「日本の将来展望:リング計画 ⑥」
   宇宙エレベータと比べてどちらが実現可能?

6.. First-Stage リング計画 (基本骨格部分のみで稼働する最初のリング)   現在工事中

 今までに述べたリング計画は気の遠くなるほど時間のかかるもので、ほとんど実現不可能のように思える。しかし、以下に述べるものであれば、20年以内には完成できるかもしれないと考えている。

 年間100個の人工衛星打ち上げで、20年で2000個の見積もり。この計画はそもそも一国だけでは不可能であり、世界中の国々が協力しなければ成功しない。一つの国で平均して年間10個程度打ち上げ、10カ国の参加で年間100個となる。それ以上の参加国があれば、もっと早く完成できるであろう。

 この計画を初期リング計画(またはFirst-Stage リング計画)と呼ぶことにする。

 初期リング計画は、リングの基本骨格部分をまず完成させることから始まる。約2000個程度の人工衛星を高度350km付近に打ち上げ、赤道上空を地球の自転方向に公転させる。表面を軽量超合金で覆ったカーボンナノチューブのケーブルもしくは鋼鉄製(超合金製?)のケーブルでそれぞれの人工衛星を約20km間隔で数珠つなぎに繋ぎ合わせる。(下図) 公転軌道上はほとんど無重力なので、重量のある鋼鉄製のケーブルでもよいのであるが、地上からロケットで打ち上げて運ぶことを考えると、軽量ケーブルにする必要がある。

人工衛星は二つの部分に分かれ、より上空を飛ぶ部分(上位衛星)と低空を飛ぶ部分(下位衛星)に分けられ、両者はカーボンナノチューブのケーブルで繋がれる。両衛星ともに、姿勢制御や推進のための噴射装置を持ち、決められた公転軌道から外れないよう調節できる機能を持つ。また、上位衛星と下位衛星をつなぐケーブルは、任意にその長さを変えられるようケーブル巻取り装置をつけ、巻き取り装置の回転力も自在に調節できるようにする。

 下位衛星の最下部に人工衛星を数珠つなぎにするためのリング形成ケーブルを繋ぎ、このリング形成ケーブル上を超高速に滑って動くことのできる装置(リング形成ケーブル滑空装置)を設置する。(下図) このリング形成ケーブル滑空装置に総延長350km程度のカーボンナノチューブケーブルを巻き付けたリールを取り付け、電動モーターで動作する車輪により最初はゆっくりと逆方向にこの滑空装置を動かす。ある程度速度が付き、重力を感じるようになったところで、先端におもりを付けたカーボンナノチューブケーブルを下に(地表に向けて)ゆっくりと落としていく。大気濃度が濃くなったところまで落ちると大気との摩擦抵抗が発生するので、ケーブルが引っ張られるようになる。この時点で、電動モーターで動作する車輪を外し、リング形成ケーブル上を滑空するようにし、大気との摩擦抵抗による牽引力により超高速で滑空していくことになる。このスピードは時速3万キロ程度にもなり、滑空装置がすぐに壊れてしまいそうであるが、滑空装置のリング形成ケーブルとの接触部分は、氷の上を滑るようなイメージを再現できる材質のものを検討中である。圧力を与えると液化するようなもの(やはり氷かな?)で、抵抗が極端に小さく、発熱した場合は気化して高温化を防ぐようなものがよい。リング形成ケーブルの表面は超合金をコーティングしたものを使い、表面はなめらかに磨いてあり、抵抗を引き起こすような傷などが全くないようにしておく。真空中で氷がどの程度安定に存在できるか不明であるが、氷でできた彗星もあるという話であるから、案外氷がよいかもしれない。しかし、衝撃で壊れてしまう可能性が高いので、そのための工夫が必要であろう。

