SCP-4000

登録日:2018/11/09 Fri 22:41:59
更新日:2024/01/26 Fri 20:22:31
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WARNING:

The following anomaly is affected by communication.
Do not refer to it in speech or writing unless trained.


*1


SCP-4000はシェアード・ワールド『SCP Foundation』に登場するオブジェクト(SCiP)である。
オブジェクトクラスはKeter(収容方法が確立されていないオブジェクトに定められるクラスである)

▽目次

はじめに

SCP-4000の本文、および翻訳文を見てもらうと分かるのだが、まず目に付く特徴は番号と項目名だろう。
今更言うまでもないが、SCPオブジェクトにはそれぞれ番号とタイトル(特徴を示した呼称である場合が多い)が振られている。

本家の一覧ページではそれらがリストアップされているわけだが、ではこいつが含まれた4000番台がどうなってるかというと。


  • 禁忌
  • SCP-4001 - 永遠なるアレクサンドリア
  • SCP-4002 - 黒き月は烏兎の果てより吼ゆる
  • SCP-4003 - カウボーイ、カトリック信仰、そして白亜紀についての話
(以下省略)

この通り「禁忌(原文ではTaboo)」としか書かれておらず、番号が振られていない。
本文のほうもアイテム番号に当たるものは『プロトコル4000-Eshuに基づき制限されています。』となっている。


察しはつくだろうが、アイテム番号を振ることが禁止されているのはこいつの異常性に起因する。


概要

この項目で紹介されている存在は通常とは異なる空間に存在する、木が生い茂ったエリアである。
その不思議な森には我々の常識から外れた様々な実体が出現する。

この異常な場所に行くにはある儀式を実行する必要があり、この領域にあるレンガ造りの井戸に出現する。

出現したポイントからは1本の泥の道が延びている。
このルートに沿って一方に歩いていくと、最終的にスタートと同じ場所に戻ってくる。
どうやらこの普通じゃない地形はループしているらしい。

正しいコースを外れたり逆走したりしたものは連絡が途絶する。
ついでにこの主要な道は観測するたびに大きく道筋が異なっていて地図がつくれない。

戻るには唯一の道をちゃんと進んでいけばそれでいいのかというと、それだけではすまず、時折妙な生物に出くわす。

この土着の実体は知性を持ち帰るためにははみ出してはいけない範囲を塞ぐように出没する。

常識とは違った何かは短気だそうだが、4000-SEP予防措置に従えば安全に交流できる。
細かいルールは省くが、ざっくりというと森の住人には敬意を払って丁寧に接しなさい、でも深く関わってはいけません、というのが決まり。



特別収容プロトコル

説明の表現が回りくどいようだが、これこそが収容プロトコル。

不思議生命体出入りする穴地面に線上に存在している泥も全部ひっくるめて、名もなき世界のモノを「名前」「肩書」
「呼称」で言及してはいけない。

『決まった名前』というのは、財団がSCP-4000と定めたりしたナンバーも含まれており、
ナンバーで呼んでも異常現象が発生するので、アイテム番号は規制し項目名は禁忌というわけである。

あくまで「描写」で説明しなければいけない上に、同じ表現を繰り返してもいけない。
これは報告書でも同様で、苦心して様々な表現を使っている。


ここでは面倒くさいので説明が煩雑になるので普通に説明すると、
SCP-4000は亜空間にある森林。ならびにそこに住む妖精である。

森の中の井戸にワープする方法だが、
進入方法は一種の儀式のようであり、失敗したら二度と実行してはいけないらしい。

1.どこにある物でもいいので、炉に着火する。
2.オスのアカギツネ、成熟した大人のライオン、ヒゲクジラ亜目の骨の粉末を混ぜ合わせ、混合物を火に入れる。
3.自分が大事だと思う燃えやすい私物を投げ入れる。
4.カラス属に分類される黒い羽毛の鳥の羽を3枚注意深く入れ、煙によって煙道を上昇させる。
5.炎が声を発し始める。対象者の生まれによって3パターンがあり*2、それぞれのパターンに応じた返答をしなければいけない。
6.正しければ、炉が拡大してはしごが降りてくる。火は無害になる。


タイプ-1.
炎:この森には掟がある。
タイプ-1:あるいはそう言われる。
炎:そしてもしおまえが掟を犯すなら?
タイプ-1:私は代償を払うだろう。

タイプ-2
炎:誰かそこにいるの?
タイプ-2:私だけだよ。
炎:そしてあなたは誰?
タイプ-2:きみは知っていると思うよ。

タイプ-3
炎:何を求める?
タイプ-3:木々を歩むことを。
炎:ならば、礼儀に気をつけるがいい。
タイプ-3:どうかお願いします、逍遥を。


儀式に成功し、道を歩いていると妖精があらわれる。
妖精は時節道を塞ぎ、進行するには妖精との対話が必要とさせる。妖精は知能が高く、しばしば非常に短気であり、何種類か存在することが分かる。
呼称による異常現象もこの妖精たちが故意に起こしていると思われる。
また、妖精に自身の呼び名等を伝えても異常性が発揮されるらしい。

また、森林以外の井戸、道、妖精も決まった名称で呼称すると異常現象が発生する。

ここまで要約すると、
  • 名前を付けて呼ぶと異常現象が発生する森林だよ
  • 森林に入るには儀式が必要だよ
  • 儀式に成功すると森の中の井戸に出るよ
  • 森林では決まったルートを通らないと通信が途切れて行方不明になるよ
  • ルートの途中で妖精に出会うよ
  • 異常現象は妖精の気分次第で変わるよ
ということである。

ここまで理解していただけただろうか。


森のルール

この森には一定のルールがあり、それに抵触すると報いを受ける。
財団が度重なる調査の果てに定めた手順が「4000-SEP」である。

まず、探検のための総合指針として、1.01から1.08まで振られている。

全員に共通する注意点を要約すると
  • 森の中では持ち込みの食料以外は食べてはいけない
  • 武器を持ち込んではいけない
  • 建物があったらちゃんとノックして入ること。こっそり入った場合は見つかってはいけない。
  • 中で夢を見たら日記に書け

