SCP-3001

登録日 :2017/05/09 Tue 11:26:47
更新日 : 2017/10/09 Mon 09:15:10
所要時間 :約 20 分で読めます




SCP-3001とは、シェアード・ワールドである「The SCP Foundation」において取り扱われているオブジェクトの一つである。
項目名は「レッド・リアリティ」、オブジェクトクラスはEuclidである。

内容に入る前に述べておくと、このオブジェクトはSCP-3000コンテストの優秀賞を受賞した作品であり、
真のSCP-3000に選ばれた「アナンタシェーシャ」と最後まで接戦を繰り広げ、最終的に2位となったことで3001のナンバーを得た。
当該コンテストのテーマはずばり 「ホラー」 であり、このSCPも最優秀賞に負けず劣らずの恐怖を植え付けてくる構成となっている。
というか、ぶっちゃけ かなりエグい内容 なのである程度精神力のある時以外の閲覧はオススメしない。
しかし一方で、これまた最優秀賞と同じく、SCP財団が保有するとある超科学機器の生い立ちに関する物語でもあるのだ。


まずは大雑把な概要


SCP-3001はある異常な空間のことであり、2000年1月2日に財団がサイト-120で行なっていた現実歪曲試験の最中に初めて発見された。

ロバート・スクラントン博士と妻のアナ・ラング博士はサイト-120の主任であり、共同で現実操作に関する実験にあたっていた。
彼らはラング-スクラントン安定機、略称LSSの開発を手がけていたのだ。

※ここで「スクラントン!?」とビビッときた貴方はなかなかのSCPファン(あるいは財団職員)に違いない。そう、現実改変オブジェクトへの対策として今や財団には必要不可欠となっている、あの 「スクラントン現実錨」 の原型の開発者、その人だ。

しかし予期せぬ地震により現実性研究室AのLSSが破損し、ロバート・スクラントン博士はLSSのコントロールパネルとともに異空間であるSCP-3001へと吸い込まれてしまったのである。

スクラントン博士は公式には死んだものとして扱われたが、実際には博士とLSSパネルはSCP-3001内部でも少なくとも5年11ヶ月21日は生存・機能を続けていた。



博士の音声ログ要約


この報告書の大半は、SCP-3001の内部にいるスクラントン博士がLSSパネルの録音機能を用いて記録した、音声ログの文書化によって構成されている。
果たして異空間で博士はどうなってしまったのか?


〜0年2ヶ月8日


SCP-3001に飛ばされてしまったスクラントン博士は、しばらくはパニックになって騒ぎ回っており、必死になって出口を探し求めていた。
LSSパネルが一緒に飛んできたことに気づくまで11日かかった。

最初にLSSパネルが拾った言葉がこれ。この時点では博士は録音中であることを知らない。

名前、ロバート・スクラントン、39歳、誕生日、1961年9月19日。

好きな色。青。

好きな曲、 "リヴィング・オン・ア・プレイヤー"

妻…アナ…

アナ…

その後数時間してスクラントン博士はLSSが録音をしていることを知る。
しかしこのLSSパネルは本来なら故障しているはずで、機能しているはずがない。何かがおかしい。
そして博士は、この空間には自分とLSSパネルの他に誰もいないことを把握した。

世界は完全に暗闇で、唯一見えているのはLSSパネルの録音機能を示す、点滅する赤い光だけだった。
それがこの空間の全てだった。

博士はすでに非常な空腹と脱水を経験し、苦しんでいたが、この場所では空腹によって死ぬことがないということに気づいた。
つまり、時間は十分にある。

そして、博士は自らのいる空間をSCPとして分類し、この空間を研究することを宣言した。

…OK、それでは [深く息を吸い、吐き出す。]

私の名前は…ロバート・スクラントン。サイト…120の主任研究員だった。さらに発達した対抗手段の開発のために、様々な現実歪曲型SCPの研究を行う財団施設だ。

最後に…赤いライト、私に話してくれ。

2ヶ月、8日、16時間。

赤いライトの言うには、私は、空のポケット次元と私が考えている空間にとらわれているようだ。1人で。…そう、1人で。全く1人で。

私はこの場所をSCPと呼ぶ…わからない。我々がどこにいるのか私は忘れてしまった。混乱してる。私は過去に何が起こったのか覚えていない。赤いライト、もう一度繰り返してくれ。

2ヶ月、8日、16時間。

だが…周囲にはこの点に関して議論する相手もいない。私自身をつなぎとめるために、このコントロールパネルへ話しかけている。わ…私は記録し続けなければならない。将来、私のように終わる不幸な人間が出るかもしれない。そして…もしこれが外に出ることが出来たなら、それを発生することを防ぐ助けになるかもしれない。これが今私にできる唯一のことだ。そして私には何かすることが必要なのだ、ハハハハ…

…だから、ロバート…スクラントンは…新しいSCPを、将来の研究目的で記録する。それがやるべきことだ。始めるぞ!


