幕間SS 第二回戦まで・2

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dangerousss

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【正史】日谷創面幕間SS(by 日谷創面)


◆ ◆ ◆


「だーかーらー!俺は手芸者になる気も、豆腐屋になる気も無いっつの!!」

 待合室に創面の声が響く。
 専用の待合室。そこには素っ裸の創面の姿一人だけ。
 携帯電話を片手に話をしている。

「それにこの大会にでたのは、その事とは全然関係ないって!」

 親父と呼ばれた男は、落ち着いた声で、電話越しに創面へ話しかける。
『まあ、待ちなさい創面。いいか、聞くんだ。…お前は知らないだろうが、
 世の中には様々な「戦い」の…「流派」がある。』
「…?」

『魔人空手。魔人剣術。魔人柔術。魔人ヌンチャク。鬼無瀬時限。波紋。眼鏡。オカマ。
豆腐屋。手芸者。園芸。触手。ビッチ。レイパー。将士。歌手。コミュ力。英検。モヒカン。勇者。
…そして、力士。』

「力士!?……相撲じゃなくて、力士?」
『そう、力士。』

「力士って流派だったのか!?」
『そうだ。まあ、それは置いといて。』
「つか、他にも色々おかしいのあるんだけど。」

『代々日谷の長男は、この「手芸者」と「豆腐屋」。両方を極めて一人前となれる。
 敵対する「豆腐屋」から、家を守るためにな。』
「いや俺、豆腐嫌いだし。」

 もう何度も繰り返したやり取り。
 母親が何故死ぬ羽目になったのか。それを話せば、創面の意志も変わるかもしれない。
 だが父は、創面にその事を話す気にはなれなかった。

『それじゃあ聞こう。創面、お前は何になりたいんだ?』
「えっ。えっ…と…。なんかこう、クリエイティブな…。」
『クリエイティブな?』
「……。」
『…。』

「っだああーーーーーーーーー!とにかく俺は!もっと自由に生きたいの!
 家の事なんか知るかぁ!!」
 一方的に電話を切る。

 ――日谷創面。高校一年生。遅めの反抗期真っ盛りであった。

 電話を切った創面は、携帯を鞄にしまう。
 代わりにそこから、紺色のエプロンを取り出した。
「そういや、姉貴も試合を観てるんだろうか…。」
 まあ、どうでもいいけど。と独り言ち、裸にエプロンを羽織る。

 そういえば、ロクロの声が聴こえない。
 体が全快したおかげか、創面の意識から消えてくれたようだ。

「次の対戦相手は、年下の中学二年生か…。なんか、俺よりしっかりしてそうだな。」


◆ ◆ ◆
追加設定
持ち物
【豆腐屋のエプロン】
姉に持たされているエプロン。
紺の地に、『豆腐』『健康そして安い』と白文字で書かれている。
三角巾と同様、姉の奴子が魔人能力を使い、頑丈に作り上げたもの。
鉄線よりやや弱いもので織り上げられた程度の耐久性。
打撃に強く、刃物の攻撃はたいして防げない。
やはり不器用なため、所々糸がほつれてしまっている。



珪素:怪しい流派がちらほらあるw 創面くんのお父さんの存在も気になりますねー。

【正史】山なしオチなしの幕間SS(by しお)


●----------------●

第一回戦Bブロック、試合終了後―


「はっはっはっは・・・」

羽山莉子の勝利が決定しアナウンスが流れた直後、羽山、灰堂、沢木の三人は
トーナメント会場の受付ホールに転送されていた。
その内の一人、灰堂四空は今さっき敗北を喫したとは思えぬほど朗らかに笑いながら、
バッシバッシと羽山の背中を叩いていた。

「はっはっは、いやー姉ちゃん、完敗だぜ!まさかビルごとブッ倒すたァな!
見た目によらず豪快だな、オッケーだぜ!」
「は、はぁ…ありがとうございます(痛い…)」
「笑い事じゃねーって…!俺はその崩壊するビルに取り残されてたんだぞ!」
「オッケー、オッケー。こまけぇこたあいいんだよ!」
(細かくねぇよ…)


「いやー、しかし1回戦で負けるとはなー。オッケーじゃねぇな。
こりゃオーナーにぶっ飛ばされるかなー」
「俺も美里さん川浜さんに何て言われるか…」
「す、すいません…私…」
「いや、これは勝負だから仕方ねぇよ。俺よりあんたのが上だった。
それだけのことさ。オッケー?」
「俺も勝ったところで先輩たちに賞金巻き上げられるだけだしね。
せっかく勝ったんだから俺たちの分も頑張ってよ」
「は、はい!私、頑張ります!」

つい先程まで殴り合いをしていた3人だったが、休憩室で談笑している間にいつの間にか打ち解けていた。
「大雨の後はアスファルト舗装される」。平安時代の哲学家、ミヤモト・マサシの言葉である。

