メフィストフェレス(悪魔)

登録日:2012/03/03(土) 02:56:05
更新日:2023/08/09 Wed 12:20:09
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「俺でさえ、人間の悲しみの日々を気の毒に思う。哀れな者を悩ます快楽を、ほとんどやめたくなるほどだ。」

ゲーテ「ファウスト」

◆メフィストフェレス◆

「メフィストフェレス(Mephistopheles)」或いは「メフィスト」はユダヤ/キリスト教から派生した「神秘学」及び「悪魔学」に於ける代表的な悪魔の一人。
民間伝承を題材として描かれたゲーテの『ファウスト』で広く名を知られる様になり、現代では悪魔の代名詞の一つとなっているが、
この名が知られる様になったのは中世も後期に入ってからの事であり、正統的な「悪魔学」からは外れた「文学により名を知られた新しい悪魔」だとされている。
『ファウスト』では「神」とファウスト自身と賭けを行い、年老いたファウストの魂を堕落させ「美しい」と言わせる事で奪おうとする、
小賢しくも魅力的な悪魔紳士として描かれている。


【概要】

ゲーテ以前にも文学作品の題材とされたファウスト伝説に関わる悪魔として誕生した、雄弁と欺瞞の悪魔。
名の意味はギリシャ語の「光を避ける者」とされるのが一般的だが、
これは正統的なキリスト教文化に於ける悪魔王ルシファー(光を齎す者)のパロディであり、
古来よりの伝承から生まれた存在では無い故に名前の由来を遡る事が出来ず、
それ故に名前の綴りから「悪臭を愛する者」や「破壊する者」と解読される場合もある様だ。

後には、地獄の君主階級の一人にして地獄の七大王子に数えられる堕天した大天使ともされたが、
本来的なイメージは小悪党、使い魔のそれでありベルゼブブの下僕であるともされる。

しかしながら、中世の典型的な「悪魔」の姿、人間を誘惑するトリックスターとしてのイメージから、
中世のオカルティスト達が「嘘の王」と呼び、神の敵サタンの正体としたアーリマン(アンリ・マンユ)と結びつけられ、その一側面であるともされている。

ゲーテの『ファウスト』を始めとして、そうしたトリックスターとしての性格を踏まえてかメフィストは瀟洒な伊達男、或いは道化師として描かれる場合が多い。

ゲーテの他にも、ゲーテ以前にファウスト伝説に題材を執ったクリストファー・マーロウが『フォースタス博士の悲劇的物語』に採用している他、
ウィリアム・シェイクスピアが『ウィンザーの陽気な女房たち』の中でメフィストフィラスの名で採用している事でも知られている。

また、ゲーテの『ファウスト』のラストに見られる様に、メフィストフェレスは堕天使となった自らの境遇を後悔し、天界に戻るのを夢見ているのだと云う。


【ファウスト博士】

『ファウスト』の題材となったヨハン・ゲオルグ・ファウストは1480年に生まれた実在の人物。
ファウストなる人物は二人居たとする説もあるが、一般的には実在のファウスト博士は一人のみとされる場合が多い。
占星術師、魔術師と紹介される場合が殆どだが、元々は正統な神学者であり、大学で教鞭を執っていたらしい。
当時としてはオープンで生徒達を引き連れ酒を飲む等、豪快で明るい性格の人物であった様だが、
そうした行為が周囲に煙たがられ、付いた噂が「ファウストが悪魔と契約している」と云う物であったらしい。

……日本人辺りからすると突拍子も無い意見に聞こえるが、キリスト教文化圏での「悪魔」への恐怖は本当に根強く、最終的にファウストは大学を追われ、
そうして怪しげな占星術や予言者として各地を転々とする羽目になったらしい。

ファウスト博士が実際に魔術にも傾倒し、学生達に「若い頃に悪魔と接触した」と語っていたとされる記録も残るが、ファウスト博士が追われたのには、
ノストラダムス以上(医師にして予言者、多くの研究を残す)とも評されたファウストの才能を周囲が妬んだ結果であるらしいので真実は不明である。


……各地を渡り歩き、遂には大道芸の様な真似までしていたとされるファウスト博士だが、
彼の才能を聞きつけてやって来たシュタウフェン男爵なる人物との出会いが晩年のファウストの運命を変える。

男爵はファウストに「物質を完全に金に変える業」を完成させる様に依頼し実験室を与え、博士は生涯の研究を許に自らの「錬金術」の完成を目指していたのだが、
1538年に50歳で、その実験室での爆発事故により命を落としたとされているのである。

……現場には博士の目玉と歯の一部しか残っていなかったとされ、この事はキリスト教の贖罪観念に基づくゲーテの『ファウスト』では、
ファウストが最終的には神に魂を救われるのに対し、現実のファウスト博士は「悪魔に喰われた」として紹介される場合もある様である。
即ち、現実のファウスト博士は24年の間「悪魔」との契約により放埒な人生を謳歌したが、最後は契約により悪魔に肉体を奪われたと云うのである。


