フェルミのパラドックス

登録日:2017/02/11 (土) 17:37:00
更新日:2024/04/25 Thu 22:13:40
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『フェルミのパラドックス』とは、

「宇宙が現在考えられているほど広く、長い歴史を有しているなら、知的生命体も数多く存在していると考えられるのに、未だに地球人と一種類も接触していないのは何故か」

要するに「こんだけ宇宙が広いなら、地球旅行ができるハイスペック宇宙人がいても良さそうなのになぜ未だに誰も来ないのか」
という、妥当と思われる解答が複数考えられ、互いに矛盾するものである。


歴史

1950年にノーベル物理学賞受賞者のエンリコ・フェルミがランチタイムの話題に話したのが最初とされる*1このパラドックスは、その後にマイケル・ハートによって研究が進められたため、『フェルミ・ハートのパラドックス』とも呼ばれる。

日本語で読める文献としてスティーヴン・ウェッブ著、松浦俊輔訳の「広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由―フェルミのパラドックス」(青土社・2004年)をオススメしたい。

『ドレイクの方程式』*2とは直接の関係は無いが、この問題を考察する時に重要であることは言うまでもない。

現在の試算によれば、
「ある程度以上科学技術が発達した文明であれば、極めて短期間*3に宇宙、少なくとも銀河全体に生息域を広げるはず」
とされている。

この試算が正しければ、『地球を含めた銀河系全体がとっくに知的生命体に征服されていなければおかしい』のだが……。

地球科学や物理学・生物学的な観点からはもちろん、論理学的・哲学的な観点からも多数の「解答」が提案されている。
それらの解答内容は大まかに以下の3つに分類できる。

  • タイプA:「異星人はすでに地球に到達しているが、我々が知らないだけ」
  • タイプB:「異星人は存在するが、まだ地球に来ていない」
  • タイプC:「異星人は存在しない」



タイプA:「異星人はすでに地球に到達しているが、我々が知らないだけ」系の回答


  • 異星人はすでに来ていて、ハンガリー人のふりをしている

一説によると、件のランチライムの席上で唱えらえた説だという。
ここでいうハンガリー人とは、ジョン・フォン・ノイマン*4やエドワード・テラー*5をはじめとするアメリカで活躍していた科学者である。
もちろんジョークだが、彼らはあまりの頭脳明晰さ故に、しばしば悪魔とか火星人とか言われていたのだ。
ちなみに上記のテラーなどは「まずいな、ばれちまったか。さてはフォン・カルマンさん*6が言いふらしたんだな」などと返したそうな。

  • 異星人はすでに来ていて、我々にバレないように観察している

創作世界で最も採用される、未確認飛行物体(UFO)をエイリアン・クラフトだとする立場。
おそらく最も良く知られた解答であり、「各国の政府がその存在を隠蔽している」という説明が加わる事もあって一般社会ではこれが正しい解答だと思っている人も多いだろう。
しかし、物証などは皆無に近く、多くの研究者からは支持されていないのは言うまでもない。


  • 異星人は過去に地球に来ていて、遺跡などに痕跡を残している

いわゆるオーパーツや個々の遺跡などの検証の結果から、現在のところ否定されている。

  • 何らかの理由で地球に立ち入らないように、他の異星人達の間で取り決めたのでやってこない

このような説を「動物園仮説」と言う。
創作世界では『2001年宇宙の旅』や『おねがい☆ティーチャー』などで採用されたので、聞いたことのある人も多いだろう。
やや主題から逸れるが、地球の側が他の惑星を保護区扱いにする例としては、スターオーシャンシリーズにおける「銀河連邦」がある。劇中において、文明レベルの低い惑星への干渉を制限する「未開惑星保護条約」を批准しているのだ。

科学的には証明も反証も難しいが、論理的には成り立つ可能性は低いとされる。理由については後述。
ただし、この地球においても北センチネル島の住人やアマゾンの奥地の未接触部族など、当地の政府によって外界から接触されないよう保護され隔離された、非文明生活を送る人類がいる実例があるので、全く無視できる説でもない。
もっとも彼らも航空機や漂着物を目撃するなどして他の人類の存在そのものは把握しているし、不干渉の取り決めを無視して彼らとの接触を試みる者もいるので、この事例を参考にするならやはり可能性は極めて低いだろう。

  • 異星人は地球に来ているが、我々には生物だと認識できない

要するに異星人とはケイ素生物だったり情報統合思念体みたいな存在である、という説。
しかし元々のフェルミのパラドックスは我々地球人のような有機生命体を想定していたのは間違いないので、別問題としておこう。


タイプB:「異星人は存在するが、まだ地球に来ていない」系の解答


  • まだ地球人が異星人を発見できるほど十分な時間が経っていない

地球外知的生命体の科学的探査に従事する多くの研究者が、いつか成果が得られる可能性はあるので、まだ十分な時間が経過していない*7というもの。
ただし、これは「なぜ地球人が探し始めてから今までに、異星人が見つかっていないのか」に対するもので、『そもそも異星人がいれば、とっくに向こうから地球に来ている』に対するものではない。
前述の『ある程度以上科学技術が発達した文明であれば、極めて短期間に宇宙、少なくとも銀河全体に生息域を広げる』とされる矛盾は依然として残るのである。