「すぐ次の試合も始まるな。コイツは選別だ、とっときな。
助けが欲しくなったらそこに書いてある連絡先に連絡してくれ」
「こ、これは…サングラスと名刺じゃねーか!」
「…サングラスは何なんですか?」
「いや、特に意味はないんだけどな。これから先、目くらましとかしてくる奴もいるかも知れねーだろ?」
(出場者リストにはそれっぽい奴いなかったけどね)
「わ、わかりました…!ありがたくもらっておきます!」
「オッケー!じゃ、次からの試合は応援させてもらうぜ。兄ちゃんも行こうぜ」
「あ、ああ」

そう言って灰堂と沢木は観客席へ向かった。

「あ、そうだ。沢木サン、アンタ農大生だったよな。どこかいい酒仕入れれるとこ知ってっか?」
「ああ、それならオレの友達がやってる酒屋あるから紹介するよ」
「オッケー!」

◆アイテム
【サングラス】灰堂四空のサングラスのスペア。特殊加工してあり、多少の閃光攻撃はカットできる。
【名刺】ホストクラブの名刺。「用心棒 灰堂四空」と書いてある。店の名前は難しくて読めない。



珪素:ほのぼのした試合後描写がすっごくいいです! 莉子ちゃん可愛いですね。

【正史】† 勇者ミドの伝説 幕間 『めいれいさせろ』(by 勇者ミド)


† 勇者ミドの伝説 幕間 『めいれいさせろ』


「4四銀」ぱちり
「6六歩」バチィ

2人の男女が将棋盤を挟んでいる。
ともに、トーナメント一回戦を終えたばかりの石田歩成と渡葉美土だ。
石田が小気味良い音を響かせて歩を打ちつける。
ミドはむむ、と小さく唸って長考に入ってしまった。

イイ。とてもイイ……石田は思う。女の子が困ってる姿は良いものだ。
普段冷静で賢しらな子ほど、なおさらギャップを楽しめる。
そもそも「元奨」の石田と、ちょっと賢い女子高生程度のミドの棋力には天地の差がある。
石田は飛車・角落ちで相手をしているが、それでも手のひらで転がすようなものだった。

(ハンデがあれば勝てるとでも思ったんだろうかな、この子は? ふふふ)
この対局は、ミドから誘ってきたものだ。少女は突然、にっこりと話しかけてきた。
「ちょっと将棋、教えてくれませんか? 『かしこさ』の努力値を稼ぎたいので。
もし私に勝ったら……『好きに』していいですから♪」

石田に断る理由は存在しなかった。
なぜなら石田は男の子であり、女の子が大好きだからである。

「7ニ玉」ぱちり
ミドが苦し紛れの手を返す。
そして石田は次の一手を、自信とともに打った。

「6四歩打っ」バチィ
「ポン!」
「へっ」

急に何かを言い返されて、石田のクチからヘンな声がでた。

「私の持ち駒には、すでに2枚の歩がある……ポンよ! その歩は貰うわ」
「えっ。オイ。何を言っ」
「そして私のターン、駒を1枚ドロー! これは……いいカードを引いたわ。
よし、いくわよ。カードオープン!!」

(歩)(歩)(歩)(銀)(銀) バアァ――z__ン

「フルハウスよ!! さあ、あなたにこれ以上の手はある!?」
「ええええええーーー」
唖然として言葉もない石田。
「どうやら私の勝ち、ね」
ミドは立ち上がる。

「というわけで、今日一日、私のいう事を聞いて貰います」
「ふざけんな、そんな約束した覚えは――」
石田は抵抗するがミドは耳を傾けすらしない。
「では、めいれいします」


「私のこと……好きにしてください♪」


わずかな静寂の後で。
石田は、ごくりと喉を鳴らしながら首を縦に振った。


†††


一方その頃。股ノ海は困り果てていた。
久しぶりに将棋でも指そうかと思ったのだが、どうも駒を一部紛失してしまったらしい。

「参った参った。他は此処に在るが、はて。『横綱』と『十両』2枚。大事な駒なのに
いったいどこにやってしまったかな――」

そろそろ稽古の時間だ。股ノ海はすこし残念そうに部屋を後にした。



珪素:まさにTHE・ビッチ!! そして石田さん怒涛の活躍がここから始まる……!

【正史】† 勇者ミドの伝説 幕間 『ウェイティング・フォー・マイ・オカマ』(by 勇者ミド)


「ハックション! オカマッ」
治療を終えたバロネス夜渡は、帰途に着こうとしていた。
くしゃみで出た涙をぬぐいながら、意味もなく天井を見上げ、もの思いにふける。
まさかの一回戦敗退。賞金もパァ。ついつい溜息も出る。
「まったく、『ノックアウトマスター次郎』……あそこまでのバケモノだなんてね。
やってらんないわー、もう。しかも、一回戦を抜けたのが次郎じゃなくて……」

そこで、後ろから声をかけられた。
「あの、バロネスさん」
バロネスは振り向く。

「……こんなお譲ちゃんだなんて、ねえ」
そこには小柄な少女――渡葉美土が立っていた。
「なぁに? 敗者に何か用? どうやったのか知らないけど……凄いじゃない。
あの次郎を倒すなんて」

