攻殻機動隊

登録日:2017/02/11 Sat 20:02:32
更新日:2024/03/21 Thu 20:52:55
所要時間:約 25 分で読めます






企業のネットが星を被い、電子や光が駆け巡っても

国家や民族が消えてなくなる程

情報化されていない近未来





攻殻機動隊とは、士郎正宗によるSF漫画作品である。
ヤングマガジン海賊版、および週刊ヤングマガジンにて連載。


概要

近未来の義体(サイボーグ)化電脳技術が一般的となった世界の日本*1を舞台に描くSFアクション漫画。
漫画家・士郎正宗の代表作であり、緻密な描写と深い知識から描かれるサイバーパンクの世界は、今なおトップクラスの人気を持っている。

元々は前作『ドミニオン』の続編として考えていたネタだったのが、ヤンマガ用に弄った結果、今作が生まれる運びとなったらしい。
またデビュー作であるアップルシードとは世界観を共有しているが、アップルシードのポセイドン編という印象で描いていたとのこと。
本来は士郎正宗氏の共通世界観における「電脳技術」の説明をするために制作された作品群でもある。

連載当時の業界の風潮の中で「体制側の主人公と正義」を描いた珍しい漫画でもあり、しかもある程度成功しているという点でも稀有な作品だったりもする。
その内容から「難解」ともよく言われており、読む側にもそれなりにSFや政治・科学などの知識を必要とする。
特に『2』はSFや科学技術の知識を必要とする傾向が強い。
ただ全てがそうというわけではなく、『1』と『1.5』はSF刑事ものとしても楽しめる造りになっている。

また欄外の注釈が非常に多いことでも有名。
漫画本編では描かれなかった設定や場面の解説、単語の説明や思想体系、参考にした本の紹介や事象に対する主張など、それはもうべらぽうにびっしりと書かれている。
中身も非常に濃密で、これを読むだけで他の漫画が三冊ほど読めるレベル。
そのため、「世界一注釈が多い漫画」と呼ばれることも。
無論読み飛ばしても全く問題ないが、読解したほうが作品理解が深まるのは言うまでもない。*2


1995年に押井守監督により『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』として映画化。これが世界的に高い評価を得る。
その後も原作・押井版とは異なるパラレル世界を描く『S.A.C.』(2002年)、押井版の先を描いた『イノセンス』(2004年)で映像化。
2013年に『攻殻機動隊の始まり』を独自に描く『攻殻機動隊 ARISE』と、諸所高いレベルでのアニメ化が行われた。
原作もアメリカ・ダークホース社から早々に翻訳版が刊行されたのを始め、世界中に多くのファンを持つ作品となっている。*3
また、『RD 潜脳調査室』と言った技術設定を流用した姉妹作品*4も存在していたり、原作本編の前史的要素を内包する漫画『紅殻のパンドラ』なども作られている。
2017年にはハリウッド実写化も行われた。

一方でこれまで原作を遵守した映像化は行われておらず、そういった意味では不遇な作品とも言える。*5
特に草薙素子は全く別のキャラといっていい。
アニメから原作に入ると、まず素子のキャラに『?!』となることは結構有名。


攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL


1991年単行本発売。
記念すべき一作目。
ストーリーは基本的に一話完結・短編連作型となっており、公安9課結成から始まり、最終的に謎のハッカー「人形使い」をめぐる話に収束していく流れになっている。
単行本化に際し連載時よりも大幅な加筆修正が行われている。*6

電脳を使ったハッキングはよく行われるものの、電脳空間といったネット内部の描写はあまりなく、どちらかというとガンアクションが多め。
事件を追う形で、基本的な世界観や技術のことが語られるため、そういった意味でも(比較的)やさしい漫画となっている。
終盤では『情報』としての視点から生命が語られており、有機生命由来のヒト知性と情報の累積体との差異とは何か?といったテーマに踏み込んでいる。*7

本作の大筋が『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』、6話『ROBOT RONDO』を元ネタにして『イノセンス』として映画化されている。



あらすじ

企業のネットが星を被い、電子や光が駆け巡っても
国家や民族が消えてなくなる程
情報化されていない近未来

アジアの一角に横たわる
奇妙な企業集合体国
日本…


幾度かの世界大戦を経験し、分子マシン技術により脳そのものをネットに接続する『電脳化』や体を機械化する『義体化』技術が進んだ世界。
西暦2029年。高度に技術が発達した中でも、国家や民族・そして犯罪はなくなることはなく、むしろより複雑化して存在していた。

そんな犯罪に対抗すべく、日本で一つの特殊部隊が結成される。
犯罪に対して攻性の対処を行う組織・公安9課。
俗称『攻殻機動隊』の誕生である。*8



登場人物

・公安9課

「やなこった。へへーん」

公安9課のリーダーを務める女性。
全身義体のサイボーグで、超凄腕のハッカー。

「エスパーよりも貴重な才能」と言われるほど優秀だが、ノリは軽い。
彼女の発案で、攻殻機動隊が結成されることとなる。
詳しくは当該項目にて。


義眼が特徴的な元軍人のサイボーグ。
気さくかつひょうきんな性格で親しみやすく、思考戦車のフチコマとも仲がよい。
仲間がやられると激昂するなど、プロだが非常に人間味溢れた人物。

素子とはそれなりに付き合いが長く割と気心の知れた仲で、9課メンバーの中ではちょっと多めに信頼されている。
素子の電脳ポルノ製造現場に偶々繋がり覗き見た罰で殴られたり*9、車に爆弾を仕掛けられたか確認するために道端でしぶしぶ車を解体したりとコメディチックなシーンも多い。
詳しくは当該項目にて。


  • トグサ
元刑事で既婚者の、素子が率いる部隊の新米隊員。
マテバのM2007を愛用している。

初登場の任務の際に、姿を隠すのに使ったマンホールを閉じる際に草をかませてしまい相手に存在がバレ、部隊を危機に落とすという大ポカをやらかしている。
その後も素子に勝手に体を操作されたり、バトーと組んで死にそうになったり、結婚記念日に仕事を入れられたりと散々な目に合うことが多い。
そんな目に合い続けたからか、後半では結構たくましくなっている。


  • イシカワ(石川)
年長の9課メンバー。
オジイだのなんだの結構ひどいことを言われている。
沈着冷静だが、年上らしく説教くさい。草薙との付き合いは何だかんだで一番長いらしい。
1話時点ではサブリーダーポジションだったが、その後出番が減る。

