真野風火水土SS(準決勝)

最終更新:

dangerousss

- view
管理者のみ編集可

準決勝第二試合 真野風火水土

名前 魔人能力
真野風火水土 イデアの金貨
伝説の勇者ミド おもいだす

採用する幕間SS
【真野 風火水土幕間SS】
(真野の能力が発動失敗、銃を取り上げられた状態で試合開始)

試合内容

形鋼をトラス状に組み上げた柱に身を預け、真野は持ち込んだ水に口を付ける。数メートル横を真っ赤に焼けた厚さ数ミリの鉄板が湯気をあげながら流れてゆく。息苦しいほどの熱気だが、最初に転送された地点の地獄のような熱と光景に比べればましである。
事前に確認した見取り図から考えて、単純にこの場所で待つ場合、敵と遭遇するまでおそらく7~8分は時間がある。簡単な罠を仕掛ける程度の時間はあるが、有用性は疑問である。
懐中時計を確認すると、戦場に転送されてから2分ほど経過しているようだ。

ミドもまた真野がいる場所とは別の圧延加工場を進んでいた。真野が休んでいる場所より若干迫力のある加工風景が繰り広げられている。
ミドは「イデアの金貨」を真野にとって都合の良い世界を実在化させる能力だと推理していた。例えば真野が「ミドに勝利する未来」を求めれば、世界はその未来へと分岐する。
ここまでなら誰もが考え付きそうなものだが、ミドの推理が違うのはここからだ。
イデアの金貨は真野にとっての理想の世界を生み出す。ただし、それはまばたきをする間もないほどの一瞬だ。理想の世界はすぐに次の分岐を迎え、確定していた未来は再び不確定へと拡散して消えてしまう。真野の理想の世界が未来に残すことが出来る結果は精々「コインの表裏」ぐらいしかないのだ。だが、真野にとってはその一瞬があれば、それをきっかけに後はいくらでも自分で勝機を広げていくことが出来る。それこそがイデアの金貨の正体。
このミドの推理は大筋で正解である。

ミドが真野と同じように敵と遭遇するまでの時間を計算していると、前方からコロコロと一枚の金貨が転がって来て、ミドの約5m手前でぱたりと倒れた。
「ダメだね、裏だ」
立ち込める蒸気の奥から真野が現れ、金貨を拾いあげる。
ミドの推理では真野が能力で実在化できる世界には射程距離がある。1、2回戦から推測するとおそらく半径5~6m。魔人能力の射程としては一般的だ。おそらく、ブラフのつもりで空撃ちして見せたのだろう。ミドは冷静に分析すると、剣を構える。
この剣が実体のない幻であることはばれているが、両者の格闘能力はほぼ互角。僅かでも武器のリーチを錯覚させることが出来ればそのアドバンテージは大きい。そして、ミドには彼女の地の利を完成させる用意がある。
立ち込める水蒸気の悪視界の中をミドは赤く燃える延鉄や、巻き込まれれば腕を容易くもぎ取られそうな圧延ローラーにギリギリまで踏み込み、攻撃を仕掛け、回避する。そうする事で、敵の厳しい攻撃を殺し、反撃を防ぐ狙いだ。
ミドは製鉄所の地形を文章化して記憶しているのだ。官能小説の濡れ場をありありと想像するように、彼女は製鉄所の細部までを脳内に再現していた。完璧な記憶はまるで五感の様に彼女の体に染みわたり動かす。準決勝に備えミドが備えてきた応用技である。

ミドの強い戦い方の前に真野は戦闘開始から5分以上も劣勢を強いられ続けていた。辛うじてナイフの切っ先を躱し続けているが、過酷な環境も手伝って体力にはあまり余裕がない。いつ致命傷をもらってもおかしくない状況だ。
「どうにも分が良くないね。三度目の正直、これで最後だ」
ミドの攻撃を大きく躱し距離を取ると素早く懐から金貨を取りだし、宙に弾く。今度こそミドを射程にとらえている。
(ふかくむねにきざみこむ!)
ミドは即座に心の中で唱えた。ミドの能力は会話をその言葉に込められた意図、心理までを正確に記憶し、嘘を見破る。
真野の言葉には相手を揺さぶる意図、騙す心理が渦巻いている。だが、嘘は吐いていない。つまり、『どうにも分が良くない』真野の劣勢は演技ではなく、次に仕掛けてくる攻撃が正真正銘『これで最後』の策。
真野のブラフを打ち破ると同時に、これこそが彼女の用意したイデアの金貨を破る手段でもある。真野の言葉を新しく覚える際、ミドはひとつ記憶を消去している。完璧な記憶を完璧に消去する事で、能力発動前後でミドは別の存在となり、対象を失ったイデアの金貨は発動失敗する。
簡単なようで、実際には目を潰したり腕を斬り落とすほどの覚悟を示しても同じ理屈で能力の発動を阻害することはできない。「精神の連続性」を切断できるミドにのみ可能な対策である。
金貨が地面に落ちると同時に、真野はナイフで自分の掌を斬りつけ、そのままミドに投げつける。奇行にわずかでも気を取られれば躱し損ねていたであろう素早い投擲だが、ナイフ投げは一回戦で見て、常に警戒している。きわどく躱されたナイフはミドの背後の機械に弾かれ、真っ赤な鉄のベルトの上に落ちた。フライパンとは比較にならない高温で、ナイフに着いた真野の血がぶすぶすと黒い煙を上げる。
次の瞬間真野の血を吸ったナイフの皮製グリップが破裂音を立ててミドの顔めがけて跳ね上がった。自分の掌を斬りつけたのはグリップの皮を血で湿らせるためだった。
武器は失っても、ミドの周囲は凶器となりうる焼けた鉄や機械が取り囲んでいる。フライパンの上で跳ねる油の比ではない音と威力に一瞬でも怯めば、真野の必勝である。

