シャーロック・ホームズ

登録日:2016/04/28 Thu 19:48:06
更新日:2024/04/12 Fri 00:14:35
所要時間:約 14 分で読めます





概要

スペルは“Sherlock Holmes”
長編4篇と短編56篇からなるアーサー・コナン・ドイルの推理小説『シャーロック・ホームズシリーズ』の主人公。
名付け前の仮称はシェリングフォード(Sherringford)。
今でこそシャーロック・ホームズで定着しているが、かつての日本語訳には「シァーロク・ホウムズ」と表記しているものもあったりする。

『名探偵』の代名詞的存在であり、多分イギリスのみならず世界で一番有名な探偵。同時に、架空の人物ではあるが、犯罪に科学的捜査方法を持ち込む先駆け的存在でもあったとされる。
後世の推理小説に与えた影響も大きく、特に探偵モノは何かしらホームズの存在を意識しているものが多い。
特に相棒のワトソンとの関係性は、「探偵と語り手(=読者)」という一種のテンプレを確立させている。日本に限らず、このプロットに影響を受けた作品は多い。が、ドイルも『モルグ街の殺人』から影響を受けていると思われる。
ちなみに、オーギュスト・デュパン(エドガー・アラン・ポーの小説の人物)の事を作中でバカにしていたりする(後に撤回しているが)。

『ホームズ』シリーズの熱狂的なファンのことは「シャーロキアン」と呼称される。
その条件はただ一つ、ホームズの実在を信じること、それだけであり、『伝記』の記述を元に事件やホームズ・ワトスン達の実生活を推測したりしている。

人物

ロンドン市民のイギリス人。「世界唯一の顧問探偵」を自負する私立探偵。
ベイカーストリート221Bのアパートで、元軍医の同居人・ワトソン博士を相棒に探偵業を営んでいる。

鷲鼻で角ばった顎をしており、背丈は6フィートをいくらか上回る程度だが、痩せているのでもっと高く見える体格をしている(『緋色の研究』)。
また本編では特に言われたことはないが、連載されていたストランド誌の挿絵で「おでこがとても広い」容姿に描かれているので、
「(M字)ハゲ」というイメージが定着しており、江戸川乱歩などは自作の『蜘蛛男』冒頭部のホームズの容姿説明で「はげ上がって」と記している。

出会ったばかりのワトソンからの人物評(後にワトソン自身が撤回しているものもある)

  1. 文学の知識 なし
  2. 哲学の知識 なし
  3. 天文学の知識 なし
  4. 政治学の知識 わずか
  5. 植物学の知識 多様
  6. 地質学の知識 限られているが実用的
  7. 科学の知識 造詣深い
  8. 解剖学の知識 体系的ではないが正確
  9. 通俗文学の知識 計り知れない
  10. ヴァイオリンの演奏がうまい
  11. フェンシング、ボクシング、棒術*1に優れる
  12. イギリス刑事法に実用的知識を持つ

天才的な発想力と豊富な知識量で様々な謎を解き明かす私立探偵。
しかし、上記の通り知識はかなり偏りがあるうえに、他人の思いに鈍感な部分も多々見受けられる。
知識が片寄っているのは、「人の脳にしまいこめる情報は限られている」という考えに由るものである。
捜査に必要ない知識は率先して忘れるようにして、知らないことは周囲にある書物で補うようにしている。
ただ、依頼人やワトソンなどの知人と接する時には基本的に愛想よく振る舞う、推理中以外は割と気さくな人物である(推理中は声をかけられることを非常に嫌う)。
友人は少ないらしく、ある場面ではワトソンに「僕には君以外に友人はいないよ」と語っている。

稀に推理ミスをする事もあるが、その時は潔く反省し、謙虚な態度を見せる(『黄色い顔』)。
が、たまに自分の事を「最終上告裁判所」と形容しているなど、自分の推理力には確固たる自信があるようだ。

体力にも自信があり、本編中では様々な格闘術や射撃の腕前を見せる。
モリアーティ教授を倒した「バリツ」なる日本の格闘技も習得しているが、当の日本人はそんな体術は知らない……。
シャーロキアンからはバーティツ、もしくは柔道の事だと予想されている。

書かれた当時は珍しくなかったが、コカイン中毒者であり、パイプもよく嗜んでいる。
コカイン中毒なのはワトソンからは大変不評で、後にワトソンが努力してやめさせた事になっている。
ただ、中毒なのは本人も認めるところだが、ホームズが実際にコカインを注入する場面は『四つの署名』でしか出てこなかったりする。

