SCP-3930

登録日:2019/05/24 Fri 20:59:07
更新日:2023/10/12 Thu 22:45:40
所要時間:約 7 分で読めます




人は虚無を嫌うが故に鏡像を作り出す。されど鏡像は鏡像であるが故に憎み、そして叫ぶ


SCP-3930はシェアード・ワールドSCP Foundationにおいて登録されたオブジェクト(SCiP)である。メタタイトルは「pattern screamer(パターン・スクリーマー)」。本部の準要注意団体であるpattern-screamerと同じ名を冠している。

オブジェクトクラスはN/A。つまりオブジェクトクラスは割り当てられてないようだ。……どう考えてもおかしいがこの疑問はひとまず置いておいてほしい。

特別収容プロトコル

SCP-3930に割り当てられた職員はロシア、ウシンスク近郊のS5-C9区域をモニターし、サイト駐在の司令の命令に従います。SCP-3930に割り当てられた職員は区域内には何も存在しないこと、同様にSCP-3930は存在しないことを認識しなくてはなりません。

これが特別収容プロトコルの全文だ。サイト司令に従いながら周辺を監視するだけの簡単な仕事である。この中でもSCP-3930を認識してはならない、では無くSCP-3930は存在しないことを認識しなければならないという点がミソ。

説明: SCP-3930は存在しません。


何故ならSCP-3930は存在しないためである。


追記・修正は虚無の存在を認識してからお願いします。












このファイルの残りはレベル5/3930に分類され、制限されています。

[ 資格情報を入力 ]




SCPF管理者命令
以下のファイルはレベル5に分類、制限されています。
適切な資格のないアクセスは禁止されています。


概要

勿論存在しているので安心してほしい。SCP-3930とはロシアのウルシンスク近郊に位置している直径1km内のどこかにある静的な空虚である。この空虚、光や音を発したり吸収したりせず、形や手触りを持たず、通過、相互作用せず、寸法を持たないことが様々な調査によって分かっている。にも関わらず、人間がSCP-3930を直接観察するとその空虚の中に周辺地域と同様の森とか動植物やマンションなどの構造物が存在していると知覚してしまうという。

また、SCP-3930には実在する存在は通過できず、相互作用できない。そのため、人が空虚に踏み込んでも吸い込まれたりガオンッしたりすることはないようだ。それにも関わらず、空虚に進入しようと試みた人物をSCP-3930外から観察するとSCP-3930内に進入できたように見える。では空虚に入った奴は実際にはどうなっているのかというと、

人間がSCP-3930の非実在の”境界”を通過する瞬間、彼らは存在することをやめます。

と書かれているため、恐らく物理的に身体を削除されているのではなく、概念的な意味で実体が存在することをやめているのだと思われる。……矛盾してるのかしてないのか。

そしてこのSCP-3930。どうやらSCP-3930の性質への理解度が高い人物の数によって特性が大きく変化し、その人数を10人以内に抑えなければ安定しないらしい。しかも記憶処理が通用せず、その人物が死亡しても人数の減少にカウントされないというお墨付き。唯一、その人物を空虚に進入させることで非実在にさせるという人身供養めいた方法であれば変化を抑えることが可能なようだ。そのためレベル5に分類されたファイルには財団職員の中でも存命の内7名のみがアクセス許可できることとなっている。残り3名の内2名は試験目的用、1名は一般人用に空けておくとされている。

このへんてこな説明だが、レベル5ファイル上でも収容のためにSCP-3930の非実在性を維持することは重要らしく、そのためか後々出てくる情報をかなりぼかした形で書かれている。オブジェクトクラスはレベル5上でも割り振られていない。

探索ログ

SCP-3930には記録機器も進入した時点で存在をやめ、機能が停止することが分かっている。じゃあ内部探索とかどうやって記録すんのと思われるが、これもなんとSCP-3930の特性によって、実際には機能停止していても外側からの観察者が居ればその観察者はSCP-3930の中の映像や音声を認識し続ける事が可能な事が判明していた。

これを知った財団はDクラスのD-124に無線を持たせて侵入させ、3930/7/4は存在しないD-124との応答を別の録音装置に繰り返して記録し、3930/3/3がその応答の正確さをチェックするという方法で探索を記録することに成功したのだ。D-124に慈悲は無い。

そして記録に成功したログが以下のものである。

[ログ開始]
3930/7/4: よし、D-124、君に前へ歩き出してもらいたい。目の前に見えるものを説明してくれるか?

