No.19 フリーザードン

登録日:2011/09/13(火) 19:06:33
更新日:2024/02/10 Sat 14:52:13
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一般論として、カードゲームにおいてレアカードは強い。
強力なカードをレアにすることで購買意欲を高めるのは、カードゲームで商売をする上での基本中の基本だからだ。
だが同時に、カードゲームに「ハズレア」はつきものだ。
高いレア度を持ちながら、それに見合わない低性能のカードであり、引き当ててしまった者を絶望の淵に叩き落とす。
そしてカードゲームはインフレする。
後発のカードは先発のカードよりも強く、かつて強力とされていたカードは後輩にどんどんその性能を抜かされていく。
いわんや最初から弱かったカードは、ますます弱くなっていく。
それゆえに、一度ハズレアとして世に出て、その評価を逆転させられる者は少ない。

1つのカードの話をしよう。
大ハズレアとして世に生まれ、そしてその評価を逆転させる事に成功した、数少ないカードの話を。
その名は

No.(ナンバーズ)19 フリーザードン


序章:アニメでのフリーザードン

フリーザードンが最初に我々の目の前に現れたのは、2011年6月20日、アニメ遊戯王ZEXAL第11話において。
メインキャラのアストラルの記憶が100枚のカードとなって砕け散ったナンバーズの一枚として登場した。

《No.19 フリーザードン》(アニメ)
エクシーズ・効果モンスター
ランク5/水属性/恐竜族/攻 2000/守 2500
レベル5モンスター×2
このカードは「No.」と名のつくモンスター以外との戦闘では破壊されない。
このカードのエクシーズ素材1つを取り除いて発動する事ができる。
このカード以外のフィールド上に存在する
モンスターエクシーズ1体をエクシーズ召喚した素材カードが墓地に存在する場合、その素材カードをそのモンスターのエクシーズ素材として元に戻す。

劇中では不良兄弟の弟・海王が使用。
兄・陸王が使用したNo.61 ヴォルカザウルスとは対になる存在であり、ヴォルカザウルスの攻撃的な効果に対してこのカードはヴォルカザウルスを補助する防御的な効果を持つ。
ヴォルカザウルスが炎の恐竜、フリーザードンが氷の恐竜とデザインも対になっており、ナンバーズの数字「19」をひっくり返すとヴォルカザウルスのナンバーである「61」となる。
劇中ではもっぱらヴォルカザウルスの素材を復活させる役割を担っており、そのヴォルカザウルスの非常に攻撃的な効果「マグマックス」が大活躍していたため、縁の下の活躍に終わった。




第1章 フリーザードン冬の時代

2011年10月、満を持してOCG(オフィシャルカードゲーム)化が決定。
性能は以下のものとなった。

《No.19 フリーザードン》
エクシーズ・効果モンスター
ランク5/水属性/恐竜族/攻2000/守2500
レベル5モンスター×2
(1):1ターンに1度、自分のXモンスターがX素材を取り除いて効果を発動する場合、取り除くX素材1つをこのカードから取り除く事ができる。

効果は他のエクシーズモンスターのコストとなるエクシーズ素材を代替わりするもの。
不足コストはフリーザードンから確保!
そしてその実用性は、極めて低かった。

コストを代替わりするカードというのはそもそも代替わりされる側より軽量でないと意味がない。
ブレイドラさんが不足コストを確保されてしょっちゅう砕け散るのはブレイドラがそもそも最軽量級のカードだからである。
一方フリーザードンを出すにはレベル5モンスターが2体必要
遊戯王の基本ルールとしてレベル4以下はノーコストで出せるがレベル5以上のモンスターは他のモンスターをコストにしなければ出せないため、フリーザードンは明らかに重量級のカードなのである。
こんなのを出してコストを代替するくらいなら、コストの代替わり先のエクシーズモンスターをもう1体出したほうが絶対によろしい