また、女性には興味がない。すまないがホモ以外は帰ってくれないか
一応「自分の知っている一番魅力的な女性」の話を『四つの署名』第2章でしているが、その女というのが「保険金欲しさに幼児3人を毒殺して死刑になった女」「魅力」ってまさか…
(ホームズの知人なのか、ニュースや文献で一方的に知った著名殺人犯なのかは不明。)
ただし、長年交際していた恋人を惨たらしい方法で殺されたために同じ手段を使って敵討ちをした犯人を(個人的な興味で調査していた事もあって)敢えて見逃し、
「僕は他人を愛した事はないが、彼の立場だったら同じ事をしていただろう」とその心情を慮った事もある。

変装の達人で、その事実を知るワトソンすら声をかけられても一瞬誰だか分からなかったりするほど見事に化ける。
演技力も非常に高く、ワトソンには「彼が探偵業を生業としたことで、名俳優が一人減った」と言われているほど。
変装とは別に芝居がかった事をするのが好きで、依頼人をそれで驚かせて失神させてしまった事がある。

科学実験が趣味だが、隠居後はなぜか養蜂の研究を行うようになった。
ただし、『最後の事件』の時点で自然に興味を示している事を明かしているので、隠居後に趣味を変えたわけではない模様。

20世紀中盤のポアロの様な情報収集先行型や、ミス・マープルの様な一般人だが安楽椅子探偵系で偶々身近で事件が起こるタイプでもなく、実際に現場へ出向いて捜査を行う現場主義。*2
大抵の場合、221Bで依頼主の話を聞きながら推理の筋道を立て、現場の材料からそれを補強し、真相を披露する。
また、ベイカーストリート・イレギュラーズと呼ばれる少年少女を手足に、情報収集を行っている事もある。

それが興味を引く謎なら、殺人事件に限らず、人探し、もの探しなども引き受ける。さすがに無くなった鉛筆を探すとか些細な任務で呼ばれるのはごめんらしい(『ブナ屋敷』より)し、
職業相談の依頼が来た際にはワトソンに愚痴をぶちまけて、ワトソンが「もしかしたらまた面白い事件かもしれないじゃん?」と宥めていた(『ぶな屋敷』)。
評判を聞きつけた外国の王族や政府関係者からの依頼もあり、明言されていないがイギリス王室とも関わったことがある(『バスカヴィル家の犬』*3『高名な依頼人』)。
お金にはあまり興味がなく、報酬もあまり気にしておらず『ソア橋』の回で「料金は規定通り払う(心づけによる上乗せも拒否)か、全額免除のみ。」と言っている。
(『プライオリ学校』の回のみ、最後に6000ポンドもの大金を要求したが、これは依頼料ではなく公言されていた懸賞金の支払い。またかぎたばこ入れなどの贈り物は普通にもらう。)
そのため『緋色の研究』の時点では仕事はあるがあまり収入がなかったと後にワトソンに漏らしているが、逆に言えばそれがワトソンとの共同生活の切っ掛けとなった。
シリーズ途中からは外国の王族らの依頼を多く解決した結果、『最後の事件』の段階で隠居して好きに暮らせる程度の財産はあった模様。

なお、ワトソンが自分たちが関わった事件の記録を脚色し、物語形式で発表したことで、自身の知名度が上がって依頼が増えたことには感謝しているが、
ホームズ自身は読み物として面白いように脚色するワトソンの書き方を(あくまで記録として発表するには)気に入らないようで、度々ワトソンに文句を付けている。
…が、それが後々ホームズ自身に跳ね返る事になる(後述)。

ホームズが事件を捜査した上で「厳密には犯罪となる行為をした者」がいてもその人物に同情すると
あえて見逃す・逮捕できる情報があるのに警察に渡さない・ 無罪になるように積極的に手を回す ことも珍しくない。
いわゆる法と正義の使徒ではなく、己の信念に従って犯罪者に立ち向かうタイプで、
謎を解くことには執着するが、犯罪者を司法にかけることにはこだわっていない。
それがホームズの気質だと言えばそうなのだが 作者が読者ウケを考えてそう設定した とも言える。
当時の英国は世界有数の先進国で司法についても整備されているが、現在から見るとまだまだ「お堅い」ため
捕まった犯罪者が普通に裁判にかかると同情の余地があっても容赦なく死刑になるなどの融通のきかないことになることがあった。
このためホームズの「スコットランドヤードが動けば過剰な罰を受けるが僕が黙っておくから幸せに生きなさい」というスタンスの方が当時の大衆の理解を得られたのである。なおワトソン

