ゴースト ―世田谷区の幻―

登録日:2017/09/19 Tue 23:41:30
更新日:2021/06/20 Sun 20:10:51
所要時間:約 5 分で読めます





ゴースト ―世田谷区の幻―』は、峰倉かずやによる読切漫画作品である。
最遊記シリーズで知られる著者がまだ10代の頃に執筆した初期短編であり、角川書店の『コミックGENKi』1994年9月号に初掲載。
その後、著者の短編集『BROTHER』(1996年にラポートより刊行、2008年に徳間書店より新装版が刊行)に収録された。



◆紹介

それは、携帯電話やスマホはおろか、個人用のパソコンすら家庭に普及する前の時代の物語――


ある日、一人の少年が風呂上がりの濡れた体で、とある不注意からコンセントに触れて感電、呆気なく死んでしまったところから物語は始まる。


―――高校の友人が死んでから、もう四日がたつ
死因は感電死――
殺しても死にそうにない奴だったのに―――
……あっけないものだ

仲間が消えた実感がないのは
容赦なく流れてゆく俺の時間のせいだろう
こうして、学校の行き帰りを繰り返している
―――何もなかったように

感電死した高校生の少年・田島の葬式から既に四日が経過――――
彼の友人であった岡本は、彼の死を心のどこかで受け入れながらも、
どこからか突然田島が声をかけてくるのではないかと、そんな風に漠然と思いながら日々を過ごしていた。

……と、そんな時「岡本ッ!」という声がどこからか響き渡る。
自身の名を呼ばれた岡本は、近くのぶら下がった受話器を手に取ると、
何か得体の知れない感覚がしたことに不審に思いながらも、空耳かと思いそのまま帰宅する。

帰宅した岡本が腕時計をベッドに無造作に投げ捨てると、「いてっ」と突然時計から文句を垂れる声が聞こえてくる。
彼は自身が幻聴にさいなまれていることを疑いながらも、その声が自身にとって聞きなれた……
そして、もう二度と聞くことができないはずの声……友人・田島のものであることを確信する。
一先ず十字架を取り出して彼の成仏を試みるも、田島曰く彼は死んだ訳ではないとのことらしい。
岡本は田島は既に死んだのだと自分自身に言い聞かせながらも、声に従うままに自室のTVに電源を入れ、その傍に時計を置くと……
時計から溢れ出た光がTVへと移り、見事モニターの中に整然と寸分変わらない田島の姿が浮かび上がった。

……田島曰く、感電した衝撃で身体から魂が弾き出され、電子体となって電化製品の間を渡り歩けるようになったのが
現在の彼の状態とのことで、感電した際のドライヤー、ウォークマン、公衆電話、そして岡本の時計に憑依して今に至るとのことだ。
田島がこれまで試した結果からして、憑依できる範疇は1メートル以内、壊れてたり、電源の付いてないものには憑依できないらしい。
既に肉体は死亡扱いで火葬済み、しばらく岡本のもとに厄介になることを嘆願した田島だったが
ふと、彼は岡本は携帯テレビを所持していたことを思い出し、ある提案をする。

そんな訳で携帯テレビに憑依した田島を連れて学校に通った岡本であったが……
ふとした拍子で口喧嘩してしまった奇妙なさまを周囲に不審がられて結果は散々。
岡本は「もう絶対連れていかねーぞ」とおかんむりに。
宿題にかられてイライラしてる時に「お前はいいだろ、死んでんだから!」と口走ってしまう岡本だったが、
田島が「――好きで死んだわけじゃね――よ」と寂しそうに呟いたのを見て、流石に彼も反省する。

――と、次の瞬間、部屋中が停電に見舞われてしまう。岡本がTVのモニターを見ると、苦しそうな様子の田島。
彼は、田島が電気の通っていない電化製品では長くは持たないことを思い出す。
田島は、どうせ自分は死んだ身だからこれ以上迷惑かけられないと言うも、そんな彼に岡本はデコピンし、
絶対何とかしてやると言い残して部屋を出ていった。

外を見ると辺り一面真っ暗……近所一体が停電になった事を岡本は察する。
一通り家の家電製品を洗いざらいするも、どれも停電時には使えないものばかり。
普段使っている腕時計はよりにもよってこんな時に見つからず……岡本は顔を暗くして気落ちしてしまい、
田島は、自身の葬式で泣きもしなかった彼が、今この瞬間このような表情を浮かべていることに心を痛める。

――と、岡本は、今もこの瞬間時を刻み続ける、電池内蔵式の掛け時計の存在に気付いた。
笑顔を浮かべ、時計を手にTVのモニターへと駆け寄ると……

「さんきゅな」
(―――あ……)

それは、一瞬の刹那の夢か幻か。TVから離れて掛け時計に映らんとする田島の手が、軽く岡本の頭を小突いた。
岡本はその仕草が、かつて生前に田島がよくやっていたものであったことを思い出し、涙するのだった……


―――たとえ一瞬の幻でも
変わらないしぐさが
なぜかうれしかったんだ















「あ、時計(コレ)、テレビの上にあった」
「オチをつけるなオチをっ」



◆解説

  • タイトルは読んで字のごとく、1990年のアメリカ映画『ゴースト/ニューヨークの幻』のパロディ。

  • 『BROTHER』新装版の後書きによると、ネームの段階では元々のタイトルは『ビジョン』というもので、
    内容も後半からの展開が全く異なり、台風一過で町中が停電した中、TVの中にいた田島の魂が行方不明になり
    岡本が必死に街中を駆けずり回って探し、何とか電気も復旧するものの田島の魂が尽きてしまい
    駅前の巨大スクリーンに朧げに映る田島と別れを告げる……というビターエンドが予定されていたが、
    当時の担当編集から「設定が荒唐無稽なのにラストがシリアスなのは不自然」というもっともな意見を受け、
    結果現在の形となり、タイトルも映画のパロディになった経緯があるとのこと。
    作者曰く「今なら携帯電話や携帯ゲーム機に入るんだろうなぁ(笑)」。



「あ、Wikiを追記・修正中のパソコンがあった」
「オチをつけるなオチをっ」

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最終更新:2021年06月20日 20:10