サタン(悪魔)

登録日:2012/01/01 Sun 00:02:50
更新日:2024/04/10 Wed 23:11:09
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「天で戦いが起こった。ミカエルとその使い達が、竜に戦いを挑んだのである。
竜とその使いたちも応戦したが、勝てなかった。そして、もはや天には彼らの居場所がなくなった。
この巨大な竜、年を経た蛇、悪魔とかサタンとか呼ばれるもの、全人類を惑わす者は投げ落とされた」
「ヨハネの黙示録」


◆サタン◆

「サタン(Satan)」はユダヤ/キリスト教に於ける悪霊の王。
一般的には神と神の信徒たるキリスト教徒の敵にして、凡る悪意を支配する地獄の魔王として認識されている。
ちなみに「devil」ではなく「the Devil」という風に頭文字を大文字で書くと、魔王(悪魔の中の悪魔)サタンを指す固有名詞になる。
(a devilと書けば「様々な悪魔の中のとある一人」という意味になる。the devilは、サタンやサタン的な存在を指す)

人類が誕生して以来の宗教史の中でも最大の威光を獲得した唯一神(ヤハウェ)の敵対者として、このサタンと呼ばれる存在もまた、多くの厨二病患者(オカルティスト)の注目を集めて来たが、
その御名に反して、サタンなる存在の「正体」に付いては「悪魔学」が成立した中世から現在まで続く混乱の中で、明確な「答え」が未だに出されていないと云う、正体不明の概念でもある。

また、サタンは冷徹で実利のみを求めると云われる。
昔から商売や資本主義は、マモン(「富の悪魔」または「不正な富」のこと*1)と結び付けられており、拝金主義は英語でマモン(Mammon)またはマモニズム(Mammonism)と言うのだが、サタンにもマモン的側面がある。
宗教精神主義(心霊主義)爬虫類人陰謀説などでは、資本主義社会はサタンに支配されているのだとさえ云われる*2 経済学者(梅津順一)の研究論文 によると、イギリスのプロテスタンティズムでは「富は霊的な英雄を除いて誰もが引っ掛かるサタンの紡いだ誘惑の糸でもある」とされていた。


【由来】

実は、サタンの正体については2世紀頃に教会が反逆天使ルシファーであると正式に制定しており
その成立に至る過程までもが明らかになっている。

……しかし、それを良しとしない中世の神秘学者達は闇の世界への考察(妄想)を重ねた結果、各々が独自の解釈を編み出すに至り
その実体は混乱の中で失われてしまった様である。

最初にサタンの名が登場するのは旧約聖書「ヨブ記」だが、
ここでのサタンは、元々の記述では神の命を受けた使者(天使)がヨブの信仰を試すべく障害(サタン)の役割を果たした、と云う意味合いでしか無く、
そもそもはサタンとは、上記の様に特定の存在を指す固有名詞ですら無かった。

これが転じたのは民族宗教であったユダヤ教からキリスト教が誕生し、ローマ帝国の国教にまで制定される中で、独自の教義体系に基づく終末論が完成してからである。
その過程で、元来は善悪二元を共に属性として抱えていた神(ヤハウェ)は善性のみを持つ唯一神へと転化し、
神の持っていた破壊に関わる暗い側面は「悪魔」が背負う事になったのである。

しかし、本来のキリスト教に於ける「悪魔」とは教会の定める教義に基づく存在でしか無く、
特に中世期には悪魔は神の被造物の一つとして「終末論」に含まれる存在であり、
聖職者を堕落させ人々の信仰心を試すが、最終的には神に敗れ去る事が約束された、
あくまでも唯一神に創られた完成された世界観からは逸脱しない概念でしかなかったのである。
※旧約聖書の描写を含め、ここから神の側近との説も存在する。

この独自の千年王国を初めとした終末論と、それに基づく黙示録に示された天国や地獄のビジュアルは信徒の獲得に大きな力を発揮すると共に、
「人々に永遠の責め苦を与える、この世の支配者サタン」と云う概念を人々の間に根付かせる事となった。

……ここに至り、あたかもサタンは特定の魔的存在を示す単語として扱われる様になり、
無数の「魔導書(グリモア)」が成立した中世のオカルティズムが横行する時代の中で、本来の姿を失っていったのである。
これに伴い、上記の「ヨブ記」での記述も、魔王サタンを指して解釈される場合が増えていった。ここから、サタンを神と会話出来るもの=神の側近である、とする解釈も生まれた。……まあ、ルシファー説とも符合するし、堕天しても尚、サタンは天に昇れる……とも解釈すると楽しいし。

事実、中世に制定された「七つの大罪」によれば「憤怒」の悪魔として、第一位の「傲慢」を司るルシファーとは分けられている。


【敵対者】

サタンと云う存在は、前述の様に本来的には女神ヘラがその正体とされていた。

詳しくは、ルシファーの項目を参考にしていただきたいが、
旧約聖書「イザヤ書」にて生まれた「明けの明星、曙の子よ。お前は地に投げ落とされた。」の言葉より生まれた反逆天使のイメージは、
そのまま新約聖書「ヨハネの黙示録」に記された「巨大な竜、年を経た蛇、悪魔とかルシファーとか呼ばれるもの、全人類を惑わす者は投げ落とされた」に、
転化(混同)されたのである。