略歴


両親についてシャーロキアンの中では色々な説が出ているが、本編には登場しない。
兄は7歳年上で役人のマイクロフト・ホームズ。大叔母に実在の画家、オラース・ヴェルネが居る。遠い親戚にバーナーという医者がいる。

学生時代に親友の父親に関する事件をきっかけに、探偵を志した(『グロリア・スコット号事件』)。当初はモンタギュー街で探偵業を営んでいた(『マスグレーヴ家の儀式』)が、
ベイカー街に転居する事になった際に賃金が高かったためにルームシェアを行う相手を募集する事になり、アフガン紛争から帰還した元軍医のワトソン博士と共同生活を開始する(一作目の『緋色の研究』はここから始まる)。

元々探偵としては認められていた人物ではあったが、ホームズの手柄を警察が持っていく事に不満を抱いたワトソンが事件記録を発表していくと、広く一般に名が知られてさらに名声が高まっていった。
これについては「ホームズの名声はワトソンの活躍があってのもの」と評した人物もいるほど。

しかし、『最後の事件』でロンドンの犯罪を裏で操るモリアーティ教授と対決。ライヘンバッハの滝で彼を道連れに飛び込み、行方不明となった。


『私はホームズを最後に殺すことでこの仕事を打ち切ることを考えています。
彼のために私は他のもっと素晴らしいことを考える余裕がなくなっているからです』
――ドイルから母親への手紙


この打ち切りのような終わり方は、本業の歴史小説で評価されたかったドイルがホームズを書くのを心底嫌がった結果である。
これにより、物語は終焉を迎えるのだが、ファンから殺害予告が届いたり、高額な原稿料が設定されるなどで再びドイルはホームズを再開する。
ちなみに決して簡単に腰を上げたわけではなく、リアルタイムで10年間ホームズは死にっぱなしだった。
また、この休止期間中にネタが浮かんだ際には「別にホームズ以外に新しく探偵キャラ出す必要ねぇだろ」くらいのノリで時系列的に死亡前の『バスカヴィル家の犬』を発表していたりする。

モリアーティとの対決からホームズの復活までの作中の3年間はシャーロキアンの間では「大空白時代」と呼ばれ、様々な考察の対象になっている。

ライヘンバッハの滝において、先述のバリツで教授だけを落としたホームズは、モリアーティ一味から身を隠すべく潜伏。
最後のモラン大佐を捕まえるべくベイカー街へ帰還し、ワトソンを失神させる(『空き家の冒険』)。

その後もベイカー街で事件を解決していくが、徐々に犯罪への興味をなくして自然科学への興味を持つようになり*4、自身の衰えを確信したのもあって探偵業を引退し、晩年は郊外で養蜂の研究に勤しむ隠居生活を送る。
しかし、そこでも事件解決を依頼されている(『ライオンのたてがみ』)。隠居後もワトソンとの交流は続いていたらしい。
養蜂家としても優れていたようで、養蜂の研究結果に関する著書を出した事をワトソンに自慢している。

短編では44番目だが、ドイルが用意した一応の最終回であり、おそらく時系列的に最後となる『最後の挨拶』では、第一次世界大戦直前に、ドイツのスパイと諜報合戦を繰り広げた。


人間関係


  • ジョン・H・ワトソン
ベイカー街221Bの同居人で、医学博士。
アフガン侵攻に軍医として従軍した際、銃撃を負ってしまい、療養のため帰国。ロンドンで宛もなく過ごしている中、友人にホームズとの下宿を提案され彼と共同生活をすることとなった。
因みに『緋色の研究』では左肩に銃撃を受けたことになっているが何故か後に脚に変更されており、ホームズシリーズの謎の一つとなっている。

ホームズが世界一有名な探偵なら、彼は世界一有名な相棒である。突飛な性格のホームズの最大の理解者で、彼の記録人。
医者の稼業を放り出して事件現場へ赴いたりもする*5まぁ、そうじゃないとホームズが拗ねるし*6

