真野風火水土SS(第二回戦)

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dangerousss

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第二回戦第三試合 真野風火水土

名前 魔人能力
一∞ 眼鏡の王(Lord Of Glasses)
真野風火水土 イデアの金貨

採用する幕間SS
【真野の決戦前日】
(石田歩成と賭け将棋仲間になりました)

試合内容


二回戦第三試合解説(石田歩成)

最初に真野風火水土と一∞の試合の解説を書かないかと誘われたとき、私はどちらかと言うと断る方向で考える時間をいただいた。というのも、この試合は実に単調で泥臭く、決着もあっけなかったものであまり解説をする余地も面白みもないと感じたからだ。実際、大会が終わった後この試合を思い返す人は少ないのではないかと思う。
しかし、真野さんには賭け将棋でずいぶんとおいしい思いをさせてもらっている私である。無下に断るのも申し訳なく感じられ、一応彼らの試合をビデオで振り返ってみることにした。するとどうだろうか。一見単調に見えた戦いの裏には両者の思惑と駆け引きが絡み合っていたことに気付いたのだ。私はすぐに電話で解説の依頼をお受けする旨を伝え、作業に取り掛かった。
拙文で両者が水面下で繰り広げていた(と思われる)心理戦の奥深さを少しでも多くの方に理解していただければ幸いである。

※便宜上解説本文中では敬称略とさせていただく。

■両者の基本方針
勝負の世界には必ず「方針」というものが存在する。それは将棋やスポーツ、格闘技などあらゆる種目で共通である。方針とは樹の幹のようなもので、勝利を目指す上で最も基本的な構想だ。例えば「敵の攻撃を凌ぎ切って勝つ」と「敵の防御を攻めつぶして勝つ」はそれぞれ対立する方針である。例えば前者の方針を持ちながら、無理に敵に攻撃を仕掛けるのは無策だと言える。これは地面に落ちてしまった枝のようなものだ。
では、真野と∞、それぞれどういった方針で戦いに挑んだのか考察していこう。まず注目するのは両者の実力である。対戦相手のいる競技での方針は常に相手との力関係に影響されるのだ。単純な戦闘能力で言えば体術、武装ともに∞が真野を上回っている。頭脳では真野に軍配が上がりそうだが、∞もそうそう容易く策にはまるような相手ではない。地の利に関しても索敵能力を持つ∞にあるように見える。つまり、普通に戦えば∞の必勝と言っていい。そうなると∞の方針は「シンプルに戦う」のが正解となる。何も起きないように選択肢をつぶしながら戦うという方針だ。
逆に真野としては選択肢を増やしながら戦うのが正しい方針となる。つまり、試合展開に「あや」をつけて紛れに期待するのである。まずはそれぞれの方針を覚えておいてほしい。

■真野、不満なしの展開
試合開始から両者は先に述べた方針に則って行動を起こす。∞はできる限り素早く真野の捕捉を目指し、真野は∞と遭遇する前に一つでも自身に有利な条件を作っておきたい。最も効果的だと思われるのは何かの武器になりそうな物の調達である。攻撃手段が一つ増えるだけで、それは紛れを生み出す選択肢となるのだ。しかし、その選択は悩ましい。例えばナイフを所持している真野にとってメスなどの刃物は目的がダブった武器であり、病院に火を放つなどの大掛かりな策は手間の割に期待が小さい。結論として、あらかじめ目星をつけておいた薬品の回収が最善である。
その間に∞は次の行動を許さない距離まで真野を捉えているわけだが、既に選択肢をひとつ増やした真野にとしても不満はない。
両者接近したことでそれぞれ自身の方針から理想的な遭遇ポイントを考える。これは敵の位置をサーチできる∞にアドバンテージがある。∞としてはできれば真野の背後を取りたいが、とりあえずレーザーを躱すスペースが少ない廊下で遭遇できれば上出来である。対する真野は可能ならば広い場所、物が多い場所で戦いたいが、場所にこだわって背後を取られては拙い。正面から敵を捉えられれば及第だ。偶然にも両者の想定した遭遇ポイントが一致したことで、本来なら開戦場所を選べなかったはずの真野としては、序盤の駆け引きで少しポイントを稼いだ形である。

