ミステリー

登録日:2018/05/15 Tue 00:25:33
更新日:2024/04/07 Sun 21:30:06
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ミステリーとは、フィクションのジャンルの一つ。

「作中で何かしらの謎が提示され、それを解き明かす」という形式の作品。

一般的には「推理小説」のことを指すが、一般名詞としては「神秘」「不思議」「秘密」などの意味もある単語でもある。
その複数の意味の中で、秘密=謎を追求する推理小説のことを特にミステリーと呼んでいるのであり、推理小説以外を指すこともある。
だからいきなりUMAや宇宙人が出てきたりしても「こんなのミステリーじゃない!」って叫ぶと恥ずかしいぞ!

例えば少女漫画誌『ミステリー』は90年代前半頃までは心霊ものが中心であったし、
学研のオカルト雑誌『ムー』は今も昔も「ミステリーマガジン」を標榜している。
あと小説とは言ったが、当然小説以外の媒体・ジャンルでのミステリー作品の展開も当然ありうる。

なお、「ミステリー」「ミステリ」「ミステリィ」のどれを用いるかは作家によって異なる。
どうでもよく見えるが、上記の通り広い意味の中から「推理」に絞る意図もあってこだわる人にはすごく大事な要素らしい。どれを使うか迷ったら無難なのは「その作者の表現に合わせる」というところか。
この記事では一番一般的だろう「ミステリー」を中心に用いる。


概要

元祖はエドガー・アラン・ポーの「モルグ街の殺人」。
その後、コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズシリーズ」で「ミステリー」というジャンルの雛形が出来上がり、以降爆発的に普及していくことになる。

主に殺人事件をはじめとする事件が発生し、それを探偵役が情報を集めていくことで推理を行い、犯人を暴き出す、というのが定番のスタイル。


ミステリーをどのように楽しむか?

別にフィクションの楽しみ方なんて人それぞれで構わないのだが、ミステリーに関して言えば大体2系統に分類されるのではないだろうか。

  • 探偵になり切り、作中で起きた事件を真剣に考える人
事件を「作者からの挑戦状」と受け取り、解答編に進む前に自分の頭で事件の真相にたどり着くことを目的にしている人。
このタイプでも読み進めるのを止めてまでは考えない人もいれば、自分なりの解答が出せるまで先に読み進めない人まで様々。
極端な人では「答えを出せなければ負け」と考え、絶対に解答編を読まないなんて人も存在する。

  • あくまでフィクションとして楽しみ、真剣には謎解きに挑まない人
物語を物語として読み進み、事件の真相を自分の頭で考えないタイプの人。
「奇想天外なトリック」や「事件の裏側の心理描写」などが好きなミステリーファンであり、「自分の頭で事件について考える」ということはあまりしない。
また解答編の前に全ての手がかりが開示される(=読者が真相を推理できる)ことを必ずしも求めない傾向にある。


この2系統の違いとしては、ネタバレに対するスタンスが挙げられる。
前者のタイプの人は、「ネタバレ絶対お断り。自分の頭で考えないと意味がない」と言うのに対し、
後者は「どうしてこの結末に至ったのかの過程を見るのが楽しい」など、比較的ネタバレに寛容である。
このタイプの極端な例として、聖☆おにいさんのイエスは、「ミステリーを最後から読む」という衝撃的な読書スタイルでブッダを絶句させている(父さん(全知全能の方)がこの世の終末をガンガンネタバレ(預言)してくるのでネタバレに寛容になったとのこと)。
ただし、人からではなく物語でそれを知りたい・物語を十全に楽しめなくなるなど、後者でもネタバレを嫌う人は多いので一様なものとして考えないこと。

そもそも所かまわずネタバレをまき散らす行為自体褒められたものではないので、
相手がネタバレを許容できる人だとハッキリしない限りは下手に事件の真相を語ることは控えた方がいいだろう。

ちなみにどちらにも属さない変わり種の例として、例えば『魔人探偵脳噛ネウロ』の主人公桂木弥子は、
読み切り版のみ「ミステリーの解答編だけ読んで事件を解決した気になる」という変な趣味を持っていた。


ミステリーとサスペンスの違い

どちらも類似したジャンルであるためしばしば混同されるし、明確に使い分けるのも難しい。
一応、大まかな違いとしては以下のようなものになる。

  • ミステリー
「作中で明示された謎を作中人物が解き明かす」ことに骨子が置かれ、それを中心に肉付けがされた作品。
あくまで肝は事件そのものであり、登場人物はそれを彩るサブの存在。