〜0年2ヶ月24日


まずスクラントン博士は、自分が今いる空間について分析を行なった。
しかし、それを仮の報告書のような体裁で記録するだけで1週間ほどをかけている。

  • オブジェクトクラスは多分Euclid
  • ここは地球上ではない空間で、よほど酷い現実歪曲事故でもないとまず入れない場所である
  • 出口はあるかどうか分からないが、探し続けなければならない
  • 頭や顔がヒリヒリする感覚がある
  • これまではライトのある平面状を歩くように行動していたが、やや思い違いをしていた
  • 空間は虚無で、地面はなく、自分は黒い濃いゲルの中にいるような状態になっている
  • 強く念じれば、「ゲル」の中を泳ぐようにして移動できる
  • ここは一種の現実性ギャップであるが、完全ではない(完全なら全く動けないはず)
  • ここでは時間が流れるのが極めて遅く、それゆえに空腹や脱水で死なない

といったことが初期の分析で判明した。

2ヶ月、22日、3時間。
アップデートのために戻ってきたぞ、レッド、サー!ハハハ、来いよレッド、気楽に構えてくれよ(lighten up)。ハ!駄洒落のつもりじゃなかった…レッド、ちょっとは笑えよ、面白いだろう!

この空間にはスクラントン以外の生物はいない。
博士は空想上でも話し相手が欲しかったのか、LSSパネルの赤い光に 「レッド」 と名前をつけ、まるで自分の友人であるかのように色々な言葉を投げかけた。
…むろん相手は機械なので返答はないのだが。
この「レッド」との交流は、音声ログの最後まで続くことになる。


続いてスクラントン博士は、自分がいる空間のヒューム値がものすごく低いものであることを知った。
標準のヒュームスケールにしてなんと 0.04くらい
普通の世界のヒュームスケールは1、博士が今までの実験で試した最低値が0.8。(博士は基本的にはヒュームフィールドを高める実験の方を多く行なっていた)
現在の財団が持つ最先端の機器を用いても、せいぜい0.4まで下げるのが限界だったところに、その1/10以下である。
この低いヒューム値のせいで、この空間は時間も空間も極めて小さなスケールで存在していたのだ。

対するスクラントン博士側の突入時のヒューム値は、LSSが事故を起こしたことにより、2.6〜3.2と予定よりやや高いレベルになっていた。
これを用いて博士は「kejelの現実性の法則」なる公式(第4まである模様)を使い、このヒューム差が自分に与える影響を計算した。
すると、 恐ろしい結果が導き出された。

アナ、こんな時はどうしたら良い?君の助けが必要なんだ。この…このヒリヒリした感じ…僕のヒュームフィールドが散逸している…僕の…僕の現実性が薄れていく…3年、僕は3年以内に自分自身を安定化させる必要がある。

ヒュームフィールドにおいて、ヒューム値が高い物体は、ヒューム値が低いところへと「拡散」していく。
スクラントン博士の持つ高いヒューム値がSCP-3001の低いヒューム値によって希釈されることにより、 スクラントン博士の身体そのものが現実性を失い、「拡散」してしまう ことが分かったのだ。
だが幸いにして、あまりにもヒューム値が低い空間なので時間の流れが遅く、「その時」が来るまでには3年程度の猶予があった。

スクラントン博士はこの危機的状況を何とかして打開できないか思考を巡らせた。
自分のヒュームフィールドを集め、拡散することを防ぐ手段。
しかしそれはあくまで理論上の存在にすぎず、とてもこの場で試せる状態ではなかった。
…そこでスクラントンは第2の手段を講じた。
この空間は現実性ギャップ、要は「谷」のような存在だと考え、その「壁」を探し、たどり着くことを目指したのだ。
博士は「レッド」から一時的に離れ、「壁」を求めて虚無の空間へと泳ぎ出ていった。


