ドーベルマン刑事

登録日:2016/03/15(火) 18:17:38
更新日:2023/10/23 Mon 19:41:30
所要時間:約 10 分で読めます




『ドーベルマン刑事(-でか)』とは、原作:武論尊(『北斗の拳』)、作画:平松伸二(『ブラックエンジェルズ』)による漫画作品である。
週刊少年ジャンプ1975年39号 - 1979年48号で連載された。

連載中に実写映画化され、1980年には『爆走!ドーベルマン刑事』の題でTVドラマ化もされた。
内容のせいかアニメ化は一度もされていないが、1996年には竹内力主演(!!)でVシネマ化されている。

平松伸二のデビュー作であり、平松節の全ての原点とも言える作品でもある。武論尊先生も罪なことをしたものだ。
後に週刊漫画ゴラクにて続編『新ドーベルマン刑事』が連載された。

また、グランドジャンプPREMIUMにおいて作者・平松による連載に至るまでの舞台裏を描いた『そしてボクは外道マンになる』が連載された。


概要

一言で言い表すなら、「刑事と思しき人々が犯罪者のようなものと闘う話」
なんじゃそりゃ、と思うかもしれないが、本作に登場する善悪は双方余りに極端であり、1話に3~4人のペースで死者が発生し、毎週のように銃犯罪が勃発、主人公たちは彼らをジャンジャン銃撃しまくって逮捕もしくは殺害していく。
勿論、作中でも主人公・加納には幾度となく批判が寄せられており、マスコミや一般市民、救出した人質からすら罵倒されることも珍しくはない。
しかし読者に不快感を与える事は無い。というのも悪役が、

  • 金と保身のために暴力団事務所に肩入れし、告発しようとした記者を射殺する悪徳刑事
  • 旧大日本帝国軍の復活を夢見る超タカ派の自衛隊幹部
  • 原子力発電所を襲撃して原爆を製造したテロリスト
  • 日本人女性を強姦して殺害した在日米軍の兵隊
  • 麻薬を売り裁き、乱暴運転で市民を轢き殺しても気にも留めない外交官
  • 因業ババアと謗られようと孤児院建設の費用を貯め続けてきた老婆を武器調達のために殺害し金を奪った過激派学生
  • 平和を享受する世間の人々をブタとみなし無差別テロを繰り返し自らの短躯を利用して捜査を掻い潜るヒトラーかぶれの中年ドチビ
  • 加納が人を撃ち殺す場面で視聴率を稼ぐため、更生した覚醒剤中毒者に大量の覚醒剤を注射しわざと暴力団や病院を襲撃させた女性キャスター
  • 警官を倒して制服を奪い、日銀を襲撃した強盗
  • 天然痘ウイルス強奪犯
  • 対戦車ミサイルを米軍基地から奪取し、金融機関を砲撃して荒らし回った強盗団
  • 自衛隊に潜入し戦車を奪い取った過激派グループ

といった、同情の余地がこれっぽっちもない連中ばっかりなのである。

しかし、本作はそんな「外道死すべしアクション」ばかりではなく、

  • 醜悪な外見の為差別され続け、唯一心を開いた女上司からも容姿をタネに嘲笑われていたことを知って発狂した加納の幼馴染
  • 暴力団に教え子を奪われた復讐のために、たった一人で日本最強の暴力団に挑んだ教師
  • 母親の治療費のためにやむなく強盗を行い日本に密入国した不法入国者
  • 妻をグアム人強姦魔に襲われた復讐のために単身スナイパーになった宮武の旧友

のように「ワルとして生きざるを得なかった人々」の物語が多く展開する他、
加納が犯罪者や事件関係者と対話し心を開いていく人情話も多かった。
(特にアホの沙樹が登場してからはマイルド路線になりつつあった、と作者も語っている)

差別用語や社会風刺ネタも多いため、現在ではまず掲載できないようなエピソードも多い。

単行本は刑事漫画としては異例の全27巻
ちなみに『めだかボックス』は全22巻、『鬼滅の刃』は全23巻、『ニセコイ』は全25巻である。結構長く続いた作品だとご理解いただけただろうか。

人気の背景にはハリウッド映画『ダーティハリー』の大ヒット以降、類似のアクション映画が登場し本家もシリーズ化される人気作品になるなど、当時のエンタメ界全般で「正義のためには過剰な暴力も辞さないアクションもの」がトレンドだったことも大きい。
同時期に放送されていた刑事ドラマ『大都会 PARTIII』(日本テレビ)がこの路線で平均視聴率20%超えを誇っていたことからも、当時の状況を伺うことができるだろう。

あらすじ

警視庁特別犯罪課*1に所属する加納錠治刑事は、ドーベルマンの異名を持つ敏腕刑事だった。
大東京に悪有る所、愛車のハーレーダビットソンを駆り駆けつけ、相棒のニューブラックホークが火を噴く。
凶悪犯の抵抗、世論の批判、上からの命令、怨恨復讐…大都会に生きるドーベルマンに敵は多いものの、
今日も加納は上司・西谷警視や仲間達と共に、平和な世界をめざし戦い続けるのだった。

