カウンターポスト(MtG)

登録日:2011/04/15(金) 00:48:59
更新日:2024/04/20 Sat 18:07:04
所要時間:約 7 分で読めます




悪役、敵役、ヒール、憎まれ役――

彼らは劇を盛り上げる。見る第三者の闘志を煽り、同じ舞台に立たせてくれる「ドラマの華」と言えるだろう。

では、Magic the Gatheringにおいてそれらの言葉に最も相応しい色、又は色の組み合わせはどれであろうか*1

利己的で他人はおろか自分の手下すら犠牲にする黒?
気に入らない物は憤怒と本能をブチまけて破壊する赤?
他人の思考を覗き見て呪文をこねくり回す青?
ではそれらの組み合わせ?





いやいや、然に非ず。
昔からマジックに親しんでいる人ならば、口を揃えてこう言うだろう――

知識の青正義の白の組み合わせだ、と。









手札破壊の「ハンドデストラクション(ハンデス)」、土地破壊の「ランドデストラクション(ランデス)」になぞらえた標語、「やる気デストラクション」と共に一世を風靡した、多くのマジックプレイヤーにとっての冷徹なる敵――

青白超絶低速デッキ『カウンターポスト』は、そんなデッキである。


概要


青白で組まれたコントロールデッキでスタンダードにアイスエイジが参入したことで成立した。
主なカードは以下のとおり

Kjeldoran Outpost (キイェルドーの前哨地)
土地
Kjeldoran Outpostが戦場に出る場合、代わりに平地を1つ生け贄に捧げる。そうした場合、Kjeldoran Outpostを戦場に出す。そうしなかった場合、それをオーナーの墓地に置く。
(T):あなたのマナ・プールに(白)を加える。
(1)(白),(T):白の1/1の兵士・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。

Thawing Glaciers (融けゆく氷河)
土地
Thawing Glaciersはタップ状態で戦場に出る。
(1),(T):あなたのライブラリーから基本土地カードを1枚探し、そのカードをタップ状態で戦場に出す。その後、あなたのライブラリーを切り直す。次のクリンナップ・ステップの開始時に、Thawing Glaciersをオーナーの手札に戻す。

島/Island
基本土地 島
(T):あなたのマナ・プールに(青)を加える。

平地/Plains
基本土地 平地
(T):あなたのマナ・プールに(白)を加える。


一般的には、デッキ60枚中
  • 土地:28枚ほど
  • 神の怒り対抗呪文といった防御、妨害、牽制カード:約28枚ほど
  • 残りの数枚:ドローカード、つまり手札を整えるカード
を採用する。


デッキの基本動作はこうだ。

多目に投入された土地とglaciersで1ターン1枚の土地増加を確実なものとし、機を見てOutpostとそのトークンを並べ、防御に回す。
更に豊富な土地から先述の妨害カードを相手に撃ち込み続ける。



撃ち込み続ける。



撃ち込み続ける。



撃ち込み続……



撃……







前に述べたデッキ構築が示す通り、カウンターポストは勝つ為だけのカードなど用意しない。

後のミルストーリーのように山札を削ることもしない。
セラの天使や変異種も必要ない。

『山札内を全て防御カードにすれば安定した動きが実現出来る。相手のことなど知らん』

これがカウンターポストのやる気デストラクションたる所以だ。
とはいえ、相手に行動させなかったとしても、glaciersでデッキから土地を絞り出す都合上、そのまま行くとカウンターポスト側のデッキが先に尽きて負けてしまう。
他人の邪魔をするだけで上手くいくほど、人生甘くはない。

では相手を完全に制圧し切ったあと、どうやって勝つのかを以下に記そう。


勝ち筋

1,兵士トークンで攻撃する

outpostを使用する最大の理由はここにある。
いくら悪斬が強いと言っても、序盤に引いてしまってはただの紙と変わりない。
その点、序盤から防御に使え、終盤相手が消耗すれば攻撃に使えるoutpostのなんと合理的なことか。

ただし、パワーもタフネスも1であるトークンは攻めに時間が掛かり、相手のクリーチャー破壊から守り切るのは不可能。
破壊されては少しずつ出し直すのだ。時間稼ぎには事欠かないのだから。

