日谷創面SS(第二回戦)

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dangerousss

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第二回戦第二試合 日谷創面

名前 魔人能力
日谷創面 アゲンスト・トーフ
不動昭良 インフィールドフライ

採用する幕間SS
【日谷創面幕間SS】
(エプロン入手)

試合内容




 物陰に隠れた男が叫ぶ。

「おい!聞こえてるか!?不動昭良!俺は日谷創面だが!」
「…聞こえますよ。知ってます。」

「あんたに一つ聞きたいんだが。」
「何ですか。」

「何で服、着てるんだ?」
「……。」

「…。」
「…。」

「ねえ、何で?」
「…えっと…。」

――むしろこっちが聞きたい。何故この先輩は、裸エプロンなんだ。


◆ ◆ ◆
●第ニ回戦 第ニ試合


  • 大会放送席

 司会の結昨日司の声が、モニター会場に響き渡る。

「さあ、始まりました第二回戦第二試合。今回の舞台は、10倍スケール3LDK庭付き2階建て!大きさ的には、160cmの人間が16cmに縮んだ場合の世界だと思ってもらえれば、
イメージしやすいでしょう。」
「そうね。」
 相槌をうつのは、実況担当の斎藤窒素だ。

「対戦者は魔人警官の不動昭良と、豆腐屋の日谷創面。
見た目的にも内面的にも、対照的な二人と言えるのではないでしょうか。」
「早く逮捕されればいいのにね。」

「さて、試合の状況ですが、不動選手の出現位置は2階の書斎。
日谷選手は1階の居間となっております。
――不動選手は、小物いれの引き出しを開けようとしていますね。」
「重さが1000倍だから、結構大変ね。」

「対する日谷選手は…。どうやら能力で床を豆腐化し、
逆さにした『豆腐屋の笛』を空気穴にして、床中から敵に近づく策のようですね。」
「…まさに手芸者の土遁の術。んいや、ドトン=ジツと言えば正しいのかな。」

「そう言えば、斎藤窒素様。
観客の方に『手芸者』について、軽く説明した方が良い気がするのですけれど…。」
「そう?」

「説明…できますか?私にはなんとも…。」
「要するにニンジャね。」

「なるほどわかりました。…えー、この大会はユキノマーケット、小野寺証券、
オオツキ重工、HP・ラブホテル・クラフト。の提供でお送りいたしております。」


◆ ◆ ◆


  • 居間の入り口付近

 不動を足元から奇襲しようと試みたが、失敗した。
 不動はこちらを向いたままふわりと体を浮かせ、机にのぼる。

 大きなティッシュによる目隠し。
 さらに巨大な画鋲、ホッチキスの針が、創面めがけ200km/hの速度で飛んでくる。
「……っ!!」
 創面はそれを、巨大な定規を振り回して叩き落す。
 定規が折れた。

 その隙に、不動がポケットから何かを取り出す。
 「本物」のホッチキスの、「小さな」針だ。
 その小さな針が、高速で創面の「眼」に向けて放たれる。

「―――――!!」
 創面の右眼に命中した。

 転げ回る創面。
 物陰に隠れる。
 眼から血が流れている。
「くそ…!近づけねえ!」
 ――それにしても。
「あいつ、何で服を着ているんだ?」


◆ ◆ ◆


  • 放送席

「なかなか進展しないわね。」
「創面選手が、隠れながら不動選手の隙を伺っているようですが、
何しろ相手は飛べますからね。そもそも追いつくのが困難でしょう。
…うーん。女神に頼んで、マップ内の時間を早送りしてもらいましょうか?」

「そんなことできるんだ?」
「女神ですからね。」
「やるじゃない。女神のくせにー。」

「――あ、待ってください。不動選手がキッチンで行動を起こしたようです。」
「はぁ、いつになったら地獄の断末魔が聴けるのかしら…。」


◆ ◆ ◆


  • キッチン

 布製のガムテープは石油でできている。そこにさらに新聞紙等の燃える物をばらまく。
 コンロの火を移す。
 床に巨大な火の手が上がった。
 口をハンカチで覆う。

 小さなリュックを背負う。水と食料は予め持ってきた。
 互いの能力の性質上、今回は長期戦が予想されたからだ。

 空を飛び、玄関の郵便受けから外へ出る。

 水攻めという案もあった。しかし、創面は壁に潜めるし登れる。
 どうせ不動が床に降りることはないので、大した意味はない。

 もしも火をつけるのが創面で、あらかじめ彼の能力で出入り口を塞がれていたら、不動の方が危なかっただろう。
 先手を打って火をつけたのは、そのためでもあった。

 不動は庭樹の枝に降り立つ。

「…さて、根比べだ。」
 「待ち」の仕事なら今まで何度もこなしてきた。
 忍耐強さなら持ち合わせているつもりだ。


◆ ◆ ◆



「熱っ!アツ熱いって…これ!」
 キッチンの隣の居間からは、不動の行動はよく見えなかった。
 だが豆腐は熱を通しやすく、すぐ近くに火の手が迫っていることがわかった。
 創面は頭の三角巾を外し、口元に結ぶ。