  • 宇宙旅行できる異星人はいるが、たまたま地球が知られていないだけ

以下の理由により、論理的に成り立つ可能性が極めて低いとされる単純な解答。

宇宙における文明の在り方を以下の衰退期のことは考えないとして、3つの時期に分けて考みよう。

1・「まだ文明が宇宙に進出していない時期」
2・「宇宙全体に文明が広がりつつある時期」
3・「宇宙全体に文明が広がり、安定した時期」

上の説は、現在「2」の時期にあるという主張である。しかし「1」および「3」に比べて、「2」は極めて短いのではないだろうか。

例えば『コップの中の水にインクを一滴だけ垂らす』状況を考えた場合、

1・「まだ水にインクを溶かしていない時期」
2・「インクがコップ中に広がっている時期」
3・「コップ中にインクが広がり、安定した時期」

この3つがありうるが、「2」は他よりも極めて短い。*8
これと同様の理由で『我々が時期的に極めて短い文明の拡散期に生きている』ことは確率的には極めて低い*9
一応、異星人の文明がランダムに銀河に拡散すると仮定した場合、植民から漏れる空白地帯の出現がシミュレーションにより予測されているが、文明が銀河を征服する意思を持っている場合はもちろん当てはまらない。

  • 異星人が宇宙進出に興味がない(全員引きこもりである)
  • 技術的に外宇宙に進出できる前に、その文明が破たんしてしまっている

この手の解答は、例外が一種類でもいれば崩壊するという点で、説得力のある解答とは言い難い。

  • 異星人の理論でも、恒星間飛行を実現すること自体がそもそも不可能と結論が出た

現時点での地球人においても「理論的には恒星間飛行は可能」と議論されているので、この説は受け入れがたい。ただし、宇宙空間には我々には観測も予測も出来ない様な脅威が隠れている…という可能性も悪魔の証明じみた話だが否定しきれない。

  • 恒星間飛行にコストがかかりすぎるのでどの異星人もやりたがらない

上二つの説の派生型。
恒星間飛行が技術的に可能な文明が誕生したとしても、膨大な時間や資源を消費するため、実行までには至らないとする説。
遥かにハードルの低い有人月面探査ですら、コスト面の問題で半世紀も実行されていないという事実もこの説を補強する。
母星の寿命が迫れば移住を余儀なくされるだろうが、宇宙全体で見れば現在の宇宙の年齢よりも遥かに寿命の長い恒星が大半なので、そのような状況になる文明は(現時点では)多くないとも考えられている。
しかし無人探査機や信号なども確認できていない事は説明できないし、例外が一種類でもいれば崩壊するという点にも変わりはない。


タイプC:「異星人は存在しない」系の解答


  • 地球外生命体は存在しうるが、知的生命体まで進化することは極めて稀である
  • 地球外生命体自体が存在することが極めて稀である
  • 他に全く文明が存在しないとは言わないが、少なくとも地球は最も進んだ文明の一つである
  • 全宇宙とは言わないまでも、この銀河では地球しかない

穏健な説を含めれば、これが科学的にも最も観測結果に合致し、論理的にも妥当であるという意見が多く、解説書を書いたスティーヴン・ウェッブもこの説を支持している。
また「地球外生命」を書いたアミーア・D.アクゼルも「地球外生命が存在する可能性はほぼ100パーセントだが、地球は宇宙で最も進んだ文明である可能性が高い」と結論している。
具体的な根拠は以下のようなものである。

  • 系外惑星の探査の結果、ほとんどの系外惑星は地球とは似ても似つかない姿をしていることがわかった
  • 自然界の様々な物理的な値は、奇跡的に地球に人類が生存できる値を取っている。もしどれかの値が少しでもズレていれば、地球人は存在しなかった。

これはもちろん地球人に物理が合わせてくれたわけではなく、たまたま地球人が存在できるような値を取っている宇宙が少なくとも一つあった*10わけで、この「地球人に合っている」宇宙に他の知的生命体が存在しうる可能性は極めて低い。
このような考え方をレア・アース仮説*11と呼ぶ。



以上が科学的な根拠であるが、論理学的にも「地球はこの宇宙で最も進んだ文明に属する可能性が高い」と指摘されている。
それは以下のような理由による。

文明の段階が進むほど、当然人口は増えると考えられる。
ということは、今このページを見ているwiki篭りのあなたは、当然文明の段階が進んでいない星よりも、文明の段階が進んだ星に生まれてくる可能性のほうが遥かに高かった。
ところで、現にあなたが生まれてきた星は地球である。
ということは、地球は宇宙の中で文明が進んでいない部類に属する可能性よりも、最も文明が進んだ段階に属する可能性のほうが遥かに高い。

