デフレ不況の原因について 2018-05-05

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原因がわかれば、その対策も立てられる。原因がわからなければ、いろいろ対策を行き当たりばったりに行うことになる。やりすぎると、+に振れるものとーに振れるものが相殺して何もしなかったことと同じになる。やはり、原因をしっかりと調査し、理解したうえで対策を立てることが重要である。
ところで、最近2冊の本を読んだ。少し古い本であるが、

  1. 「日本経済の真相」、高橋洋一著、中経出版、2012年
  2. 「日本人はなぜ貧乏になったか?」、村上尚己、中経出版、2013年

私がアベノミクスについて書き始めたのが2013年であったが、当時は全くこの本の存在に気付かずにいた。1,2共にアベノミクスを擁護する本で、経済にお詳しいお二人の解説はわかりやすかった。いろんな点で私が述べたことと共通点が少なからずあったのでいくらか安心した。しかし、私の勉強不足のところもたくさんあり、まったく恥ずかしく思っている。特にマネタリーベースの比で為替を読む「ソロス・チャート」は経済界では有名だそうで、以前の私の論評で、マネタリーベースが何?と恥ずかしい文章を書いていた。しかし、今でも私は、このマネタリーベースが曲者なのだと、経済素人ながら思っている。それはなぜか。
 アメリカも2002年から2005年にかけて不動産バブルが発生した。その対策として、2005年、FRBは短期金利の引き上げという形の金融引き締めを行った。その結果、バブルが崩壊したのが真実のようである。突然バブルが崩壊したのではなく、中央銀行の政策によって計画的に崩壊させられたのである。ここは日本も同じで、日本政府は放っておけばもっと酷い惨事になると判断し、バブルを意図的に崩壊させた(1.の本参照)。2008年にリーマン・ブラザースが倒産し、被害が世界に波及、リーマンショックと呼ばれる大事件となった。新しく着任したバーナンキFRB議長は、日本のバブル崩壊を熱心に研究し論文を書いたバブル崩壊の専門家であった。彼はすぐに大規模な金融緩和を行った。2009年頃に約1兆ドル、2010年、2012年と追加の金融緩和を行った。大量の国債を購入し、マネタリーベースの大幅増額を行った。そして、その結果、アメリカの景気は回復した。日本がバブル崩壊後の景気低迷に苦しんでいる原因を解明し、さっそくバーナンキは実践して成功を収めたことになる。被害を受けたその他の国々も同様の手法を使って景気回復に成功した。しかし、日本だけは依然として景気低迷のままである。つまり、バブル崩壊後、早期に手を打たなければならなかったが、それをしなかったことが事態をより難しくしてしまった。結果論であり、その当時はどうしたらよいか誰もわからなかったのが実情であろう。日銀は誤った政策を取り続け、事態をますます悪化させてしまった。そのことが問題なのは明らかであるが、あくまでも結果論である。当時はだれも正しい処方箋を出すことができなかった。しかし、バーナンキが処方箋を示してくれた。遅ればせながらと、その処方箋を頼りに日銀はアベノミクスの下で大規模な金融緩和(黒田総裁による異次元緩和)に突き進むことになった。
 2013年から日本の異次元緩和はスタートした。そして今は2018年、約5年が経過した。その結果は「アベノミクスは成功したのか?」に述べたように、とても成功したとは言えそうにない状況である。東京付近では景気はかなり回復基調にあるようであるが、地方の方の景気はさほどではないようである。では、いったい、何が問題だったのであろうか? 明らかなのは、「マネタリーベースの増額だけでは日本の景気はすぐには回復しない」ということである。アメリカの場合、バブル崩壊後のすぐの処置だったので、比較的軽傷で済み、マネタリーベースの増額だけで回復できたが、日本は崩壊から20年以上経ち、重症化してしまい、慢性化してしまった。そのため、マネタリーベースの増額という薬だけではなかなか効果が出なくなった。日銀が放出したお金は、実際問題として、日銀の当座預金に積まれたままで、民間銀行は動かせるお金が大量にあることになるのであるが、肝心の借り手がいない状況が続いている。つまり、日銀はお金を大量に放出したが、借り手不在で民間銀行のところで大量に止まってしまい、市場に流れていない。お金が市場に流れなければ景気回復しないのは明らかである。長年の不況で国内企業の弱体化が慢性化してしまい、将来への見通しが立たず、借りる力もなくなってしまったという閉塞感が国内企業を覆っているようである。つまり、言いたいことは、「長年の景気低迷が原因で、新たな景気の悪化を引き起こす大きな要因が発生している」という事実に気づかなければならない。その要因とは、「産業の空洞化」と「国内資金の海外流出」である。