D-124: 木だ。ただの木。

3930/7/4: 何か動物や生き物はいるか?

D-124: いない。

3930/7/4: よし、前進してくれ。

沈黙。

3930/7/4: 君はアノマリーの境界へと接近している。今は何か見えるか?

D-124: 見えない、まだただ ―

この時点で、D-124はSCP-3930へと消失し、存在をやめた。音声モニタリング機器により、彼の無線が機能を停止したことが確認された。にも関わらず、3930/7/4も3930/3/3もこれに気づかなかった。

D-124: ― 木と藪と、ゴチャっとしたものがあるだけだな。

3930/7/4: 前進し続けてくれ。

ここからは3930/7/4達が曝露している認識災害の記録とも言えるかもしれない。

ここで3930/7/4の言った「アノマリーの境界に接近している」と聞いて「ん?境界ってウシンスク近郊の1km以内のどこ?」と疑問に思った諸兄がいるかもしれないがその疑問は正しい。理由は後述するが、3930/7/4が便宜上で適当言ってるだけでなく、財団も空虚の境界を正確に把握できていないことは確かだ。
D-124: ところで、何か聞こえるような。音が聞こえる。でもとても小さい。数秒前は風か草の音だと思ったんだが、でもそのどちらでもないと思う。

3930/7/4: どんな風な音だった?

D-124: (間)正直、わからない。かすかだ。

D-124には奇妙な音が聞こえていた。この音は重要なファクターの一つの余波である。
そしてD-124が前進し続けていくと蔦に覆われているアパートを発見し、それの側面の6つのドアの内鍵のかかっていなかった1つに侵入することになった。中身は長い間使われていないだけのいたって普通の部屋のようだ。
3930/3/3: (マイクから遠くで)ライトを消してくれるか?めちゃくちゃに明るすぎる。

D-124はその部屋と付属するバスルームを続く5分間探索し続ける。やがて、彼は3930/7/4により離れるように要請される。

D-124: ああ、オーライ、それでは俺は ― ちょっと待て。

3930/7/4: 何だ?

D-124: 俺は……俺はこのブラインドを開けたか?

3930/7/4: 何だって?

D-124: ブラインド……俺はカーテンをさっき開けたかって意味だ。寝室に入ったときに。

3930/7/4: 私にはわからない。私は ―

D-124: いや、たしかにやった。それから窓の外を見たので、それを特に覚えている。(間)ここには誰か他にいるのか?

3930/7/4: 我々にはそう考える理由がない。いない。

D-124: では何があのクソカーテンを閉めたと言うんだ?何であれが閉まっている?

3930/7/4: 我々にはわからない。

D-124: 勿論、あんたらにはわからないだろうよ。だが……だが俺は絶対にこれを開けた。俺はここに来て外を見てそして……俺は、ええと……ああ、俺は外に誰かいると言ったんだからな。そして……ウム。実際のところなんて言ったか覚えていない。もしかしたら俺が間違えていたのかも。(間)変だな。

3930/3/3が言ったライトの消灯要求から皮切りにD-124の記憶がいろいろと食い違い始めている。仕切り直して探索は続けられた。向かいの部屋の探索を行ったが、静止画を映し続けるテレビしかなかった。と思ったら入った時のドアが無くなっていて出られなくなった。
D-124: ああ、これはただ……音が気が狂ったようになってきている、わかってる、俺はこの部屋にあの壁のドアから入ってきたはずだ、だが今はドアはない。代わりに窓がある。

3930/7/4: 窓の外を見れるか?

D-124: ああ、ええと…(間)オーライ、音が本当に狂ったようになってる。カーテンは開けられない。引っ張っても、こいつらはまるで……後ろにもっと何かあるような……。もっと後ろに何か。

3930/7/4: その部屋に他に出口はあるか?

