トルコ料理

登録日:2017/02/17 Fri 13:34:00
更新日:2024/04/10 Wed 19:17:12
所要時間:約 23 分で読めます





中華料理って世界三大料理だよね」

フランス料理もそうだね確か」

「……あと1つってなんだっけ?」

「……和食?かな?あ、でもイタリアだったかもしれん」

「いやスペインじゃなかったか?」


ドイツ料理は……美味しいけど世界三大料理じゃなかったと思うが……あ、ベトナム料理も世界的に評価高いっていうよね」


「トルコ料理だよ!!!!」


▽Menu

◎トルコ料理ってどんな料理?

一言で表すなら「多国籍料理の古典」と言える。

現代のトルコ民族の直接的なルーツは13世紀に成立したオスマン帝国にある。同国は典型的な遊牧民の征服王朝で、併呑した様々な国家・民族の文化を特に抵抗も無く受け入れていた。
食文化においてもその傾向は顕著で、最初は素朴な遊牧民族的料理だったトルコ料理も、帝国の拡大と共に新たな食文化を受け入れてどんどん色彩豊かになっていく。

またオスマン帝国は巨大な征服王朝であると同時に、シルクロードの果てに位置し、アジアからの物流とヨーロッパからの物流が交差する、史上空前の交易国家としての側面も持っていた。
全盛期には、シルクロードを通って東からは中国やインドから、西からはスペインやノルウェーに至るまで、ユーラシア大陸のあらゆる国の人々や文物が集まってきていたのである。
彼らが持ち込んだバラエティ豊かな食文化は、帝都コスタンティニイェ(現・イスタンブール)で混ざり合い、トルコ料理をより多彩なものにしていった。


よって最終的にトルコ料理は
  • トルコ人の故郷であるアナトリア南部の典型的遊牧民料理
  • イスラム世界の先進国だったペルシャ(イラン)系のアラビア料理
  • 美食で有名な黒海沿岸のスラヴ系・グルジア系料理
  • イスラム世界の西端、北アフリカのマグリブ料理
  • 地中海の海の幸たっぷりなビザンチン(ギリシャ)料理
  • 最大の敵にして交易相手でもあった西ヨーロッパ、特にイタリアスペインの料理
などといった様々な地方の食文化が混じり合った多彩な多国籍料理に進化してきた。

また逆にトルコで混じり合い、発展していった食文化がロシアのロールキャベツやアラブのケバブなど、逆にそれらの国々に輸出されたことも多い。
でもトルコライスは違うかんな!



◎いやそういう小難しいことは聞いてないんだけど?

日本ではよく混同される(というか意図的にしているというか……)が、香辛料マシマシの所謂「アラブ料理(イラン・イラク料理)」とはだいぶ違う。
半ば以上、特に高級料理になるほどヨーロッパ系の地中海料理に近くなる傾向がある。

料理法も食材も多彩だが、中でもよく使われる食材としてはヨーグルトトマトタマネギの3点セットがメジャー。
特にそのまま食べたり調味料になったり飲み物になったりスープになったりと、様々な使い方をされるヨーグルトはトルコ料理の素材面での最大の特徴とも言える。ヨーグルトの語源がトルコ語に由来することを考えれば、そのポピュラーぶりがわかるというもの。
料理法という点では、「何かで包む」料理が非常に多いのが特徴かもしれない。包むのに使うのは生地や貝殻や葡萄の葉、中身も米やひき肉など様々。

主食は小麦、というかパン
パンと言えば日本人はなんとなく欧米をイメージするだろうが、実は世界で1人当たりの年間パン消費量が最も多いのはトルコ。パンの種類も豊富で、日本人にはなじみ深い惣菜パンに近いものも沢山ある。
またパンには及ばないが、お米もそこそこポピュラー。日本と同じ、ねばりのあるジャポニカ米も多く使われている。

肉はイスラム圏らしく、圧倒的に羊の肉がメジャー。それに次ぐものとしてはニワトリがあるが、牛はあんまり人気が無い。
そもそも、トルコは原則的に世俗主義*1の国なので豚肉(あと飲酒も)は法的には大丈夫。
だが、イスラム世界ではハラールにより既に豚肉に関する忌避感が既に浸透しており、宗教的意識が薄いとされるトルコ人でも「豚肉は臭い」「不潔」といって食べたがらない。
このためトルコ料理で豚肉が使われることはほぼ無い。

