人形の国

登録日:2018/11/03 (土) 23:11:56
更新日:2021/12/15 Wed 14:30:40
所要時間:約 9 分で読めます






『人形の国』は弐瓶勉によるダーク・ファンタジー漫画。
極寒の惑星を舞台に、青年エスローと機械の少女タイターニアの戦いを描く。
2016年にヤングマガジン誌上で読み切り版が掲載、のちに月刊少年シリウスにて連載が開始された。
単行本は全9巻。

無機質で機械的な景色や、民衆が容赦なく犠牲になるハードな世界観、多数の専門用語といった弐瓶勉らしさは健在。
一方でストーリーは「主人公がヒロインに戦う力を与えられて、世界征服をたくらむ帝国の野望に挑む」という王道にのっとったもので、
氏の作品の中ではかなり読者フレンドリーな作風になっている。
アクション面では過去作の『アバラ』『バイオメガ』にも見られた変身ヒーロー要素が色濃く、本作の見どころになっている。
絵柄、とくに人物は今風に寄せており、目のパッチリとした美少女キャラの登場はファンから驚かれた。


あらすじ

遺跡層におおわれた巨大人工天体「アポシムズ」。
危険な「自動機械」や「人形病」に侵された者たちが彷徨う極寒の地表で暮らすエスロー達は行軍訓練のさなか、
強大なリベドア帝国の兵士に追われる不思議な少女を助ける。
少女から託された「コード」と「七つの弾丸」、それは世界の運命を大きく変えるものだった……!! 
(「人形の国」1巻あらすじより・一部改変)


世界観・用語

アポシムズ
物語の舞台となる直径12万kmの人工天体。
地表部、地下の遺跡層、そして中央制御層からなる。

地表は極寒のうえに攻撃的な自動機械が生息する過酷な環境。現在は50世紀前の戦争に負け地底から追いやられた人々が暮らしている。
遺跡層は地表に比べ資源が豊富だが、自動機械や生物も凶暴で危険が多い。
地底世界とも呼ばれる中央制御層には星を維持するための機械や制御装置がある。しかしこの層は全体を超構造体に覆われており、通常の手段では外部から侵入することができない。

超構造体
弐瓶作品おなじみの超堅牢素材。
地表の技術では再現不可能な太古の遺物であり、ある一つの特別な手段でしか破壊できない。
加工も不可能だがネジで留められている部品などは取り外しができるため、国家の戦略資源として収集されている。

リベドア帝国
各地に侵略を仕掛けている大国。皇帝の意により中央制御層への道を求めている。
戦力として飛行戦艦のほか多数の正規人形を擁する。

正規人形
人間がコードの力によって変化した姿。転生者とも呼ばれる。
正規人形になると肉体が「エナ」および「ヘイグス粒子」という物質で構成されるようになり、身体と知覚の能力が大幅に上昇する。
個体によっては特殊な能力を得ることができ、鎧化によってさらなる力を発揮する。
戦闘力に直結するエナとヘイグス粒子の容量は正規人形になった時点で決まっているが、他の正規人形を倒しエナを奪うことで増やすことができる。

コード
人を正規人形にすることができるカプセル状の道具。
しかし誰でもなれるわけではなく、コードに適合できなかった場合は死の危険がともなう。

鎧化
正規人形の戦闘形態。いわゆる「変身」。
全身が装甲に覆われ、特殊能力やエナを使った技を扱えるようになる。
大量のヘイグス粒子を消費するために鎧化を保てるのは短時間のみ。

人形病
アポシムズに蔓延している、体が徐々に機械化し人形になっていく病。
国によっては罹患者は人間として扱われず、迫害されたり奴隷にされることになる。

イルフ・ニク
地下の王国。リベドア帝国によって滅ぼされたと思われていたが、王をはじめとするわずかな人々が生存していた。
現在は地下200kmの深層部に里を築き隠れ住んでいる。
地底世界(中央制御層)への信仰を持つ者が多い。



登場人物

メインキャラクター
エスロー
主人公。
地表の村「白菱の梁」に住む青年。
少年たちを引率し村の外で訓練を行なっていたところ、リベドア帝国の兵士に追われる少女・タイターニアを見つけ、やむなく助ける。
その時に兵を殺したため、報復を恐れたエスローたちは生まれ育った村を捨て移住することを決める。
が、その矢先に帝国の襲撃を受け村は壊滅。親しい人々が殺されていくなか、エスローも反撃の甲斐なく瀕死におちいる。
そこに居合わせたタイターニアによって正規人形となり、地下に落ちながらも一命を取り留めることになった。
後日、体を癒し、戻った村の惨状を見て帝国への仇討ちを決意。
当面の目標として、敵の戦力を削ぎつつ自身の強化を行える帝国の正規人形狩りを行うべく旅に出ることになる。

大人なりの慎重さを持っているがわりと熱くなりやすい面もあり、しばしばタイターニアの助言を無視して行動を起こすことがある。
貴重なギャグシーンでは作者の前作主人公ばりのラッキースケベ体質。

鎧化すると赤いボディに白のラインが入った姿になる。
コードの適合率は高くないものの、射出系の特殊能力と持ち前の射撃の腕が噛みあって格上の正規人形とも渡り合える。
またエナの扱いが非常にうまく、高速機動、欠損した部位の再生、盾の形成といった高度な技を難なくこなす。

〇EBTG
正規人形になったエスローの特殊能力。射出装置の一種で正式名称は「自在型弾体加速装置」。
エナや通常の弾のほか、空気や水など様々な物質を弾丸として撃ち出すことが可能。
名前の意味は「女の子以外何でも(Everything But The Girl)」。

