四角い石

四角い石

 

配信終了。

「今日もニコ生ゴミだったな・・・」


独り言をつぶやいてツイッターを開く。タイムラインには「おつぽよ」というつぶやきが並ぶ。
「また明日もすかちゃんでいいか!」
そう言って亜連はベッドに入った。その時の針は午前4時。また昼ごろまで寝るのだろう。

そう思いながら静かに目を閉じた。

しかし、現実は予想とは全く違う目覚めだった。
それは午前8時に突然訪れた。
鼓膜を何かがつんざくような高く鋭い音。それと同時に目が覚めた。眠気など一切吹き飛んだ。部屋のガラスが割れている。
何があったのだろう?
すると一階からドタドタと階段を駆け上がる音がした。

「亜連!何の音?」
下にまで音は響いていたらしくママが心配そうな顔で部屋に入ってきた。もちろん僕は何も言えなかった。ママと僕は部屋を見回す。
するとガラスに紛れて一つ、四角い石が転がっていた。
「多分リスナーだわ・・・下行って」
いたずらでリスナーが石を投げてそれがガラスに当たり割れた。単純明快な答えだった。

「警察に言っとくからね!!あと掃除、やっといてね!!!」
ママはかなり腹を立ててその場を後にした。僕は何だか少しだけ、自分が悪いような気がしてママに謝りたかったがプライドが邪魔して
言葉はのどで止まった。そしてそれを飲み込んでもう一度僕は寝た。

二度目の起床。今度は自然に目が開いた。これが普通なんだろうけどなんだか違和感があった。時刻は17時。外からは
学校から帰ってくる陽気な子ども達の声が夕日と共に部屋の中に飛び込んでくる。

なんだか昨日の配信から今まで嫌な時間だった。
気分は最悪だ。こういう時にかまってくれる彼女が欲しいな。そんなことを思いながら亜連はiPhoneを手にした。ラインを見ても
来ているのは男リスナーからのふざけたトークだけ。もううんざりだ。

亜連は本当に落ち込んだ時、唯一のリアルの友達、けいすけに話をする。だから今日も二人で向かい合ってラーメンをすすっていた。
「え?!ガラス?やばいじゃん!」
今日の朝のことをけいすけに話すと、とても驚いて、そしてそれ以上に心配してくれた。
亜連はうれしかった。僕の話を真面目に聞いてくれるのはけいすけだけ。それだけで十分だった。

気分がよくなった亜連は高らかな声で
「けいすけ!酒のもうぜ!今日は僕がおごるよ!!」
けいすけはすこし驚いた表情を見せたがすぐに笑って
「おっけ!」と返した。

自由が丘駅からすぐの居酒屋。仕事帰りの中年サラリーマンで賑わう中、若い男が二人だけ店の隅っこで静かにグラスを合わせた。
梅酒ソーダ割りを亜連はほんの数秒で飲み干した。亜連の顔はたちまち梅の様に真っ赤になり、けいすけは笑った。
そのあとも二人は静かに、でも楽しく幼馴染二人だけの夜を楽しんでいた。
 

「ありがとうございましたー!!またお越しくださーい!」

午後1時、二人は店を後にした。
けいすけは明日バイトがあり、すぐに家に帰ってしまった。亜連は夜の自由が丘を一人で歩いた。いつもの歩きなれた道がマラソンを
しているかのように長く感じた。足が重たくなり、途中で止まった。止まった瞬間、ポロポロと大粒の涙がこぼれ出した。
亜連は涙を我慢することはなかった。声を出しながら泣き、家へと歩いた。

家に着くと洗面台で顔を洗った。しかし自分のパンパンに腫れた顔を見てまた、涙が溢れてきた。恥ずかしくなった亜連は部屋へと急いだ。
早足で部屋に行き、電気もついてない部屋へと入った。その瞬間、涙で床が滑り亜連は頭から思いっきりこけた。

 

床が一瞬で真っ赤に染った。

亜連の体には無数のガラスが刺さる。声も出ないほどの激痛。
そのまま彼は目を閉じた。



サイコロのようなきれいな四角の石の隣で。
 

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最終更新:2015年05月05日 01:22