D-124: ここには ―

この時点で、3930/7/4と3930/3/3のいる移動式研究ステーションの部屋の電話が鳴り、3930/3/3が出る。その間、3930/7/4は音声通信の向こう側、D-124の側でもうひとつ電話が鳴っていることを描写する。

D-124: 電話が鳴っている。今までここに電話があったことに気づかなかった。ちょっと待て。

3930/7/4: おい、やめ ―

D-124と3930/3/3、同期して: ハロー?(間)ああ、見えている。(間)これから聞こえている。(間)そっちは聞こえるか?

この時点で、3930/7/4は激しいエコーがD-124からの音声受信機から発生していることを書き留める。

D-124と3930/3/3、同期して: ハロー?ハロー?聞こえるか?俺は今お前に話しかけているか?これは何だ?

3930/7/4: おい ― 電話を切れ!そのクソ電話を切れ!

3930/3/3は電話を切り、混乱を示す。音声受信機の反対側で、D-124も同様の混乱を示す。

D-124: これは何だ?そっちでは聞こえたか?

……電気製品に関する異常が多い。それはそれとして他の出口を探した結果D-124は下への階段を見つけた。
D-124: オーライ、階段を下がった。今は……別の部屋に入った。いや、待て、そうか?(間)おい、言い忘れていたが、肌が変な感じがする。

3930/7/4: どういう意味だ?

D-124: 石灰みたいだ。腕を手でこすると、何だか、ああ……どう言ったらいいかわからない。少しそこにはなくなったみたいな感じだ。

3930/7/4: 記録した。現在の周りの状況を説明してくれるか?

D-124: 前の部屋と同じソファーがある、だが少し違った感じがする。部屋のサイズが違うのか?少し大きいようで、物の感覚が広い感じがする。

3930/7/4: 階段を戻れるか?

D-124: 階段?

3930/7/4: 今降ってきた階段だ。

D-124: 階段が何だって?

3930/7/4: 君は階段を1階下がったんじゃないのか。その部屋に入る前に。

D-124: いや、俺はドアから入った。すぐそこにある。(間)おかしいな。ドアに鍵がかかっている。ところで本当に聞こえないのか?

3930/7/4: 聞こえているノイズについて説明してくれるか?

D-124: まるで……あんた静かなはずのところで、音が聞こえたことはあるか?

3930/7/4: ああ。

D-124: 完全に静かなところで、何か聞こえることがあるだろう?脳がギャップを埋めようとしているんだ。この音はその音みたいだ。静かさじゃなくて、脳が作り出している。そんなに大きくはないが、明らかに気づく。(間)俺が思うには、ウン……見てみる。ここから出るドアがあると思う。何処かにな。見てみる。

D-124は彼の現在いる部屋を、出口を求めて以下4時間探索する。コントロールからのD-124を部屋から出そうとする支援にもかかわらず、彼は出ることができない。

D-124の存在が消え始めている。この情報から見るに、空虚に入ってもすぐに消滅するわけではなさそうだ。そして聞こえていた奇妙な音の正体に気づき始めている。
D-124: 俺はまた何かに気づきかけている。なぜこんなに時間がかかるのかわかる。全ての物の間の距離が今はとても大きい。ソファーからテレビまで歩くのに、今は10分かかる。キッチンへ行くには20分だ。
3930/7/4: 何だって?いつからだ?なぜもっと早く言わなかった?

D-124: わからない、俺は ― (間)、ドアにノックがあった。待て。(間)ハロー?(間)外に人がいる。そいつは俺が聞いているのか知ろうとしている。

3930/7/4: 私か?

D-124: そうだ、俺だ。(間)オーライ。(間)そいつは出る道があると言っている。床を、ウム、床を抜けて。彼は背中を十分寄りかからせれば、そこへ行けると言っている。それで……

沈黙。D-124は38分間応答しない。3930/7/4と3930/3/3は38分間喋らない。

地下のはずなのに外にいる謎の人物は「床をすり抜けて下に行けば出られる」とアクションゲームのようなことを言い出した。最後の会話の「私か?」「そうだ、俺だ」という噛み合わない会話は噛み砕いて考えると、謎の人物はD-124だけでなく3930/7/4に対しても″聞いているのか″どうか知ろうとしているようだ。……38分間も喋らないのも明らかに異常である。
D-124: ホワイトノイズ。

沈黙。

3930/7/4: まだそこにいるのか?