〜2年9ヶ月28日


結果は、完全な徒労に終わった。
スクラントン博士は特定の方向へと2ヶ月も移動し続けたが、そこに求めるような「壁」は存在しなかった。
どこまでも、虚無の空間で満たされていた。
もう2ヶ月かけて「レッド」の位置まで戻った博士は、今度は谷の「底」を目指して沈下。しかしこれも成果はなかった。

10ヶ月、28日、15時間。
底なんて無い。そしてお前もクソ野郎だ。

ごめん、レッド、行かないでくれ。消したりしてすまない。戻ってきてくれ、頼む-

…僕は40になった。誕生日おめでとう、ロバート。


スクラントン博士は、自らの過去を回想し、「レッド」に語って聞かせた。
自分は本当は中国人であるが、箱に入れられて親に捨てられ、アメリカ人の夫婦に拾われて養子として育ったこと。
子供の頃はコミックストアでバイトをしていたこと。スパイダーマンが好きだったこと。
アナとは1988年にサイトで出会ったこと。彼女の緑の目は、自分の灰色の目よりずっと美しかったこと。
1991年に結婚し、1週間のハネムーンを満喫したこと。

博士はレッドにとにかく聞き手になっていて欲しかったのだ。
なぜなら、頭が痛く、「足が永遠に眠ってしまうような感覚」を感じ始めていたから。

レッド、君はいい聞き手だ。でも君自身について話してるのを聞いたことはないな。言ってみろよ、恥ずかしがるなよ。ここには他に誰もいない。そうだろう?ハハハ…ハハハハハ…

"申し訳ありません、ロバート。それは出来かねます" ハハハ、レッド、君は面白いな。
あくまで機械の範疇を出ない応答なら可能だったらしい。

しかし、そのような話をしていく中で、博士は「レッド」ことLSSパネルから自分とアナの写真が失われていたことに気づき、大いに錯乱したような言動を発した。
LSSパネルも博士と同じく、ヒュームフィールドの拡散を起こしているのだろうか。

…話が全て終わった頃には、LSSパネルの計時は1年2ヶ月27日を読み上げていた。
その後は、コントロールパネルが時間を告げる自動音声のみが、1〜3日おき、時として数カ月のギャップを挟んで記録されている。ときどきスクラントン博士のすすり泣き、叫び、不明瞭な発話も聞こえる。
このような録音は2年7ヶ月28日に達するまで続き、その後は全く音を拾うことなく2ヶ月が過ぎた。


〜5年9ヶ月3日


ついに、博士にとってのデッドラインである3年が過ぎ去ってしまった。

ロバート…寒い。私は…私はもはや足を感じられない。私は…私は以前話した…地点に到達したのだと…思う。低ヒュームフィールド…拡散…平衡…馬鹿な…ゴミの…山…
私にはもはやここにおける現実とは何かわからない。私が現実なのかはっきりしない。あるいは…それに近い…もし…もし私が本当にこうして消えるなら…わ…私はまだ死にたくない。死にたくない。おお神よ、私は死にたくない…

録音されるスクラントン博士の声は、明らかに歪み始めていた。
博士と「レッド」は、ついに現実性の崩壊を起こし始めてしまったのである。

僕はタップダンスが本当に苦手なんだ。もう足が感じられない。オーケー、じゃあ君がやってみてくれ、レッド。

Kejelの法則ではヒュームフィールドは拡散し続けると規定される。Kejelの法則によるとこのまま続けば私の睾丸もそのうち脱落する。

ハハハ、外に出たら科学の話をたくさんしないとならないぞ。この場所は法則がメチャクチャで、今まさに僕の手も崩れていってるんだ。

僕…僕の手。手がお互いにすり抜け…レッド、レッド、レッド!レッド、助けて、助けてくれ、僕の手、僕の手を感じないんだ。お互いにすり抜けてまるで…まるで氷水みたいに、レッド、僕は、ああ神様、神様…

ハア…ハァ…ハア…レッド、知って、知ってるだろう、伯父さんがよくやるいたずら…親指が取れたように見せかけるやつで、実は挟んで隠してるやつ。
それをやってみたんだ。親指で。痛みも感じない、ただ外れただけ。思うんだけど…ああ神よ、私は病気なのでしょうか。わたーわたー[嘔吐する音]指は浮かんでいるけど・・・拾えない、手がすり抜ける。ああ、ああ神様、私、私はー

