小波漣SS(第一回戦)
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dangerousss
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第一回戦第三試合 小波漣
名前 | 性 | 魔人能力 |
日谷創面 | 男 | アゲンスト・トーフ |
小波漣 | 女 | 勝利へのイメージ(マイ・ドリーム) |
熊野ミーコ | 女 | 隠れクマノミーコ |
試合内容
「今回は当トーナメントにご参加いただきありがとうございます。それでは、フィールドの説明をさせて頂きます」
女神による軽い説明を聞いた後、質問はないか、と言うことを尋ねられた。個々に対応でしるので、質問は他の相手には聞こえないということだ。
質問ではないが、漣は結昨日舟からの伝言を伝えた。
「……ありがとうございました。なるべくあのおじさんに近寄らないようにします。蜂の巣にされたくないので」
あきらめてキャプテンと呼べばいいのに。
「他に質問はないようなので、私の出番はこれで終わりです。あとは、窒素さん宜しくお願いしますね」
別の女性の声が聞こえる。どうやら、彼女が窒素と呼ばれた方らしい。
「えーそれでは、試合開始、及び試合終了は、私、斎藤窒素が行います。また、皆様のうち誰か一人が敗北条件を満たした場合も、その旨をご報告します。それでは……」
窒素が大きく息を吸う音が聞こえる。
「試合開始ッッッ!!」
鼓膜が破れるかと思うほどの轟音が耳を貫く。そのせいで、漣はしばらく耳を塞いだまま動けずにいた。
耳の痛みが引いてきた頃、漣は再びマップを広げた。彼女の居る第六フロアより上のフロアは屋上とその下以外は客室だ。まずは大体の構造を把握したいのだが、細かいところは実際に見ないとわからない。故に、索敵しながら探すのが良いという結論に至った。
となれば、客室は後回しにすべきである。一つ一つ見てまわるのも面倒だし、うまく行けば先手を取れるかもしれないが、行動音で相手に自分の場所を知らせてしまう可能性がある。ならば、アミューズメント施設から回るのがいいかもしれない。
では、上と下のどちらを先にするのがよいか。これは一分ほど迷って、上に行くことにした。上ならば、建物を崩す能力者などがこの客船を破壊しても生き埋めにされないというのが理由だ。
エレベーターを使い、最上階へ向かった。最上階はテニスコート、ゴルフ場、フィットネスクラブ等の運動用施設から、サロンやスパなどの美容施設が揃っている。これらも普段の漣には縁がないので、やはりあれこれと観てしまうものだが、本来の目的も忘れない。
どうやらこのフロアに敵はいないらしい。漣以外は人っ子ひとりいない。大丈夫だろうと漣は下の階へ移動した。
階下に降りると、大きめのプールがあった。泳ぐのに不便はしなさそうなくらいには広い。既に水が張ってある。もし水着を持ってきたら泳ぎたいところなのだが生憎持ってきていない。
このフロアの前方部、パームコートを確認に行く。ここのような自然物があるところは隠れやすいため、要注意である。しかし、ここにも特に何もない。骨折り損だった。
中央エレベータ近くのプールはどうか。むこうのプールにいなかったのだから、こっちにもいないだろうとたかをくくっていた。が、案外簡単に対面することとなった。トライデントバーのど真ん中の席に中々端正な顔立ちの男が座っており、ホットドッグを食べている。
漣がその男を注視していると、ホットドッグを食い終わったその男は漣に気づいたらしい。間髪入れずに話しかけてきた。
「あんたが俺の対戦相手か? いや、そうだろうな」
突如席を立った男が漣に近寄ってきたので、漣は少し後ずさった。
「落ち着け、何も俺はあんたをとって食おうってワケじゃあない」
手を出さない、という意思表示だろうか。両手を上げてその場に立ち止まった。
「ここでやりあったって、残りの一人に横槍を入れられるのが関の山だ。生憎、俺は戦闘向きじゃないからな、できれば二対一で戦いたい。見たところ、あんたも戦闘向きじゃなさそうだ。まあ、それも能力次第だが――」
男は手を上げながら、漣がいる方向に向かって歩き出す。信用すべきかはまだわからない。だが彼の発言にも一理ある。漣も戦闘向きの魔人ではないし、能力も制約が多く面倒極まりない。
「手を組む、ということですか?」