  • ボーマ
禿頭・義眼の9課メンバー。
愚痴っぽく悪態が多い。


  • サイトー
隻眼の9課メンバー。
どう見ても堅気には見えない風貌が特徴。*10
地道な聞き込みなどの任務をよく行っている。


  • パズ
9課メンバー
ほとんど出番がなく、ほぼモブキャラ。


  • 荒巻部長
内務省公安9課のボス。
犯罪の芽を探し出しこれを除去する攻性の組織の必要性を感じており、同じ志を持つ素子と共に公安9課を設立する。
高い政治力と豊富な人脈をもって犯罪にあたり、9課の存在を存続させている名将。
行動力もあり現場に出て直接指揮を執ることもしばしば。
あだ名は「サル部長」・「サルおやじ」で、絵もやたらサル顔に描かれている。

後の作品で、テロに巻き込まれて全身義体になった孫娘がいたことが明かされており
以前から正義感の強い人物だったが、この出来事とその後の孫娘の死を期にさらにテロや犯罪への抑止力の必要性を感じるようになったらしい。
素子の事はその孫娘と似たような境遇*11なので、気にかけている。

荒巻「我が子の様に大事に思っとるぞ」
素子「せめて孫と思って」


  • フチコマ
9課に配備されている思考戦車。
クモのような形をしている。
可愛い。

子供っぽい性格で何にでも興味を持ち、隙あらば情報収集している。
フチコマ同士で討論も行われており、素子からはAIの反乱がおきないかの目安にされている。




・その他

  • 素子の女友達
二人ほどいる素子のセックスフレンド。*12
素子とともに電脳空間でレズAV(違法)を撮って売ることで、副収入を得たりしている。
一人は義体関連の病院のナースの仕事をしている。


  • マレス大佐
ガベル共和国の軍事政権の親玉。
祖国で革命軍による革命が成功してしまったため、現在日本に病気療養と称して長期滞在中。
懲りずに祖国の軍政派に資金を送金している。
外交上、取り扱いの難しい人物。


清掃局に勤めている聖庶民救済センター出身の男性。
家族と別居中であり、離婚調停中の妻の気持ちを知る為に飲み屋で知り合った男から渡されたツールでゴーストハックを試みるが…。


  • 殿田大佐
荒巻部長の元上官。
戦時中は「赤鬼」と呼ばれるキレ者で部長の恩師にあたり、様々なことを教え込んだ。

現在はぶよぶよに太り、メイドロボットと一緒に引退生活を満喫中。


  • 阪華精機社長
ロボットメーカー阪華精機の社長。
ジェイムスン型という箱のような外見の義体に入っている。
本名、ジョン・ジョンジージャック・ジェイムスン。

ヤクザと繋がりがあり、利益のために法に触れることも行っている。
自社製品であるトムリアンテ型ロボットが人を襲う事件を起こしたことに関して、社内に犯人がいると睨み調査を開始する。

実は公式発表されている、世界初の全身義体成功例という何気に凄い人。
紅殻のパンドラで登場する適合者(アデプタ)の一人。*13


  • クロルデン
択捉に拠点を置く腕利きの情報屋。
元内閣報道庁の職員で、素子とは根室上陸工作戦からの知り合い。
高級義体を侍らせて生活している。


  • 素子の彼氏
公安1課部長で素子の現在のお相手。
職務に忠実だが、素子のことは大切にしている。
七ヶ月と、素子にしてはよく関係が続いているらしい。


  • 相馬亨
テロリスト。
四年前に素子の手引きで息子(ちなみに拷問に加わったことを自慢するような人間だった)を自身の手で殺すことになり、復讐のために付け狙っている。


  • 中村部長
公安6課の部長。
製造ラインが勝手に作った義体が脱走した事件で、義体の引き渡しを9課に要請する。
義体は、謎のハッカー「人形使い」に関係するものであるらしいが……。

  • 内務大臣
本来なら公安的組織を所管する内務省のボス。
素子たちが『国際救助隊*14』に編入される前に所属していた独立攻性部隊草薙班の法的な所属先のボス。
だが、荒巻の奸計によって陥れられ、素子たちから見限られるように仕向けられる。*15
見限られた大臣だがその後も特に失脚するでもなくその地位に存続していた。
素子が政治的にハメられた時には荒巻を呼びつけて「そんなことを言うためだけにわざわざ?」と小馬鹿にされた。

  • 法務大臣
荒巻とは旧知の存在。
素子が陥れられスキャンダルが巻き起こった際に「例の隊員(素子)は諦めてマスコミに華を持たせてやれ」という政治的決着の手法をアドバイスした。
荒巻はこれにより政府の方針を察知し、素子を逃亡させる決意を抱くことになる。


  • オペ子
ポニテの若い女性の連絡員。1話で速攻で攻性防壁に焼かれ、少佐が公安が修理する(から心配しなくていい)と言っているのでロボットだったということなのだろう。
オペ子という呼び名は、いつの頃からかファンに自然発生的に言われ出したもので特に名前の設定はないはず。1話のみ「水仙と合流しろ」という台詞があったのがこれか。
偽装のためか、水着シーンもある。


・???

国を越えて暗躍する正体不明のハッカー。
防壁で守られている電脳に易々と侵入し、人間の記憶を操作して自身の人形のように操る手口から『人形使い』の異名を持っている。
詳しくは当該項目にて



攻殻機動隊2 MANMACHINE INTERFACE


2003年単行本発売。
前作のラストから4年後の世界を描いており、主人公は草薙素子から、彼女の同位体(コピー)である荒巻素子にバトンタッチしている。

アクションが中心だった前作と比べると、こちらは電脳戦が主となっており、ガンアクションなどは大幅に減った。
なお、『攻殻機動隊』とタイトルにあるが、公安9課は端役でありほぼ登場しない。

一方で本作はより「アップルシード・ポセイドン編」の側面を強めた作品であり、電脳技術が向かう先を示す一作となった。*16
なのでカバーそでに書かれている『「攻殻機動」にタイトルを変える案』はあながち間違っている訳でもない。

本来『攻殻機動隊2』と呼ばれる作品は1.5も含んだ形で描かれた1巻の続編の総体自体が「攻殻機動隊 MANMACHINE INTERFACE」という企画だった。*17
そのエピソード群のうち「DUAL DEVICE」というエピソードに大幅加筆修正を加えて単行本化したものが「攻殻機動隊2」である。*18
最初に刊行された単行本は「攻殻SOLID BOX」というフチコマのフィギュアや資料やハードカバーの1巻などをセットにしたハードカバー版である。
こちらには通常版単行本にあるエピローグが存在しないが、東モナビア共和国の兵士たちによるエロシーンが存在する。*19


本作の特徴でよく上げられるのが、とにかく難解な点
前作であまり描かれなかった電脳空間の描写がとにかく書き込まれており、CGを利用した作画も相まって情報量が非常に多い。
ストーリーに関しても、初っ端から専門用語が飛び交い、前作で触りだけだったゴーストに関して霊や神話など領域にまで踏み込んでいるため
理解するには読んでいる側の知識量がかなり要求される作りになっている。*20
欄外の注意書きも相変わらず多いが、ぶっちゃけ全く足りていない。*21
前作も難解だが、こちらと比べるとストーリーが追えるだけまだ優しい方である。

