赫炎のインガノック -what a beautiful people-

登録日:2009/06/20(土) 08:50:08
更新日:2022/09/26 Mon 17:17:37
所要時間:約 11 分で読めます




――誰かが夢見た世界

――いつか夢見た世界


――けれど、こんなにも猥雑で、残酷で、憂いに満ちて、眩しいほどに輝いて――



【概要】

2007年11月22日に発売されたライアーソフト第21作目。スチームパンクシリーズとしては第2弾にあたる。
ジャンルは「幻想閉鎖都市ADV」。全12章。

随所に魔術や聖書のネタが散りばめられており、大変読み応えのあるシナリオとなっている。
…が、予備知識無しでは所々で展開の意味を理解できず「?」となってしまうので注意。
特に終盤あたりは頭ではなく心で感じた方が楽しめるかもしれない。

また、スチパンシリーズの常ではあるもののエロが壊滅的。
その有様は一部のプレイヤーから「大人向けの童話だな」「これ『エロゲ』じゃなくて『アダルトゲーム』だろ」と言われるほど。
絶対にそちらを期待してプレイしてはいけない。

しかし、いったんハマるととことんハマる。
そのため隠れた名作として名高く、某動画サイトの個人的エロゲランキングでも地味にランクインしている。

2011年12月22日にフルボイスでリメイクされた。
この時は「ギー先生がフルボイスになった!」男キャラの声が大幅増加した事を喜ぶファンが多数出現した
このフルボイス版はイベントCGが追加された上、PC版よりずっとお手軽な値段となっている。これからプレイする人はこちらから入るのもいいかもしれない。
なお、同じくらいの値段で(パートボイスかつ追加CGなしだが)DL販売も行っている。これで家族に配達受け取りされたくない人も安心だね!


【スタッフ】
企画原案・シナリオ:桜井光
原画・キャラクターデザイン:大石竜子


【ストーリー】
異形都市インガノック。
積層型巨大構造体から成る完全環境都市であったそこは、10年前に起こった《復活》と呼ばれる現象で外界から隔絶されすべてが歪んでしまった。

100万を超す住人のうち、変異を免れたのは都市上層の貴族のみ。
都市下層は異形と奇病と暴力で満ちあふれていた。

現実を書き換える特異な能力「現象数式」を大脳変異により身につけた医師ギーは、今日も都市を歩き続ける。
救いを求める下層の人々を癒し続けながら、手を尽くしてもこぼれ落ちていく無数の命を憂いと共に見つめて。10年前に失ったものが一体何であるのかを確かめるように。

──そして、出会う。
──ふたりに。

ひとりは少女。その名はキーア
もうひとりは影。その名は《奇械》ポルシオン。
それは人に「美しいもの」をもたらす、インガノックただひとつの希望──


【登場人物】
ギー

声:古河徹人/竹田彬夫
主人公。異形化した都市で弱者に手を差し伸べ続ける巡回数式医。常に憂いを帯びた表情を浮かべている。
現象数式で肉体の代謝を抑制しており、青年のような見た目に反して実年齢は30代後半から40代手前といったところ。
ある日突然背後に顕現した≪奇械≫ポルシオンと自らの現象数式で人々を脅かすものを砕いてゆく。
大脳変異で食欲や睡眠欲などを失っているため、放っておくと冗談抜きで死ぬまで働き続けてしまう困ったドクター。
冷静沈着なように見えて致命的なまでのお人好しだが、《復活》より前はもっと明るい性格だったらしい。


キーア

声:かわしまりの
今作のキーパーソン。包容力に溢れる少女。
過酷な10年間でインガノックから失われつつあった優しさや思いやりといった美徳を失わずにいる。そんな彼女の影響で周囲は少しずつ変わっていく。
メインヒロインだが攻略はできない。というか、そもそも攻略という概念がこの作品には無い。


アティ

声:野月まひる
今作のヒロイン。
≪猫虎(プセール)≫に変異した荒事屋(ランナー)の女性。右瞳が黄金瞳になっている。
ギーとは10年来の付き合い。その間ずっとつかず離れずの距離を保っていたが、キーアの登場で少しずつ焦りを感じ始めることに。
その一方でキーアとも良好な関係を築いてゆき、度々彼女から「ギーと一緒になればいいのに」とプッシュされるようになる。
表面上はギーへの好意を否定しているが、彼の身の回りのことをこなすキーアに嫉妬を感じる時点でその本心は明らか。
本人もそのような矛盾は感じており、物語が進むにつれて複雑な感情を持て余すようになる。


