…本当に知らないんですね?
アイテム番号: SCP-1500
オブジェクトクラス: Keter
はい、今までの説明は全部カバーストーリー。建前。嘘っぱち。
SCP-1500は植物人間などではなく、のっぺりとした緑灰色の皮膚と大きく膨らんだ腹部を持ったヒト型生物。
四肢は長く、多くの関節を持ち、金属光沢を放つ強靭で張力のある皮膚で覆われている。
SCP-1500はサイト-17の改良されたヒト型生物用収容室に収容されている。
収容室は遮音性の壁を用い、窓はなく、監視カメラも無し、何より収容室への進入はいかなる人物でも、いかなる場合でも禁止。
最初から異常存在であり、元人間ということもない。(少なくとも財団が把握している限りでは)。
それがなぜ、あんな手の込んだカバーストーリーが用意されているのか。
それはこいつの異常性に由来する。
SCP-1500はのっぺらぼうであり、声も立てず、食事も呼吸も睡眠さえも必要としない。
にもかかわらず人間に近い五感を持っていると推測されている。
なんでわかるのかって?
こいつに『見られる』ことが異常性のトリガーだからである。
SCP-1500の視界に入ったものはおよそ200~530秒ほどの間、頭痛・吐き気・恐怖感に襲われる。
この症状はどんどん強くなり、最後には約15秒ほどで意識を失う。
目が覚めると、自分が気絶していたことはすっかり忘れ去り、SCP-1500を『Zachary Callahan』という名の白人男性と認識するようになる。
記憶も同時に改変され、このザカリー君が少年あるいは青年時代から親しい人物であると思い込み、
SCP-1500と意思疎通まで行うことができる。
改変された記憶を元に戻す試みは現在のところ成功していない。
記憶処理を施しても成功率は低く、幸運にもザカリーの思い出を消せても、SCP-1500が人間に見えるという点は変わらない。
そして、この異常性があのカバーストーリーが必要な理由。
ちょっと想像してみて欲しい。
あなたにとって大切な誰かが、SCP財団とかいうわけのわからない組織に閉じ込められています。
あなたはどうしますか?
ザカリーの友人知人がどこぞの
邪神の信者よろしくザカリーを救出しようとする可能性がある。
あのカバーストーリーの肝は「ザカリーは今大変デリケートな状態だよ」「だから財団で保護してるよ」「これは
ザカリー自身の望みでもあるよ」この3点。
これによってザカリーの知り合いによる収容違反を防ごうとしている。
サイト17職員のうち、長期の頭痛を患っている、あるいはSCP-1500の影響を受けたことが判明した者は他のサイトへ転属。
それでも脱走の試みが生じた場合、加担したものは全員抹殺される。
……しかし、「見られることで協力者を増やす」だけなら何とでもなる。
だったら誰も視界に入らないように閉じ込めてしまえばいい。現にそうしている。
それですでに受けてしまったものはともかく、これ以上被害者が増えることは無い。
無いはずなのだ。
補遺 1500-4:最近の調査により、SCP-1500はより遠くの人間にも影響を与えることができることが分かりました。
最近の演説で、███████上院議員は子供の頃Zach Callahanという人物と釣り旅行に行ったことがあるとほのめかしました。
背後関係を調査した結果、そのような名前で該当する年齢の人物は、1960年当時███████上院議員の近所には住んでいないことがわかり、
また演説の1週間前、███████上院議員はディナーパーティーの最中に強烈な偏頭痛に襲われていた事も判明しました。
補遺 1500-7:近年SCP-1500の影響を受けた人物は、以前に観察されるよりもSCP-1500が記憶の中で重要な位置を占めることが増えました。
旧知の親友であるよりも、むしろ親のような存在であったり、かつての恋人であったり、生き別れた肉親であったりする場合が多くなっています。
どの場合でも、影響を受けた人物はSCP-1500に対して保護と敬愛の意識を向けることが明らかになっています。
そんなことはなかった。
一体何をどうやったのか上院議員にまで影響を与えている。
財団が外部の人間を軽々しくオブジェクトに近づけるようなヘマをするわけもなく、そもそも影響を受けたとき議員はパーティーの最中。
ならばいかにして「見た」のか。
そして
月島さんよろしく、自分をより身近な人物とみなす記憶を植えつけ始めた。
「もう一度会いたいと強く思う関係」になろうとしている。
さらにこれである。
補遺 1500-20: 20??年8月1日現在、世界で約23000人がSCP-1500の影響下にあることが確認されています。
標的として政治的・軍事的な力を持つ人物や財団の関係者を中心に選んでいる傾向が見られます。
Keterクラスへの格上げを要請します。
影響を与える相手を権力・武力を持つ人間、自分を閉じ込め超常的なアイテムを数多く管理する財団に絞って利用し始めた。
このSCP-1500、
ストーカー被害触手と違って、明らかに自らの異常性を意識的に運用している。
それによって「閉じ込めていても何が起こるかわからない」Keterクラスに格上げ。
ザカリーが何を考えてるかはわからない。
だが、事態の推移を見ると「力ある人間たち」に「自分を助けたい」と思わせているのは想像がつく。
もし「ザカリーの友人」「知人」「恋人」「家族」たちが彼を助け出してしまったら。
こいつが外に出てきたとき、一体何を始めるのか?