第二回戦【城】SSその1

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第二回戦【城】SSその1


 筆者が考察するに、キャラクターが到達できるメタには5つの段階がある。

段階1:キャラがふと、作品背景を無視した発言をほのめかす。
段階2:キャラが作品や作者への批判、意見を述べる。読者へ語りかける。
段階3:キャラが、本来知り得ない情報を知っている。
段階4:キャラが作者の意に反した行動を取り始める。
段階5:キャラが作者と同一の次元に存在する。作品の文章を『改ざん』できるようになる。

 さて、筆者としては彼らの『段階5』への到達だけは避けたい。
 そこで、キャラが容易に『地の文に到達できない』状況を作り出せば良いと考えた。

 そのため、今回、作品内に複数の階層が存在する。
 少々、わかりにくい所もあるかもしれないが、ご容赦願いたい。


 私は、作家。小説『アンノウンエージェント』の作者。また、工藤のキャラ説を読めばわかるが、工藤を生み出した魔人でもある。彼女には、私の能力の一部を貸し出している。
 その他には、7年前に、ゴーストライターとしてとある映画の脚本を執筆したこともある。……あれは、素晴らしい出来だった。この世の一切の『負』を詰め込んだ、人の心を動かす映画。私の著作のほとんどは現在、長野県立オーヴァロード図書館に監禁されている。
 モニタに眼をやる。
 あの人の『姪』が大会に参加していたのは、運命だろう。と、今では感じている。
 あの映画を作ったのが私だと知ったとき、彼は、私を『拒絶』した。
 その結果、私は『アンノウンエージェント』の主人公『エンドウ』を生み出した。
 『この世界はフィクション』なのですよ。あの人にそう教えてあげるつもりだった。
 彼が死んでしまった今はもう、叶わない事。

 それでもせめて、彼女には、知ってほしい。
 知った上でどう動くのか、私は知りたい。……遠藤の姪。

 これから執筆する物語で、私の能力『ノン・フィクション・ファンクション』は完成する。
 この物語はノン・フィクションであり、
 現実は、
 寸分違わず私の書いた通りに展開する。


小説「アンノウンエージェント」外伝『ザ・セレスティアル・イクウェイター・ウィズ・ザ・エクリプティック』

 大阪城
 王政復古の大号令から鳥羽・伏見の戦いに至るまで徳川慶喜が居城。
 その後は討幕派の侍と探偵――新政府軍に占拠された城。
 度重なる災害によって大壊していたそれを、大会運営が復旧、再現。
 予定より早く完成し、急遽、二回戦『城』の試合場となった。
 まずは、この城と最も縁のある探偵の様子を見てみよう。



 私(口頭の一人称は『拙』だが、独白上は『私』とする) は御殿の二階、隠し通路の一角に身を潜めている。
 待っていると、私の分裂体が今にも死にそうな顔で、ふらふらと現れた。
「大丈夫?」
「ぁ……ぁ」
 外傷はない。私は彼女と一体化する。

 分裂し、二手にわかれてからの数十分、
 彼女の経験した記憶が、私の中に流れ込む……

◆<回想>40分前

「ウェーイwwwww」

 無理だ、殺せない。

「ウェーイwww探偵ちゃんビビってんの?ちょwあwそれともオレの事が気になっちゃうカンジ?wwやっべww」
「……」
 指を構えたまま、私は攻撃を繰り出せない。
 場所は天守閣、三階大広間(天守閣にあるのは珍しい)。『チャラ男の王』セニオ殿は、挑発するように私の周囲を旋回。どこかで手に入れた日本刀を振り回している。
 癖のある毛並。飄々とした動き。独特の鳴き声。
 まさしく、イエロー・リスト(絶滅危惧種)のチャラ男。私はつい、ため息がでた。
 こんな場所でこんな珍しい生き物に出会えるとは。

「14かーwwwちょい若いけどww今のうちに仲良くしとくのもアリじゃねwな?wwメアド交換しよーぜww」赤い携帯電話を取り出す。
「いえ、拙は生き物と触れ合うためにきたわけでは……」