かくして、事前情報の時点でほぼ0点の評価であったフリーザードンは、2011年10月15日、「デュエリストパック遊馬編」に収録され発売された。
このカードを遊馬は所有してるだけで一度も使ってないのに「遊馬編」と銘打ったパックに入ってる事に疑問を懐きつつ、決闘者(デュエリスト)は「DP遊馬編」を続々と購入していく。
このパックには強力な新カード、《No.61 ヴォルカザウルス》が収録されていたからだ。
そう、アニメでの相棒であり、フリーザードンが甲斐甲斐しくサポートした、あのヴォルカザウルスである。




決闘者「3箱買って来たぞ!早速開封ビングだぁ!」
パリッ



決闘者「おっ、エクシーズだ。ヴォルカザウルスか……!?」



19「やぁ!」

19「うっす!」

19「よろしく!」


こいつは、とんでもない地雷だった




多くの決闘者の財布を絶対零度へ叩きこんだ原因……それは




凄まじい封入率の高さである



遊戯王OCGにおいて、通常のパックはカードの種類が80種類あり、1箱開封すればレアカードが何枚か当たるようになっている。
当然その中には強いものも弱いものもあるが、極端な大負けはまずないのが普通だ。
だが、デュエリストパック遊馬編はもともとカードの種類が30種類と少なく、最高レア度のウルトラレアは1BOX(15パック=2,250円)に1枚しか入っていない。
そしてもう1枚のウルトラレアは相手モンスターを爆☆殺してその攻撃力分のダメージで相手を直火焼きにする超有能カードNo.61 ヴォルカザウルス。
おまけにスーパーレアはことごとく微妙。
つまり遊馬編は、1/2の確率で黄金に輝く超強力カードが、1/2の確率でただ光ってるだけの紙が出るという、ギャンブルパックになってしまったのだ。
ついた渾名がヴォルカくじである。

1/2ということは
2ボックス買えば1/4の確率でダブルザードン\ザードン!/\ザードン!/
3ボックス買っても1/8の確率でトリプルザードン\ザードン!/\ザードン!/\ザードン!/
が出るということである。
それどころか、4ボックス買っても1/16と、割と現実的な確率でクワトロザードンが出現してしまう。
というか、当時の掲示板には実際ヴォルカザウルス0でフリーザードン4枚を引き当てたという逆豪運の持ち主が降臨していた。

かくして、フリーザードンはヴォルカザウルス入手を試みた多くのプレイヤーに地獄を見せ、
無数の絶望と怨嗟の声を浴びながら自らはストレージの底へと沈んでいった。


少年、これが絶望だ。ターンエンド。

第2章 フリーザードン厳冬の時代


何勘違いしてるんだ?
まだフリーザードン冬の時代は終了してないぜ!

生まれながらにしてハズレアの烙印を押されたフリーザードンであるが、その扱いはその後悪化の一途をたどった。
フリーザードンの登場以前、エクシーズモンスターの素材を代替したり、素材を回復したりする効果を持つカードはなく、フリーザードンは実用性はともかく唯一性はあるカードだった。
だが、その唯一性は脆くも崩れ去ることとなる。

まず、2011年11月19日に通常罠《エクシーズ・リボーン》が登場。
墓地のエクシーズモンスター1体を蘇生し、エクシーズ素材を1つ補充する効果を持っていた。

2012年2月18日、装備魔法《エクシーズ・ユニット》が登場。
エクシーズモンスター用の装備魔法であり、エクシーズ素材の代わりに取り除くことができる効果を持っていた。

2012年4月14日には通常魔法《オーバーレイ・リジェネレート》が登場。
《オーバーレイ・リジェネレート》自身をエクシーズモンスターのエクシーズ素材とする効果を有している。

もちろん、いずれもノーコストであり、明らかにフリーザードンより軽い。
フリーザードンの個性は、見る見るうちに凡庸なものに成り下がってしまった。
ついでに言えば、これらのカードがさほどエクシーズデッキで重宝されたという話もない。
「より使いやすいエクシーズ素材補充カード」に出番がない時点で、「使いにくいエクシーズ素材補充カード」であるフリーザードンの居場所は、この世のどこにもなかったのである。