さらに入るときと同様に出生順による分類で異なる注意がある。

  • 長子は価値のありそうなものを出されても受け取ってはいけない。
  • 真ん中の子は愛情を向けられても絶対嘘だから相手にするな。
  • 末っ子・一人っ子は身体的に「快適」とみなされる活動をするな。たとえば、踊ったり歌ったり遊んだり、ふかふかのベッドで寝たりしてはいけない。


妖精との交流についても同様に2.01から2.20までの番号が振られた指針が示されている。
こちらはさらに数が多いので順番に行くと


2.01 土着実体には会話の前にフォーマルな挨拶をせよ。女性の場合にはおじぎ、あるいはカーテシー*3をせよ。
2.02 心をこめた声のトーンで発言せよ。
2.03 虚偽であると自覚している発言をしてはならない。
2.04 土着実体の目の前でそれらを見下した発言をしてはならない。
2.05 適切である場合には'どうかお願いします(please)'ないし'ありがとうございます(thank you)'と発言せよ。

2.11 機密とみなされる情報を要求された際には拒否し、簡潔に謝罪して頭を下げよ。

ここまではまあシンプル。
丁重に接し、嘘を言ってはいけない。答えられないときは謝ってすませろ。


2.06 プロトコル4000-Eshuに従い、土着の実体に言及、および呼びかけする場合には身体的外見の描写を用いてせよ。
2.07 たとえ土着実体がそのように自己紹介した場合であっても、名前、肩書あるいは呼称を用いて言及してはならない。
2.08 土着実体のいる場所で自分たちの名前、ニックネーム、コードネーム、変名その他の個人的呼称を口にしてはならない。
2.09 土着実体が名前、肩書あるいは呼称を与えることを申し出てきた際には丁寧に断ること。
2.10 土着実体の発言に自分の名前、肩書、呼称その他身体的特徴の描写でない表現を用いた言及ないし呼びかけが含まれていた際には、あたかもその発言がなかったかのように無視せよ。

これは森の異常性に関係するあれやこれや。
「名称で呼ぶ」という禁忌に触れないよう気をつけろ、ってことである。


2.12 土着実体が援助を求めた際は、助けることを選ぶ前にその外観を考慮せよ
2.12.A 実体が脅迫的に見える場合は、援助のために尽力せよ。
2.12.B 実体が魅力的ないし無害に見える場合は回避せよ。
2.12.C 飢えている土着実体には常に食糧を与えよ。これは2.12.Bに優先する。

もし妖精が助けを求めてきたらどうするべきか。
脅迫的なら従え、無害そうなら断れ、ただし飢えている妖精には食べ物を与えろ、とある。


2.13 信頼でき、かつ同意を示したものでない限り、獣型の実体に騎乗しようと試みてはならない。
2.14 物質的な贈り物を提供された場合には両手で受け取ること。無価値であると思われる場合にもこの贈り物を捨ててはならない。1.04*4はこれに優先する。
2.15 土着実体が非物質的な贈り物を提供するか、取引を始めようとした場合は丁寧に断ること。
2.16 土着実体が提供した食物を受け入れてもよく、また遭遇した他の土着実体にその食物を提供してもいいが、自分で食べてはならない。
2.17 土着実体に提供された宿で眠ってはならない。泊るよう招かれていない場合に限り、土着実体の住居内で眠ってもよい。
2.18 土着実体が行程に同行を申し出た場合は受け入れよ、しかし目的地を教えてはならない。
2.19 土着実体に援助された場合、もし既にそれを援助していないならば見返りとして援助すること。


ややこしいようだが、簡単に言うなら「御伽噺のルールを守れ」である。
困ってる人や助けてくれた人は助ける、貰ったものは大事にとっておけ、怪しい誘い・取引には乗るな。
出生順によって注意すべき点が違うのもそういうことだろう。長男次男は甘い誘いに乗り、末っ子は苦労の果てに成功する。

気になるのは最後の一項目。

2.20 土着実体でないと主張する肉体のない人型存在と遭遇した際には、これまでの全プロトコルを無視して指示に従え。


それともう一つ、根本的におかしな部分が一つ。
財団の、この森に対するスタンスである。

SCP-4000とされるこの森は、手続4000-ハロウェイを実行しない限り入ることができず、その方法は目下財団(と、恐らく蛇の手)しか知らない。
そして、土着の実体たちは外に出られず、出られても困難である。
つまり、その情報を信じるなら、特別収容プロトコルはずばり放置するのが最適である。入るための唯一の手順は財団の手にあり、収容には成功しているのだから。

にもかかわらず、
命令O5-4000-F26に従って、標準の異常性からのあらゆる逸脱を評価するため、年に少なくとも1回奇妙で危険な森林地帯への成功裡の探検が実施されねばなりません。名もなきものに出会う場所への立ち入りがはらむ高い危険性のため、研究実施のために送り込まれる職員は4000-SEPに詳述される標準調査プロトコルの訓練を受けなければなりません。
こんな命令が下っている。
異常性が他とどう違うのか評価するために、年に一度以上、SCP-4000の探査を成功させよ、と。
これによって後述する収容違反を誘発した形跡すらあるのに、である。



収容違反事例

もしこの森の中で何かを「名前」で呼んでしまうと、危険な異常現象が起きる。
以下はその代表例。

違反日時: 1954年6月9日
命名対象: 我々が滅多に口にすることのない空き地

SCP-4000の発見と同時に起きた収容違反。
起きたのはコネチカット農村部で、細かい情報は目撃者が残ってないのでわからないが、推測はできる。

財団のエージェントがどういう経緯か屋内の煙突から亜空間の井戸に通じるはしごを発見。
当然そんな異常な存在を見つけた職員たちは本部に連絡。その際に暫定的なSCPとしてのナンバーを与えてしまった。