  • サスペンス
「事件をいかに解決するか」よりも「事件を前にして不安と恐怖に晒される人間心理」を描くことがメインの作品。
多くは、読者・視聴者に最初から事件の真相や犯人は明示されており、登場人物がいかに真相にたどり着こうとするかを楽しむ作品である。
ネタバレを食らったミステリーはこちらに移行する場合が多い。


なお、「探偵小説」と「推理小説」は元々は全く同じものだった。
だが、「偵」の字が常用漢字から外されてしまい「探偵小説」という単語が使いにくくなってしまったので、
それを解決するために作られて広まったのが「推理小説」という呼称である。
昔の探偵小説は非常に幅広い概念を内包しており、推理がメインではないSF・ファンタジー・怪奇ものが「探偵小説」と呼ばれることもしばしばあった。
先に名前の出た『魔人探偵脳噛ネウロ』を例に挙げれば、同作は「探偵が大活躍する探偵もの」ではあるが、「推理・ミステリーを主軸とする探偵ものではない」とされている。


ミステリー用語

  • トリック
犯行そのもの、あるいは犯行を行ったことを隠蔽するための計略。推理創作の肝。
これを解かねば始まらない。「トリックだ!」と叫べばいいのはミスター・サタンだけです
死んだはずの元部下が生きていたのも「残念だったな、トリックだよ

  • アリバイ(alibi)
「不在証明」という意味であり、ラテン語のalius ibi(他の場所に)に由来する。
犯行当時、その人物が犯行現場に存在していなかった、という証明。

これを直接証明することは難しいため、「同一人物が同時に2箇所に存在することはできない」という原理を利用して、
「その時刻に犯行現場以外の場所に存在していた」という形で示すことになるのが基本。
そして「アリバイがある」人には現場にいなかったのだからその犯行はできないと証明される。
逆に狡猾な犯人ならば自分にアリバイがあるように誤魔化すはずなので、それをいかに崩すか、ということが探偵役の仕事になる。

「やたらしっかりとアリバイが証明できる人間は怪しい」はミステリーのお約束。
普通の人間に都合よく出来たアリバイがあることは珍しいうえ、そんなに詳細に自分の行動を覚えていない。
人が殺されるのは夜間が多いし、夜間はあまり出歩かず一人か、あって家族と一緒ぐらいのことが殆どなので猶更である。
また容疑者ほぼ全員にアリバイがないのに対して、一人だけ完璧なアリバイがあると逆に怪しまれることも(これはメタ、劇中両方である)。
なので、容疑者全員にアリバイが成立する状況でトリックを実行する、メタな面なら後述の倒叙ミステリーにするなど工夫も必要。

  • 見立て殺人
殺害現場を特定のシチュエーションに見立てるという猟奇的犯行。
例えば地元に伝わっている伝説に見立てて殺す、というのはよくあるパターン。
アガサ・クリスティーよろしく童謡や童話に見立てるのもポピュラーである。

本当に狂った犯人が何の意味もなく見立て殺人を行う、というのは稀で、
大抵は「理解できる相手にだけ向けたメッセージ(脅迫)」だったり、「使用したトリックや思いがけず生じたミスを誤魔化すための工作」であることが多い。

閉ざされた事件現場。
いかにして犯人はこの不可解な状況を作り上げたか?という問いかけ。
現代物では「むっ、これは密室殺人!」「警部、オートロックだから当たり前です」なんてギャグもありがち。

  • ダイイングメッセージ
殺人事件の被害者が死の間際に残したメッセージ。血で書かれていた場合は血文字と言う事もある。
犯人の名前、もしくは犯人に繋がる何かを記している場合が多い。
ミステリーでは、後から現場に戻ってきた犯人に隠滅されないためなどの理由で、少し捻った暗号のような形で残されている事が多いが、
あまりに難しくしすぎると読者から「死の間際の人間がそんな複雑なメッセージ思いつくか」と突っ込まれることがある。
そのため、少し捻ったり凝ったダイイングメッセージを登場させる場合は、それ相応の死に方にさせている場合が多い。
……その分、エグイ死に方も少なくないが(即死ではないが、確実に死ぬであろう状況である場合が多いため)。

  • ワトソン役
探偵の助手役であり、読者の代弁者でもある。「シャーロック・ホームズ」シリーズでホームズの助手役を務めたワトソンが由来。
常識的な目線から不可能犯罪のシチュエーションを観察し、「こういう謎がある」ことを読者に示すのが役割。
奇抜な発想で解決に至る探偵役と読者の橋渡しをする重要なポジションだが、意外と登場しないミステリーも多い。
キャラの種類としては割と幅広く、「探偵を目立たせるための無能な引き立て役」といったコメディリリーフから、「探偵と同等の頭脳を持つ切れ者」というような優秀な相棒まで様々。また、「探偵の苦手な分野や疎い面を上手くカバーする良きサポーター」といった感じの役割も比較的多い。
近年は頭脳派の探偵役に代わりワトソン役がアクション面を受け持つこともままある。