また、《剣を鍬に》で相手を回復させることが更に長期戦傾向に拍車を掛ける。


剣を鍬に/Swords to Plowshares (白)
インスタント
クリーチャー1体を対象とし、それを追放する。それのコントローラーは、そのパワーに等しい点数のライフを得る。

なんと気の長いことか……。べっ、べつに兵士トークンでしか勝てない訳じゃないんだからね、ホントなんだから。


2,相手の山札が尽きるのを待つ

60枚から初手で7枚と1ターン1枚ずつ引き、山札が尽きるまでに掛かるターン数が40を悠に超えることは言うまでもない。
ならば相手の山札を削るかと言えば、その為には山札を削るだけで防御に役立たないカードを採用しなくてはならない。

カウンターポストはそんな無駄なことはしない。全てのカードが防御と嫌がらせに回せるよう組まれるのがカウンターポストなのだ。


Soldevi Digger(ソルデヴの掘削機)(2)
アーティファクト 
(2):あなたの墓地の一番上のカードを1枚、あなたのライブラリーの一番下に置く。

フェルドンの杖/Feldon's Cane (1)
アーティファクト
(T),フェルドンの杖を追放する:あなたの墓地をあなたのライブラリーに加えて切り直す。


一見山札の回復以外に用を為さないように見えるこれらのカードだが、glaciersとの相乗効果は高い。

glaciersが土地を山札から引っ張り出すということはつまり、「墓地と山札は土地以外のカードだらけ」である。
その状態から使用済みカードを山札に戻していけば、再び手札に妨害カードが舞い込む、という寸法だ。
本来、欲しいカードを山札に回収したからと言ってソレを引き直せるとは限らず、再利用手段として心許ないこれらのカードも、デッキは引き尽くして当たり前のカウンターポストならば、「勝利手段」と「カード回収」の二足のわらじを履くことになる――やられた方は堪ったものではないが。



ちなみに、もっと早くゲームが終わる方法もある。


3,相手が投了する

上記1と2を延々と繰り出し、『もはや勝ち目無いだろ……』と相手に思わせればちょっとだけ早く終われる……かもしれない。

コレを狙う際には相手のやる気を削ぐ演技も重要である。
手札に持っていないのに島を大量に立たせてたくさんの手札を抱えて対抗呪文をチラつかせてブラフとする等工夫を重ねたいところ。
ただし、やる気をデストラクションし過ぎると人間関係もデストラクションする恐れがある、とだけは附記しておく。



これら序盤の地固めから終盤の詰めまで、ドローカードが幅広く役に立つ。


渦まく知識/Brainstorm (青)
インスタント
カードを3枚引き、その後あなたの手札からカードを2枚、あなたのライブラリーの一番上に望む順番で置く。

神ジェイスの±0能力の元になった呪文。
このカードは土地の多いデッキにありがちな、「土地を引きすぎて呪文が引けない」「十分な土地を引けずに必要な呪文を打てない」というマナ問題をglaciersとのタッグで回避する潤滑油である。
戻した土地も《Thawing Glaciers》でデッキをシャッフルするので問題ない。今で言うブレストフェッチである。


マジック史におけるカウンターポスト

プレイヤー塚本俊樹の長考もあって決勝トーナメントでは1ゲーム1時間、1マッチ3時間。それを準々決勝、準決勝、決勝と合計で9時間戦ったというアジア太平洋選手権97での準優勝、
日本選手権でのトップ3独占など、華々しく活躍したカウンターポストだったが、
その陰にはニコリともせずに席を去る対戦者や、
マジックを始めて間もなく毒牙にかかった初級者達が一体どれ程居たか分からない。合掌。


戦術史においては「防御と攻撃を兼ねるカードを軸にする」という戦術思想を広く根付かせた功労者。
Caw-Bladeなどはカウンターポストの思想を受け継いでいると言えるだろう。
あとは
  • 「勝ち手段が変わり谷か思考ジェイスの奥義、それか1枚差しの不死の霊薬を使いまわしてLO」なラヴニカ回帰+テーロス期のアゾコン
  • 「勝ち手段は清純のタリスマンで回復しながらエヴィンカーバイバックか血まみれの書の呪いのLO。運よく生き残れば占い師かサイドのアンコウで殴り倒す」というPauperの青黒コントロール
などは直系の子孫と言えるだろう。両者ともに時間が異常にかかる。


