SCP-548-JP

登録日:2017/05/21 Sun 20:39:12
更新日:2024/04/16 Tue 15:16:26
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晴れた心に、傘はもういらない。



SCP-548-JPとは、シェアード・ワールド『SCP Foundation』に登場するオブジェクトのひとつである。
タイトルは「歌う雨音」。JPのコードが示す通り、日本支部生まれである。
オブジェクトクラスは「Neutralized」。



概要

コイツが何かと言うと、異常な特性を持った一本の傘である。
外見的にはただのビニール傘で、特筆すべき点はない。

その特性は、この傘が雨に打たれた時に発現する。
この傘が雨に打たれると、本来発生するはずの雨の音が、ピアノの音色に変わるのである。この現象はSCP-548-JP-Aと分類された。

その旋律はショパンの「練習曲作品10第3番ホ長調」と一致する。日本では「別れの歌」の方が馴染み深いかもしれない(以後、この記事ではこちらを採用)。
ただし、実際に傘布へ水滴が接触し本来の雨音が発生する筈のタイミングと音が発生するタイミングには1秒前後のラグが存在しており、恐らくはこの間に音の変換や楽曲へのチューニングを行っていると考えられている。
室内に入る、天候が回復するなどして雨の接触が停止するか、あるいは楽曲を再現できないレベルまで減少した場合、この「演奏」は楽曲の途中であっても終了し、雨音は通常のそれに戻る。
しかし、「演奏」が終わっても雨の接触が続いていた場合、口頭でリクエストするとその楽曲の「演奏」が始まる。

さらに音響分析の結果、どうも「演奏」のたびに技術が向上しているらしい。難易度が高い曲のリクエストを受けた場合、その曲調にはミスが多発する。しかし、回数を重ねるごとにそれは減少し、最後には原曲の完全なる再現に到達する。
また、演奏の合間に拍手や賛辞を贈ると技術の向上が3倍から5倍へと跳ね上がり、音色にも楽しそうな色が混じる。逆に罵声などを食らった場合、乱雑な演奏になったりリクエストを無視したりするなどの反応が見られる。

この事から、どうやらこの傘は自我を持っているらしいと判明した。


実験記録

これらの特性が判明するまでには、当然実験が行われた。が、中身が単純明快なので実験内容も毎回共通。
基本的に、誰かが雨の日にこれを差して、オブジェクトの反応を観察する、というものである。
なので、とにかく回数が膨大。無力化までになんと108回も行われている。

  • 1回目
記念すべき最初の実験。オブジェクトの担当責任者である塚原研究員のもと、Dクラスに傘を持たせて雨の屋外へ。
演奏後に拍手を送った後、「別れの歌」をリクエストさせてみた。
結果:音色は楽しそうだったが、旋律はかなり乱れていた。
上手く演奏できなくても楽しんでいるようです。


  • 10回目
今度も状況は同じ。内容は、演奏に対して罵声を5分間浴びせてから「別れの歌」のリクエストである。
結果:非常に乱雑かつ大音量の演奏により、Dクラス職員の鼓膜は破壊された。
悪意には悪意で返すあたり、人間的な反応が見られます。
そりゃ、5分間もバカにされればキレるだろうに。


  • 31回目
状況はやっぱり同じだが、今度はリクエストの内容を非常に暴力的な歌詞が用いられたものにしてみた。
デスメタルとか、その辺だろうか?
結果:リクエストは有効。楽しそうに軽快に演奏された。
ジャンルの好き嫌いはないようです。取り扱いに気を付ければ危険性はないと思われます。
とりあえず、聞いたら褒めろ。



とまあこんな感じで実験が続いたわけだが、ここでアクシデント。
初期収容されていたサイトの周辺に好天が続き、実験が中断されていたのだが、その後の雨天時の「演奏」はひどく乱れたものであり、通常の雨音が混じっていた。
実験回数を重ねるごとに演奏技術は回復していったが、翌年の同時期に同じ現象が起きたことから、次のことが分かった。

  1. 雨に打たれるとその音をピアノの旋律に変える
  2. 回数を重ねる、肯定的な反応を受けると上達する
  3. 雨に打たれない時間が続くと技術が衰える(NEW!)