「日本人の口に合うの?」かと聞かれれば、「基本的には合う」と答えられるだろう。多分。
(よくここが誤解されているが)きついスパイスをやたらと使うこともなく、日本人がひいちゃうような食材も使われない。
羊肉も成獣の羊肉(マトン)より子羊肉(ラム)が多いので、そこまで臭いがきついということもないはず。味付けも濃すぎず薄すぎず日本人好みだろうし、特にスープ類はどれも絶品。

しかし日本人にとって唯一にして最大の問題点は、大量のオリーブオイルが使用されていることだろう。???「え?なんで?」
揚げ物や炒め物はまあ良いとして*2、冷製料理に使われているオリーブオイルは日本人にとってはかなり重い。
トルコ産のものはイタリアなどのそれに比べクセが無く軽いことで知られているが、それでもやはり鼻に付く人には辛いかと思われる。
あと、高カロリーな素材をふんだんに使うのでダイエット中には控えた方が良いかもしれない……。


◎トルコ人と食事

トルコ人の古い格言に「空腹で桃源郷に行くより、食べ過ぎで死ぬ方がいい」というものがあるが、それぐらいトルコ人は食事に関しては積極的。

元が質素な遊牧民族なのに、この食事に対する情熱はどこから来たのかというのはしばしば議論になるが、その論説の一つに「オスマン帝国が征服王朝だったから」というものがある。
つまり
  • 豪華な食事→兵士が満足→心が豊かなので戦闘も頑張る→侵略ができる
  • せこい食事→兵士が雑魚→心が焦り顔にまで出てくる→いくえ不明
という謙虚なロジックが成り立ち、これがトルコ料理が進歩した理由だというのである。
かつてのオスマン帝国軍はヨーロッパ諸国に比べ兵站に力を入れることで知られており、これはなかなか説得力がある。

オスマン帝国の全盛期を支えた精鋭親衛歩兵「イェニチェリ」が、皇帝から下賜された鍋と巨大スプーンを各軍団のシンボルとして掲げていたのは有名な話だが、これは「我らは皇帝陛下から直接この鍋による食事を保証されている。故に我らは陛下に絶対の忠誠を捧げる」という矜持を示したもの。オスマン帝国軍において食事がどれほど大きい意味を持っていたのかがうかがえる逸話である。



◎有名メニュー

・穀物料理

トルコは世界第3位の小麦生産大国で、安くて美味しいパンがいっぱい。
前述の通り米も食べられるが、日本のように白米をそのまま炊いて出す、ということはなく、どちらかといえばジャガイモなど温野菜の一種のような扱い。

◆エキメッキ/Ekmek
トルコ語でパンのこと。単にエキメッキと言った場合は、その中でもフランスパンに似たバゲットを指すことが多い。厳密にはフランジャラとも呼ばれるこれが、トルコでもっとも一般的なパン。
本場フランスに比べると気泡が少ないが、ずっとふわふわソフトな食感で日本人好みな作り。

◆ポアチャ
エキメッキに並ぶメジャーなパン。簡単に言えばトルコ式スコーンで、牛乳の代わりにヨーグルトが使われているのが特徴。
スコーンのようにそのまま食べることもあるが、中に具を入れて焼き上げる総菜パンとして作られることの方が多い。中の具はそれこそ日本の総菜パン並にバリエーション豊かだが、ひき肉やチーズ、豆の煮物などが特に有名。
日本人にも親しみやすい一品……だが、一見ソフトな生地にはこれでもかとバターやオリーブオイルが使われているのでカロリーに注意。

◆シミット
ゴマをまぶしたドーナツ型のパン。形と言い食感と言いベーグルに近いものを感じるが、あちらと違って生地をお湯につけるのではなく砂糖水につける。香ばしいゴマとほのかな甘みが食欲をそそる。
トルコではお手軽なファストフードとして、チャイと一緒に食べるおやつとしてものすごくポピュラーな一品。これを売り歩く「シミットチ」という男たちはトルコ都市部の風物詩である。

