バロネス夜渡SS(第一回戦)

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dangerousss

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第一回戦第八試合 バロネス夜渡

名前 魔人能力
伝説の勇者ミド おもいだす
裸繰埜闇裂練道 永劫
バロネス夜渡 ブラディ・シージ

採用する幕間SS
なし

試合内容

『ワン・セカンド・ビフォア・ザ・タヌキ』

戦闘開始のアナウンスと同時に、バロネス夜渡の視界が開ける。

見渡す限りの竹、竹、竹。
木漏れ日に鳥の囀り、葉のこすれ合う音と小川のせせらぎ。
これらのみが世界を支配するかのごとき静謐なる空間美。

これが全て紛い物であるとは、事前に知らされていなければ到底認識できないほどだ。

(竹林ステージって話だったわねー)

これが戦いでなければ格好の憩いの場であろうに。
バロネス夜渡は短く嘆息すると、自らのアフロに手を突っ込み、ナイフを取り出した。

手頃な竹を一本、ナイフで斬り落とす。
竹の倒される音が、静寂をぶち壊してゆく。

鋭い切り口の即席竹槍を造り上げると、その強さを確認するために手に押し当ててみる――
鮮血が竹に滴る。十分使用に耐える強度だ。

「とりあえず量産しちゃいましょうかね」

適当に十数本丈夫そうな竹を見繕い、容赦無く切り倒していく。

血塗れの掌を周りに擦り付けていくその姿は、さながら怪しげな儀式めいて映ることだろう。
竹林が切り開かれる音に、オナガの群れが飛び立ち、がなりたてる。

「生き物まで再現してるとは……どれだけ凝り性なのよ」

不意に飛び出す影。
夜渡が咄嗟に振り向くと、そこには一匹のタヌキ。大方今の音に驚いたのだろう。
ひょいと持ち上げ、撫で回す。

「毛並みとかもそれっぽいのねー」

しばらく撫で回していたが、ひょいと隙をみて腕の中を逃れると、どこかに逃げ去ってしまった。

逃げ去る方向を見やると、開けた空間。
遠くには小川も見え、ここがマップの中央部であることを示している。

「おおー中々いい感じの川じゃない」

しかし、のんびりと風景を楽しむ時間は、彼には与えられなかった。

不意に空気の重くなる雰囲気を感じ、身構えるバロネス夜渡。
遠目に映る、着物姿――兼石次郎に、相違あるまい。

先程の音でこちらの位置を把握しての接近であることは間違いなかろうが、あの動き。

奇襲や待ち伏せを目論むわけでもなく、悠然と歩いてくる強者の余裕。
正面からぶつかれば無事では済むまい事は、明らかだ。

高まる圧力に、動物達が逆方向へと走り去ってゆく。


「まあそっちがその気なら、やりようはあるのよ!」

竹槍を一本、槍投げの要領で全力投擲!
真っ直ぐに飛んでいったそれに、次郎は即座に反応して見せ、構えを取る。
手刀が竹槍の穂先を叩き落とさんという瞬間、急に切っ先が向き直り、角度を変える!

彼の一撃を回避し、隙を突いてボディを襲った『ブラディ・シージ』での不意討ちはしかし、
兼石次郎には通じない。
叩き落としを空振ったその右腕が反射的に軌道を変え、竹槍を横薙ぎで粉砕!
竹槍は最早原型を全く留めず、砂めいて風に舞う。


体勢すら、歩みすら変えず対応する次郎。何たる反射神経、集中力、パワー!

「ちょっと、そんなに余裕で対応されるとおねーさん凹むんだけど……」
あれが自分の身体に叩き込まれれば――彼は戦慄する。

尚も歩み寄る兼石次郎。
彼我の距離がじりじりと詰まる。

そしてその差が十メートルほどに達した辺り。
不意に立ち止まる兼石に、訝しんだ刹那。

「『永劫』」
叫びと共に、急加速する兼石。暴力的なまでの圧力が一気に跳ね上がる!

(避け――動けない!)