本人は一般人目線のようだが、彼自身も変な奴ではある。
そもそも彼がホームズと同棲ルームシェアすることになった理由は前述の理由で体を壊してまともに働けず、
政府からの療養手当の受給によって静養すべきところを 無計画に高いホテルで自堕落に暮らして金が尽きたため
ワトスンは決して真面目で無個性な一般人代表キャラでないことを 物語冒頭から 記述している。
ホームズの方がそれを圧倒的に上回る変人キャラとして定着しただけ
依頼人や関係者と絶対に秘密にするとしていた話を暴露する事もしょっちゅう(『ボスコム谷の恐怖』『唇のねじれた男』)で、彼の中に守秘義務という概念はないようにすら見える*7
あったとしても約束していた相手が死んだら守る必要はないくらいには思っている可能性は高い(『まだらの紐』)。メタ視点でいうと彼が秘密を守ってたら物語にならないのではあるが
未発表事件についても「色々秘密にしないといけない問題があるので、世紀が変わるまでは発表できない」と発表する気満々な発言もしている。
実際世間的にも秘密を握らせるとヤバいヤツと思われているらしく、終盤のエピソードではホームズが関わったスキャンダル関係の事件の関係者から事件を発表しないで欲しいと懇願されたり、
保管している事件簿を発表されると困る第三者から破棄されそうになったと語っており、前者の懇願に対しては秘密を絶対に漏らさないと確約している。
後者については「次やったらホームズから事件を発表していい許可貰ったから覚悟しとけよ?」と脅した
フォローするならば「バラされる恐怖に悩まされる人」はいても「バラされて実際に困った人」は いない ので最低限のラインは守っていると思われる。*8*9
現実世界の我々はワトソン側の主張しか見れないのが難点だが
なんだかんだでホームズにとっては唯一無二の親友なのは間違いなく、ワトソンが負傷したりするとホームズは物凄く感情的になる(『3人ガリデブ』)。

ちなみに上記の理由で家賃を浮かすため事でホームズとベイガー街で一緒に暮らすようになるが、第二作『四つの署名』事件で知り合ったメアリー・モースタンと結婚して早くも一度ベイカー街を出ている。
だが、メアリーとは「悲しい別離」 (『空き家の冒険』)があった*10ため、ホームズが生還した後は自宅兼診療所を売り払い*11、またベーカー街で一緒に暮らすようになった。
その後、相手は不明ながら再婚してベイカー街を去っているが、ワトソンの再婚を巡ってホームズとワトソンはガチで喧嘩になったらしく、
この一件をホームズは「自分達の付き合いでワトソンが唯一取った自分勝手な行動」であり、それにより「独りぼっち」になったと綴っている。
作中ではメアリーとの交際以外ではそんな様子はないのだが、本人曰く三大陸に渡る女性遍歴があるとのことで、ホームズも「女性はワトソンの領分」と発言しているなどどうも女性関係にはだらしない一面があるらしい。
なのでメアリーと結婚する前に一度結婚していた事があるのでは?という説もある

なお、『シャーロック・ホームズシリーズ』はその殆どがワトソンによる記録という形式となっているが、一部ホームズが自分で書いた形式のものもある。
これはホームズから記録の書き方や脚色について文句を言われ続け、腹に据え兼ねたワトソンが「じゃあ自分で書いたらいい」と怒ったことによるもの(と設定されている)で、
ホームズは自分が筆を執ることになって改めて、ワトソンの書き方がベストなものであると実感していた。

医者という職業柄か、原作でワトソンの紹介でホームズが事件に関わったのはたったの2回(『技師の親指』『海軍条約文書事件』)なのにホームズからは「君ときたら犯罪の海燕だからな」と言われるほどの巻き込まれ体質らしい。
尤も、『唇のねじれた男』のようにアヘン窟に友人を探しに来たらホームズと遭遇して事件に巻き込まれたなんて事もある(友人は事件とは一切関係ない)のでさもありなんな点はあるかもしれない。*12

最後に「ワトソンが事件の記録を元に書いている」という根底設定と、前述の「最後の事件」、並びにリアルの雑誌連載を整合すると、ホームズシリーズの短編集(1891年7月号~)は
「1891年5月にライヘンバッハの滝に落ちて死んでしまったホームズとの思い出を、ワトソンが振り返って書き始めたものだった。」というオチになる想定*13だったらしい。


  • レストレード警部
ロンドン警視庁の鼠顔の警察官。
初期作品ではあまり仲が良くない。レストレード警部は民間の探偵が活躍するのが気に入らず、
ホームズも警部の無能さに呆れる*14という図式で、よく対立している。
しかし、後期になるとお互いを評価し合う場面も登場し、ワトソンと3人で談笑するほど仲良くなっている。『6つのナポレオン』ラストの2人の会話は必見。

