ベルゼブブ(悪魔)

登録日:2011/12/27 Tue 13:07:19
更新日:2024/03/18 Mon 17:23:54
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「どうして蝿の王(サタン)悪霊(サタン)を追い出せよう。国が内輪もめして争えば、その国は成り立たない」



「同じように悪霊ども(サタン)が内輪もめして争えば、立ちゆかず、滅びてしまう」





― 「マルコによる福音書」第3章 第23-26節より





◆ベルゼブブ◆

「ベルゼブブ(Beelzebub)」 ベールゼブブ、ベルゼバブ、ベルゼビュート…
他にも地獄の大公、悪魔の貴公子など数々の名で呼ばれる彼はユダヤ/キリスト教の大悪魔
ミルトンの『失楽園』によれば「罪に於いてサタンに次ぐ者」
新約聖書「マタイ伝福音書」に於いては「悪魔の頭」
神秘学的には「堕天した熾天使の頭にして、サタンルシファー)に次ぐ地位にある、デーモン全てを支配する大君主」とされている。

コラン・ド・プランシーの描いた羽根に髑髏を飾られた巨大な青蠅の姿が有名で、これはベルゼブブの姿を顕す際の基本となっている*1

古代では、死体に取り付き、白骨化させる蠅を「死の運び手」と見なす風潮があった事から、ベルゼブブを死神と見なす場合もあると云う。
蝿が疫病や腐敗をもたらすことは古代より経験上広く知られていたことであり、多くの文明で蝿は病と死をもたらすものとして忌避されてきた。
また逆に死骸にたかり卵を産みつけウジとなって食い尽くしたのちに羽化しふたたび飛び立つ蝿は死と再生の象徴とされ、
死者を大地に還す存在とも転生する魂のかりそめのすがたともされた。
蝿の王は死霊の王であり、大地とむすびつき死と再生を司る魂の支配者だったのである。

このイメージは大地母神のそれに近く、そのためか女性・あるいは両性具有との説もあり、現代では女体化バージョンも良く登場する。


【由来】

誕生の元になったのは古代カナン(パレスチナ)の主神バアルの尊称である「高き家の主(バアル・ゼブル)」で、
これを迫害するべくユダヤ/キリスト教徒が「糞山の主(バアル・ゼブブ)」と呼び替えた事が最初であったと考えられている。
冒頭の一節が登場する「マルコによる福音書」に於いてイエス・キリストに対し、
パリサイ人は「ベルゼブブの力を使っている」として疑惑の目を向ける場面が登場するのだが、
ここで云うベルゼブブは異教の神バアルの事であったのかも知れない*2

水はけの悪い、古代の中東から欧州の地域は疫病も容易く蔓延し、それを媒介する蠅は忌み嫌われると共に、死への恐怖から信仰を捧げられる存在だったとも云う。

そして、糞山より大量発生する蠅の姿から前述の「糞山の主」は「蠅の王」と同義になり、現代に続くベルゼブブの姿が完成したと考えられている。

この事から、本来はバアル・ゼブブと呼ぶのが正しいのかも知れないが、更に権威を奪うべくベルゼブブと呼び顕される様になったのかも知れない*3

尚、カナンの主神バアルはユダヤ人の入植地であったと云う関係から徹底的に迫害されており、この神の名に由来する悪魔の名は非常に多い*4

後には、バアル自身の名も悪魔「バエル*5」として取り入れられたのだが、
その頃には地獄の君主たるベルゼブブの名が浸透していた為に、両者は別の悪魔として扱われた様だ。

……ここから、唯一神によりバアルが引き裂かれ、バエルとベルゼブブに分けられた、との伝説も生まれており、
ゲーム『女神転生』等ではこの設定が採用されている。

バエル自体も、地獄の66の軍団を率いる東の大君主と呼ばれるベルゼブブに匹敵する大悪魔であり、エジプトの嵐の神セトとも同一視される。
尚、バアルの妻は女神アシュタルテで、その起源は古代バビロニアの豊穣の女神イシュタル
ギリシャ神話のアフロディーテ*6となった女神であるが、この女神もまたユダヤ教キリスト教では悪魔アスタロトとして地獄に堕とされている。
……アスタロトもまた、大天使ガブリエル(古代の女神だったとされる)等と同じく、男権至上の教会により男のデーモンとされたが、
中世には原典を踏まえて女神とされる事もあった。
また、堕天前と同じくバエルの妃であるとも云う。