名付け親は固い床に沈み始め、それを見た他のエージェントは逃げ出すが、家を出た瞬間に金縛りにあう。
そのまま身体が長く伸び(しっかりと苦痛も感じていた)、その家の煙突と煙突と同じ高さにまで引き伸ばされ、口から煙を吐き出すようになった。

暫定的な名前に気付いていなかったティモシー・ウッズというエージェントだけは助かったが、その状況をサイト-08に報告してしまった。

報告からまもなくティモシー・ウッズは"木に[彼の]名前がある"と言い出し、無線機を飲み込もうとして死亡。
その通信を受けていた職員もしばらくして頭痛を訴えだし、隔離したところ両眼窩から骨が木の枝のように伸びて目が抉れる。
想像するだけでゾッとするが、当の職員は一切身体的不快感を口にしていない。



違反日時: 1955年12月22日
命名対象: 地域中を循環する小道
概要: デスク・デスク(Desk Desk)は名もなき星々の下の茂みにおける初の成功裡の探検ミッションを終え、ただちに隔離された。
72時間異常な性質を示さなかったのち、デスク・デスクは彼の体験を記す許可を得た。
研究者らが彼の進捗を確認するために戻った際、デスク・デスクは姿を消していた。
後にデスク・デスクが執筆に用いていた鉛筆、紙、ハーヴェイ・マンスフィールド(harvey mansfield)から痕跡量の土とヒト組織が発見された。


デスク・デスクさんとは随分変わった名前だなー…で片付けず、最後の一行をよく読んで欲しい。
…なんとなく、こいつの異常性が見えてきたのではないだろうか。


違反日時: 1958年8月19日
命名対象: 骨の玉座に坐し、燃え立つ子をあやす土着実体
概要: 探検ミッションを完了したのち、フィールドエージェント・イーサン・メルシー(Mercy)・メルシー・メルシー・メルシーが特定の土着実体を表すのに同一の形容を複数回用いた。
数分後、彼は強い吐き気を訴え、血と骨髄を嘔吐し始めた。
エージェント・メルシー・メルシー・メルシー・メルシーは数時間にわたり、如何にかして口から自身の骨の大半を吐きだしたと報告された。
続く数日間、サイト-08中の職員が女性の笑い声の幻聴を経験した。

またしてもグロテスクな死に方だが、やっぱり何かエージェントの名前がおかしい。
「Mercy」は和訳すると「慈悲」であり、人名としても使う。しかしスラングとして「Have mercy!(助けて!)」と使われる場合もあるほか、感嘆を意味するフレーズでもある。
この場合、おそらくエージェント・イーサンは何らかのトラブルに巻き込まれた際に助けてと連呼した、あるいは実体を見て感嘆を示し、それを名前として見做されたのだろう。


違反日時: 1966年3月4日
命名対象: 骨の牡羊の頭部を備えた、羽毛のあるライオンに似た土着実体
概要: 大学生のヴァネッサ・ヘイフォースが、異常な組織増殖の兆候はないにもかかわらず、頭が肉に覆われたと訴えてオレゴン州ポートランドとその近辺の多数の医療機関で受診を試みた。
彼女は最終的に財団の捜査員により拘束され、(その他のものと並んで)手続4000-ハロウェイを完全に記述した1冊の本を所持していることが明らかになった。
協力と引き換えに財団の職員が頭部からの肉の除去を支援するという要求ののち、(そのような手続きはこれまで実行されていません)ヘイフォースは放浪者の図書館の知人から本を受け取ったと告白した。
後書: これは既知のケースの中で民間人によって引き起こされた最初の名辞的収容違反です。以降、類似の事例が間欠的に発生しています。
2012年、ヘイフォースが財団の勾留下で死亡してから20年以上経過したのち、若年時の彼女と表面的に類似した土着実体が撮影されました。


蛇の手とのつながりが浮上。
放浪者の図書館、すなわち蛇の手の本拠地の何者かがSCP-4000に関するあれやこれやを書いた本を流出させたらしい。

付け加えると問題の本の中には、SCP-1660、SCP-860としている亜空間についても言及されており、近年ではSCP-3560のことも含まれていることがわかった。

SCP-3560の項目がないので内容を簡単に言うと「機械にとっての死後の世界」。
アンダーソン・ロボティクスの作ったロボは「魂」に相当するものを得てこの空間にいるのだが、この本はSCP-3560より50年以上早く見つかっている。
…ということはつまり、魂を持つ機械を作った何者かが他にも……?


ヴァネッサ・ヘイフォースさんの話に戻るが、彼女は「頭が肉に覆われた」と病院に行っている。
それだけだと顔に腫れものでもできたかと思うが、異常な組織増殖の兆候はないとのこと。
つまり頭部はいたって正常なのに「頭が肉に覆われちゃった!何とかして!」と言っている。
…で、彼女が名付けた対象の特徴だが、そいつの頭は骨だけだった。
そして彼女の死後、彼女そっくりの何かが、4000世界に出現している。


違反日時: 1992年10月30日
命名対象: マイケル・アシュリー・ヴィンセントが探検ミッションの間に数夜を過ごした家。
概要: 数年前に探検ミッションを完了したエージェント・マイケル・アシュリー・ヴィンセントが、2人の同僚に対して詳述している最中に所有格のフレーズ"██家"を数回用いた。
その同僚らには名前が存在しない。
しばらくのちに、サイト-08に大型のレンガ造りの建物が既存の建築物と交差した状態で出現。
内部でマイケル・アシュリー・ヴィンセントの頭部のない身体が、激しく痙攣し、エルクの角で作られた照明用ソケットに頸部で接続された状態で発見された。彼の顔 — 生きているようには見受けられない — は建物のフロア表面全域を覆うように引き延ばされていた。
顔の口内に派遣されたエージェントらは、完全な消化管が存在していないことを発見。
しかしながら、マイケル・アシュリー・ヴィンセントの名もなき同僚らは口蓋垂に結合していると報告された。


