ティラノサウルス上科(古代生物)

登録日:2015/08/31 Mon 16:57:48
更新日:2023/12/25 Mon 12:47:45
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実在したロマン恐竜
その代表格といえば、何といってもティラノサウルスである。
勇猛な巨体に鋭い歯、長い尻尾に頑丈な足、そして体に似合わぬ小さな腕、その姿は世紀を越え、世界中の人々から親しまれ続けている。
日本でも知らない人はいないほど有名なのはご存じのとおりだろう。

そんなティラノサウルスに、たくさんの仲間たちがいる事はご存じだろうか。
そして、ティラノサウルスに至るまでに長い「脇役」の歴史があった事も。

アジアを代表する肉食恐竜「タルボサウルス」、ティラノサウルスの小型版「アルバートサウルス」、超A級恐竜「ゴルゴサウルス」など、
古くから多くの種類が知られてきたティラノサウルスの仲間だが、21世紀に入ってその数が激増している。
大型恐竜から小型恐竜、体全体に毛を生やした羽毛恐竜までその面々は多種多様。
あの福井県の「フクイラプトル」までもが、ティラノサウルスの仲間である可能性が出てきたのだ。


この項目では、そんな恐竜界の「ティラノサウルス」と仲間たちが属する肉食恐竜の一大グループティラノサウルス上科について解説する。

※注意※
現在の古生物学分野では「共通の祖先を持つかどうか」で分類群を分ける分岐分類学の考え方が浸透しており、従来の界・綱・目・科という階層分類は急速に使われなくなっている(種と属だけは便宜的な理由から残っている)。
よって今回の項目名である「上科」という名称も、使われなくなる可能性が高い
一般書籍レベルでも、一部の図鑑などには目・科といった名称が残っているが本格的な恐竜本ではまず使われなくなっているためご注意を。

<目次>

◆概要

・ティラノサウルス上科について

この『ティラノサウルス上科』、特にその中の「ティラノサウルス科」(と、もしかしたら「メガラプトル科」)は肉食恐竜の中でも異色のグループである。

アロサウルススピノサウルスギガノトサウルスエパンテリアス、そしてカルカロドントサウルスなど多くの大型肉食恐竜は「メガロサウルス科」「スピノサウルス科」「カルノサウルス類」など元から比較的大型だった肉食恐竜が多く属するグループに分類されている。
かつてはティラノサウルスも、当然この仲間に属しているだろうと考えられてきた。

ところが研究が進むにつれて、ティラノサウルスの骨の構造はこれらの大型恐竜とは違う事が分かってきた。それどころか、この骨の構造は小型肉食恐竜が多く属する「コエルロサウルス類」と非常に似ている事が分かってきたのである。
このコエルロサウルス類に属する恐竜にはディノニクス、ヴェロキラプトル、トロオドン、オヴィラプトル、そして史上最小クラスの恐竜コンプソグナトゥスなどがおり、始祖鳥、ニワトリ、カラス、アヒル、ドードーバードンなど現在の「鳥類」も広く見ればこの一員である。

勿論最初はなかなか受け入れられなかったが、後述の通りティラノサウルス上科の研究が進む中でこの説を裏付ける様々な証拠が見つかっており、現在はティラノサウルス上科はコエルロサウルス類の一員である、というのが定説になっている。
ただ、コエルロサウルス類の中でティラノサウルス上科がどの位置にいるか、(鳥も含めて)どの恐竜が一番ティラノサウルス上科に近いかについては未だに結論が出ていない。まだまだ謎が多いグループなのである。

・特徴

多種多様な肉食恐竜の中で、この種類が『ティラノサウルス科』である、と決定付ける一番の証拠は「歯」である。ナイフのように細かいギザギザが付いた鋭い前歯の断面は、どの種類も英語の「」の形をしているのだ。

この特徴は、小さなプロケラトサウルスから大きなティラノサウルスまで全てに共通しており、歯しか見つかっていなくてもこの特徴からティラノサウルス上科の一員であると分かった例、再調査で歯の断面が「D」の形をしていたのでティラノサウルス上科に分類された例もある。

他にも「鼻骨(鼻の骨)が1つに癒合している(※人間では数個の骨によって構成されている)」事もティラノサウルス上科の特徴とされているが、たまに例外もいる。
また、「小さな前足」も証拠とされる時もあるが、白亜紀前期までの種類は他の肉食恐竜のように大きな前足を持つ場合が多い。