そのため1回読んだだけではまず理解できない。というか、途中で脱落する可能性の方が大きい。
2回でも無理。3回目でようやくストーリーの流れか理解できるか、というような感じなので、真正面から理解に取り組むには超上級者用の漫画ともいえる。
奇書の類とも言えるかもしれない。
そもそも今作で提示された情報の大半がこの作品内部で回収される作りになっていない。
後続の作品で説明される予定の構成全て理解できる方がおかしいという要素でもあるのだが…。*22

あらすじ


既知限界サイボーグである素子にとって
アクティブなドライブは全て自分の体であり
アクティブなソースは全て自分の記憶である
それらは常に可変であるが
周期的に「生物部品」が燃料や睡眠を要求し
基本帰属層を思い出させてくれる
物理も情報も共に現実であり
全てはいつまで続くか分からない人生そのものなのだ


草薙素子が公安9課から離れて、4年5カ月弱の2035年。
日本の霊能局では、霊視によって発生が予見された謎の存在「複雑なるもの」に関して、公安9課との会合が行われていた。
生みの親とされる人工生命工学の権威・ラハムポル博士は事故ですでに死亡。
そして霊能力者・魂合環から「複雑なるもの」の発生に、これまでに4つの魂と融合し、現在「荒巻素子」と名乗っている人物が関わっていることが示唆される。

同じ時間、件の荒巻素子は多国籍企業ポセイドン・インダストリアルの考査部長として、副業をこなしつつ多忙な時間を送っていた。
そして新しく、傘下のメディテック社の工場が何者かに襲撃された案件が自身の元に入ってくる。
事件を調べていくうちに、素子はこの件に二つの勢力が関わっていることに気が付き、さらに調査を進めていく。

やがて素子は、自身の親・姉妹ともいうべき、他の草薙素子の同位体たちと遭遇する。



登場人物

ポセイドン・インダストリアル

  • 荒巻素子
「人形使い」と融合した草薙素子が、ネットに放った同位体の一人。
本人もこれまでに4人のゴーストと融合している。
現在はポセイドン・インダストリアルの考査部長として働いており、その辣腕ぶりは社内でも評判になっている。

素子と人形使いの同位体なので高い電脳能力を持ち、格闘戦も得意。
世界中に自身のデコットを配置しており、有事の際にはこれらを起動して対処している。
ポセイドンで働いているのはポセイドンの設備施設を利用するためで、ポセイドン製の電脳にアイジャックを仕込んだりスーパーコンピュータ・デカトンケイルとの接触を狙っている。

性格は前作の素子に近く、高い能力を持つがノリは軽い。
オリジナルの素子と同じくバイらしく、秘書であるグレスに色々便宜を図った時には、「いかがわしいことをする為の複線ではないか」と、支援AIたちに疑われている。
融合前は、7年間ピアノの講師として働いていたことがあるらしい。
他の同位体からは『11』と呼ばれており、11番目の同位体であることが示されている。


  • 支援AI
素子が自分のサポートをさせているAI。ポセイドン・インダストリアルの製品であり、実地試験中。
「マックス」「ムサシ」「ムライ」など沢山おり、素子のことは「師匠」と呼んでいる。
基本的には電脳空間内での作業を主としているが、場合によってはデコットで現実でも活動する。

対象を構造解析するのがとにかく大好き。
放っておくといろんなプログラムを分解して、情報を収集している。
素子がフリーズした時は、素子も構造解析しようとしている。


  • グレス
素子の秘書。
メガネが似合う小動物系美人。
素子の毒牙にはまだかかっていない様子。*23


  • リー
ポセイドンの保安部長。
考査部に素子が赴任してからめまぐるしい活躍をしているため、保安部の予算が縮小されないか戦々恐々としている。
また素性が不透明な素子には、保安の観点からも疑念を抱いている。
公安9課に知り合いがいるらしい。


  • 社長
ポセイドン・インダストリアルの社長。
髭面の初老の男性で、様々な勢力から命を狙われている。

実は普段活動している体は遠隔操作されているデコットで、本人は別の場所に存在している。


  • アンタレス
ポセイドン専属の霊能力者の女性。
褐色の肌といつもまとっている赤いケープが特徴。
霊視を使い、情報収集を行っている。

正体はオリジナルの草薙素子の分裂した意志の片割れ。
同じく片割れであるスピカと議論を重ねている。
霊能力は環の力を拝借しているものらしい。



・霊能局

  • 魂合環(たまい たまき)
高い霊能力を持つ霊能局員。
霊視によって未来を予兆したり、情報収集を行っている。
たぬきのような霊を飛ばして情報収集を行っており、自分の意思を飛ばすときには人間の姿を使っている。
霊体が他人からどのように見えるかは本人もわからないらしく、どんな姿になるかは見た人間によるらしい。
普段は清楚で物静かな立ち振る舞いだが、霊体で活動するときにはやたら軽い言動になるのも特徴。

幼少期にオリジナルの素子と出会ったことがあり、そのころからの知り合いらしい。
草薙素子の手駒の一つらしく霊能力をアンタレスに使われているが、本人がそのことに気が付いているかは不明。*24


  • 五十鈴
霊能局の局長の老人。
ちなみに名前自体は前作の時点で登場している。



・公安9課

  • 荒巻部長
9課部長。
霊能局が何かを察知したことを受け、今後の対策を協議するために訪れる。

部長のお供で登場。
なぜかボーマみたいな外見になっている。
ポセイドンの保安部に知り合いがいるらしい。



・素子の同位体

  • ミレニアム
スターバト・マーテルというサイバードーム・ゲームの主催者。
草薙素子の20番目の同位体で、他の同位体からは「20」とも呼ばれている。

大勢の信者の脳を繋いで自身の認知限界を広げる実験をしており、ブタヒトの脳を使って同じく認知限界を広げる実験をしていた草薙素子と対立。
ブタヒトを作っていたメディテック社を襲撃し、これを妨害していた。
メディテック社襲撃の黒幕。


  • スピカ
オリジナルの草薙素子の分裂した意志の一つ。
少女のような姿と短髪、天草色のドレスが特徴。
アンタレスと比べると、どうにも口が悪い。


  • 草薙素子
託体施設「眠る宇宙」で高い権限を持つ謎の女性。
この施設の創設者の一人らしく、他の会員よりも豊富な設備が提供されている。
意志はスピカとアンタレスに分裂しており、とある事柄について協議を重ねている。
メディテック社でヒトブタをブタヒトに作り替えていた犯人。