■逆転模様
計ったように東西それぞれの階段から両者が2階廊下に現れ、いよいよ開戦である。先にレーザーによる攻撃を仕掛けたのは∞である。∞のレーザーは目線と射線が重なるため、躱すのは比較的容易であるが、油断すればこの距離でも有効打となりかねない。対する真野の拳銃はこの廊下を丸々挟んだ間合いでは反撃手段としては弱い。一方的に攻撃が仕掛けられる∞が優位である。せめて廊下の半分までは距離を詰めたい真野だが、無造作に前進するのは回避が遅れて巧くない。∞からは無理に間合いを詰める必要が無いので、睨み合いは彼女に分がある。即断、真野は睨みあいを嫌い上の階に逃れる。上階廊下中央で∞を迎え撃つつもりなのだ。やむを得ない作戦ではあるが、東西どちらの廊下からいつ仕掛けるか
、開戦の権利は∞に譲った形だ。序盤から優位に戦いを進めてきた真野だが、ここで少し形勢を損ねたように思う。
このあたりで両者しばらく動きを止め、見ている側も退屈だったと思われるが、当然両者の思惑は激しく衝突していた。この局面では、∞に選択肢が一つ増えていたのである。
真野が廊下から動けないのなら、∞は一度仕切り直し武器を調達するという手がある。真野にとってはあまり魅力的ではなかった刃物類は、∞にとってはナイフを持つ真野に対し接近戦の不利を軽減できる有力な選択肢なのだ。間接的に真野から接近戦の選択肢を奪う事にもつながる。
だが、仕切り直しは今握っている開戦の権利と交換となる。次の遭遇で今と同等の優位が築ける保証はない(可能性は高いが)。この葛藤があるから真野は上階に逃れるという手が選べたのである。

■方針に立ち返る
私が∞の立場なら、ここは一直線に決戦を選ぶ。それが方針に則った正しい構想だと思うからだ。わざわざ今ある優位を捨て、別の優位を拾いに行くのは自分からあやを作る行為に見えるのだ。
実戦でも∞は武器の調達よりも決戦を選択した。そこからはやや一方的な展開が続く。∞としては真野に能力を使う余裕を与えたくないのだ。ここに来ると真野の選択肢はレーザーを躱し続けてオーバーヒート狙いしか残っていないことに気づく。真野の体力と∞の眼鏡の耐力によるシンプルな持久戦である。これは∞としては理想的な展開で、真野が苦しい場面だ。当たり前と言えば当たり前だが、方針や構想は強い方の主張が通りやすい傾向がある。しかし、∞にとってオーバーヒートは現実的な問題である。決戦を決断するからには相応の用意があったのだ。
それは、レーザーにイリュージョンのフェイクを混ぜ、オーバーヒートを遅らせるというシンプル且つ古典的な策だ。真野としてはフェイクとわかっていても、躱すほか手が無い有効な手段である。この作戦が無ければ、あるいは仕切り直しで武器を調達する手が優ったかもしれない。時として、方針にこだわりすぎない柔軟さも大切という事だ。