 彼の素早さは私と互角。だが隙が多すぎる。
 イマジナリー推理上では、何度も彼を斬り殺すチャンスがあった。
 しかし、殺せない。なぜなら、彼は『被害者』で私は『探偵』だから。

 殺人鬼の潜む屋敷で夜中出歩き、
 カップルで暗い路地裏に赴き、
 犯人に濡れ衣を着せられ、
 探偵の忠告は絶対に聞き入れない。
 彼こそは探偵を探偵たらしめる『被害者』属性の塊
 ――チャラ男を殺すことなど、探偵には不可能。

「つれないなーwwでも攻撃してこないってことワwwもうオレら戦わなくていいんじゃね?wwっべオレ天才ww」

 深刻なチャラ男不足から、ある社会派の探偵塾はチャラ男の養殖を営んでいた。だがその技術も、パンデミックで失われてしまった。彼はそこで育った一人かもしれない。
 いけない、私は戦いにきたのだ。スマートな探偵立国の実現。それがお国のためになると信じている。大会優勝、それが私の目的。
 構えを整え、宣言する。「では、推して参ります。……極右・探偵『遠藤終――

 突如、鳴り響く爆音。

「――これはッ!?」
「ちょww」
「――危ないッ!!」とっさにセニオ殿をかばい、前方に跳ぶ。爆炎が背中を掠めた。
「パwwネぇwwちょw救われオレダッサww」

「ヒヒヒヒ!ヒ!日本の城ってよォ、ヒヒ、天守閣?……あんな高い所によォ!何で殿さまがいねーんだぁ?エライやつが高ぇ所にいねーと、……ゲームが盛り上がんね―じゃんッ!」

 階段から、声。

「天守って、天主とは違ェのかよォ高いところからラスボス突き落として殺して砕いてその後オナニーしてスッキリするんじゃあねーのかよォ、……わけわかんねえ。わかんねえ」
 ギャリギャリと、リボルバーを回し、携帯電話を手に、猫背ぎみの紅蓮寺工藤様が近づいてきた。

「な!」「はw」「ア?」
 ドン、と雷のエフェクトが落ちる。『フィクション・ファンクション』。

 ……私はとたんに全てを理解した。
 そして、「ヤ……アアア――ッ!!」走る。推理光線で工藤様の首を狙う。

「うお、おおおおおお!?」工藤様は首をおかしな方向へ曲げそれを避けた。
「オイ!ちょっとは驚けよ!ヒ、ヒヒ!」
「驚きません!」私は言う。メタフィクションに関する講義は叔父から受けている。
 やはり予想通り。

「貴女は」私は跳び、間合いをとる。「『新』本格の『探偵』……ですね」

「ア?」工藤様はリボルバーを頭に押し付ける。
「なあ、……お前、狂ってんじゃあねえの?」


 多くの探偵と士族が血を流し、明治維新は達成された。
 近代化の名の下。士族は職と刀を奪われ、探偵はフェアプレイと推理を奪われた。士族から平民へ。『本格』から『新本格』へ。不満を募らせた彼らは、西郷隆盛を総指揮官にすえ、新政府に反乱を起こす。これが西南戦争である。

 小爆発が広間を駆ける。

 工藤様の身体能力は高くない。しかし、私も分裂体。パワーは半分。
「ハァ……ハァ……当たらない!」
「ヒヒヒヒ、ヒ!スマートじゃねえなあ、お前」私の口癖を使い、彼女は挑発する。
 工藤様は『新本格』。伏線無視、証拠無し、狂言回し。アンフェアを使いこなす推理術。
 ……動きが読めない。

「それでぇ、これはどいつのSSだ? ヒヒ!えー、アー、視えねえ……」
 携帯電話を耳に当て、工藤様は天井を見上げた。
「ンー、『作中作』の『一人称』の『回想シーン』……ヒヒ!おれ達を!『地の文』から遠ざける作戦かッ!ヒヒヒヒ!」
 爆発を転がり避ける。
 彼女はこちらを振り返る。携帯電話から耳を離した。
「ヒヒ」
「……」私は無言で睨む。