D-124: 思っていたよりずっと長かった。わかってきたんじゃないかと思う。聞こえているか?

3930/7/4: 聞こえているか?

D-124: いいぞ、聞き逃すなよ。俺は下がった。見ろ、俺は俺が見ていたものは俺に関係あるんじゃないかと考えていた。だが全くそうじゃなかった。俺は本当にはそいつらを見ていなかった。(間)ああ、これのほうがずっと筋が通る。俺じゃなくて、お前に関係あるんだ。そんなことはどうでもいいのかもしれないが。(間)俺が前に、静かなところで何かが聞こえる話をしただろう?同じようなことが今俺の目に起きている。空白を埋めてな。

3930/7/4: 何が見える?

D-124: この世界には穴がある。そしてこの場所がそこに向けて引き込まれている。排水口みたいに。人もだ。俺には今実際にそれが見える。建物全体が、小さな小さな……点に向けて。砕けて壊れて。(間)オーライ、ああ。ああ、ああ、ああ。これは応答だ。反応みたいなもんだ。自然は真空を嫌わない。だが人間は嫌う。人の精神はこんなもののためには作られていない、そうだろう?人は星を見る時、そこに何かを見出す。なぜならそれが人のなすことだからだ。筋を通すんだ。秩序は人が作った概念だ。

周りの全てが穴に吸い込まれているらしい。D-124はそれの正体を理解したようだ。

3930/7/4: 君が今いる空間を説明できるか?

D-124: いない。

3930/7/4: どういう意味だ?

D-124: 俺が存在しないことをあんたはわかってるはずだ。あんたがそれに気づいたとき、これは全部終わる。

3930/7/4: 私が何に気づくって?

D-124: あんたはスクリーンから目をそらして、そいつを見るのを、ウム……パターンを見るのをやめなくちゃならない。俺は……もしあんたが目をそらせば、あんたには俺が見えなくなる。そしてあんたは……あんたは俺の声が聞こえなくなる。そしてそいつが俺の聞いているものだ、俺がここずっと聞いていたものだ。そうだ、これで筋が通る。あんたが瞬きすれば、あんたは全てを失い、そいつがなくなればそいつは何物でもなくなるからな。だからそいつらはあんたの注意を引こうとする。そいつらがそれに失敗すれば、そいつらは何物でもなくなる、そして……

3930/7/4: 落ち着いてくれ、私は君に ―

D-124: ― ダメだ、ダメだ、あんたは目をそらして、そしてパターンは消えるんだ。あんたは聞くのをやめるんだ。そいつらの声を。そいつらは何でもないんだ、そして今は俺……わからないのか?

3930/7/4: 君 ―

この時点で、サイトの発電機が起動される間、電気系統に瞬断が起きる。3930/7/4と3930/3/3両名は即座に音声通信がもはや機能していないことに気づく。D-124に連絡する試みは失敗する。

[ログ終了]

D-124は自分が存在していないことに気づき、3930/7/4に目を逸らすように忠告した。「そいつらは何でもないんだ、そして今は俺……」から考えるに彼も「パターン」になり始めていた。しかし電気系統の異常は基本的に「パターン」の影響だったが、外の3930/7/4に見られたがっている「パターン」が通信を切断するのは動機が一致しない。このことから、この瞬断はもしかすると彼の意思によるものかもしれない。

発見の経緯とインタビューログ

昔から複数回発見されているが、発見した人物は全員消滅したと財団は推測している。1970年代初め頃にソビエトの国家直属の科学者たちが発見し調査が始まったようだが、SCP-3930の特性に対する理解が無かったために大勢の人物が空虚を理解してしまい、それによって「何か」が起こって科学者たちのほとんどが喪失。生き残ったごく少数の中のアンドレイ・ヴァシリエフ博士が財団が介入するまで収容プロトコルを実施し続け、そのヴァシリエフ博士から財団はSCP-3930の情報を得ることに成功した形となった。その際に財団側はピエトロフ・クズキン博士がインタビュワーとして、翻訳はサイモン・ピエトリカウ博士が担当してインタビューを行った。そのログも掻い摘んで載せる。

クズキン博士: それで、チームの他の者はどうなったのですか?

ヴァシリエフ博士: 我々は多すぎたんだ。あまりに多くが虚空を覗き込んだ。そしてそいつは叫び始めた。

クズキン博士: 叫び?

