その他幕間その13

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黄樺地セニオの能力『イエロゥ・シャロゥ』についての補足

(大会運営会場のどこか)
(机の上に、一枚の報告書の草案が挙げられている)

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『黄樺地セニオの能力『イエロゥ・シャロゥ』についての考察(草案)』


 かのコピー能力『イエロゥ・シャロゥ』は、誤解を恐れずに言えば、世界最強の能力である。
 何故なら、この世に最強の能力というものがあったとして(それ自体が荒唐無稽な仮定ではあるが)、彼はその能力を真似られるからだ。
 彼の能力コピーを逃れる手段は二つ、まず能力を使わないか、能力を見せたとしても、彼がそれを能力によるものだと認識しなかった場合のみである。

 しかし、強大な能力には強大な制約がある。
 ならば黄樺地セニオが持つ、希代の能力の代償とは何か?
 ――それを考察するには、先ず、その能力原理から明かさなければならない。


 読者諸兄は、チャラ男の『物真似』を見たことがあるだろうか。
 特に、身近な人間を対象にした物真似だ。
 友人のくだらないギャグの真似。いじられ役のクラスメイト、あるいはそうしても怒れないような立場の弱い者の言葉、行動を、過度に道化じみて、唇と突き出し、腰を振り、真似にもなっていない真似をする不可思議な行為。
 セニオの能力原理は、この延長線上にある。
 完全なチャラ男であるセニオは、その物真似も完全なものとなる。


 【他人の能力を茶化す能力】。
 結論から言えば、それがイエロゥ・シャロゥの能力原理である。


 彼の能力の使用制限である、最後に見てから約2時間しか使えないというものも、本人にとっては極めて分かりやすい理屈である。
 『茶化しネタは、タイムリーな方が通じるから』。それだけだ。
 また、これまでの試合中、彼はコピーした能力を積極的な破壊行動に使用していない。
 それが、この能力原理に伴う制約なのか、それとも単純な当人の性格によるものなのかは不明である。

◆       ◆

 そして、物真似をされた経験がある者がいたら分かるだろうが、概してあの手の『茶化し』は、同じチャラ男以外にはウケない。
 自分の言動を滑稽に繰り返されて笑い物にされればその人物が怒るのは当然だし、多少なり良識のある人間ならば、真似されているのが自分とは関係のない赤の他人だろうと、不快に感じる。

 だが、だからこそ、『他人の言動を茶化す』ことは、チャラ男達にとって同属を探す為の非常に有効な手段であり、
 ゆえに黄樺地セニオは、かつて友人だった魔人に襲われた時、いつものように茶化そうとして、この能力に目覚めたのだ。

 チャラ男は本来、群れで暮らす生物である。それは習性以前の、生態だ。
 パンデミックによって友人連中を失い孤立した彼にとって、同属探しは何よりも急務だった。
 しかし、度重なる災害によって、チャラ男及び、その適性者は失われて久しい。
 そして、シリアスを理解出来ない黄樺地セニオにとって、災害によって『絶望』『悲劇』『悲哀』『苦痛』を抱える人物と分かり合うことは難しく、結果的に彼の孤立は癒えることがない。

 ――すなわち、こう結論づけることが出来るだろう。
 黄樺地セニオの、強力極まりないコピー能力の代償。
 それは、他のどんな弱小魔人の、どんなに矮小な能力でも、多かれ少なかれ備える、ある要素を持たない、ということである。
 魔人は自らの欲望を、妄想を、願いを――現実にする為に能力に覚醒する。
 だがセニオは、どれだけ能力を使ったところで、孤立の運命から逃れられない。

 セニオの能力は、セニオの願いを叶えない。

 それこそが、人類最後のチャラ男の帯びた、たった一つの代償(のろい)なのである。


―――――――――――


(報告書の草案の上に、メモ用紙がある)
(そこには、美麗な文字で走り書きが残されている)


『能力の発展の可能性』

『彼にとっては最低――ゆえに、世界にとっては最高』

『しかし、それは彼の能力が模倣の領域にしかないから』

『古今東西あらゆるコピー能力者が、唯一至りうるオリジナルへの可能性』

『私は可能性を見たい。それが私の能力。
 頂点に立った時の景色。そこに立つ者、それをプロデュースしたい』

『《イエロゥ・シャロゥ》

     ――《パレット》    』

『彼は、そこに至れるでしょうか?』








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