■伊藤流・盛上駒踊り食い
観客が見ていて辟易したであろうレーザーを撃って躱すだけの戦いの裏に、中々面白い心理戦が繰り広げられていたことは分かっていただけただろうか。ここからは皆知っての通り、真野が予想外の粘りを見せた。いつまでたっても動きが鈍る気配なく、レーザーを躱し続けたのだ。真野側にも持久戦には用意があった。
大会参加者には試合前に「持込み物の申請」が義務付けられている。これは単純に転送の都合が一番の理由である。「身に着けている物すべて」では、例えばポケットの中身は見落とされてしまい、丸腰で戦場に送られる羽目になる。
あるいは不正防止でもある。「貧者の薔薇」など持ち込もうものなら試合は成り立たない。例外は写真から自在に物質を取り出せる小宅麗智奈ぐらいである。
この持ち込み物は、了解があれば対戦相手に開示されるが、真野はこの開示を拒否していた。つまり、対戦相手に見られては困る持ち物があったのだ。例えばそう、「将棋の駒」などどうだろうか。
∞は真野の体力の秘密は私、石田歩成の能力にあると推理した。私の「伊藤流・盛上駒踊り食い」を簡単に説明すると、対象の口内に将棋の駒を具現化する能力である。この駒の枚数が対象の体力の残量となる。駒を一枚吐き出せばその分体力が減るという寸法だ。
だが、逆に口の中に一枚でも駒を残しておけば体力は尽きないという可能性はないか?真野が言葉によるゆさぶりを仕掛けてこない事も、この推理を裏付けている。そうだとすれば、∞は持久戦を捨てて、無理にでも決めに行く必要が生じる。ここで再び試合が動いた。

■とんでもない狙い
再び∞に仕切り直しの機が訪れる。真野が病室に逃げ込んでくれたのである。持久戦に未来が無いなら、一度引いて立て直す手はアリだ。だが、逆に眼鏡チェンジで最終決戦を仕掛けるなら最後のチャンスでもある。勝機があるなら、決められる時に決めてしまうのが彼女の方針として正しい。
やはり、実戦でも彼女はここで勝負を決める選択肢を選んだ。病室に飛び込むと矢のような身のこなしで真野の腹部に一撃を加える。動きが最適化され戦闘能力が上がったとはいえ、彼女の筋力では一撃で骨肉を砕く威力はないが、口に含んだ駒を吐き出させるには十分である。だが、真野の口から吐き出されたのは将棋の駒ではなく、一枚の硬貨だった。
真野がこの試合で始めて口を開く。それは∞が反則を犯しているという抗議だった。真野の抗議は以下である。
  • 自分は今∞が一回戦で使用した眼鏡を所持している
  • 眼鏡は彼女にとって強力な武器と成りうるものであり、申請せずに試合会場に持ち込むのは不正にあたる
  • 不正の手段として、対戦相手に持ち込ませるという方法は無くもない

ロクでもない、そしてとんでもない狙いである。自分で対戦相手の私物を持ち込んでおいて、それで相手を反則負けに追い込もうというのだ。当日試合をモニターで見ていた私もこの主張には目が点になった。

■ブーイングの決着
仮に真野が持ち込んだ眼鏡が∞の物だとして、それはおそらく何者かの能力で複製されたものだろう。∞の眼鏡管理は万全なのだ。だが、彼女にとってそれが複製であっても、「自分のものではない」と言い切ることは難しかった。いや、まずは現品を確認するのが先か――。反論に窮する。
しかし、彼女の明晰さなら、反論の前に「抗議自体の正当性」、さらには「このタイミングで真野が抗議を行った理由」を考えたはずである。まず、抗議自体が何も反論しなくても却下される事が明らかだ。また、反則勝ちを狙っているなら抗議を仕掛けるのは試合開始直後でよかったはずである。この時、∞は抗議の是非、さらには試合の勝敗よりも眼鏡への葛藤を優先してしまっていた。そして、致命的な見落としがあった。
「はい、私の勝ち」
そうなのだ。抗議中に試合時間が止まるルールなど無い。真野が∞の胸に銃口を突きつけ、あっさり詰みである。真野は密着状態が作れたからこそ、ゆさぶりを決行したのである。決着の瞬間の観客の「無言のブーイング」ともいうべき白けた空気は試合内容以上に印象に残っている。

さて、最後になぜ真野は驚異的な体力で∞のレーザーを躱し続けることが出来たのか、疑問が残る。私は当然関与していない。そもそも、そんな裏技的な使い方ができるかも不明である。これは宿題にしたいと思う。ヒントは真野が最初に取った行動だ。答えは既にお分かりだと思うが、絶対に真似はしないように。



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