動きを物理的に止められている訳ではないようだが、動いても無駄だという意識に身体が支配されつつある……

これこそが兼石次郎、もとい裸繰埜闇裂練道の魔人能力『永劫』。
一秒の間、相手の動きを完全に止めてしまうほどの、強烈な発勁だ。
そして彼ほどの達人を前に、一秒もの静止は文字通り致命的だ!

迫る練道、動かぬ夜渡――

拳が振り抜かれる。必殺の一撃に、割れるような小気味よい音が響く!

錐揉みしながら、バロネス夜渡の身体が大きく吹き飛んだ。
空中で受け身を取るようによろよろ漂うが、さほど勢いを殺せぬまま竹藪に頭から突っ込む。


「うぬー。アフロがなければ即死だったかも」

倒れ伏したまま呟いた夜渡。
鼻血をスカーフで拭い、ゆっくりと起き上がった。

彼の身体には夥しい"切り傷"はあるものの、直撃はない。
『ブラディ・シージ』により操っていた竹達を割り込ませ、ダメージを軽減したためだ。
それでもなお粉砕した竹片のみで夜渡に多くの損傷を与えているあたり、攻撃の威力が窺い知れるのだが。


「……ふん、面白い」
久々のまともな相手に、兼石次郎は舌なめずりをする。


ゆったりとした足取りで、練道が夜渡の元へ近付く。
歩みの遅さは余裕だけでなく、能力使用時に出してみせた最高速を、より速く見せるためものだろう。
バロネス夜渡はそう断じる。
彼自身としてはせこせこ動いて徒に倒すまでの時間を早めてもつまらん、という思いもあるのだが、それは夜渡に分かるはずもない。

高空に飛び上がり、距離を置く。

打ち手が見つからぬ以上、迂闊には近づけない。
あのフィジカルに加え『永劫』なる能力、もっと近距離で使われればその時点で詰みかねない。

「今やれることは――」

上空から鳥瞰すると、竹々の間にセーラー服姿の少女が映る。
迷わず決断、彼女の元に向かう。





渡葉美土は、セーラー服に眼鏡の、外見は普通の女子高生といった風体だ。
装飾された額当てと、抜き身の剣がその印象を大きく覆していることを除けば、だが。

「アンタ渡葉ね! 話があるわ」

呆けたように夜渡を見上げる姿に、話を聞いているのか彼は不安になるが、剣を鞘に納めていく様子から、とりあえず話し合いはできそうと判断する。

「兼石次郎――アイツは化け物めいた強さよ……アタシでもアンタでも勝てないような。
だからアタシと組みましょ。当面、あの男を止めるのが最重要なはずよ、お互いね!」

しばしの無言。
渡葉美土が、鞘に手を掛け言い放つ。

「お前みたいな怪しい奴となんて組まない」
「あらそう! じゃあ好きにしなさい!」

いつもこうだ!なぜこうも他人に信用して貰えないのか!
自分の見た目は棚に上げ、夜渡は憤慨する。


「いいもーん勝手に上から援護してやるから」

美土に聞こえない声量で、バロネス夜渡は独り、呟いた。





「やべっ見失った」
竹藪内で追跡を巻かれ、夜渡は思わずこぼす。





次に発見した時は、既にミドと練道が相対している!
「ふんぬー疲れてきた!」
急いで飛び向かい、練道の真上辺りにつくと、ナイフを構え投げの姿勢を取る。

練道が動き出す。
ミドに向かい突進する隙を見計らい、ナイフを投擲!

しかし練道は、瞬く間に攻撃を終えている! 大きく吹き飛ぶミド!
あの様子では肉片と化していてもおかしくはない程の勢いだ。

ナイフは後ろ手に指で挟み込まれ、振り向いた練道が投げ返す。

尋常ではないスピードで、同じ軌道を逆向きへ飛ぶナイフ。
夜渡の肩口を貫くと、そのまま虚空へ飛び去った。

集中が乱れ、飛行安定が崩れる。
傷口を押さえ、必死に立て直そうとしているバロネス夜渡を、更なる脅威が襲う。
数本の竹を棒高跳びの要領でひん曲げ、空中の夜渡へと突っ込んできたのだ!