実は、このルシファーからサタンに至る微妙なニュアンスの変化にもちゃんとした理由がある。
ルシファーの概念が登場する以前にも、実は旧約聖書に記された詩編から人々は神の暗い側面を背負う暗黒の存在=悪魔の概念を読み取っていた。

無価値(ベリアル)荒れ地(アザゼル)と呼ばれたそれらの属性をもルシファーは吸収し、
かくて暁の輝ける子(ヘレル・ベン・サハル)は古き竜、神の敵対者(サタン)としての属性を一身に受ける事となったのである。

尚、ルシファーは古き竜、光の蛇と呼び顕されるが、これは古きオリエント地方の神秘的概念では脱皮を繰り返す蛇が「不死の象徴」として信仰を集めていた為であり、
異形の上級天使もまた蛇と呼ばれている。

……以上の様に、ヘラこそがサタンであり、堕天した後にデビルと呼ばれた……と云うのが真実だったのだが、
後の矛盾だらけの「神学」「悪魔学」が横行し、一つの神性に付けられた異名すらを独自に悪魔化する中で、その正体はどんどん逸脱していったのである。

尚、イスラムでは悪魔(デビル)敵対者(シャイターン)、その首領をイブリース(デビル)と云い、その概念はほぼ、ルシファーら反逆天使と同じである。
※ミルトンの『失楽園』以降にサタンとルシファーが混同される様になったとの説もあるが、寧ろ教会の主張に忠実な構図なのだと言える。

……一方で、グノーシスから発展した現代の神秘学によれば「この世界は偽りの神(デミウルゴス)により創られた不完全な世界」であり、
ルシファーを人類に真の光(知識)を齎す救世主と見なす場合もあると云う。
……そもそも、ルシファーをイエス・キリストと同一視したのは教会で、
彼らは唯一神が創造した悪魔の名の下で黒ミサを行い、放埒で淫らな行いに耽る事を正当化しようとしたのだが、
グノーシスは逆にルシファー(イエス)を真の救世主と捉えたのである。
尚、この場合には唯一サタンはルシファーと敵対する概念として捉えられ、サタンは暗黒神(ヘラ)と呼びかけられている。
この場合のルシファーによる堕落とは、真に知恵に目覚めた人々の物質世界からの逸脱であると云い、
物質世界の支配者であり実利のみを求めるサタンと敵対する理由であると云う。

……他にも、サタンを高名な大悪魔の総称……或いは敬称と見なす場合も多く、
ルシファーの他にベルゼブブ、サマエル、ベリアル、サタナエルらがサタンの正体、或いはサタンと呼びかけられる存在である。
そして、ここから“サタン”を、高位の魔王の属するクラスと見なすような分類も見られる。

尤も、前述の様にこれらの悪魔や魔神の御名は凡てが独立している訳では無く、大部分の神話が共通して語られる。

また、他宗教の神性であるセトやアーリマン(アンリ・マンユ)を起源とする説もあるが、これはユダヤ/キリスト教の歴史からは外れた神秘学からの意見である。


【サタン候補】

ルシファー
説明は上記、及び個別項目を参照。
……サタンなんです。

ベルゼブブ
ルシファーに次ぐ権力を持つ蠅の王。
正体と云うより、サタンを地獄の君主の総称と見た場合に御名が挙げられる。

サマエル
「神の毒」を意味する堕天使にして、死の天使と畏れられる。
12枚の翼を持つ赤き竜であり、ルシファーの伝承より分かれた存在の様である。
モーゼの魂を迎えに行き、目を潰された天使とはサマエルの事である。

ベリアル
「創世記」にも記される無価値なる者。
ルシファーに多くの属性を奪われた事で、中世には人気はともかく悪魔としての序列は下がってしまった。
民間説話に良く登場する。

セト
エジプトの嵐の神。
「セトの犬(アン)」がサタンの語源であるとの説もあるが、ナンセンスであるらしい。女神転生ではこの説が採用されている。

アーリマン
ゾロアスター教の悪を司る神。
この世の絶対悪という存在のデカさが神秘学者にウケまくり、教会を超えたサタンの概念の受け皿とされた。


【主な登場作品】

◆ゲーム『女神転生』シリーズ
ルシファーとは別の悪魔として扱われる。
カテゴリーは「魔王」を経て「大天使」や「神霊」や「原天使」となる。
初登場の女神転生2ではびっくりするぐらいの小物だが、真・女神転生Ⅱでは神の裁きの執行者「裁く者」として登場。
例え神であろうと法に背くならば裁きの対象とする厳格な存在。
そのスタンスは真・女神転生Ⅳ FINALに再登場した時も受け継がれ、主人公を唯一神の元に導く価値があるか試し、そして死闘の果てに導いてくれた。
ちなみに前述のセト起源説から、真2ではとある人物がセトと合体しサタンとして覚醒する演出がある。