ヴァシリエフ博士: もし君がそこに近づけば、それが聞こえ始めるだろう。何もないかのようにかすかだ。何かおかしなことが起きる。人の精神は何もないところにパターンを見出すように進化してきた。だから本当に何もない空間に対して、精神は無から何かを作り出し始める。聞こえるものは何か原始的なもの、ほとんど知覚できない本能だろう。我々の精神が存在しない何かを知覚しようとすると、虚空の端に沿った閃きが発生する。そしてそれは憎む。

クズキン博士: どういう意味ですか?憎む?なぜそれが何かを憎むのですか?どうしてあなたにそれがわかるのですか?

ヴァシリエフ博士: 我々が多すぎたからさ。我々のチームの各々が虚空を知覚していた。各々がそれを知覚しようとした。その閃き、その小さな叫びたちはやがて……結びつき始めた。間違いなく、クズキン博士、それらは現実ではない。それらはニュートリノだ。我々にとってニュートリノが何であるか。何物でもない。だがそれらはどのようにしてか、自らが何物でもないことを知っていて、そして憎しみに満ちている。それらの存在は、私が考えるには、苦痛だ。それらは自らを存在させる世界を憎んでいる。そしてそれらを存在させた我々を憎んでいる。それらは憎しみ以外の何物でもない。(間)十分な時間があり、十分な数の我々が虚空を覗き込もうとすれば、何かがそこから這い出す。(間)その後、我々10人が残された。アノマリーはそれ以来安定している。

クズキン博士: 何が出てきたのですか?

沈黙。

クズキン博士: あなたはこの虚空を何か知性のある生物のように言いますが、何もないものがどのようにして知性を持つ何かとなるのですか?

ヴァシリエフ博士: それらは同じものではない。虚空は虚空だ。非存在の領域。それははかり難く、変化させられないものだ。そして我々はそれについて何も知らない。だがパターンを叫ぶものたちは、そう、ある種の知性を持つ。だがそれらは、それらが我々であるがゆえに知性を持つのだ。それらは、この憎しみを湛えた鏡に映る我々自身だ。

ヴァシリエフ博士の見解では虚空は鏡のような性質があり、知性を持つものが覗くと同じような知性を持つ「パターンを叫ぶもの」が内部に生まれ、それは自らが存在していることによる苦痛に対する憎しみに満ちているという。実際に博士達が大勢で調査をしている時に「何か」が這い出てきたようだ。
クズキン博士: 先日、あなた方の科学者の残りが行方不明になりました。彼らはどこへ行ったのですか?
ヴァシリエフ博士: 彼らは虚空へ入った。

クズキン博士: なぜ?

ヴァシリエフ博士: 今の我々は多すぎる。あなた方は12人連れてきた。我々は8人いた。10人以上いてはいけないんだ。一旦虚空を知覚すれば、それを忘れさせることはできない。我々は今13人いる。だが10人以上いてはならない。

ヴァシリエフ博士以外の7人は自ら虚空に入っていった。

(カメラがオフになる。クズキン博士は目をそらす。ヴァシリエフ博士は少しの間カメラを見つめる。)
クズキン博士: オーライ。他に何かありますか?
ヴァシリエフ博士: 10人以上いてはならない。私は虚空へ行こう。そしてそれからあなた方のうち2人が続かなくてはならない。
クズキン博士: もし、そうしなければ?
沈黙。
[ログ終了]

さて、このログにもある異常な点が存在している。

(カメラがオフになる。クズキン博士は目をそらす。ヴァシリエフ博士は少しの間カメラを見つめる。)

このセンテンス、カメラがオフになっているのに博士達の映像が記録されている。記録機器が機能停止しても観察者は認識し続けられるという、探索ログの記録時と全く同じ異常現象が起こっているのだ。