「そうそう、ちょい役の探偵『エンドウ』。おれの活躍する探偵小説『アンノウンエージェント』にでてくる奴」
「イヤーーッ!」攻撃、空振り。
「ヒヒヒヒ、コイツの元ネタはさァ、実在の小説『ニンジャスレイヤー』にほんの少しだけ出てくる、作中作『サムライ探偵サイゴ』だ」
「…………」
 BOMB!と工藤様のいた場所が爆発。
「――ヤァッ!」私は文字通り畳返しを繰り出し、火の粉を防ぐ。
「なア、『忍殺ネタ』使うと票が減るんだろオ?これで何票減ったと思う?ヒヒ、ヒヒヒ」
「いい加減に――……」


「『セット』『セット』『ポータル・ジツ』『ポータル・ジツ』」


 突如として、激しい風圧が私達を襲った。
「「バビった?wwwマジパネくねこれ?wwwワリトガチデwwww」」


 大広間の奥、二つのポータルが私達を吸い込もうとしていた。
 セニオ殿が私の『スマート・ポスト・イット』のコピーでいつの間にか二つに分裂。会場に来る際に利用した双子魔人の『ポータル能力』をコピーし使用したのだ。
「「ドゥすんのこれwwwwちょ強すぎくね?ww」」
 彼も工藤様の能力でメタ認識を手に入れたはずだが、さっきまで静かだったのは認識に時間がかかったためだろう。今では逆にテンションが上がっている。

「しかし……おかしい!」私の背中は能力で床に貼り付き、引力を逃れている。
「『ポータル』に出入り口の区別は無いはず!それが何故、引力を生むというのか……」

「ヒヒ」工藤様は畳に突き刺さった日本刀にしがみついている。セニオ殿が捨てたものだ。
「わかンねえの?……ぶはっ」飛んできた掛け軸が顔にかかる。「『そういうSSを書いたから』だろッ!一回戦『美術館』勝者がよォ!ヒヒヒ!」

「……それが、理由だと?」
 私が未だに把握しきれないのは、これだ。
 勝ったほうが『正史』それが世界の『ルール』。工藤様はそう言っているのだ。

 BOMB!とセニオ様の方から爆発音。

「「っちょw待ww熱っww熱すぎっしょwwwこれっw」」
 工藤様の放った掛け軸がポータルの端にひっかかり、火薬のしかけられていたその掛け軸が爆発した。
 さらに、私が薄型コピーし、引き剥がしたいくつもの畳。それらがポータル付近まで吸い寄せられ、炎が燃え移る。
「ヒヒヒヒヒヒ!ヒヒ!」彼女は刀から手を離し、引力に身を任せた。
「あ、その刀 欲しいンならやるゼ。ヒヒ」
「いりません!」私もタン、と床から離れる。

 引力に逆らわず、落下するように大広間を駆ける二人。
 途中、脇に並んだ邪魔な襖を推理光線で切断。
 白赤金に彩られた美しい襖。
 背後でその襖が爆発し、爆風が私達を加速させる。
 二人のセニオ殿は爆熱にやられ、ポータルを閉じた。
 それでも私達の足は止まらない。


「ヒ――――――ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!」
「イヤ――――ァアアアアアアアアア―――ッ!!」
「「――ちょw」」


 ゴリッ、と、
 工藤様の膝がセニオ殿の股間をえぐった。「ッ…………wぉgっw」
「……ハァ、ハァ!」
 一方私は『もう一人のセニオ殿』に指を突きつけたまま、動けない。
「www?ww?w」セニオ殿が不思議そうに笑う。「なぁーんだwwやっぱり殺さねんじゃんwゾっこんかよwwオレにww」
「くっ……」やはり、私には殺せない。
「ヒ、ヒ、ヒ……アー?」工藤様がつまらなそうにこちらを見た。
「じゃあww次こっちのネーちゃんのヤツで遊んでみっかww」セニオ殿は工藤様を見る。