  • 安楽椅子探偵
アームチェアディテクティブ。
現場に出向かず、(安楽椅子に座りながら)聞いた情報だけで事件を解決してしまう探偵。
普段から安楽椅子探偵タイプの者や要所要所で安楽椅子探偵状態で推理する者もいれば、
後述する名探偵コナンの工藤新一のように「(コナンとして)本人は現場にいるが、(新一としては)作中人物的には安楽椅子探偵」という変則的なパターンもある。

「誤導」、すなわち正解ではない解答。犯人が用意したものか、作者が用意したものかに大別できる。
上手く読者がミスリードに引っかかってくれたら、作者からすると万々歳である。
逆に巻が分かれている作品で後者を読者に「後付け」などと思われたらミスリードとしては失敗である。

  • ミッシングリンク
本来ならば繋がりがあるように見えない一連の犯行に実は存在する「失われた繋がり」。
一見無差別犯罪だが、ミッシングリンクに気付くことで犯人の動機がわかる構造になっている。
例を挙げると『金田一少年の事件簿』などは、実は今回の事件の被害者は過去に起きたある事件の関係者だった!ということが大半である。

  • フーダニット
「Who done it?」。「誰がそれをやったか?」
ミステリーの推理としては最も基本的な解答。ミステリー初心者なら、まずこれを当てられれば上等だろう。
ただし、複数犯だったりすると、組み合わせを考えなければならなくなるので、難易度は激増する。その最たる例が 被害者と探偵以外のほぼ全ての登場人物が共犯 という某古典の名作だろう(ネタバレ防止のため作品名は伏せる)。

  • ハウダニット
「How done it?」。「どうやってそれをやったか?」
これを当てられればミステリー読者としては一級品。
誰でもできる様なトリックだと真似されると危ない、かと言ってピタゴラスイッチ並みに複雑なトリックだと「できるかこんなもん!」と突っ込まれるのが悩みどころ。

  • ホワイダニット
「Why done it?」。「なぜそれをやったか?」
犯行を犯した動機であり、最も当てるのが難しい要素と言える。
というより、解答編でようやく動機にまつわる裏事情が語られることが多く、そのような場合出題編では情報不足で推理不可能である。
一応ヒントが出ていることは多いものの、これが分かる=犯人やその足取りが分かることが多いため、やはり実質推理不可能なことが多い。
あんまり狂った動機であるとそこだけ突っ込まれる事が多い。

  • クローズドサークル
外部から孤立し、内部からの脱出も外からの侵入も不可能な環境。
「嵐の孤島」と「雪の山荘」が二大クローズドサークル。

「警察などの科学的捜査を遮断し、名探偵の活躍の場を作る」
「科学捜査では一発でバレる大味なトリックも使用可能」
「殺人犯と一緒に孤立させることで恐怖感を煽る」
「逃走できないため、同じ舞台での連続犯行に違和感がない」
「情報を限定させることで正しく推理出来るようにする」
「余計な登場人物を乱入させない」
などの効果がある。

特に最後が重要で、閉じた環境……要は登場人物が限定されていれば良い。そうでなければ外部犯も考慮して推理しないとならなくなる。
もちろん例外も多いが、こうしなければ提供する情報に穴が多くなるため、
いくらでも推理出来てしまう事態に陥ったり、『それが許されるなら何でも有りじゃないか』ってことになりやすい。

ミステリーのお約束「クルーザーが出てきたら爆破されるものと思え」「橋が出てきたら落ちるものと思え」
21世紀現代を舞台とした作品だと電話線を切ったところで携帯電話であっさり警察に電話されたり、
ヘリコプターやらなんやらですぐに救助が来れたり、といった現実的な理由でクローズドサークルを作るのが困難となっているため、そういった手段すら封じる結構捻ったものが多くなっている。

  • 叙述トリック
別名「信頼できない語り手」。
本来物語の地の文というものは、神の視点の三人称であろうと作中人物視点の一人称であろうと基本的に嘘は無く真実を伝えているはずだが、その基本ルールを逆手に取ったもの。

嘘はついていないが、真実も伝えていない
「重要な事実に対し読者の誤認を誘う文章構成になっている(もしくは語り手自身が誤認しており正しい認識を読者に伝えられていない)」
といったギミックで読者を騙す。

ある意味では発想一本勝負であり、短編・単発長編向き。
また嫌いな人はとことん嫌いな存在でもあり、読者どころか作家の間でも賛否両論。
例えば後述のヴァン・ダインの二十則では第2則*1で叙述トリックが否定されている。

  • 倒叙ミステリー
最初から犯人がわかっており、いかに探偵が犯人の完全犯罪を切り崩していくか、に焦点があてられたもの。
刑事コロンボ』及び、コロンボに影響を受けた『古畑任三郎』が有名。「倒叙ミステリー」という言葉を知らなかったために「コロンボ方式」「古畑方式」と呼んでた人も多いのでは?