しかし、ミドは顔に打ちつけられるグリップの残骸を意に介さず、目の下をはれ上がらせながら真野を睨み続けていた。
「このぐらいで緩んでるようじゃ勇者は務まっても、処女やビッチは務まらないの。おあいにく様」
真野の策を凌ぎ、勝ち誇ったようにミドが口を開いた。
「どうやら、さっきの金貨も発動失敗したみたいですね」
床に転がった金貨の表裏は確認していない。だが、真野の策が不発に終わった事実だけで十分だ。
「果たしてどうかな。君の推理が完璧だとは限らない」
真野の揺さぶりを能力で見破ることはできるが、それは製鉄所の地形の記憶と交換になる。武器を失ったとはいえ、真野に対し地の利を失うのは危険だ。真野の次の一手は確実に「逃走」だ。地の利を失えば逃げる真野を捕まえるのは難しくなる。

予想通り、真野は元来たルートを引き返すように逃走を図った。すかさずミドも真野を追う。次の策がない事はさっき確認している。『これで最後』。真野は嘘をついていなかった。だが、時間を与えれば次の策を用意されかねない。
ミドの瞳は目をつぶってでも走り抜けられる施設内の地形は無視し、真野の動きのみを追いかける。一回戦の森の中の動き、二回戦でレーザーを躱す動作。真野の動きはそれほど速くはないが柔軟で器用。気を抜けば予想外の動きで反撃を食らいかねない。
ミドの前を走る真野が前方の柱を躱すために減速する。―おかしい、柱を躱すためにしてはスピードを落としすぎている。ミドは即座に真野の動きの不自然さを察知し次の動きを予測した。
真野は柱のトラスを構成する形鋼をつかむと反動を利用し素早く切り返し、拳を握りしめてミド立ち向かう。予想通りとばかりにミドは思い切り右足を踏ん張り強引にブレーキをかけて、胸の前で腕を構える。カウンターパンチに備えるのならこれ以上ないタイミングだが、真野はそのまま低い姿勢でミドの脇を走り抜ける。読みを外したミドがあわてて真野を目で追うが、すでに遅い。真野の拳にはロープが握られ、その端は柱の形鋼に結び付けられている。次の瞬間ミドは腕ごとロープに絡め取られ、柱に強くたたきつけられた。頭を打ったのか、一瞬目がくらむ。真野は素早く柱を半周すると強くロープを引き絞り、巧くミドの腕を封じられた事を確認すると、ロープを緩めないように少しずつ拘束を強めてい
く。あらかじめ仕掛けておいたロープを柱に括り付けておくだけの簡単な罠だった。
「私は趣味じゃあないけど、人によってはこういうのがそそるのかな」
「うそぉ……」
あまりの展開にミドが思わずつぶやいた。
「あの時、ロープなんて持ってなかったじゃない」
あの時とは試合前にお互いの武器を確認した時のことだ。
「ロープは道具だよ」
納得できないことは他にもある。何故イデアの金貨は最初の二回は発動失敗したのに、最後だけは発動に成功したのか?真野がつぶやいた『これで最後』は嘘ではなかった。この最後とは何を指しての最後だったのか?
いずれにせよはっきりしているのは、ミドのイデアの金貨対策は完璧では無かったという点だけだ。
「悪くない推理だったけど、惜しかったね」
「男の人の『急所』には鋭いつもりだったんだけどなぁ」
「鏡子先生には及ばないね」


イデアの金貨
発動率:平均33%
コインの表裏を操作する能力。
発動成否にかかわらず、333秒の間隔を空けて一日に3回まで使用可能。
発動成功時に一瞬だけ「術者の理想の世界」が実在化する。一瞬の「理想の世界」が与える小さな恩恵を活かせるかどうかは術者次第である。
(つまり、ミドの推理とは効果と副産物が逆)


人気記事ランキング
目安箱バナー