円安には賛成だが、日銀の大型金融緩和がまだ実行されていないのになぜ今円安?
このままでは、日銀の介入は実行できなくなるのでは?

 円安には賛成である。アベノミクスの理論も正しいと思う。安倍総理の毅然としたスピーチや姿勢にいささか感動と言えるようなものを感じながら、この人だったら間違いないという思いにとらわれそうになりながらも、一抹の不安が心の片隅をよぎる。日本を取り巻く諸外国(特にアメリカ)の圧力は予想を超えて大きいのではないか。一市民が心配してもしかたがないのかもしれないが、とてつもない何かが日本の首を絞めようと虎視眈々と窺っている。そんな不安である。
 私は金融・経済の専門家でもなければ、歴史家でもない。数学がちょっと好きな理系の学者もどきである。ちょっとばかし統計をかじったり、プログラムを作って喜んだりしているアホ人間である。この素人丸出しの私から見ても日本の金融は近年おかしくなっていると思っていた。おそらく、多くの人がなんか変だと思っていてもそれが何か解らなかったと思う。ネットやマスコミさらに様々な書物を眺めたりしても、言っていることがそれぞれ全く違う。何が真実なのか調べれば調べるほど解らなくなってしまった。誰かが大嘘をつき、真実から目を逸らすための撹乱を組織的に行っているのではないかと思うようになってしまった。とにかく、これでは埒があかない。自分できちんと調べてみよう。そう決心し、リーマンショック以降のアメリカを中心とする世界の歴史を辿りながら、真実は何かを探ってみることをこれから行っていこうと思う。ただし、先ほど述べたように、私はこの方面の素人なので、間違っている可能性は非常に高いことを最初にお詫びしておく。これから述べる私の推論(もしくは単なる想像)を信じる信じないは読者の勝手であり、それによって被害を被っても、私に何の責任もないことをここで申し述べておく。

1.リーマンショックの経緯と世界同時不況からの各国の対応

 2007年頃、アメリカの住宅ローンの中でサブプライムローンと呼ばれる信用のやや落ちる貸付制度が突然破たんする騒ぎが起きた。そして、2008年アメリカニューヨークに本拠を置くリーマンブラザースと言う大手投資銀行が倒産した。そしてこれが引き金となって世界中を震撼させたリーマンショックとよばれる世界同時不況が勃発した。世界同時不況の原因はリーマンの倒産ではなく、その後のアメリカの取った政策にあるという意見もあるが、引き金になったのはサブプライムローン問題である。この問題がアメリカだけの問題であればよかったのであるが、リーマンブラザースを中心に(本当にリーマンが中心であったのかどうかはいささか疑問があるが)アメリカの大手証券会社や大手投資銀行らが、サブプライムローンの貸付リスクを細かく分割し、リスクが小さい他の有望証券と抱き合わせた新しい証券を世界中に売りさばいたために、問題が世界中に広がってしまったのが事の発端である。(このリスク回避の手法を編み出したのが新自由主義と呼ばれる人たちであったと思うがこの辺はかなり曖昧である。ともかく、新自由主義と聞くと私は恐怖してしまう。)このサブプライムを含んだ証券が暴落し、続いて株の大暴落が起きた。世界中の多くの銀行が倒産したり、その煽りを食って多くの企業が連鎖倒産という事態となった。幸いにも、日本はバブル崩壊後の病気だったのでこの悪魔の証券を購入した企業は少く、影響は小さかった。(世界同時不況の影響は後になって日本にもダメージを与えたが、)実はここに落とし穴があったとみるべきである。日本はリーマンショックの影響が少なかったため、この時点でアメリカを中心とするリーマンショック被害国同士の共同作業に参加できなかった。日本だけつんぼ桟敷に置かれてしまったと見るべきではなかろうか。アメリカを含む被害国は何を計画したかである。バブル崩壊後に日本が行ったように、多くの銀行を救済するべく各国政府が膨大な量の資金を投下した。しかし、日本は税金を投下したため赤字国債を発行したが、各国政府の資金投下は税金ではなかったのではないか。見せかけ赤字国債を発行したかのようにして、その国債を各国政府が購入するふりをしながら、銀行が抱える膨大な借金を単にリセットしただけではないかと思われる。これには、関連する国々の暗黙の了解があったと見るべきである。この方法は道義的に許されるものではない?ので、通貨不安を煽らないよう細心の注意を払いながら、粛々と執り行われてきたものと思われる。リセットという言い方は語弊があるかも知れないので、もっと具体的に言えば、莫大な量の不良債権を中央銀行(日本における日銀やアメリカにおけるFRB)が買い取り、銀行を救済したのである。中央銀行は従業員が沢山いるわけではないので、不良債権を取り立てに行く人員はほとんどいないと考えれば、実質、国が紙幣を印刷して借金だらけの銀行に与え、借金をチャラにしたことになる。当然、市場に出回る通貨の量が増えたことになるので、為替レートが下がっていくことになり、インフレになりながら輸出産業が活性化し、被害国の経済は急速に回復できてきたわけである。おそらく多くの日本における経済の専門家はそのことがわかっていたはずであるが、世界中の国々からの要請で他言できないようになっていたのではないかと思われる。しかし、日本だけ置いてきぼりにされてしまったのは、悲劇としか言いようがない。被害国は、リーマンショックからの脱却のために関係のない他国や自国の国民にも知られないよう緘口令を布きながら、目立たないようにひっそりと自国の民間銀行を救済してきただけなのである。通貨安戦争を引き起こそうとして行ってきたわけではない。しかしながら、アメリカをはじめとする多くの国々が自国の経済の立て直しのため、中央銀行が不良債権を買い取る形で流通通貨量を増やしたため、実質的に世界的通貨安になってしまった。ユーロ圏ではギリシャ危機などのさらなる問題が発生し、追い打ちをかける金融緩和策が講じられ、ユーロ安に拍車をかけた。日銀は、それがわかっていても、名目無き救済策を実行するわけにもいかず、民主党政権時代のゴタゴタ劇や大震災、放射能などの悲劇に見舞われ、なすすべもなく現在に至ってしまった。または、何もしなかった?こうなってしまったからには、日本も通貨安戦争に参入していくしかない。今アメリカウォール街では、日本が通貨安戦争を仕掛けてきたと騒がれている。韓国や中国もアベノミクスに反対する立場を表明し、アベノミクスに対する脅威が喧伝されている。まるで、日本が経済の世界で真珠湾攻撃を仕掛けた悪者のような言われようである。どうしてこのようになってしまっているのか、日本に対する世界の風当たりが大変強い。今頃のこのこ出てきて、世界全面通貨安に日本も参入すると言うのはけしからんというわけである。本来ならば、もっと早くに日銀が手を打っておくべきであった。世界中が経済危機と称して自国の不良債権処理を大々的に行っているときに、日本も何らかの対策を行ってこなければならなかった。もちろんあからさまに通貨安にするなどとは一言も言わず、粛々と政府と日銀が一体になって金融緩和を大規模に行わなければならなかったのである。さて、どうしたものか、対外的にも国内的にも円安を断固として実現するとアベノミクスで言ってしまった。これは正しい判断であるが、関係のない国まで通貨安戦争に巻き込む世界通貨安戦争の勃発を招いてしまったかも知れない。この混乱を回避するための日本の説明責任は大きいが、通貨に対する信用不安が拡大したそもそもの原因はサブプライムローン問題であることは明白である。それゆえ、必ずしも日本にばかり責任を押し付けることができない世界の事情があることもはっきりしている。今後の日本の立場は、「現在の円高は適正ではないので、これを適正にするための最大限の努力を日本政府は行う。」(すでにこのようなことを麻生財務大臣が述べているが、)を最後まで押し通すことであろう。決して、紙幣を印刷するなどとは言わないことである。真実を解りやすく国民に説明すると、逆に通貨に対する隠された裏の部分が露呈し、通貨不安を増長する結果になりかねない。通貨は信用でのみ成り立っている概念であり、実態は見えないほうがよいのだ。
 