「いやー、あの、そのですね」
ミドはばつが悪そうに笑う。戦闘時の緊張した表情とは随分違うものだ。
それには理由があった。ミドは、ある「お願い」があってバロネスに接触したのである。
その内容とは。
「今夜……お店に泊めて貰えませんか?」

バロネスは一瞬、表情が固まった。あまりに意外な頼みごとだった。
「明日の二回戦まで、行くアテがないんです。もう宿屋(※学校の宿直室)に泊まる
お金もなくて……。」
勇者とは、旅に出てしまえば基本的には根無し草。泊まるといえば宿屋だが、なんか
ストーリーが進んだら値上げされてしまったらしい。ひどいシステムである。

「な、なんだか知らないけどー、よくぶっ飛ばされたアタシのとこなんか来れたわね。
それこそ兼石次郎にでも頼めば良いじゃない」
「いえ、それが兼石さん、あれから目も合わせてくれなくて。『良かった』のになあ」
しゅんとするミド。
「あら、それはちょっと……うらやましい話じゃない」

「それに」
ミドは話を続ける。
「バロネスさんにお話も聞いてみたいんです。私はバロネスさんには戦闘で負けました。
憧れちゃいますよ。剣を見破ったり、蹴りで血を浴びせた頭脳。そして何より、キックの
時に感じた、あの、強靭な肉体――」

目がとろんとしてくるミド。何かおかしい。この目は……
客商売をやって長いバロネスは、それが何を意味するのか、すぐに理解した。

この女……アタシを『男性』として見てやがる!!!
試合後に兼石次郎とヤッたばかりだというのに、なんたるビッチ。オカマでも関係なし。
口先で賞賛の言葉を吐きながら、真の目的はなんとおぞましい。
バロネスは若干ぞっとしながら、ふぅ、とひとつ息をついた。

「わかったわよ。女の子を路頭に放り出すのも悪いしね。た・だ・し……
アタシと部屋は別だからねッ!」
「ええー」
「ええーじゃない!!」

ミドは口をとがらせた。こうしていればただの女の子にしか見えないのだが――
「わかりました……。じゃ、お邪魔しますね。ありがとうございます」
結局、しぶしぶ彼女はそれを受け入れた。そして後ろを向くと、
「みんなー、いいってー」

「ヒャッハァーーーーー!」
「おお、交渉成立か。それはありがたい話です」

*モヒカンザコがあらわれた!
*触手があらわれた!

『永劫』をかけられたように固まるバロネス。こ、こいつら……!?

†††

その晩。
「497、498、499……500!!」
汗をほとばしらせながら一心に柱に向かい、てっぽうを続ける股ノ海。
稽古時、股ノ海は周りが見えなくなる。だから、その声にも長く気がつかなかった。

「あの……股ノ海関。食事の、時間です」
「む、すまない。すぐに行こう」

食事。その言葉を聞いて、股ノ海はある決意を固め、気を引き締める。
パァン、と両頬を叩きつけると、表情が変わった。気合は充分だ。
そして食事が始まる――

†††

翌朝。
二回戦へと向かうミド。その首元に……スカーフが飛んできて、そっと巻かれた。
中には、一回戦ではアフロの中にあったバロネスのナイフが入っている。

「ま、残念だけど、『アタシのぶんも頑張ってきなさい』ってヤツね」
「バロネスさん……」
「あと、イイ男見つけたら一人締めしないで、紹介しなさいよ?」

ウインクするバロネス。見る人が見れば、背筋を凍らせただろう。
だがその視線はどこか、暖かみを含んでいた。

「じゃあ、行ってきます」
さあ、二回戦の幕が開く。

そうび → E スカーフ E ナイフ(2本目)



珪素:定番ネタのオカマくしゃみw でもバロネスさん実際イイ男……じゃないオカマ!

『にのまえっ! ∞の巻 瓢箪から眼鏡』(by minion)

(GK注:医師仮面が勝利した時のIFSS)

