豊田商事会長刺殺事件

登録日:2017/03/01 Wed 21:58:00
更新日:2024/02/02 Fri 20:08:07
所要時間:約 8 分で読めます




注意!この項目はショッキング・凄惨な表現を含んでいます。

耐性のない方は閲覧をやめてください。

それでも閲覧するのであれば自己責任でお願いします。





このサイトを御覧になっているアニヲタ諸兄は、1980年代に大阪市北区で発生した『豊田商事事件』という大規模詐欺事件をご存知だろうか。

豊田商事。日本を代表する某自動車会社と似たような名前を持つこの会社は永野一男という人物によって創業された。
数多くの系列会社を抱える大企業であったが、その大半が詐欺行為をするためだけに存在していたという悪徳企業でもあった。

創業者であり、会長でもある永野は「葬式代までふんだくれ」をモットーに、老後の資金を蓄えている老人(特に独居老人)を主なターゲットに、
純金の現物まがい商法*1を、時には情に訴えかけるなどもして持ちかけ、
これによって財産を根こそぎ奪われて自殺まで追い込まれた被害者も少なくなかった。
他の関連企業も、クズダイヤやゴルフクラブ会員権を商材とし、会員権商法やマルチ商法で被害者から金をだまし取っており、
その手口たるや、現在の日本における悪徳商法のテンプレを確立させたといってもいいくらいの悪辣さであった。

さらに豊田商事は、自分たちが悪徳企業だということがバレないようにするためかイメージ戦略にも気を配り、なんと普通にテレビCMまで放送されていた*2
そのCMに使われていたキャッチコピーの1つは、「この星は、もっと輝くはずだ」。後述の結末を考えたら皮肉である。
まさか、テレビでCMが流れているような大企業の正体が詐欺集団だとは誰も思うまい。
前述した某自動車会社と似た社名も、日本を代表する企業のグループ会社と誤認させるため意図的に付けたもの*3
実際、豊田商事が悪徳企業だと知らずに関係を持ってしまった著名人なども少なくなかったという。


これらの詐欺事件は高齢者を中心に数万人が被害に遭ったとされ、被害総額はおよそ2000億円にもなる日本史上最悪の詐欺事件として知られている。

しかし、1985年にはこれらの悪事がメディアによって白日の下に晒されて社会問題として扱われ出し、国民生活センターには豊田商事関連の110番が設置され、
同年4月には関連会社の外務員が逮捕され、警察による捜査が本格化。
会長の永野一男の逮捕まで秒読みとなった矢先に、メディアも民衆も予想だにしていなかった大きな事件が新たに発生することとなった。

それが、これから記す豊田商事会長刺殺事件である。


事件の概要


時は1985年6月18日。
豊田商事の会長である永野一男の逮捕が決まり、報道陣やマスコミが彼の住むアパートへ大挙して押し寄せている中、二人の男が報道陣の集団に割り込むかのように現れた。
この二人の男こそ、後に凄惨な刺殺事件の犯人となる人物である。以降、彼らをIとYと仮称する。

報道陣は、近いうちに始まるであろう永野が逮捕される瞬間を捉えるべく生中継の準備を進めていたところであり、
そこに突然現れたこの二人の男にも、自然とカメラとマイクが向けられることとなった。

報道陣が二人に「火事場泥棒なのか」と聞くと、Iは「俺は盗人やらへんさかい。安心せいや」と答え、
二人は「永野に会わせろ」と、張り込んでいたガードマンに何度も要求した。

ガードマンが階段から下に降りるとIが「金はもうええ。永野をぶっ殺してくれと頼まれたんや」と発言。
過激な発言に周囲はどよめいたが、この時点では後に惨劇が起きることなど、犯人である二人以外には誰も想像すらできなかったと思われる。


Iはガードマンが何か箱を持ってることに気付き、それが救急箱だと分かると「なんやこれ?救急箱け?」と言った後すぐに、
「そーゆー問題ちゃうぞこの問題は!おい!えぇ?87のおっさん捕まえてお前850万も取り上げてな?」と声を荒げ、
もう一人のYへ「おい!そろそろぶっ壊そか?ほな!そろそろやろか!」と持ち掛けた。
Yは「壊れんかな?」と心配する*4が、Iは「え?ぶっ壊そか?やるか?」と言って、
報道陣の目の前でパイプ椅子らしきものでドアを何度も叩き始めた。