◆ゲーム『魔界村
初代5、6面のボスとして登場するアスタロトの使者。
姫をさらったのもこいつ。

「超」でもOPにて少し登場したものの、何故かボスとして登場せず。
以降の続編やリメイクでは長らく出番が無かったが、
初代のリメイク作『帰ってきた 魔界村』で久々にステージボスとして登場した。

◆ゲーム『魔導物語』『ぷよぷよ』シリーズ
膨大な魔力とぶっ飛んだ思考回路を持つ魔王。
こちらの項目に詳細あり。

◆ゲーム『デモンブライド
ぺこ丸の契約ブライドである悪魔。カラスのような姿をしている。
人間を憎んでおり、人間に捨てられた犬であるぺこ丸との相性は抜群。
戦闘時は外殻に変化してぺこ丸を覆う。

◆漫画『デビルマン
元は天使ルシファーだったが、神に忌み嫌われたデーモンに味方する為に地上へと降った堕天使。
デーモンの王である大魔王ゼノンすら平伏する、デーモンの「神」である。
伝承とは違い、デーモン達を率いて神の軍勢に対して勝利を収めた後に眠りについていた、正にデーモンの救世主とも呼ぶべき存在。サタンだからな!
ちなみに元天使だけにその姿は今でも神々しく、性別をも超越した美しき裸身で顕現しているが、自身の中に「女性的な面」を抱え込んでいる事が物語と『デビルマンレディー』に大きな影響をもたらすことになる。

◆漫画『聖☆おにいさん
伝承通り世界をやるといってイエスを誘惑した。後にルシファーと同一の存在(変名?)だと明らかになった。
誘惑も悪魔の仕事だからだが、個人的な物欲から来る誘惑までも自分のせいにされた時には流石にキレていた。
ブッダもマーラに似たようなことを言われたことがあるので、贈り物の趣味は合いそうだといわれていた。

◆漫画『鬼灯の冷徹
EU地獄の王であり、堕天使ルシファーその人。天使だった頃は美男子だったが、堕天後はオーソドックスな悪魔っぽい姿になった。
ただ本人はこの姿を気に入っている様子。CV:玄田哲章

◆漫画『キン肉マン
個別記事あり。
魔界と悪魔超人の創造主である悪魔……と思われていたが……?
正義超人における超人の神のような存在。
バッファローマンと契約したり、『Ⅱ世』では悪魔の種子にジェネラルストーンを与えたりと暗躍している。
しかし、『究極の超人タッグ編』では時間超人に利用されるだけで退場という残念な扱いに。
禍と負のパワーに満ちた空間であればキン肉マンすら呪い殺せる力を持つが、実体を持たないので影を切り裂くだけでとりあえず退散させられる。
因みに、地に墜ちた天使(神)という、ルシファー的な役割は慈悲深き神悪魔将軍が担っており、現行シリーズでは各々が完璧超人と悪魔超人の開祖とされている。
新シリーズではオメガ・ケンタウリの六鎗客と結託し、地球に新たな禍を引き起こそうとしたものの、世界の守り手として現れたジャスティスマンに打ち倒される。
悪の魔王が正義の勇者によって討伐されるという王道の展開……と言うにはあまりにも一方的な殺戮劇に、一周回って新たなファンを獲得した。

◆漫画『べるぜバブ
七大罪最強の悪魔で、魔王ベルゼブブ(ベル坊の父)より強い。ルシファーとは別人。
殺六演技・一の藤と契約しラスボスとなる。

◆特撮番組『変身忍者 嵐
西洋妖怪軍団の真の支配者であり、番組初期の悪役・血車党の黒幕でもある本作のラスボス。
悪魔の王だけあって性格は卑劣極まりなく、人間の欲望や迷いを見透かし操るのを得意とする。
顔が死神博士にそっくりである。

◆アニメ『サウスパーク
地獄の王としてサタンが登場。
かなりのゲイ。地上で亡者を率いてパーティを開いたこともある。

ちなみに

たまにある誤解(日本だけかも)としては「土星=サターン=サタン」というものがあるが、 土星の名前の由来はローマ神話のサトゥルヌス=ギリシャ神話で云うクロノスのこと でサタンとは全く以って関係ない。(アルファベットの綴りもSatanとSaturnで全然違うし、発音も“セイタン”と“サアタン”といった感じになる。)
前述のようにサタンに比されるのは金星の方である(サタン=ルシファー説を取るならだが)。




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最終更新:2024年04月10日 23:11

*1 「諸悪の根源としての富」をマモンと言うこともある。

*2 爬虫類人陰謀説でサタンが持ち出される場合、おおよそは「サタン=(旧約聖書の)蛇=爬虫類=爬虫類人」といった連想・類推に基いている。