  • 古典
ミステリーの中でも古い分類の作品。
どこまでを古典と呼ぶかはハッキリしていないが、とりあえずシャーロック・ホームズやエルキュール・ポアロが古典に入るのは異論はないだろう。
これからミステリーを書こうと思っているなら、「古典の名作」と呼ばれる作品ぐらいは目を通した方がいい。
意図的でなくても古典と被るトリックを使ってしまったら「お前古典すら読んでないのかよ」と非難されても仕方ない。
逆に古典的なトリックを上手く近代の舞台に落とし込めれば読者の称賛を浴びるであろう(この際、トリックは古典的である事を明かしておくといい)。

  • 本格
ミステリーの原点。近代までは境界のはっきりしていなかったSFや怪奇小説などの隣接ジャンルからはっきりと独立した、
作中で提示された情報だけで読者にも解けるが、簡単には解けないトリックを売りにしたジャンル。
後述の社会派やハードボイルドに押されて一度衰退した後に奇抜なトリックで原点回帰を目指した「新本格」というジャンルも。

  • 社会派推理小説
犯人・トリック解明をしつつも、「犯人の動機」・「事件の背景」・「作品のリアリティ」等を主眼に置いたもので、ホワイダニットに重点を置いた作品とも言える。
この単語を定着させたとされる松本清張や、ファンタジー・ホラー等も手掛ける宮部みゆき、『探偵ガリレオ』シリーズ等の東野圭吾が第一人者とされている。

  • 警察もの
刑事を主人公としたミステリー作品。少し範囲を狭めて「刑事もの」とも。
探偵とは違い、自然な形で主人公を事件に関わらせる事が出来るのが特徴。作風によっては、警察内部の闇や社会問題に触れられる事もある。
鑑識、法医学研究員、検視官が主人公となる場合もあり、同じ警察官でも階級によって事件への関与の仕方が大きく違ってくる。

  • 法廷もの
弁護士や検察官を主人公とした作品。裁判官?前者二つに比べるとかなり少ない。
裁判や司法体制などがテーマになりやすく、弁護士主人公なら検察官、検察官主人公なら弁護士がライバルとして立ちはだかる事もある。
弁護士が主人公の場合は、刑事事件の冤罪で捕まった被告人の弁護を引き受け、無罪を立証しつつ事件の真相と真犯人を暴くというスタイルが多い。
本当に罪を犯していてほぼ有罪確定の人を弁護する展開はそれと比べると少な目。

  • ハードボイルド
ミステリーの一ジャンルだが、思索型の探偵ではなく行動派・肉体派の探偵が活躍するタイプ。
複雑なトリックを解き明かすよりも、探偵役のアクションや生き様などが重視されている。
多くの作品は「暴力・セックス・ドラッグ」が登場する退廃的な作風なのが特徴。

殺人や誘拐など重大な犯罪ではなく、実際にありそうな身近で起きる謎を解く過程を描く。人を殺さなくても話を進展出来るためライトノベル・ライト文芸と相性が良い。

  • 氷の凶器
使ってはいけないお約束トリックの一つ。
「なぜ凶器が見つからなかったか?」→「氷で凶器を作ったから溶けてしまったんだよ!」はあまりに使い古され過ぎていて読者からの受けは芳しくない。
ミスリードとしてはともかく、どうしても解決編として使うなら、何かしら一ひねりは欲しい。
同様のものに「ワイヤートリックによる密室」「双子の入れ替わり」などが挙げられる。
別に禁じ手というわけではないが、やはり使うなら何かしらの工夫はいるだろう。

ちなみに、リアルでは氷の凶器を用意して犯行に及んだ場合、犯行の計画性と隠蔽目的が重大であると判断され、普通の凶器を使った場合よりも遥かに罪が重くなる可能性が高いらしい。