       
                                資料:GLOBAL NOTE出典:IMF
上図は、IMFのデータを元にデータを集計しているグローバルノートというサイトからデータをコピーして編集したものである。上位6国と最下位アメリカの対外純資産の1996年から2016年までの経年変化を示した。対外純資産とは海外へ投資した資産の総額から債務の総額を引いたものであり、実質、バブル崩壊後の日本は世界1位の債権国を続けている。日本円にして2016年度約349兆円になる。2017年度は約367兆円とさらに上昇した。その内訳は、日本企業の海外進出による工場建設やM&Aによる企業買収だけではなく、海外証券への莫大な投資も含まれている。日本にとってこんなにも海外資産があって良いこと尽くめのように考える人も多いと思われるが、バブル崩壊後ずっと海外投資を繰り返してきた日本企業や個人投資家の姿が見えてくる。逆にアメリカは世界最大の債務国となっているが、アメリカの景気は全く悪くない。それよりも、世界中の国がアメリカに投資をし、そのお金がアメリカ国内の景気を支える原動力となっているように思われる。バブル崩壊後、日本は景気低迷を続けてきたため、国内の企業や投資家たちは、先の見えない国内への投資をあきらめ、海外で利益を得る方法に転換してきたのである。こう考えると、良いこと尽くしとは決して言えない、悲壮感漂う状況であると考え直さなければならないことに気づく。貿易黒字で得られた利益の大半は国内投資に回されず、海外への莫大な資金流出となって、景気低迷にさらに拍車をかけてきた事実が、これではっきりと理解できる。さらに、企業の海外進出による産業の空洞化は雇用の減少をもたらし、失業者の増加や平均賃金の低下を招く事態となり、さらなる景気悪化につながっている。バブル崩壊直後であれば、企業の体力もまだ残っていたので、マネタリーベースの増額という処方箋が効果的であっただろう。しかし、今となっては、有力な体力もある企業や投資家は海外投資に夢中であり、銀行からお金を借りても海外に流出させるだけなので、国内景気の回復にはまったく役に立たない。そもそも、長年の長期景気低迷により、将来への見通しが全く立てられないというデフレマインドが多くの国内企業経営者の頭にしっかりと植え付けられていることであろう。国内景気を回復させるための銀行からの借り入れを行おうとする会社経営者は、日本国内にそう多くはないと思われる。
 ところで、上図をよく見ると、ちょうどアベノミクスが始まった2013年から2015年の3年間、対外純資産が2012年のピークから減少傾向に入った。企業や投資家たちがアベノミクスに期待し、景気が上昇すると多くの人が思ったために国内投資に切り替えたのであろうか?しかし、また2016年度から上昇傾向に転じている。消費税値上げが2014年に行われたりと、一方で緩和し一方で引き締めを行うというちぐはぐな政策であったため、その後の景気の回復基調が悪化に転じてしまった。多くの国民が失望し、企業や投資家たちは国内投資を諦め、また海外投資に戻ったのかもしれない。今から思うと、この消費税値上げは完全に失敗であった。その当時は、だれもが異次元緩和で景気が急速に回復すると信じていたので、これくらいの消費税値上げなら大丈夫と思ってしまったのが災いした。日本の景気低迷は思っていた以上に根深かったのである。

 さて、デフレ不況の原因は極めてシンプルであるというのが、冒頭で上げた2冊の本のキーである。つまり、市場に回っているお金の絶対量が不足しているから、デフレになっている。だから、紙幣を印刷してお金の量を増やせばよい。単純明快なのであるが、ではどうやって市場に回せばよいのかの議論がすっぽりと抜け落ちている。バーナンキFRB議長の処方箋通りにマネタリーベースを増やせばよいとしかお二人とも考えていなかったようである。長期景気低迷で借り手がいなくなってしまったため、マネタリーベースによる処方箋がうまく機能しなくなってしまっていた。しかし、このことは、今の時点で状況を分析してわかったことなので、当時としては想像もつかなかったことに違いない。もちろん、私自身は全く分かっていなかった。しかし、具体的にお金を市場に回すにはどうすればよいのであろうか。これは、実は、大変デリケートな問題なのである。方法を間違えると、とんでもないことになる危険がある。お金というものは「信用」という概念で成り立っているものであることをしっかりと認識しなければならない。リーマンショックの起きる前のバブル期には、莫大な富がそこに存在していた。バブル崩壊後、そこにあった莫大な富が一瞬にして消えてしまったのである。消えた富は、いったいどこへ行ってしまったのであろうか?お金は「信用」で成り立っていると述べたが、それまであった莫大な富が消えたのは「信用」が消えたのである。しかし、バブル崩壊後はあまりにも悲惨な富の喪失が起こった。人々の心の中にはまだ「信用」が残っていたので、何とか政府や中央銀行の力で適切と思われる状態にして欲しいという人々の願いが、「信用」の復活を実現させたと思っている。結果として、大量に印刷されたドル紙幣が世界を回り、ドルの為替レートの下落が続いた。アメリカの景気は順調に回復し、みんなが思う適正な景気の状態に復元することができた。ならば、日本もできないはずはないのである。今、アベノミクスは世界的に認可されている状態である。しかし、時が経つと、「今の日本の現状のことしか知らない、昔のことなど知らないぞ」と人々の心から「信用」が消えてしまうと、景気回復の機会はなくなる。アベノミクスを成功させるのは、今しかない。

