犬神家の一族(映画)

登録日:2015/12/26 Sat 11:43:34
更新日:2024/02/12 Mon 20:58:02
所要時間:約 11 分で読めます




■犬神家の一族■

本項では、1976年に公開された横溝正史原作の小説『犬神家の一族』の映画作品について解説する。

監督は市川崑で、金田一耕助役は石坂浩二。


【概要】

角川書店主導による映画企画の第一弾で、東宝が配給を担当。
現代劇としてアレンジせず、金田一耕助を原作通りの和装で登場させた初めての映像化作品でもある。

映画公開に合わせて原作小説の再販や史上初となるスポット枠での予告CM放送など、メディアミックスを多数実施したことで配給収入15億もの大ヒットを記録。
以降「石坂金田一」のシリーズ化は勿論、数々の金田一耕助物の映像作品が続々と生み出されていく事になった。
「スケキヨの白いマスク」「湖面から突き出た足」などのネタ要素も含め、日本における金田一耕助のイメージを決定づけ、ある意味では今日まで日本におけるミステリー作品の方向性を決定付けてしまった作品と言える。

暗闇を活かした画面や、場面を盛り上げる無駄に怖い演出から子供の時に本作を見てトラウマを抱えている視聴者まで居り、そうした人間にとってみれば最早ホラーである。

劇伴はジャズミュージシャンである大野雄二が初めて担当。
本作の評価を皮切りに、氏はこれ以降『ルパン三世(2期)』を初め、様々な作品の劇伴にて数多くの傑作を生み出していく事になる。
本作のメインテーマ「愛のバラード」も大いに人気を集めた。

2006年に30年の時を経て市川崑自身の手による本作のリメイク版が公開。
市川崑の希望により石坂浩二が再び金田一耕助を担当。
奇しくも……この作品が市川崑の遺作となった。

オープニングでも鮮烈な印象を与えている市川崑独自のタイポグラフィの妙は、後に『古畑任三郎』や『新世紀エヴァンゲリオン』でオマージュされた事でも有名。
※元ネタを知らない人間からは「エヴァ風タイポ」と呼ばれる場合も。


【物語】

――昭和22年。
日本の製薬王とまで謳われた信州の大素封家犬神佐兵衛が他界した。

――7ヵ月後。
探偵金田一耕助は、犬神財閥の顧問弁護士古館恭三の助手若林の依頼を受けて信州は那須市を訪れる。
直に顔を合わせる前に殺害されてしまった若林に代わり、古館弁護士自身からの依頼を受けた金田一耕助は、奇怪なる犬神佐兵衛翁の遺言状に端を発する、犬神家の親族を標的とした連続殺人の謎に挑んでいく。

遺産相続を巡り、敢えて親族が対立する様に仕向けたとも取れる佐兵衛翁の真意とは?
そして、犬神家の三姉妹に衝撃を与えた、過去に佐兵衛翁より「善き(斧)事(琴)聞く(菊)」の三種の家宝を与えられた青沼親子の存在とは?


※以下はネタバレ含む。





【登場人物】

■金田一耕助
演:石坂浩二
飄々とした私立探偵。
壮年ながら少年の様な好奇心を失っていない。
貧乏書生風の見た目だが明晰な頭脳の持ち主。

■犬神松子
演:高峰三枝子
長女。
犬神家本家を預かる。
未亡人で、内に烈しい性格を秘める。

■犬神佐清
演:あおい輝彦
松子の息子。
犬神家総本家の跡取り。
美青年であったが、戦争で顔に酷い傷を負って帰って来た。
本作を象徴する名物キャラクター。
彼が復員して来た事により遂に遺言状が公開……物語は動き出す事になる。
※映画の所為で不気味なマスク姿のキャラクターとして定着しているが、原作のイメージでは“かなり素顔に近い”マスクとされている。