  • ピタゴラスイッチ
こちらも使ってはいけないお約束トリックの一つ。
物理学・化学・機械工学の知識を用いた巧妙なカラクリよるトリックの事。『本陣殺人事件』が代表的。
その殆どが机上の空論であり、無駄に手が込んでいるうえに回りくどかったりするのでミステリー読者からの受けは良くない。
尤も模倣犯を生み出さないようにあえてこうしているという意図がある。
こちらも禁じ手ではないが、上記の氷の凶器以上に工夫がいる…というより作風の段階から合うか合わないかが決まってることも。

  • 利き手・利き腕
例えば右利きの人で「え?コップは左手で持つけど」「腕時計は右手につけているけど」と思っていたとしても、
ミステリーでは多くの場面で様々な要素から利き手・利き腕を確定する場面が出てくる。
現実は現実として、推理の材料としてありがたく受け入れておこう。

ミステリーの「お約束」をわかりやすくまとめたもの。

極端な話
「犯人が終盤から登場した中国人であり、未知の秘薬を使い換気口から死体を密室に送り込むことが可能だった…という真相を探偵が突如超能力を使って明らかにした」
なんてオチはダメというもの。

別に遵守しなければならないということはないが、
今の時代でも参考になる要素があるので、ミステリーを書こうと思っているなら一度読んでみるのもいいだろう。

  • チャンドラーの九命題
上二つほど知名度がない(作家としての知名度はともかく)が、同様に「お約束」を並べてみたもの。
ハードボイルドの人だけあって「暴力的冒険談」を認めているなど比較的緩めだが、本格的でないというわけではない。
なお、原文では十二命題あるという説もある。

  • 読者への挑戦状
特にロジックを重視する作品で挿入されることが多いもの。
多くは「解明に必要な必要な情報は全て出揃った」という作家からのお知らせであり、解いてみてみろ!という挑発でもある。
ぜひ自分の推理力を試してみてはいかが?
トンデモトリックの隠れ蓑だったり、読者への挑戦状内に罠を入れていることも稀によくあるので注意。

  • パズル・ストーリー
実際あり得るかどうかは二の次にして、謎解きを重点に置いた推理問題。
日本では「ウミガメのスープ」が代表的。

  • アンチ・ミステリー
分類上はミステリーのはずなのだが分類不能のジャンル。
狭義では日本三大奇書こと『ドグラ・マグラ』『黒死館殺人事件』『虚無への供物』の三作品のこと。
四冊目として『匣の中の失楽』が上がることもある。五冊目の候補が語られることもあるが、ほぼ確定していない。

  • バカミス
理解不能な動機、壮大過ぎるトリック、現実を逸脱した世界観、斜め上の犯人像、超展開のプロットなどなど、真相で笑うしかない要素を含む作品。
ゲームにおける「バカゲー」と同じで、意図的にネタに走って書いたのもあれば、作者は大真面目に書いたのに発想がぶっ飛び過ぎてバカミスになるものもある。
人によってはトンデモ・クソミス・壁本・地雷となるジャンル。
それでもそのバカさを追い続ける読者もいるのである。

  • イヤミス
嫌なミステリー。簡単に言えば後味の悪い、胸糞の悪い作品。
いじめ・離別・家庭崩壊など、真面目に生きてきたはずの人間がドロドロとした不幸に巻き込まれていくパターンが典型的。
普通の本格ミステリーだけでなく、日常の謎やサスペンスで見かけることも多い。
湊かなえの『告白』を代表として女性作家が得意とする傾向にあるが、もちろん絶対ではない。

  • SFミステリー(特殊設定)
SFであり、ミステリーというジャンル。
近年においては80年代から活動の西澤保彦に始まり、90年代~00年代のファンタジー・SF系ライトノベルやいわゆるファウスト系ミステリの薫陶を受けた世代が書き手になったことで数多くの作品が出ており、ファンタジーものと併せて「特殊設定」というジャンル分けが普及している。
SFならではのガジェットを用いることが可能なのが特徴だが、流石に「何でもアリ」だとミステリーとして成立しないので、「このガジェットには何ができて何ができないのか」を詳細に決めておく必要がある。
……ぶっちゃけミステリー一本のために、世界観から練り直す必要があるので、書く難易度も読む難易度もかなり高い。それだけに、全てが上手くかみ合えば傑作になり得るが。
中には、 タイムテレビで未来から自分の行動を監視されていることを前提に、いかに正当防衛に見せかけて殺すか腐心する 倒叙物なんて変わり種も。


有名なミステリー作家


海外編


エドガー・アラン・ポー
ご存じミステリーの元祖。
どちらかというと、怪奇小説家と言った方が作風としては近いかもしれない。
詩や評論のジャンルでの功績も多い文学上の巨人の一人。

コナン・ドイル
世界一有名な名探偵の生みの親。イギリスのスコットランド出身で医者でもあった。
探偵小説という形式を確立した偉大な作家だが、実はオカルトに傾倒していた意外な一面も……