前作の主人公・草薙素子のオリジナルの脳を有する存在。

草薙素子と人形使いの融合は人形使いがヒトという生命体の身体というインフラを得たことが一つのエポックだった訳だが、同位体を増やすと一つの問題に突き当たる。
融合をしたり、草薙素子同位体要素を増やしてゆくと「やがて電脳を装備した人間は全て草薙素子の亜種になる」というジレンマに陥った。
そこで「更に認識を拡大させる方法」を求め様々な性質の草薙素子同位体を作り出し、様々なアプローチでその壁を突破するための方法を模索していた。
スピカとアンタレスに分裂して同位体の管理について協議していたのはこのため。
本編内部ではその問題の解決にリソースの多くを割いており、少なくとも本編ではかつての9課のリーダーとしての面影はなりを潜めている。
だが環により霊視された結果を五十鈴が精査した内容を見る限りでは総体としては変化していないと思われる。

・その他

  • ラハムポル博士
人工生命工学の権威。
珪素生命体の設計図を作成するも、その後インド洋上での会談の後に海賊に殺害される。


  • ドクター
荒巻素子の知り合い。
様々な機器や義体パーツを開発して提供する代わりに、テロリストの鎮圧などの荒仕事を頼んでいる。
素子も正体をつかめておらず、依頼内容からポジションの推定を図るも「相反する要素が1/3もある」という用心深さ。

  • アルグリン
素子の知り合いの電脳探偵。
腕は素子ほどではないが、それなりに信頼されている。



・???

エピローグで登場。
霊視を行う環と会話をしている。草薙素子本人の意思とでも言うべき総括存在。

他のゴーストとの融合と同位体を作ることを繰り返した結果、同位体たちの集合的無意識、あるいは総体としての「草薙素子」となっている。
その様はかつてのネットワークとしての総体だった人形使いの有り様に近い。
(細胞が荒巻素子やミレニアムなどの同位体たちで、マクロな視点で見ると草薙素子という存在を形作っていると考えるとイメージしやすい)
P2501というAIと融合した結果、通常のヒトや電脳化したヒトよりも一段階認識できる世界が広くなっており、ゴースト相が拡張された存在である。
さらなる認識拡大を求めて活動領域を広げようと活発に動いている。


本来これだけ電脳化が進んだ時代であれば草薙素子と人形使いのように融合して認識を拡張しようとする存在があっても不思議ではない。
ただし、それらは人類を救済するためのアポルシード計画を遂行するためにオリオングループに作られたソロモン級AIにとってはヒトとAIを侵犯する要素として好ましくなかった。
よって、ヒトとAIの融合はソロモン級AIのアスモデウスによる監視、分離のためのベルフェゴール、制圧のためのルシフェルを置くことでヒトとAIの融合が存在しないよう管理されている。

しかし草薙素子はかつての作戦時に以降世界にある全世代の全ての集積回路設計に割り込みをかける自分専用のバックドアの鍵*25を持っており、ソロモン級AIもその例外ではなかった。
このバックドアを利用することによって草薙素子+P2501はソロモン級AIの監視網が自分には影響しないようにソロモン級AIたちの内部命令を書き換えてしまっている。

それゆえヒトとAIとの融合体として影響力を与えることができる世界で唯一無二の存在であり、ソロモン級AIたちにも「剣の主権者」として警戒されている。
そういった特殊事情によって存在している特殊な存在なだけであり「ヒトよりも認識を拡張」してはいるものの「魂としての上層」に至った訳でも「霊能的に普遍化した」訳でもない。

+ 読んでもよくわからなかった人向けの本編の超簡単なあらすじ
霊能局「なんかヤバそうな『複雑なるもの』が現れそうやわ」
公安9課「必要があるなら適時介入するで」
魂合環「荒巻素子ってやつが原因の一人みたいッス。ちょっと霊能力で覗いてくるわ。こんなん出ました」

荒巻素子「出社する途中で海賊やっつけたらなんか変なもん拾った」

ポセイドン「わが社のヒトブタ工場が襲われとるわ」
荒巻素子「仕事だし、ちょっと調べてくるか」

荒巻素子「ファッ!? 調べたらこれヒトブタじゃなくて脳みそが人間のブタヒトやんけ!」
荒巻素子「工場を襲ったやつと、ヒトブタをブタヒトに勝手に作り変えていたやつと、犯人が二人おるんか。こいつらがウチの敷地内で争ってたんやな」

ミレニアム「宗教やっとるで。信者の脳繋いでウチは進化したるわ」
荒巻素子「こいつが襲った方の犯人か。制圧するわ」
ミレニアム「ぎゃー」

荒巻素子「ブタヒト勝手に作ってたやつは何々…草薙素子? もしかしてご同輩かワレ?」
草薙素子(スピカ&アンタレス)「進化に必要なんだわ。邪魔せんといてくれ」バシー
荒巻素子「ぎゃー」

草薙素子(スピカ&アンタレス)「何か邪魔されそうやし、荒巻は消去しとくか。…ん? こいつなんか持っとるな」
草薙素子(スピカ&アンタレス)「珪素生命体の設計図? あれ、こっちの方がヒトブタ作るより進化できるんじゃね?」
草薙素子(スピカ&アンタレス)「なんか面白いもん持っとったし、消去するのやめとこ」

草薙素子(スピカ&アンタレス)「ええもん手に入ったわ。進化できるけどあんたはどうする?」
荒巻素子「珪素生命体? 反乱とかしたら大変やんけ!」
草薙素子(スピカ&アンタレス)「でも今よりもっと進化できるで」
荒巻素子「それでも保険は必要や。とりあえず今は保留にしてあとでどうするか話し合わんか?」
草薙素子(スピカ&アンタレス)「まあええわ。後で連絡くれ」

結局のところ

結局のところ、本作で示された要素は作中の人類は『今後「自らが作り上げたAIやバイオロイド*26」といった「知性を持ちながらヒトではない存在」に邂逅する』ことを示唆した内容に収斂する
そしてそれは『「ヒトでない存在」でありながら「ヒトの知性」を反映したもの』であり、それら『ヒト・AI・バイオロイド、3つの存在を内包して「人類」と総称する流れ』*27を形作る礎となってゆく。*28
ゆえに「ヒトでありながらヒトではないが、ヒトのやってきたことを映し出すズレた像」として「鏡」の要素が提示されている。

なお士郎正宗氏によるとこの作品は『「仙術超攻殻ORION」と同じ話』とのことで、仙術超攻殻ORIONで提示された内容のように「この物語世界の人類における価値観の転機」を描いている*29
諸々難解な話とはされているが、要はそのことさえ理解できれば大きな問題はない

