詮は女子高生の平均よりややデキる程度であり、フィールドについての事前知識・戦闘経験を総動員し、やっとのことで莉子と渡り合っているような状態であった。

「それにしても――」

 莉子の凛とした瞳が、みずきの身体を上から下へ、そしてまた上へと滑ってゆく。

「やっぱり、みずきちゃんの能力って、すごくえっちぃね……!」

「す、好きでこんな能力げっとしたわけじゃないですっ!」

 またそのせりふですかっ!――何度目かも分からぬ程聞いたその言葉に、みずきは顔を赤くして反論する。だが、それも当然と言えるのかもしれない。
 これまでにみずきが発砲した水弾の数は、大小合わせておよそ二十発前後。服装で言えば、長かった袖も消え去って両の腋が露わとなり、また膝丈だったスカートも切り詰められ、可愛らしい膝小僧が完全に衆目に晒されていた。
 さらにいえば、莉子と違ってスパッツを穿いていないみずきは、スカートが短くなったことを忘れて激しい回避行動などをとっていたため、莉子や撮影担当の魔人・結昨日映の不可視のカメラに幾度となくその内部を見せつけてしまっていた。

「そんなこと言って、莉子せんぱいだって、いま相当恥ずかしいカッコですよ!」

「にゃにを! “これ”だって、やっぱりみずきちゃんの仕業じゃん! このえっち!」

「ぐぬぬ……」

 言い返せぬ悔しさに歯軋りするみずきの前で、頬を朱に染めた莉子が身体を斜めに捩りつつばっと自分の身体を抱き締めた。
 彼女をよく見ると、髪からは時折ぽたりぽたりと水滴が零れているのが分かる。
 そう、莉子はみずきの水弾の直撃こそ喰らっていなかったが、壁や柱にぶつかったり、あるいはチョコの爆風に飛ばされたりした水滴が、雨垂れが石を穿つかの如く、徐々にだが確実に莉子の制服を透けさせていたのだった。

「もォ……。見えちゃってない、よね……?」

 女子であれば当然のように抱くこの疑問の答えは、無情にもNOであった。
 組み交わされた両腕の向こう側――透けたブラウス越しに、薄い緑のボーダーの下着が見え隠れしていた。
 そして、考えてみて欲しい。下はスパッツを穿いて完全防備しているにも関わらず、上が透けてバレてしまった今、堅牢に築き上げられた防壁を突破せずとも、その花園の正体を、脳裏にありありと想像できやしまいか。
 鉄壁をすり抜けるこのエロマンティックは、その洞察力により唯一この事実に気付いた司会担当の魔人・結昨日司の溜まった疲労を癒したという――。

 さて、胸部の辺りで腕をクロスさせもじもじと恥じらっていた莉子だったが、決心を固めたのかその拘束を解除し、おもむろに胸ポケットから取り出したサングラスを掛けた。
 次に自由になった右手で懐からチョコボールの箱を取りだし、数個を左手に落とした。
 そして左手の脇にデコピンスタイルに構えた右手を添え、同時に口を開く。

「さぁて――これ以上辱められちゃ堪んないからね! そろそろ終わらせてもらうよ!」

「っ!」

 言いながら、中指でぴしっ、ぴしっ、とチョコを弾き飛ばしてゆく。
 一度に多くの粒をばら撒かないのは、既に少なくない量のチョコを消費してしまっているからというのもあったが、莉子の持つ高度な空間把握能力により、一発一発を最適な位置へと放つことが可能であったからだった。
 そして消費量が深刻なのはむしろみずきの方であり、チョコの迎撃に水弾を用いることができず、爆風を避けることも含めてかなり大幅な回避行動をとらざるを得なかった。

「(んっ、そっちじゃなくてぇ……。そうそう、そこお! そのまま、奥にぃ……!)」

 サングラスの奥に光る莉子の瞳は、着々と進行する作戦に満足気に細められていた。
 しばしの一方的な銃撃戦の末に莉子は攻撃の手を緩め、みずきは白虎廉貞――折れた歯や爪が埋まっているという砂場の位置で立ち止った。
 みずきをそこに誘うことこそが莉子の狙いであることにも気付かず――!