「『セット』!……『ノン・フィクション・ファンクション』!!ww」


 セニオ殿が、そう叫ぶ……何も変化はない。
「っと……借りモンだ。おれの能力は、よオ」工藤様が後ずさり、言う。「能力の『主』からだ、ろ。ヒヒ、チャラ男がコピーできるとしたらよオ」

「あwww何か視えてきたwwピンク色の光っw」

「……能力の、主……?」
 セニオ殿の能力――キャラ説にはこう書いてある。『対象の能力を何かしらの形で認識するとラーニング』……何とざっくりした条件か……。
 つまり、彼は『認識』したのだ。『フィクション・ファンクション』によるメタ認識によって、『作者の能力』を。『メタな視点から影響を与える能力』を。
「……という事は」私が言うw。

「ヒヒ、ヒヒヒヒヒヒ、……マジ、ヤバいってこれw」工藤様はいつのまにか、私達から逃げw、遠ざかってるwwちょww
「何がそんなに」私はwwセニオ殿wを見。「ヤバいっての?w」ん、何か口調がおかしい気がwwすんだけどwww見ると、イケ様な二人のセニオは元気に肩を組み笑っていwwちょww何コレ好きに書き換えちゃっていいワケ?「あ間違えたwwオレのセリフこっちジャンww」「んでどれがイチニンショウシテンの文章ってやつww?」まーいっかwwwとにかくみんなうたおーぜッ!w


「「「「ウェーーーーーーイwwwwww」」」」


 チャラ男の服がはじけ飛ぶ。ハワイアンな海パンで真夏のエンジョイを毎日エブリデイ。
 大阪城。かつて多くの武将がこの城のため、血を流した。
 ここで今、本物のチャラ男の、真のチャラシャウトが鳴り響く。
 チャッチャッラオッ!チャッチャラオッ!チャッチャッチャララララチャラララオッ!
 チャッチャッチャラオッ!オッ!オッ!オッ!
 チャラ男が颯爽とビートを刻む。

「オレがCHARA男! だからCHARA王! ここが世界のCHU―央ッ! 
 セカァー、ウィー、ヘェイー、ワ!で国おさめッ!wwFOOO――――ッ!!」

 YEAH!YEAH!YEAH!遠藤の推理光線が会場を照らす!
(さあ始めましょう!拙どものHIPHOP!)
 遠藤の着物がはじけ飛ぶ!隠されていた白スク水着が現れる!

「関西KAIMETSU!ww関東SENMETSUww!
 パンデミックで超SHIMETSUwww!ファントムルージュで眼がTENMETSUwwww!!」

 BOMB!BOMB!BOMB!工藤の爆弾が爆発!
(ヒヒヒヒヒ!ワオこいつは最高にCOOLな花火だぜッ!)
 工藤のワンピがはじけ飛ぶ!隠されていた花柄ハイレグ水着が現れる!

 チャッチャッラオッ!チャッチャラオッ!チャッチャッチャララララチャラララオッ!
 チャッチャッチャラオッ!オッ!オッ!オッ!

 この荒廃した日本において、赤、黄、オレンジ……
 4人のBEATは一つの光の珠のように、融け合い、共鳴していた
 ズッ友。そう、オレ達はズッ友だ
 4人は肩を抱き、泣きながら母親にThankYou感謝


 ……悪夢のような回想を中断し、私は眼を開いた。
 逆説的だが、場面が切り替わらずあのまま『文章が続いていたら』負けていた。
 あまりにも無体。
 セニオ殿は作者の能力をコピーし、次元上昇(アセンション)したのだ。作者と同じ、文章を改ざんできるステージに。……相川ユキオ様を超えた『上級編集者』の立場となって。

 そして理解できた。何故分裂体がスクール水着を着ていたのか。
 元々私は水着など着ていない。それを『改ざん』で『着ていた事』にされてしまった。
 分裂体との一体化の際に、それが異物となって上手く一体化ができず、わざわざ脱ぐ必要すらあった。
 ……次こそ、もっと酷い水着を着させられた上で負けるかもしれない。

