ケラウノス(ギリシャ神話)

登録日:2019/3/13 (水曜日) 23:48:00
更新日:2023/11/13 Mon 20:56:41
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ケラウノス(κεραυνός) とは、古代ギリシャ語における「」である*1
また、ギリシャ神話の主神であるゼウスが振るう武具としても知られ、同神話最強の武器である。

形状に関しては「杖」「槍」「矢」などと諸説あるが「雷そのもの」であるとも。
訳語としては、雷霆(らいてい)の語を当てられることがしばしば見受けられる*2

概要

元々はサイクロプス三兄弟がゼウスによってタルタロスから開放してもらった際にゼウスへの感謝も兼ねた献上品として作ったもの。
サイクロプスはそれぞれ「閃光(ステロペス)」「稲妻(アルゲス)」「雷鳴(ブロンテス)」の名を関しており、その三つを合わせた雷の力が宿っている。

また、アテナがその知恵から発明したともいわれる。
この場合、アテナがヘパイストス*3とその下にいるキュクロプス(サイクロプス)を指示して作らせ、そしてゼウスに献上したとされる。

ゼウスを象徴する武具であるためゼウスのみが使えるイメージが強いケラウノスだが、このことから、実はアテナも使うことが可能という伝承も存在する。
かの「アイギスの盾」が、アテナを象徴することもあればゼウスに使われることもあるのと似たような話だろう。

また、後述の様に一度、アポロンによって製造所を破壊されており、製作担当者も殺されているので、元々キュクロプスが作っていた物をアテナとヘパイストスが製造設備も含めて再現したと考えれば、双方の説の辻褄は合う。

その形状は先述の通り武器の形をしていたという説があるが大抵の場合決まった形はなく、雷=稲妻そのものと言われる。
ゼウスはこれを投擲する形で使っていたと言われてるので、キン肉マンに登場する技で例えるならばサンダーサーベルのような感じで使っていたイメージをしていただければ問題はない。

また、単なる雷として描写されているイメージがあるが、原典では全能神の威光として一度放てば世界を軽く焼き尽くし、本気で放った場合には宇宙そのものをも破壊すると言われる文字通りギリシャ神話で、最強の威力を誇る武具なのだ*4

神話におけるケラウノス

最初に登場したのがティターン神族との戦いであるティタノマキアーである。
若き日のゼウスは先述のようにタルタロスに封印されていたサイクロプスを助け出すとお礼にケラウノスを献上され、早速これを手にし、手足のように扱ってティターン神族を次々に駆逐、戦争に勝利するとタルタロスへ封印した。
ゼウスの雷霆は放った瞬間に空間を満たし、威力は勿論のことティターン達は強烈な光で目をやられるのにも苦しめられたという。
そして古い神話の形では、この序でとばかりに世界の始まりであるカオスをも滅ぼされているとのこと。

ギガントマキアでもギガスの軍勢を蹴散らす際に使っているが、妻であるヘラにギガスの一人であるポリュピリオンが欲情し襲いかかった際にはこれを投擲し、致命傷を負わせた。
止めはヘラクレスが刺している。

アスクレピオスの逸話においても登場し、後述する通り死因となっている。
ケイローンに師事していたアスクレピオスは飛びぬけた医術を持っており、あらゆる病を治し、遂には死者をも蘇らせる水準にまでなっていた(彼が蘇らせた人物の中にはグラコウスやヒッポリュトスも含まれている)。
だが死者が冥界に来ないということはハデスら冥府神にとっても死活問題であり、世界の秩序を乱す行為であるとゼウスへ抗議した。
これを聞いたゼウスはアスクレピオスへ罰を与える為にケラウノスを投擲し撃ち殺したが、しかし我が子の死の真相を知ったアポロンはこれに激怒。
八つ当たりか逆恨みか、ケラウノスを作ったサイクロプスたちを襲撃すると次々に殺していき、遂には皆殺しにしてしまった為、ゼウスはその功績を認めて天に上げ、神の一員として迎え入れるとへびつかい座とした。
雷霆の製造所を破壊したアポロンは正規の神罰でお仕置きされ、オリュンポスの1年間の追放と人間の牧場での労働と言う罰を喰らった。
ケラウノスの製造所はヘパイストスが復旧したものと思われる。