2.通貨の流通量と為替レートの関係

 現在、1ドル90円台が為替レートとなっているが、さらに円安が進むと言われている。昨年は、1ドル70円台後半まで円高となり、大手電機メーカーの赤字予想が次々と報告されリストラ騒ぎとなったが、今はかなり落ち着いてきたようである。アメリカドルの流通量(マネーストックやマネーサプライとも呼ばれる尺度があり、M1、M2、M3などがある。どの尺度が実体経済の流通量を表すのかは明確に言えない)はリーマンショック以来M3基準で約1.5倍程度に膨れ上がっている。必ずしも通貨の流通量と為替レートが連動していないが、やはり、通貨の流通量が増大すれば為替レートは下がると考えるのが自然であろう。実際には信用という目に見えない要因が大きく影響し、信用不安が大きい国の通貨ほど為替レートは大きく変動するが、需要と供給のバランスを維持するために、流通量が増大した通貨ほど為替レートが安くなるのは基本である。この基本を無視した議論は、小手先の現象を表すだけのものとなり、真実を見えなくするためのものとなるであろう。ところで、通貨の流通量を表す指標がたくさんあるので、ここでそれぞれの指標を学習しておくことにする。
(日本)
M1 = 現金通貨+預金通貨(定期および外貨預金などは含まない)-小切手・手形
M2 = M1 +小切手・手形
M3 = M2 +準通貨(定期預金など)+CD(譲渡性預金)

と、おおざっぱであるが、日本の場合の定義となっている。(マネーサプライ:ウィキペディア参) 実は、国によって定義がかなり異なっており、国家間における金融システムの違いがあるためと思われる。アメリカの場合は、
(アメリカ)
M1 = 現金+当座預金
M2 = M1 +普通預金+小額定期預金(10万ドル以下)
M3 = M2 +高額定期預金(NCDを含む)+ユーロドル預金など (M3は2006年に公表中止)