 対策を練りたいが、放っておけば工藤様はそこら中に爆弾を設置するだろう。
 私はすぐさま『スマート・ポスト・イット』を使用。
 御殿を抜けると、天守閣へと駈け出した。


 天守閣、大広間。戦闘の形跡。あの後、文章が途切れた時点から、セニオ殿は『改ざん』できなくなったはずだ。なにせ文章が無いのだから。
 作者の視点は今、私を追っている。私とセニオ殿が遭遇すれば、また……

「お!探偵チャンハッケーン!↑あれあれww水着はドゥーしちゃったの?↓wwせっかくカワウィーのにw」

「――!」不覚!
 彼はコピー体だ。ポスト・イット化した身体を天井に貼り付けている。

「も一人のオレもてっぺんで待ってるしwwまた一緒にチャラチャラ歌おうゼーっw」
 天井から降り、楽しそうに笑う。彼は本当に楽しいのだ。
 もう一人のチャラ男ができた事と、私達をチャラ仲間にできることが。

「……」
 もしかしたら、棄権する事を、説得、……できるだろうか。言葉が通じるか不安だが。
 彼は今、戦う事を忘れている。
「あの」
「な?ww上に行こうぜwwそれともオレ一人と遊びたい?wwイーヨイーヨww」
「あの、 セニオ殿――――……」

 しかし、またしても、ギャラギャラと鳴り響く、音。

「サイゴーはエンドだって。だからエンドウなんだろ。ヒヒッ……じゃあ何でクドーなんだ?……オレそんなクドクドしてるかよ……、クドクドクドクド……ア?」

 大声で電話をしている。工藤様だ。
 大広間に姿を表した彼女は、どこで調達したのか。花魁風の衣装を身にまとっている。
 水着を隠しているのだろーかw。彼女にも羞恥心があるんだwww
「な……w」まずい、
 既に能力を使われていたww
 文章が『チャラ』化していwルゥイ~wwwwww

「ヘイヘイヘーイwwwみんな集まって来たジャンwっwんじゃもっかい水着パーテーでもして盛り上げよっかww」
「ヒヒヒ、ヒ、なにそれヤバ→イwwwウケるんですけどぉww」
 レモンイエローのケータイを持った手を下ろし、工藤が言うw

「!?」

「ちょっと→wwチャラ男せっかくいるんだしぃw女子はモ〒なさなきゃダメじゃな~い?」
「ウェ……ウェーイwww?」
 工藤がチャラ男にしなだれかかるww……!
 wwウェーイ!!wwwwww
「ウフフ→ッwwほら→、遠藤ちゃんもはやく~っw」
「えっ」
 遠藤はすかさずチャラ男の肩を揉みはじめるウィッシュww
「えっえっ」サイコーwそうそうそこ揉んでww
「Eーねぇ!wwおネーチャン意外とイケるクチっしょww」
「チャラ男サン鬼パネ→wwイケ様愛キスしたぁーいww」
 成立しない会話を成立させ、工藤は着物の肩をはだけ、チャラ男に顔を近づけたww


「バ――――――――――――カ」


 ドン、と押され、チャラ男の全身が爆炎に包まれる。。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!」
「ちwょwkwwr!!……ぐアアアアアアアッ!?」
「―――――ッ!」火薬!肩を揉んでいた腕を引き、とっさに顔を防いだ。腕が焼ける。
「ヒヒヒヒヒヒ!」工藤様が笑い、逃げようと――

「イヤァ――――ッ!」そこへ、『もう一人の私』が彼女に奇襲をかける。
「うオッ!?ヒヒヒヒ!!」BOMB!