モーリス・ルブラン
探偵と対を為すかのような大犯罪者「アルセーヌ・ルパン」を生み出したことで知られるフランスの代表的古典作家。
ルパンが犯罪を解決するパターンの小説も何作か発表している。
  • アルセーヌ・ルパンシリーズ

バロネス・オルツィ
安楽椅子探偵や女性警官の主人公の元祖を生んだ女流作家。歴史ロマン「紅はこべ」でも知られる。
ハンガリー出身のイギリス人で本名が超長い。
  • 隅の老人シリーズ
  • レディ・モリーシリーズ

アガサ・クリスティ
「見立て殺人」「ミッシングリンク」「叙述トリック」など様々なトリックを活用したイギリスの女流作家。
他にも軽めの冒険・スパイミステリやミステリー戯曲、別名義での女性向け小説等も手掛けており、考古学者との再婚後には古代エジプト小説を描いた。
なんとリアルに失踪騒動を起こした事でも有名だが(ドイルら先輩作家もコメントを寄せたそうな)、本人はその事件について「一時的な記憶喪失だった」とのみ語り、詳細について生涯説明することはなかった。

エラリー・クイーン
自身と同じ名を冠した探偵を活躍させる「エラリー・クイーンシリーズ」が有名なアメリカの作家。
ちなみに従兄弟二人組の連名。「バーナビー・ロス」と名乗ってることもある。他の作家に名義貸しすることも。
執拗なロジックや読者への挑戦状が特徴とされるが、攻めた作品も結構ある。
その作風から、ミステリーにつきものの問題が「後期クイーン的問題」と呼ばれて議論されている。
これは主に「(読者には「手がかりが出揃ったことを告げる『読者への挑戦状』を信じる」という手段があるが)作中の探偵は、未知の情報や偽の手がかりや隠れた黒幕が一切存在しないことをどうやって確信・証明すればいいのか」というもの。
  • エラリー・クイーンシリーズ
  • ドルリー・レーンシリーズ

F・W・クロフツ
地味な捜査を延々続ける作風が特徴のイギリス作家。
地味とはいえ倒叙もの、アリバイ崩し、密室崩しなど中身は本格的。
  • フレンチ警部シリーズ

G・K・チェスタトン
捻った逆説やトリックを駆使したミステリーを残したイギリスの作家。
代表探偵のブラウン神父は世界三大名探偵に数えられることも。
保守系批評家としても知られ、創作にも民族主義的な思想が強いのでやや人を選ぶ。
  • ブラウン神父シリーズ

ジョン・ディクスン・カー/カーター・ディクスン
怪奇仕立ての作品や密室を始めとしたトリック系作品が特徴のアメリカの作家。でも舞台はヨーロッパ多め。
くだらないトリックも多いことは内緒。
歴史ミステリーも得意。
  • アンリ・バンコランシリーズ
  • ヘンリ・メリヴェール卿シリーズ
  • ギデオン・フェル博士シリーズ

アントニー・バークリー
多重解決ものや探偵の誤謬、犯罪者心理小説など定型を崩しつつの作品を得意としたイギリス作家。
「フランシス・アイルズ」名義では倒叙ものを書いている。
  • ロジャー・シェリンガムシリーズ
  • アンブローズ・チタウィックシリーズ

S・S・ヴァン・ダイン
美術評論の休職中に暇つぶしにミステリー書いたら成功しちゃったアメリカ作家。
二十則のような厳格な批評精神や無駄知識が増える衒学趣味が特徴。
作品の半分くらいが微妙扱いなのは内緒。
  • ファイロ・ヴァンスシリーズ

レイモンド・チャンドラー
文学性すら感じられる巧妙な文体とイメージを持つハードボイルドの代表者。
ミステリー以外でも村上春樹なんかに好かれている。
  • フィリップ・マーロウシリーズ

ダシール・ハメット
本物の元探偵にして、その経験をミステリーの中に叩きこんだハードボイルドの代表者。
某掲示板のミステリー板における「名無しのオプ」の元ネタ。
  • コンチネンタル・オプシリーズ
  • サム・スペードシーズ

ロス・マクドナルド
上二人とまとめてハードボイルド元祖御三家とか言われてる作家。9割がたの話は家庭問題。
ハードボイルド系では珍しく、意外性にも優れる。
  • リュウ・アーチャーシリーズ

アイザック・アシモフ
SF作家として知られるアシモフだが、意外なほど本格ミステリーも書いている。
安楽椅子探偵の代表格「給仕ヘンリー」が活躍する「黒後家蜘蛛の会」が有名。
またロボットが登場する作品でもミステリー染みたものも。
  • イライジャ・ベイリとRダニールシリーズ

