ファティマ・ファティス

登録日:2011/10/02 (日) 21:10:14
更新日:2023/09/23 Sat 15:34:38
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「人間達は恐れたのよ……自分達を超える存在を……」


◇ファティマ・ファティス◇
ファティマ・ファティス……或いは単にファティマは、
永野護の漫画作品『ファイブスター物語』に登場する架空の概念、キャラクターの総称である。
一言で言えば、究極の戦闘兵器である巨大ロボット=MH(モーターヘッド)をコントロールする為“だけ”に生まれて来た人工生命体であり、
人類の手により生み出された新たなる生命=生きたロボットやアンドロイドとも呼ぶべき存在である。

壮大な群像劇である『FSS』に於いて登場して来る「騎士」達全員がヒーローであるとするならば、
「ファティマ」はヒロインであると言っても良い。

……しかし、その存在は華やかな一面だけでは無く多分に負の側面、悲劇的な要素を持っているのも特徴であり、
それは古典SFから引き継がれた「異質な生命」への畏怖と憧憬……そして、そこから当然の様に予想され得る迫害の物語を『FSS』もまた踏襲している事の証明なのであろう。


以下に、人類の禁忌への欲求と、戦争の為に生み出された兵器たる「ファティマ」の概要を紹介してゆく。



【概要】

『FSS』の舞台であるジョーカー太陽星団に誕生した、超人たる「騎士」が操る究極の戦闘兵器であるMH……。
そのMHの戦闘中に発生する膨大な量の情報をリアルタイムで演算処理し、騎士を補佐するべく生み出されたのがファティマである。
その大脳は人間のものとは全く異なっており、電子情報を直接授受できる。そして神経に走るスキップ電流すべてで演算処理を行う、言うなれば立ち歩くヒトガタのコンピューター
人体というマザーボードの上で、神経細胞すべてが演算チップとして働いていると考えてよい。

それ以前のMHは地球同様にコンピューターを使用していたらしいが、パイロットでもある騎士が同時に地形や天候、
気圧の変化をも含む外部情報や数十から数百に及ぶ火器管制、コントロールシステムの情報処理と統制を行うのは
常人の数倍の反応速度を持つ騎士とジョーカー最高峰のバイオCPUでも「不可能」であった。
コンピューターの情報処理が遅れたままの、いわばひどい処理落ち状態で動くMHはそのままでは不完全であり、
計算速度・反応速度・マルチタスク能力の三方を満たす新型のコンピューターがなければならないと認識された。

星団で初めて「ファティマ」の理論を完成させたのは2000年代初頭の天才科学者ウラニウム・バランス公である。
この時点でウラニウム博士は当時のバイオコンピューターをも超える、直感をも含む人間の頭脳と神経電流の演算反応速度に着目していた。
もちろんMHの膨大な量の情報をただの人間に流し込めば吹き飛んでしまうが、超人類である「騎士」の強靭な神経組織ならば、あるいは堪えきる…と考えていたのである。


……そして、その理論は矢張り2代後のバランスの名を継ぐ人物により実現される事となる。



【ファティマの誕生】

星団に於けるファティマの誕生は2310年、リチウム・バランス公により成し遂げられる事となった。
この時、博士により生み出された4体の美しい少女の姿をしたファティマは以下の4体であり、彼女達は「4ファティス」とも呼ばれている。

◇ザ・フォーカスライト
◇ザ・ニーヴ
◇ザ・ソリッド・ステート・ロジック(SSL)
◇ザ・インタシティ


……この内の1体であるフォーカスライトを用いて、リチウム公が修めるフェイツ公国の騎士ナッカンドラ・スバースとゼビア・コーター博士が星団で初めてファティマを搭載する事を前提に作り上げたMHクルマルスの1号騎「バイロン」が見せたデモンストレーションに星団中は度肝を抜かれた。

伝説のみで語られる超帝国の技術が廃れてから2000年……ゆっくりと衰退の道を歩み続けて来た星団の科学に、
新たなる「革新」が起きたのを目の当たりにしたからである。


……この後、リチウム・バランス公は自らが作り上げたファティマの「胚」を公開。
ファティマは、兵器として生産されて行く事になるのである。

【発生】
ジョーカー星団の人類が手に入れた最高の演算チップは、超強化された改造人間の神経細胞だった。
当然、それが動く「マザーボード」は人間を使うのが一番効率がいい。
…というわけで、ファティマは強化情報を組み込まれた「人間」として生まれてくる。
ジョーカー星団では一般的な技術である分子組み立て技術を使い、人間と同じ受精卵をベースにしてその遺伝子に情報を組み込み、
培養ポッドの中で誕生し、成長し、その過程で戦闘コンピュータとして「教育(チューン)」されるのだ。
正しく人造人間、それも受精卵レベルでの人造である。倫理も何もあったものではないが、
ジョーカー星団はすでに騎士という「人間の代わりに現場の戦闘を行う人造人間(ロボット)」を作っているので今更ではある。