  • ハドソン夫人
221Bの女主人。
下宿人がいきなり部屋で意味もなく銃をぶっぱしたり、下宿人が科学実験したり、下宿人の元に依頼人が来て早朝からたたき起こされたり
下宿人のせいで火事が起こされたり、死んだと思ってた下宿人が生きてたりしてもホームズの下宿を続けさせてくれる超良い人。
たまにターナー夫人に名前が変わったりする。
某獣人化アニメで出番が多かったせいで原作では全然出番がなくてガッカリした人もいたとか。

なお、上記のアニメだと未亡人設定だが、原作では旦那の話そのものが出てこず、存命か死亡かすらわからない。
そもそもMrs. Hudsonはハドスン夫人と訳されがちだが当時の英語では「自分で下宿を経営している女主人」への敬称としてMrsを使うため彼女が一度も結婚歴がないとしても矛盾はしない。

  • マイクロフト・ホームズ
シャーロックの兄。ディオゲネスクラブ*15の主催者。
初登場時、ワトソンに「英国政府の末席で会計検査の仕事をしている」と自己紹介するが、
即座に弟から「兄は英国政府そのもの」と訂正される卓越した頭脳の持ち主。外見はハゲデブのおっさんだが、本当に人は見た目によらない。
その実力はシャーロックを上回るが、探偵業に興味がなかったため、探偵にはならなかった。
政府絡みの事件に登場し、ホームズとの兄弟仲は良いが、ワトソンには結構長い間その存在を教えていなかった。

このように原作ではホームズから尊敬され兄弟仲も良好*16なのだが、なぜか映像化媒体ではホームズからの評価が悪い設定にされることが多い。
ベネディクト・カンバーバッチ主演で世界的にも有名なイギリスのドラマ『SHERLOCK』や、ウクライナのゲーム製作会社Frogwaresが2002年より展開しているゲームの『シャーロック・ホームズ』シリーズなどが顕著。やや方向性は違うが三谷幸喜の人形劇『シャーロックホームズ』も同様。
大体の場合共通しているのは「マイクロフトは口ではなんだかんだ言いつつ弟を気にかけているが、シャーロックは国と権力のために頭脳を使う兄が嫌い(ただし捜査にそのコネや資金力が必要な場合は全力で利用する)」といった具合。まるで便利な道具のような扱い……。

  • アイリーン・アドラー
元オペラ歌手。
短編一作目『ボヘミアの醜聞』で登場した現ボヘミア王の昔の恋人。知性によってホームズを出し抜いた事から、彼から「あの女性」(the woman)と呼ばれる*17
短編の一発目からホームズを翻弄した描写、彼に強い印象を与えた女性、といった経緯から、実質一作しか出てないのにファンから高い人気を誇る。
名前だけなら何度か出ており、時系列上最後に当たる「最後の挨拶」でもちらりと登場する好待遇。

ファンやシャーロキアンは彼女に対して様々な妄想憶測を立てており、モリアーティ教授に匹敵する考察対象となっている。
なお、誤解されやすいが1858年生まれなので「ボヘミアの醜聞」(1888年3月20日)時点で30歳であり、女優業も引退済みである他。
ワトソンがこの話を書いている時点(1891年7月以前)で死んでいる*18

  • ジェームズ・モリアーティ
数学教授。その裏の顔は“犯罪界のナポレオン”とも言われる犯罪コンサルタント。
ホームズのライバルであり、ドイルが『シャーロック・ホームズシリーズ』そのものを抹殺するために作り上げた人物。
『最後の事件』で登場し、『恐怖の谷』でも黒幕としての存在感を発揮した。
ただし、彼の登場は全てホームズの会話や手紙で出てくるのみで、ワトソンが直接会ったことは一度もない(原作では、ホームズの口を通して断片的に語られるのみ)。
ホームズは彼の犯罪を止めるべく、ライヘンバッハの滝で彼を道連れに飛び込み、教授を葬ったのだった。
ホームズはモリアーティ一味を全て捕まえる手筈を警察と共に整えており、『最後の事件』終了時に主だった一味はすべて捕まったことになっていたが、
上記の通り一部が逃げおおせてホームズの命を狙っており、『空き家の冒険』にてホームズは探偵業再開のために残党を滅ぼす事になる。
要するにホームズが行方不明になってからベーカー街に帰らなかった理由づけである
ホームズに「モリアーティを倒してロンドンを平和にできたら今日人生が終わったとしても悔いはない」と言わせる程の相手だったが、
死んだら死んだで「モリアーティがいなくなってロンドンはつまらなくなった」とホームズに言わせる罪なヤツでもある。