夜渡は身を捩りながら降下しかろうじて回避、練道はそのまま離れた位置に着地。
その勢いで地面が大きく窪む!当たればひとたまりもない所であった!

飛行に疲れ着地したバロネス夜渡に、既に練道は接近しつつある――
その距離は詰まり、既に数メートル! 確殺範囲だ!

「『永劫』」
冷酷なる発動宣言と共に、練道は拳を振りかぶっている。

夜渡の頭に、またも認識が強制されんとする。

動けない!

動けない!

動けない?

動け……

動け。

動け!

動け!!

動け!!!!!


「ザッケンナオラー!」


拳が迫り、そして――



練道の身体に、夜渡の拳がめり込んだ。

「何……だと……?」
練道の顔に、初めて狼狽の色が浮かぶ。

「オカマの気合い舐めんなオラー!」

間髪容れずに、強烈な回し蹴り!
脇腹を打ち付けた練道が、軽く吹っ飛ぶ!

一体何が起きたと言うのか?
『永劫』が気合いごときで破れる能力とは思えないが……

――そもそも彼、バロネス夜渡の飛行が気合いによる、というのは正しい認識とは言えない。

ただの魔人に、空など飛べる筈もない。
飛べるとしたらそういう能力者か、そういう種族の生物だ。
そしてバロネス夜渡は、前者である。

彼の『ブラディ・シージ』は血の触れた対象を操る……では、最も血に触れているものは?
つまり、彼自身の肉体――これを自由に操れるのだ!

これこそ、バロネス夜渡の飛行原理。
尤も、本人は気合いで念じれば飛べるとしか認識できてはいないのだが。

更に言うならば、これは飛行に限った話ではない。

例え頭が「動けない」と認識しようとも、意識が残っているならば自らの全身を無理矢理に駆動させる事が可能!

体勢を建て直そうとした練道に、右ストレート!
しかし練道は崩れた姿勢のままそれをかわし、稲妻めいた正拳突きで反撃!

一瞬回避が間に合わず、顔に痛烈な打撃がかすめた。
勢いで膝を折る夜渡に二撃目が迫るが、夜渡は能力(きあい)で強引に回避!
大きく後方に飛び退き、事なきを得る。


「光栄に思え」

練道の声。

「お前が初めてだ。俺の『永劫』を破り、一撃を加えたのは」
精悍な顔に一瞬笑みが浮かんだが、すぐに仏頂面へと戻った。

「――だが、この裸繰埜闇裂練道と比べて、お前の体術は未熟極まりない。
少しは心得があるようだ。だが、所詮は付け焼き刃。
俺を満足させるには不足だな」

「言ってくれるじゃあない。……長ったらしい名前ねアンタ」

しかし練道の発言は尤もである。
バロネス夜渡は肉体強度こそ自信があるものの、正式な武術の心得があるわけではない。

「でも別に、アタシは格闘家と違うもん。アンタの土俵で戦う訳じゃあないからねー!」

指を鳴らすと、十数本の竹槍が夜渡の周りを囲むように展開する。
『ブラディ・シージ』の真骨頂、大量の武器による包囲戦術だ。

それを見るや否や、練道が突撃する。
包囲の及ばない至近まで迫り、格闘で叩き潰すつもりだろう。

夜渡はそれに対し、自らも無謀にも前進する!
二人の身体が接触しようかという距離まで接近した、その瞬間――
血に染まったスカーフが首元から離れ広がり、練道の視界を奪う。
一瞬ながら生まれる、攻撃の遅延。

直後、突如夜渡の腹部から突き出た竹槍が、練道の身体をも貫いた。

相手の死角――自らの背後から、自分ごと串刺しに!
その一撃を皮切りに、次々と飛び込む竹槍!

槍衾が二人の肉体に容赦無く襲い掛かる。
迎撃の構えをとろうとした練道を抱き締め、相討ち覚悟の自爆技に打って出たのだ。

「ふふ……アンタに抱きつけるなんて役得ね」
「下らん真似だな」

抱き締められたままの状態で、強烈な頭突き!夜渡の頭部からどくどくと血が流れる!
迫り来る竹槍を、半ば封じられたままの手で掴み止め、夜渡の脚に突き入れる!さらに流血!
再び迫る竹槍を、身を捩って回避、目標を逸した竹槍がバロネスの身体を抉る。さらに流血!
さらに追撃!さらに流血!