【能力と規制】

以下に、戦闘兵器たるファティマの特徴と、その存在に掛けられた規制の大まかな説明を記す。

■外見と肉体
圧倒的に女性(メス)が多いのは、人間もそうだが生物の胚が最初は女性の為。
通常の人間とは体格が大きく異なるが、これは「人間では無い」事を示す為の記号であり、
更に外科手術で取り付けられる頭部のヘッドコンデンサや黒目を見えなくする為のアイコンタクトも同じ理由。
特徴的なファティマスーツを始めとするファッションも、結局は規制の為のアイテムなのだ。


■パワーゲージ

●戦闘能力
●MH制御能力
●演算性能
●肉体耐久値
●精神安定性

パワーゲージは上記の5つで表され普通は「A〜D」の5段階。
※パワーゲージ「A」以上の付加を許されるのは四大マイトや高名なマイトのみ。

■クリアランス
パワーゲージだけではなく、そのファティマの「素性」を元に判断される実用性のランクづけ。
数値上のスペックが高くても信頼性がメチャクチャで実用面でアウト、という例は地球でもありがちな話である。
ちなみにこの基準は、ダイヤモンドの微細キズ評価基準が元ネタ。

●S2:廃棄レベル
●S1:使用不能
●VS2:一般
●VS1:良質
●VVS2:高級
●VVS1:最高級
●F:フローレス

※フローレスは僅か数名しか存在しない。何らかの出来事に基づく「歴史上特別なファティマ」という位置づけ。

高名なマイト(制作者)による超級ファティマは「銘入り」と呼ばれ、
パワーゲージ、クリアランス共にレベルが桁違いであり、娶れる事は騎士の誇りである。
だが工場製ファティマや無名マイト製ファティマからも偶発的に高いスペックを持って生まれるファティマがいる。
また幸運に多くの戦闘経験を経て生き残る事で、能力を拡大させたファティマも現れる。
そういったレアケース、あるいは叩き上げファティマにはまた別のドラマが生まれる。
ファティマ・パルスェットは前者の例。
原初の4ファッティスの1人「インタシティ」は、数多の経験を積んだ事で開発当初より能力が向上している事が本編で描写された後者の例である。

■能力
騎士の反応速度を持つと云う事実からも分かる様に、ファティマの「胚」は「騎士」の遺伝子から生み出されている為に、
ファティマは「星団歴の騎士」の約75%の身体能力も持つ。
これは、当然ながら生みの親である通常の人類を遥かに超えるレベルにある。
尚、通常の人間は90年程(ジョーカーの時間)で成人するが、ファティマは育成カプセルの中で20年程で成人する(※あらゆる教育や知識はこの期間中に睡眠学習により刷り込まれる)。
更に兵器としての安定度を求めるべく、ファティマは成人した以降は「不老」であり、寿命も通常の人類より遥かに長い……。
容姿も皆美しく、これらの事実が以下の規制を生む結果となった。
……つまりは、生みの親の嫉妬である。



【ファティマの規制】

上記の様にファティマの能力は通常人類を遥かに凌ぐ事から、星団ではファティマに絶対的な規制を掛けている。
騎士とは違い、ファティマは確実に最低限でも超人的能力を持って生まれて来る事も理由なのだろう(つまりは反乱防止である)。


×生殖能力の剥奪
セックスは可能だが、生殖機能は退化させられており自然生殖は不可能(ファティマ自身には性欲も無い)。

×人間への完全服従

※庇護してくれるマスター(騎士)の居る場合。

  • 人間にマスターの命令が無ければ危害を加えてはならない。
  • マスター以外の命令は受け付けない。
  • マスター以外の人間の言葉は尊重する。

※マスターが居ない場合(はぐれファティマ)。

  • 人に危害を加えてはならない。
  • 自分が殺されても他人に暴力を振るってはいけない。
  • 人間の様に振る舞ってはいけない。

……上記の様に騎士の居るファティマはともかく、騎士無しのファティマは犬猫以下の扱いであり、
こうしたファティマ達は心無い人間の慰み者にされ、戯れに犯されたり殺される事になる。
尚、一部のファティマを除いては精神に刷り込まれた抑制プログラム=「ダムゲートコントロール」により、この命令には絶対に逆らう事が出来ない。
『FSS』本編でもパルスェットやバーシャのエピソードで嫌な気分を味わった読者も居る事だろう。