 もう一度、爆発音。
 倒れた私には状況がわからない。
 ……左手が動かない。
 痛みで身体がしびれる。
 右手は……人差し指と中指が焼き焦げていた。


「ぐ……っ」右手はかろうじて動くが、もう、『推理光線』は使えない。
 私の『本体』の姿は無い。薄い身体が爆散され、消えてしまった。
 セニオ殿は……原型をとどめていない。
 工藤様は、すぐ近くに倒れていた。重傷のようだ。
「ヒ……ヒヒ……ヒ」よだれを垂らし、床を舐める。
 メタ認識を保つため、まだ彼女は殺せない。

 手が床をなぞる。落ちたリボルバーと、携帯電話を探しているらしい。

 ……自分からギャル化してしまえば、『チャラ』化の影響は受けずに済む。
 その隙をついて、セニオ殿を爆殺したのだ。
 これが、新本格の探偵。果たして工藤様に『ルール』などあるのだろうか。
 花魁衣装を着こみ、自分を捨てなければ、彼は倒せない。

「……がッ」私は壁によろけ、ぶつかった。
「う……」彼女に近づく。「……ハァ……」
 推理光線を失った私は、探偵と呼べるのか。
 自分はいつから、相手の棄権を望むほど軟弱になったのだろう。

「……うッ」彼女の前に倒れ込む。落ちていた携帯を拾う。

「……そうか」案の定、それは壊れている。
 工藤様は、プロローグSSでも何者かと電話をしていた。
 彼女は狂人だ。そして、『狂言回し』。
 彼女が『壊れた携帯』を手に、電話をかける相手といえば、一人しかいない。
「聴こえ……ますか」
 私はそれを耳に当て、言った。

「ハァ……。 勝たせてくれ……などとは言いません。 せめて、『貴女』にとって迷惑な……この状況を、解決する……ために。 アンフェアを承知で、お願いします」
 傍から見れば、私は狂人にしか見えないだろう。
「ハァ……どうか、『視点』を。……『変えて』、頂きたい」
 返事のない『作者』に、話しかける。


「一人称視点から……『三人称視点』――『地の文そのもの』へと」




 遠藤は急いだ。『コピー体』の自分は、もってあと数十分で消えてしまう。
 窓から見える太陽は、はるか下方にあり、大阪の街々を黄色く染めていた。

 天守閣の最上階。
 運営による演出か、そこは謁見の間のごとく再建されていた。
「ハァ……ハァ……!」露出した肩で大きく息をする。
 彼女は工藤から奪い取った『花魁風衣装』を身にまとっていた。
 はだけて見える肩には、探偵彫りの桜吹雪。そして、

 それを覆い隠すのは、『スクール水着』の肩紐部分。

「ちょwwなーんだw水着もう着てんじゃあんwww」
 セニオは海パン一丁で、この城の主であるかのように酒を飲み、寝そべっている。
「ヒマしてたんだよねwwケータイも無ぇーしww今度はどんな水着がイーイ?www」

「なんでも結構です」彼女は右手の日本刀を畳の上に置く。
 大広間でセニオが振り回し、工藤が利用した日本刀。それが今、遠藤の手に渡っていた。
 焼け焦げた人差し指をセニオに向ける。

「 『主観的真実は一つとは限らない。……しかし、事実はいつも一つ』 」

「……?ワケ不明ww」
「実は説も、探偵小説『アンノウンエージェント』のファンなのです。まさか、出演できる日が来ようとは、思っても見ませんでしたが」
「アー、探偵チャンもケッコーおたくなん?wwまいっけどww」セニオは身体を起こした。
「それよりオレとあそぼ~ぜ!w」手をかざす。


「『セット』『ノン・フィクション・ファンクション』!!」


 チャラ男がそう叫んだ、直後。
 ひゃっっwwwほおおおおおおうwwww

 地のw文がwwチャラ男にww支配されwwwルw!!
 ――屏風の裏に隠れていた『殿様衣装ww』がチャラ男の身を包wみ!

 ―――畳に置かれた日本刀が粉々に砕ける!
 ――――次いで遠藤の衣服がはじけ飛び!
 ―――――その下に着ていたスク水がはじけ飛び!!


 ―――――――――――その下に隠されていたほとんどヒモwみたいな水着が現れるッ!!