残酷な追い打ちとして、フリーザードンが後輩に次々と追い抜かれている間に、ヴォルカザウルスは新カードの力でさらなるパワーアップを果たしていた。
ランク5・6のエクシーズモンスターに重ねて出せる《迅雷の騎士ガイアドラグーン》の登場である。
ヴォルカザウルスには「相手モンスター爆破効果を使ったターン直接攻撃できない」というデメリットがある。
だが「ヴォルカザウルスで相手モンスターを爆殺」⇒ヴォルカザウルスの上にガイアドラグーンを重ねる⇒「ガイアドラグーンはヴォルカザウルスとは別人なので直接攻撃可能」というデメリット踏み倒しコンボにより、この弱点を克服し殺意を増したのである。

かくして、もとよりゼロだったフリーザードンの評価は氷点下へと下がり、
元々高かったヴォルカザウルスの評価は天井知らずに上がっていった。


余談だが、アニメのWDC決勝、遊馬vsトロン戦でのナンバーズ総力戦において、ネタ仲間のNo.10No.34No.56は揃って登場したのにこいつはハブられてしまうという事態が起きてしまった。


………しかし。

第3章 フリーザードン春の時代


冬来たりなば春遠からじ。
永遠に続くかと思われたフリーザードン冬の時代は突如終わりを告げた。
2013年10月19日、このカードが現れたのである。

FA-クリスタル・ゼロ・ランサー
エクシーズ・効果モンスター
ランク6/水属性/戦士族/攻2200/守1600
水属性レベル6モンスター×3
このカードは自分フィールド上の水属性・ランク5のエクシーズモンスターの上にこのカードを重ねてエクシーズ召喚する事もできる。
このカードの攻撃力は、このカードのエクシーズ素材の数×500ポイントアップする。
フィールド上のこのカードが破壊される場合、代わりにこのカードのエクシーズ素材を1つ取り除く事ができる。
また、1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。
相手フィールド上の全てのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。

注目すべくは、このカードは水属性・ランク5のエクシーズモンスターに重ねて出せるという点である。
水属性のランク5は当時5体存在したが、うち3体はエクシーズ素材に属性や種族の縛りがあり、1体はエクシーズ素材が3体必要で重かった。
エクシーズ素材2体で出せ、しかも素材にレベル以外の指定が一切ないカードは、たった1枚しか存在しなかった。
その名は《No.19 フリーザードン》。

フリーザードンは目覚めた。
かつてのフリーザードンは、2000という微妙な攻撃力と、役立つ場面の限られまくった効果を持つ、絵に書いたようなハズレアであった。
覚醒せしFA(フルアーマード)-フリーザードンはこうだ。
  • 基本攻撃力3700!
  • 攻撃力を500下げる事で3回まであらゆる破壊に耐えられる!!
  • 攻撃力を500下げることで相手モンスター全ての効果を無効化!!!
強い!絶対に強い!
(実質)ランク5で攻撃力3700は破格だ。元のフリーザードンの攻撃力2000は優に超え、より攻撃的なヴォルカザウルスの攻撃力2500すら一捻りにできる。
破壊耐性も強い。聖なるバリア −ミラーフォース−なども強引に突破できる。
モンスター効果無効化はちょっと使いみちが限られるが、永続効果の無力化など使い所は十分にある。
フリーザードンは一夜にして、ランク5最強クラスの一角にその立場を変えたのである。
このカードの登場に多くのフリーザードンファンは涙を流して喜んだと言う。


そしてFA-フリーザードンは、自らがハズレア扱いを受ける元凶となったヴォルカザウルスを否定しなかった。
FA-フリーザードンは相手モンスターを戦闘で破壊することでしか倒せないので、ヴォルカザウルスの方がダメージ量と相手モンスターを確実に倒せる点では勝っている。
だが、「効果で破壊できない」「効果の対象に選択できない」耐性を持つモンスターは、ヴォルカザウルスの爆破効果で破壊できない。
FA-フリーザードンは、相手モンスター全ての効果を無効にする能力により、これらの耐性を無効にし、ヴォルカザウルスの効果を通すお膳立てが可能なのである。
弟フリーザードンは、兄ヴォルカザウルスを助ける。姿かたちは変わっても、彼はそれを忘れなかったのだ。