 火災で最も恐ろしいのは、煙だ。
 煙は上にのぼる。2階にいなかったのが幸いした。
 火災報知機が今更鳴り出すなか、
 創面は床下を掘り進み、庭の地中まで出た。

 不動に一度でも触れられれば、『インフィールドフライ』で場外まで飛ばされてしまう。
 そのため、できるだけ屋外には出たくなかったが、あぶり出されてしまったようだ。

 不動がいるとしたら、どこか高いところだろう。
 庭石、空の犬小屋、三輪車、塀、樹。あるいは、…屋根。


◆ ◆ ◆


 ぐらりと、不動の立っていた巨大な樹が揺れる。
 すぐに飛行し、避難する。
 樹の根元を、創面の『アゲンスト・トーフ』でトーフ化されたのだ。

 樹はそのまま家の屋根にぶち当たる。
 1000倍の重さの大木は、爆発した様な音を立てて屋根を破壊した。
「当然、足場は残しておいてくれないか…。」

 その後も残りの樹が全て、屋根めがけて倒されていく。
 樹に火が燃え移るのは時間の問題だろう。


◆ ◆ ◆


  • 放送席

 先ほどから、試合の映像に変化がない。
 隠れながら戦う二人は、なかなか鉢合わせない。
「長い…。」
「長いですね。」

「長いと観る気無くすよね。」

「やはり早送りしましょうか。進展があったら止めてもらいましょう。」
 キュルキュルキュル…。
 映像が早送りされる。

「うわぁ…。」
「これ、いつまで続くんでしょうか…。」
 キュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュルキュル…。


◆ ◆ ◆



「腹が減った…。疲れた…。痛ぇ…。眠ぃ。」
 スタートからどれだけ経っただろうか。体力は限界に近い。
 少なくとも半日以上経っているはずだが。女神の作ったマップは、陽が沈むことがない。

 家はその巨大さゆえか、まだ燃えている。
 屋根に寄りかかった樹は灰になり、
 草の生えていた地面は焦土と化した。
 創面が今潜っているのは、庭を囲む塀の中だ。

 トーフ化した欠片を、塀と塀の隙間に押しこむ。
 塀の中に、かろうじて顔を出せる程度の空間を作り出せた。

「…痛ぅ!」
 創面は、自分の左脚に刺さった巨大なホッチキスの針を抜き取る。
 幸い、それほど傷は深くない。

 地面が水で覆われると、潜伏範囲が狭まってしまう。
 先手を打って、庭にある水道の蛇口を能力で塞いでおいた。
 この傷はその時に襲われたものだ。

 同様に1,2時間に1回。小競り合いがあった。
 未だ、互いに決定打を与えられずにいる。
 さらに、不動は火をつけた小枝を操作し、
 創面の潜んでいそうな場所に近づけてくる。その度に創面は移動を強いられる。

 とにかく空腹だ。
 プロの手芸者ならば、空腹のほうが戦いやすかったかもしれない。
 だが、創面はプロではなかった。

 創面は半焼けの巨大なドングリを握っている。
 庭で拾ったものだが、とても食べられたものじゃない。



『――だったら、トーフにすればいいだろうが。』
「うるせ…って、またお前か!!」
 創面に憑依した手芸者・ロクロが脳内で創面に話しかける。

「全快して消えたと思っていたのに!!」
『俺は、お前が死にかければいつでも出てくる。』
「まだ全然死にかけてねえよ!」
 こいつに体は渡さないし、力も借りたくない。

『アァー、ソメン。お前の能力ならいつでもトーフが食える。
 まあ中身はドングリだが、腹は壊れにくくなるぞ。たぶんな。』
「お前は自分が豆腐を食いたいだけだろうが!ふざけんな!」

 ロクロの提案は悪くない。少なくともそのまま食べるよりはマシだ。
 だが、創面は昔から豆腐が大嫌いだった。

「…姉貴の麻婆豆腐なら食えるんだがな。」

 創面の姉・奴子の作る麻婆豆腐は、工夫を重ね、豆腐の豆腐らしさを消した上で、
より美味しく調理された特別製だ。普通の豆腐料理とは違う。

「とにかく豆腐は嫌いだ…。豆腐なんか食うくらいなら、去勢したほうがマシだ。」
『……………(絶句)。』


◆ ◆ ◆


 不動は塀の上に降り立った。
「はぁ…。」
 ため息をつく。
 飛べるといっても、ちょくちょくと休む必要がある。
 煙と熱。襲撃への警戒。
 そんな状況で、不動もさすがに疲弊していた。