日本編


江戸川乱歩
エドガー・アラン・ポーから取ったペンネームで知られる日本の探偵小説作家代表。
どちらかというと、冒険小説と言った方が雰囲気としては近い。
  • 怪人二十面相シリーズ

横溝正史
閉ざされた古い集落を舞台にした本格的な見立て殺人シリーズで知られる。

高木彬光
戦後日本の本格推理小説の第一人者。歴史、法廷、経済ミステリーと幅広いジャンルにも手を出した。
  • 神津恭介シリーズ

松本清張
日本の社会派推理の原点にして頂点。
ただ、トリック系本格派についても十分な造詣を備えていたという。
  • 点と線
  • 砂の器

鮎川哲也
多様で精密なアリバイ崩しや密室を得意とした戦後本格推理の代表者。
  • 鬼貫警部シリーズ
  • 星影龍三シリーズ

西村京太郎
時刻表トリックの旗手。読者が実際に試したくなるのがお約束。
初期は社会派や海洋系トリックなんかも書いていた。
  • 十津川警部シリーズ
  • 左文字進シリーズ

山村美紗
京都ネタや伝統文化ネタが豊富な女性作家。
西村京太郎とは仲良し(意味深)だった。…いや西村と出会った時既に娘紅葉はいたし、離婚もしなかったから単なる友人関係だったんだろう。多分。
  • キャサリンシリーズ
  • 赤い霊柩車シリーズ

森村誠一
社畜→ビジネス書作家という経歴の後にミステリーに入った人。
山岳・歴史・会社・警察などが主な舞台になっている。

島田荘司
社会派推理作品全盛だった昭和後期に本格推理小説を再興したと言われる作家(社会問題ものも多いが)。綾辻行人デビュー時の後援者でもある。
超変人脳科学者探偵(元占い師)&過去が重すぎる世話焼き系ワトソン役がメインな御手洗潔シリーズで知られる。
  • 御手洗潔シリーズ
  • 吉敷竹史シリーズ

赤川次郎
ライトで軽妙な語り口で非常に読みやすい文体なのが特徴。
一方でガチホラーや社会問題を批判するようなサスペンスも多く手掛け、天使少女と犬悪魔吸血鬼父娘霊感持ちバスガイドといったファンタジー寄りな主人公のシリーズをも描くプレラノベ世代。
猫が探偵役という(喋らない探偵という意味で)変わり種、三毛猫ホームズシリーズが特に有名。
  • 三毛猫ホームズシリーズ
  • 三姉妹探偵シリーズ
  • 大貫警部シリーズ
  • 天使と悪魔シリーズ

竹本健治
上述の『匣の中の失楽』で鮮烈なデビューを飾った作家。
アンチ・ミステリーだけでなく、作者とその周辺の人物が実名で作中に登場するメタ・ミステリーも得意とするほか、SFやラノベ寄りの作品も多い。アンドロイドのドジっ娘美少女メイドが探偵をやったり、異常にキャラが濃い芸者5人組が事件に巻き込まれたり。
というか作者本人が「本当は漫画家になりたかった」とぶっちゃけている。
  • 匣の中の失楽
  • 牧場智久シリーズ
  • ウロボロスシリーズ
  • キララシリーズ

綾辻行人
常識を覆すような大胆極まりない叙述トリックとホラー描写、奇想天外な「館」トリックが有名な作家。
彼を売り出すためのキャッチフレーズから、「新本格ミステリ」という作家カテゴリーが生まれたという。

森博嗣
「理系ミステリ」。精緻で余計なものを排除した芸術的なトリック。
『百年シリーズ』や映画化された『スカイ・クロラ』等SFミステリーも多い。
『封印再度』のトリックは、一見ありえないように見えて、実は実現可能なことが読者の手で実証された。

京極夏彦
「文系ミステリ」。人間の業に迫る不可解な事件を「憑き物落とし」が祓っていく。
ちなみに宮部みゆき・ハードボイルド作家の大沢在昌とは同じ事務所。

宮部みゆき
社会派ミステリーでデビューした後、ファンタジーや時代劇も書く様になった女流作家。捕物帳にも現代的ミステリー要素を取り入れている。
密室とかは使わないが、叙述トリックは使う。あと犬や財布の一人称で話を綴ったり、社会派作品にがっつりファンタジーが絡んで来たりしたこともある。
  • 模倣犯
  • 杉村三郎シリーズ

