肥溜野森長プロローグ

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dangerousss3

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プロローグ

そこは、大分の山奥であった。そこで一人の男と少女が対峙していた。いや、対峙と呼ぶのはやや不適切かもしれない。
なぜなら目こそ互いに向けてはいるものの、少女の方の目は虚ろで、虚空を彷徨って焦点が合っていない。対する男の方はと言えば、こちらはあらん限りの力で睨め付けているようで、瞬きすらしないように細心の注意を払っているようである。
更に男は先ほどから微動だにしないのに対し、少女の方は細かく身をくねらせては時おり苦悶の声を上げているのだ。
やがて少女の口から一言哀願の言葉が漏れると、
「お、お願い……もう……許して……なんでもしますからぁ……」
その声と同時に辺りに張り詰めていた緊張が解けるかのように、男は目をパチパチとしばたかせ、少女の目にも光彩が戻る。
「あ……れ……あたしどうしてこんな……あれ? さっきまでのは一体……」
「ぐふふふ……ジャスト一分じゃないけど……悪夢(ユメ)は……見れたのかな?」
不思議そうにぼんやりと辺りを見渡す少女に男がニヤニヤとしながら話しかけると、少女は驚いたかのように身体をビクッと震わせた。
そして、前方にいた男の存在を初めて認識したかのようにたじろぐ。
「あ、あんた……そうや、うちさっきまであんたと戦っとったはずやのに……なんか急におかしなことになって……」
そこまで言うとハッと口をつぐむ。顔にサッと朱が差した。
「……おかしなことになって……? それで……どうなったの? ぐふふ」
男が聞くが、少女は黙って男を睨みつけているだけだ。その顔をニヤニヤと観賞しながら、男は口を開く。
「……ぐふふふ。いいんだ。言わなくても分かるから。……君は……一番されたくない相手に……一番されたくないことをされ……そして……一番言いたくない言葉を言わされた……そうだろ?」
そこまで言うと、再び男は少女の顔を舐め上げるかのようにジロジロと目を向ける。少女はワッと泣き出した。
「も……もう……無理……ヒック……お嫁行けない……あんなこと言ってまったら……うちの……うちのこれまでの人生が……全部台無しになってしまったんやーーー! わーーーん!!!!」
地面にすがりついて泣く少女を満足げに見下ろすと、男はケータイを取り出した。
「あ……もしもし? 仕事、終わったんで……じゃあお金は例のところへお願いしますね。あ、それだけです。ぐふふ……僕、早く今の使って抜きたいんで……はい……じゃあ……」








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