―もっとも、強いのはあくまで《FA-クリスタル・ゼロ・ランサー》の方であって、フリーザードン本体はただの下敷きにすぎないのだが。


なお、人気カードであり価格が高騰していたヴォルカザウルスは2014年に「ゴールドシリーズ2014」で再録されている。
だが、フリーザードンは単体での性能が極端に低かったために再録の機会がなく、2021年発売の全てのナンバーズが収録されたコレクター商品「No. COMPLETE FILE」まで再録されたことがなかった。
このため、中古市場ではヴォルカザウルスが飽和する一方でフリーザードンの需要はクリスタル・ゼロ・ランサーで高まり、時としてフリーザードンの中古価格はヴォルカザウルスのそれを上回っていた。
当初の圧倒的ハズレア扱いを思えば、フリーザードンがこれほどの評価を得たのは快挙と言うほかないだろう。

第4章 恐竜時代の終わり―さらばフリーザードン


《FA-クリスタル・ゼロ・ランサー》の下敷きの仕事を得たフリーザードンだが、その立場は決して盤石ではなく、むしろ薄氷の上に立っていた。
フリーザードンの価値はあくまで「素材2体・素材に縛りなし・水属性・ランク5」という4条件を同時に満たすカードがフリーザードンしか居ないという点にのみあった。
したがって、この条件を満たしつつ、フリーザードンより有用な効果を持つカードが出れば、その地位は瞬時に失墜する事は《FA-クリスタル・ゼロ・ランサー》の登場当初から指摘されていた。
指摘されながらも、その日はなかなか訪れなかった。1年が過ぎ、2年が過ぎ、様々なカードが環境に現れては消えていった。
そして、6年が過ぎた。

時は2019年12月。
2020年1月11日発売となるETERNITY CODE(エターニティ・コード)の発売に先駆けて、同パックに収録されるカードの先行公開が行われていた。
その中の1つにこんなカードが存在した。

《ヴァリアント・シャーク・ランサー》
エクシーズ・効果モンスター
ランク5/水属性/獣戦士族/攻2500/守1600
レベル5モンスター×2
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。
(1):相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。
自分フィールドのX素材を1つ取り除き、対象のモンスターを破壊する。
自分フィールドに他の水属性Xモンスターが存在する場合、この効果は相手ターンでも発動できる。
(2):このカードが既にモンスターゾーンに存在する状態で、自分フィールドの他の水属性Xモンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。
デッキから魔法カード1枚を選んでデッキの一番上に置く。

ランク5・水属性・素材縛りなし。
久しく出ていなかった「クリスタル・ゼロ・ランサーの下敷きにできる素材2体で素材縛りのないカード」であった。
おまけにフリーザードンに比べて攻撃力は上、効果の能動的に発動できる除去能力と圧倒的に勝っている。
フリーザードンから「クリゼロの下敷きになれる中では唯一の素材2体・素材縛りのないカード」という称号が奪われた瞬間であった。
しかもほとんどバニラのこちらに対して、向こうは優秀な能力持ち。
「ランク5デッキでクリゼロ出したいならこいつ入れるしか無いけど、エクストラデッキの圧迫がきついなあ」という悩みももはや過去のことである。
同時にフリーザードンの存在も過去のものになったが。
一応、フリーザードンの方が守備力が高いなど差別化できる点もなくはないが、あえて優先するには効果を活かせるデッキ構築でないと厳しいだろう。

とはいえクリゼロ登場の2013年10月から6年以上も存在価値を保ち続けたのはすごい。その間にたくさんのカードが過去のカードとなっていったのだ。
あの《No.101 S・H・Ark Knight》もインフレの波に飲まれていった中で(X素材化効果自体は現在でも弱いわけではないが)、唯一のアイデンティティを保ち続けたこのカードはもっと評価されるべきではないだろうか。


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最終更新:2024年02月10日 14:52