……「士郎正宗氏の本作における狙い」としては。

本作はそのタイトルから多くの人が望んでいた『SFサイバー刑事ドラマとしての攻殻機動隊』ではなく、『アップルシード・ポセイドン編』の側面が強く出たことに齟齬があったらしい。
士郎正宗氏が「攻殻機動隊は僕にとって過去の作品」「完結済*30としているのは本作にてテーマ性を語りきったからだが、本作の難解さからあまり理解は浸透しない状況にあるようである。

なお「攻殻機動隊」としては完結済だが、アップルシード・ポセイドン編としての要素を引き継いだ作品としては「DEAD DRIVE」なる企画の存在が示唆されている
一枚絵による雑誌折り込みポスター企画として一部のエピソードの場面が数点公開されたことはあるが、トータルの物語としては2022年現在公開されているものはない。

攻殻機動隊1.5 HUMAN-ERROR PROCESSER


2003年7月ブックレット付きCD-ROM。2008年3月書籍版発売。
書籍版ではS.A.Cシリーズ用に用意したプロットやタチコマ設定画、PSゲーム版の絵コンテ、『攻殻2』雑誌発表時のイラストなども収録されている。*31

『攻殻機動隊』と『攻殻機動隊2』の間の物語で、9課の日常的な捜査が短編形式で描かれている。
元々は雑誌で不定期で連載されていたものであり、『攻殻機動隊2』に収録されたエピソードと『1.5巻』を含めたものを含めて『攻殻機動隊(1巻)』の続編だった。
2巻に収録されたエピソードから漏れたエピソードをまとめたものが1.5巻である。そのため、内容は最初の『攻殻機動隊』に近くなっている。
単行本化に際しての増補はほぼない。

発表までに、最初は『攻殻3』で刊行予定だったり、それがアニメ企画になったのでとりやめになったり、
それなのにそれがぽしゃったり、仕方ないので残った話を雑誌連載したり、自分でも没にした話があったり、とかなり色々あったらしい。

企画の経緯と士郎正宗氏の目的上『攻殻機動隊2』刊行により『攻殻機動隊』のテーマは語りきっており、本作は残滓を集めた作品集という扱いとなる。
よって漫画版攻殻機動隊は本作をもって終結とされている。



あらすじ

素子が去ってから、幾日か月日がたった公安9課。
新部員も入り、変わらず犯罪に対する攻性の組織として活動を続けていた。

そんな中、『生活を続ける死体』『爆弾を仕掛けられた証人』『刺青を持った人間の惨殺事件』『四回殺された女性』など、
様々な事件が9課の元に舞い込んでくる。

作品の経緯上、事件の幾つかは『攻殻機動隊2』にて草薙素子同位体同士が争っている活動が9課に持ち込まれたケースもある。


登場人物

・公安9課

  • トグサ
1.5では中心人物。
様々な事件に対して、元刑事の経験を生かして捜査を進めていく。

経験を積んだためかかつての新米ぷりはなりを潜めており、車に偽装した武器庫を用意するなどバトーほどではないが荒事にも慣れてきている
新人のアズマを連れて初動捜査することが今作では多い。
バトーに嫌味や皮肉を言うなど、可愛げがなくなったことを愚痴られることも。
その一方で少佐のセボットが体に張り付いていることに気が付かなかったりと、ポカをやらかすこともある。


草薙が去った後の9課の実質上のリーダー。
こちらも1.5ではトグサと並んで出番が多い。

相変わらず荒事を得意としている他、電子戦でも無類の強さを誇るプロ。
今作では軍時代の元同僚や、サイトーと組んで狙撃手などと対決する。
素子がいなくなってもあまり変わっておらず、ふとした時に再会した時は何の問題もなくかつてのように連携を取ったりしている。

その他では、電脳空間で付き合っている女が実際は95歳の男性で、それに気が付いていないというなんともトホホな面も。


  • サイト―
狙撃のプロ。
バトーとならんで9課の荒事担当。

1作目ではあまり活躍はなかったが、今回では衛星リンクシステム『タカの目』や狙撃の腕存分に発揮する。


  • イシカワ
大きな変化はなし。
前作ですでに陰険オジイ呼ばわりされていたが、今回ではバトーから退職寸前の爺さん扱いされている。
他にも爆弾でふっとばされて気絶するなど、あまりいい目に合っていない。


  • ボーマ
こちらも大きな変化はなし。
新人のプロトと共に捜査にあたっている。


  • アズマ
9課の新メンバー。
犬より効く嗅覚や、赤外線も見える視覚が自慢。
追跡に能力を発揮できるため、刑事上がりのトグサとよく組んでいる。

自身満々で軽口も多いお調子者だが、惨殺死体を見て昼飯と再会したり、盗聴してたら逆に洗脳プログラム送り込まれたり、連絡を犯人に盗聴されたりと
9課メンバーとしてはまだまだ未熟。


  • プロト
9課の新メンバー。
彼はアンドロイドであり、オペ子の男性版である。*32
なのでフチコマから「同じ機械同士並列化しよう」などの提案を受けている。
以前は訓練所と呼ばれる場所にいたらしい。
本人は温和で礼儀正しい青年。

作中ではボーマと組んで犯人の絞り込みを行っており、その手腕を褒められている。


  • QWER
9課メンバーっぽいが誰かの指揮下にある風でもない。
バトーが「大先輩が武器の配達?」と言っていて言動もベテランっぽい。
QWERTYキーボードで、左端から横にぽちぽちやるとQWERで、如何にも雑につけたコールサイン。


  • フチコマ
9課の思考戦車。
あんまり出番はない。


  • 荒巻部長
相変わらずの食えないサル親父。
9課のボスとして独自のパイプを使い、事件を追っていく。
ヘマをやらかしたトグサたちを怒鳴り散らすなど、まだまだ元気で現役。



・その他

かつての公安9課のメンバー。
「人形使い」と融合して様々な在り方を模索する中で同位体たちと相克をくり広げている。登場している「クロマ」はどの同位体のものかは不明。
名前からすると荒巻素子の使っているデコットと同じ名前だが、作中情報からは確定できない。

作中に登場した「クロマ」の主は脳殻の入った義体を使うのではなくデコットを使っており、その他にもセボットを愛用している。


  • 早坂トシユキ
荒巻部長の知人。
金と権力に強欲で、アズマ曰く「金持ちで政治が好き」。
彼の様子がおかしいと、何かあったら相談するように言われてた娘から9課に依頼が入る。


  • 石田博士
マイクロテレメータ社所属の研究者。
欠陥マイクロマシン販売や偽装工作について告発するものの、体内に爆弾を仕掛けられる。
証人の保護のために、9課は街を駆けずり回ることに。


