闇の子問題

登録日:2010/11/16(火) 15:48:43
更新日:2022/11/10 Thu 17:48:44
所要時間:約 6 分で読めます




今夏、
全国で次々と明らかになった
『所在不明』の高齢者達。


それは戸籍上だけで
「生きている」
というケースだった。


だが、
その少女には
戸籍すらなかった―――。



無戸籍児童、所謂『闇の子問題』とは『高齢者所在不明問題』の影に隠れた現代における深刻な社会問題のひとつで、
主に「育児放棄(ネグレクト)」や虐待問題として扱われる。

戸籍がなければ、それを基につくる住民票もない。保険証もなく、学校にも通えない。児童手当の様々な公的サービスが受けられない。
そもそも正式には名前すらない。

それはその子供が公には「存在しない」ことを意味し、こうした行為を『究極の虐待』と指摘する声もある。

とある事例を参考にして頂こう。


住宅密集地にある児童公園で、近所に住む幼い孫と遊んでいた女性に、10歳くらいの少女が話しかけた。

ブランコ、鉄棒、滑り台…。
少女の他に児童の姿はない。夕方ここで歓声を上げる児童達は、まだ小学校にいるはずの時間だった。

自らの生活についても話し始めた少女。
「引っ越してきた」
「お母さんが帰ってこない日もあるの…」

この話を伝え聞いた女性の娘は、前の年の夏に同じ公園で一人きりの少女を見掛けたことに思い当たる。不審に思い、児童相談所に通告した。

少女は公園からほど近いアパートに住んでいた。小学校には在籍しておらず、母親は通わせようとすらしなかった。
通告から1年以上が過ぎ、児童相談所は遂に少女を一時保護した。

手続きの必要もあり照会すると、少女の戸籍はどこにも存在しなかった。

その背景に母親は離婚を経験し転居を繰り返していた。
「兎に角実家から遠くに」
「別れた夫に居所を知られたくない」

我が子の出生届を出すことさえも躊躇い、ただひっそりと暮らすことを望んだ。

少女は県内の病院に委託一時保護され、そこから学校に通い出した。本来なら小学5年生だが、学校経験がない為2学年遅れの小学3年生のクラスに入った。

生まれて10年以上過ぎてようやく戸籍がつくられ、少女に初めて社会の光が当たった。
一方で母親は次第に少女から遠ざかる。面会予定も度々キャンセルされた。

一時保護から2年近くに母親は失踪。娘の共に暮らす願いは叶わぬまま、少女の児童養護施設での新たな生活が始まった。

当然、少女に罪はない。

彼女くらいの年齢であれば「ケーキ屋さんになりたい!」「優しいママになりたい!」と希望に満ちた淡い夢を抱き笑顔を綻ばせ、
端から見ればその可愛いらしい主張に頷いてしまう一番輝く年頃だろう。

友達との何気ないお喋りで楽しく登下校したり、ご近所との付き合いもなく、独りで遊び過ごす子供を親は想像できるだろうか。



福祉関係者は「出生届けが出されない無戸籍児童、所謂『闇の子ども』はまだいるはずだ」と言う。
だが、行政サイドも統計がなく「把握できない」と言う。

大きな社会問題となった所在不明の高齢者とは対照的に、手がかりの戸籍すらない、『社会から隔絶された存在≪闇の子≫』の姿は見えない。
過去に見つかった「闇の子」の女性の中には、
17歳まで戸籍がないまま小学校にも通えず、22歳になっても自分の名前を平仮名で書くのがやっと、ということさえあった。
彼女は22歳にして将来の夢もなく、生活保護で暮らしているという。

こうした件には、DV等の家庭の問題が絡みやすい。
戸籍を作ろうとすれば、居場所が暴力を振るう夫等にも分かってしまいかねない。
そうした精神的恐怖は、警察に通報すればいい、といったところで拭えるものではない。
また、民法の離婚後300日以内に生まれた子は離婚前の夫の子となるという規定が障害となるケースもある。
DV等で会うのも恐怖する前夫に協力してもらわないと離婚前の夫の子にされてしまう=夫からの暴力的な干渉の契機になりかねない為、それくらいなら無戸籍で、という親が出てしまうのだ。

また、前記した17歳まで戸籍がないままだった少女の父親は、前科者である自分の子供とわかればいじめられると思って子供を届けなかったという。
(当然だが、公的給付も受けられず学校にもおよそ通わず、代わりの教育も受けさせていないのはいじめよりはるかに大きな問題である)

中には、ただ面倒だからという理由で届け出ない救いようのない親もいるようであるが…

親の紛争に巻き込まれた子にはいい迷惑だし、自身の都合を子に押し付ける母親の行動に問題はある。
実際、DVなどの事情があった場合であれ戸籍を届け出ない場合、母親は裁判所から罰金を言い渡されることもある。
たとえ当の無戸籍児童がそんな不便を許していようと、母親が子に自身の都合を押し付けることが許されるという前例を作ってしまえばまた新たな無戸籍児童が生まれかねない。
子を設けるからには、そういった不利益を我慢してでも子を守るのが親の務めである。

ただし、そうやって親を責めたところで子の置かれた状況は何一つ解決しない。
この手の問題を見ると必ず「無計画に子をもうけた母親が悪い」という批判が湧き起こるが、
そんな批判をしたら母親はどこにも相談できなくなって問題を抱え込み、事態はさらに悪化する。
母親がどうであれ親が届け出やすい仕組みを作るべきであることは同じなのである。

こうして戸籍が作られていない子供の把握には最近は行政も本腰を入れ始めている。
無戸籍の方がもしここを見ていたら、あるいは知りあいに無戸籍の人がいたら地元の法務局に行こう。
ある程度の時間や手間はかかるが、戸籍に載せてもらう手続を教えてくれるし、最終的に戸籍に載せてもらうまでの間、行政サービスを受けることも可能である。
ただし、行政側も担当者の知識不足でせっかく現れた無戸籍者を追い返してしまう例もあり、粘り強さも必要になってくる。

なお、中国なんかでは人口が多いので、闇っ子の数も相当になっている。中国では黒孩子(ヘイハイツ)と呼ばれている。
一人っ子政策の採用も大きな原因の一つ。因みに一人っ子政策とは、子供を1人だけにするなら補助金が支給され、2人以上つくると月給10%オフ!というもの。
それ故、戸籍上には存在しない2人目がいっぱいいる。
別に子沢山に憧れている訳ではなく、働き手としての2人目が多い。

そして中国の闇っ子問題にとって1番重要なのは、闇っ子は国勢調査の対象にならないということ。
ここまで言えば分かるだろうが、この子達の存在が「中国の国勢調査結果と現実とのズレ」を生じさせている理由のひとつになっているのだ。
養う事の出来る経済力、しっかり育てる事の出来る環境を絶対に作れるという自信が無い人は命を産み出してはいけない。
ただし、現に生まれたならば親を責めてはならないのである。



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最終更新:2022年11月10日 17:48