日本人に分かりやすく言えば、アマテラスが邪神認定を受け「アマクソス」という糞の悪魔にされるようなもの。
悪魔扱いするには失礼極まりないものを元ネタにしているのである。

疫病と腐敗、そして異教徒という直接的な脅威を暗示する存在のためか、聖書ではルシファーよりはるかに登場回数が多い。
主なものを挙げると、旧約聖書「列王記下」、新約聖書「マタイによる福音書」「マルコによる福音書」「ルカによる福音書」
そして新約聖書外典の「ニコデモ福音書」など。特にマタイによる福音書には2ヶ所出てくるところがある。


【地位】

現代の悪魔学では名門「蠅の軍団」を率いる地獄のNo.2とされる事が多い。
首位のルシファー(サタン)と同じく堕天使とされるが、上記の様に元来は異教の神なので、
堕天使(デビル)では無く、魔神(デーモン)と呼ぶべき存在なのかもしれない*7
かの「七つの大罪」では「暴食」を司るが「嫉妬」であるとの意見もあり、12世紀や16世紀、現代に於いてさえ「悪魔憑き」の犯人とされるベルゼブブのイメージでは、寧ろ後者のがイメージに添っている印象すら受ける。
力だけなら、数ある悪魔の内でも最強とされる意見もあるが、これはかなり狭い意見であるらしい*8

尤も前述の「蠅の軍団」自体が、カート・セグリマンの記した狭い意見からの後付け設定なのだが、厨二心をくすぐったのか、こちらは何故か浸透している。
大法官アドラメレクや、総司令官バエルらが属する地獄の最強軍団である。


【主な登場作品】

◆ミルトン『失楽園』
サタンの腹心。
ほぼ、現代のイメージのままである。

◆ゲーム『女神転生』シリーズ
最強クラスの「魔王」として登場する機会が多い。
『ソウルハッカーズ』では裏ボス。

◆『魔神転生Ⅱ』
『女神転生』シリーズから誕生したシミュレーションゲーム。
ベルゼブブは女体化仕様で、ラスボスの一人として登場。

ゲゲゲの鬼太郎
巨大な蠅の姿をした西洋の幹部級悪魔。
長編『死神大戦記』では地獄を乗っ取った8人の死神の一人として登場……するのだが鬼太郎と戦う事なく死亡する。
『鬼太郎挑戦シリーズ』では目玉おやじの仲間として登場し、地底人にとらわれた鬼太郎の救出に向かう。

大魔界村
ステージ5のボスとして登場。
弾吐きと小蝿の集団に変化しての体当り攻撃をしかけてくる。

◆Master×Re:master
SilverBulletAutomaticが制作した18禁ゲームで、ジャンルは悪魔召還伝奇バトルADV。
この作品では人間体である広瀬吹雪(天然気味のナイスバディな女保健医)として出てくる。
一度人間として転生しているが、ベルゼブブとしての姿を取る場合は蠅のコスプレをしたお姉さんなのでシリアスなシーンでは割と浮き気味。
設定上父はバアルとなっているが、そのバアルよりも階級は上である。
大魔王の正体を明らかにした後も極めて軽いお姉さん的な言動は変わらず、
他の魔王にボヘミアン・ラプソディの曲中に登場したり、スティーブン・キングにモチーフとして取り上げられたことを自慢したりもしている。
だが全面的に人類の味方というわけでもなく、アスモデウスに「ペストの大流行や大航海時代の到来、核兵器開発などは彼女の仕業」と弾劾されているように、
随所に残酷な悪魔としての姿もうかがえる。

青の祓魔師
「蟲の王」として現在名前のみ登場。
眷属として不浄王、屍人などがおり、死・疫病・腐敗を司る悪魔と思われる。

うみねこのなく頃に
魔女ベアトリーチェの家具として登場。
見た目はハイレグ姿にツインドリル頭の可愛らしい少女だが、その名に恥じぬ暴食っぷりを披露する。

よんでますよ、アザゼルさん。
本名ベルゼブブ優一、あだ名はべーやん。
人間界に居るときは見た目は蝿の羽が生えた王子様ペンギン。本来の姿はただの王子様。ジョン○ム。
食料はもちろん糞。排泄欲含むすべてを暴き出す「暴露」の能力を有する。