ケルカン

声:越雪光
特1級指名手配犯。炎を操る現象数式に加えて、失血死をもたらす≪奇械≫クセルクセスを有している。
インガノックで苦痛と共に生き続けるよりは死んだ方が当人にとっての救いになるという考えのもと、希望をなくした人々を身分や人種の差別なく殺め続けている。
ギーとは過去に顔を合わせたことがありお互いに嫌いあっている。
激しい「怒り」を抱えているが、本人もその感情の正体は捉えきれていない。
実は、彼とギーの行動原理はまったく同じ出来事を違う捉え方で見つめたことに起因している。
しかし本人たちはそれを覚えていない。


ルアハ

声:青山ゆかり
全身を改造された機関人間。自分は果たして「人間」なのかただひたすらに考え続ける少女。
ある事件でキーアに人間性を肯定され、それからは彼女の傍にいることで答えを得ようとしていたのだが…。


老師イル
声:山本兼平
影の猫。傍観者。幻想人種≪観人(エゼク)≫の老人。
暴力と悲劇に満ちるインガノックの中にあってその言動はどこか飄々としており、達観したものがある。
よく釣りをしているが、およそ碌なものが釣れないようだ。
「大空を舞う我が娘をこの目で見ることは適わない」という言葉や「イル」という名前から前作の主人公であるコニーとの関係が窺われるが、詳細は不明。


ランドルフ・カーター
幻想人種《穴熊》の老人。自他ともに認める狂人。
ギーの知人であり、「銀の鍵」というものを求めて穴を掘り続けている。


デビッド
声:ますおかゆうじ
アティの仕事仲間の荒事屋。
鳥の特徴を持つ幻想人種≪鳥禽(パルデス)≫に変異している。
アティとはもっぱら嫌味の応酬をしており、ちょくちょく「嫌な鳥さん」と呼ばれている。
とても気のいい男で暗めの話が多い今作の清涼剤。


パル、ルポ、ポルン
声:青山ゆかり、柚木サチ、理多
義肢を付けた子どもたち。
他の2人をリードしている快活な女の子がパル、やんちゃな印象を受ける男の子がルポ、
≪蜥蜴(ミシューフシ)≫に変異している引っ込み思案で大人しい女の子がポルン。
3人とも早期の≪樹化病≫に侵されていたところをギーに救われた患者で、本編開始前から付き合いがある。
機関工場に住み込みで働いており、労働環境はあまり良くない。
ギー曰く「いつ工場長が3人を虐待し始めてもおかしくない」らしいが、そんな中でも常に明るく元気に過ごしている。
デビッドと並ぶ今作の清涼剤。


エラリィ
声:山本兼平
医学生時代からのギーの友人。
世渡りが上手いらしく、上層とのコネクションを持っている。
ギーが使う医薬品類はもっぱら彼から横流ししてもらっている。
本編とはあまり関係ないが第1章でのサレムの発言からバイ疑惑がエフンエフン。


グリム=グリム
声:真田雪人
ギーの視界に度々現われる仮面の道化師の幻。
ギーはこれを「自らの内に潜む狂気の象徴」として無視し続けていたが…。


大公爵アステア

声:滝沢アツヤ
偉大なる碩学にして魔術師。都市インガノックの頂点に君臨する者。
作中何度も黄金螺旋階段を登る彼の姿が登場するが、その目的は…。
ゲームパートの「心の声」によると、実の娘がいたらしいが10年以上前に駆け落ちして行方がわからなくなっている。
アステア自身は娘の行方を掴んでいたようだが、その幸せを願って連れ帰ったり追いかけたりはしなかった模様。


クロック・クラック・クローム
声:小次狼
白銀の懐中時計を持つ男。
黄金螺旋階段のふもとで何かを計測し続けている。
かつての彼についてはその一部がWEBノベルで語られることになる。


レムル・レムル

声:理多
黄金螺旋階段の果てで「黒いもの」に包まれている少年。
大公爵に向かってその行いをあざ笑うかのような言葉を投げかけている。
キーアのことを知っており、彼女に対して並々ならぬ執着を見せている。
そして、キーアに好意を寄せられているギーに激しい嫉妬を抱いている。
ラスボス候補だったが、最終章中盤でサクッとやられてしまう
あまりにもあっさりかつカリスマの欠片もないやられっぷりだった事と、ギーに嫌がらせしたいがために行った「ある所業」から
クリアしたファンからは「噛ませ」だの「愛されないヘタレ」だのと呼ばれている