◆バルック・エキメッキ(サバサンド)
バルクは魚という意味。地中海沿いの町、特にイスタンブールの名物として知られている。
焼いたりフライにしたりしたとタマネギ・レタス・トマトを挟んだバゲットサンドで、味付けは原則としてとレモンのみ。
シンプルなB級グルメだが、新鮮な焼き鯖とパン、そして両者をつなぐフレッシュな野菜の歯触りが日本人好みの一品。

◆マントゥ
トルコ式(中央アジア式?)餃子。トルコ人の遠い祖先であるテュルク人の時代から遊牧民族に受け継がれてきた伝統的メニュー。具は主に羊肉とタマネギで、ゆでることが多いが蒸すこともある。
トルコ式では「なるべく小さく作る」のがいいマントゥだとされていて、ほとんど一口サイズの大きさになったものがお皿にたくさん並べられるのが特徴。
バターソースやヨーグルトソース、トマトソースなどをかけて提供されるため見た目にも色鮮やかで美しいが、やっぱりカロリーは容赦なく高い(特にバターソース)。

◆ピラヴ
トルコのピラフ。炒飯とは違うからな!こっちは炒めた後に炊くもんだからな!
主に肉料理なんかの付け合わせに付いてくることが多いが、レストランやロカンタ(大衆食堂)などでは単品のメニューとしても供される。具はトマトやタマネギをはじめとして、鶏肉や羊肉、魚などバリエーション豊か。
他国のピラフではコメはインディカ米を使うことが多いが、トルコでは日本人になじみ深いジャポニカ米も使うので、どこか懐かしい食感が感じられる。なお本場トルコでは米の代わりにブルグル(挽き割り小麦)を使うこともある。

◆ピデ
ピザの原型とも言われている料理で、ほうれん草とチーズを具に使い、ゴマをふりかけ焼いた後にバターを塗る。

◆エリシテ
フェットチーネのような幅広い形のパスタ。


・魚介料理

トルコの魚料理はヨーロッパの地中海料理に比べシンプルなものが多く、ダイレクトに姿のままで焼いたり揚げたりするメニューがたくさん。
しかし肉料理に比べるとちと敷居が高く、庶民にとってはシーフードは(種類にもよるが)やや高級料理に位置する。

◆シシュ・バルック
お魚大国日本にありそうで無い、魚の切り身の串焼き。魚版シシュケバブである。スパイシーに焼き上げられたカジキなどの魚と、タマネギやトマト・しし唐などのお野菜を交互に刺していることが多い。
すごい日本人好みの味だと思うが、なぜか日本のトルコレストランでは扱いが低いことが多い……。

◆ルフェル・ウズガラス
ライトノベルの登場人物とかではなくて、その名もストレートに「スズキの塩焼き」という意味。つまり焼き魚。炭火焼が一番高級とされている。
表面には塩がかなりきつめに聞かされており、レモンをかけて食べるのが普通だが、日本人ならきっと醤油が欲しくなる。

◆カラマル・タヴァ
イカリング。としかいいようがないまさにイカリングである。トルコでは(地中海沿岸近辺に限るが)イカやタコを食用にする習慣があるのだ。
日本人が名前を聞くだけで敬遠してしまうだろう「ヨーグルトソース」の真価を存分に味わえる料理。ビールが進むぞ。

◆ミディエ・ドルマス
炒めたコメをムール貝に(貝の身と共に)詰めて炊き上げたピラフ。イカ飯ならぬ貝飯である。屋台などでお手軽に売られていて、貝の蓋をあけてレモンをかけ、蓋をスプーン代わりにしていただくのが作法。
米や油の旨味を存分に感じられるピラフに、ムール貝の身から出た海の旨味が混ざり合った、まさしく極上のご飯レシピ。なぜこれが日本にないのか不思議でならない。
日本人的に残念なのは、基本的に冷製で提供されること。炊き込みご飯なので冷めても十分に美味しいのだが、しかし……
現地で食べる場合は、結構水加減が難しいレシピなので当たり外れがあることに注意。へたくそな作り方をされると、コメがべちゃっとリゾット状態になってあんまり美味しくない。