べるぜバブ
魔界を統べる王であり、長い緑の髪を有する男。本名カイゼル・デ・エンペラーナ3世。
「七つの大罪」の一人であり、一応魔界で一番偉いが、極めて能天気でわがまま。
息子に焔王とカイゼル・デ・エンペラーナ4世(ベル坊)がいる。
ベル坊を育てて人間界を滅亡させようとノリで言い出し、人間界で最も邪悪な心を持つ主人公・男鹿辰巳を勝手に里親にしたバカおやじ。
趣味はカラオケとゲーム、マグマ風呂

鬼灯の冷徹
EU地獄のNo.2(ヘッドはルシファーこと大魔王サタン)で、妻はアダムの元カノの女悪魔リリス。中の人は上記の男鹿と同じ小西克幸
元神なのでプライドは高いが、上司の無茶振りにも大概頑張って応えるデキる側近。
妻が天然でどスケベなのでしょっちゅう振り回されている。

聖☆おにいさん
白髪の少年の姿をしており、前髪が長いため目は隠れているが、歯はルシファー=サタン同様八重歯。
蝿の悪魔なので生ごみを好んで食べる習性を持ち、夢の島がただの公園にされたことに哀しんでいた。
性格は天真爛漫かつ腹黒で、仲間の蝿がやられると我が事のように哀しむ。

左門くんはサモナー
地獄三大支配者の一人「ベルゼビュート」名義で登場。
ヤンキー風の青年の姿をしており、500年前に大悪神アンリマユ(「左門くん」世界の宇宙ほぼ全てを作った存在)と戦った過去を持つ。
かなりの戦闘狂で、アンリが主人公・左門のオッカケと化している由々しき事態を勝手に憂い、
左門を叩きのめして強かったころのアンリを取り戻そうと画策する。
蹴り一発で巨大な階段を横倒しにするほど戦闘力は高い。

仮面ライダーウィザード
指揮者の男を体内から殺して生まれたファントム。外見は蝙蝠に似ている。
小さな蝿を飛ばして憑依させた相手を操り、ターゲットに執拗な嫌がらせを行って絶望させようとした卑劣怪人。
最後はウィザードが4人に分身してボコり倒した。

◆ナイトウィザード
本名ベール=ゼファー、偽名にベル=フライ、涼風鈴等。
14歳前後で学生服にポンチョを羽織った美少女姿が主だが、ナース服を着たりするため、プレイヤーにコスプレ大魔王と呼ばれる事も。
アニメでは格好よいが、小説等ではぽんこつ大魔王になってしまう。

ハイスクールD×D
四大魔王が一角…の家系。当主はアジュカ。

デモンブライド
イヴの契約ブライド。彼女のカリスマに惹かれ自ら契約を志願。
地獄の王の肩書に似合わず、イヴに蹴られるのが好きというドMな一面も。

モンスター烈伝オレカバトル
魔王の一種。姿はまんまハエ人間。
この「まんま蟲人間だがどこかにイケメンさも漂わせている」というデザインは
同じコナミの悪魔城ドラキュラDS版に登場するアバドンにも通じるところがある。
ハエがそのまま大きくなったようなモンスター「ブブ」から進化する。
ちなみにこのブブ、チビムウスやチヴィエールと同じく魔王ベルゼブブの分身体という設定らしい。

パズル&ドラゴンズ
魔皇子の異名を持つ上級悪魔。常に巨大な蝿にまたがっており、暴走族のような派手な外見をしている。

CODE OF JOKER
Ver1.2の赤属性SRカード蠅魔王ベルゼブブとして登場。誰もが認めるCOJ最強クラスのユニットである。
外見は黒い全身鎧を着た騎士に蠅のお尻と翅を付けたような感じ。頭だけは蠅っぽい。
能力は複数あるが彼を最強たらしめているものは召喚時に敵の中からランダムで選ばれた2体に5000ダメージを与えるというもの。
初登場時から現在に至るまで彼の掛け声「チェストー!!」がゲーセンに響き渡る。

悪魔城ドラキュラシリーズ
月下の夜想曲にて登場。蠅の王、だが本体は蠅ではなく部屋の中央に吊るされた腐乱死体(?)。
彼自身は攻撃どころかピクリとも動かないが手下の蠅をファンネルの如く動かして攻撃してくる。
そのパーツは6つに分かれており、ダメージを与えるごとに少しずつ崩壊していく。
後にHDにもDLCステージのボスとして再登場。どうやら頭が薄くなってきたことが悩みの種らしい。