デフレ不況のもう一つの要因 人口増加

 全く変なことを言う、と多くの人に叱責されそうであるが、人口増加がデフレ不況に一役買っていたと考えている。現在、人口減少時代に突入した。おそらく、多くの人は労働者の数が減ると国力が衰え、景気も悪くなると考えているのではないであろうか。さあ、たいへんだ、少子化に歯止めをかけ、人口減少を食い止めよう、と言っている人が多いように見える。一見、まともなことを言っているように聞こえるが、これは大きな間違いである。デフレ不況がなぜいつまでも解消されないのか、それは日本の人口が多すぎるためでもある。こういうことを言う人がほとんどいないが、真剣に考えてほしい。
 日本にはほとんど資源はなく、海外から原料を輸入して加工し、高付加価値商品を作って海外へ輸出することで経済大国になった。もし、輸出産業が成功せず、日本の資源だけで生活することを余儀なくされた場合、いったいどうなっていたであろうか? 日本の食料自給率はカロリーベースで38%である。約3800万人の人しか養えないのである。日本の農業が安い輸入食品の影響で衰退した状況を考慮すると、約5000万人が日本の農業で養える人数と考えるとちょうど良いかもしれない。つまり、日本の人口約1億の半分は、輸出産業の収益によって支えられている計算になる。輸出産業がいつも右肩上がりで利益を上げているわけではない。特に最近は、国際競争の激化に対応して、海外進出をせざるを得ない状況となってきている。いつまでも輸出産業に頼ることはできないのである。今後は、中国を中心とする新興国の国際競争力はますます発展する勢いを見せている。このままいけば、近いうちに、必ず、日本人口の強烈な収縮が起こるに違いない。どういう事態が起きるのか? 食料難民となった日本人が海外へと移民する事態になる。そのとき、日本政府そのものが存在しているのかどうかも疑わしい。
 人口減少は、日本にとって、必然なのである。輸出産業の収益にいつまでも期待してはいけない。

 上記の議論を振り返ると、もう一つの別の考え方も浮上する。日本の食料自給率を上げればよいではないか。農業を推進し、たとえ輸出産業が右肩下がりになった場合でも十分耐え得る産業構造にしてゆけばよい。しかし、これは容易なことではない。日本は山が多く、森林面積は国土の67%に達する。山を開拓して農地にするのは困難を極めるであろう。農業政策を重視することは重要であるが、過度な期待はできない。

今後予想される悪いシナリオ

 日本の国土は小さく、人口が1億を超える状況下で、輸出産業が衰退していった場合を考えてみよう。新興国の急激な発展は、輸出産業の収益悪化を招いている。国内輸出産業で5000万人の国民を養うことはますます困難になることが予想されるので、必然の想定である。
 当たり前のことだが、日本国内の富は減るので、国民一人当たりの収入は減ることになる。労働力を増やせば景気は良くなるという考えは、輸出産業が莫大な利益を生んでいた時の話で、食べきれないほどの大きなパイには、多くの人の参加で、より多くの人に利益を分配することができる。しかし、今は、輸出産業が生むパイの大きさは小さくなった。全員が飽食するには小さくなってしまったのである。その結果、一人当たりの収入は減少するという事態を引き起こしている。