 「あははは、負けた負けた」
 「負けた負けた、じゃないでしょ! あんな恥ずかしい姿全国に晒しちゃって……!」
 ぐぎぎぎぎ、と歯ぎしりしながら∞を糾弾する四。
 全国に濃厚な自慰シーンを公開した∞はモヒカン姿になった四よりも更に羞恥に塗れた筈
だったが、本人はあまり気にした様子はない。
 「仕方ないじゃないか、あの幼女が四ちゃんに似ているのが悪いんだ」
 「何処が似てるっていうのよ!」
 はて、と思い出すように首を傾げると、∞は結論を出す。
 「そうだね…………胸、とか?」
 「つるぺたで悪かったわね! っていうか、そこまで貧乳じゃないし!」
 幼女と同レベルにされて、四の怒りは留まるところを知らない。
 しかし、ひとしきり罵詈雑言を並べ立てた後に、落ち着いてきたのか徐々にその口調は
トーンダウンする。
 「それに、いくら生き返るからって、あんな、あんな…………」
 その時の情景が脳裏に蘇り、思わず声が詰まる。
 脳を貫かれ、ぐしゃぐしゃになった∞の亡骸。
 「おや? 四ちゃん、ひょっとして泣きそうになってないかい?」
 「ば、馬鹿っ……そんなわけ……」
 「よしよし、うん、悪かったよ。心配させちゃったね」
 胸元に抱き寄せて、四の頭を撫でる∞。その光景は間違いなく、仲の良い姉妹のものだった。
 「さて、落ち着いたところで撮影会といこうか」
 「…………っ!」
 脱兎の如く逃げようとした四の身体をしっかりと抱き留める∞。
 「あっはっはっは、どこへ行こうというのかね?」
 どちらも少女ではあるが、肉体の強靭さには雲泥の差がある。
 なおもじたばたと手足をばたつかせる四に、∞は静かに告げる。
 「一家家訓、第三条。はい、言ってみて」
 「うっ…………一家家訓、第三条……『家族と交わした約束は必ず守るべし』……」
 家訓。それは礎。絆で結ばれた一族の結束を確かめ、強化する掟。
 魔人一家である一家において、それは世俗の法律よりも優先される絶対の決まり事であった。
 掟を破る事は、すなわち絆を破る事。
 他に寄る辺無き魔人にとって、家族の絆は何よりも重く、そして尊い。
 一家の人間であれば、誰であろうと遵守すべき血の戒律なのである。
 「で、でも、あれはイカサマだったじゃない! サイコロの幻覚を見せてたんでしょ!?」
 必死に食い下がる四。だが、そんな抗弁も∞はあっさりと切り捨てる。
 「確かにそうだけど、『イカサマはしない』っていう約束はしなかったね」
 「ぐぬぬ」
 口の上手さでも叶うはずもない。じゃあ何なら勝てるのだ、という話ではあるが。
 「まぁ、大丈夫さ。四ちゃんは眼鏡を掛けるから身元バレはしないって」
 話は決まった、とばかりに撮影の準備を行い、いそいそとセーラー服を脱ぎ始める∞。
 「ちょ、ちょっと! なんであんたが脱いでるのよ!?」
 「きみだけに恥ずかしい思いをさせるのもなんだし、折角だから二人での絡みにしようかと
思ってね。それに…………実は公開自慰以来、人前で露出するのも悪くない、と思うように」
 「へ、変態! 変態っ! 変態ーっ!!」
 腰を抜かし、自らの肢体を掻き抱くようにして後ずさる四だったが──────────。
 「ふふふ…………さぁ、跪いて眼鏡を掛けるんだ」
 レンズの奥の瞳が、蠱惑的に妖しく濡れて輝いた。


 その後、眼鏡っ娘業界では聖典とされる作品『愛妹眼鏡調教 ~百合姉妹、禁じられた遊び~
 3D R-18 無修正版』がネット上に公開され、伝説となったが──────────
それはまた、別のお話。




                                <了>



珪素:なんかつくづく仲がいいのか悪いのか分からない一家だw

無題(by 無色の蠅炎)


「ここは一体どこかしら」
 物陰から、ソドムはそう呟く。遥か彼方は核の炎に包まれ、あちらこちらでは、モヒカンの男たちが何事か声をあげていた。
「と、とにかく対戦相手を探そうよ姉さん!」
 ゴモラは自身の不安な気持ちを打ち消すように、ソドムをそう鼓舞した。

 男たちに見つからぬよう、手をつなぎ合い、二人は荒野を走りまわる。
 ゴモラはソドムの方へと目をやり思う。
(僕が甘かったのかもしれない)
 今回の戦い、敗退しても死ぬことはないと、お祭りに参加する程度の気持でゴモラは参加を決意した。しかし、いざ蓋を開けてみると、自分たちが運ばれたステージは訳の分からない異世界である。しかも、パンフレットで対戦相手のプロフィールを読んだが、何度読んでもその意味が分からない。
 ソドムは隠そうとはしていたが、ゴモラにはソドムのその不安な気持ちが伝わっていた。
 ゴモラは思う。
(僕はどうなってもいい……。姉さんだけは……。)
 しかし、状況は打開されない。
 男たちはまるで、ゴキブリのごとく、あちらこちらにいる。彼らに見つからぬよう、対戦相手を探すのにも限界がある。
(いや、待て……)
 ゴモラはふとある考えが過ぎる。
 自分たちと同じように、対戦相手たちもこの状況に困惑しているのではないか、と。
 だとすれば……、みなで協力すればこの状況を打開できるかもしれない。
 ゴモラはそう考え、ソドムにその考えを伝えようとした。そのとき。
「ヒャッハァーーーーーーーーー!!!!!」
 どこからともなく、そんな声が聞こえた。
 恐る恐る物陰から二人は顔を出す。
「汚物は消毒だァーーーーーー!!」
 そこには、のもじTHEアキカン・クイーン・ヘッド――つまりは、二人の対戦相手のうち一人が、モヒカン男たちの群れの中に、さも当然のように紛れ込んでいた。
「ヒャッハー!」
「ヒャッハー!」
「ヒャッハァーーーーーー!!」
 男たちはのもじの雄たけびに合唱して咆哮している。
 その光景を目の当たりにして、自分の考えがどれほど甘いものかをゴモラは理解した。
 のもじは、あの男たちの目を気にすることなく、戦うことができる。その事実を前に二人は、戦意を失いかけていた。
 そのときだった。
「ぐへぇ!!」
「ブビベ!」
「グヒャァアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
 男たちが次々に倒れ出したのだ。
 見ると、そこには対戦相手の一人、石田歩成がいた。