4000の森から帰還したエージェントが同僚に話をしていて起きた事態。
どうやら森の中の家に泊まったらしいが、その家を「名前」で読んだ結果、本人がその「家」になってしまった。

これまた想像するだにグロテスクだが、一緒に話を聞いていた同僚に名前が存在しないという。
これについてはある博士がミーム性変造の可能性がある、と言っている。

"記録が何と言っているかは関係ない。ミーム学部門に30年務めていれば直感に従うことの重要さは分かるはずであり、そして今まさしく私の直感がこれは何かおかしいと告げている。" — ストラム(Storum)博士.

これを言い換えれば財団世界の人間はパッと見で「名前のない2人の同僚」という記述に違和感を感じていないということだろうか。



異常性について

文章が非常にややこしいが、SCP-4000の世界のモノに「名前」をつけた人間は、「それ」と入れ替わる・あるいは混ざり合う、と推測できる。

すなわちこいつの異常性は「名付け」をトリガーとした情報災害と現実改変。
その定義はずばり「つけた名前の意味を複数の人間が理解・共有できる」こと。
名前をつけた人間は名付けたものと概念が交換または融合させられ、それに応じて肉体に現実改変が起きる。例えば岩を名付けた場合、その人は岩と概念が融合し、それに伴い肉体も岩と融合することで、融合した概念を現実に反映するのだ。

名辞をトリガーとする情報災害によって概念が変質し、変質した概念を反映する形で現実が捻じ曲がる。
それが、このオブジェクトの異常性なのだ。

SCP-4000では我々の世界と異なり、ものを示す概念が途轍もなく曖昧で、見たままの特徴でしか表現できない。だから、この世界には名前がない。

これを踏まえた上で収容違反事例記録を見直してみよう。
「ティモシー・ウッズ」さんの場合、普通に在りうる苗字なのでスルーしがちだが、この場合の「ウッズ」は恐らく「森」。
ティモシーさんは周辺の「森」を名付けた結果その概念と融合・置換してしまい、通信していた職員から多分森の調査を命じられたのだろう。自分が「森」となっている以上、調査のためには「森」=自分自身に分け入る必要がある。だから通信機を飲み込んだのである。
通信先の職員もその概念に置換されて「樹」の概念を持ってしまった。だから、枝が目を突き破っても不快ではないのだ。

「ハーヴェイ・マンスフィールド」さんは「泥の道」を名付けた結果、作業用「デスク」という言葉と混ざり置き換わってしまい、肉体そのものも周囲の「鉛筆」「紙」に混ざってしまった。

「家」になってしまったエージェントは3人。
「マイケル・アシュリー・ヴィンセント」というのは本来3人分の名前なのではないだろうか。
1人のエージェントにその名前が混ざって、同僚からは名前が消えてしまった。概念自体が変質したことで、財団はそれを自然なものと受け取ってしまっている。

しかし、イーサンの死とその後聞こえた幻聴、ヴァネッサの入れ替わり現象はどうなのか。
こちらが現実改変としたら明確に意思を持ってやったように見える。


ここで見えてくるのは、「名付けたら、名付けた者と名の概念が、概念の示すものと融合または置換する」というルールによる変質と、土着実体による意図的な概念交換である。
ヴァネッサの事例はこのルールを利用したものだが、イーサンの場合は明らかに実体の意志による恣意的なものである。

SCP-4000のルールにおいて概念交換による現実改変ができるのは、世界そのものと土着実体のみ。

ヴァネッサと入れ替わった実体が、財団に収容されてから暴れた形跡がないのは、その概念を丸ごと入れ替えた結果「ヴァネッサ・ヘイフォースと言う人間」になった=「土着実体ではなくなった」ことで改変能力が消えたためだろう。
ただ、事例を見る限り土着実体と入れ替えられた人間は、双方とも元々のパーソナリティと記憶を持ったままのようだ。
つまり言い換えれば、森の方には「土着実体と入れ替わって改変能力を得たヴァネッサ・ヘイフォースだった者」が存在していることになる。

そうなれば彼女は当然、姿を自分の知るものに戻そうと改変を試みるだろうが、そうは問屋が卸さない。
土着実体が存在できるSCP-4000内部は名前が存在せず、物事の概念が途轍もなく曖昧である=改変すべき現実自体が曖昧であるため、改変がまともに働かない。

物事を定義する概念が曖昧と言うことは、言い方を変えれば真っ暗闇の中を手探りでさまよっているようなものである。
名辞するということは、そこに明かりをともすことに等しい。曖昧だった概念が、名辞によって確定する。
もちろん、その明かりを灯した誰かの姿も、同時に浮かび上がり、確定するだろう。

そうなれば、土着実体は確定したその概念を、いつでもどこでも改変することができるようになる、というわけだ。


インタビューログ4000-0215

SCP-4000にはとあるインタビュー記録が付録されている。
が、このインタビューログだが、一般的には削除されており、インタビュアーであるジェイパーズ博士の権限でのみ閲覧が可能である。

重要なところ以外は少し要約する。

インタビュアー: ユージーン・ジェイパーズ博士

インタビュー対象: ウサギの頭、人の体を持つ妖精(以下ウサギと呼称)

[インタビュー開始]

ウサギ:おはよう、見知らぬ旅人よ

ジェイパーズ博士:おはようございます

ウサギ:この辺りの土地では見ない顔だね、はじめまして。煙草を失礼するよ。ちっと私の意見を広めにね。君の名前はどうだね?