これは確率論の世界で「インスペクション・パラドックス」と呼ばれる議論を基にしている。
動物園仮説が成り立つ可能性が低いのも同じ理由である。
あなたは圧倒的少数派である「監視される側」に生まれてくる可能性よりも、はるかに人口が多いであろう銀河連邦側に生まれてくる可能性のほうが遥かに高かったのだ。

もちろん上記の議論は、あくまで「確率的に」地球が最も進んだ文明である可能性が高いと言っているだけで、そうではない可能性を排除している訳ではない事に注意。
ちなみに太陽系内の探査で他の惑星や衛星(エウロパなど)から生命が発見されたとしても、この説を否定するものではない(太陽系だけが特別である、という可能性が排除できないため)。

また、上記と同様の考えから、知的生命体が存在可能な時間は宇宙誕生から比較的短期間なのではないかといった推測もされている。
宇宙に存在する恒星は太陽よりも小さく軽い星が圧倒的に多く、それらの星々はエネルギーの消費量が少ないため、現在の宇宙の年齢よりも遥かに長い1兆年~100兆年もの期間に渡って輝き続けるという。
したがってそれらの星が持つ惑星に知的生命体が存在できるのであれば、星の数からも時間からも地球とは比較にならないほどの人口が未来の宇宙に存在するはずである。
それにも関わらず我々が生まれてきた星が地球であるこということは、寿命の長い恒星が持つ惑星には何らかの理由で知的生命体が発生できず、太陽程度の大きさの恒星が存在する期間しか知的生命体は存在し得ないのではないか、という考えである。


+ 番外編 暗黒森林仮説(小説の内容に触れるのでネタバレ注意)
SF小説「三体Ⅱ 黒暗森林」ではフェルミのパラドックスを題材の一つにしている。
前提として、
  • 「ある文明が別の文明の存在を知ったとしても、相手の文明とは物理的にも文化的にも大きな隔たりがあると考えられるため、対話と理解、信用を得ることはできないと判断する。それは相手の文明も同様である」
  • 「相手の文明がこちらの文明を発見出来ない程に技術力に一方的な差があるとしても、これから飛躍的に技術力を発展させて差が縮まり、こちらの文明が発見される可能性がある」
と語られる。
この二つの前提から弾き出される最善手は、
  • 「自分の文明は外の存在から発見されないように身を隠すべき」
  • 「こちらから外の存在を見つけたとしても、交渉や対話を選択肢とせずに見敵必殺を前提とすべき」
となる。
地球から異星人が発見できないのは発見されないように(攻撃されないように)意図的に隠れている為であり、異星人が地球に電波信号や探査機すら送ってこないのは発見しても交渉する気は一切なく一撃で滅ぼす攻撃の準備として爪を研いでいる為…と考えるのがこの仮説である。

この仮説も上記の反証からは逃れられないが、フェルミのパラドックスに一石を投じているSF小説なので興味のある人は読む価値あり。




もちろんこのパラドックスは、まだ解かれていない。
これまでの所はタイプCに分があるとされているようだが、明日にでもSETIが成果を上げたり、異星人が来訪してくる可能性は否定できない。
それまでは、是非あなたなりのこのパラドックスへの解答を考えてみてはいかがだろうか。




追記・修正は異星人が美少女型である可能性を計算してからお願いします。

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最終更新:2024年04月25日 22:13

*1 1933年に「宇宙旅行の父」コンスタンチン・ツィオルコフスキーも「知的生命体は皆宇宙へ進出するはずだが、そのような痕跡が観測されていない」ことを矛盾として指摘している。

*2 平たく言えば「地球外文明が存在する確率を求める計算式」。方程式と銘打ってはいるが、計算者個々人の考え次第である程度パラメータを自由に設定できるため人によって結果が異なり、何が正解かも決められていない。

*3 短期間といっても数千万年~数億年というスケールなのだが、現在の宇宙の年齢である約138億年と比較すれば十分に短い

*4 ハンガリー出身のユダヤ人数学者。数学や物理学、コンピュータ科学などに多大な功績を残した、20世紀科学史の最重要人物の1人。

*5 ハンガリー出身のユダヤ人理論物理学者。アメリカにおける水爆開発に関与した「水爆の父」。

*6 セオドア・フォン・カルマン。ハンガリー出身のユダヤ人航空工学者。流体力学や航空機開発を発展させ、宇宙開発に大きな影響を残した「航空工学の父」。

*7 地球外知的生命体探査(SETI)計画が始まったのは1960年代から

*8 事前にいつコップに水を垂らすのかを知っていない限り、インクがコップ中に広がる瞬間を見ることはまず不可能

*9 三浦俊彦「論理パラドクス」を参照

*10 正確に言えば、この宇宙以外の宇宙には存在しえなかった。我々がこの宇宙に存在しているのは奇跡でも何でもなく、「他の宇宙には存在できなかったから」に過ぎない

*11 文字通り「稀な地球」という意味で、希土類とは関係ない