そして魔神テュポンとの戦いでも使用されており、他の12神が逃げ惑う中勇敢にも立ち向かうものの、テュポンには全く通用せず、遂には敗れ去ってしまう。
だがリベンジ戦においてはモイラの策略もあって弱体化したテュポンへ投げつけ、弱らせたところにエトナ山を投げつけて見事封印に成功した。
ただし、原典に於いてはゼウスの方が弱体化されていない為、カオス同様に、テュポンは全能神の威光に焼き尽くされたとされていた。

なおこのケラウノスの力を宿したことでゼウスの「本性」は雷と一体化したので、セメレに自らの本当の姿を見せた際には変身した途端に一瞬で感電死させてしまうという悲劇を招いた。
この時、セメレーは「真の姿でヘラ様と行う夫婦の営み」をゼウスに願っている。
逆に言うと、ヘラはケラウノスをまともに受けても平然と耐えられる、少なくとも容易にダメージを負わない事が証明されている。
ヘラと同じく正妻だったテミスと行為中に恋人を雷霆で射殺されても碌なダメージを負わなかったデメテルの2人もヘラ同様にケラウノスが効かないか、かなり耐えられると思われる。
ヘパイストスは雷霆で痛撃を受けており、アポロンも「雷霆が有る限りゼウスに立ち向かっても敵わない」と理解して雷霆の製造所を襲撃しているので、神だから雷霆が効かないと言う訳ではない。

このように古代ギリシャにおいて雷とは神話における最高神の怒りそのものであり、当時のギリシャ人にとってもまさに畏怖すべき自然現象であったことは間違いないだろう。

正義の剣

実はケラウノスは正式な神罰の執行手段ではない。
正式な神罰の執行手段として<正義の剣>が存在しており、ゼウスとテミスの次女であるディケーが神器として所有している。
此の<正義の剣>は<正義の天秤>と対になっており、罪の重さを計って其れに応じた罰をゼウス、テミス、ディケーが相談した上で振るわれる。
雷霆の製作所がアポロンに襲撃されて働いていたキュクロプス達が殺された時でも、正式な神罰は問題無く機能した処を見ると、ケラウノスと<正義の剣>は別物である可能性が高い。

何方の威力が上か?と言う点は明言されていないが、<正義の剣>はゼウス、テミス、ディケーの三者が相談の上で振るわれるので、使用の手続きが面倒で最高神と言えども気軽に使えない代わりに、軽いお仕置きで済ませる事も出来るので威力の調節精度では上回っていると思われる。

創作におけるケラウノス

あまりギリシャ語で呼ばれることはなく、もっぱら雷霆の名称で登場する。
ケラウノスそのものというよりは雷属性の武器や技名などに使われることが多い。

余談

ギリシャ神話と共通した要素を持つ古代オリエントに広がった他地域の古代宗教の主神達(メソポタミアインド北欧…etc.)にも雷使いが多く、彼等の使用する雷もまた雷霆と訳す用法が一般化している。
これ等の神々は、鍛冶を象徴する神性に雷霆を献上される構図まで一緒である。

日本でも雷は神鳴りであるし、神その物の象徴であった。
代表的な武神である建御雷神(たけみかづちのかみ)や、かの有名な学問の神、菅原道真なども雷神の類である。
俵屋宗達作・国宝「風神雷神図屏風」などは誰しも一度は目にしたことがあるだろう。
古代では大地に落ちる雷は、そのまま「父なる天」と「母なる大地」の交合=豊穣の象徴。
稲の妻と書くように、農耕民族として欠かせない信仰であった。
そのことから、稲と豊穣の神である稲荷神とも関係が深い。
また、雷が最初に人に火をもたらしたと真しやかに言われたりもしている神よりの贈り物、叡知の象徴でもある。


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最終更新:2023年11月13日 20:56

*1 日本のフィクション作品ではしばしば、伝説の武具の名前のように使われるが、この語自体は「アイギス」のような固有名詞ではなく、あくまで一般名詞にすぎない。

*2 激しい雷の意。普段あまり使われない語なので、通常の雷と神の雷を区別する目的で当てられたものか。

*3 元より、ヘパイストスは火山と雷の神であったとされるため、そんな彼の権威をゼウスに明け渡すという意図があったのかもしれない。

*4 実際、現在のギリシャ神話は後生の創作がメインで、ゼウス以下の神々が人間臭くされ過ぎている面があり弱体化補正をかけられた様なもんである。