幾度と無く繰り返される攻撃は、徐々に、夜渡側のみを一方的に削ってゆく。
ついに腕の拘束が外れ、夜渡の体がその場にずるりと崩れ落ちる。
最早死に至るレベルで流血した夜渡。その血は、練道の全身をも返り血で真っ赤に染め上げている。

血――?


止めの一撃を加えようとした彼の、動きが俄に鈍る。
手刀が夜渡に達するかという瞬間、練道の動きは完全に止まった。
直後操り人形のような不自然な動きで練道の体がゆるゆると動き始める。

バロネス夜渡の返り血をしこたま浴びせられた彼の体は、血により支配されつつあるのだ!

ナイフを拾い上げ、自らの身体を切り刻もうと動く腕。

「ふん!」
その動きが一旦止まる。
気合いだけで、操作から逃れようとしているのか、小刻みに全身が震えている。

「やべっ血ちょっと足んなかったかな」

周りの竹の残骸全てをかき集め、練道の身体に纏わりつかせる。
しかし大した量ではない!
夜渡は記憶を頼りに、ありったけの血を付けた物を思い起こし、それを飛来させる。
小石から雑草と言った有象無象が続々と飛び来て、練道に向かっていく。


そして最後に飛び来るのは――タヌキ!
血のついたボディを練道に擦り寄せ、更に夜渡の血をなすり付けていく――
見た目は滑稽だが、この状況では強烈なだめ押し!

この物量に、再び練道のナイフを持つ手が、自傷の動きを始める。

「『ブラディ・シージ』で、身体をばらばらにしておしまい」
「この狸め……」

どちらに向けた言葉とも分からぬ声をあげた練道。

振りかぶられるナイフ。
刃が体に入った刹那、悟ったような表情を浮かべたかと思うと破顔し、哄笑する。

「ふん。中々に楽しめたぞ!」

それが、彼の最後の言葉となった。





大の字に寝そべりながら、バロネス夜渡は空に言葉を投げ掛ける。
「おーい。窒素ちゃんだっけ。
そろそろおねーさん帰りたいんだけど、帰って休みたいんだけどー」

《……何を勘違いしているかは知りませんが、まだ戦いは終わってはいませんよ?》
呆れたような声が帰ってくる。

「えー次郎ちゃんはもう動けないでしょ! 殺すまで殺んなきゃダメー?」
《はい。兼石選手は脱落しました。ですから、バロネス選手と渡葉選手の一騎討ちですね》

ぱきり、といった乾いた音。
踏み折られた竹の響かせる音に、彼は顔を上げる。

苦笑しながら、
「狸寝入りとは……中々強かね勇者様」

渡葉美土の姿が、そこにはあった。





練道の一撃を受けた筈の彼女が無事――それは彼には信じがたい事実であった。
如何にして即死級の攻撃をあの華奢な身体で耐え抜いたのであろうか?

夜渡には知る余地も無いが、ミドの無事は偶然であり、必然であった。

普段の相手とは違い、おおよそ戦闘員とは思えぬ肉付きの彼女に対し、練道の無意識下でほんの幾ばくかの、手加減を試そうという邪な思いが混じったこと。
美土が防御に構えた伝説の剣"まるごし"諸共打ち砕き、その衝撃で彼女ごと仕留めようとしたがため空振り、直撃を免れたこと。
これらが相俟って、拳圧で吹き飛ぶだけのダメージで事なきを得ていたのだ。

だがそんなことを知る由もないバロネス夜渡にとって、その生存は疑問でしかない。

(まさか能力内容は真っ赤な嘘で、ホントは別能力隠してるとかじゃないでしょうねー)
真正面から突進してくるミドに対し、生まれた躊躇が対応を遅らせる。
能力のために辺りの物に血を付ける余裕はない!