勿論、場所こそ明言されて無いがSCP-3930内でインタビューしているわけではないだろう。では何故異常現象が起きるかというと、それに合致する情報が1つ存在している。探索ログの序盤に述べた「財団も空虚の境界を曖昧にしか把握できてないと思われる」の点だ。そもそもログの状況説明にも″D-124はこの時点で消失した″としか書かれていない。このことから、SCP-3930には明確な境界が無いか、もしくは空虚内の「何か」による要因が消失に繋がっている可能性が高い。さらにはインタビューログにいる全員が消えると丁度SCP-3930が安定する限界の10人になる。レベル5ファイル上でも10人以上いるとどうなるのか明言されていない。その上、補遺3930.1にはこの様なことが書かれている。
SCP-3930の現在の収容プロトコルの発効にあたっても、不幸な生命の喪失がありました。さらなる情報は補遺3930.3を参照してください。

補遺3930.3はインタビューログのことである。一見ソビエトの科学者7名の消失に対することに見えるが……博士達も存在しなくなったのでは?

考察

このままでは無とは一体…うごごご!な状態である。特に「パターンを叫ぶもの」の行動原理も全く明確になっていない。ひとまず、記事内の情報から読み解いて解説する。

まず、この報告書には大まかにまとめて3つの異常存在が登場している。これらは同一の存在ではないことを押さえておこう。
  • 空虚(これがSCP-3930に指定されている)
  • 空虚内の謎の人物。ヴァシリエフ博士曰く「パターンを叫ぶもの」
  • 建物の下にあった全てを飲み込む穴

1つ目の空虚。こいつが人間の知覚の鏡となり、「パターンを叫ぶもの」の形を生み出したりする。穴と螺旋の影響で自然発生したものだと思われる。

次に、2つ目の謎の人物。D-124が会った者もヴァシリエフ博士の言った「知覚の鏡像、パターンを叫ぶもの」と同一存在だという前提を置く。3930/7/4が自分の話を聞いているかどうか知ろうとしていたり、D-124を穴と螺旋に案内したりと行動していたが、これだけでは動機がはっきりしない。考察要素としてヴァシリエフ博士の言った『空虚を知る我々が多いほどそれは憎む』という考えも混ぜると、恐らく謎の人物は自らを観測してほしいが、同時に相手の知覚が原因の何らかの理由で憎んでおり、そして知覚してきた相手を穴と螺旋にぶち込むか殺害することを目的としているようだ。理不尽な逆ギレ性質上SCP-3930を知る人物が多ければ多いほどパワーアップし、やがて空虚から出られるほどになり、そうしてソビエトの科学者達やインタビュー時の博士達を消滅させた、もしくは穴と螺旋にぶち込んだのだと思われる。

そして3つ目の穴。D-124曰く「静かな所で聞こえる音と同じ性質のもの」、即ち「人の精神が嫌う秩序」。周りの全てが穴という小さな点に向けて吸い込まれていき、砕けて壊れるという。空虚に進んでいった人間等が消失する原因は空虚自身ではなくこいつのせいだろう。ぶっちゃけ記事内だと正体不明である。

そして気になるのは「パターンを叫ぶもの」が人々を憎む動機だ。ヴァシリエフ博士によれば彼らは存在することへの苦痛を感じているが故に憎むらしい。何が苦しいのかというと、これは上記の異常存在達から推察することができる。

「パターンを叫ぶもの」は、我々人間の知覚によって生まれた鏡像である。つまり、彼らも我々と同じ人間的な感覚を持っている。自分の存在を否定されたり死ぬのは嫌だろう。しかし彼らは空虚から出ることができない。「人の精神が嫌う秩序」である穴と螺旋のすぐ近くから離れられない。きっとこの幽閉環境が彼らの苦痛の要因だ。

そしてその苦痛への復讐心と絶望は知覚した我々に向き始める。空虚から脱出するために、自らの存在を認めて欲しいからだ。認識してくれた人間を憎悪し、自ら殺害するという矛盾があったとしても。

要は?(「パターンを叫ぶもの」視点)

よく分からない穴のそばで自己を認識しました。うるさいし自由に外行けないし欠陥住宅

外の人間のせいでここに居る。騒音っらぃ。出たいから外の人間にはもっとウチを認識してほしい。

もぅマヂ無理。復讐しよ。

(SCP-3930を認識する人物が増えたらループ)