眠っていると…手が頭に入ってくる。仰向けに寝ている。

上記は抜粋だが、これだけでも何が起こっているのか知るには十分すぎる。
克明に綴られた、博士の身体の変異。

ヒューム値が高い物体がヒューム値の低い空間へと溶け出し、平衡を保つ働き。自然法則に則った異常性のない移動。
さながら、角砂糖を水に溶かすようなものである。
その角砂糖が博士の身体の部位だということを除けば。

博士の身体は先端から引き延ばされたように変形し、互いにすり抜けてしまうようになった。
そして、やがて身体から「外れて」いきつつあったのだ。
手の小指、親指、左手は蜘蛛の巣のように延び(結婚指輪は右手に移せた)、片方の腎臓、そして片方の足…。

博士はそれでも諦めずに、がむしゃらに移動を繰り返していた。
斜め上に6ヶ月、次に斜め下…いや真下に8ヶ月。
1日に10〜15km、2ヶ月間繰り返して600kmの距離を潜行。帰るにはもっとかかった。
それでも空間の端は見つからないし、時間は更に過ぎていく。

ルーシー、もし子供が生まれたらそう名付けようと思ってた。ルーシー・スクラントン、ルーシー・ラング、アナと僕は語呂がいいと思ったんだ。いや、レッド…男だったらなんて名前にしようとしてたか、思い出せないんだ…

レッド、デイビッドってどう思う?デイビッド。覚えてるだろう?男の子だったらなんて名前…そう、それ。ごめん、起こしてし…

ルーシー、デイビッド、ずるいぞ。来いよ、ヘイ、走り回らないで、こういうことを言う時は冗談だよ。冗談だよ、来いよ、困ったな。冗談だよ

もはや、スクラントン博士は自分の子供を夢想することを含めないと生きていられなくなってきていた。
もう絶対に得ることはできないだろう、自分の子供を。


博士が空間に囚われてからいつしか4年が過ぎ、5年が過ぎた。
先述したようにここの時間の流れは極めて遅い。博士の現実性崩壊が始まってからも、その進行は遅かった。

5年、15日。
5年、15日。
5年、15日。
5年、15日。
5年、15日。
5年、15日。
5年、15日。
やめろ、それは痛いんだ。
ここまで博士は自らの身体が失われていっているにもかかわらず、「痛い」という感想は挙げていなかった。
博士が「レッド」に触れることが痛みを誘発している?

調子はどうだい、レッド?まとまってるか?素直になれよ、助けが必要なんだ…僕には助けが…
…まとまってるか?って、絶対皮肉だよなあ。パネルの方が人体よりは丈夫なようだけど…。

レッド、来いよ、それをやめろ、行くな。キツいのはわかってるよ。暗いのも。だけど-だけど-ここは暗くて、僕らはまだ一緒にいる。来いよレッド、ダメ、ダメだ、それはダメだ、レッド!こっちへ来い。一緒にいてくれ、レッド!僕はまだ触れるぞ!触れるんだ僕を見てまだ死なないでレッドダメだレッド!

この録音を最後に、続く9ヶ月は無音であった。おそらく、博士が「レッド」から引き離されてしまったのだろう。


〜5年11ヶ月21日


5年、9ヶ月、3日。
5年、9ヶ月、3日。
5年、9ヶ月、3日。
5年、9ヶ月、3日。
5年、9ヶ月、3日。
5年、9ヶ月、3日。
5年、9ヶ月、3日。
5年、9ヶ月、3日。
[自動メッセージが97回繰り返す。]
やあ、おチビちゃん、僕を置いて行ってしまったのかと思った…[スクラントン博士の声は激しく歪んで、小さい音声のため、判別できる限界に近い。]

何かの理由で「レッド」と離れ離れになっていたスクラントン博士が、9ヶ月たって再び「レッド」のもとにたどり着いていた。

僕は死んだ。僕は死んだ、何回も。窒息しようとした、首を締めようとした。自分を噛みちぎろうとした、そして…そしてこの場所、現実ではない。僕は自分が地面にいるのを見て、そして-、そして-どこへも行けなかった。僕は逃げられない、逃げ道はない。ただ仰向けに寝ている。そして見る度に、自分が消えていっている。おお、神よ、これだけ自分がなくなっても、私は生きているのですか?