「そう言ってるんだよ。俺だって開始してすぐに死にたくはない。それはあんたにも悪い話じゃ
ないだろう。」
漣は顎に手を当て思索し始めた。この男がどこまで事実を言っているかわからないが、少なくとも戦闘向きではないという発言は事実だろう。たとえ魔人であっても腕力の強さは外見に現れるため、彼の華奢な体格から力自慢ではないことが窺える。無論、魔人能力で隠してるともなれば別の話だが、その可能性も低そうだ。
しかし、残り一人が何者かがわからないなら、いっそ手を組んだほうが良いのかもしれない。それに、ここで別れて単独行動をしたところで勝てる保証もない。
漣は頭を上げて男の顔を見た。
「腹は決まったみたいだな。一応、答えを聞いておくか」
「単独行動よりはマシですから……手を組みましょう」
「そう言ってくれると助かる。宜しくな」
男は安堵の表情を見せた。
「手を組むんだから、ここは名乗っておくべきだな。俺は日谷創面。日番谷冬獅郎の『日』と『谷』に、創価学会の『創』、そして奇面組の『面』だ。あんたは?」
どうして奇特な例を挙げるのか、とツッコミを入れたくなるラインナップだ。
「私は小波漣です。苗字名前共に『さざなみ』と訓読みできる字です」
「わかりにくいな」
お前に言われたくない。
漣は少し不愉快そうな顔をした。
「能力は……一応、言っといたほうがいいのか?」
「そうですね、一応お願いします」
創面が近くのテーブルを掴むと、掴んでいた部分が忽ち豆腐のように崩れ去った。
「俺の『アゲンスト・トーフ』は、触れた者を豆腐並の脆さにする能力だ。色々と応用が効くんだが、不便な面もあってな……こういうことはあまり言わないほうがいいかもしれんが、俺から頼んだんだ。これくらいはしてしかるべきだろうな」
創面は再び頭を掻いた。
「あんたの能力は……言いたくないなら言わなくてもいいぜ。覚えるのが面倒だ」
最後は本音か冗談か、しかし漣としても正直説明するのが面倒なのでこれはこれで好都合だ。説明したところで理解されるかも怪しいけれど。
「とりあえず、なにか武器になりそうなものを探してきます」
「武器? こんなところに武器なんてあるわけないだろ」
「大丈夫です。その気になればモップだって武器になりますから」
というわけで、スタッフオンリーと書かれた部屋に向かった。鍵がかかっていたため、創面の能力でドアを破壊し中を詮索する。
「まあ、予想はしてましたけど大したものはないですね」
「当たり前だ。何を期待してたんだ」
「対テロ対策と称してワルサーPPKとかデザートイーグルだとかが隠されてたら嬉しいんですけど、ありませんかね」
「何を言ってるのかわからん」
半分本気で銃の所在を探したものの、成果は上がらなかった。仕方がないと思いつつ漣は武器替わりのデッキブラシを手にとった。
「そんなんでいいのか?」
「いいんですよ。ビバップの劇場版でスパイクがかっこ良く使いこなしてましたから、このモップはれっきとした武器になるんです」
モップとデッキブラシを勘違いしているが、指摘するのは無粋だと思い創面は黙っていた。
とりあえず準備はできたので、漣は創面と行動を開始した。下四階はすべて客室なのだが、一つ一つ確認するのが億劫なためすっ飛ばして第五フロアへと移動した。
このフロアは、主に映画館や図書館などの施設の他、ショッピングを楽しむ店等が多々ある。
つまり、物が多いため隠れるにはもってこいの場所である。
「どこから探しましょう」
「ああ、とりあえず……」
創面が口を開きかけた瞬間、何かヌメヌメしたものが創面を吹き飛ばした。
襲撃した方向を見ると、10メートルほど先にテカテカした触手の塊が「てけり・り……」と啼いている。次は漣を狙うだろう。
それを理解すると、その触手の塊から目を離さないようにしながら創面に近づいた。創面には大して外傷は無く、まだまだ余裕で動けるらしい。
漣はこの時点で能力を発動した。後は二十分間どうにかして時間稼ぎをするだけだ。
「あれが例の三人目、でしょうか」
「たぶんな。しかしなぜさっきから攻撃してこな……」
と言いかけて、創面は何者かにノックアウトされた。彼はこの時能力を発動し続けていたため、普通ならノックアウトされてもおかしく無い攻撃でも辛うじて意識を保っていた。
何者かに攻撃された創面を見て、漣は透明になる能力者がいるのだろうとすぐに理解した。俊敏に後退すると、目の前で空を切る音がした。持っているデッキブラシで目の前の何かを突くと鈍い呻き声が聞こえたが、お構いなしに攻撃を加える。何発か加えると空中でデッキブラシが静止した。動かそうとするも、動かせない。どうやら、掴まれたらしい。