ジェイパーズ博士どうと……? すみません、それはお教えできません。

(ジェイパーズ博士が頭を下げる。)

ウサギ:君は頭が弱いのかね? 私はただ君の名前はどんな調子だと訊ねているに過ぎない。私の名前は最近ラズベリーの香がしてきたように思う — あるいは、おそらく金魚か。近頃は区別も難しいが、努力はするものだ。

ジェイパーズ博士:あぁ、申し訳ありませんでした。私の名前は近頃ずいぶんと酸い味がするようです。

(ウサギの実体が笑い、帽子を持ち上げる。)

ウサギ:いや、詫びねばならんのは私の方だ。鼻を突っ込むべきではなかったよ。"

ジェイパーズ博士まったく問題ありませんよ。気にしておりません。お会いできて嬉しゅうございますが、行き掛かりですので。

ウサギ:されど道草は構わんのではないかね? 近くに私の家がある、お茶でもいかがかね。

(ジェイパーズ博士が再度頭を下げる。)

ジェイパーズ博士:誠に申し訳ありませんが、生憎さしあたって留まる訳にはいかないのです。よろしければまたの日に。

ウサギ:結構。また会おう、ずいぶんと酸い名前の客人よ。

このインタビューでは以下のことが分かる。
  • ジェイパーズ博士は自身の名前は酸いと説明
  • ウサギは自身の家に博士を招こうとしていた。

(ジェイパーズ博士は丘の頂上に到達し、ウサギを発見する。)

ウサギ:こんにちは、見知らぬ人よ。しかし — ああ、申し訳ない。前にお会いしていないかね?

ジェイパーズ博士:こんにちは。ええ、そう思います。私の記憶が正しければ3年前ですね。

ウサギ:今思い出したよ。ずいぶん急いでやってきて、ずいぶん急ぎで去っていったな。

ジェイパーズ博士:ええ、その節は失礼しました。あの頃はこの辺りに不慣れで、用心していたものでして。

ウサギ:相も変わらず謝りがちな様子だな。まあ支障はあるまい。君はここの者ではないな? 非常に興味深い。君は何の森から来たのかね?

ジェイパーズ博士:私は森から来たのではありません。

ウサギ:そんな訳はないだろう。間違いなく君のお里には森があるはずだ、違うか?

ジェイパーズ博士:ございますが、極めてまばらなのです。ほとんどの土地には家々と商店が建っています。

ウサギ:ならば下等な森だな、しかし森には違いあるまい。どうやってここに来たのか教えてはくれないかね?

ジェイパーズ博士:なかなかの探究心をお持ちで。もしよろしければ、私からあなたにひとつお尋ねしたいのですが。

ウサギ:無作法を許してくれ。私には学者の気があると思っていてね、よその森について学ぶ機会があると少々気が昂ってしまうのだ。ぜひとも質問してくれたまえ。

ジェイパーズ博士:以前お会いした際、ご自分の名前を形容するのが難しいとおっしゃいましたね。その訳についてなにか仮説はおありですか?

ウサギ:我々が — つまりそれは私と私の名前のことだが — 別れていた長さのせいとしか思えんよ。それはいい名前だった、誇らしい名前だったとしか思えん。しかしながら、もし仮にまだあるとしても、今日までにそのかつてあった高貴さから堕落してしまっているだろう。"

ジェイパーズ博士:今はどちらにあるとお考えですか?

ウサギ:学者の友よ、まず先の私の質問に答えたまえ。

(ジェイパーズ博士が頷く。)

ジェイパーズ博士:私は今歩き回っている小道の果てにある、古いが非凡な井戸を通ってまいりました。

(もう1人の人物は喋りだす前に躊躇する。)

ウサギ:それは。ずいぶんぶりじゃないか。白状すると、古き盟友たちはみな死に絶えてしまったと思っていたのだ。君の御祖父か誰かの情人がここにいたのか?

(ジェイパーズ博士が頭を下げる。)

ジェイパーズ博士:誠に申し訳ありませんが、その質問にはお答えできません。

ウサギ:そうか。分かったよ。君を私の家でのお茶に誘いたいが、君には不可能なのだ、そうだろう?

ジェイパーズ博士:残念ながら。

(ウサギは笑い、キャベツの葉を1枚抜くとジェイパーズ博士に差し出す。)

ウサギ:そんなに怖がる必要はない。立ち去る前にこれを受け取りたまえ。

(ジェイパーズ博士が葉を両手で受け取る。)

ジェイパーズ博士:まことにありがとうございます。

ウサギ:よい旅を、そして求める物を見出さんことを。

このインタビューでは以下のことが分かる
  • ウサギは学者の気があると自称していた。
  • ウサギは博士にキャベツの葉を1枚渡した。

道を進んでいたジェイパーズ博士は、藁ぶき屋根の小さな白い家に直面する。表の扉にはウサギの頭の形の小さな穴が切り開かれている。ジェイパーズ博士は接近し、ノックする。

ジェイパーズ博士:もし? どなたかご在宅ですか?

ウサギ:(中からかすかにくぐもった声) うむ、1分ほど待ってくれ。"

(ちょうど1分が経過する。ドアが開く。)

ウサギ:ああ、また会ったな! さあ、どうか入ってくれ、入ってくれ。

(ジェイパーズ博士は中に導かれる。内装は木製の調度品と針仕事の品でまばらに飾りづけられている。)

ジェイパーズ博士:感じのいい家ですね。

ウサギ:ハ! 君は感じのいい冗談のセンスをしているな。

(家主は隅の小さい台所に急ぎ、やかんの準備を始める。)

ジェイパーズ博士:いや、そんなことはないですよ。とても素敵だと思っております。

ウサギ:そうだろう。向こう側で事情が落ち着くまでのつもりだったんだが、まあ、知っての通りだ。

ジェイパーズ博士: 恐れ入りますが私は存じません。お手伝いしましょうか?