「――――――ッ!」

 彼が何事かを叫ぶと、男たちの頬は次々と膨らんでいった。そして、男たちはその頬を膨らませている原因と思われる木の破片のようなものを大量に吐き出しては、絶叫して倒れていった。
(な、何が起こっているんだ……)
 二人は信じられないという顔で、互いに互いの顔を見合わせた。
 気づけば、周囲に男たちの姿は無くなっていた。
 のもじと石田が互いに睨みあっている。
「今だよ、姉さん!」
 ゴモラはそう叫び、ソドムの手をつかんで二人の前に現れた。彼は良くも悪くもまじめであり、不意をつくということを知らなかった。
 対戦相手が一同に揃う。
 先に動いたのは石田だった。
「ほねがいひまふ(お願いします)ッ!」
 彼の口中にも木片があるようで、石田の発した言葉は上手く聞き取れなかった。
 しかし、彼がそう叫んだ直後、二人は口中に異物感を覚える。
「へ、へえはん!(ね、姉さん)」
 ゴモラは叫ぶ。
「ほへっ!(こほっ)」
 しかし、ソドムにゴモラの制止は間に合わない――。
「いへひゃい!(いけない!)」
 ソドムがその小さな口には、その大量の木片は収まりきらず、彼女はあまりの不快感に戸惑い、思わずそれを吐き出してしまっていた。その刹那。
「イ……イギヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
 ソドムは絶叫し、その場に卒倒する。
「ほひッ!(よしッ!)」
 石田は倒れ伏すソドムを見て、そう声を上げた。
「ひゃひゃー!(ヒャハー) ひゃふな!(やるな)」
 のもじがそれをほめたたえている。
 しかし、ゴモラには彼らのやり取りは目にも入らなければ、耳にも入らない。ゴモラはただ跪き、ソドムの亡骸を抱きかかえた。
 そんなゴモラの気持など関係なく、戦いは続く。
「ひーぴーせんひゃくぅーーーーーーーーーー!!!!(DP戦略)」
 のもじは、叫ぶ。

 世界が彼女の精神世界に侵略されていく。
 気がつけば、ゴモラと石田は、のもじによって作り出された法廷の中にいた。
 のもじは突如として歌い出した。彼女の口中にも木片が詰め込まれており、何を歌っているのかその場にいる誰にも伝わらない。

 ~♪
 ひゃんひょほすふろふほーはぁー
 ひゃんひょほすふろふほーはぁー
 たきゃらほー! ほへぃ! ほへぃ!
 へべー! はらほんろほはー!
 へー! へー! へー!
 ははほろほほーほほーほほー!
 ははほろほほーほほーほほー!
 ひゅわーんっほぉー
 ほんらへひょほほー
 ひゃんへほーす! ひゃんへほーす!
 ひゃひゃひゃひゃーーーーーーーーーーn!
 へす!!!!

 ふれいこーん ふれいこーん ふれいこーん

 へすへす! ほぅーーーーーn

 たきゃらほー! ほへぃ! ほへぃ!
 へべー! はらほんろほはー! ほへぃ! ほへぃ!
 へー! へー! へー!
 ははほろほほーほほーほほー!
 ははほろほほーほほーほほー!
 ひゅわーんっほぉー
 ほんらへひょほほー
 ひゃんへほーす! ひゃんへほーす!
 ひゃひゃひゃひゃーーーーーーーーーーn!
 ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーn!!! ひゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーn!!!!

 ぇーーすッ☆


 ~♪


 彼女の歌が終わるころには、石田は自身の置かれている状況を理解していた。
 石田は思考した。戦闘能力はのもじの方が明らかに上である。しかも、自分は手錠され、所持していたアイテムは全て奪われている。まず、この状況をどうにかしなければならない。パンフレットにあった、能力説明を思い出す。確か、マップの中心に、手錠のカギとそれらはしまわれていた。
 のもじは、良く意味は分からないが、歌を歌っている。今なら出しぬけるかもしれない。石田はそう考えた。