 現在、国内企業は生き残りに必死である。できるだけ安い労働力を使って生産性を上げようと苦しんでいる。心の片隅には本当にこれでよいのかなと一抹の不安を抱えながら、外国人労働者を雇い入れている企業も多いに違いない。企業の収益が改善されれば景気は良くなるので外国人労働者の受け入れは仕方がないと考えている人も多いであろう。しかし、人口が増えれば、一人当たりの分け前は減るのである。今後、外国人労働者はますます増えるであろうことが予想される。一部の企業はそれで何とか持ちこたえることができるかもしれないが、国全体の景気はますます悪くなる。その結果、回りまわって企業の利益は減り、気が付いたら社員全員外国人となり、会社の利益はすべて他国に流れていた、ということになる。その後、会社経営者は外国人になり、日本人は全て排斥されてしまうかもしれない。そこではじめて、日本人の会社経営者だった人は、自分は何て愚かなことをしてしまったのかと反省することになるだろう。しかし、多くの企業経営者は、そのことに気づいていないようである。あまりにも企業利益を優先するあまり、安易に賃金の安い外国人労働者を受け入れてしまう。そして、他社がそうなら自社もということになり、なし崩し的に外国人労働者は増えていくことになる。しかし、外国人労働者を増やすことは景気の悪化を助長し、国内企業の経営はますます苦しくなる。このことに早く気付かなければならない。外国人労働者の受け入れ幅を早急に縮小する必要がある。しかし、今のままでは、なし崩し的に外国人労働者は増加していくことであろう。
 このように、企業は経営利益の改善のため、外国人労働者をますます増やすことが予想される。しかし、結果的に国民全体の一人当たりの収入は低下し、国内景気はますます悪くなっていくことになる。多くの企業は過当競争を繰り返し、分け前を増やすことに悪戦苦闘している。いかにして分け前を増やすかの方法論が大きな仕事になり、さらにはいかにして騙して金を稼ぐかの方法に手を染めていくことになる。ブラック企業の乱立は、このことを鋭く物語っている。そして、過当競争のため人々は寝る間も惜しまず働くことになる。自殺者は急増し、過重労働と過労死が日常茶飯事となることになる。当然ながら、国民一人当たりのGDPはますます減少していくことが予想される。

                                       資料:GLOBAL NOTE出典:IMF

少々見にくいので、いくらか説明する。トップを独走しているのはルクセンブルク、2番目の黄色の線はスイス、2位から3位に後退した赤い線はノルウェーである。世界第3位のマカオは見やすさのため外してあり、ノルウェーは2017年度世界ランク4位に後退した。中央付近の緑色の線はアメリカで世界ランク8位である。アメリカの線の周りをウロウロしている赤い線は世界ランク9位のシンガポールであり、アジア最大の発展国の一つとなっている。その下の紫色の線は世界ランク19位のドイツであり、その下の水色の線が世界ランク25位の日本である。見やすさのため、途中の国の資料は割愛した。さて、気になるのは韓国と中国であるが、下から2番目の青の線に見られるように、韓国は着実にランキングを上げてきており、世界ランク30位と日本の線に接近している。あと数年もすれば日本を抜き去る勢いである。一番下の緑色の線が中国である。中国は世界ランク75位である。
 日本は1996年ごろから景気低迷を続けており、ほとんど成長していないことがわかる。2009年から上昇基調になり2012年にピークに達したが、これは円高の影響であり、国民生活が改善されたという解釈は成り立たない。2013年以降の低下は、主に円安の影響であり、国民生活が悪化したためではない。このグラフから言えることは、ドルベースで国民一人当たりのGDPを見ると、1996年あたりから現在に至るまで、ほとんど変わっていないことがわかる。いや、それよりも、生活は苦しくなっていると言った方がよいであろう。ドル自体の通貨の価値は年々下がっているからであり、20年前のドルと現在のドルの価値は全く違う。

 このままいけば、日本はアジアの周辺国からどんどん抜かれ、没落していくことになる。

提言1 人口減少はよくないという考えを改め、逆に推進せよ。
提言2 アベノミクスを推進し、輸出産業を擁護せよ。
提言3 外国人労働や移民受け入れを中止し、逆に、日本から海外への移民を推進せよ。

 さて、上記の提言、すべて行ったとしても、景気は簡単には改善しないであろう。まずは、人口減少を素直に受け入れ、人口が減っていく中で最善の方法を模索することが極めて重要である。

 以下の提言は、過当競争を防止する意味で、小さなパイを多くの人に分配するための処方箋である。

提言4 経済発展のための規制緩和や無駄な規制の緩和は必要であるが、極力、規制緩和はしない方が望ましい。
提言5 民営化はしない方が良い。
提言6 公務員数を増やして公務員の充実を図り、サービスが国の隅々に届くようにする。
提言7 社会保障を充実させ、最低限の生活を保障する。提言6と平行して行う。

 

以前の記述
貿易黒字でも景気は良くならないのはなぜ?
アベノミクスは成功したのか?

 

最終更新:2018年05月07日 23:55