 ……はずだった。
「www?ww?ww」

 遠藤の着物の下に『はじけ飛ぶ』スク水など無い。
 着物がはじけると同時に、彼女が『剥がし取った』からだ。能力によって薄型コピーされ、『貼り付け』られていた『スク水の上半身』を。
 遠藤は元よりスク水など着てはいなかった。
「ちょwwマジかww」

 では、遠藤の姿は?衣服を飛ばされた彼女は、その全裸を全国に中継してしまったのか?
 ご安心を!……それは、まるで刺青のように、鮮やかな華々が、彼女の肌を覆い隠していた。 ポスト・イット化された生け花である!

「……逆にエロくね?」彼が真顔で言う。
「このSSが探偵小説だという事を、忘れてはなりません。そして今、文章は一人称ではない」
 遠藤は刀を拾った。
 はじけた着物から飛び散ったレモンイエローの付箋が、宙を舞う。

「セニオ殿……貴方は主観に騙されて、『地の文』で矛盾を……『嘘』を書いた」

 壊れた日本刀の先を、セニオへ。
「……それは、例え『新本格』であっても縛られる」
 編集者としての責任を遂行する事。
「――この世界で絶対にやってはいけない『ルール違反』」
 それが『この能力』の制約。
「……セニオ殿、貴方は――」
 チャラ男は、セニオは、……編集者として世界の『責任』を負うには……


「――――貴方はあまりにも『チャラすぎた』」


 セニオの殿様衣装が掻き消え、元のフリーター的チャラい服装へ戻る。
「ちょwwっw」
 遠藤の花魁衣装も、壊れていた日本刀も、全て元へと戻る。
「――――――ゴフッ……w!?」


 刀の刃が再生され、それは彼の胸へと突き刺さった。

 絶滅保護チャラ男の胸から流れる、黄色い血。
「wwがッwwまじ……カンベンっw!」
 この様な状況で、チャラ男の『王』は一体どんな反応をとるだろう。
 世界中のチャラ男生態学者の興味を引く事例が、今、発生した。
 右手を振り上げる。
 これまで彼は、女性を傷つける事無く試合を行なってきた。
 しかし、さすがにこれは正当防衛だ。

 悪あがきであっても、抵抗しようと考えるのは当然。

「ハァ……ハァ……!」一方、対する遠藤の手は震え、それ以上動かない。「……ぅ」
 遠藤は刃物で人を殺したことがない。「……ぁ」
 刀で肉を貫く感覚は、推理光線のそれとはあまりにも違った。
「まじかよ」

(ビビってんのかよ)セニオは思った。

(……ダッサww)
 セニオは、メタ認識で彼女の事情を知っている。難しい事を言っていたが、目的は彼と同じ『世界平和』だろう。その彼女が、いまさら怖気づくなど。
 振り上げた、拳。
 そのとき。
 彼のチャラ男演算機がフル回転し、チャラ男史上例に無い、実に高度な回答を導き出した。

(ダッサw)


(――――泣きそうなオンナ殴りつけて『世界平和』とか、マジ、『ダッサ』)


 チャラ男の王は遠藤の頭に手を置く。
「――ひっ……」
「入れちゃったもんは……しゃーねーじゃんッ!ww」
「……!?……ぁ」
 彼は、チャラ男の本能に任せた。
 本能に任せれば、彼には、この様な言葉しか出て来なかった。


「……マジwwないわwwまじメンドクセーワ!wwww

 ……経験あるようにみせかけてwww……いざ本番でビビるとかwww
 ちょ~っち血が出ただけジャンww
 先っちょくらいでwwやっぱアリエナイだわ~~www処――――――」


「……ぁぁぁああああああッ!」

 遠藤の手にわずかに力が入り、「――――――じょ………………ゲフッ!」ずれた刃先が、致命的ダメージをチャラ男へ与える。
「……ぐwwwfw……はッw……」崩れ落ち、胸に手を当て、うめき、苦しむ。
「…………ぁ」
「……wwgtww」強靭な魔人の体力。彼は、これだけではまだ死ねない。

「――生き物を」その男の眉間を、
「無駄に苦しませるのは……良くありませんッ!」部屋に駆け込んだ『もう一人の遠藤』が推理光線で介錯。
「…………!」

 指をヒュンと振り、血だらけの遠藤に顔を向ける。
「セニオ殿が抵抗なさるようなら、すぐ貴女に助太刀するつもりだったけど」不思議そうに彼を見た。「……しなかった……ね」

