悪魔の証明

登録日:2010/08/20 Fri 13:55:10
更新日:2024/04/09 Tue 23:15:55
所要時間:約 5 分で読めます




【概要】

悪魔は存在しますか?

「存在しません」

なぜそう言い切れるのですか?

「今まで出会ったこともなければ、またそのようなことも聞きません。つまり悪魔とは存在していないのです」

それは存在を証明することができないのであって、非存在を証明するのではありません。
全世界を巡り、ありとあらゆるものを徹底的に調べあげ、そしてその中に悪魔は確かに存在しない、ということを証明してください。

「無理です」

このように、存在しないことを証明するためには相当な無理難題が降りかかることがある。
そのようなものを悪魔の証明と呼ぶ。

ただし、上記の意味での悪魔の証明という言葉はきちんと定義された学術用語ではない。(もともとは法律用語だが、全く別の意味で用いられる)
そもそも、「証明の困難さ」というものを客観的に測る事ができないので当然である。
したがって、「悪魔の証明」を盾に立証を拒むのは詭弁とみなされることもある。

【ヘンペルのカラス】

「悪魔の証明」の典型例として「ヘンペルのカラス」が挙げられることがある(以前のこの項目でもそうなっていた)が、これは誤りである。

「ヘンペルのカラス」とは次のような問題を指す。

今、あなたは「全てのカラスは黒い」ということを証明しようとしている。
(実際にはアルビノ等の黒くないカラスは存在するが、話を簡単にするためとりあえずその点は無視してもらいたい)

さて、「全てのカラスは黒い」という命題に対し、その対偶は「黒くないものはカラスでない」である。

一般に、ある命題とその対偶命題は同値なので、「全てのカラスは黒い」ことを証明するには「黒くないものはカラスでない」ことを証明すればよい。
これは論理的には当然のことである。しかし感覚的には少し奇妙なことがある。

今、あなたは何らかの方法で「黒くないものはカラスでない」ことを調べ終えたとしよう。
あなたは世界中に存在する全ての黒くないものについて、それはカラスではないことを知っている。
すると対偶をとって「全てのカラスは黒い」ことが分かる。当たり前だ。
…しかしよく考えると、あなたは「全ての黒くないもの」についての調査を行ったのであって、「カラス」について調査を行ったのではない。
つまり、あなたは1羽のカラスも調べることなく*1、「全てのカラスは黒い」ことを結論できたことになる。

カラス自体を一切調べることなく、カラスの性質についての情報を得ることができる、というのは論理的には当然だが、感覚的には何だか奇妙に思える。
このような対偶論法の不思議さを示したのがこの「ヘンペルのカラス」問題である。

…というように、「ヘンペルのカラス」は

「対偶論法は論理的には文句なく正しいが感覚的には奇妙に思えることがある」

ということを指摘しているのであって、

「世界中に存在する全ての黒くないものについて、それはカラスではないことを確かめる」

という部分が「悪魔の証明」かどうかは大した問題ではない。
単純にこの部分が無理難題であるゆえに論理的に正しい部分も奇妙に見えるだけなのだ。

【痴漢】

「あなた痴漢しましたよね?え?してない?嘘よ!したわ!…してないですって?ならしてないことを証明して!」

これを証明するためにはまず命題を考えなければならない。まず
「わたしは痴漢ではない」
で考えるならば、対偶は
「痴漢をした人は全員わたしではない」
したがって、その女性に痴漢行為を行った人を全員探し出し、その中に自分が含まれないことを言えばよい。
自分が痴漢をしていないことを、自分以外の人について調査することで証明できる。これが「ヘンペルのカラス」である。
一方で、「その女性に痴漢行為を行った人を全員探し出」すことは困難に思える。これが「悪魔の証明」である。
まあ、痴漢をしていない証拠があっても有罪判決が出たこともあるが。


生物の非生息の判定

「此処にはこの生物は存在していない」と言う断定は条件が揃えば経験則的に可能である
例えば、ゲンゴロウ類はコイにとって絶好の獲物で尚且つ、攻撃力・防御力・速度全ての分野でコイに抗し得ない為に、ある池でコイが発見された場合、「ゲンゴロウが生息出来ない」証明になる。
無論、此れはゲンゴロウ類とコイの長年に渡る観察から導き出された経験則によるもので、尚且つ個体群≒繁殖が期待出来る生物集団単位であるので、何かの拍子に紛れ込んだゲンゴロウ一匹がコイの魔の手を逃れて隠れ潜んでいる可能性までも否定出来るものではない。
あくまで、「其処が生息地として利用出来る規模で住み着いているか」の視点である。


存在が立証されていないものの例








ちなみに法律の世界では「犯罪の証拠が存在することが証明できなければ、存在しないものとする」ことが常識である。




追記、修正しましたか?したのならば証明してください、よりよい項目になっていることを。

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最終更新:2024年04月09日 23:15

*1 厳密にいえば、「カラスは黒い」という最初の前提のための調査はしてはいるが