芸能人やサメロボ同様、ティラノサウルスの仲間は歯が命なのである。

・近年の研究

前書きにも書いた通り、21世紀に入ってティラノサウルス上科の研究は急速に進歩している。
ディロングやユウティラヌス、グアンロン、リトロナクスなど各地で新たな化石が発見され続けているのも大きいが、それに加えてこれまでティラノサウルス上科の一員と考えられていなかった種類の恐竜が、再研究で「歯」の構造などがティラノサウルスと同じ特徴を有する事が判明した例が増えているのだ。何十年にも渡って分類が謎であった肉食恐竜が、実はティラノサウルスと関係が深いことが判明した場合も多い。

またティラノサウルス上科の面々の構造についてもかなり研究が進んでおり、鳥に良く似た体つきやタンパク質の構造、同じような病気を患っていた事などが明らかになっている。
姿は全く異なるが、今の鳥と昔の暴君たちには確かな繋がりがあったようだ。

・羽毛について

近年の研究の中で出た大きな成果の一つが、「羽毛」を生やした種類たちである。
小型の種類である「ディロング」「グアンロン」は勿論、大型の種類「ユウティラヌス」まで体全体に羽毛を生やしていた事が判明している。勿論空は飛べないので、保温効果が羽毛を持つ理由ではないかとされている。

一方、ティラノサウルスやタルボサウルスに関しては羽毛ではなく鱗で覆われていた跡が見つかっており、こちらは昔ながらのイメージがそのまま維持されている。ただし上記の恐竜たちの発見により、小さい頃だけ羽毛に覆われていたか、大人になってもそこまで毛むくじゃらでは無かったと言う考えが多い。とは言えこれからの研究で、お馴染みの姿が大きく変わる可能性も否定できない。
ちなみに後者の説を採用したのが『獣電戦隊キョウリュウジャー』に登場した獣電竜ガブティラである。

なお、よくネットで見かける毛むくじゃらのティラノサウルスの画像はpixivのユーザーの方が描いたファンアートであり、決して正式なものではない。 

◆歴史

・ジュラ紀中期~後期

今のところ、最も古いティラノサウルス上科のグループはジュラ紀中期の「プロケラトサウルス科」である。アロサウルスやブラキオサウルスなどジュラ紀を代表する恐竜たちが現れるより前に、既にティラノサウルス上科の歴史は始まっていたのである。
ただ、既にその頃から現在のアメリカイギリス、シベリア、中国など世界各地に分布を広げていたようで、世界のどこが発祥の地なのかははっきりしてない(アジアであるという説が有力なようだが)。
そして、まだこの頃は恐竜全体の中でもティラノサウルス上科は脇役だった。地上を蹂躙していたのは、アロサウルスやエパンテリアス、メガロサウルスなど古くから実績を重ねてきた肉食恐竜たち。新入りの面々は、彼らの陰に隠れてこそこそと獲物を探すしかなかったようである。

・白亜紀前期

そんな状況が少しづつ変わり始めたのは白亜紀前期。大陸の分布や気候が変わる中、大型肉食恐竜の勢力に変化が起き始めたのである。

スピノサウルスやアクロカントサウルス、カルカロドントサウルス、ギガノトサウルスなど相変わらず地上の主役は古くからの大型肉食恐竜たちであったが、その中でティラノサウルス上科から大型化を遂げた種類が現れ始めた。「シノティラヌス」などの面々である。若者でも9m級と言う後の種類にも負けないほどの巨体で大地をのし歩き、様々な獲物を襲っていたのである。

そして同時期には、ティラノサウルス上科である可能性があるグループ「メガラプトル科」も世界各地に分布し、大型の種類も多数出現していた。

一方、アジアではジュラ紀後期からじわじわと進化を続けていた、別のティラノサウルス上科のグループが存在していた。
大型種「ユウティラヌス」など例外もいたが、その他のでかい面々に比べるとまだ小型の種類ばかり。しかし着々と、その後の情勢の変化を待つかのように変化を遂げていたのである。
その成果は、恐竜最後の時代、白亜紀後期で発揮される事になる。


・白亜紀後期

ジュラ紀から白亜紀に変わる時以上の変化が大型肉食恐竜に訪れたのがこの時代。それまで世界中で繁栄していたはずのカルノサウルス類が、各地で忽然と姿を消してしまったのである。そしてメガラプトル科もプロケラトサウルス科も衰退し、消え去っていった。
地球のあちこちで「陸上生態系の頂点」と言う名の王位が空白になったのである。