「お腹がすいた…。」
 食料はあるが、食べている間に襲われるとも限らない。
 それに、適度に空腹な方が集中できる。

 休憩しながら、足場を飛び移り、小石をデコイにして音をたてる。
 それで何度か創面をおびき出せたが、もう通用しないだろう。
 屋内ならもっと出来ることもあっただろうが、それは創面も同じだ。火をつけたことを、不動は後悔していない。

 何故ここまで苦しい思いをして、戦っているのか。
 不動にはこれといった信念も、目標もない。
 理由があるとすれば、自分を必要としてくれた組織への義理といった所だろうか。
「よし…!」

 創面は手負いだ。
 持久戦なら、こちらに分がある。


◆ ◆ ◆


 母が死に、

 当時10歳だった姉の奴子が、家の食事を担当すると言い出した。
 母の料理を、姉に再現できるとは思えない。
 創面はそう思った。

 案の定、出来上がった料理は、
 それはひどい麻婆豆腐だった。

 創面は、母の麻婆豆腐が好きだった。
 これは、そんな創面を、姉が励ますために作った料理だ。

 姉がスプーンを差し出す。
 創面は、それを受け取らない。

 じっと、料理を見つめる。


 その料理を、創面は――――


◆ ◆ ◆


「――投げつけたんだ。」

『はぁ…?』

「どこに投げつけたのか覚えていない。思い出したく、ねえ。」
 顔に手を当てる。
 自分が何故豆腐を嫌いになったのか、記憶を辿り、蘇った記憶。
 あの時のことを、創面はまだ謝っていない。

 巨大ドングリをトーフ化した。
 それを口に入れる。
「うえぇ…。」
 まずい。
 家の豆腐のほうが、100倍美味い。

 それでも続けて口に運び、咀嚼する。
 まずい。涙が出てきた。まずい。

「うぅ…。」
 このトーフを食べることが、姉への罪滅ぼしになる気がした。
 もちろんそんなものは錯覚に過ぎない。

『アァー…。やはり美味いな。トーフは。』
「…うるさい。」
 ごくん。
 無理して飲み込む。
「ハァ…。よし!」
 少しだけ、元気が出てきた。


 さらに少しだけ、頭が回り始める。
 現在創面は、庭の隅。コンクリート上の犬小屋の地下に潜っている。
 ふと、疑問に思う。

 ――不動は何故、犬小屋を燃やさないのか?
 犬小屋のような狭い場所に、不動は決して入ろうとはしない。
 外から覗こうにも、燃える家屋に近づく必要がある。
 だから、犬小屋は創面の絶好の隠れ場所だ。何故消さないのか。

 …おそらく、犬小屋は不動にとっても絶好の「休み場所」なのだ。
 犬小屋の屋根は、創面が潜り込むには薄すぎる。天井にずっとつかまるにも、限界がある。襲われる可能性の一番低いのが、この場所だ。

 もっとも、犬小屋から襲撃される可能性を、不動は当然考慮し、用心している。
 それでも安定した足場は、不動にとっては貴重なのだろう。


 自分の持ち物を確認する。
 応用力のある両者。
 落ち着いて準備ができる面では、こちらに分がある。
 おそらくはそれが、勝敗を分ける。

 豆腐屋の笛。
 三角巾。
 折れた巨大な金属定規。
 巨大なホッチキスの針。
 そして、エプロン。

 今回の創面は、裸の上にエプロンを着ている。
 服は前回失くしてしまった。


 エプロンは三角巾や笛と同様、
 姉の奴子の能力で頑丈に作られた、日谷家の特別製だ。

 姉の魔人能力は、創面とは逆に『柔らかい物を硬化させる』。
 仮に肉体を硬化した場合も、普段と変わらず動かすことが出来る。
 つまりそれは、『「軟度」を保ったまま「硬度」を上げられる能力』ということだ。
 人間の細胞は入れ替わるため、いつまでも硬いままではいられないが、普通の物体であれば、半年はその効果が保たれる。このエプロンも例外ではない。


