その他幕間その11

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dangerousss3

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第二回戦第二試合『城』決着補足SS 【ギムレットにはまだ早い】

「『真実はいつも一つ』!」

 二人のセニオのこめかみを、桜色の推理光線が掠める。
 二回戦第二試合「城」。

「『じっちゃんの名に賭けて!』『犯人はお前だ!』『それは違うよ!』『意義あり!』
 ――『拙の頭は酢入りです』!『さあ、お前の罪を数えろ!』『戯言だよ』『傑作だぜ』
 『Q.E.D. 証明終了』! ――『ンーフフフ。どうも、皆さん。遠藤終赤でした~』」

 無数の推理光線。セニオとのチャラさは――ここにきて、互角となっていた。
 周囲は死屍累々。セニオによって呼び出された誰かしらも、何人かは「終赤ちゃーん」と馴れ馴れしく近づいて来たが、既に地に沈んでいる。
 チャラ男VS探偵。考えぬ者と考える者。
 対極とも言える戦いは、しかし、それとは関係無い第三の要素で、決着を迎えようとしていた。

「この謎は――吾輩の舌の上dヒック」

 終赤の頬が上気している。
 呼吸も荒く、確かなアリバイを踏みしめていた足も、いまや千鳥足だ。

「くっヒック拙はヒックまだ――ンアーッ!」

 ぱしゃ、とその顔に、粘り気のある白い液体が掛かる!
 眼に入り、怯む終赤。
 酷い臭いだ。それだけではない、嗅ぐだけで、くらりと頭が揺れる感じがする。

「「ぶっかけ飲ませウウウェゥゥゥゥウゥ――ウェエエエエエエエエエエエエイ!!」」

 粘り気のある白い液体――醸造された日本酒を撒き散らしているのは、二人のセニオであった。
 飛沫だけではない、タル、柄杓、木製のマス、様々な容れ物に入れられた酒が、周囲を無数に飛び交っている。

「サイコー! 飲めってマジ! 飲めー!」「イッキ! イッキ! イッキ!」
「シューカちゃんさっすがァー!」「ヘェェェエエエーーイ!!」「イケルクチー?」
「シューカちゃん何デキルゥー?」「探偵出来るゥー?」「他に何デキルー?」「酒が飲めるー?」「ホントホント?」「ホントホント!」
「飲め飲めゴックン!」「ぶっかけヒャッホイ!」「酒飲みウワバミ、サッイッコー!!」「ウェーイ!」

「はぁ、はぁ……んぐ!」

 空気を求めて開いた口へ、日本酒に満たされた柄杓が投げ込まれ、終赤が眼を白黒させた。
 ごくりと飲み込まされ、セニオの詠唱(コール)がそれに合わせて高々と歌われる。
 両手に持った酒樽。片割れが、この城の地下倉庫で見つけてきたものだ。
 即席のビール掛け会場となった場所は既に、屋外でありながらリーグ優勝した野球チームのような騒がしさが顕現している。
 セニオが奇怪な能力で召喚した何人かの誰かしらも、既にこの強制飲み会によって潰されている!

◆       ◆

 セニオが奇怪な能力で召喚した何人かの誰かしらも、既にこの強制飲み会によって潰されている。

◆       ◆

「犯人は、ヒック、黄樺地セニヒック、ヒック、死因は――急性アルコール、ヒック、中毒、ック」

 終赤も、歴戦の探偵ではあるが――しかしまだ未成年!
 薬物系にこそ耐性はあるが、アルコールはまた別腹! ハードボイルド系探偵術も抑えていない!
 魔人耐久力がなかったら、とうの昔に倒れているだろう!
 なお、読者の皆さんはくれぐれも、未成年に飲酒の強要をしないで頂きたい! 犯罪である!

「ウェーイ!」「ンアーッ!」「ウェーイ!」「ンアーッ!」「ウェーイ!」「んあーっ!」
「ウェーイ!」「んあーっ……」「ウェーイ!」「んあっ……」「ウェーイ!」「ん……」

 終赤がその場に尻もちをついた。その瞳はとろんと溶けている。吐く息が熱い。

「――うう、ヒック、ふかく、です……。にかいへんで、女性が、ひなくなっへヒック、あたまを、あげられませヒック
 SSその3、セニオ様がいちばんかつやくしてないSSだと、いふのに……まひゃか」

 年相応の口調でたどたどしい言葉を吐く。
 もはや自分でも何を言っているか分からないのだろう。いくらか紅蓮寺の能力の影響も残っているようだ。

「拙は……まだ……! ――う゛」

 必死に起き上がろうとした瞬間、少女が胸を抑えて苦しげな声を上げる。
 次の瞬間――その背後に、二人の薄い、邪悪な笑みを浮かべたチャラ男が!

「ウェーイ!」「あ゛」

 終赤の、固く閉じた探偵衣装の胸元が、チャラい手によって開けられる!

「ウェーイ!」「あ」

 瞬く間に、上着が脱がされる! シャツ一枚!

「ウェーイ!」「あ」

 その襟元が開かれる! 薄い胸元を包むさらしが覗く! 外気の冷たさに身を震わせる!

「え゛」「ウェーイ!」

 その華奢な背中、チャラい掌でさすられる!
 終赤は無理矢理態勢を変えさせられ、膝をついてうつぶせに頭を下向きに抑えつけられる!
 ぼやけた視界一杯に、真っ茶色の紙のような何かが広がる!
 ゴウランガ!
 ――エチケット袋だ!
 それを目にした瞬間の、ある種の安堵感に、終赤の胸元に溜まっていた熱が限界を迎える!

「ウェーイ!」「う」「ウェーイ!」「え゛ぇぇ……っ」

 ※※※ しばらくお待ちください ※※※

「う……叔父上……」

 気が抜けたのか、終赤の体から力が抜ける。二人のセニオのなされるがままだ。
 周囲の瓦礫が払われ、終赤は仰向けではなく横向きに寝かされる! 枕元には丸められたセニオの上着! 掛け布団代わりに終赤の上着!
 完全な酔い潰れスタイル――そして襲い来る眠気!
 終赤は一回戦の、夜魔口砂男の能力すら思い起こさせるほどの猛烈な休息感に、急速に意識を手放していった――。

「さぁーてぇ?wwwww」「ちょいちょーいwwwきたんじゃねこれwwww」

 あまりにも一瞬の早技であった。無限の飲み会で無限の幹事経験をこなしてきたセニオは、泥酔者の介護に掛けて、熟練の救命救護士のそれすら上回るのである!

「シューカちゃん潰れっちまったしィ?」「これはァ?」「オモチカエリしか?」「ナーイんじゃないディスカー?wwwwwwwww」

 対面して笑うセニオ二人。――おお、ブッダよ、寝ているのですか!?
 このまま哀れな探偵少女は、セニオの選手控室ないしそれに準ずる場所にオモチカエリされ、その未解決(意味深)の真相(意味深)たる迷宮入りの謎(意味深)を、無遠慮な二人で一人のチャラ男に蹂躙されてしまうのか!?

『ピーンポーンパーンポーン』

『紅蓮寺工藤の死亡、遠藤終赤選手の戦闘不能が判断されました。第二回戦第二試合、勝者は黄樺地セニオ様になります――これより転送を行います』


「え、チョ待ーてよォー!wwwwwwwww」「マジないっすわwwwwwwwwww」








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