すぐに逃げようと思ったが行動を起こす前に頭部を殴打された。拳ほどの硬さではないため、おそらく蹴りを食らわされたのだろう。
即座に身を翻し、目の前の見えない敵から遠ざかる。足音を頼りにおおよその距離を測り、機を見計らって例の催涙スプレーを前方の広範囲に噴射した。
上手いこと顔に当たったらしい。その証拠に、スプレーの粉末が頚と下顎の形に赤く張り付いている。直後、「イエアアアアアア」とトチ狂ったような叫び声が耳に侵入してきた。カプサイシン入りの催涙スプレーは、普通の催涙スプレーとは比にならないほどの痛みが走る。辛さイコール痛みなので、純粋なカプサイシンが皮膚に触れるとどれほどの痛みを引き起こすか、想像しただけで嫌になる。
透明の敵は、ドタドタと激しく音を立てながら逃げていく。それを追っていくうちに、その透明化が解け、終にその姿を表した。
百六十センチ弱の少女――彼女の名は熊野ミーコという名前なのだが、漣がそれを知るのは恐らくこの戦いが終わってからになるだろう。
彼女の後を追っていくと、例の触手の塊が見えた。追うべきか追わざるべきか迷ったがここは退くほうが良いのかもしれない。逃げていく熊野は例の触手――ヰ・ソノ君という名前があるが、それを知るのは試合終了後になるだろう――の中に飛び込んだ。
あれで身を守っているのだろうか、と考えるとヰ・ソノ君はノロノロと動き出した。今まで全く動いていなかったところから鑑みるに、あれに乗ることで操作できるのだろうと推測した。その操作方法など、想像もつかないが。
「どうします?」
あまり事態が把握できていない創面に尋ねる。
「三十六計逃げるに如かず……って言うよな」
それだけをつぶやくと、二人同時に船の後方へと逃げ出した。
「大丈夫でしたか?」
あの動きの遅さなら走ればすぐに逃げ出せると考えていて、実際すぐに逃げることが出来た。あとは、射程の問題もあるだろう。
「ああ、問題ない。まさか、敵があんな女の子とはな……少しやりづらい」
「あまりそういうことは考えないほうがいいですよ」
彼らの後方から、壁の破壊音がする。恐らく、熊野ミーコが迫っているのだろう。
だが、漣は敢えて立ち止まった。
「日谷さん、どれくらいの範囲を、どれくらいの時間豆腐化できます?」
「え? ああ、だいたい車くらいの広さならいけるし、最大一分くらいは持つが……」
「それくらいあれば十分です。この床を、最大限広く豆腐化してください。もちろん、相手が居る方に、ですよ」
「二十秒くらいかかるが、いいか?」
「それくらいなら追いつかないでしょう。たぶん、あれほどの大きさだとせいぜい早歩き程度の速さしかないと思います」
「わかった」
創面は床に手を付けてしばらく静止している。傍から見れば何かに屈しているようにしか見えないためとても滑稽なのだが、今は誰も笑うものはいない。
ヰ・ソノ君の姿が見えたところで二十秒ほど経ったので、すぐに逃げ出した。背中から何かが突き破られる音と共に「てけり・り! てけり・り!」という啼き声が聞こえた。
成功した、と確信しながら後方エレベータにたどり着いた。
「とにかく、階下へ降りましょう。そこに私の目的のものがあるはずです。そこで作戦も伝えるつもりです」
エレベータを使うべきかどうかと考えたが、どう考えても階段を使用したほうが早く着けるので、階段で下に降りることにした。
階下にあったのは射撃場だ。このユキノマリーンの特色としてはこの射撃場が存在するということが一つあげられる。壁は防音加工がしてあるため、騒音のクレームも少ないという。
「あ、M9(ベレッタM92)だ! 世界有数の有能な拳銃だがらあると思ってたけど、やっぱいいですねー。面白みがないしちょっと時代遅れですけど」
射撃場に入るやいなや、そこにある幾多の銃に飛びつく漣。このあともワルサーPPKがどうだのグロックがこーだのと散々に言い散らした挙句、彼女は50口径のデザートイーグルを選択した。
理由はいたって簡単、二丁拳銃がカッコイイからである。「50口径のデザートイーグルで二丁拳銃とかアホだろ」とか言ってはいけない。デザートイーグルの二丁拳銃はロマンである。ではなく、彼女の能力を以てすればポンコツの銃でない限り基本的に当たるため、威力が高いのを選んだのだ。