ちなみに『最後の事件』ではフルネームは明かされず、兄弟の名前がジェームズという大佐と記述。彼ことモリアーティ大佐が死んだ弟を弁護する投書をした事がワトソンが『最後の事件』を執筆・発表したきっかけ、という設定になっている。
しかし『恐怖の谷』だと、彼がの名前が「ジェームズ・モリアーティ教授」と表記されている。これ以外に名前不明の弟(原文でもHis younger brother と明記)がイングランド西部で駅長をしているらしい。

パスティーシュ

比較的近年の作品ながら、シャーロキアン等、『ファンによる二次創作(所謂パスティーシュ)』が多い作品。
昨今、決まりの厳しい二次創作ではあるが、人気が出すぎた本作は「ホームズ・パスティーシュ」という一つのジャンルとして確立している。

例えば、『ボヘミアの醜聞』のゲストキャラアイリーン・アドラーは、あのひねくれたホームズを唯一翻弄し強い印象を与えた女性という事で人気が高い。某眼鏡小学生名探偵漫画ではそのせいで殺人事件が起きている
作中、アイリーンはゴドフリー・ノートンと結婚したとホームズが述べているが、あくまでホームズのワトスンへの伝聞だけという事や、大空白時代の存在もあり、
『シャーロック・ホームズ ガス燈に浮かぶその生涯』(1987年) ・『冬のさなかに ホームズ2世最初の事件』(1996年)ではホームズとアイリーンがくっついた設定になっているなど。

またドイル他界の前年1929年には、アガサ・クリスティも自作キャラがホームズオマージュにチャレンジする話(『おしどり探偵』「婦人失踪事件」)を執筆している。

上記の様に産業革命期・ヴィクトリア朝時代を描いた創作では登場頻度が高く、何故か産みの親と一緒に登場してる作品もあれば、ワトソン君が兄貴の命令でゾンビ帝国の情報を集めるべく、カラマーゾフに会いに行く話もあるなど、人気の材料である。日本人との共演もあり、ホームズが活躍していた年代にイギリスに留学していた夏目漱石や伊藤博文との交流を描いた作品や、大空白時代に偽名で来日していたという作品も。

『ルパン対ホームズ』

本編から離れた物語で有名な作品としては、モーリス・ルブランによる『ルパン対ホームズ』がある。
だが、実はこれは日本だけのタイトル。本当のタイトルは『アルセーヌ・ルパン対エルロック・ショルメ』である。
ショルメはホームズのアナグラムだが、日本語では分かりにくい・話題性という理由で邦題ではホームズと訳されている。
仏語発音のエルロック・ショルメではなく、英語読みの「ハーロック・ショームズ」と訳される場合も。

名前を見てわかるとおり、エルロック・ショルメはホームズのパロディキャラ。
最初の雑誌発表時は「ホームズ」として登場したが、諸事情で改名に至った様子。

ルパンの世界でも「シャーロック・ホームズ」シリーズは人気小説として愛読されているという設定になっている。
そのため、ショルメとホームズの容姿・性格はまるっきり違うとされており、作中でも登場人物が「名探偵ということでホームズみたいな人に期待してあったら、ショルメの容姿のギャップに落胆する」と記されているほど。

知名度は高く、ある意味では『キングコング対ゴジラ』のような『 夢の対決 』の先駆けともいえるか。

ちなみにホームズの「高名な依頼人」で「フランスのルブランという探偵」がセリフ中に出てくるが、残念ながらこの「ルブラン(Le Brun(茶))」はルパン作者(Le Blanc(白))とは綴りが違う。

名探偵コナン

日本の探偵ラブコメマンガ名探偵コナンにおいて、ホームズは主人公江戸川コナン工藤新一の尊敬する人物であり、物語がストーリー構成の核として用いられているほか、登場人物の名前や役割にホームズのキャラクターが当てられていることも多い。

単行本カバー折り返しに書かれるコラム「名探偵図鑑」でも、記念すべき第1巻に彼のことが記されており、
第100巻ではイギリスのドラマ『SHERLOCK』の主人公のシャーロック・ホームズが記載されている。