そう、ジュラ紀後期から機を待つかのように進化を続けていたグループ「ティラノサウルス科」が本気を出す時がやって来たのだ。

ここから先の展開は、ご存知の方も多いかもしれない。{リトロナクス、アルバートサウルスゴルゴサウルスタルボサウルス――アジアで生まれた彼らは当時繋がっていたベーリング海峡を渡り、北アメリカでも大繁栄。様々な種類を生み出し、文字通り暴君として君臨したのである。
そして、長く続いたティラノサウルス上科の歴史の最期を飾ったのが、恐竜界の大スター「ティラノサウルス」と言う訳である。

◆ティラノサウルス上科の仲間たち

ティラノサウルス上科には、大きく分けて3つ(もしくは4つ)のグループが属している。

①ジュラ紀から白亜紀まで栄えた初期のグループ『プロケラトサウルス科
②後のティラノサウルス科に繋がるが、正確にはその一員ではない種類たち
③お馴染み『 ティラノサウルス科
※白亜紀前期から後期まで栄えたグループ『メガラプトル科』(ただし異論あり)


①プロケラトサウルス科

ジュラ紀中期から白亜紀前期まで繁栄した、ティラノサウルスの歴史でも初期のグループ。かなり古くから存在は知られていたものの、ティラノサウルス上科であることが判明したのは最近の事である。
比較的小柄な体格が多いが、中にはシノティラヌスのように巨大化した種類もいる。

・プロケラトサウルス・ブラッドリーイ(Proceratosaurus bradleyi)

生息年代:ジュラ紀中期
発見場所:イギリス
鼻の先に小さな角のような突起がある、小型の肉食恐竜。

既に1910年には報告されていたものの、同じく角を持つ「ケラトサウルス」の仲間か、似たようなスタイルの「オルニトレステス」の仲間か、それとも全く別のグループか、など長らくどの恐竜に近いのかはっきりしていなかった。
その後、発見から一世紀近く経った2009年にCTスキャンなど最新技術を駆使して改めて化石を調査し直したところ、なんとティラノサウルス上科の原始的な種類である事が判明した。その後続々と仲間がいることが判明し、既にジュラ紀中期からティラノサウルス上科が多様化していた事が分かってきている。

名前だけだが『ジュラシック・パーク』に出演歴がある恐竜である。

・キレスクス・アリストトクス(Kileskus aristotocus)

生息年代:ジュラ紀後期
発見場所:中国
2010年にシベリアから発見された種類。なんか切れ者のような感じの学名だが、由来は現地の言葉から。
プロケラトサウルス科の中でも原始的な特徴が多い事から、プロケラトサウルス科発祥の地はアジアではないかと言う説が上がっている。

・グアンロン・ウカイイ(Guanlong wucaii)

生息年代:ジュラ紀後期
発見場所:中国
ジュラ紀後期に現れていたティラノサウルス上科の古参。頭に大きなトサカが生えていることが確認されており、個体識別やメスを巡る争いなどのディスプレイ用に使用されていたのではないかと言われている。
羽毛恐竜コエルロサウルス類の一員と言う事もあり、全身を毛で覆った姿で復元図が描かれる事が多いようだ。

・ストケソサウルス・クリーブランディ(Stokesosaurus clevelandi)

生息年代:ジュラ紀後期
発見場所:アメリカ(ユタ州)、イギリス
アメリカとイギリスで化石が見つかっている肉食恐竜。
ティラノサウルスの仲間であることがすぐに分かる歯の化石は見つかっていないが、腸骨の形状からこのような分類がなされている。

・ジュラティラント・ランガミ(Juratyrant langhami)

生息年代:ジュラ紀後期
発見場所:イギリス
やたら格好いい学名を持つ、ストケソサウルスに近縁の恐竜。
化石自体は1980年代に発見されていたものの、命名は2008年まで待つこととなった。

・シノティラヌス・カズオエンシス(Sinotyrannus kazuoensis)

生息年代:白亜紀前期
発見場所:中国
白亜紀前期に生息していたプロケラトサウルス科の生き残り。「シノティランヌス」と呼ばれる事もある。
一部の化石しか見つかっていないものの、そこから導き出された推定全長は10mとかなり大きく、並みのティラノサウルスに匹敵するほどである。

②ティラノサウルス科に近いグループ

進化の系統上はティラノサウルス科に近いが、原始的な特徴や独特のスタイルが目立つため科の一員とはみなされていない種類たち。
ジュラ紀後期から白亜紀後期まで様々な種類が存在した。

・アヴィアティラニス・ジュラシッカ(Aviatyrannis jurassica)