急いで立ち上がり格闘で打ち破る構えを取ろうとするが、

「『永劫』」

その声に思わず練道を見やる夜渡。
明らかに違う声音におかしい、と向き直った時には、ミドのナイフが眼前まで迫る。


「ドッソイオラー!」

敢えて掌で受け、返す蹴撃。半ば反射じみた対応である。
ミドの次なる剣撃に、慌てて脚を引き戻す。
手に刺さったナイフを、能力で引き抜く。
そのまま180度回転したナイフが、持ち主の命を狙う――
ミドは冷静にバックステップ、小川の深みに飛び込む!
遅れて、ミドのいた場所にナイフは深々と突き刺さった。

「ペテン好きねアンタ。正義の下、正々堂々~とかないの?」

バカにしたような、挑発的な笑みを見せるミド。
「それ騎士と勇者ごっちゃにしてない?」
「あー、それはあるかも。そういやアンタらタンスとか漁る人種だったわ」


水に浸かったミドの制服は濡れ透け、下着が露になるあられもない姿だ。

女子高生のそんな様子に心奪われぬ男はいまい、と言いたいところだが、バロネスはその格好に何ら興味を覚えることなく溜め息をつく。

「もー。年頃の女の子が、はしたない」

ぱんつを指差すミド。
「欲しい?」
「要らないわよそんなの。アンタこれ放送されるんだから、映っちゃう前に降参しときなさいな」
「おっさんそんな作戦とるつもりだったの? キモーイ」
「このガキ、レディーに向かって何て暴言ー!」

怒りに任せて『ブラディ・シージ』で攻め立てようとして、思い止まる。

彼女の立ち位置、それは川のど真ん中。そしてその場所は――

「流れ水が苦手なんでしょ、バンパイアさん」
「ぬぅー!」

バロネス夜渡は別に吸血鬼というわけではない。
しかし、彼は小川に佇むミドに対し、効果的な攻撃はとれない!
流れ水が血を洗い流し、支配を拭い去ってしまうためだ。


小川に浸かっている彼女も身体が冷え切っていくであろう事から長居は出来ないだろうが、
持久戦の選択肢はありえない。
現在進行形で流血中の身の方が、どう考えても待ち戦術を採れるわけがない。

全て計算尽くでの動きだろう――夜渡は自らの油断を恥じるとともに、彼女に対しちょっぴり手心を加えよう、という甘温い感情をかなぐり捨てる。


そして今、自らに残された手は――

「全力突撃!」
地を蹴りだし、正面にミドを見据える。

剣を正眼に構える彼女の方が、明らかにリーチに優れる。
夜渡は構わず前進し、両腕を振りかぶる。
腕を斬られても斬られた手先で殴りにいけばよい、その決意の下での特攻戦術!

まあ決意といってもよく考えれば死んでも復活させて貰えるのだから、両腕捨てるなど何の躊躇いもなく出来ることではある。


ミドも冷静に状況を把握すると、脚で水を跳ね上げ、伝説の剣を横薙いだ。

突き出された両腕に、水飛沫がかかり。
肘下辺りを、刃が迫る。

過たず両の腕を捉えたかに見えた伝説の剣"まるごし"は、そのまま敵を通り過ぎ――

「「え?」」

強烈な二重撃が、かよわい女子高生へと突き刺さった。





起き上がる様子のない少女。
彼女を睥睨する真っ赤なオカマ。

「あり? 何が起こったのか分っかんないけど勝てば官軍。
この高貴なる夜の女王に血を捧げられた事を光栄に――
あ、そういや失血しまくってたんだ……」

頭を抱えながら、その辺の竹にもたれ掛かる夜渡。

竹がバキバキと折れ、無様に頭を打ち付ける様を、タヌキだけがじっと見つめていた。


第一回戦第八試合勝者――「バロネス夜渡」





《――こちらリョーゴク、何という番狂わせ!
場内、未だにザブートンが乱れ飛んでおります! 実際危険!
バカ!ウカツ!といった罵声も鳴りやみません!
優勝候補の股の海、スモトリ・ニュービーの狸山にまさかの敗北!初黒星となりました――》


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