■犬神竹子
演:三条美紀
次女。
東京暮らし。
三姉妹では一番体格が豊か。

■犬神佐武
演:地井武男
竹子の息子。
粗野な性格の持ち主。

■犬神小夜子
演:川口晶
竹子の娘。
佐智の子供を身ごもっている。

■犬神寅之助
演:金田龍之助
竹子の夫。

■犬神梅子
演:草笛光子
三女。
神戸暮らし。
三姉妹では一番美人だが性格が小狡い。

■犬神佐智
演:川口恒
梅子の息子。
一見すると爽やかだが狡猾。

■犬神幸吉
演:小林昭二
梅子の夫。
生真面目な事務方風。

※松子、竹子、梅子の三姉妹はそれぞれ別の愛人の娘であり、原作の設定に加えて本作で付けられた特徴的なキャラクターは以降の映像化作品にも引き継がれた。

■野々宮珠世
演:島田陽子
佐兵衛の恩人、野々宮大弐の孫。
遺言状により犬神家の財産の全てを条件付きとは云え相続する権利を得るが……。
義理の兄とも呼べる佐清とは密かに想いを寄せ合っていた。

■猿蔵
演:寺田稔
佐兵衛が珠世の護衛として連れて来た山男風の下人。
映画版では無口ながら強烈なキャラクター付けがされている。

■古館恭三
演:小沢栄太郎
犬神家の顧問弁護士。
若林に代わり金田一耕助を雇う。
凄惨な事件の中ながら金田一の人柄に惚れ込んでいく。

■はる
演:坂口良子
金田一耕助の逗留する那須ホテルの女中。
金田一の世話を灼く内に好きになった模様。

■橘警察署長
演:加藤武
「よし解った!」
地元警察の責任者。
警察の威信を掛けて事件の解決に臨むが……。
当初は金田一耕助を鬱陶しがっていたが、複雑な事件の中で内心では頼りにする様に。

■柏屋の亭主(久平)
演:三木のり平
謎の復員兵の逗留した旅館の亭主。
警察に情報を齎す。

※坂口良子、加藤武、三木のり平は役名を変えつつも同じキャラクターの別人(漫画的なスターシステム)として以降のシリーズにも登場している。

■藤崎鑑識課員
演:三谷昇

■井上刑事
演:辻萬長

■若林豊一郎
演:西尾啓

■琴の師匠(宮川香琴)
演:岸田今日子
演じた岸田は2004年に製作されたフジテレビ版ドラマ(稲垣金田一)でも同じ役で出演している。
※原作では重要な秘密を抱えた人物である。

■お園(松子の母)
演:原泉

■那須ホテルの主人
演:横溝正史
原作者。
横溝正史は石坂浩二の演じる金田一をハンサム過ぎる等と見ていたらしいが、撮影を見ている内に気に入ったらしい(※最も作者のイメージに近かったのが『八つ墓村』の渥美清であったと語っている辺り、本当に金田一を風采の上がらない人物として捉えていたのだろう)。

■渡辺刑事
演:角川春樹
制作者。
※ノンクレジット。

■青沼菊乃
演:大関優子(現:佳那晃子)
50代の頃の佐兵衛の愛人となった女工。

■青沼静馬
演:あおい輝彦
佐兵衛と菊乃の子供。
別にキャストを隠している訳でもないのに、知らないで見てると佐清と二役と気付かれない人。
嗄れ声も演者本人が出している物である。
※映画では尺の都合上で僅かに触れられているのみだが、佐清と静馬は瓜二つの設定である。

■野々宮大弐
演:那須清
先々代の神社の神官。
野良犬の様にして那須に流れ着いた若き日の佐兵衛を保護した人物。
美少年であった佐兵衛とは男色の関係にあった。
元々は神社の守り言葉として考えだした「善き(斧)事(琴)聞く(菊)」を顕す三種の宝を事業を興した佐兵衛に託した。

■野々宮晴世
演:仁科鳩美
大弐の若妻であったが男色家であった大弐とは性交渉が無く、いつしか佐兵衛と結ばれた。
2人の間に生まれた娘である祝子を大弐は自分の子供として認知。
祝子の娘が珠世である。

■大山神官
演:大滝秀治
現在の神社の神官で野々宮家の遠縁。
古文書を読むのが密かな趣味で、そこから得ていた知識は金田一耕助の推理の手助けとなった。

■犬神佐兵衛
演:三國連太郎
一代で犬神財閥を為した傑物。
計画なき見立て殺人と云う、本来は成立し得ない異常な連続殺人を引き起こさせてしまった元凶でもある。
※映画では尺の都合上、怪物的な部分のみが強調されているが、地域の名士として果たした恩恵は大きい。