財団の理念の一つはオブジェクトの保護。つまり現状の維持である。
この傘の場合、定期的に雨に打たせなければならないのだが、さすがの財団でもお天道様のご機嫌まではどうにもならない。
というわけで、収容サイトを変更。毎年安定した降雨の見込める、別のサイトへとお引越しである。

雨天の際は毎回SCP-548-JP-Aを発生させるとなると、重要度が低いとして実施しなかった実験を行うのもありではないでしょうか。最も、重要度が低いので割ける人員は私一人ですが。 ―塚原上級研究員

塚原さん、昇進した模様。


そして、引っ越し先でも実験実験。

  • 42回目
塚原上級研究員が傘を持ち、彼の代わりに助手がリクエストをしてみた。
結果:リクエストは有効。被験者でなくともよかったらしい。
また、一人で実験していた時に比べて音色が活発であったことから、これ以後は助手が参加することになった。

  • 66回目
助手が傘を持ち、「別れの歌」と「きらきら星変奏曲」を続けてリクエストしてみた。
結果:リクエストは有効。複数曲を頼んでもよかった模様。

  • 106回目
塚原上級研究員が傘を持ち、さらに博士一名、エージェント一名、研究員一名、合計4人で実験。
演奏後にみんなで拍手喝采した後、ベートーベンの「運命」をリクエストしてみた。
結果:リクエストは有効。飛躍的に上達した腕前を以て、非常に楽しそうな音色で奏でて見せた。
一度に複数の人間に賛辞を受けると成長速度が飛躍的に向上するようです。



何とも楽しそうな実験である。
しかし、この「演奏会」も終わる時がやってきた。


それは、2000年代に入ったある冬のことである。
記録的な寒波のおかげで3か月の間全く雨が降らないという事態が発生し、その後行われた実験ではまともに音が出せないほど技術が衰えていた。
またも昇進した塚原博士は特性消失による無力化を危惧し、Dクラスを含めた200人以上の職員を集めて実験を行った。

  • 108回目
塚原博士が傘を持ち、ビゼーの「カルメン変奏曲」、リストの「ラ・カンパネラ」、モーツァルトの「トルコ行進曲」を続けてリクエスト。さらに、曲の合間に全員で盛大な拍手喝采を送ってみた。
結果:「トルコ行進曲」の時点で演奏技術は過去最高レベルを記録。音色は終始楽しそうだった。

しかし、ここで異変が起きた。
SCP-548-JPは次のリクエストに応じず、代わりに「別れの歌」を、満足げな音色で演奏。
それが終わった途端、傘はまるで何かに激突したかのようにはじけ飛んだ。
石突は粉砕され中骨は折れ、傘布の部分には大型車のタイヤ痕が浮き上がっていた。

塚原博士は急いでオブジェクトを回収・修復したが、二度と「演奏」が行われることはなく、このオブジェクトは後日になってNeutralizedクラスと認定された。



回収経緯

この傘が財団の目に留まったのは、1990年代に起きたある交通事故がきっかけである。
とある県のとある市のとある交差点にて、当時10歳の女の子が大型車に撥ねられて死亡するという事故が発生。
この時は雨だったのだが、女の子の差していた傘に当たった雨の音がピアノの音に変わり、それを聞いた野次馬が肯定的な感想を述べたことでさらに技術が向上。これを察知した警察内部のエージェントが動き、傘を回収して関係者と野次馬に記憶処理を行った。

そして、注目すべき点がある。
女の子は当時ピアノのコンクールに向かっており、「別れの歌」はその課題曲だったということである。





―――彼女の傘が奏でていたあの音色がどこから来たのか、なぜ響いたのか、なぜ異常性を失ったのか。
あえて、それを語ることはしない。
その代わりに、一問一答を一つ。


Q:発表会が終わった子が退場します。あなたは発表会の司会者です。マイクに向かって、何かお願いします。
A:






さあ、皆さん。盛大な拍手で、お見送りください。






CC BY-SA 3.0に基づく表示

SCP-548-JP - 歌う雨音
by 29mo
http://ja.scp-wiki.net/scp-548-jp

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最終更新:2024年04月16日 15:16