すでに彼は自分の身体がどれだけ残っているのかわからなくなっていた。
少なくとも片足(移動は辛うじて可能)、心臓と肺。それくらいだった。
なんでこんな状態でまだ生きてるんだこの人。 それこそが極限ヒューム空間の恐ろしさなわけだが…。

スクラントン博士はこの絶望的な状況に耐えられなくなっており、累計で245回も自殺を試みた。
そしてそのいずれも失敗した。
この空間では死ぬことは許されない。生きたまま身体が分解されるのを、ただ感じ続けるしかないのだ。


ところが。
ここに来て、永遠とも思える生き地獄の空間に、明らかに異変が生じた。

この場所は狭くなってきてる。レッド、どうやったんだ?僕は…この場所には今は確実に終りがある。神のみぞ知る…ベールみたいなものが遠くへ伸びていて、それに触れると凄く痛む。レッド、何が起きているんだ?

5年、10ヶ月、10日。
レッド、きみは硬い。まるで…違う、きみはとても硬い。君は…君は現実だ。そして…そして僕も君に触れていると現実になる。だけど…だけどそうするととても痛いんだ。君に触れていると自分がバラバラになりそうで…

そう、無限に続いていたはずのSCP-3001空間が、急速に縮小し始めたのである。
いつしかその直径は3km、そして2kmまで圧縮されていた。
そして新たに形成された「壁」は光を発していた。これまで暗闇に満たされていた空間に生まれた光である。
しかし、壁へと伸びるベールのような光に触れると、痛い。さらに、「レッド」に触れても、また痛い。

…スクラントン博士が感じている痛みは、「自分より強い現実」に触れることで発生している痛みである。
通常の空間ならとうてい耐えられないようなレベルで崩壊している博士の身体がこれまで痛みを感じていなかった理由は、周囲のヒューム値の低さにあった。その崩壊には「現実味」がないのだ。
だが、よりヒューム値が高いものに触れると、それを通して博士の身体も「現実味」を帯びる。
現実味があり、その上で崩壊している体を抱えているから、痛いのである。

そしてスクラントン博士は、自分に迫っている壁から「波」が発生しており、実際には「窓」が開いていることを発見した。
…そうだ!この窓こそ、元の世界と繋がる通路なのだ!
スクラントン博士はここに至り、ついにこの空間、SCP-3001が何たるかを看破したのだ。

5年、10ヶ月、24日。

アナ、アナ、聞こえるかい?この波…この場所…オーケー、想像してみてくれ、2つの現実は重ねられた2枚の紙みたいなものだ。この場所は間で潰されたような空間だ。並行に、2つの現実性しか存在できないはずだが、この場所は小さい、でも無限の第3の…第3の…間の領域なんだ。まるでポイントAからポイントBへの橋を横切る穴に落ちた時のように。クラス-Cワームホールを思い出してくれ。その理論はたくさんの穴があるワームホールについてのものだ。ここは…ここはそういうワームホールが導く場所の一つだ。それは別の世界へと導くのではなく、無へと導くのだ。行き止まりだ。この場所は行き止まりだ。クラス-C"ブロークン・エントリー"。

この波は、いずれにせよ、この場所と相互作用している並行現実から来ているんだ。つまりこの場所が極めて微小な隙間に存在していることを示している。そして…私とレッドを押している…なぜなら我々にはある程度の現実性が残っているからだ。そこへ向かって押して…あるいは吸い出している。次第に新しいワームホール…ホームへと向かう…ワームホールを作りながら。


窓が閉じて、私が帰った時何が起こるんだ?

SCP-3001とは、2つの平行次元をワームホールで繋いだ時にその重なった部分に発生する、次元の隙間なのだ。
2枚の紙の間にある隙間。2つの空間を繋ぐ橋の下にある穴。それがSCP-3001だ。
そしてスクラントン博士は、多数の出口を持つタイプのクラス-Cワームホール「ブロークン・エントリー」を実験で生成してしまい、それに飲まれることでここに放り込まれたのだ。
一方で、壁から発せられている波は、本来繋がるはずだった2つの平行次元からやって来ている。
そのうちの片方は、ここに来る前の次元ーーーすなわち、スクラントン博士が本来いたはずの財団世界だ。