◆カリデシ・ギュヴェッチ
直訳すれば「海老の土鍋焼き」だが、トルコ式エビグラタンと呼ぶ人もいる。
といってもフランス料理のそれのようにベシャメルソース(ルーを牛乳で溶いたソース)を使うわけではなく、小エビと野菜のシチューの上にチーズをたっぷりかけてオーブンで焦がしたもの。
唐辛子で辛くしても美味しい。

◆ハムシリ・ピラヴ
イワシの切り身を使ったピラヴ。


・野菜料理

野菜は非常に多彩。トマトとタマネギの二大ビッグネームを筆頭に、ナス、ピーマン、パプリカニンジン、レタス、キャベツズッキーニ、レンズ豆、インゲン豆、ニンニクなどが特にメジャーか。
この辺は中東アラビア世界の影響を強く感じさせる。
また日本人にはなじみがないおもしろ素材として、葡萄の葉というのもある。これは主にドルマ(包み料理)に使う野菜で、ギリシャ料理の系統でよく使われる。
またジャガイモも食べられるが、小麦が豊富にとれるトルコでは、ヨーロッパ料理と違ってそこまで主要な素材ではない。

◆羊飼いのサラダ(チョバン・サラタス)
トマトとタマネギときゅうりとピーマンのサラダ。材料はサイコロ大の大きさに切られ、赤と緑と白のコントラストが目にも鮮やか。
仕事中の羊飼いが山の中で作ったという伝承がある、トルコでも代表的なサラダの一つ。
味付けは本来は塩・オリーブオイル・レモン汁であえるが、日本の過程で作る場合は市販のドレッシングを使ってもいいかもしれない。

◆ナスのサラダ(パトルジャン・サラタス)
焼いたナスの皮をむいてペースト状にし、塩・オリーブオイル・レモン汁で味付けしたもの。パトルジャンとはナスの意味。ヨーグルトを使ったヨーウルトル・パトルジャン・サラタスもある。

◆フムス
和食にも洋食にも同じようなものが無いので説明しづらいが、まあ簡単に言えば豆(ヒヨコマメ)のペースト。
豆をただ粉末にするだけではなく、牛乳や水を加えて柔らかくクリーム状に仕上げる。敢えて言うなら「甘さが超控えめのうぐいすあん」あたりが近いか。
調味料としてレモンやニンニク、クミンや唐辛子などが入るため、そのままでもポテトサラダ感覚で食べられるし、パンに塗ることもある。
トルコに限らず、中東全域で食べられているポピュラーな野菜料理。

◆ビベル・ドルマス
ピーマンの肉詰め。もっとも日本式のそれと共通するのは、「ピーマンにひき肉を主体とした具を詰める」という点ぐらい。
ビベル・ドルマスの場合は、ピーマンは半分にカットせずにヘタだけを切り落として種を取り出し、ピーマンの形を保ったまま具を詰める。具も牛や豚ではなく羊。調理法も焼くのではなく煮る。
ちなみに具が肉の場合は温かいままで、お米などを具にする場合は冷やして前菜として供される。

◆ターゼ・ファスリエ
サヤインゲンのトマト煮込み。材料も調理法もお手軽で手間がかからないので、トルコの家庭料理として鉄板の地位を築いている。
トルコ人にとっての「おふくろの味」で、豪華に肉が入っていると喜ばれるらしい。

◆僧侶大失神(イマーム・バユルドゥ)
DMMのフェチ系AVとかの題名ではなく、「イマーム(イスラム教スンニ派における、僧侶というか神父的存在)ですら気絶するほどにうまい料理」という意味。なんか「仏跳牆*3」とか「ヤンソンの誘惑*4」と同じネーミングセンスを感じる。
端的に言うと「ナスの野菜詰めソテー」で、ナス(細長いものが良いという)を開いてオリーブオイルで炒め、その中にトマトやピクルス、ニンニクを主体としたみじん切りの野菜炒めを詰め込み煮込んだもの。冷やして冷製として供される。
大げさな名前の割に素材や調理法は庶民的というか、ぶっちゃけ普通に家庭料理である。もちろんだからといって安っぽいなんてことはなく、野菜だけの料理とは思えないボリューム感と深い旨味が味わえる。