機関精霊
声:猫屋敷なつ
機関工場からポコポコ生まれる幻想生物。
声がかわいい。癒し要因。



第1章「空、太陽がふたつある」
サレム

声:歌織
ギーの医学生時代の友人。
かつてはギーと同じく上層大学で学ぶ学生だった。
現在は娼婦として働いている。
変異による肉体の変化に悩まされており、ある行動によってその悩みを断ち切ろうとしたが最終的には狂気に堕ちた。


第3章「音、奏でればきっと」
ドロシー・ウッドストック

声:柚木サチ
致死率100%で現象数式による治療も不可能な≪樹化病≫に侵された少女。
元は上層貴族の生まれで全身に貴族紋が彫り込まれている。
生きる希望をなくしており、彼女を気遣うスミスを完全にいないものとして扱っている。


ジョン・スミス

声:どぶ六郎
≪狗狼(マティスム)≫と≪蜥蜴≫の両方の特徴を有している老人。ドロシーの保護者。
実際はドロシーと同年代か少し年上ぐらいの青年なのだが、変異によって通常では考えられない早さで老化が進んでいる。
西享の血を引いており、それが理由でインガノックの住民からは差別的な扱いを受けている。
ドロシーを救うためにギーのある提案に乗り、そして…。


第5章「今、あなたの涙はここに」
ヴォネガット

声:真木将人
幼い情報屋、アグネスとフランシスカの祖父。
重度の病で長くない。
少年の頃に「かたちのない何者か」と出会い、ほぼ一目惚れに近い形で恋におちる。
その時に交わした約束を胸に秘めて再会の時を待っている。


くろぎぬの子

声:歌織
自身の名すらわからないが、何かを探している少女。


第6章「窓、雨の流れ落ちる夜に」
マグダル

声:かわしまりの
アティと同じ≪猫虎≫の女性。
夫と息子を亡くした未亡人。現在は娼婦として働いている。
過酷な現実から逃れるために麻薬「アムネロール」に手を出し、家族が死んだ事実を忘れている。
ある一連の出来事で再び生きる希望を得るものの、その矢先に…。


ヨシュア

声:柚木サチ
マグダルへ手紙を出し続けている≪鳥禽≫の少年。
マグダルのことをよく知っており、彼女の方もヨシュアの手紙が来るのを心待ちにしている。
しかし、何故か手紙のみで直接会おうとはしない。
本人いわく「まだ早い」らしいが…?
背後に≪奇械≫を顕現させている。


第7章「声、今は届かなくても」
サラ・センケンネル

声:青山ゆかり
上層貴族の中でもトップクラスの名門、センケンネル家の次期当主である少女。
幼馴染のクルツに恋しているが、生来の気の強い性格から中々素直になれずにいる。
ギーを上層へ招聘し、体を動かすことすら困難になったクルツの治療を依頼する。


クルツ・ヒラム・アビフ

声:来栖川勇
穏やかで理知的な上層貴族の少年。サラの幼馴染。
ある日を境に大公爵の館から謎の小瓶が送られてくるようになり、それを飲むうちに身体が衰弱していった。
小瓶の中身が病の原因だと気付いているが、サラまで大公爵に粛清されることを恐れてその意思を拒否することができずにいる。


第10章「花、咲き誇るあの日を」
ペトロヴナ

声:野月まひる
赤紫の瞳をもつ謎の女性。
レムル・レムルによって解放され、ギーの前に現れた。
都市の誰もが忘れているはずの「10年前の出来事」を覚えている。



【音楽】
音楽のクオリティに定評があるスチパンシリーズだが、今作もとにかく粒ぞろい。
特に戦闘曲のひとつである「戦闘/力の顕現(Right hand from behind)」は非常に人気が高い。
日常シーンのBGMもインガノックの閉鎖的な雰囲気とマッチしており、世界観の形成に一役買っている。
でもサントラは非売品。大機関BOXのDL版を購入しない限りは手に入らない。仕方ないね。

ちなみにOPテーマのタイトルである「Adenium」砂漠の薔薇の異名を持つアデニウムという花から取られており、
歌詞にも「砂漠の薔薇」というフレーズが入っている。
また、EDテーマの「IKOVE」は南米の先住民の言葉で「生きる」「育む」という意味である。
この意味を知った上で最終章やWEBノベルのラストシーンを思い返すと感慨深いものがあるかもしれない。





10年前の真相を知り得た方は


追記・修正お願いします。




画像出典
赫炎のインガノック-What a beautiful people-
発売日:2007/11/22(フルボイス版:2011/12/22)
販売元:株式会社ビジネスパートナー・Liar soft
イラストレーター:大石竜子

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最終更新:2022年09月26日 17:17