◆ベルゼブブ嬢のお気に召すまま。
主人公(メインヒロイン)の金髪巨乳美少女。
堕天使たちが働く万魔殿の主で七つの大罪の「暴食」が化身。
サタン不在のため一応魔界のNo.1であり、文武に長けるが外見通りゆるふわ系で呑気。

グランブルーファンタジー
4周年イベント『失楽園 どうして空は蒼いのかⅡ』にて「黒衣の男」名義として初登場。
旧知の仲である変態堕天司ベリアルからは「バブさん」と呼ばれており、やたら他人を罵る際に「小蠅」「羽虫」呼ばわりしていることから本名はベルゼバブではないか?と予想されていた。
5周年イベント『000(トリプルゼロ) どうして空は蒼いのかⅢ』にも登場するが結局本名不明のままカリオっさんカリオストロに封印されて退場したが……。
その後は該当項目にて。


【モデルとしたキャラクター、機体】

ベルゼブモンデジモンテイマーズ
暴食を司る七大魔王の一人。二丁ショットガンの使い手。詳細は該当項目を参照。

◆ヴェルルゼバ『創聖のアクエリオン
堕天翅の頭翅が搭乗する機体。
両掌から発振する二振りサーベルで舞う様に不規則な動きで翻弄しながら戦う戦闘スタイルはアポロ達を苦しめた。

◆ベルゼビュート『デモンベイン』シリーズ
ブラックロッジの幹部「アンチクロス」の一員であるティベリウスが魔導書「妖蛆の秘密」を用いて招喚する鬼械神(デウス・マキナ)。全高は58.4m(30.57cubit)、重量は4956t(991.272mct)。動力は魔術機関エンジン、装甲材質はオリハルコン。
ずんぐりとした体にローブのような布状の物体を纏っている。ティベリウスの性格を反映してか、呪術を用いて精神的・肉体的に相手の能力を殺ぐような武装を多く装備している。また、この鬼械神の真価は桁違いの再生能力であり、直ぐに再生してしまう能力を持つ。

◆ゼブブ『ウルトラマンガイア
根源的破滅招来体(ものすごく強くて悪質な怪獣と思ってくれればよろしい)幹部「破滅魔神」の一人。
N極だけの磁性体「モノポール」で作られた超巨大な怪獣「モキアン」を操り地球を滅ぼそうとした「死神」の正体。
右腕が短剣になった蠅男の姿をしており、強力なバリアを張り無敵の防御力を誇る。

魔王龍 ベエルゼ漫画版遊戯王5D's
決闘竜」と呼ばれる特別なカードの一つ。
昆虫モンスターデッキを使う伊集院セクトが入手・使用した。
攻守3000という高いステータスに加えて、強固な破壊耐性とダメージを受ける度にその分だけ自己強化する能力を持つ。
原作ではあらゆるダメージで自己強化する事ができたが、OCGでは自身の戦闘か相手の効果ダメージでのみ自己強化という制限がかかった。

《魔王超龍 ベエルゼウス》という強化版も存在し、攻守4000に強化されており、
破壊耐性は据え置き、相手場のモンスター一体の攻撃力を0にしてその分だけ自己強化する能力を持つ。
自身の戦闘で相手に与えられる戦闘ダメージは半減するが、非常に戦闘に強いモンスターの一角であると言える。





追記・修正は「悪魔」に負けぬ心でお願い致します。





蠅を叩き潰したところで、蝿という「もの(存在)」そのものは死にはしない。

ただ「蝿という現象」を潰したばかりである。





― ショーペンハウアーの言葉

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最終更新:2024年03月18日 17:23

*1 ただし、これについては『失楽園』に語られるように元々は威厳ある堕天使として描かれていたのを、下卑た蠅の姿として定着させてしまったとして批判される意見もある

*2 また、ここで云うサタンも「敵対者」という意味で固有名詞では無い

*3 本来の意味を失った現代では、逆にベルゼバルもベルゼブブの呼び名として使用されている

*4 「バル~」や「ベル~」から始まる悪魔は疑った方が良い

*5 元のままバアルと発音する例もある

*6 ローマではビーナス

*7 ただし、デビルとデーモンの区別が誕生したのはベルゼブブらの堕天後である

*8 伝統的に首位はルシファーとなる