【主な登場作品】

◆テーブルゲーム『ダンジョンズアンドドラゴンズシリーズ』
九層地獄に棲む秩序にして悪の属性を持つデヴィル族の第八層カニアの君主。九層の主にして地獄全体の主アスモデウスのナンバーツーであり競合相手。天界のエンジェルだったころからディスパテルと共にアスモデウスに従う最古参。極寒の地とアイス・デヴィル種を支配する一方地獄の業火を操る面もある。

◆ゲーム『女神転生シリーズ』
高名な割に登場機会は少ないが、近年では真・女神転生Ⅳ FINALのDLC『ハワイ紀聞』に『魔王メフィスト』名義で登場した。
主人公をハワイでの休暇へ招待し、引き換えに魂を要求するのだが……
契約すっ飛ばして例の台詞を言われて困惑したりアリスの合体材料扱いされたりとプレイヤーに散々な扱いを受ける}

◆ゲーム『DIABLOⅡ』
悪魔三兄弟の長男「憎悪の悪魔」にして、地獄の門の前で待ち構える第三ステージのボス。エンカウント時の空耳は余りに有名。

「まいぶらざーはうすげっちゅー(私の弟は家を手に入れた)」

◆ゲーム『BLACK MATRIX』
神を打倒し自身がその世界の神となって君臨。設定的にルシファーと混合されており、またメタトロンが堕天した姿であるともされている。

◆ゲーム『Fate/Grand Order
キャスターのサーヴァントとして登場。

◆ゲーム『エミルクロニクルオンライン』
紙芝居から生まれた種族ロアの一人として登場。変な生き物と化したファウストを乗り回す腹黒ロリ。

◆漫画『悪魔くん
メフィスト老と息子のメフィスト2世が登場。

◆漫画『シャーマンキング
ファウスト博士の末裔であるファウストⅧ世が登場。

◆漫画『聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話
敵の軍勢・冥闘士の1人にして主人公テンマの父、更に時の神カイロスの仮の姿である天魁星メフィストフェレスの杳馬が登場する。
聖戦の関係者の人生を大きくかき回した存在。能力はザ・ワールド。

◆漫画『GS美神 極楽大作戦!!
美神令子の前世。

◆漫画『HAUNTEDじゃんくしょん』・『円陣とらぶる!』・小説『アンダー・ヘブンズふぁみりぃ』
メフィスト2世と、息子である次期3世のメフィスト・フェレス・ファースト(フェス)、セカンド(セド)兄弟が登場。

◆漫画『足洗邸の住人たち。
英語が下手な英語教師メフィスト・ヘレスとして登場。

◆漫画『ファウスト』『百物語』『ネオ・ファウスト』
「ファウスト」を手塚治虫は計三度も漫画化している。どれも手塚流に大幅にアレンジしているが最後のは未完の遺作。
最初のメフィストフェレスはモフモフわんこ。後の二つはまさかの女体化(犬モードあり)。さすが漫画の神様。

◆漫画『青の祓魔師
正十字騎士團名誉騎士にして正十字学園の学園長である「メフィスト・フェレス」。普段は「ヨハン・ファウスト5世」を名乗る。犬にもなれる。
能力は時空間の操作。

◆漫画『ガヴリールドロップアウト
タプリスの同級生の悪魔として黒奈=メイフィストフェレス=シナモンロールが登場。
フルネームはスピンオフのタプリスシュガーステップで判明した。

◆小説『魔界都市新宿』シリーズ
新宿に居を構える美貌の医者メフィスト。前世や師匠がファウストだったりする。どっちかというとモチーフか?

◆小説『灼眼のシャナ
紅世の王の一人“彩飄”フィレス。
恋人ミステス「ヨーハン」とともに永遠を過ごすために二人で零時迷子を作り上げた。

◆音楽『メフィスト』
少し特殊な形だが、この悪魔の名をタイトルに冠する曲。【推しの子】とのタイアップ曲で、同作品アニメの主題歌。
曲の内容はタイアップ作品に合わせてか「役者の覚悟」と「ある登場人物の決意」を意識したようなものだが、
この曲を歌う「女王蜂」というバンドの作曲者兼ボーカルである薔薇園アヴ氏曰く、「幼少期に読んだ『ファウスト』の要素も歌詞に入れている」との事。
また、作中の主人公コンビはそれぞれあるタイミングから、大切な者を奪った敵への復讐に燃える「悪魔」となり、智謀策略を練って敵を破滅させるために狡猾に立ち回るようになる。





追記・修正は魂を差し出してからお願いします。



「時よ止まれ、君は美しい」
ゲーテ「ファウスト」

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最終更新:2023年08月09日 12:20