黄昏酒場

登録日:2017/07/17 Mon 00:59:01
更新日:2020/07/07 Tue 23:20:11
所要時間:約 5 分で読めます




東方Projectの作者ZUNが立ち上げたサークル呑んべぇ会により、「酔いの勢いで」作られた、弾幕STG。
当初はCDで有償頒布されていたが、現在は無料ダウンロードできる。

ゲームプログラムや効果音の一部が、東方のものをそのまま流用したものであることで有名。
舞台設定も何もかも異なるが、西方Projectなどと同じく、ZUNの携わった作品という理由で東方シリーズの一種に数えられることもゼロではない。

独特のゲームシステムを把握しさえすれば、ステージ数の少なさもあって、東方のNormalをクリアできるかできないかの腕前でも太刀打ちできる難易度。


ゲームの概要

酔うと弾幕の幻覚が見えるという伝説の酒場ビル「黄昏酒場」。
主人公のOL、浅間伊佐美は、1Fから順に各フロアの酒場をハシゴしながら、一夜のうちに“完全制覇”を目指す。

ザコ敵となって現れる酒やおつまみを倒していく(食していく)ことで、ステージの道中を進む。
スコア=お会計であり、なるべく新鮮な状態で倒すことで、上等なお値段のものを食すことができる。

そして、ボスキャラである店主たちは、自信作である「特別メニュー」を繰り出してくる。
これも、弾幕を素早く撃破するほどスコアが大きい。システム上は東方のスペルカードそのもの。

特筆すべきは、ミスとゲームオーバーの判定。
多くのSTGのように残機やライフでは管理されておらず、残り時間がライフに相当するものである。
このゲームでは被弾は「SOSOU」と称される。SOSOUすると残り時間が突然減ってしまう(お店の人に叱られているのか?)。
しかし、ザコキャラの編隊(届いたメニュー)やボスの特別メニューを素早く片付けるほど、ステージを早回しすることができ、被弾の余裕も生まれる。

あと1回でゲームオーバー(閉店)になるところまで残り時間が減ってしまうと、「ラストオーダー」の告知が入る。
ラストオーダーに達してからは残り時間の消費がストップする。つまり被弾せず純粋に時間切れでゲームオーバーになることはない。

まさに飲食店を模したゲームシステム。
感覚的には、減った残機がステージごとにリセットされるようなものに近い。


キャラクター

まるで泥酔しながら書かれたかのようなキャラ設定テキストファイルは必見もの。

浅間伊佐美

主人公を務める酒豪OL。
その豪快な呑みっぷりの評判を耳にした上司から、黄昏酒場の存在を教わり、最上階制覇を目指す。

弾幕STGのプレイヤーキャラとしては、通常ショット(お箸)を撃つにとどまらない。
チャージすることで爪楊枝で近接攻撃、さらにチャージを解放することで爪楊枝でホーミングショットと、多彩な技を持つ。
このゲームの第一の攻略ポイントは、箸と爪楊枝を使い分けられるようになることである。
東方では通常攻撃が1種類だけなので、初めて遊んだ人は戸惑いやすい。キーコンフィグは妖精大戦争に近いものにしよう。

その攻撃力はビールゲージで表される。
このゲージは、ビールやカクテルなど、酒の姿の敵キャラを倒す(酒を摂取する)たびに上がっていき、彼女の酔い加減を表している。
酔えば酔うほど箸のペースが上がっていくウワバミが、このゲームのプレイヤーキャラなのだ。

もちろん、ボムにあたる緊急攻撃手段もある。
ビールゲージを1リットル分消費して(=酔いが少し醒めて)しまう代わりに、前方に超強力な攻撃を噴射する。
東方のボムと同じ副作用もあり、ボスが特別メニューを繰り出している最中に使うと、その金額が「おつとめ品」、つまり0円にまで下げられてしまう。
……とまで書けば、この攻撃の正体が何なのか察することができるかもしれない。公式には伏せられている。
なお、東方風神録や地霊殿に似たシステムでありながら、このゲームでボムはかなり貴重であり、パワー減少のデメリットも大きい。無闇にボムでゲーボムゲーしてはいけないのだ。

普段の収入は決して少なくないのだろうが、あまりにも呑むせいで金欠に陥っている。そのためエンディングでは……。

名前の由来は、日本酒の「浅間山」と焼酎の「伊佐美」からか。


八海山辰巳

一次会(Stage1)、大衆居酒屋「八岐大蛇」の店主。元自衛隊の板前

最初のボスという立ち位置なので、ゲーム中で繰り出してくるメニューは少ないが、創作大衆和食を得意とするようだ。
最初の特別メニュー“おでん「しらたきのラプソディ」”を目の当たりにしたプレイヤーは、この作品のノリをよく思い知ることとなる。

キャラ名については日本酒の「八海山」、加えて店名同様八岐大蛇のイメージも入っていそう。


有江ルミ

二次会(Stage2)、BAR「C2H5OH(アルコール)」の店主。足技使いのママさん
名前の由来も同じくアルコール。

カクテルを得意技とするほか、通常攻撃として、接近しての蹴り技を繰り出す。
東方で接近してくるボスと違って、このゲームではこちらも強力な近接攻撃を持っているので、積極的に迎え撃とう。