◆アジュル・エズメ
トマトや唐辛子などを使った辛いペースト。肉料理やパンにつけて食べる。

◆シガラ・ボレイ
味付けしたマッシュポテトを、ユフカと呼ばれるクレープのような薄いパンに包み油で揚げた春巻のような料理。


・肉料理

遊牧民族らしく、肉は内臓からに至るまで徹底的に使う。ただし一応イスラム圏なので、血を使う習慣はない(イスラム教では家畜を屠るときにその血を地面に流さねばならない)。
しかし本来の遊牧民族にとって肉自体は貴重なごちそうなので、普段は乳製品を使うのが主。このため前述のようにヨーグルトなどの乳製品も非常に充実している。
肉として好まれるのは前述したとおり圧倒的に羊だが、乳製品には牛乳を使うことのほうが多い。

◆ドネルケバブ
トルコ語で回転式焼肉。恐らく日本で、というか世界で最も有名なトルコ料理。
回転する縦に長い棒にトマトペーストなどで味付けした肉の薄切りを突き刺していって大きな塊を作り、それを焼いて外側からそぎ切りにしたもの。文章で説明するとなかなか面倒な料理だな。

実はトルコでも比較的新参で、19世紀の半ばぐらいから露店用の料理として登場したばかり。そのため昔ながらの羊肉だけでなく、牛肉や鶏肉が使われることも多い。
肉をつけ込むタレは各店の秘伝とされているが、国外で作られる場合はエスニックな雰囲気を出すためスパイシーに仕上げることが多く、実はトルコ料理の基準からするとかなり刺激的なお味。
日本の屋台などではほとんど確実にパン(ピタ*5)に挟まれた状態で提供されるが、トルコではパンを敷いてその上にのせたり、普通に皿に盛って提供したりすることも多い。トルコのハンバーガーみたいなものである。
トルコ本国の他、イランや移民が持ちこんだドイツでも人気がある。

ちなみに「ケバブ」というトルコ語は英語で言うところの「ロースト(蒸し焼き)」とほぼ同じ意味。つまり野菜ケバブとか魚ケバブとかイカケバブとかも普通にありうる。
ただトルコで単に「ケバブ」と言った場合は、だいたいは羊のシシュケバブ(串焼き)のことを指す。

日本でよく見るケバブサンドはソースをかけたりするのがほとんどだが、本場トルコではソースはかけない。

◆シシュケバブ
トルコ語で串焼き肉。名称の通り羊肉とタマネギ、トマトなどの野菜を串焼きにする。
食べるときには串から外し、ピタの中に入れる。
トルコだけではなく中東全域で人気がある料理。
なお、日本のトルコ料理店では羊の代わりに鶏肉を使うこともある。

◆チョップ・シシ
こちらはラム肉の串焼き。シシュケバブとは違い、肉だけを刺して焼く。

◆カドゥン・ブドゥ・キョフテ
キョフテはトルコではケバブと同じぐらいメジャーな肉料理で、要するに肉団子の総称(野菜だけのキョフテとかもあるので、厳密には単に団子と言うべきか)。串に刺して焼いたシシュキョフテという料理もある。
カドゥン・ブドゥもそんなキョフテの一種で、その名は「貴婦人の太もも」を意味する。それぐらい手触りが柔らかいということなのだが、なんかエロい。
具はひき肉・タマネギ・パセリとオーソドックスなものだが、生地を思いっきりふわふわにやわらかく作る。
またそれによって起こる型崩れを阻止するため、卵と小麦粉の衣をつけて揚げるのが最大の特徴。いわば天ぷらキョフテである。

◆カルヌ・ヤルク
「切腹」という名をもつ恐ろしい料理だが、その実は焼いたナスのお腹を裂いてひき肉を詰めて煮込んだ素朴な料理。いわばイマーム・バユルドゥの肉詰め版である。
オリーブオイルを吸ってジューシーになったナスは、濃い目に味付けられた具のひき肉に負けない濃厚な味わい。

◆ココレッチ
トルコの代表的な内臓料理で、羊や牛の腸をドネルケバブと同じようにロースト棒に巻き付けて炭火で焼き上げたもの。高級レストランなどではまず出ない、屋台向けのB級グルメである。
ギリシャなどでは同じような料理が串焼きで出されることがあるが、トルコでは一度棒から外して細切れにし、野菜と混ぜてパンにはさんで提供されるのが普通。
ドネルケバブよりさらにスパイシーに仕上げられているため、内蔵臭さというものはほとんどない。
というか内蔵の味すらしなくなってしまうほど濃い味付けにされてしまうこともあり、ちょうどいい具合の味付けで出してくれる店を探すのはなかなかに難しい。