【ファティマの権利】

上記の様に生命体としての基本的な保護すら否定されているファティマが持つ唯一の権利が、
仕えるマスター(騎士)を自分で選べると云う事である。
ファティマは誕生すると「お披露目」に出され、其処で自分の仕える騎士を選択する事になる。
この騎士の選択は好みのタイプ……では無く、能力や相性で判断されるらしいのだが、
良く判らないのでやっぱり好みのタイプだからで良いかもしんない。
これを騎士(人間)が否定する事もできない。何となれば、騎士とファティマの相性によってモーターヘッドの能力は3倍もの差がつくのである。
因みに、騎士とファティマの主従関係はどちらかが死ぬまでか、騎士の「you must hunt the next master(次の主を探せ)」の言葉によりプログラムが解除されるまで続く。
「魔導大戦」では剣聖ダグラス・カイエンが自分専用に創られたパートナーのアウクソーを上記の言葉によりプログラム解除する場面が登場するが、アウクソーは「普通のファティマ」では無い為に精神崩壊を引き起こしてしまった。


【ファティマの胚】

詳しくは『騎士(FSS)』項目を参照して頂きたいが、ファティマの理論が完成していながらも、
実際に誕生させる事が出来なかったのは劣性遺伝である「騎士」の能力が確実にファティマの「胚」に付加出来なければ、
ファティマの存在に意味が無かったからである。
……しかし、この問題はグリース王国で目覚め天照帝からフェイツ公国に導かれた「ある人物」の遺伝子により解消される事となった。
……2000年の時を経て蘇った超帝国最後の騎士ネッド・スバースこと初代剣聖ナッカンドラ・スバース……。
ファティマの「胚」は彼の遺伝子を持つ故に、100%「騎士」の能力を持って生まれて来るのである。



【エトラムルファティマ】

上記に書いたように人に近い見た目をした「ファティマ」は諸権利が制限されているにもかかわらず人々からは偏見の目で見られている。
それどころか「騎士」のなかにすらファティマに嫌悪を持つ者も多い(現実にも、人形を嫌がる感性を持つひとは多い)。

また、「MHマイト」のなかにも人型ファティマはむしろ不安定要素だと考える者もいる。
3030年代のビリディアン教授やヒュードラー博士も愚痴っている事だが、人型ファティマは急いで育成しても完成までに10~15年。
さらに先述の「相性問題」のため、10体がロールアウトしても騎士の元に嫁げるのは2体がいいところ。
これでは国家戦力としてはあまりにも回復に時間がかかりすぎる。
その訴えへの回答のひとつがエトラムルである。

星団歴2300年頃に著名なファティマ・マイトだったガリュー・エトラムルによってとある「ファティマ」がお披露目された。
その「ファティマ」は人型をしておらず培養層に浮かぶ奇怪な巨大なミジンコのような姿をしていた。
これが「エトラムルファティマ」である。
人型ファティマと違い純然たる生体コンピューターに近く維持費などのコストが安く済みあくまで精神を持たないので安定していることから、
エトラムルを好む騎士や騎士団やマイトも多い。なかでも高名なマイトが作る「エトラムル」は美しい見た目と高い性能から高値で取引される。
その反面、「騎士」にとっての救助などの補佐的な行動は当然とれず、
戦闘力自体も人型ファティマに比べると銘なしの工場製の一般的なエトラムルは二割ほど劣ってしまう。
だが、この「エトラムル」こそが「ファティマ」として正しい姿という意見も存在する。
また生産においても安定性があるがその代わり人型ファティマに時々出てくる突出した特性を持つ突然変異もない。
  • ここがエトラムル最大の問題点。一対一の繰り返しで「紛れ」もほとんど介在しないMH戦において、
    似たような戦力の騎士ばかりで国家戦力を編成していると突出して強力な敵エース騎士に無双されかねないのである。
    それを承知の上で平均的な強さの騎士の数を揃えてパワーウォールするか、突出したエースの発生に期待するかはお国柄が出る。
星団一と呼び声高いMHマイスターのレディオス・ソープによれば「エトラムル」搭載型は動きに優雅さがないといい*1
熟練の騎士であればMHの動きで「エトラムル」か「人型」を見分けられるという。



【余談】
なぜこんなものが発案されたかというと、旧版単行本第1巻の本人あとがきによれば
「現代の戦闘機もコンピューターの補正なしにはまともに動かないし、巨大ロボットともなれば「超」コンピューターなしじゃ
コレ動かんわ→でもただのAIはイヤだ、人真似はしたくねえ*2
→よし、人造かつガチの「人間」にしてやろう」
という想像力暴走の結果であるとのこと。

なお永野氏がデザインを担当した『重戦機エルガイム』にも登場する予定だけはあった*3
結局没設定となってしまったが、そのためか初期のスーパーロボット大戦シリーズでは「強化パーツ」として登場している。


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最終更新:2023年09月23日 15:34

*1 ソープの正体を思うと、なんとも複雑な評価である。

*2 そう言ってはいるが、ライトセーバーのアイディアを含めて永野氏のデザインはかなりの事柄がパクリないしオマージュだったりするのだが…

*3 おハゲ様が「さすがにそれはやめろ」と止めたらしい。