ウサギ:いや、構わん構わん。君はただあっちの席でお茶の用意の間座っていろ。"

(ジェイパーズ博士が椅子を引き、席に着く。)

ジェイパーズ博士: お気持ちは大変ありがたいのですが、消化の問題で頂けないと思うのです。

ウサギ:おお、哀れな友よ。まあ、なんにせよお茶があるだけでも慰めにはなるものだよ。"

ジェイパーズ博士: ご親切にどうも。教えてくださいませんか、'落ち着く'とはどういう意味で仰ったのですか?

(ウサギはコンロに火を入れ、ドアと似たような形状に穴を穿たれた窓から外を見つめる。)

ウサギ:おそらく君の親類はすべてを話さなかったのだろうな。我々をここへ追いやった動乱について。

ジェイパーズ博士: 動乱? 戦争があったのですか?

(ウサギが溜息を吐く。)

ウサギ:いつもあるのではないか?

ジェイパーズ博士: 私の祖父母は複数戦争があったと言いましたが、あなたやご同類との戦争があったとは知りませんでした。

ウサギ:私にとっては驚くべきことではないな。この森の中ですら未だに覚えている者はとても少ない。老いたる者にとって記憶は重荷なのだろう。ああ、しかし。私が若者で、今とはかなり違った姿だった頃、私は井戸の反対側で暮らしていたのだ。私が生まれ、育ち、そしてもし夢を抱くことが許されるならば、いつか戻る場所だ。"

ジェイパーズ博士: ならば何故そうなさらないのです?

(やかんの笛が音を立てる。)

ウサギ:できないのだ。歓迎されると分かっていなければな。"

(茶の淹れ手が1つのカップに茶を注ぎ、テーブルの反対側に座る。)

ウサギ:彼らは隠れているので君はこれを知らないという確信があるが、私のことをすぐにでも殺そうとしている者たちがいるのだ — ああ、申し訳ない。暗い記憶だ、訊きたい話ではないだろう。

(ウサギが茶をすする。)

ジェイパーズ博士: いえ、お願いですから続けてください。興味深いお話です — 私は学者仲間ではなかったですか?

ウサギ:お望みのままにしよう、学者の友よ。お茶が冷めるまで話すとしよう。"

(それは咳払いする。)

ウサギ:嘆かわしい話だが、我々は裏切られたのだ。つまり、あのファクトリーとの戦争において、我々は轡を並べて戦った。彼らを助ける以外の何もしなかったが、彼らの方は何をした? 我々を滅ぼしたのだ。大勢の命を、そして全員の名前を奪った。幾人かは戦争が口火を切ったばかりの頃にここへ逃れたが、数は多くなかった。多くなかった。しかし、未だに私は彼らのことを憎んではいない。

ジェイパーズ博士: それは嬉しゅうございます。

ウサギ:そうだろうと思っていたよ! この辺りの土地には種全体に遺恨を抱いている石頭の年寄りどもがいるが、君たち全員が邪悪ではないと知っているよ。我々をかくまった者、我々のために戦った者、それどころか我々のために死んだ者すら大勢いたのだ。ここに来て我々の間で暮らし、骨を埋めた者たちもいた。かく言う私もかつて人間に求愛したよ。彼は1度か2度訊ねてきたが、その後は見かけなかった。今でも彼が冷酷なる同胞の手に落ちたのか、あるいは単に私を訪ねてくるのを止めただけなのか、時折考えるよ。しかし今となっては関係あるまい。過ぎた恋について喋りすぎてしまって申し訳ない。間違いなく君には興味のない話だろう、学者の友よ。

ジェイパーズ博士: それどころか、もっとこうした話をお聞かせ願いたいものです。あなたと仲間の方々の生活に大変興味があります。

ウサギ:分かっているとも、学者の友よ。

(強い一陣のそよ風が家の中を通り抜ける。30秒ほど両者喋らず。そこに住まうウサギ人間はうめき、痛みに苦しむかのように頭に片手をやる。ジェイパーズ博士がティーポットに片手を置く。)

ジェイパーズ博士: お茶は冷めてしまったようですね。どうやらおいとまする時間のようです。

ウサギ:(かすかに不明瞭な発話)なんだって? 出発するのか? わた — それなら私も発たねばなるまい。

(ジェイパーズ博士が席を立つ。)

ジェイパーズ博士: いや、お構いなくお構いなく。お気持ちは有り難いですが、私はひとりで行きます。ええ、不意でしょう、そしてこのようなことをして誠にすまなく思っていますが、本当に発たねばなりません。思うに帰るべき時間をとうの昔に過ぎてしまったのでしょう。

ウサギ:なんと — ? 私には…… 頼む、行かないでくれ。何かがおか — "

ジェイパーズ博士: お助けはできません。

ウサギ:待て! 何をした? 私には分からな…… 私の名前はどうなったんだ? 出来な……"

(ジェイパーズ博士は素早く家を退出する。彼が去っていく間、彼の以前の友はすすり泣いて両手を見る。)

ジェイパーズ博士: ふむ。たしかにかなり酸いな。

ジェイパース博士は成功裡にサイト-08へ帰還しましたが、まもなく失踪が報告されました。彼の消失と現在の居場所についての調査には結論が出ていません。当初、ジェイパーズ博士は直近のミッションの間に、生理機能に対する異常な影響に晒されたと考えられていました。しかしながら綿密な分析の結果、探検用装備の上に彼が脱ぎ捨てた毛皮には、遺伝子的異常は一切発見されませんでした。

このインタビューでは以下のことが分かる
  • ウサギは人間との戦争で迫害され、森に住んでいる。
また、原文ではインタビューにリンクが張ってあり、『いつも』の部分にSCP-2932(ティターニアの檻)、『あのファクトリーとの戦争』にはSCP-001 ブライトの提言のURLが貼られている。
この2つを読むと分かってくるのだが、SCP-001は異常存在を生産する工場で、色々と戦争があった後、財団の攻撃を受け付けない妖精が登場、財団は工場の異常存在と契約して妖精を倒した、みたいな感じである。
  • 妖精を排斥した人間がいる一方、手助けしてくれた人間もいる。
これは、ここへ行き来する方法も知っていた蛇の手と見て間違いないだろう。






