◆ヒュンキャル・ベエンディリ・ケバブ
ヒュンキャル・ベエンディリは「スルタンのお気に入りの」という意味。その名の通り、オスマン帝国歴代の皇帝に愛されたという宮廷料理。
秘伝のタレにつけこんだ肉と、みじん切りにした野菜を炒めてスープストックで煮込み、クミン・ニンニク・ローリエなどで調味し、ルウでとろみをつけ……まあ要するにトルコ風のビーフシチュー(肉は羊のことが多いが)である。
普通のビーフシチューと違うのは、その下に野菜のピューレが敷かれること。これは焼いたナスにレモン水の風味をつけてピューレにし、ベシャメルソースと混ぜ合わせたもの。
ビーフシチューの濃厚な味と、ナスの爽やかさ&ベシャメルソースのクリーミィさが見事に調和した、実にトルコ料理らしい一品。

◆マハン
ハラールに配慮して、馬肉で作られるソーセージ

◆シシ・タヴック
トルコ風焼き鳥


・スープ

トルコのスープ(チョルバ)はヨーロッパ料理に負けない程多種多様。羊の脂の融点が人間の体温より高い*6のも発達した原因だと思われる。
肉、魚介、野菜、果物などいろんなものを具にしたチョルバがあり、どれも基本的にちゃんとダシを取る(羊の場合もあるが、チョルバの場合は鶏ガラが多い)ため旨味たっぷり。

◆メルジメッキ・チョルバス
トルコの代表的スープで、ゆでて裏漉ししペースト状にしたメルジメッキ(レンズ豆)で作られたスープ。日本的にわかりやすく言うと豆のポタージュである。
豆のほんのりとした甘さとコクは胃にも心にも優しく、旅行に行って連日の羊料理に飽き飽きした、という人にもおすすめのチョルバ。
レモンやヨーグルトのほのかな酸味で口当たりはとても軽やかだが、なんといっても豆なので結構腹にもたまる。

◆イシュケンベ・チョルバス
羊や牛の内臓(主に胃袋)のスープ。おもいっきり濃厚に仕上げるのが特徴で、色と言い味と言いこってり感と言いほとんどとんこつラーメンのスープである。
勿論高級レストランでも出せるぐらい上品に仕上げようと思えば仕上げられるのだが、やはりトルコでも飲んだくれたおっさんたちが〆に味わう屋台食、といったイメージが強い。
九州本場のトンコツラーメンが観光客をしばしばドン引きさせるのと同じで、初見の日本人にはなかなかハードルの高いチョルバである。
というかトルコ人の間ですら好き嫌いが分かれる程の超こってりチョルバだが、濃厚なとんこつラーメンが好きでたまらない!なんて人はトルコにいったらぜひチャレンジしてみよう。

◆花嫁エゾのチョルバス
「花嫁エゾ」とはトルコ南東部の民話に登場する伝説的な美女。エゾが身体が弱い舅のために作ったとされるのがこのチョルバで、端的に言えばレンズ豆と米のトマトスープ。
場合によっては米ではなくブルグル(挽き割り小麦)が入ることもあるが、日本人的には断固としてお米を使ってほしい。
トルコでも雑炊感覚で手軽に食べられるスープで、胃腸にも二日酔いもに効くとされている。

◆マンタル・チョルバス
マンタルはマッシュルームの意。
本来は日本語で言えば「きのこ鍋」ぐらいに意味の広い言葉で、味付けや具も様々だが、近年ではヨーロッパのクリームシチュー風に仕上げるスタイルが普及してきた。

◆ジャジュク
きゅうりとヨーグルトのスープ…というか野菜料理というか。材料だけ聞くと日本人はちょっと引いちゃいそうだが、清涼感溢れる食欲を喚起してくれる夏向けのスープである。
水で伸ばしたヨーグルトにきゅうりのみじん切り(角切りのこともある)とおろしニンニクを混ぜるだけという単純なレシピだが、自分で作ろうとする場合は当然ながら「プレーンヨーグルト」を使おう。
日本で一般的な甘い砂糖入りヨーグルトを使うと大惨事になるぞ。