  • 黒沢博士
同じくマイクロテレメータ社所属の研究者。
石田博士とは隣部屋。
愛人である同僚が行方不明になったため、クロマに捜索を依頼する。


  • ローファ
バトーが現在付き合っている電脳空間内の女性。
中身は95歳の男性だが、身元を洗ってある部長は「知らせなくてよい」と放置している。


  • キム
バトーの軍時代の同僚。
特殊な入れ墨をした人間の連続殺人事件を追っていたところを9課と鉢合わせになり、合同捜査を持ちかける。
法や犯罪者を相手にすることをくだらないことと考えている。

  • 久保田
軍の情報部長。荒巻とは昔の同僚。


  • 狭流木(はざるぎ)セーラ
車の衝突事故で死亡した17歳の会社員。
沖縄出身で、かつてあった沖縄での戦争被害に関して多数の訴訟を係争している『沖縄会』に所属。
カラーページで美少女に描かれて登場しておきながら、次のページではもう殺されてた不幸すぎるOL。
事故に会う前にすでに車内で死亡しており、同じ車内の男二人の身元が不明だったことから9課に呼び出しがかかる。


  • 式部
薬師署の公安担当。
狭流木セーラの事件で9課に捜査の主導権を握られたことに不満を持っている。
沖縄会に潜入捜査をしている。


  • 深谷
沖縄が核攻撃を受けた際の外務省アジア担当局長。
セーラの死亡と時を同じくして姿を消す。


  • 袁小輝(ユアンショホイ)
中国陸軍の狙撃手。
何者かに依頼され、深谷殺害のために入国する。
サイトーと同じくタカの目を装備。

  • 赤辺
中村部長の後の?公安6課長。
荒巻とは特に衝突していない。

外務省アジア担当局長。
沖縄が核攻撃される情報を掴んでいながら座視していた一人。
そのことが明らかになることを嫌って、深谷氏護衛の6課員を勝手に使って深谷氏がディスクを託した狭流木を殺害させた。
深谷氏の方は中国のエージェントに始末を依頼したが深谷氏本人は勝手に自殺。


用語


組織

  • 公安9課
内務省・首相直属の秘密特殊部隊。
少数精鋭の実力部隊で、国内の大規模犯罪やテロの抑止・カウンターテロ・要人警護などが主な任務の総合的な防諜機関。

犯罪に対して攻性の組織であることが基本理念にあり、犯罪を察知するとそれが発生する前にその芽を摘み取っていくことを目的としている。
そのため潤沢な資金と装備があてがわれており、また首相直属であるため他所からの圧力もかけづらい。
課員が個人で火器を隠匿していることも黙認されており、社会正義のために法に触れていることも多々ある。
ぶっちゃけ国家機関に所属してなければ、捕まってもおかしくない犯罪者一歩手前の連中の集まりである。

ちなみに表向きは国際救助隊という事になっており、その名目で資金が捻出されている。


  • 公安6課
正式名称は、外務省条約審議部。
海外関連の事件や工作、諜報を担当する外務省の情報部隊。
国内の事件を担当する9課とは対極にある。


  • 霊能局
宮内庁管轄の日本の秘密機関の一つ。
普段は風水等で地震や災害の規模を抑えたり、外国要人との会談を霊的にバックアップする仕事を行っている

『霊能』という性質から関係者からも胡散臭がられているが、ポセイドンなどの大企業では霊能による情報収集なども行っており
科学技術では対処できない霊能者対策の検討なども真面目に行われている。


日本に拠点を置く巨大な多国籍企業。
電脳や義体関連商品を主に扱っており、最近では傘下企業のメディテック社でブタで人の臓器を作るビジネスを始めている。

その巨大さゆえに様々な勢力から目をつけられており、社内外のトラブルを解決するため保安部や考査部が日夜活動している。


  • スターバト・マーテル
流行しているサイバードームの一つ。
アーティスト「ミレニアム」を中心に、エンターテイメント集団として組織されている。
サイバードームとは物語の主人公に観客全員が電脳移入して共通経験する映画のようなもの。

本拠地はシンガポールにある。
ミレニアムの高いカリスマ性によって統括されており、聖母(マザー)とも呼ばれるその様はまさに宗教。
そのためほぼ彼女の私設部隊となっており、サイバードーム運営の傍らさまざまな計画を遂行している。

地味に攻殻SAC2期にも登場している。*33


  • 「眠る宇宙」
衛星軌道上に存在する大規模託体施設。
ポセイドン製の衛星内にあるカプセルのなかに、会員の体がゲル状物質で保管されている。

権力者の秘密クラブのようなもので、利用者は体をここに預け、電脳空間内で過ごしたりデコットを操って現実世界で仕事をしたりしている。
デカトンケイル級スーパーコンピュータなど高い技術の設備を有しており、2で草薙素子はここから活動している。



技術

脳にマイクロマシンを注入し、人間の脳とコンピュータネットワークを直接接続出来るようにする技術。
簡単に言ってしまうと、脳をパソコン化すること。
これにより、通信や機械の制御など幅広い様々なネットワークを自由に行き来できるようになった。
その利便性から多くの人間が電脳化を施しており、首元に外部接続用のコネクタが存在している。

反面、電脳化により脳そのものがコンピュータと同様にハッキングされるようになり、
ウィルス感染や記憶の改竄・体の乗っ取り・人格そのものを操作されるなどの問題も起きている。
このため高いハッキングスキルを持つハッカーの地位が非常に高くなっており、防壁などで脳を守ることが重要になっている。
詳細は該当項目にて。


いわゆるサイボーグ。
義手や義足の概念の延長上にあり、身体の一部を機械化すること『義体化』をいう。
脳殻や神経以外の全てを義体化した人のことは、『全身義体』と呼ばれている。
電脳と同じく社会に普及しており、義体用の食事が自販機で買えるなどの福利厚生もしっかりと浸透している。

また大体は人間と同じような姿をとるが、あえてロボット風の外見(ジェイムスン型)をとる場合もある。
本作独自のサイボーグ技術は『電脳(攻殻機動隊)』項目にて説明されているので詳細はそちらを参照のこと。


  • 光学迷彩
光学技術を応用して、隠蔽対象を光学的措置により本来の見え方とは別の見え方にするための技術。
単純に視覚から消えることはもちろん、高性能の物になると赤外線・感圧・音響センサーからも姿を消すことができる。

弱点としては、実態そのものは存在しているため土埃や煙などの環境化や、雨などによる光の屈折率が変動しやすい状況下だと視覚的な迷彩が解けてしまう点。
後者に関しては、これに対応した全天候型の光学迷彩も存在する。


  • ゴースト
森羅万象・全ての物質に宿るものであり、存在の「系」の「複雑さ」と「活発さ」を示す指標。
この時代では「身体を人工物に代替可能になった際に、部位を置換していき、それでもなお最後に残るもの、置換不能のもの、個を特定できるもの」という意味で語られることが多い。
一般的には魂、心、自我、意識といったようなもの、義体化とロボットの高性能化によって、外見的には差がなくなってきてしまった人間と機械を分ける重要な要素と認識されている。*34