〇AMB
対超構造体弾(Anti Megastructure Bullet)。その名前の通り超構造体を破壊可能な弾丸。
この弾をEBTGで撃ち出すことが、超構造体の壁を超えて中央制御層に至る鍵となる。
物語開始時点での弾数は7。


タイターニア
リベドア帝国の野望を阻止するべく中央制御層から遣わされた自動機械。
本来は少女型だが、わずかな時間しか姿を維持できないため普段は虫のような形態をとっている。
帝国の追撃から逃げる最中にエスローと出会い、正規人形に転換させる。その後はともに帝国を挫く目的を持つ同士として彼を導くことになる。
明るく社交的な性格。しかし状況判断では人命より使命を優先しがちで、エスローとはかみ合わないことがある。
非常に多芸(多機能)で、触れた相手の心を読む力を持っているほか飛行能力や服を展開しての戦闘も行える。


ケーシャ
地下王国イルフ・ニクからやってきた少女。
地底世界の信仰者で、タイターニアを神の使いとみなし助けになるべく同行する。
気位の高いところがあるが根は素直でやさしい性格。
鎧化時には電撃を放つ能力と伸縮自在のスティックで戦う。


白菱の梁
エオ/ビコ/シオ/デイナ
白菱の梁の住人たち。エスローと親しくしていた。
しかし帝国の襲撃によって他の住人ともども皆殺しにされる。

ゼゾ
見た目こそ少年だが、300年に渡って一族を守ってきた正規人形。エスローにとっても育ての親といえる存在である。
帝国の襲撃に対して戦うもかなわず、肉体・精神の拷問を受ける。
のちにエスローが戻ってきたときにはすでに回復不能なまでに損傷し、言葉にならない声を出すだけになっていた。


リベドア帝国
イーユ
白菱の梁襲撃を指揮したリベドア帝国の上級正規人形。エスローにとっての仇敵。
残忍な性格で、ゼゾを串刺しにして、目を閉じられないようにまぶたをはぎ取ったうえで住民を一人ずつ殺していく拷問を行った。
冷気を操る力を持ち、氷塊を作り出して攻撃するほか、意識外からの狙撃も自動で防ぐことができる。

エイチ
エスローが訪れた街で戦った帝国の正規人形。大柄な鎧化形態での肉弾戦を好む。
戦い慣れていないエスローを翻弄するも、彼の放ったAMBに消し飛ばされる。

エイル&エイム
性別不明の双子。
人形病患者を捕らえ、闘技場で凶暴な自動機械とむりやり戦わせるという悪趣味な催しを行っていた。
帝国の正規人形としては下級ながら、高速移動と息の合った連携により上級にもひけを取らない戦闘能力を持つ。

ジーオ
イーユの部下で、北部合成スラブ地方を統治しているガラの悪い男。
住人たちの首に遠隔操作で破裂する螺子を埋め込み、反抗的な人間が出るとみせしめにその家族を殺すという恐怖による支配を行っていた。
しかし転生者狩りを行っていたエスローとケーシャによって鎧化する間もなく討伐される。
彼の死はイーユにエスローたちとの再戦へ向かわせるきっかけになった。

+ ネタバレ
ビコ
殺されたと思われていた白菱の梁の少女。
イーユに捕縛・洗脳されたうえ、コードを与えられて正規人形となりエスローの前に立ちふさがる。
手の甲から生やした剣での切断攻撃を行う。

フューマ
上級正規人形の青年。
非戦闘員の虐殺に反対するなど、帝国兵の中では良識のある男だが……
戦闘時にはランスを構え、アイムに騎乗することで中世の騎士のような姿になる。

アイム
眼鏡をかけた正規人形。フューマに心酔している節がある。
鎧化すると馬のような姿になり、浮遊能力による機動を行う。

トオス
かつてリベドア帝国最強の兵士といわれた男。
適合するコードが見つからないまま寿命が尽きかけていたが、皇帝の命令によって若い体に脳を移植されコード適合手術を受けたことで正規人形になる。
金属を自在に操る力を持つ。全体が人工物でできているアポシムズでは非常に強力で応用性の高い能力である。

ジェイト
冷静沈着とした女性。
自動機械をハッキングする能力で偵察や攻撃をこなす。
聖遺物捜索隊としてエスローのAMBを狙う。

スオウニチコ
リベドア帝国皇帝。見た目は短髪の若い男。
未来視の力を持つ。


イルフ・ニク
カジワン
イルフ・ニク国王。
帝国に対抗するための戦力を求めており、自身も正規人形になろうとするが適合せず体の半分を失う。さらに人形病に罹患したため今は歩行機械に乗っている。
タイターニアの力を借りて自分を正規人形にしてもらうよう懇願するが、力への欲求やエスローたちへの嫉妬心を読まれ、危険な考えを持っているとして拒否される。


読み切り版の登場人物
スオウニチコ
元配管工の少年。人形病に侵され、故郷の国から離れて暮らしている。
ある日虫のような姿をした自動機械・タイターニアを助け、目的地まで送り届ける。
いつか再会した時には友達になってほしいと彼女と約束を交わしたが、騒動のさなかに銃撃され倒れる。

タイターニア
ネズミ取りにかかっていたしゃべる自動機械。
スオウニチコの故郷にある特殊な装置を危険なものとして、稼働を止めようとしている。
そのため権力者の体内に入り込み言動を操ろうとしたが失敗。
自分を助けようとしたスオウニチコが撃たれたのを見て本来の姿をあらわし、周囲の兵たちを切り刻み装置を停止させた。
そしてすべてが終わった後、スオウニチコの体をどこともしれない地下深くへ運びこんでいった。




追記・修正は超構造体を撃ちぬける方にお願いします。

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最終更新:2021年12月15日 14:30