・スイーツ

トルコスイーツは何といっても超甘いことで有名。
全体的にカロリー?黙れ!太れ!と言わんばかりに糖分ラッシュを情け容赦なく仕掛けてくるのが特徴で、大量の砂糖で味付けした上に蜂蜜や果糖を足し、完成品にさらにシロップをかけるなど日常茶飯事。
……とはいうものの、ヘルシーさ重視の現代では流石に甘さを抑える風潮も出てきている。スイーツ好きにとっては嬉しいのか、あるいは逆なのか……

◆ドライフルーツ
トルコはドライフルーツの宝庫。レーズン、アプリコット(あんず)、イチジク、デーツ(ナツメヤシ)などは特に有名で、お菓子やそれ以外の料理にもよく使われる。

◆ロクム(ターキッシュ・デイライト)
オスマン帝国時代にハジ・ベキルという職人が作り出した、恐らく最も世界的に有名なトルコスイーツ。和菓子で言うと求肥にとても近いが、こちらは白玉粉ではなくコーンスターチをメインに作る。
具にはビスタチオやアーモンドなどのナッツ類が入ることが多いが、生クリームやチョコレートなども普通に使われる。色も味もバリエーション豊かで、お茶菓子としても相応しい華やかさがある。
19世紀のヨーロッパにおけるトルコブームの頃にヨーロッパに紹介されて大ヒットし、欧米では「ターキッシュ・デイライト(トルコ人の喜び)」という名前でエスニックスイーツの定番になっている。

◆バクラヴァ
こちらもロクムと同じぐらい有名なトルコのナッツパイ。バラクラヴァではない。それは例の方々とかが愛用する目出し帽である。
溶かしバターで何層ものパイ生地と蜂蜜、砂糖漬けのナッツ類(アーモンドやピスタチオやクルミが一般的)を積み重ね、さらに焼き上げてシロップに漬けたもの。
「トルコスイーツは甘い」という認識を万人に再確認させてくれる激甘スイーツで、暴力的なまでの糖分の多重奏は、甘いもの好きな人にとっては天国の音楽だろう。甘いものが苦手な人は割とマジで死ねるが
ちなみに大量に使われた砂糖とシロップのおかげで保存もきくため、和菓子における柚餅子のように、軍用食としても使われていた。

◆フルン・シュトラッチ
トルコ風ライスプディング。お米と牛乳とシナモンのスイーツである。トルコのスイーツの中ではかなり甘さが控えめな方。
コーンスターチと砂糖を混ぜて甘くとろみをつけた牛乳に、ゆでたor炊いたお米を混ぜて、シナモンをかけてオーブンで焼くという割と簡単なレシピ。
「甘いお米とか勘弁……」とか思っちゃった人は、おはぎや桜餅を想像してみよう。お米と甘みは決して合わないものではないぞ!

◆ドンドゥルマ
所謂トルコアイス。ハンター達の拠点は関係ない。日本でもブームになって一瞬で消えた例のアレである。トルコで単にアイスクリームと言うと基本的にこのドンドゥルマのことを指す。
あの餅のようなねばりはサレップという植物の根っこからとれるでんぷん質に由来するもので、これは気温が高いトルコでアイスが溶けて液状化するのを防ぐ役割も果たしている。
ちなみにトルコ人にとっては「アイスは粘るもの」というのが常識なので、スプーンが刺さらない程硬い海外のアイスクリームを知って驚く人が多い。


・飲み物

イスラム圏の国は戒律として飲酒を禁じているため、アルコールの代わりとしてお茶コーヒーなどのカフェイン飲料が大量に飲まれてきた。
現代のトルコは世俗主義の共和国なので酒も普通に飲めるが、それでもお茶やコーヒーを大いに愛する文化は残っている。