登場人物

特犯課

  • 加納錠治
本作の主人公。狼のような目つきと鬱陶しい長髪がトレードマークの鬼刑事。年齢不詳だが多分20代後半。
常に黒い革ジャン一つに身を包み、悪と戦う熱血漢。
新米の頃は人情派刑事をめざしていたものの、自分の不手際により有能な上司と人質が事件に巻き込まれて死んでしまったことを気に、
悪に対しては過剰なまでに制裁を下す修羅のような男となった。
泥を被ることも多く、「刑事ってのは嫌われるものだ」と自覚してはいるものの、無辜の善良な市民に対しては非常に心優しい正義の人。
孤児院出身の為、家族ネタには結構弱く、猛母を邪険にする宮武に対してもよく皮肉を叩いている。
無段の我流ではあるものの格闘技は達人レベルに強く、後述の狙撃もゴルゴ13クラスの腕前。
バイクを始めとするあらゆる車の操縦にも長けている。
こう書くと「なんだ俺TUEEEか」と思うかもしれないが、敵がもっととんでもない武装をしてたりするので負傷・敗北することも多い。
一応警察官ではあるものの令状を出してガサ入れするのは勿論制服を着ることすら滅多に無い。
それどころかわざと相手を撃たせて口実を作り正当防衛の旗の下に射殺することも何回もある。ムチャクチャである。

以下、加納のトンデモ描写で打順を組んでみた。

<フィジカル部門>
1(二) そもそも拳銃自体超一流のアクションスターが反動で肩壊すレベルのバケモノ銃なのに水鉄砲並みにバンバン撃っている
2(遊) 麻酔無しで開腹手術を受け、縫合が済んだ途端に病院ジャックを撃ち抜いて倒す
3(三) 戦車の腹にしがみついて火薬庫を撃ち抜いて撃破
4(左) 革ジャン一丁で飛行機の車輪にしがみつき、マイナス40度の吹きさらしに耐えながら銃を構えハイジャックを全滅させる
5(一) 兵隊十数人による弾幕を一発残らず回避して相手を数分で全滅させる
6(右) 火達磨になりながらも全く狙いを外さず犯人を射殺
7(中) 股でバイクのサドルを挟み宙ぶらりんになりながら運転を続ける
8(捕) 発射されたロケットランチャーやミサイルを見切って回避
9(投) 最終話、至近距離で胸に銃弾を4発受けタクシーから放り出されても敵を射殺し、着替えて自力で式場まで向かう

<拳銃部門>
1(二) 回転する装甲車のキャタピラのただ1点を見抜き、60連続で1mmも外さずに同じ位置を撃ち続けて断裂させる
2(遊) 飛行するヘリコプターにしがみついて遥か前方を飛ぶセスナの犯人を狙撃
3(三) ビルの工事現場の足場を固定する縄を掠めて撃ち、足場を外す
4(左) 200m先の犯人を目視で撃ち抜く
5(一) 100m先にいる犯人が前方に向かって放り投げた瓶を撃ち抜く
6(右) 起爆装置を握ったハイジャック犯のあらゆる挑発に耐えながら、落下した飛行機から海に飛びこもうとした一瞬の隙をついて腕を撃ち抜く
7(中) 窓にベッドマットを置いた暴力団事務所のわずかな隙間から狙撃手の位置を特定しマットごとぶち抜いて全滅させる
8(捕) 放水装甲車の砲門を正確に射抜き、貯水タンク内部のガソリンを炎上させる
9(投) 人質を抱え込んだ犯人に対し人質の脇の下、ハンカチ1枚分あるかないかの隙間を正確に撃ち抜いて射殺

愛銃はニュースーパーブラックホーク(リボルバー式拳銃)。弾丸は44マグナムを使用。
『ファミコンジャンプ』では拳銃に加えなぜか「手錠をはめる」という攻撃技がある。精神攻撃?

  • 西谷博
特犯課の課長で警視。東大卒のエリートで、物静かで穏やかな警察官。加納のムチャクチャさに頭を痛めつつも、悪に敢然と立ち向かう。
戦闘要員ではないが度胸は据わっており、重傷を負ってなお立てこもり犯に立ち向かったこともある。
妻と息子がいるがいろいろあって離婚寸前になったこともある。

  • 三森竜子
九州(多分福岡県)出身の美人刑事。亡き父親も警察官だった。男勝りな性格で銃の腕も抜群。
宮武曰く「あんな美人でグラマーで頭良くて強くてかっこよーしておまけに性格もいいような女なんておらんがな」という完璧超人。
加納に惚れており、刑事として結ばれることは無いと分かっていたからか、一時期警察官を辞めて実家に戻っていたが、
終盤で復職しバイオレンス刑事として加納と共に凶悪犯と戦った。
そして…。