個人的にはスタームルガーMKiiiの方がデザイン的にもカッコイイと思うのだが、無駄に重くてゴツい50口径デザートイーグルのほうが彼女には好みらしい。
威力ならS&WM500のほうが圧倒的に上なのだが、残念ながらこの射撃場には回転式拳銃(リボルバー)はない。サプレッサーが使えないということが置いていない理由の一つなのだが、こういう時にないのは最悪である。
もっとも、そんなことは創面にはさっぱりわからない。彼のような銃の知識など無い一般人には自動拳銃なんてどれも同じにしかみえないし、二丁拳銃の大変さなどわからないだろう。
「なんで最初から来なかったんだ?」
創面は当然の疑問をぶつける。
「少し考えればわかりますよ。ここはマップにも載ってるんですから、待ち伏せされてたら意味がありませんよ。幸運なことに、第五フロアに彼女がいたから大丈夫だと思ったんですが……」
「なるほどな。それはわかった。だがこんなことしてて大丈夫なのか? 相手がこの間に襲撃してきたら……」
「『佯(いつわ)り北(に)ぐるには従うこと勿かれ』ですよ。どう考えても戦術的撤退なのに追ってくる間抜けなんていませんよ。それに、彼女も同じ事を考えてるでしょう」
「だといいけどな」
「さて、戦闘準備もできたことだしそろそろ行きますか?」
もうすぐ能力を発動して二十分になる。
「いちおう、日谷さんもこれを護身用に持っておいたほうがいいですよ。威力は弱いですけどその分反動も弱いため、命中させやすいですし」
と、手渡したのはスターム・ルガーMkiiである。弾倉(マガジン)が抜いてあるのは、今現在、漣が.22LRを込めているためである。
「消音装置も組み込まれてるので奇襲向きですよ」
「そういう問題か? まあ、一応あるに越したことはないけどな」
「ああっ、こちらに銃口を向けないでください。今はマガジンを抜いてあるからいいんですけど、弾が入ってる時は敵にしか向けちゃダメです」
「あんたも一応敵なんだけど……まあいいか」
何を考えたのか、創面は突然服を脱ぎだした。弾倉に.22LRを込めていたため、漣は最初気づくことが出来なかったが、込め終えて渡そうとしたときには海パン一丁になっていた。
「な、な、何をしてるんですかっ!」
顔を真っ赤にしながら目を背ける。
「まあ、落ち着け。俺の能力は触れた部分を豆腐化する能力だってのはさっきも言ったな? だが、それは手だけじゃなくて体全体もそうなんだ。だから、どこから攻撃されてもいいようにってことでこうしてるんだよ。いわば戦闘スタイルだ」
理解はできるが納得はできない。しかし、そういう事なら我慢するしか無いのだが同年代の男子(主に高校に入ってからだが)の裸を見たことがない漣には直視するのは難しい。
「……わかりました。そういうことにしておきます」
気にしたら負けだ、と思った。
作戦を伝えた後、前方部のエレベータのそばにある階段から第五フロアに戻る。先ほどの豆腐化した床は、下の階に貫通しない程度に凹んでいた。それは、既に抜け出していたということの証明でもある。これを確認した後に、前から行った。
既に二十分立っているため、彼女の能力は既に効果を発揮し始めている。まず第一のイメージは、第五フロアのヰ・ソノ君への奇襲から始まる。余程のことがなければ、成功するだろう。
当然のことながら成功した。おかげであの目障りな触手を一本吹き飛ばすことができたのだ硝煙の匂いが鼻をくすぐる。耳が痛いのは、我慢する。
そして第二のイメージは、次に来るであろう触手攻撃を迎撃することだ。というより、もう
一本吹っ飛ばすことだ。
「ヰ・ソノ君の触手を吹っ飛ばすなんテ! なんて最低な売女なノ!」
「てけり・り!」
触手をふっ飛ばされたことで激怒した熊野ミーコであるが、かなりのタフネスを誇るヰ・ソノ君の触手を吹っ飛ばすなど考えもしなかったため、同時に驚愕を禁じ得なかった。
相手とはおよそ九メートルほど離れている。射程距離ではあるのだが、あくまで弱い攻撃の話だ。強めの攻撃は基本的に近くでないと意味が無い。無論、そんな攻撃がないわけではない。
しかし、その攻撃は隙が大きい。激情に身を任せ放った攻撃は、無残にも触手をもう一本吹き飛ばされるだけに終わった。
ちなみに、この時漣は第二のイメージを満たした。
「な、なんテ女なノ……」
「てけり・り……」
「こうなったら、あれを使うわヨ!」