劇場版シリーズの傑作『ベイカー街の亡霊』では、19世紀ロンドンを舞台にしたゲームの登場人物としてホームズが登場する。
この時のホームズの容姿は新一の父である工藤優作がモデルとなっているが、これは開発に関わった優作が茶目っ気を出したためで、アイリーンとワトソンもそれぞれ工藤有希子阿笠博士がモデルとなっている。
なお、ホームズ登場の場面は最重要シーンのため、原作者である青山剛昌先生が原画を担当している。


近年の作品

『帰ってきたシャーロック・ホームズ』(1987年) は、モリアーティの弟により未知の細菌を盛られたホームズが冷凍睡眠を選び、現代で復活するという映画。

ドラマ『シャーロック・ホームズの冒険(グラナダ版)』は、原作に忠実として有名。


日本ではイタリアと宮崎駿の手により犬になったアニメ『名探偵ホームズ』が超有名。名作だがイギリスから怒られたらしい。

三谷幸喜によるNHKの人形劇では学園内の問題児で、モリアーティ教頭から目をつけられている。声は山ちゃん
ファミコンではシャーロック・ホームズ 伯爵令嬢誘拐事件という作品があり、ある意味プレイヤーの推理力が試される仕上がりになっている。どうしてこうなった。

古今東西の英雄たちをサーヴァントとして従えるFateシリーズにも、Grand Orderでサーヴァントの一騎シャーロック・ホームズとして登場。
作中でFateの世界では実在する人物だったと示唆されている。

イケメンなモリアーティを主人公に据え、大胆なアレンジがされている漫画『憂国のモリアーティ』にも当然登場。
原作通り諮問探偵として事件と関わりつつ犯罪卿を追い続けている。


ホームズの関係者の子孫設定のキャラ

現代が舞台の作品では、児童文学で有名なパソコン通信探偵団事件ノートシリーズ(通称パスワードシリーズ)などがある。この作品では準レギュラーとして、マイクロフトのひ孫・アイザック・ホームズ少年が登場。この作品世界では『シャーロック・ホームズシリーズ』は実在の出来事らしく、引退後のホームズについて焦点が当たる話もある。

生涯結婚しなかったホームズだが、作品のヒロインとなっている子孫が2もいる。しかも両方ピンク髮。
おバカな方の姓はシェリンフォードだが、ホームズではないのには理由があるらしい。トイズも使えるがバリツも使える。本人が召喚される場合、CVアーチャー。強くて有能。
CV.くぎゅの方は本人が現代まで存命で、秘密結社イ・ウーのリーダーとなってる。こっちも色々チート過ぎ。

また、海外でも「シャーロット・ホームズ」という、
ホームズの5代目という設定の女子高生探偵がいる。


余談

ギネスブックによれば、「最も多くの俳優に演じられた架空の人物」。
ホームズは映像面から人物像が広がっていることも多く、ジェレミー・ブレット(所謂グラナダ版)の姿をイメージする人も多いのではないだろうか?

有名な話だが、インバネス・コート、鹿撃ち帽、吸い口の大きく曲がったパイプのホームズ像は原作には描写されていない。
挿絵を描いたシドニー・パジェットがインバネス・コートと鹿撃ち帽を着たホームズを描き、
後に舞台俳優のウィリアム・ジレットが、ドイルの許可を得て自ら脚色した2本の舞台で作り上げ、今に至る姿を形作った。
そのため一部シャーロキアンは彼らへのリスペクトや必然性が足りない場合のそれらのコスプレを嫌悪する人もいたり。


彼の住所であるベイカーストリート221Bは、発表当時には存在しなかった番地だが、
のちに延長されて本当に221Bができたため、現在当該住所はシャーロック・ホームズ博物館になっている。
というか221Bの「B」とは「2番目の、副次的な」を示す「bis」で、普通に考えればベイカー街221番地はそこの女主人であるハドスン夫人宅の住所に使われて
そこの下宿人であるホームズやワトスンに221Bが割り振られたというところだろう。
博物館というとなんだか凄そうなイメージがあるが、元々普通のアパートのため、
作中におけるレイアウトが再現されたり、ホームズやワトソンの蝋人形が座っていたりする程度の小さな部屋。
ちなみに最寄り駅のベイカーストリート駅の出口には、ホームズのコスプレをしたお兄さんが立っており、ホームズ博物館への案内板を持っている。