この物語世界では「生命」は「物理現象の発現」に過ぎず、ゴーストの複雑さは有機生命由来の人類・ヒト由来の要素に限定・規定されない。
要するに何らかの目的によって人工的に作られたAIやロボットやアンドロイドであっても一定の系の複雑さを超えて存在するものには「ヒト相当のゴースト」があると認められる。
だがヒトの認識・社会の認識としてはまだそこまでは至っておらず、一般的には「強いAI」や「ロボット」などが独立した存在としてどの程度のゴースト相にあるかを識別できる段階にはない。
よって、霊能やEPS、チャネラーなどのアプローチによって辛うじて観測できるレベルに留まっている。*35


自律的に動く機械。
技術とAIの発達で高性能化が進んでおり、人間とあまり変わりない会話ができるものも存在する。
一段と社会に溶け込んだ一方、メイドや愛玩用のロボットがモデルチェンジなどで捨てられ、野良化するなどの問題も起きている。


  • セボット
センチメートルロボットの略。
1~10cmクラスの大きさで基本虫型をしており、配管メンテなどの閉所作業や害虫駆除などに使われる。
素子も目標の追跡や機密情報を届けるときなどに使っており、義体内に保管してあるものを口から出して利用している。


  • デコット
遠隔操作義体のこと。デコイ+ロボットの略。
脳殻の入っていない義体で、外部からコントロールして使用する。
高い電脳スキルがないと上手く動かすことができない。


  • 攻性防壁
ハッキングから電脳やデータを守る防壁の一種。
不正アクセスしてきた侵入者を逆探知し、逆に攻撃を仕掛け相手を破壊することで防御を行う。
無論、電脳に直接攻性防壁を食らったら即死。
このことは「脳を焼かれる」などのスラングで呼ばれている。
データの保護はもちろん、後顧の憂いを断つという意味でも有効な防壁。

その危険性から一般での使用は禁止されているが、テロリストなどに不正使用されていることも多々ある。
また攻性防壁に対する防御手段として、攻撃を受けた場合代わりに破壊される『身代わり防壁』というものも開発されている。


  • 思考戦車(シンク)
AIを積んだ自ら思考する戦車。
搭乗者のバックアップを行い、乗り手がいなくとも命令を聞いて任務の遂行などもできる。
大体クモのような形をしており、お尻の部分がコックピットになっている。


  • ヒトブタ
遺伝子操作で人間の臓器を持ったブタのこと。
ポセイドン傘下のメディテック社は、これによって顧客の遺伝子を組み込んだ緊急時の臓器のスペアを提供するビジネスを展開している。
宗教関係者や動物愛護団体から非難を受けているが、社会的認知と企業業績は上昇しており、需要は高まっている。


  • アイジャック
ポセイドン製電脳を持つ人間の視聴覚をこっそり盗んで情報を集めるシステム。
荒巻素子がポセイドンの製造ラインに仕込んだもので、ポセイドンで電脳化をするとこれが勝手に内蔵される。
草薙素子同位体が「草薙の剣」を使った結果の一つ。

当然ながら犯罪行為。
が、電脳自体が電脳倫理法に守られているため発見されることはほぼゼロ。
素子は必要なときにはこれ使い、情報を収集している。


  • デカトンケイル
ポセイドン・インダストリアルが保有するスーパーコンピュータ。
世界に三台存在しており、その重要性から使用には許可が必要で厳重なセキュリティが敷かれている。


  • 珪素生命体
ラハムポル博士が設計したシリコンベースの生物。
他作品でいうと、あれとかあれとかあれとか。
複雑なるもの」などとも呼ばれている。

AIとは違って生老病死を持ち、さらに完全な模倣子の継続性を保つという特徴があり、
草薙素子はこれと融合することで人間の認知限界の壁を越えることができると期待している。
荒巻素子の方はメリットは認めつつも、人間との対立を懸念している。



戦争

  • 第4次非核大戦
かつて世界で起こった核が使われなかった世界大戦。
東京に行われた歴史上最後の核兵器の使用により、開戦した。
これにより日本の首都は福岡に移っている。
詳しくはアップルシードにて。


メディアミックス


●映画『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(1995年、押井守)
原作を元に、押井独自の解釈を大いに取り入れた作品。原作に比べシリアス・硬質なムードが強くなっている。

●攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX(2002年)
●攻殻機動隊 S.A.C. 2nd GIG(2004年)
●攻殻機動隊 S.A.C. Solid State Society(2006年)
神山健治監督・Production I.Gのタッグが紡ぐ、「草薙素子が人形使いに出会わなかった世界」を描いたテレビアニメ。
押井版の硬質さ・原作における思考戦車の可愛さ等を入れつつも、犯罪者との対決を通じて現代に通じる社会問題を大きく取り上げている。
●攻殻機動隊 SAC_2045(第一期2020年・第二期2022年)
S.A.C.シリーズをベースにしたウェブ配信CGアニメ。Netflix出資のオリジナルアニメ。電脳の設定に加え現実における2020年代のもの(アプリやスマホ・タブレット)が多数取り入れられている。

●イノセンス(2004年、押井守)
『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』の続編で、原作『攻殻機動隊1.5』とは異なる形でバトーの物語を描いている。また作家山田正紀による前日譚小説も存在する。

●攻殻機動隊 ARISE(2013~2014年)・攻殻機動隊 新劇場版(2015)
黄瀬和哉・冲方丁によって紡がれる、攻殻機動隊誕生秘話を描いた新たな作品。キャストはこれまでのアニメ版から一新されている。


派生作品

●RD 潜脳調査室(2008年、プロダクションI.G/士郎正宗)
S.A.C.シリーズにおける電脳設定をベースに、「メタ・リアル」というネットへのダイブを主題に描いた作品。

●東のエデン(2009・2010年、神山健治監督作品)
直接的には関係しないが、S.A.C.シリーズの過去世界の話とされている。
監督が共通であることから世界観の共通化が図られている。ほぼ視聴者サービスのような要素であり、関連性は薄い。

紅殻のパンドラ ―GHOST URN―(2012年~、原案:士郎正宗・漫画:六道神士(9巻からは作画から外れストーリーのみ担当))
『攻殻機動隊 ARISE』の派生没企画が漫画家・六道神士氏の元に持ち込まれ、企画自体が練り直された漫画作品。
『攻殻』本編の少し前の時間軸を舞台にその時代にはまだ珍しい「全身義体に適合した少女」と「アンドロイドの少女」の出会いを描く。
士郎正宗氏は「原案」ではあるが、企画監修にガッツリと噛んでおり『攻殻本編』や『アップルシード』に直接繋がる作品でもある。
よって、馴染みのある設定やキャラクターの近親者等も多数登場、巻末の士郎正宗による設定解説も含め色々と本編考察の参考になる作品。
詳細は該当項目にて。