「はあっ、はあっ……! どうしました? もう、これで終わり、ですか?」

 肩で息をつきながら、精一杯の余裕の笑みで挑発的に尋ねるみずきに、正真正銘の勝ち誇った笑みを返しながら、莉子は言った。

「うん、もう終わりだよ。――この試合が、ねっ!」

「――――!」

 みずきが“それ”に気付いたのは、己の全身を爆風が包まんとした、その瞬間だった。
 逃げ惑った末に辿り着いた場所――少女がそう思っていた場所には、魔物の顎門が万全の状態で待ち構えていた。
 足元の砂の下に広がっていたのは、チョコの曼荼羅。銃撃戦の折、みずきの水弾に阻まれ墜落した幾粒のチョコは不発弾として各地に眠り、完全なる距離計算を可能にする空間把握能力が爆風を操り弾を望んだ位置へ導き、絶好の機会に牙を剥いたのだった――!

「にししっ、“オッケー!”、ってね♪」

 爆風の多重奏に煽られ吹き荒れる砂塵も、サングラスをした莉子の目には届かない。
 やがて場が収まると、彼女はサングラスを外し、それを託してくれた者に一礼した。
 砂嵐を恐れず罠を仕掛けることができたのも、ひいてはその罠を作る際に視線でばれてしまうことを防いだのも、全てこのサングラスのおかげと言っても過言ではなかった。

「あの子には痛いことしちゃったかな……。まあ、これも勝負ってことで許してねっ?」

 もうもうと立ち込めていた煙が晴れた向こうには、対戦相手の少女が倒れていた。
 その衣服は全身ボロボロに破れ、ところどころに穴があいたスカートは膝上20cm以上にまで裾を上げられ、またブラウスは完全に消し飛び、肩紐をずり下げたチェック柄の下着が松明の灯りに照らされていた。剥き出しの柔肌も、砂や煤で汚れてしまっている。
 待てど暮らせどアナウンスされぬ“勝利”の二文字が、みずきがまだ意識を保っていることを如実に表してはいたが、莉子はそこにトドメを刺そうとは思っていなかった。
 ボロ雑巾の如く倒れ伏す少女に追撃を加えることを良心が咎めたこともあったし、何をせずとも、じきに少女自らギブアップを選択するだろうとの見通しがあったからだ。

「(くうっ……! からだじゅうが、いたい……。もう、これいじょうは……)」

 ブラウスやスカートの丈、さらにはぱんつなど、最低限の衣服を残した全てを使って足元に形成した水の壁で、みずきは連鎖的大爆発の威力を限りなく弱めていた。
 それでも全身を襲う痛みは筆舌に尽くし難く、少女の心も折れる寸前であった。
 朦朧とする意識の中で少女は目の前――床の上に落ちた一枚の黄金を目にした。

「(あっ……これ……)」

 痛む左腕を僅かに伸ばし、ブラウスが消えた際に零れ落ちていたのだろう、ヒーローから授かりしメダルを摘まみ上げる。
 と、その手首に巻かれた、些か焼けながらもその威光を絶やさぬミサンガが少女の目に映った。

「(みかど兄さん、鞘せんぱい……。私に、力を……!)」

 ミサンガに、メダル――。遥かなる存在に励まされるかのように少女の目には生気が戻り、よろよろとだが、しかして確りと地を踏みしめ、白王みずきは立ちあがった――!
 驚愕に見開かれた莉子の両の目を見つめながら、みずきは力強く言葉を放つ。