となっているが、M3は2006年春から公表されていない。(Jhon WilliamsのShadowstats.comによりM3データは現在も発表されているが、政府発表ではないので信頼性は不明である。) NCDは無記名の譲渡性定期預金で、アメリカではよく使われているようである。逆に日本におけるCDは5000万円以上となっており、大企業以外ではほとんど使われることはない。
 このように、定義がかなり異なっており、しかもアメリカのM3の公式発表が現在はなされていない現状を考えると、通貨の流通量を示す指標としてどれを採用したらよいのか頭を抱えてしまう状況である。ところで、Monetary Base(マネタリーベース)とは何であろう。

Monetary Base(マネタリーベース) = 現金通貨+民間金融機関の法定準備預金(日銀当座預金)の合計

となっている。これは日本での定義であるが、世界各国ほとんど同じようである。民間金融機関は何らかの資産を担保に中央銀行から現金通貨を借りるが、使わない部分は法定準備預金として中央銀行の当座預金に組み込まれる。中央銀行はこの準備預金の上限を操作することで市場に流通する通貨の量を操作できるとされている。実際には、法定準備預金の残高を増やしても、それが市場に反映されなければ市場における通貨流通量は増えないわけであるが、民間金融機関の中央銀行に預けている分を含めて民間金融機関が所有する金融資産と見なせば、通貨流通量が増えたと考えることもできる。通貨流通量をどの観点で見るかの問題で、M1、M2、M3、そしてMonetary Baseの考慮などの様々な観点から市場を見る必要があろう。実際の市場がどう反応するかは、複雑であり、心理的な面も大きい。(あるネットによる論評でアメリカドルの流通量が3倍に膨れ上がっているという話があったが、M3では1.5倍程度にしかなっていない。Monetary Baseは確かに3倍になっているが、M3の約1/5であり、市場に対する影響力はそれほど大きくない。恐らく、誰かが勘違いしたことがネットで広まったようである。)
 昨年1ドル80円付近から、今年の2月になるまで、円はどんどん安くなり、現在94円付近であるがさらに安くなる様相を示している。しかしながら、日銀はこれまで何もしておらず、円の流通量を増やすための大幅緩和を実行していないにも関わらず、10円以上の円安が起きている。おそらく、海外での円売りがメインの原因で、日本国内での円売りドル買いは大した原因でないと思われる。これは、何を物語っているのであろう。この数カ月の間に日本国内の円によって保持されている通貨資産がなにもせずに相当額減ってしまったことになる。日本国内における円の流通量はM3ベースで1138.4兆円(2013年1月現在)であるが、これの2割近い価値の低下が起き、200~300兆円レベルの資産を失ったことになる。本来なら、日銀が大幅金融緩和策としての不良債権などの買取などにより、円の流通量を増やした後、円で保持される流通資産総額があまり変わらないような形で円の下落が起きるのであれば、総資産が目減りすることなく円安を導入できたことになるのであるが、実際には円の下落だけが起きた。このまま、日銀の大幅金融緩和が実行されないまま、円安が進むと、相対的に日本が保持する円ベースの金融資産はどんどんと目減りすることになる。国際社会における日本の財政面での力がどんどん弱くなっていくことになり、これが長期化し定着してしまうと、もう取り戻すことはできなくなる。アベノミクスを発表した直後には、またはその直前には、大幅金融緩和が実行されていなければならなかったと言える。現在の円安は、日本政府が円安にするという意思表示だけを受けて市場が円安を予想したために起きた実態を伴わない円安だが、日本の損失は計り知れない。円安になることで、輸出関連企業が好調になることはとても良いことであり、ひいては日本経済の活性化を促し、雇用の安定確保にも繋がる、と思うのであるが、今回の円安騒動は莫大な資産の損失を招いているだけに、日銀が追加援護を早急にしないと損失が定着してしまうことになる危険性が高い。これは通貨の信用が毀損され、通貨そのものの信用がなくなることによる円の下落を起こしたことになる。政府と日銀が共同歩調を取りながら、きちんと通貨政策を実行していればこんなことは起こらなかったはずである。日銀が独自性を謳い、政府の方針に真っ向から反対することそのことが、円の信用を棄損することにつながり、国益を損なう結果となったと思われる。どちらの言い分が正しいのかどうかではない。日銀も政府も相互に歩み寄らなければならないのに、それがなされてなかったことが原因であると私は分析する。新たな日銀総裁を決めた後では、もう遅すぎるのではないであろうか。おそらくそのころには1ドル110円付近(東日本大震災が起きる前の状態)になっているものと思われるが、もう日銀の大幅金融緩和を行うことの意味は失われていると思われる。そして、円の信用が毀損されたままとなり、国内の円による流通資産の総額は3割から4割の価値の損失を招いただけに終わる可能性が高い。一度失った信用を取り戻すことが大変難しいことは多くの人が知ることである。
 さて、ドルの流通量はリーマンショック後どのようになったのであろうか?そして円およびユーロの流通量はどのようになったのであろうか?

アベノミクスに内包する隠れた危機②

最終更新:2013年02月14日 20:43