余談


  • 物語の舞台となっているのは新浜県という架空の海上都市となっている。
  • 概要にある通り他のシロマサ作品とは世界観を共有しており、『アップルシード』はここから100年ほど先の未来。『紅殻のパンドラ』は10年くらい過去になる。
  • アニメ版で主人公・草薙素子の声を長年担当している田中敦子女史だが、こちらの原作もちゃんと読んでいる。
    曰く、エッチなシーンが結構あったことにびっくりしたとのこと。
    そのためか『紅殻のパンドラ』に出演した際は、複雑な設定を何も言われずとも最初から理解していたらしい。








「さあて、どう追記・修正しようかしらねぇ」

「ネットは広大だわ……」


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最終更新:2024年03月21日 20:52

*1 ただし1985年を境に実際の歴史とは違った展開の世界である。

*2 原作者も欄外注釈と本編を同時に参照すると読書リズムを崩してしまうので別々に楽しむように推奨している。カバーそでに記述がある。

*3 そもそもアップルシードの段階から翻訳コミックは刊行されており、「Shirow Masamune」の名前は知られていた。

*4 SACシリーズの姉妹作品として作られたが、実際のところ直接の繋がりはないらしい。

*5 原作者は「そのままの展開は映像化には向かないだろうし、誰も望んでいないだろう」としている。

*6 裏表紙の目次にある「NEW」の項目が追加頁の量である。

*7 よくある誤解だが原作攻殻機動隊の世界観の中では「生命」というやや「あやふや」な概念は忌避される傾向にある。「情報の累積によってヒトに匹敵する知性を有する情報体」が現出した場合、ヒトはそれを認識できるだろうか?といったことのテーマに副次的な要素としては存在する。原作攻殻機動隊1巻343頁欄外注釈参照。

*8 知る人ぞ知る組織であり、広く知られている訳ではない。但し物語の結末付近では…。

*9 ゴーストハックによりバトーの管理を離れたセルフパンチで、ではあるが…。

*10 1巻の段階では。スナイパーの話は後述の1.5巻から。

*11 草薙が孫娘と同じ型の義体を使っていたことも影響している。詳細は先のリンク先にて。

*12 アニメ版SACでは「くるたん」とも。漫画版がその名前であるかは不明だが、後年士郎正宗氏はその名前を出すこともある。

*13 彼は義体技術の基礎になる神経接合の疑似信号の開発やゴーストダビング装置の考案と自ら実験台になるなど、義体技術や電脳技術に多大な貢献をした人物だったが、ゴーストダビング装置の弊害であるスキャン時の光によって神経網が劣化してしまい、性格が変貌して犯罪者になり果ててしまった。

*14 法的には。実態は俗に『攻殻機動隊』と呼ばれる攻性のための公安組織である。

*15 しかもスキャンダルを盾に素子たちの独立部隊の人員と聖庶民救済センターの予算を一気に奪われた。

*16 …のだが、2022年現在それを引き継ぐ作品は提示されていない。

*17 雑誌の告知では便宜上「攻殻機動隊2」と書かれていた。

*18 残りのエピソード群が1.5巻に収録された。元になった「DUAL DEVICE」と比較すると2.5倍ほどのボリュームアップがなされており、ほとんどの部分がデジタルで描き直されており原型はほぼ留めていない。

*19 通常版単行本では差し替えられている。また前述の通り先行版には存在しないエピローグが追加された。

*20 登場人物の大半は電脳技術を使いこなすプロフェッショナルなので荒巻素子に限らず高い電脳スキルとセキュリティ技術を展開しているため、それらを一つづつ丹念に描くことによって読書難易度が上昇する一因ともなっている。実際のところは政治的な話や神話に関してはそこまで主題ではないので「だいたいそんな感じ」と分かる程度の知識があれば問題はない。

*21 というより「攻殻機動隊」に限定しない士郎正宗氏の世界観に基づく後続の作品で説明されるはずだった要素の伏線だらけなので単体で読んでも説明されていない要素が大変多い。そしてその要素のうち明かされているものは割と少ない。士郎正宗著「PIECES Gem 01 攻殻機動隊データ+α」という本の中である程度補足はされているが、それでも十分とは言えない。

*22 なお、電子版紅殻のパンドラの22巻の巻末の士郎正宗氏の資料によると、続編らしき作品は準備されていることがうかがえる。よくよく言われている「筆を折った」「エロ漫画に集中している」という指摘は当たらない点は付記しておく。発表がいつになるのか不明な点は不安要素ではある。なお収録されているのは電子版のみなので参照時は注意のこと。

*23 支援AIからは疑われている。ちなみに途中で家族の都合で離脱するグレスだが、これは荒巻素子を釣り上げるための罠であり、グレスと随伴を任された支援AIでその件を解決するという話も構想はされていたらしい。

*24 そもそも時系列をちゃんと整理すれば分かることだが、プロローグの素子と環は同時間軸の話だが、エピローグの環パートはプロローグ直後の出来事である。時系列としてはプロローグ(1話)→エピローグ(6話)→アンダーウォーター(2話)であり、環がエピローグで見たのは「これから起こる本編の予知」である。彼女はエピローグのラストから草薙素子の介入を受けて本編のこの件に参加させられている。

*25 「草薙の剣」と呼ばれる。

*26 アップルシードにおける人造人間でヒトとAIの間に立って、時にヒトを客観的に見守り、時にヒトを監督する緩衝材的な存在である。

*27 「オリュンポスのモデル」では。他にも同様のアプローチが存在する可能性が高い。

*28 実際本作から約100年後の状態を描いた『アップルシード』においては「ヒト」「バイオロイド」「AI(コンピューター・ガイア)」の三すくみシステムからなるオリュンポスの都市設計が提示されている。

*29 「珠の時代」「鏡の時代」「剣の時代」などの話はそのことである。

*30 攻殻機動隊1.5のカバーそで参照。

*31 なお電子書籍版ではマンガ部分以外はカットされているので注意されたい。

*32 SACのようにバイオロイドでもない。

*33 もっとも、草薙素子と人形使いが融合しなかったSAC世界では草薙素子同位体要素が存在しない似て非なるものである可能性が高い。

*34 この時代における一般認識・社会的な認識として決して間違っている訳ではない。

*35 アンタレスが「電脳マイクロマシンが何世代か進んだら(今の時代には誰にでも見える訳ではないものが、いずれ電脳化した人全てにとって見ることができる目が得られる)」と語っているのはこのため。