東野圭吾
トリックに重点を置いた作品・メタミステリー・社会派ミステリー・人情派と何でも手掛ける人。
どちらかというと単発作品がトリッキーになりがちで、ガジェットにSF要素を入れることもある。

はやみねかおる
「赤い夢」をキーワードとするジュブナイルミステリー作家。
楽しく読める作品が多いのだが、珠に挿入されるガチ要素にぞくっとしたり。

松原秀行‎
はやみねかおると双璧を成す青い鳥文庫のミステリー作家。
いつも心に好奇心(ミステリー)!というコラボ作品も出版されたりした。

西尾維新
初期はミステリー作家枠としてデビューしたはずだが、最近はラノベ作家として認知されている気がする。
デビュー作『戯言』シリーズは最初はミステリーだったはずだが、いつの間にか「新青春エンタ」という別ジャンルになっていた。
奇抜な作風で有名だが、書こうと思えば「難民探偵」とかの本当に普通のミステリーも書ける模様。なお本当に普通のミステリーすぎてそっちはあまり話題にならない

久住四季
主にライトノベルでミステリを書く異色の作家(とはいえ最新作は一般だったが)。
魔術だの超能力だのが存在する世界での推理が最大の特徴で、犯人が完璧な変装魔術(通常の手段では看破できない)を行使したり、
探偵が嘘を見抜く能力(「あなたは犯人ですか?」と聞いて回るだけで事件解決)を持っていたりする。
もちろん、そう簡単に話は進まないのだが、一味違った推理を楽しめる。
  • トリックスターズシリーズ
  • ミステリクロノシリーズ
  • 鷲見ヶ原うぐいすの論証

小森健太朗
最近は自分でも相撲の人とか名乗ったりしているが、本来得意とするのは歴史(世界史)ミステリーや内輪向けメタ・ミステリーだったりする。
翻訳やミステリー・アニヲタ系評論の仕事も多い。

我孫子武丸
要するにかまいたちの夜のライター。もちろん小説も多い。
小説・ゲーム以外でも漫画原作やクイズ番組監修などやけに手広く仕事しており、最近では関智一主演舞台の脚本&小説化も手掛けた。

円居挽‎
講談社BOX出身の喧嘩商売とわたモテの人ミステリ作家。
デビュー作の『丸太町ルヴォワール』など法廷ものを得意とする。
Fate/GrandOrderのミステリーイベントのシナリオライターであることでも有名。
  • ルヴォワールシリーズ
  • 虚月館殺人事件・惑う鳴鳳荘の考察


漫画編


さとうふみや&天樹征丸&金成陽三郎
「ミステリー漫画」のブームを生み出した、「コナン」と並ぶ死神漫画界の名探偵金田一一の生みの親たち。
「金田一少年」は「コナン」よりも内容が少し大人向けで、作風は横溝正史の本家金田一(ジッチャン)寄り。

青山剛昌
「金田一少年」に続いてのこの作品で、「ミステリー漫画」は定着することになった。
もはやミステリー云々を越えて一種の国民的漫画と化している。
「真似する人が現れないように」との考えにより、理論上は可能(各種トリックはあらあじめ実験して可能かどうか確認している場合がほとんど)でも実際にやるのは困難なトリックが多め。

加藤元浩
知名度では先に挙げた二作に劣るが、根強いファンのいるミステリー漫画家。最近は小説も出している。
数学や博物学などの知識に通じた探偵役と、殺人だけでなく様々な形態の「謎」を取り扱うのが特徴。
Q.E.D.のドラマ化以外メディアミックスがない為に知名度は低めだが、下記2作で合わせて100冊を超えており、巻を跨ぐことがほぼない為扱った事件の数はかなり多い。
(Q.E.D.は1冊で2話、C.M.B.は1冊に4話が基本。)

樹林伸
いわゆるキバヤシ。ぶっちゃけ「金田一少年」の天樹征丸の中の人。
他の漫画家とも組んでミステリーやミステリー以外の漫画を色んな名義で無数に書いている。
漫画以外では、たとえば「金田一少年」のノベライズはすべて自身で手がけている

城平京
れっきとした推理作家でもあるのだが、アニヲタ的にスパイラルなどの漫画原作者としてこちらの方に。
そのスパイラルはバトル展開に転がったことが話題に挙げられるが、
すでに上記推理漫画達によって王道が確立されていたために一味違ったものにしたいという氏の意向による既定路線であったそうである。
あと小説版スパイラルは原作漫画もミステリも知らない人にもおすすめできる傑作。



追記・修正の謎は解けた!


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最終更新:2024年04月07日 21:30

*1 「作中の人物が仕掛けるトリック以外に、作者が読者をペテンにかけるような記述をしてはいけない。」