「ほへーい!」
 のもじの歌声に合わせて、石田は腕を掲げながら、マップの中央へ近づいていく。
「ほへーい! ほへーーーーい!! ほっひん!」
 そして、歌が終わったころ、石田は宝箱の前に辿りついていた。そして、それを開けた。そのとき。
「でゃぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーぃ!!!」
 何者かの声とともに、宝箱の中から何かが飛び出し、石田の顎を打ち抜いていった。
「ひへぇ、え……(いて、て)」
 ダメージはDPに変換されるため、痛みはないはずだが、石田は思わず顎をさすりながら、そう呟く。
 石田が前を見ると、そこには、アキカンがいた。アキカン・クイーン・ヘッド。なぜ? 石田は驚き、のもじの方を見る。のもじの頭には、アキカン・クイーン・ヘッドは……乗っかっていなかった。
「甘いわね!」
 アキカン・クイーン・ヘッドは、石田にそう言い放つ。そして、先ほどと同じように、ロケットのごとく、石田の方へ突撃した。
「くっ……!」
 その攻撃は、そこまで早くもなければ、そこまで威力も大きくない。普通の魔人であれば、容易に対処も可能であったろう。だが、魔人に覚醒したと言っても、石田の身体能力は非魔人の成人男性の平均と同じかそれを下回る。
 その程度の攻撃でも、石田とっては脅威である。
 それでも、石田はなんとかその動きを捉えようと試みるが、石田の運動能力では避けるのが精一杯であった。
 上着が奪われ、ズボンが奪われ、シャツが奪われ、靴下が奪われ、そして――石田にはパンツだけが残った。
「ふほぉーーー!(くそぉ)」
 石田は叫ぶ。ようやく、目がアキカン・クイーン・ヘッドの動きに慣れてきたというのに、残りがパンツ一枚では下手に動けない。
「がんばるねー」
 のもじがその様子を遠くから眺めている。
(バカにすんな!)

 石田はそう思うが、これがハンデとして適正であるという事実を冷静に認識する。
 もし、のもじがアキカン・クイーン・ヘッドを被って、石田に戦闘を仕掛けてきていたならば、石田が勝つ確率は今よりもずっと低くなっていたことだろう。それほど、魔人と常人ではその身体能力に隔たりがある。
 しかし、今、のもじは自身のウィークポイントであるアキカンを単騎で突っ込ませている。言いかえれば、それほど自信があるということ。実際、その判断は正しい。現に、そのアキカンを前にして、石田は追い詰められているのだから。
 しかし、石田は思う。
(このアキカンさえ潰すことができれば……、僕の勝ち)
 逆転の可能性は、まだ残っている。その事実に気が付き、石田の頭は澄み渡った。
(勝つぞ……! この試合勝つぞッ!) 

 一方のゴモラはその戦いに加わらない。
 ソドムの亡骸はこの法廷に連れてこられはしなかった。法廷の隅で、ゴモラは俯き、ただ一点を見つめ立ち尽くす。
 戦意喪失。石田とのもじは彼をそのように認識した。
 大切な半身(姉)を失い、最早、まともに戦える状態ではないだろう、と。
 それは、一見するとその通りではあった。
 そのとき、ゴモラの中では虚無のごとき闇が、心の奥底から湧きあがっていた。
 あらゆる感情を混ぜ合わせ作り上げた混沌たる黒。そして、それが生み出す虚無の闇。
 ソドムの断末魔が、ゴモラの中でまるで永劫に繰り返される地獄のごとく響き渡る。

 ドウシテ――

 ネエサン――


 この黒い何かがどういう意味を持つか感情であるのか。ゴモラには判断がつかない。生まれて初めて感じる――それは憎悪。


 憎悪?

 ゾウ オ?

 コレガ ニクシミ … … 

 コレ ガ イカ リ … …

 コノ カン ジ ョウ   ガ   サ ツ イ  ――























「メカ?」

 ッパーーーーーーーーーンーーーーーーーーーーー!!

 石田の側頭部に衝撃が走った。何か黒い巨大な塊が石田のすぐ目の前を駆け抜けていったのだ。
 慌てて起き上がると、のもじも自分と同じように倒れている。
「ひゃ、ひゃひゃな!(ば、ばかな)」
 ――触手? 石田は目を疑う。
 触手の束が、法廷内をのたうっていた。その一本一本が手錠でつなげられている。その一本一本がどす黒く、まるで伝説の怪物、クラーケンの足のように見える。
(負けたのか……)
 石田は自身の晒された下腹部を見て思う。 
「へぇ! ひょっ! ひゃ、ひゃへ! ひゃっへぇ!(えぇ ちょっ ま、まて まってぇ)」
 のもじを見ると、のもじは触手の束に何度となく、身体を打ちつけられ、すでにパンツ一枚になっていた。
 石田はそれを食い入るように見つめながら「いいこともあったな」と満面に笑う。
 そして、程なくしてのもじのパンツが消え、周囲は荒野に戻っていた。


「ひゃっへない、ひゃくひれひゃったな……(あっけない、幕切れだったな)」

 石田はそう言いながら、のもじを見る。のもじは霰もない姿で、宙を見つめている。
 石田ものもじの見ている方を見た。
 そこには、アキカン・クイーン・ヘッドが、触手によって宙に吊るされていた。おそらく、あの側頭部への衝撃は触手によるもので、その際、のもじの本体であるアキカン・クイーン・ヘッドは触手に捉えられ、締めあげられたのだろう。
「ギギ…ガ……」
 アキカン・クイーン・ヘッドは、苦しそうに何事か呻いていた。それを聞いたのもじは、
「あ! やばぃ!(リンク切らなきゃ捲き込まれる)」
 と、声を上げると同時に駆け出し、アキカン・クイーン・ヘッドから離れていく。それとほぼ同時に、
「ギィヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ」
 という断末魔が上がりに、ギギリという音ともにアキカン・クイーン・ヘッドは無残に捻り潰されていた。