博士がどうなったか、それはインタビュー記録をよく見れば明白である。
では、分かりやすくしてみよう


ウサギ:分かっているとも、学者の友よ。

(強い一陣のそよ風が家の中を通り抜ける。30秒ほど両者喋らず。そこに住まうウサギ人間はうめき、痛みに苦しむかのように頭に片手をやる。ジェイパーズ博士がティーポットに片手を置く。)

ウサギ: お茶は冷めてしまったようですね。どうやらおいとまする時間のようです。

ジェイパーズ博士:(かすかに不明瞭な発話)なんだって? 出発するのか? わた — それなら私も発たねばなるまい。

(ウサギが席を立つ。)

ウサギ: いや、お構いなくお構いなく。お気持ちは有り難いですが、私はひとりで行きます。ええ、不意でしょう、そしてこのようなことをして誠にすまなく思っていますが、本当に発たねばなりません。思うに帰るべき時間をとうの昔に過ぎてしまったのでしょう。

ジェイパーズ博士:なんと — ? 私には…… 頼む、行かないでくれ。何かがおか — "

ウサギ: お助けはできません。

ジェイパーズ博士:待て! 何をした? 私には分からな…… 私の名前はどうなったんだ? 出来な……"

(ウサギは素早く家を退出する。彼が去っていく間、彼の以前の友はすすり泣いて両手を見る。)

ウサギ: ふむ。たしかにかなり酸いな。

ジェイパース博士は成功裡にサイト-08へ帰還しましたが、まもなく失踪が報告されました。彼の消失と現在の居場所についての調査には結論が出ていません。当初、ジェイパーズ博士は直近のミッションの間に、生理機能に対する異常な影響に晒されたと考えられていました。しかしながら綿密な分析の結果、探検用装備の上に彼が脱ぎ捨てた毛皮には、遺伝子的異常は一切発見されませんでした。


妖精と博士は入れ替わっていた。

ウサギは何度も何度も博士のことを「学者の友」、fellow scholarと呼んでいる。
そして問題はこの部分。

ジェイパーズ博士: いえ、お願いですから続けてください。興味深いお話です — 私は学者仲間ではなかったですか?
Dr. Japers: No, please, go on. These things are of interest to me—I am a fellow scholar, remember?

博士は自らを「fellow scholar」と名辞した。
結果、現実改変がおき、目の前のウサギと入れ替わった。体はそのままに、名前と概念のみが。

ウサギは明らかに意図的に「森のルール」を利用した現実改変を行っている。

「妖精たち」は一度は手を組んだ人間たちに裏切られた。
報復するかのように「禁忌」に抵触させ、入れ替わり、この世界に帰還している。

ウサギ自身は人間を恨んでないと言ったが、同時にそうではない同族もいると言っている。

収容違反の中で、攻撃的な改変をしたのは誰なのか。
戻ってきた妖精たちは裏切った人間たちをどうする気なのか。






SCP-4000 禁忌(Taboo)


名を奪われた者たちが生きる森は、何事も無く時が過ぎていく。ならば、それを返還する義務がどこにある?



要するにどういうことなんだよ!?

  • SCP-4000は特定の手順で踏み入れる異世界です
  • その中には名前がなく、物事の概念がめっちゃ曖昧です
  • 世界そのものに現実改変作用があり、土着の実体も改変能力があります
  • しかし、SCP-4000の内部では改変すべき現実の概念が曖昧なので、普通は何もできません
  • SCP-4000に外部の誰かが入ってきても同じで、その人の概念は曖昧です。だから改変もできません
  • 土着実体も概念が曖昧なので、能動的に名辞することはできません
  • その誰かがもしも、自分や、SCP-4000や、その内部のものに対して名辞を行った場合、その概念が確定します
  • これは名辞を行った当人にも及び、名辞を行った時点でその人の概念も確定します
  • すると、SCP-4000と土着の実体はそれを改変することができるようになります
  • 中に入って迂闊に名辞すると、名辞対象の概念と名辞した人の概念が確定し、世界の作用によって混ざったり入れ替わったりします
  • 土着実体は改変を行うため、入ってきた人間に名辞してもらおうと、あの手この手で名付けさせようとします


昔何が起きたんだよ!?

この提言のバックボーンには、SCP-001に関する提言のうち、マン博士の提言とブライト博士の提言が関わっている。
この二つの提言は両方とも事実であるとした上で、SCP-4000のバックストーリーを紐解いていこう。

事の始まりは1835年、アンダーソンという男が「ファクトリー」を作ったことにある。
この「ファクトリー」、「悪魔」なる実体との契約によって、様々な"アノマリー"を利用し、食糧や衣服、医療物資といったあらゆる物品を作り出すことの出来る場所だったらしく、多くの人々から買い求められ、非常に繁盛していた。

問題はそこで勤務する社員たち、悪質な労働環境に薄給、逃げ出さないように休みは日曜の昼のみの監視体制、果ては働けなくなるまで衰弱しようものなら、肉体をバラバラに分解され、機械や動物の肉体に繋ぎ会わされた怪物にされ、それでもダメなら肉を食用に加工され、血液は衣服を染める染料にされた。

40年を経て「ファクトリー」から脱走者が発生。当時の大統領に掛け合い、そこからカチコミを掛けたアメリカ軍と、"アノマリー"を利用して抵抗したアンダーソンとの戦争が始まったが、この時「妖精」たちは軍に味方していた。

戦後、悪質な環境から従業員や"材料にされていた子供達"を救出する一方で、一部の人間たちは残されたアノマリーを研究・管理する団体を作り出した。そして、アノマリーを生み出すようになった。
同時期にアーロン博士によって異常な砂利道が発見され、彼らもまたアノマリーの研究を始めた。