 リング形成ケーブルが完全に円にならない(2000個の人工衛星で頂点を構成する2000角形)ので、その表面を滑っていくリング形成ケーブル滑空装置が安定に滑っていくことができないのではないか。また、滑空装置の重みでリング形成ケーブルがV字形に歪み、滑空を阻害するのではないか。などの心配がある。人工衛星を上位衛星と下位衛星に分けたのはその問題を解決するためである。つねに滑空装置が円軌道を描いて滑っていくように、上位衛星が下位衛星をタイミングを計りながら引っ張り上げたり落下させたりを繰り返すことで、安定滑空を実現しようというものである。うまくいくかどうかは、理論計算をおこない検証してみないとよくはわからないが、直観的にはうまくいきそうな気がしている。( 直観で話をするなと言われるであろうが、シミュレートプログラムを作成して、検証してみたい。)
 上位衛星が下位衛星を引っ張り上げるときは、ケーブル巻取り機で力を加えて上下衛星間接続ケーブルを巻き取ればよいのであるが、巻き戻す場合は上位衛星の遠心力を利用することになる。そのため、上位衛星をかなり上空の公転軌道に置く必要があろう。
 リング計画初期の人工衛星打ち上げ時は高度350km付近の公転軌道に打ち上げ、上位衛星と下位衛星はほぼ同じ高度で、上下衛星間接続ケーブルはほとんど巻き取られた状態にしておく。約2000個の衛星の打ち上げが完了した時点で、リング形成ケーブルの接続を完成させ、地球の赤道上空を回る巨大なリングが完成する。巨大リングが完成した段階で、徐々に衛星の公転速度を上げ、遠心力が発生し、リング形成ケーブルがピーンと引っ張られた状態となる。遠心力が感じられるようになったところで、ゆっくりと上位衛星を遠心力の力を利用して外宇宙方向へ押しやればよい。角運動量保存の法則で、上位衛星がより上空の公転軌道へ移動するに従い、下位衛星の速度は低下していく。(たぶんそうなると思うが、上位衛星の速度が速くならなければならないので、姿勢制御や推進器で軌道調整が必要かもしれない。)
 下位衛星の公転速度を通常の公転速度とした場合、下位衛星は無重力状態、上位衛星は遠心力を感じる状態で常に下位衛星から引っ張られた状態となる。そのため、リング形成ケーブルは上位衛星の遠心力により、常に引っ張られた状態となる。しかし、これでは、リング形成ケーブルが何らかの事故で破断した場合、リング全体が崩壊してしまうことになる。そこで、下位衛星の公転速度を通常速度よりも下げ、重力を感じるようにし、上位衛星の遠心力と下位衛星の重力がほぼ釣り合うようにすれば、リング形成ケーブルにかかる張力はなくなる。しかし、地上から荷物を引っ張り上げるときは、リング形成ケーブルにかかる張力はある程度必要であろう。
 下位衛星の公転速度を下げることは、リング形成ケーブル滑空装置の滑空最大速度を下げることになるので、より計画の成功へと導くことにつながるであろうと思われる。しかし、上位衛星と下位衛星の接続ケーブルが切れた場合、上位衛星が外宇宙方向へ飛び去り、下位衛星が重力により落下することになり、新たな問題が発生する。上位衛星、下位衛星が自力で元の軌道に戻れる程度にしておくのが良いかもしれない。

 初期リング計画は、地上とリングを繋ぐケーブルは必ずしも静止させる必要はないと考えている。上記の方法では、地上に落とされるケーブルが赤道上のどの位置に接地するのか指定することができない。ケーブルが大気中を高速で移動しながら、様々な問題を引き起こすことは大いに考えられる。そのため、最新飛行機の限界高度まで落下させることができれば、そしてそのときの速度が最新飛行機の限界速度内であれば、飛行機がケーブルと接触することが可能となるので、第1段階の計画は完了となる。

 宇宙空間へ荷物を運ぶのは、最初は飛行機に乗せて限界高度まで運び、そこでリングから伸びた一本のケーブルの先端部に荷物を移し替える。あとは、ケーブルをリングまで巻き上げ、リング形成ケーブル滑空装置を停止させてから、リングにつながった宇宙ステーションへと運びこむ。あとは、宇宙ステーションから宇宙飛行船に乗り換えて、宇宙空間へ旅立つ。

 このリング計画は、宇宙エレベータ計画をサポートする計画と捉えることもできる。宇宙エレベータが地上に接地しなくても、リングから宇宙エレベータに乗り換えることで、宇宙エレベータ計画を成功に導くことができよう。リング計画は、宇宙へ旅立つための一つの方法を提供し、将来のよりよい方法を模索するための道具を提供するものと考えている。

最終更新:2014年05月31日 14:49