…だがしかし、手放しで窓に飛び込めるほど、状況は甘くはなかった。
現在のボロボロの博士が、かつての正常な現実性のある空間に飛び出したらどうなるか?
当たり前だが、即死以外の運命はちょっと考えられない。
ただでさえ、現実性が少しでも高いものに触れただけでも、それまで流れなかった血を流し、胃も残ってないのに激しい吐血をするようになってしまっていたというのに。


ああ、ごめん、責めてごめん、レッド、違うんだ、来てくれ。そんなつもりじゃなかった。見てくれ、君は僕の友達だ。わかった?君は、僕の最高の友達だ。でも…これに向き合おう、君のほうがここを出られる可能性は高いんだ-…僕をひとりにしてくれ、頼むよ、レッド?少しだけ…オーケー?僕は本当に…

[鳴き声と呻き]あと5年、あと5年、これが続いたら、あと5年自分を再安定化できたら、僕はどうすると思うレッド?!

…スクラントン博士は、ここに来て 苦渋の、そして本当に勇気のある決断を下した。
「レッド」ことLSSパネルだけを自らの故郷の世界へと送り返し、自分はこの空間に居残って、自らの再安定化の方法をたった一人で考え直すことにしたのである。

そして、いよいよ「レッド」との別れの時が来た。
レッドを失ってしまえば、スクラントン博士は本当に孤独になる。もしかしたら永遠にそうなるかもしれない。
この時点でLSSパネルにはバチャバチャという大きなノイズが記録されていた。おそらく博士の身体から出た液状物質がパネルに当たって立てている音なのだろう。 …想像したくない。

スクラントンがLSSパネルに残した最後の願い。そこには、自分に足りないものをレッドと、最愛の妻・アナに求める彼の姿があった。

レッドに、足を、肝臓を、腕を、そして手を。
アナに、片方の目を、キスするための唇を、食べるための舌を、そしてーーー 脳の半分を。

逆に言うと、今の博士には 最早これらのいずれも存在していない ということでもある。
いったいどんな姿になってるのか想像もつかない…というか、 たぶん想像しちゃいけないと思う、うん。

[囁き。]オーケー、大丈夫だ…もう1つの出口を見つけた…まだ僕の体は十分残ってる…[音声の乱れとともに、震える笑い声。]あともう5年…何かを…思いつくまで…5年 [笑い声は泣き声に変わり、続く1時間で次第に静かになる。]

ようやく博士は落ち着き、今度こそ「レッド」と永遠の別れを迎えたのだった。

愛してるよレッド、愛してるよアナ。

5年、11ヶ月、20日。

[静かに泣く。]ア…ナ…[スクラントン博士の話し方はほぼ通常通りである。] [大きな金属音が聞こえ、続いてコントロールパネルを何かが叩くような音がもう一度聞こえる]

5年、11ヶ月、21日。

これが、ロバート・スクラントン博士が遺した最後の言葉であった。
最初から最後まで、彼は最愛の妻を心の支えとして、艱難辛苦を堪え続けたのである。


帰還


「レッド」ことLSSコントロールパネルは、スクラントン博士の期待通りにワームホールを通り抜けた。
そして2005年12月23日に、かつて実験が行われたサイト-120の現実性研究室Aに自発的に出現し、回収されたのである。
まだ録音機能は生きていたので、この時の財団世界側のやり取りもログとして残されている。

この時、サイト-120の現実性研究室Aでは、スクラントン博士の妻だったアナ・ラング博士が、夫の遺志を継ぎ、部下のマシュー・スキナー博士とともにヒュームフィールドに関する実験を行っていた。
そんな中に突然現れた物体。
その表面は、 血と吐瀉物と死の臭い、そしてそれらよりおぞましい「何か」によって覆われていた。

ラング博士は即座にスキナー博士にヒュームフィールドを維持するよう指示し、自らが実験室内に入った。
そして現れた物体を一目見るなり、半狂乱になって叫んだ。

(ラング博士):ああ、神様、これは何-一体何?これは…これは…これはその…ああ神様。ロバート?ロバート?!、あなたなの?ああ神様、あなたじゃないと言って。あなたじゃない、ロバート?!私は、私は-どうやってこんなことに-?[濡れた靴音が再度聞こえる。]

[電子的なビープ音。]

(スキナー博士):マム。マム?何をしてるんです、触れてはいけませ-

(LSSパネル):こちらはラング・スクラントン安定機のインターフェースです。おかえりなさいませラング博士、ご用命は-

(ラング博士):音声ログにアクセスして。2000年1月2日から再生![潰れたような雑音が聞こえる。]ああ神様、神様、どうしてこんなことが起きたんです?誰かがこの上で破裂したみたい。これはまるで-[絶句。]これは…ああ神様これは…神様、神様、お願い、嘘、こんな- [喘ぎ、泣く。]灰色の 彼の灰色、ああ、神様、もう1つは、どこ…?