甘粕・バーレイ・天治

このゲームのラスボスであり、黄昏酒場の主。
そして惨事会(Stage3)、屋上ビアガーデン「サタデーナイトガーデン」の店主。80歳の現役ダンサー

店名の通り、ジョン・トラボルタのごときアフロヘアを持つ。
ステージのタイムリミットも午前5時30分と、文字通り朝まで酒をオールナイトフィーバーするのがこのゲームのクライマックス。
ラストバトルで被弾するごとに夜明けのタイムリミットが近づいていくのは、背景に映る月と合わせて、東方永夜抄のセルフパロディでもある。

ビアガーデンの主であるが、あらゆるジャンルの酒を繰り出してくる。ラスボスらしくいずれも手強い。
例えば、特別メニュー“光物「ブリリアント〆サバ」”は、永夜抄の頃に比べてのグラフィックの進歩に伴い、元ネタよりもさらに輝きの演出が強化されている。
そして、レーザーの見た目が変わったことで先端の当たり判定が見切りにくいうえに、画面の揺れが合わさって恐るべき弾幕と化している。

このゲームの楽曲で一番有名であろう「呑んべぇのレムリア」は、彼との戦闘BGM。
後の「勇者ヤマダくん」東方コラボでは、ZUNと戦うときにこの曲のアレンジ版が流れる。曲名の通り、全ての呑んべぇ達のテーマなのだろうか。

名前の由来は酒の甘粕、そしてバーレイ(大麦)。
少しひねって考えるなら、バッカスも意識した響きにしたのかもしれない。
バッカスは酒神であると同時に、酒宴の際の狂気の踊りを司る神。
ブドウの葉や実を冠のように頭にまとったその姿は、「カラヴァッジョのバッカス」などの絵画では、あたかもアフロのように描かれてきた。


呑んべぇ会

このゲーム、あとがきによれば、制作開始からマスターアップまで実質2週間で作られたというとんでもない経緯を持つ。
にも関わらず、作り込みの粗さを感じさせるような点は非常に少ない。
それもそのはず、このゲームの開発スタッフたちは皆、東方が徐々に勢いを増してきた初期からのZUNの呑み仲間――すなわち同人ソフトジャンルのベテランたち。
メンバーの一人が「このスタッフで一本作れただけで本望」と記していることからも、その豪華さがわかる。

現在でこそ上海アリス幻樂団の頒布補助スペースの名前になっている「呑んべぇ会」。
だが結成当初は同人サークルですらなく、単に呑みに誘い合うグループに付けられた名前だったという。
夏コミに応募した段階でもこういうゲームを作るとまでは決まっていなかった。なぜか落選した勢いで「冬コミでは東方的なSTGを作る」ということにした結果がこれである。
(夏コミでの東方風神録のリリースに伴って、合作に転用できるレベルにまで東方のゲームプログラムの仕様が安定したおかげもあるのだろう)

東方本家STGのような見た目をしていながらも、単独制作ではなく合作。それぞれの担当箇所には各々の個性が現れている。
例えば、キャラグラフィックからは、担当者(紫雨陽樹)が過去にリリースした作品群のテイストを強く感じられるし、
その中には寿司をテーマにしたSTG「王立エドマエンジン」なんてものもあったりする。

BGMの担当者(骨折飲料)は、このゲームのテーマ曲として最初に3面道中曲「chase the Twilight」を作ったが、
それは当初、今のものよりもテンポが速く、女の子が空を飛んでいるような爽快感を感じさせるものであった。
しかしそれは、企画始動段階ではこのゲームがここまで酒臭く仕上がるとはとても予想できていなかったためであった……と逸話として語っている。当たり前だ
結局、そちらを没にして今のバージョンへとアレンジ。没になったほうは、のちにクラブイベントで上演された。

また、制作スタッフが呑んべぇ会メンバーと多く重なる東方キャラ総出演ゲーム「東方幻想麻雀」には、
アップデートの末、このゲームの全キャラが登場するなどした。


その後

このゲームはもう封印するとあとがきに書かれている通り、続編やスピンオフは今のところ無い。
(呑んべぇのレムリアはリアレンジされているので封印というほどでもないけど)
その理由は、これが内輪ノリでできたゲーム、引用するなら「作ることを楽しむだけのゲーム」であることだという。

あれ? 肝心なゲームの内容の話をしていない? それはなぜか。

このゲームは呪われているから。
酔っぱらいが作ることを楽しむだけのゲームだから。

だから封印します。明日には作った事をすっかり忘れてそうだ。
(もう二度とこんなゲームは出来ないんじゃないかな)
――ZUN後書き.txt

近年の東方作品やインタビューを見ると、旧来の東方の世界観を壊さないよう意識した、というコメントがときどき見られる。
(例:「パンデモニックプラネット」楽曲コメント)
対して、まだ東方の世界観や方針が固まっていない頃には、好き放題やりまくったというコメントの方がよく見られた。
(例:「魔法少女たちの百年祭」楽曲コメント)

確かに、ゲームとは遊び手を楽しませるべく作られるもの。しかし、同人ゲームは商業サービスとは異なり、作り手の一存が通せる場。
当時にもまして東方が巨大なジャンルになっている今こそ、このゲームの意義を見直すべき時なのかもしれない。
たまには何にも縛られず、制作すること自体の楽しみを思い出すような機会が、作り手たちには有ってほしいものである。

こんなゲームが世にあるってだけで同人ソフトが存在した意味があったと言うもの。
――ZUN後書き.txt


追記・修正は爪楊枝でホーミングショットを撃てる方にお願いします。


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最終更新:2020年07月07日 23:20