次の瞬間、ヰ・ソノ君の目から謎の光が放たれた。これは一時的な目眩ましなのだが、ヰ・ソノ君に照準を絞っていた漣には、十分なダメージだった。
「今ヨ、ヰ・ソノ君! やっちゃいなさイ!」
「てけり・り!!」
「勝ったッ! 第三部完!」
と、意気揚々と攻撃を仕掛けようとしたが、後ろから彼らは無音の凶弾を受けた。彼らの背後の敵は、日谷創面その人だ。
第三のイメージは、「挟み撃ちの形になる」ことだ。彼女のイメージの『補正』によって、射撃の技術が大してない創面でも、命中させることができた。もっとも、スタームルガー程度では触手は吹き飛ばせなかったが。
「くッ、まさか背後からくるなんテ……!」
「てけり・り!」
彼らがルガーを構えた創面に気を取られているうちに、漣は再びヰ・ソノ君に照準を合わせる。この時既に、彼らとの距離は五メートル程度までに縮まっていた。
第四のイメージ。創面に気を取られているうちに、中の人ごと撃ちぬくという。もっとも、これは創面の能力を使うこと前提だ。
しかし、まだ視力は完全に回復していない。所詮目眩ましにすぎないので比較的早く回復するのだが、もうしばらく待つ必要がある。
一方の創面はそんなことも知らずに、ヰ・ソノ君に接近する。無論捕まることは作戦のうちなのだが、それで成功出来なかったら意味が無い。
「今のは少し痛かっタわ。これでも喰らいなさイ!」
今度は身体が光った。この光にたいして目眩ましの効果はないが、集中を切るくらいのことはできる。
創面が見失った、と思っていると、上からそいつはやってきた。天井が低かったこともあり、大して飛距離が伸びなかったため彼の目前にヰ・ソノ君は落下した。
これは好都合、とばかりに再びルガーを構える。だが、撃つ前に触手によって締め上げられてしまった。そして、高く持ちあげられた。
「フフフ、存分にいたぶるわヨ、ヰ・ソノ君!」
「てけり・り」
しばらく抵抗を試みたが、彼の力で振りほどけるほど触手はヤワではない。
「さて、どこかラいたぶってほしイ?」
結局、身動きが取れないまま締めつけられる創面。彼の手から、ルガーが落ちた。
「てけり・り、てけり・り」
二人共楽しそうにいたぶっているときに、背後で一発の銃声が響いた。
「……エ?」
そう、彼女らの後ろに密着していた漣がヰ・ソノ君の体ごと熊野ミーコをぶち抜いたのだ。銃声は一発では終わらない。彼女のデザートイーグルには、まだ四発残っている。それをすべて、中のミーコに向けて放った。当然、中がどうなっているのかなど想像に難くない。
二人の作戦はこうだ。創面が囮になり、ヰ・ソノ君に締め上げられる。そこで、能力を使い、ヰ・ソノの身体を豆腐並みの脆さにしたのだ。
いかにデザートイーグルといえど、あの触手を破壊するだけならともかく貫通させることは難しい。だからこそ、創面の能力が必要だったのだ。目眩ましさせられていたために敵が油断していたというのも理由の一つだ。
絞めつけられていた創面は、自力で脱出した。豆腐並みの脆さの触手なら、いともたやすく破壊できる。
柔らかくなっているヰ・ソノ君を創面はたやすく踏みつぶす。
「これでもう奴も動けないだろ」
「ありがとうございます。死体を見る限り頭部は撃ち抜かれてますけど、一応死亡確認の放送を待ちましょう」
そう言いながら、創面の後ろで密かにもう一方のデザートイーグルと持ち替えている。
「えー、ここでお知らせです。只今、熊野ミーコの死亡が――」
放送が終わる前に、一発の銃声が響いた。そして、日谷創面はその場に倒れる。
最後のイメージ、それは、日谷創面の殺害――
最後のイメージ、それは、日谷創面の殺害――
今度は完璧に大脳を撃ちぬいたのだ。即死である。
「ごめんなさい、日谷さん。悲しいけどこれ、戦争なのよね」
その「ごめんなさい」は、謝罪か弁明か――彼女にもわからない。それをごまかすように、かの名台詞を吐いた。
どうせ、終わったらゲームみたいに生き返るんだ。落ちているスタームルガーを拾いながら自分に言い聞かせた。
その「ごめんなさい」は、謝罪か弁明か――彼女にもわからない。それをごまかすように、かの名台詞を吐いた。
どうせ、終わったらゲームみたいに生き返るんだ。落ちているスタームルガーを拾いながら自分に言い聞かせた。
イメージ執行完了―――
「では二人共……あっ、もう終わったみたいですね。えーと、小波漣さん、おめでとうございます。えー、それではダンジョンから帰還します。しばしお待ちください」
かくして、第一回戦は終了した。