「ぜったいに、負けられません……! 私を待ってくれている人と、私に託してくれた人がいるから……!!」

 それを受け、莉子も首から下げたネックレスの指輪を握りしめ、叫び返す。

「君にも譲れないものがあるってわけね……。だけど、私にも守りたい人がいる! 負けるわけにはいかないよ!!」

 二人の視線、そこに込められたそれぞれの想いが激突し、火花を散らす。 
 みずきは自分の前方――廉貞黄麟の位置に立つ莉子の方へと右腕を突き出した。
 莉子がその先端を目を凝らして見てみると、組まれた親指と人差し指の部分に件のヒーローメダルがセットされているのが分かった。

「(あれは――コイントス? 確か、二回戦進出者の中にそんな人がいたような……)」

 莉子のその直感は惜しいところを突いていた。
 次の瞬間、確かにみずきは親指でメダルを弾いた――垂直方向ではなく、水平方向へ!

「――っ!」

 猛進するメダルは拳大の水弾に包まれており、彼女が自由な左腕で右の乳房を押さえていることから、メダルを弾くと同時に右胸のカップを犠牲にして生成した水弾によりメダルをコーティングし、威力や速度、射程などを大幅に補正していることが窺えた。
 対する莉子も一瞬のうちにこの結論に至り、また脳が善後策を講じるよりも早く、優れた反射神経は右手の指を左手首につけたリストバンドの中へと滑り込ませていた。
 指を抜きざまに宙を舞ったのは、銀紙に包まれた数センチ四方のチョコ。羽山莉子が予め身体中に隠し持っていた、幾つかの“奥の手”の一つである。

「(このタイミングじゃ私も被爆を免れられない――でもっ!)たああっ!」

 チョコを起爆した刹那、交差した腕で熱から身を守りつつ、爆風を利用して莉子は大きく後ろへ跳んだ。
 魔人バスケで培われた莉子の反射神経を用いれば、爆発の衝撃による被ダメージをより軽度で済ませるタイミングで後退することも可能ではあった。
 だが敢えて爆風をその身に受けたのは、ただ後ろへ跳んだだけでは越えられぬ“魔物”がいたからに他ならなかった――。

「(気付いてたよ。あの位置で私が跳んでたら、まず間違いなく――この肥溜めに、足を掬われていたね!)」

 バスケットシューズが床を掴み、危なげなく着地した莉子の目の前には異臭漂う地獄の穴・肥溜めが設置されていた。
 彼女の想像通り、みずきの狙いは多段構え――弾いたメダルで攻撃し、左右に避ければ追撃の水弾を、そして後ろに下がれば肥溜めに嵌ったところを狙い撃つ算段であった。
 莉子には知る由もなかったが、みずきのこの悪魔的策略は、自らが下した沢木が夢の中でみずきに使った戦術を意図的に再現したものであった……。

「さあっ! 次はなにを見せてくれるのかな!? それとも、これでお終いかなっ?」

 メダルの迎撃に放ったチョコが生みだした爆煙も残り僅かとなり、塞がれていた視界も晴れてゆく中、莉子は挑発めいたせりふを吐きつつも未だ警戒を解いてはいなかった。

「(さっきのメダルも躱されたんだ……正攻法じゃ最早勝機はないってことはみずきちゃんも悟ったハズ。……だったら、最後の奇襲のチャンスは“今”しかないよね!)」

 そんな莉子の推測は的を得ており、煙の向こう、徐々に姿を見せてゆくみずきはお馴染みの射撃スタイルの右腕を構えていた――ただし、その銃口は、下斜め四十五度!

「(!? いったいどこを狙って――)」

 思わず視線を下げた莉子の目に映ったのは、そう、災厄の湧き出る窯――肥溜め!
 寒気が全身を駆け巡り、莉子が反射的に両腕で顔をガードするが早いか、みずきの残った下着を全て喰い尽くした水弾が、唸りを上げて地獄の門へと飛び込んでゆく!
 刹那、間欠泉の如く噴き上がる禍々しき柱!