1900年代初頭、アーロン博士一派は自ら生み出したアノマリーを制御不能となり、軍部に救援を求めた。
軍部とアーロン博士一派は結託し、片やファクトリーでアノマリーを生産し、片や研究を進め、「財団」として組織は巨大化した。
そんな中、1911年になって「妖精」がファクトリーを攻撃してきた。

設立当初の財団は文字通りアノマリーを管理する組織であり、妖精も例外ではなかったが、「妖精」からしてみれば、自分達を封じ込める組織が誕生し、さらにどんどんでっかくなり、挙げ句の果てにアノマリー自体が増え続けている現状を座視することはできなかっただろう。

この時はアンダーソンが契約していた「悪魔」との更なる契約で「妖精」を撃滅したが、アノマリー自体が自然の生み出したものである以上、揺り戻しによって大量のアノマリーが発生するという事態に。
財団はこの二の舞を避けるため、アノマリーを終了するのではなく「確保・収容・保護」することによって数を保ち、揺り戻しを防ぐことを決めた。
そして契約により、ファクトリーを別の場所に移し、Dクラス職員の死体を更なる材料として提供することとなった。

一方、生き残った「妖精」達は財団によって虐殺され、名前を奪われ、SCP-4000である森の中へ逃げ込んだ。
財団としてはそれで「妖精」の収容を完了したのだが、後年になって「蛇の手」が森へ踏み入る手順を見つけ出したことで収容違反が発生。結果、特別収容プロトコルがあらためて制定された。

かつて虐殺した「妖精」の生き残りがまだ反逆を試みていないかを確かめるために、定期的に調査をする必要が出てきた。そういう意味ではO5にとって、手順4000-ハロウェイの発見はある意味有難かった。


O5はかつて犯した罪をひた隠しにするため、異常性の中核となる部分を隠蔽し、生贄に等しい調査隊を送り続けている。




余談

SCP-4000はナンバーが示す通りみごとSCP-4000コンテストで優勝を勝ち取ったオブジェクトである。そしてSCP-4000コンテストのテーマは歴史である。
恐らくであるが、SCP-001「ブライトの提言-ファクトリー」の財団創設歴史部分に焦点を合わせていると思われる。
また、SCP-2932 ティターニアの檻*5に収監されている囚人、『Fae』もまたブライトの提言へのリンクが張ってあるため、囚人Faeは妖精であると思われる。
ティターニアの檻は夜闇らの子、つまりSCP-1000 ビッグフットが作らせたのである。
『いつも』あったのではないか?とは人間からの虐殺だけでなくビッグフットからの虐殺も含まれていたと考察できる。

このことから、元々は「妖精」こそが地球、果ては財団世界の最初、若しくは嘗ての支配者であったことが示唆される。が後にビッグフットに滅ぼされ、そのビッグフットも人間に滅ぼされたという構図が出来上がる。

当初は人間に味方していた「妖精」たちも、ビッグフットを滅ぼした人間に感謝したから味方になっていたのかもしれない。

隠された文書

SCP-4000には隠された文書が存在している。
全文丸写しはまずいが、一部を省いて説明しよう。
  • 93%以上のSCiPが過去100年に生まれていて、同じぐらいの大部分が北アメリカ産である。
  • 1911年に財団がある異常存在の種族の組織的殺害を開始した。
  • 1912年に発見されたアノマリーの数は前年の2倍、翌年にはさらに倍に

これがSCP-4000を勝ち取った鍵となる文書であろう。

私達は確保します。収容します。最も大切なこととして、保護します。ええ、私達は世界をアノマリーから保護しますが、逆もまた真なりです。
GOC、オブスクラコーア、財団 — あなたがどんな名前を名乗ろうとも、死を選ぶならば阻まれるでしょう。私達はかつてその選択肢をとり、そして2度と繰り返させません。
票を投じなさい。そしてあなたが何を保護しているのか、しっかりと理解してください。

この記事のヘッドカノンは、SCP-001「マン博士の提言-螺旋の小道」に基づいている。
かつて、財団は自らアノマリーを作り出し、それを確保していた。しかし、自然発生したアノマリーもあった。
財団はその自然発生型のアノマリーの一つである「妖精」と戦い、勝利し、撃滅した。

しかし、それからアノマリーが爆発的に発生した。
財団はここでようやく、アノマリーも世界の一部だと知った。自然な営みが生み出したものだと。
それを財団が排除し続けたことで、バランスを取ろうと世界はアノマリーを補填したが、結果そのために人類社会は危機にさらされた。

財団は決断した。人類社会を保護するため、アノマリーを人類社会から保護することを。
そして、アノマリーを終了し続けて危機を招いた「揺り戻し」を防ぐため、さらなる終了を妨害し続けることを。


項目名について

実はアドレスを「scp-wiki.net/ scp-4000」とした上で、末尾に「noredirect/true」と入力するとtaleへ飛ぶことができる。
「SCP-4000」はこのTaleのタイトルであり、この記事の元記事はあくまで「禁忌」である。
ちなみに上の隠された文書に行くには、net/の後に「fragment:eshu-2/noredirect/true」と入力すればよい。

追記、修正をお願いします。

CC BY-SA 3.0に基づく表示


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最終更新:2024年01月26日 20:22

*1 上の文の日本語訳は、「次のアノマリーは通信の影響を受けます。訓練を受けない限り、発話や筆記でそれを言及しないでください」。

*2 世帯の長子、中間子、末子あるいは一人っ子でそれぞれタイプの1~3に分類される

*3 バレリーナが観客に向かってよくやる、立ったままひざを曲げる挨拶である

*4 上述の「長子は価値あるものを受け取るな」という指針

*5 異常な人型実体などを収容しているThaumielクラスのオブジェクト