「いえ」血だらけの遠藤はセニオに屈み込み、彼の眼を伏せた。
「彼は、抵抗しました。最期まで、チャラ男として」


 あの時、もう一人の遠藤は、工藤に殺されなかった。
 あまりにも薄い身体のおかげで、爆風に飛ばされ、爆炎が届かなかったのだ。……彼女は自分自身を騙し、死んだ事にした。セニオに文章を読まれ、潜伏が悟られるのを避けるために。
 二人は一体化し、三階へと降りた。



「ヒヒ、ヒヒヒ……」

 広間にはまだ、工藤がいた。

「ア、もう終わった?」黄色い血。血まみれの工藤は、赤色の『携帯電話』を持っている。
「その携帯は……」
(セニオ殿の……、いや)遠藤は思った。
(どっちも工藤様が落とした物だったのか……?)
 どちらの携帯もあの時、視界に入っていた。
(それを拙は、気になった方をとにかく拾い上げて……)
「じゃあ、ヒヒ……こっちも『セット』完了だ、ゼ。ヒヒ」
 倒れたまま、携帯に向かって、言った。
「……な」


 轟音。
 城中の火薬が爆発した音。


「――――――――――――――――ッ!?」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!!」
 遠藤は全速力で窓へと駆ける。炎が全方位から迫った。
「ネーバーエンディングストーーォリィーーーーーッ!あ、おれコレしか知らねえや!ヒヒヒヒヒヒヒヒヒッ!」背後で工藤の声。

 窓枠が崩れ落ちた。
 間に合わない。
 外には御殿。
 黄色い空の下。
 薄い身体の『もう一人の工藤』が、天守閣から離れた御殿の屋根で笑っている。同じく赤色の携帯電話を手に……。
 遠藤の視界が黄色く染まる。
 大阪城が燃え落ちるのは、歴史上何度目だろうか。

(拙の『スマート・ポスト・イット』……それをコピーした赤樺地セニオ殿に……おそらく色仕掛けで……自分を分裂させていた……!そして……あの赤い携帯……二人のセニオ殿から奪った携帯電話で自分と連絡をとり……城中に爆薬を……!)

 あまりにも迂闊。全てがもう、手遅れ。

(拙はこれから、死ぬ)身体が焼ける。(それでも……勝つために、どんな汚い叙述もアンフェアも、……やる。そう、決めたからには……)

 遠藤終黄は考える。
 あの時――目にした携帯電話のうち、無意識に『黄色』を選んだのは『自分の名前と同じ色の携帯電話』だからだ。
 工藤は言っていた。『勝ったほうが正史』だと。
 ……だが、『投票で勝ったSSで、SSの主人公が負けていた場合』どうなる? キャンペーンの自由性からいって、もし……作者が望むなら。その主人公が『勝った場合の世界』を正史にできるはずだ。



 ――遠藤終『黄』が、あの時、
 『赤』樺地セニオの携帯電話を見逃さず、工藤の企みを見抜けていれば……。

 ――連なる並行世界の内。
 仮に、『黄色』と『赤色』の『言葉』が、『入れ換わった世界』があるならば……。
 選ぶはずだ。赤色の携帯電話を。




(読者なら……その世界へ……『行ける』……)
 遠藤終黄は手を伸ばす。
(読者が望みさえすれば、……その世界の『その後』を、『読む』事ができるはず)
 酷い読者への挑戦状もあったものだ。
 笑うための口はもう動かない。
「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!」
 紅蓮の炎に焼かれながら、ただ、工藤の笑い声だけが耳にこだました。


 紅蓮は、炎の色。赤と黄色の入り混じった、二色の交点。
 世界が換わっても、彼女の名前だけは変わらないだろう。


◆小説「アンノウンエージェント」外伝『ザ・セレスティアル・イクウェイター・ウィズ・ザ・エクリプティック』(赤道と黄道)終








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