「ぐっ……また視界を塞ぐってわけ? でも、“一手”足りないんじゃないかな――!」

 両腕によるガードを崩さぬまま、勝ち誇った笑みを浮かべる莉子。

「負けません! 勝ちます! 例え、どんなに汚れようと――!」

 それは夢の中で固めた“覚悟”! 例え己がどんな目に遭おうと、兄と再びまみえるその日まで、絶対にあきらめない!
 想いの強さを示すかの如く、彼女の肉体が纏う最後の一枚――ミニスカート、その全てを水弾へと変換される。
 産まれたままの姿でみずきが放った最大級の威力の水弾は、茶色き水柱を蹴散らし、その向こう側へと突き進む――!

「――残念だったね!」

 ――だが、届かない!
 悪臭を放つ飛沫を浴びせ茶柱に大穴を開けながらも、肝心の水弾は貫通せず消えた。
 鼻が曲がりそうな液を身体中に浴びながらも莉子は勝利を確信し、最後の足掻きで開けた大穴も閉じんとしたまさにその時、身体を小さく丸めたみずきが穴に跳び込んだ――!

「やあああああああっ!」


「なっ――! (そんなっ、もう体力も、服も残ってないんじゃっ!?)」

 気力のみに突き動かされるようにみずきは咆哮し、跳躍の勢いそのままに、驚きのあまり硬直していた莉子と衝突、共に倒れ込んだ。
 息遣いも荒く、鼻と鼻が触れ合いそうなほどの至近距離で重なり合う二人の少女。
 透き通るように滑らかな肌を糞便が流れ落ちる煽情的な姿のみずきが、同じく排泄物に塗れた背徳的容貌の莉子に馬乗りになり、両手で相手の両手首を掴み、拘束していた。

「……ここまで追い詰めたのはお見事だけど、もう脱ぐものはないよね?」

 数分前からの莉子の余裕の正体が、この“弾切れ”であった。
 脱げば脱ぐほど威力を増すみずきの水弾は確かに厄介極まりなかったが、その全てを撃ちつくしてしまえば、水場など存在しないこの地下闘技場において、彼女に勝機はない。
 自分もこの状態では能力は使えないが、単純な身体能力なら目の前の少女に劣らぬというアスリートとしての自信がある。勝敗は明らかだった。

「ぜえっ、はあっ……! ……莉子せんぱい、降参して下さい」

 そんな状態で持ちかけられた、棄権の勧め。到底承服できるものではない。

「……あのね。確かに体勢はこうだけど、実際に詰んでるのはみずきちゃ―― !!」

 呆れ声混じりに諭そうとした莉子の言葉は、レーザーが照射されるような耳障りな音によって掻き消された。
 恐る恐る自分の顔を傾けてみると、チョコの爆撃にもビクともしなかった地下闘技場の対魔人戦闘用に特化した強固な床に、一条の深い切れ込みが走っていた。
 そして、左右二箇所でそれぞれ結ばれていたみずきの後ろ髪のうち、莉子から見て右側の束がはらりとばらけた。

「――これが、正真正銘、最後の切り札です。……もう一度言います。降参して下さい」

 髪を結んでいたヘアゴム――! 首元から放たれる必殺のレーザーは、あと一発。
 莉子はしばしの間、全力で頭を回転させ勝ち筋を探った――だが、そこには一筋の光明も存在しなかった。
 “敗北”。その二文字が過ぎり、莉子の目には知らぬ間に涙が浮かんでいた。

「――ぅううううっ……! ごめん、茉奈っ……! 私、負けちゃったよお……!!」

 大粒の涙を零す莉子の胸元へと、みずきは静かに崩れ落ちた。
 アナウンス役の報道部・斎藤窒素の美声が告げる勝者の名をBGMに、戦い抜いた少女の寝息が幽かなデュオを奏でる。
 水のような爽やかさもチョコのような甘さもなかった死闘の幕が閉じた。  <終>


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