「へ?」

 勝負はついたのに、何をしているのか。石田は目の前の光景に素っ頓狂な声を上げた。
 しかし、石田があたりを見渡してみると、石田の周囲にもドス黒くにごった巨大なタコの足のようなものが、何本も何本も群がっていた。

 石田が振り向くと、そこには戦意を失っていたはずのゴモラが、彼に微笑んでいた。何事かゴモラはパクパクと何かを呟いている。

 オ



 石田の両足に触手が絡みつく。



 マ






 触手によって持ち上げられ、天井高く石田は持ち上げられる。逆さづりにされ、口からこぼれそうになる木片を石田は両手で押さえた。


 エ



「ほ、ほいッ!!(お、おいッ)」
 石田は慌ててそう叫び、ゴモラを見た。ゴモラの目の奥はほの暗く濁っていた。まるで死んだ魚のように。それは、石田には感情のないただのガラス玉にさえ見えた。


 サ

 刹那、石田の身体に鋭い痛みが、稲妻のごとく駆け抜ける。
「ひ、ふぃぎィびゃあぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
 石田は腹の奥底から絶叫した。木片がこぼれることなど、意にも介さず、その激痛を悲鳴としてただただ表現した。
「や、やめ、し、し、死、んじぇぇギゃあぃぃえああああああああああああああああああ!!!!     あ」




 エ


 もし、石田の意識が最期まで残っていたならば、その網膜には石田自身の血と肉と骨がぼたぼたと目の前に落ちていく光景が見えたことだろう。



 イ
 ナ
 ケ
 レ
 バ

 のもじは逃げる。しかし、のもじの方へ触手が伸びることは無かった。しかし、周囲にはモヒカンザコが群れて、のもじを囲っていた。
「ヒ、ヒャハー……!?」
 モヒカンたちにのもじはそう声をかけた。

 ゴモラは、石田の死体を見下ろして、声もなく微笑み続けている。
 まるで、それ以外の表情を失くしてしまったかのように、その顔には微笑みが貼りついていた。

 ネエサン マタ アエタラ コンドコソ マモルヨ


 ゴモラは姉の亡骸をその触手でそっと撫でた。



珪素:やっぱり微笑みを浮かべるんだ……変態が丘の姦崎家と別物なんじゃないのこの触手……

クイーン・のもじ幕間SS『貴方の能力を教えて!』(by しらなみ)


Q:ところで、あなたの能力ってなんですか?
A:はい、リアル・ボルネオ能力です。



第八試合終了の合図は静寂とそれに次ぐ、大きなどよめきとともに告げられた。
「いやー圧巻だったねぇ」

そうお気楽に言葉を発したのは阿野次のもじ。一足先に試合を終え、メイクを
落とした状態で観戦中だった。アキカンクイーンはまだ頭に被ったままの状態だ。
そのお気楽な声に内線通話?で返事を返すクイーン。

『ふーむ、最後の試合は、裸繰埜闇裂練道の勝ちぬけで鉄板だと思っていたの
だが、これはとんだ番狂わじゃな。
しかし”神の見えざる剣”か…どこで手に入れたか判らんが、またレア度の
高いアイテムを…どうも見た目以上に(主に性的な意味で)手癖が悪い…』

なおクイ―ンは女王というだけあって通常のアキカンよりかなり大きめサイズ。
それゆえにのもじも”帽子代り”に被れていたりする。

「んー女王、その次の対戦相手がこっちくるよ。勇者のミトちゃん」
―さっそく探り合いか。わらわは気配消しとくから適当にあしらっておけ―
内線指示を出すクイーン。
「イエス・サー」
―…あとわらわは女性だから、サー呼称は少し可笑しいな、今後は前と後ろに
サーではなくアラ・サーとつけろ、でこ娘―
「イエス、アラホラサッサー!」

††
「え?、能力が分かりずらく卑怯だから詳しく教えろ」
対戦相手の要求は無茶を通り越してまともに取り扱うのも馬鹿らしい無理難題だった。
しかし、その無茶ぶりに何故か胸を叩いてどや顔で答えるのもじ。

「よくぞ聞いてくれました。
実は私こといっちゃんにもよく判っていません!!」
―な!?
「な!?」
内外の声が綺麗にはもる。こいつ馬鹿正直に喋りはじめやがった!流石に
焦ったクイーンだが、次の台詞は更に驚くべきものだった。