  • 宮武鉄二
大阪府警マル暴出身の私服刑事で、通称ゲタバキ。長すぎるモミアゲと母親譲りのハート型のデコハゲがチャーミング。
過去に恋人を暴力団抗争の流れ弾で失ったことから刑事を志願し、荒っぽい捜査を行っていた。
加納と勝負するために特犯課に異動を申し出て、以降は刎頚の友となる。
基本的にアホで明るい性格であり、女性にはてんで弱い。
愛銃は44マグナムを放つ特別性オートマグで、腕前は加納に勝るとも劣らない。

  • 綾川沙樹
三森さんが退職した際に特犯課に入ってきた新米婦警。底なしのアホでミーハーだが情報通。
広域暴力団「竜神会」会長の娘であり、祖父は警察官だった。どういう家系だ。
弱い者には手を差し伸べる心優しい性格の持ち主だがとことん気が弱く射撃はドへたくそ。なんでこんな職に廻した。
終盤では会長が危機に晒され…。
モデルは当時の人気アイドルだった榊原郁恵。

  • キャティ・クラサワ
沙樹退職後に入ってきた警察官。ハワイ出身で日系Ⅱ世だが国籍は日本。
超ド級の美女で、ビキニと変わらないようなホットパンツと、ボタンの無いベスト(つまり常時乳首丸出し)しか着ていない露出魔。
ド派手なバイクを乗りこなす。勿論走行中は{{自主規制}}。なんで警察官になれたんだコイツ。
もちろん銃の腕も卓越している。
三森さんを恋のライバルと勝手に決めつける。誰か宮ちゃんにも愛の手を!

その他警察関係者

  • 橘田平造
かつての加納の上司。「刑事は銃じゃねえ、足で戦え!」がモットーのうるさ型の老刑事。
その足に病を抱え、最後のホシを挙げると引退し、加納からも賛辞の言葉を受けた。
引退後はお好み焼き屋を経営している。

  • 尾藤
交通課の白バイ隊員。「白バイアウトロー」の異名を持つバケモノ警官。
ある事件を皮切りに、本来の制服とは異なる赤いマフラーを巻く。

  • 太刀
尾藤の後輩。3年前にヤクザから救ってくれた尾藤を尊敬し、警察官になった元不良。


一般人

  • 東山美麗
東山財閥の令嬢で、身分を隠し暴走族のヘッドをやっていたが加納との邂逅を経て更生した…のだが、
加納に惚れてしまい結婚を嫌がってあろうことか婚約者を暗殺(!!)し加納と駆け落ちを目論み、当然ながら逮捕された。
しかし獄中では今度こそ猛省し元から好きだった絵画に励み、その腕をめきめきと上達させていく…。

  • 駒さん
よく特犯課が訪れる寿司屋「駒寿司」を経営する女将。
「鉄火のお駒」の異名を持つ豪気な美女で、加納に惚れている。だから宮ちゃんにもさあ…。

  • ゆうきラン
今を時めく大スター。18歳。ホントに珍しいことに宮ちゃんと相思相愛になった美少女。
過労によるストレスから自殺を試みたが宮武により阻止され、二人でキャンプをするうちに仲良くなっていった。
しかし、彼女が心から歌を愛していることを知った宮武は自ら鬼となることを決意する。

  • 三森和正
三森さんの弟。予備校生。

  • 綾川雄三
沙樹の父親で竜神会のドン。外見はイカツイが、早くに妻を亡くし娘を溺愛している。
いわゆる古いタイプのヤクザであり、スジを通さない者や悪逆な犯罪を行う者は断固として容赦しない。
終盤で脳梗塞で半身不随になり、外道の対立組織に組を乗っ取られかかるが特犯課の加勢で回避し、退職した沙樹に跡目を譲る。

  • 宮武カツ
宮武の母親。顔は宮武そっくりで物凄く恰幅のいい、世界最強の生物「大阪のおばちゃん」。
戦後の混乱期には暴力組織相手に機関砲で戦っており、なんとまだ家にある。しかも作中で息子目がけ発砲している。
口うるさい鬼ババではあるが息子のことを何よりも大事に思っている。

  • 風間健介
新宿で始末屋を営む男性で、元刑事。イケメンで女好きなチャラそうな男だが恐ろしく知恵が回る。

  • 矢沢正介
恰幅のいい個人タクシードライバー。元暴走族のスピード狂であり、安全性はともかく東京一の速さを誇る。
可愛い息子がおり、ライバルである尾藤とも息子の話においてだけは仲良くなる。
その足を買われしばしば加納に協力する。

  • 三森の結婚式に来ていた人たち
最終回を記念して祝福にやってきた皆様。本作の脇役の他にも
警視庁葛飾署ちいき課亀有公園前派出所巡査長
キン肉星の王子その付き人
空にそびえる鉄の城(等身大)
☆サーキットの狼
☆光の国の六兄弟の二男三男
☆隻腕の宇宙海賊
幽霊族最後の末裔のゲゲゲの少年
☆日本最弱球団所属の主将とアホ親子
☆東大を目指すアホ
☆極道高校の筆頭生
などが数多く参列した。




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最終更新:2023年10月23日 19:41

*1 架空の部署。