「ちっ…、姉貴の道具に頼るのは癪だが。やるしかない。」
 創面は作業にとりかかる。

『…結局シスコンの力かよ。』


◆ ◆ ◆


「おーい!不動!」
 どこからか創面の声が聞こえる。
 物陰に隠れているのだろう。

「何ですか?」
「どうだ、疲れたろう。棄権する気は無いか?」
「ありませんね。…疲れたのは、確かですけど。」

 実際、不動の目は充血し、体も重たげに塀に座っている。
 だが創面の声からも、相当な疲れが見える。

「だがなぁ、このままじゃお互い昏倒して終わりだと思うぞ。」
「………。はぁ…。」


 ――疲れていて、気が変になっていたんだと、不動は後になって思う。


 不動は立ち上がると、
 上着を脱ぎ、リュックへしまう。
 上半身裸になった。


 火事による暑さも影響していた。
 また、創面が疑問に思ったように。
 『インフィールドフライ』によるカウンターを狙うなら、
 創面の裸と同様。接触範囲を増すために脱ぐのも、おかしくはない。

 それでも、不動の普段の行いとは、少しずれていたかもしれない。
 そもそも不動は、『インフィールドフライ』によるカウンター勝ちなど、今更できるとは思っていなかった。


「自分にも…。意地があります。」
「…。」

「ここまで来たら、負けられません。絶対に。」

「ハハハッ!俺だって、絶対負けん!」
 創面が嬉しそうに笑った。


◆ ◆ ◆


 以上の会話は、モニターでは早送りで飛ばされてしまった。
 今後の戦闘には、まるで関与しないやりとりである。

 それでもこの長い戦いの間、
 不動がここまではっきりと感情をあらわしたのは、
 これが唯一の出来事だったと言える。


◆ ◆ ◆


 ゴトリ。と
 庭にある、直径1m程の小さな岩が、動くのが見えた。

 創面がその下に潜んでいるのか。
 不動は攻撃に移す前に、持ち前の観察眼で観察する。


 ――――岩の中から伸びる、細い糸。


 その糸は、動いた岩から僅かに離れた、黒色の岩の中まで続いている。
 そこから糸を引き、動かしたのか。

「危ないな…。」
 襲撃のために、その黒岩まで降り立っていたら、
 岩の中から襲われていたかもしれない。

 不動はそこから一番近い、大きめの白い岩へ着地する。
 そこで、小石を操作し、デコイとして使おうと――


「――――――!」
 不動の立つ岩が、ふにゃりと歪む。
 足元からの襲撃。
 創面の手が、不動の右足に食い込む。

 黒い岩から、白い岩まで、地中から糸をつないでいたらしい。
 地中に穴を掘った…?
 掘った土はどこに――――ああ、なるほど。


 犬小屋の中だ。


 裏の裏をつかれたか。
 普段なら、このようなミスはしなかったかもしれない――

 飛翔する。
 創面の腕が離れる。
 不動の右足は半壊。トーフ化から解放された。

「うおっっと!」
 さらに、『インフィールドフライ』で創面の体を浮かす。
 このまま場外まで――


 ――が、
 ぴん。と張り詰める糸。


 ギシリ。と軋む頑丈な短い糸が。
 創面のエプロンの先から、二本飛び出している。

 一方は白岩の中へ――岩は既にトーフ化が解除、固まっている。
 もう一方は、不動の右足の「中」――ホッチキスの針が釣り針のように食い込んでいる。

 二人の体は糸とエプロンで繋がり、距離は2mもない。
「――――痛ぅっっ!」
 引っ張ると、針が足に食い込む。
 思わず「飛行」の速度が落ちる。

 無数のホッチキスの針や画鋲を、創面の後ろに回り込ませる。
 時速200kmの攻撃。
 見ると、創面は体のあちこちに「プロテクター」を、
 ――加工した金属定規を巻きつけている。


 命中。
 鋭い金属音。
 ヒビの入る音。


 血だらけになる創面。
 それでも急所は「プロテクター」で守られている。
 かろうじて「数分」動ける程度のダメージ。
 それだけあれば、創面には十分だった。

 その間。その反動を利用して、創面は糸を手繰り寄せ、
 そのまま首までたどり着き――両腕を回す。

 創面の体を「操作」して引き離そうにも、
 不動の体は既にトーフ化が始まっている。
 少しでも衝撃を加えれば、壊れてしまうだろう。


 決着がついた。


「ハァ…あんたも、腹…減ったろ。」

「………ええ、そうですね。」


「今度、うちの豆腐を食いに来てくれよ。」


「……わかりました。」


◆ ◆ ◆


「あんの…馬鹿!」

 創面と色違いの、ピンクの三角巾がゆれる。
 創面と同じエプロンを、制服の上に羽織った少女が、雑踏を駆ける。

 右手には豆腐屋の笛。
 左手には大会のチラシを握っている。

「また、私に黙って勝手なことをして。……絶対に、許さん!」
 少女のチラシを持つ手に、力がこもる。


◆ ◆ ◆
第ニ回戦第ニ試合  勝者:日谷創面


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