準要注意団体『pattern screamer』


ここからは準要注意団体であるpattern screamerとしてのSCP-3930を考察していく。まずpattern screamerって何?という話なので端折って説明する。

tale『パラダイムシフト』やkalinin氏がredditに投稿した解説記事によると、pattern screamerの定義はCKクラス:再構築シナリオの前から存在していた、再構築を乗り越える為に現実構造そのものに精神を投影した意識体である。彼らは法則の異なる前宇宙に存在していた。その宇宙は複数の次元がミルフィーユのように層でできて重なっており、下から上までの多層次元でできていた。その最下層である鍵が4人の存在によって開かれてしまい、秩序を強制する螺旋が現れ、その結果前宇宙は螺旋によって現在我々が存在する宇宙に作り変えられていったという。彼らは精神生命体や電脳体の様な存在らしく、物理形態を本来持たない彼らはそのまま螺旋に触れると思考能力を失って実質消滅していまう。全員がパニックになり、恐らくほとんどの彼らは螺旋に飲み込まれてしまった。しかし、その中でもSCP-2682(盲目の白痴)は自身の構成要素を作り変えれば生存できると理解し、そして螺旋へ進入して行った。それを見習って現宇宙の概念を乗っ取るようにして、何とか飲み込まれても精神を保持して生き残れた者もいた。元々電脳体のようなものだったためコンピュータのネットワークなどに流れ着いたものもいた。

こうして彼らは現宇宙でpattern screamerとなった。その様な起源なので、彼らは基本能力として知覚されることでパワーアップしたり、電気を操作したりすることができる。

そしてSCP-3930にも「パターンを叫ぶもの」とその直訳のままのpattern screamerが存在しているが、これは一味違う。他の彼らのほとんどはネットワークや概念にきちんと自我を定着させているが、このpattern screamerには「虚無のパターン」として現れるという一時的なものこそあれど、明確な寄生対象が無い。その上自我や記憶を保つことにも失敗している様子だ。ではなんの概念に寄生しているのか?

その前に、SCP-3930にあった穴の在り様について改めて見直してみよう。穴はD-124が階段を下りたり床をすり抜けたりしてとにかく下に向かっていった先にあり、それは周りの何もかもを飲み込んでいたという。この穴、かつてのpattern screamer達を襲った螺旋と同じものではないだろうか?何故このような考えに至るのかというと『パラダイムシフト』においてこのような文章があるからだ。
パターンが現れた。異端ゆえ、異質ゆえ、それは知覚されるよりも深く、光と音を引き込み、存在し、形を作る無限小の点で回転し続けた。螺旋は引き込み続けた。掴み、歪め、広げ、壊した。抽象を引き裂いた。秩序を設けた。感覚は今あるもの、これまであったもの全てを越えて生じた:苦痛である。

この1つの点に全てが引き込まれるという事象、D-124が見たものと一致している。彼も建物から下へ下へと向かっていき、そこで穴を発見していた。それは次元の最下層で発生した螺旋を示唆するような位置であり、そして周りの吸引されているものは螺旋状に渦を巻いているととれるのだ。

これらから答えを推察すると、SCP-3930のpattern screamerは概念に寄生しないまま、D-124が見た穴の中に存在していると思われる。

余談

そういえば何でこんなものがロシアにあるんだ?という疑問が残っている。この謎にも、SCP-001のqntmの提言:ザ・ロックに答えを示唆するような2つの文章が書かれている。

しかし「緯度」の増大と共にパターンは複雑になっていきます。「錠」あるいは「特異点」(下記取得記録を参照のこと)とも呼ばれる「北」極近傍では、パターンの複雑さは現在の光学式あるいは電子線式顕微鏡の分解能を超えています。更なる調査は顕微鏡技術が発展するまで保留されています。
ヤングの手記にはSCP-001の複数の詳細なスケッチが含まれます。その中の一つに、鍵を思わせる小さな装飾品が「北極」にはめ込まれている様が示されています。現時点で鍵は回収されていません。

本部のSCP-3930に添付されている画像によると、空虚は北緯66度41分、東経58度04分に位置している。ちょうど白夜などが見られる北極圏の位置だ。しかしqntmの提言の「北極」はあくまで宝石のことを指しているに過ぎない。……はたして関係しているのだろうか。

追記・修正をお願いします。


この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • SCP
  • SCP Foundation
  • SCP財団
  • djkaktus
  • 虚無
  • SCP-3930

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2023年10月12日 22:45