弱点

トップメタの一角を成したカウンターポストだが、もちろん弱点も存在する。メタられればしっかり負ける。

  • 1.打ち消されない。破壊されないなどのアンタッチャブル持ちのクリーチャー
打ち消されないクリーチャーはテンペストで初登場、破壊されないはもっと後の時代なのでカンポスには関わらなかったが、当時に存在すれば脅威だっただろう。
手こずったのはプロテクション(白)を持つ小型クリーチャー、たとえば黒騎士/Black Knight。
構造上、こいつが出てくると神の怒り以外に止める手が無いのである。

戦史上では香港型黒単(タイプ・イン・ホンコン)という黒単ウィニーに轢き殺された出来事が有名(APAC1997)。
上に挙げた黒騎士のようなカンポスが苦手とする小型クリーチャーで押しまくって神の怒りの使用を強要する。そして裏のターンで墓石の階段/Tombstone Stairwellが…

  • 3.カウンターポスト
メタの一角を占めるデッキを使う以上、避けては通れないミラーマッチ
カンポスのミラーマッチは地獄である。≪政略/Political Trickery≫やフェルドンの杖のようなキー呪文を通すために、カウンター呪文を手札に溜め込んでにらみ合いをしないといけない。

  • 4.時間切れ
勝つのに非常に時間がかかるため、現在のMTGの大会の1ラウンドの制限時間50分では早くしないとラウンドが終わらず、引き分けや負けになってしまう可能性がある。

  • 5.土地を破壊する土地
天敵。
カウンターできないカードにOutpostやThawing Glacierを割られてしまっては手も足も出ない。
前の環境には露天鉱床/Strip Mineが、テンペストには不毛の大地/Wastelandがあった。その狭間の時代だったのがカンポスが活躍できた理由でもある。


最後に

青白という組み合わせはマジック黎明期から現代まで休むことなく舞台に上がり続ける定番であり、
対戦中は嫌な顔をされ、勝った相手はとても清々しい表情を見せる名悪役である。
カウンターポストはその代表格。機会があれば、対戦を試みてはどうだろうか。

壁に穴が空いても補償はしないが。

残念なことに最近の環境下でこれを再現しようにも、狭い環境では神の怒り対抗呪文は姿を消し、代用品はマナコストが重くなったり範囲が狭くなったり。そして青の打ち消し呪文もドロー呪文も昔に比べ陰りを見せている上に、クリーチャーの質は大幅に向上しているため速度負けする可能性が高い。広い環境では完全再現は可能だが、そこでもクリーチャーの質には悩まされるだろう。
そもそも完全再現しようとすると必然的にレガシー環境より下ということになるが、それらの環境ではスタンダード落ち後に主戦場をエクステンデッドに移したこのデッキが活躍できなかった原因である《不毛の大地/Wasteland》が跋扈しているために活躍は難しいであろう。
平地を生贄に出した《Kjeldoran Outpost》がたった1枚のカードに打ち消しも出来ずに破壊されていたのでは勝負にならない。
その他にもそれらの環境に大量に存在する特殊地形への対策カード(《基本に帰れ/Back to Basics》や《血染めの月/Blood Moon》など)と言った当時存在しなかった天敵が増えている。

もう一つ、このデッキを再現することが出来たフォーマットがある。
「アイスエイジ・ブロック構築」である。キーカードが全てアイスエイジ・ブロックで揃う上に《意志の力/Force of Will》や《秘儀の否定/Arcane Denial》などの優秀なカウンターも存在する。もちろんカンスペもある。除去の方もラスゴこそ無いもののソープロは健在である。
しかし上記の通り「出来た」のであり過去形である。このデッキがあまりに強かったので《Thawing Glaciers》は同ブロック構築で禁止カードに指定されている。



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最終更新:2024年04月20日 18:07

*1 どの色も悪役的な役割があるというツッコミは野暮なので置いておこう