だがドアは壊れるはずもなく、Iは「こんボケが!バカ野郎が!」と声を荒げて「バール持ってこい!」と叫ぶが、
そこでYが「なんかないんか?窓かのぉ?」と応え、これによってIも窓の存在に気付いた。
窓は鉄格子のようなものでガードされており、簡単には破壊できない構造であったが、Iが「そんなもん取ってまえ!」と叫ぶとYは蹴りながら力づくで格子をもぎ取り始める。
ここで報道陣も男達がなにをしようとしているのか概ね察して慌てだし、「ちょちょちょちょっと待って待って!危ない危ない!」「押すな!押すな!」と叫び出し始めた。
そんな報道陣を尻目に、窓枠を外したYはIから銃剣を奪うように持つと窓を叩き割り、部屋へ押し入ろうとした。

ここにきて流石にまずいと思ったのか、周囲の報道陣は「おい府警呼ばんか!」「お前らやめとけ!」と止めようとしたものの二人は聞かず、そのまま永野宅へ押し入った。

この時点では内部は映されなかったものの、中からは犯人二人の「お前かコラァ!」「お前は死刑や!」等の怒号や、
「うわあああああああ!助けてくれぇ!」「ギャー!」といった永野の悲鳴が響き渡り、
もみ合いになったのか家中のものが飛び散るような凄まじい物音が聞こえた後、Iは「死ね!」と叫び永野を一突きし、
急所を刺されたらしき永野は「ギャッ」と断末魔の叫びを上げると遂に沈黙した。

修羅場を思わせるやり取りに報道陣は「大丈夫けー?」と永野の身を案じ、彼らの中の誰かが「4時36分か7分か」と言った数分後、
返り血を浴びたのか血まみれのIとYが中から現れ、騒然とする報道陣に向けて、
Yは「コイツや!コイツを撮ったれ!」と銃剣を振りかざしながら怒鳴りつけ、
Iは「おーい警察呼べや!はよ!俺が犯人や!」と自ら名乗りを上げた。
凄まじい様相のIとYを見て報道陣は二人が永野を刺したと確信し、ただ事ではないと「こっち向いてくれや!やっぱり殺しに行ってたんや!」と叫んだ。
そこへYが「どけアホ!とっとと救急車呼んだれや!こんドアホ!」と報道陣へ向けて怒鳴りつけ、
それを受けて報道陣も「警察呼んで!警察呼んでや!」「はよ救急車呼んでくれ!」と必死に叫んだ。

その後駆け付けた警官隊にドアを開けられ、報道陣も中へ入ると、辺り一面に物が散乱している永野宅と、
血の海が広がるという惨状と化した部屋と頭部や腹部を滅多刺しにされ血まみれになって倒れている永野がいた。

そしてIとYは、本人の望みどおり現行犯で逮捕された*5


…お分かりいただけただろうか。
つまり、「目の前で今まさに殺人事件が発生している」という、そんな状況がテレビカメラにノーカット&リアルタイムで思いっきり映ってしまったということである。

事件は民放テレビとNHKで報道され、警官隊によってドアを開けられた際に血の海となった永野の部屋と血まみれとなり担架で運ばれる永野がモザイク無しで生中継された為、NHKのアナウンサーは「子供には見せないでください!」と慌てて呼びかけた。

刺される瞬間こそ映像には残っていないが、当時発売された雑誌には、
滅多刺しにされて血まみれとなり、頭部に穴が開いた永野を、首を絞めながら引き摺りだすIと銃剣を振り上げるYの写真が掲載された事がある。
画像検索すると出るが無修正+血まみれの永野の顔がドアップなので面白半分で検索しないように。それでも見たいというのなら自己責任でお願いします。