◆テュルク・カフヴェズィ(トルココーヒー)
トルコは世界初のカフェが作られるなど嗜好飲料としてのコーヒー文化が最も早く発達した国で、トルコ人の間では生活と切り離せないレベルにまでコーヒーが浸透している。
コーヒーとしての特徴は、普通の(欧米式)コーヒーが原則的に「ドリップ(抽出)する」のに対して、「煮出す」ことにある。つまりジャズベ(ポット)に挽いたコーヒー粉と水と砂糖を入れて、火にかけて沸騰させて作るのである。
火を止めてジャズベの底に粉が沈むのをまってカップにコーヒーを注ぐのだが、粉が完全に取り除かれるわけではないので、普通のコーヒーに比べ悪く言えば粉っぽく、よく言えば風味がとても強い。
弱火にかけたジャズベの周りで談笑しながらコーヒーが煮えるのを待ち、コーヒーを飲み終えたらカップに残ったコーヒー粉の形で「コーヒー占い」をするのがトルコ式コーヒーの作法。

◆チャイ
日本でチャイと言うとインド式のミルクティーのことだが、トルコ語でのチャイは普通にお茶、特に紅茶のことを指す。
元々トルコではコーヒーが愛されていたのだが、帝国の衰退と共に輸入品であるコーヒーの値段も上がっていき、共和国時代になるとついに緊縮財政で輸入禁止措置を受けてしまう。その代用品として国産紅茶が普及していったのである。
このためトルコにおいて紅茶の歴史はまだ1世紀にも満たないのだが、その普及速度は凄まじく、現在ではイギリスやアイルランドを抜いて堂々の世界消費量第一位を誇っている。

トルコ式紅茶はチャイダンルックという二段重ねの独特なポットで淹れるのが特徴で、欧米や日本の紅茶に比べるとものすごく濃い。
砂糖はかなり多めに入れる人が多いが、ミルクティーの習慣はほとんどない(あっても「ヨーロッパ式紅茶です」みたいな感じ)。
陶磁器のティーカップではなく、チャイ専用の小ぶりのガラスコップに入れて飲む。一日20杯とか30杯とか割と平気で飲む。カフェイン中毒にならないのだろうか?

◆アイラン
遊牧民族なら確実に持っている乳飲料のトルコ版。一度乳をヨーグルトにして、そこに水と塩を足して泡立てて作られる。インドで言えばラッシーだがこちらは塩を使う。
すっかり都市化した現在でもトルコ全域で愛飲されており、各地で発酵の度合い(酸味)や添加する調味料などに個性がある。

◆トルコワイン
あまり知られていないが、トルコではワインもかなり手広く作られている。「トルコはアラブの西端ではなくヨーロッパの東端」と言われるのは伊達ではない。
ただしワインはほとんど輸出用で、海外客向けのレストランで供されたりもするが基本的にトルコ人はあまり飲まない。

◆ラク
こちらはトルコの伝統的な蒸留酒。中東風にアラックとも言う。トルコ人が最も愛する酒であり、現地でも手軽に手に入る。
葡萄の蒸留酒で、つまりブランデーにとても近いが、あちらと違って焦がした樽で長期熟成させたりはしないので無色透明。香りづけにアニスが使われているのも特徴。
日本でいうところの「地酒」のような扱いで、トルコ以外の地域も含む広い文化圏でご当地アラックが作られており、葡萄だけでなくヤシやサトウキビなどを原料に醸造された物も。
特に度数の高いアラックは水割りにすると成分が分離して白く濁るので「ライオンのミルク」と呼ばれているんだそうな。
トルコ人は飲酒に関してほとんど抵抗がないが、しかし一応はトルコもイスラム圏なので道徳的にはあまりほめられたものではないとされている。
このため酒税がかなり高く、それを回避しようと地方ではヤバすぎる密造酒が作られてしばしば問題になっている。




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最終更新:2024年04月10日 19:17

*1 イスラム教の戒律と、現実の政治・法律とを明確に区分する思想。日本人的に言えば政教分離。

*2 炒め物のような温製にはふつうオリーブオイルではなくバターが使われる。

*3 中華料理。修行僧が塀を飛び越えてでも食べたいみたいな意味があるスープ。

*4 スウェーデン料理。ベジタリアンのヤンソンさんさえ思わず食べてしまったくらい美味しい、みたいな意味。アンチョビとジャガイモのグラタンみたいな食べ物。

*5 中東などで一般的な、円形で平べったいパン。中が空洞になっていて様々な具を詰めることが可能

*6 わかりやすく言うと羊を冷たいものと一緒に食べると腸等で詰まる。ビールとジンギスカンとか。