【リメイク版】

2006年に公開。
キャスト陣の豪華さは時代の差あれど旧作にも引けを取らないのだが、映像が明るくなり過ぎた事や、余りにも旧作のイメージが強烈過ぎて、場面の再現=下手くそな物真似と捉えられてしまう弊害を視聴者に引き起こさせてしまった面も。

■主要キャスト一覧
金田一耕助:石坂浩二
野々宮珠世:松嶋菜々子
犬神松子:富司純子
犬神竹子:松坂慶子
犬神梅子:萬田久子
犬神佐清/青沼静馬:5代目尾上菊之助
犬神佐武:葛山信吾
犬神佐智:池内万作
犬神小夜子:奥菜恵
犬神寅之助:岸部一徳
犬神幸吉:螢雪次朗
若林久男:嶋田豪
猿蔵:永澤俊矢
青沼菊乃:松本美奈子
藤崎鑑識課員:石倉三郎
仙波刑事:尾藤イサオ
はる:深田恭子
柏屋の九平:林家木久蔵
柏屋の女房:中村玉緒
お園:三條美紀
琴の師匠:草笛光子
等々力署長:加藤武
大山神官:大滝秀治
古館恭三:中村敦夫
犬神佐兵衛:仲代達矢

※主演の石坂浩二を初め、可能な限り旧作のキャストが集められている。
一方、悪い意味で目立ってしまう一部キャストへの不満が余計にアンチ的な視点を全体にまで向けさせてしまっている面もある。

※金田一耕助の終盤の台詞が、旧作とは真逆の解釈になっている。

【余談】

斧・琴・菊

元ネタは歌舞伎、音羽屋、尾上菊五郎の役者文様であり、横溝正史はクレームが来ないかとビクビクとしていたと云う。
06年のリメイク版で佐清/静馬に役者としても活躍していた尾上菊之助がキャスティングされているのも偶然では無いのかもしれない。

事件の発生年

原作では昭和22年に施行された日本国憲法の下で改正された民法により、トリックの核となる遺言状の効力には法的限界があるため、事件発生年が問題とされる事がある。
その為、原作では事件の起きた年を「昭和2×年」とぼかしているが、登場人物等の年齢から昭和24年が舞台だと解る。
しかし、映画版では昭和22年と明記された事で、以降の作品でもこれを踏襲する様になった。

スケキヨ

本作をまともに見た事が無い人にまで浸透しているのが犬神佐清(静馬)の死に様である。
湖に足2本を突き出した状態で発見される……と云うインパクトのある姿は余りに強烈で、映画宣伝のポスターを初めとして公式でもネタにされて来たと言っても過言では無い(※ソフト等の盤のプリント面で足2本が突き出てる場合すらある)。
因みに、映画では湖に藻が絡み合っている(のが逆さまの)所為と云う、やや苦しい言い訳がされているが、原作では雪深い中で凍結した湖に突き刺してあると云う描写であり、逆さまになっているのにも一応は理由がある(※スケキヨ→ヨキ(斧)の見立て)である。
映画の撮影時期が夏だったのと、尺の都合で見立ての要素を端折られただけだったのだが、映像化された際の余りの笑撃から“湖から足が突き出して死んでいるビジュアル”は『犬神家の一族』を象徴するシーンとして継承されていった。






  (\    _
   | )   / )
   / |  ( /
  / /   ||
  / |   ||
  \ \  / |
   \ \/ /
  _|   /__
    ̄三三三二 ̄




追記修正
     お
      願いします


この項目が面白かったなら……\ポチッと/

+ タグ編集
  • タグ:
  • 映画
  • 角川書店
  • 東宝
  • 金田一耕助
  • 犬神家の一族
  • 横溝正史
  • 市川崑
  • 石坂浩二
  • 石坂金田一
  • スケキヨ
  • 原点にして頂点
  • 長野県
  • 那須
  • 旧家
  • 屋敷
  • 遺産相続
  • 家督争い
  • もはやホラー
  • みんなのトラウマ
  • ホラー
  • 見立て殺人
  • 角川映画
  • にしおかすみこ

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2024年02月12日 20:58