もうお分かりだろう。
LSSパネルを覆っていたのは、あの空間で「現実性の拡散」によって引き裂かれ、バラバラになった人体の一部だったのだ。
そしてそこには、灰色の目が1個と、結婚指輪のはまった右手。

そしてLSSパネルは、スクラントン博士の最初の録音、2000年1月13日のオーディオファイルを再生した。

名前、ロバート・スクラントン、39歳、誕生日、1961年9月19日。

好きな色。青。

好きな曲、 "リヴィング・オン・ア・プレイヤー"

妻…アナ…

アナ…

…ラング博士の最愛の夫、ロバート・スクラントン博士は、 変わり果てた姿で彼女の前に再び現れたのであった。
しかも全身じゃなくて半分しか戻ってきてないし…。

考えうる限り最悪の結末が現実のものとなったという事実を否応なしに理解させられたラング博士は、夥しい血がこぼれた床の上に卒倒してしまった。
慌ててスキナー博士が医療チームの出動要請を出すシーンで、報告書のログは締めくくられている。


夫が行方不明になってからおよそ6年。
公的には死亡扱いにされつつも、ラング博士はきっと彼の生存・無事を祈り続け、いつか再び生きて会える日を夢見続けていたであろうことは想像に難くない。
そこにこの結末である。
…エグすぎる。というかあまりにも救いが無さすぎる。

これを「ホラー」と呼ばずして、何と呼べばよいのか?



現実を指し示すのは、赤い光か、それとも赤い血か?

SCP-3001 - Red Reality(レッド・リアリティ)






かくして、スクラントン博士は壮絶すぎる最期を遂げた。
だが、彼が身を挺して遺した記録により、SCP-3001の存在は財団の知るところとなった。
これにより、詳細な報告書を作成することができたのである。


改めて、概要


SCP-3001は、瞬間的なクラス-C"ブロークン・エントリー"ワームホールの生成を通じてアクセス可能な逆説的な並行/ポケット"非次元"である。

SCP-3001は他の並行宇宙と同様に無限に拡大すると考えられているが、
ヒュームと時空の関係についてのKejelの現実性の法則に反して、SCP-3001はほぼ真空であり、0.032という極端に低いヒューム値を有している。

このあまりにも低いヒュームフィールドの存在により、内部の物体の劣化は極めて遅くなる。
通常ならとても生きられないようなダメージを受けていても、生体や電子機器の機能は奪われず、通常通り動作する。
シミュレーションによると、生物は 肉体から70%以上の組織が失われても、脳の40%が残存している限りは活動が可能 だという。
しかし、長い期間をこの空間で過ごした場合、中の物体がどうなるのかは、スクラントン博士が図らずも実証してくれた通りである。
物体はSCP-3001自体のヒュームレベルに近づき、物体自身のヒュームフィールドが崩壊するに従って重篤な組織や構造の損傷を引き起こしてしまうのだ。
すなわち、ヒューム値が高いものが低いものへと溶け出す、「拡散」現象である。

スクラントン博士は2000年1月2日、LSSの事故によってSCP-3001に飛ばされたが、LSSコントロールパネルの音声記録機能を使って内部の様子を克明に記した。
後の2005年12月23日に、より発達した現実歪曲技術の試験の予期しない副作用により、パネルが突然出現したことでこの記録も回収され、SCP-3001の研究の基礎となったのだ。

しかしながら、新たな技術が開発されているにもかかわらず、スクラントン博士の回収と再統合(そんなことできるの!?)は未だに成功していない。
というか、現在の博士の肉体や精神の状態がどんなことになっているのかは、(博士がまだ生存していればだが)全く不明である。
……と、財団倫理委員会は考えている。要するに お察しください。