その後


永野は直ちに病院へ搬送されたが、腹部を刺されたのが致命傷となり、出血多量で死亡した。

既に豊田商事の捜査に入っていた警察によって改めて詐欺事件などの捜査が行われたが、
肝心の永野が殺害されてしまったことで金の流れがどうなっていたのか知る事が出来なくなってしまい、捜査は難航を極めた。

二人に殺された時点で、永野の手元には711円しか現金が残っていなかったという逸話はよく知られている。
悪徳商法で被害者から金を巻き上げ、暴利をむさぼった会長にしてはあまりにも寂しい金額である。

実は詐欺稼業も楽ではないようで、豊田商事はいつしか、
「より多くの金額を詐取するために際限なく事業規模を拡大→そのぶん、稼いだ金の大半を組織の維持・運営費などに費やさなければならなくなる」
という悪循環に陥り、当初は派手な生活を送っていた永野も、いつしか私腹を肥やすような余裕は殆ど無くなってしまっていたらしい。
結局、一連の詐欺事件によって集まった資金の大半は、流用された為に残っていないことが後に判明した。

また、これらの状況から、豊田商事には更なる黒幕がいると考えた者も少なくなかった。
永野の懐が寂しかったのは、上納金を納める相手=黒幕がいたから。IとYは黒幕によって差し向けられた刺客で、詐欺事件が明るみに出たことで芋づる式に検挙されるのを恐れた黒幕が、口封じのために永野の暗殺を敢行、情報が漏れるのを瀬戸際で阻止したというのだ。

さらに、永野は来歴もはっきりせず、恨みを買っている自覚があったためか、メディアへの露出が極度に少なかったため、彼の人相を知る人間はほとんど存在していなかった。
このため、殺されたのは永野の影武者で、本物は金を持ち逃げしてのうのうと生き延びているのでは、という説まで囁かれた。

当初、被害者の依頼を受けて殺したと供述していた犯人たちが、裁判で「報道陣に唆されてやった」等と発言を翻すなど、動機が不明瞭な点も不審さに拍車をかけている。
これらの説は憶測や陰謀論の域を出ないが、今なお根強く語り継がれている。

1986年3月12日に大阪地裁でIに対し10年、Yには懲役8年の実刑判決を言い渡されたが二人は控訴し、1989年、1990年に刑が確定した。

なお、同時期に投資会社による580億円を奪った詐欺事件(投資ジャーナル事件)が発生していたのだが、首謀者とされる会長は刺殺事件の翌日に逮捕されている。
これは豊田商事の一件を受けた警察が、模倣犯の出現を防ぐために緊急で行った逮捕という見方が強い。


被害者の救済


豊田商事の件では中坊公平弁護士*6が破産する豊田商事の借金(被害者が豊田商事に対して有している賠償請求権も含む)を整理する役目をまかされた。
豊田商事に目ぼしい資産はほとんど見当たらないため、被害者にお金はほとんど返ってこないと思われていた。
しかし、中坊弁護士が豊田商事の金銭の流れを洗い、関係者の責任を追及することにより、被害者には10%程度の被害金が戻ってきたのである。
たった10%?と思われるかもしれないが、ゼロや1%以下になるのが普通であり10%でも驚異的なのである。

永野が生きていて金の流れや関係者の関与が明らかになっていれば、中坊弁護士ならばもっと回収できた可能性が高い。

ただし、中坊弁護士の借金の回収方法はあまりに強引すぎる面もあった。
別の事件*7での回収方法が個人の生存権を脅かしかねないほどのものだったことが問題となり、その際に弁護士の登録取消届を提出(最終的には弁護士を廃業)している。


事件が残したもの


豊田商事事件の主犯である永野をYとIが殺害してしまった為に捜査に支障をきたす事となってしまった一方で
殺された永野自身も高齢者を騙し、弱みに付け込んでは金を巻き上げていた詐欺師だったのもまた事実であり、
義憤に駆られたと言っても殺人は殺人という意見がある一方確かに殺すのはまずいが因果応報ではないか?という声や
事件の実行犯であるYとIは高齢者という弱き者の為に立ち上がったヒーローだと称賛・評価する声も少なからずある。