「強いて言えば『パルプンテ』です。」
―!
「外宇宙的なとてつもなく恐ろしい存在を呼びだしたり」
合ってる?
「全員が幻(イリュージョン)に包まれたり、いずこかへと飛ばされたり」
合ってる!
「対戦相手と読み手側が、わけわからーんと全員、混乱したりします!」
なにか当ってる!?
「負けるとMPが0になったり、呪文を唱えなくてもいいとこはちょっと
違うかな。あと攻撃が当たっても全然、痛くないので当たり所によっては
気持ちよくなる”だけ”になるみたい。」

あーそれで石田君、突っ込まれて、あんなんになっちゃたのね。合掌。

†††
その後の控室。
『馬鹿もーーーん!対戦相手に人の能力をぺらぺら話おって』
「ハッハー 申し訳ございません。サー!いやアラ―・サー!」

自らの不明を、土下座平伏してあやまるのもじ。
対してクイーンは上座どころか神棚に飾られ、祀られている。
ビック・アキカン(頭部のみ)に寿とかかけられている奉納されている姿はもはや
シュールを通り越して、新世紀の神として神々しくさえ感じる出で立ちであった。
見事なワッショイ!であった。

「ですが総統、私の仕入れた情報によると、かの勇者はイオナズン使い。
閣下はご存じないかもしれませんが、あの呪文は敵全員に100ダメージ以上あたえる
魔法使い系屈指の最強呪文。ここで中距離主体の組みたては無謀な作戦かと愚行つか―」

『しかも敵の嘘情報そのまま信じるなーー!』

下に恐ろしきは天然である。
「はぁ、まあいい。身体能力はお前の方が上。戦闘技術に関してはほぼ同等。
頭の悪さはお前が現時点、断トツ最下位だ。頭の使う作業はこちらでやるから、
後は訓練通りにてきぱきと動け。装備品は?」
「ジャングルということで言われた通り、サバイバルキッド一式+@ギミックを
用意しときました」

『よし、あとは自己との闘いだ。
次は、次は―――絶対第一試合みたいに寝坊するなよ(ジロ」

「あれはマジですいませんシタ!
あわせ特注の目覚まし時計もかってきやがりましシタ!
こ奴もこ奴も必ず明日の朝、お役に立つ所存でございます。なにとぞなにとぞーーーー」

へーへーと頭を床にすり合わせ平服するのもじ。コイツ、全然欠片も反省してない。
溜息をつくクイーンだがこんなんでも出した地獄の訓練ノルマは綺麗に消化しているし、
確実に成長もしている、宿主としての適性も考えると、あまり文句もいえなかった。

ただ、その彼女の成長が潜在能力の高さゆえなのか優勝へのモチベーションに由来して
いるのかに関しては正直、宇宙人生豊富なクイーンにとっても謎なところではあった。



珪素:掟破りのインタビュー潰し! というか能力の分かりにくさ自覚してたんですか!

【正史】真野の決戦前日(by 真野 風火水土)

真野の決戦前日
早朝
ラジオ体操に参加。中途半端に遅刻して第一体操の最後らへんから。

午前
石田歩成と賭け将棋に興じる。惜敗。

午後、某喫茶店にて

「これ、何の本だか分かる?」
喫茶店に真野を呼び出した女は一冊の薄い本をさし出した。
「希望崎学園の教科書だね」
「そう。で、これあなたよね?」
小宅が開いたページ右端の写真と、目の前でコーヒーに角砂糖を落している男は同じ顔をしている。
「生きてればおじいちゃんなんて年じゃないわ。あなた一体何者?」
真野は興味があるのか無いのか分からない表情をしている。
真野の正体は彼女にとって疑問でも、自分にとっては好奇心の種となりえないからだ。
やがて、真野は懐から一枚の金貨と、同じ物が写った写真をテーブルに出した。
「条件がある。私が能力を使えるのはこの金貨を使ってだけだ。だが、これは一枚しか無い。君なら増やせないかな?」
やや考えて小宅が答える。
「たぶん無理ね。物質としては全く同じ物でも、存在としては別の物だもの」
「賢いね、じゃあこの2300円のイヤホンをチラシから出してくれ」
「こっちの1万7千円のでも良いけど?」
「それは電気屋さんに気の毒だろう」
「五十歩百歩よ」
「で、次はこの万年筆なんだが……」
「まだあるの?」
幾つか小物を小宅に作って貰い、満足そうに礼を言うとテーブルに千円札と小銭を置いて真野は席を立った。
「まだ、あなたの話を聞いてないけど?」
「勘定を私が持つ条件のつもりだったのだが?」
「もういいよ、さっさと行きな」
カランカランと扉に付けられたベルを鳴らしながら真野は通りに消えて言った。
テーブルの上に残された金貨の写真に、小宅は手を伸ばす。
だが、写真の中の金貨は当然だとばかりに動かなかった。
小宅が写真から取り出せない物として生物のほかに、この世に存在しない物質がある。

『この世界のどこの国の物でも無い。イデアの世界の金貨だ』

席を立ちながら、小宅はある事に気づき声をあげる。
「お金足りてないじゃん……」



珪素:真野さんの正体という新たな謎が。イデア世界の金貨といい、深い秘密がありそうです……!


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