特別収容プロトコルも策定はされているが、いかんせん相手は異空間。普通に収容できる代物ではない。
なので財団は封じ込めに重点を置き、さらなるSCP-3001への進入事故を起こすことのないよう、財団の現実歪曲技術をアップグレードし、SCP-3001に繋がる可能性のあるクラス-C"ブロークン・エントリー"ワームホールの発生を防ぐことを定めている。
SCP-3001自体の情報は学ぶべきであれば全レベルの職員が参照できるが、SCP-3001およびその関連技術の研究と実験は、サイト120、121、124、133から特別なクリアランス指定を受けたレベル3以上の職員に厳格に限定されている。


さて、生前のスクラントン博士がラング博士と共同で開発していたLSS。
実はこれは、ある機器のプロトタイプである、と報告書の脚注に記されている。

LSSはプロトタイプであり、その設計は現在の"現実錨"プロジェクトの基礎となりました。

…もうお分かりだろう。
LSSの設計が、 あの「スクラントン現実錨」の基礎となっていたのである。

世界にはびこる様々なオブジェクトの収容においてチョイチョイ姿を見せる、不思議な財団の小道具。
しかし、実はその誕生の背景には、壮絶な過去が隠されていたのであった。


もし貴方がヒュームと現実世界、およびスクラントン現実錨についてもっと知りたいと考えるなら、報告書の脚注に従って、文書JEK-WT01とJEK-EB02を読むと良いだろう。
この2枚の文書はヒュームに関する様々な疑問と回答で構成されており、我々も実際に読める。
FAQ;〜ヒュームって一体全体なんだ? 」「 同Part2 」として日本語訳もされているので、せっかくなので目を通しておくことをお勧めする。



+蛇足
……さて、この報告書には、一点気になる問題がある。
何が問題なのかというと、他でもない脚注である。

LSSはプロトタイプであり、その設計は現在の"現実錨"プロジェクトの基礎となりました。

ここで思い返してみよう。 この報告書が書かれたのはいつだったか?
LSSパネルの回収が行われたのは2005年末。そしてそもそものLSSを用いた実験が行われたのは、2000年初頭である。
であれば、SCP-3001の報告書の執筆は必然的にこれより後になる。


これを踏まえて、同じく脚注で紹介されている「 FAQ;〜ヒュームって一体全体なんだ? 」を読んでみる。

最後に、SCP-2000の例を取り上げますか。このSCPを収容するために、スクラントン現実錨は建造され、配備されました。しかしながら、カント計数機が実働する以前は、現実錨がどう作動しているのか、何故動くのか不明でした。

ご存知の方も多いかもしれないが、SCP-2000とは財団の最終兵器たるThaumielオブジェクトの中でも筆頭に位置づけられる、「機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)」のことである。
スクラントン博士が作ったはずなのに作動している原理が不明、というのはおかしなことだ。
これはどういうことだ、とSCP-2000の報告書を見てみると……

スクラントン現実錨(SRA)の開発はSCP-2000の初起動に先行するようで、 ロバート・スクラントン博士によって1889年に成されました。

1889年。
LSSが開発され、実験が行われるよりずっと昔。というか当のスクラントン博士の誕生よりも前のことなのだ。

この2つの記述は、どこからどう見ても矛盾している。
そして、そのどちらにもロバート・スクラントン博士が関わっている。

あくまでSCP-2000もヘッドカノンではない以上、SCP-2000とSCP-3001は別の世界線での記事であるのか。
それとも、SCP-2000による"再起動"が行われた影響で、記録が混乱しているのか。
あるいは。
SCP-3001に残されたスクラントン博士が何らかの形で過去へと移動し、そこで蘇生あるいは復活を遂げてスクラントン現実錨を作成した のか。

真実は闇の中である。

ちなみに、SCP-1422Di Molte Vociにもスクラントンを名乗る人物が登場する。
だがこちらは次席研究員であり博士では無いので、おそらくロバート・スクラントン博士とは別人。
これらのオブジェクトの発見は2007年以降で、SCP-3001の一件より後の話である。また微妙に専門分野も異なっている模様。
孤児だったロバートを拾ったアメリカ人夫妻の親族だったりするのだろうか?




追記・編集はロバート・スクラントン博士の遺志を継ぐ気概のある方にお願いします。


SCP-3001 - Red Reality
by OZ Ouroboros
http://www.scp-wiki.net/scp-3001
http://ja.scp-wiki.net/scp-3001 (和訳)
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