作者のコナン・ドイルはホームズ執筆前にベイカー街から徒歩10分のモンタギュープレイスに住んでいたため*19
当然その番地が実在していないことはわかっていただろうが、メタ的には実在する住所を使って迷惑をかけないためにそこをホームズの住所にしたと思われる。
だがシャーロキアン的には「本当の住所を悪人から隠すためにワトスンはフェイクの番地で公表している」などの考察をしている。



ホームズ「うーん、この項目はいかにも表面的で大衆の嗜好に迎合しているね」
ワトソン「だったら自分でやってみろ、ホームズ!」


ホームズ(……ペンを手にして私は認めざるをえなくなった。追記修正は読者が興味を持つような方法で表現されなければならないのだ、と)

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最終更新:2024年04月12日 00:14

*1 当時の英国で流行していた紳士なら携帯してもおかしくないステッキを木刀のように使って戦う木剣術。

*2 といっても椅子に座ったまま依頼人の話を聞くだけで適切な助言を与えて解決する事例も珍しくないことが『緋色の研究』で示されている。ワトソンも「ホームズがあっさり解決した事件もあるが、面白みがなさ過ぎて物語に適していない」と『入院患者』でぶっちゃけており、ホームズが直接冒険しなければ解決できないような難事件をワトソンが多く発表している考えた方がいいだろう。ちなみにワトソン的にはホームズが活躍しているのが望ましいが、それ以上に物語性も重視しているため、前述の『入院患者』では「ホームズがいなくても別によかったけど面白い事件だから良し」と発表したり、『覆面の下宿人』のように事件そのものにはホームズは一切関わらず、関係者から話を聞くだけの話もあったりする。

*3 ただし、ホームズがロンドンを離れられない理由として「この国でもっとも高貴な方が脅迫を受けている」と語るだけで、本筋の事件とは無関係

*4 『最後の事件』で早くもその事に触れている。

*5 結婚していた時代は隣の医者が代わりに診察している設定。

*6 殺人事件のような緊急の要件ではなく、合間で時間が空いた際にはホームズも同意した上で医者の仕事を優先させてから合流した事もある。

*7 暴露する前に世間に事件の内容が誤解されていたからというちゃんとした理由もあったりするが

*8 実際、冒頭からワトソンが「どう公開してもヤバいだろこれ……」と悩みつつなんとかある重要人物の素性を一切明かさないという形で迷惑をかけないよう配慮した『犯人は二人』やホームズと何度も相談して「もうあの事件の事をバラしても誰も困らないだろう」と許可を貰った『高名な依頼人』のようなエピソードもある。

*9 尤も、『唇のねじれた男』に関しては警察と関係者との間で事件を秘密にする約束をしており、警察側が「関係者側がこちらの提示した条件を守らなかったら遠慮なくバラす」と言っていたような話なので仮に関係者側がそれを破ったとすればワトソンが暴露したのは残当案件となる。

*10 これ以上語られていないため、死別説が有力。

*11 この時診療所を買ったのがホームズの親戚のバーナー。しかも実際はホームズがお金を払っていたという念の入りようである。

*12 ただし、その友人は妻メアリーを通しての付き合いであり、探すきっかけはメアリーがその人物の妻(メアリーの友人)に助けを求められたため。この事をワトソンは「悲観にくれた人々は鳥が燈台を求めるかのようにメアリーを頼ってくる」と言っているのでワトソンの巻き込まれ体質はメアリーも関係している可能性もある。

*13 『最後の事件』そのものは1893年12月号に掲載であり、特に1891年と関係はない。

*14 ただし無能だらけの警察組織の中では物分かりがいいほうだと思っている模様

*15 会員制のクラブ。クラブ内では言葉を一切発してはいけないというルールがあり、マイクロフトをはじめ、人付き合いに疲れた偉い人たちの憩いの場となっている。

*16 厳密に言えば悪くも描写されていないので、まぁ普通の兄弟くらいの家族仲

*17 ただし「ボヘミアの醜聞」という事件については普通に「アイリーン・アドラーの~」と名前で呼ぶ。

*18 「ボヘミアの醜聞」冒頭の彼女の説明の最後に「故アイリーン・アドラー(原文:the late Irene Adler)」と・・・

*19 そもそもホームズもワトスンと知り合ってベイカー街221Bに引っ越すまではモンタギュープレイスで暮らしていた。