また、目の前でこれだけの大事件が起こっているにも関わらず、マスコミはカメラを回すだけで、この二人に立ち向かったり止めようとした者は誰ひとりいなかったという点についても、当時は相当な非難の声が寄せられた。
まぁ、「武器を持った男二人に物申せる度胸がある奴がどれだけいるか?」という話だし、あまりに予想外の展開すぎて、そんな発想など頭から抜け落ちて思いつきもしなかった者も多かったのかもしれない。
さすがにこれは、実際に目撃した当事者でもなければ、その心境を理解することは難しいだろう。

偶然か否か、この事件から10年後の1995年には、検挙前だったオウム真理教の幹部村井秀夫が多数のTVカメラの前で刺され殺害される事件が発生。
こちらも血の海となった現場と大量の血を流しながらだんだんと弱っていき、遂に倒れる村井が生中継されるという凄惨なものとなっている。


余談


漫画「こちら葛飾区亀有公園前派出所」53巻収録「銘菓ゴキブリくんの巻」では、サクラを使ったインチキ行為によって商品を売った両津が、「銃剣頭に刺した会長の商法に比べればかわいいもんだ!」と永野を引き合いに出して自分を正当化していた。
さすがに過激すぎたためか、現在の版ではセリフが修正されている。

1986年公開の映画『コミック雑誌なんかいらない!』(主演:内田裕也)は、終盤でこの事件(人物・企業名は変名)を再現している。刺殺犯の1人はビートたけしが演じた。
なお本作の主人公は芸能レポーターなのだが、刺殺事件に遭遇した際、現実には誰もやらなかった「ある行動」に出ている。(賛否両論あるだろうが)それは主人公が望んだ、マスコミの理想像だったのかもしれない。

当時発売された雑誌によれば血は床だけでなく、天井まで噴き出した跡があったという。
恐ろしい話である…


追記・修正はこの事件について思う所がある人にお願いします。

この項目が面白かったなら……\ポチッと/

誹謗中傷・罵倒・レッテル張り等の行為を行った場合はIPの規制、コメント欄の撤去などの措置を取らせて頂く場合があります


+ タグ編集
  • タグ:
  • みんなのトラウマ
  • どうしてこうなった
  • なんだよこの展開…
  • 社会問題
  • 放送事故
  • トラウマ
  • 豊田商事会長刺殺事件
  • 事件
  • 殺人事件
  • 殺人
  • 独善
  • 犯罪
  • 大阪府
  • 考えさせられる事件
  • 正義の断罪←二人にとっては
  • 私刑
  • 義憤
  • 因果応報
  • 自業自得
  • 正義とは何か考えさせられる事件
  • ただの裏社会の争い
  • 正義とは何か
  • 公開処刑
  • 事件項目
  • 閲覧注意
  • 考えさせられる話
  • 検索してはいけない
  • 正義のためなら人間はどこまでも残酷になれるんです

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年02月02日 20:08

*1 被害者に純金の取引を持ち掛けながら現物は渡さず、証券のみを渡して自分たちが管理するとして代金をせしめる(当然現物など買わない)という悪徳商法

*2 女性を延々映すだけ等、かなり曖昧な宣伝内容であり、CMだけ見ても実際に何をやっている企業なのか一切分からないのだが、本当に中身のない会社なので表現しようがなかったのだと思われる

*3 永野が新卒で入った会社がトヨタ系列のデンソー(当時は「日本電装」)だったため、トヨタの名を騙ることにしたらしい。ちなみに、本物のトヨタ系列には「豊田「通商」」という商社がちゃんとある

*4 おそらく「壊れるかな?」という意味合いで、自分たちでドアを壊せるかを心配したと思われる。

*5 警察に連行される二人に対して報道陣がしつこく追及しようとしたため、逆上したYに殴りかかられるというアクシデントがあった

*6 戦後日本を代表する弁護士と呼ばれ、森永ヒ素ミルク中毒事件や千日デパート火災事件等で弁護団団長を務めた他、日本弁護士連合会の会長にもなった

*7 バブル崩壊で発生した不良債権の回収にまつわる事件。詳しくは「整理回収機構」で検索されたし