生息年代:ジュラ紀後期
発見場所:ポルトガル
ジュラ紀後期の地層から見つかった肉食恐竜。断片的な腰骨しか発見されていないものの、後のティラノサウルスと共通する部分が多数判明している。
名前の意味は「暴君の祖母」。
近年の調査で、実はオルニトミモサウルス科*1の恐竜ではないかという説が浮上している。
それだとオルニトミムス科の歴史がジュラ紀まで遡ることになるが…。

・ディロング・パラドクス(Dilong paradoxus)

生息年代:白亜紀前期
発見場所:中国
ティラノサウルス科へ繋がる系統の中で(2015年現在)一番原始的な特徴を有する小型恐竜。ティラノサウルスの仲間なのに小さい、全身が羽毛に覆われているなど色々と常識を覆す存在であることが学名の「パラドクス(paradoxus)」の由来になった。
羽毛の目的は飛ぶためではなくジャンパーやコートのような保温対策らしい。

・ユウティラヌス・フアリ(Yutyrannus huali)

生息年代:白亜紀前期
発見場所:中国
2012年に報告された恐竜。
目の上に太眉のような突起があるのが特徴。早い時期に大型化を成し遂げた種類だが手の指が3本あるため、まだティラノサウルス科ではない原始的な種類とされている。
羽毛恐竜=小型種類と言うそれまでの常識を覆し、推定全長9mと言う大型恐竜にも関わらず、全身が羽毛に覆われていたことが判明している。
群れで暮らしていた可能性が高いらしい。

・サンタナラプトル・プラキドゥス(Santanaraptor placidus)

生息年代:白亜紀前期
発見場所:ブラジル
ティラノサウルスの仲間としては珍しく南米で見つかった種。 
発見された当初はドロマエオサウルス科*2に属すると思われていた。
名前は化石が発見されたアルゼンチンの地層に由来しており、「サンタナ層の略奪者」を意味している。この人は関係ない。

・エオティラヌス・レンギ(Eotyrannus lengi)

生息年代:白亜紀前期
発見場所:イギリス
こちらもまだ原始的な特徴が多い種類。ティラノサウルス科に繋がる初期の恐竜という事もあり、「夜明けの暴君」と言う意味の学名が付けられた。

・モロス・イントレピドゥス(Moros intrepidus)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:アメリカ(ユタ州)
こちらもまだ原始的な特徴が多い種類。
2013年に発見、2019年に新種として発表され、ギリシア神話の運命の神に由来して名付けられた。

・ススキティラヌス・ハゼラエ(Suskityrannus hazelae)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:アメリカ(ニューメキシコ州)
まだ原始的な特徴が残る種類。
1998年に発見されたが、正式に命名されたのは2019年である。
名前はアメリカの先住民族であるズニ族の言葉に由来しており、「コヨーテの暴君」を意味する。植物のススキは一切関係ない。

当初はドロマエオサウルス科の恐竜ではないかと考えられていた*3
また、正式に命名される前には「ズニティラヌス」という名前で呼ばれていた*4

・ティムルレンギア・エウオティカ(Timurlengia euotica)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:ウズベキスタン
2016年に新種として認められた。
学名は中央アジアで王朝を築いたチャガタイ・ハン国の指導者ティムール大帝に由来。
CTスキャンによる化石の分析から、低周波の音も聞き取れるほど聴覚が発達していたと推測されている。

当時のウズベキスタンでは彼らではなく、カルカロドントサウルス科の大型肉食恐竜「ウルグベグサウルス」などが生態系の頂点に立っていた。

・ドリプトサウルス・アクイランギス(Dryptosaurus aquilunguis)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:アメリカ(ニュージャージー州)
1866年に北米で初めて発見された、記念すべき恐竜の一種。しかしそのせいでその後発見された肉食恐竜が全部「ドリプトサウルス」扱いされ、訳が分からない状況になってしまった時もあった。20世紀初頭に何とかその状態は整理されたが、それから1世紀に渡って何の仲間か分からない状況が続いてしまった。
しかし上記のエオティラヌスの発見に伴い再調査が行われた結果、世界で初めて発見された「ティラノサウルス上科」と言う名誉ある称号を得る事が出来た。

なお、発見当初は「ラエラプス」と呼ばれていたがダニと名前が被っていたことが判明し、1877年に現在の学名に改められている

ドリフトでもコーヒーでもない。

・アレクトロサウルス・オルセニ(Alectrosaurus olseni)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:中国(内モンゴル自治区)
後に多数の種類が見つかることになるアジアで1955年に初めて発掘されたティラノサウルス上科の仲間。発見された場所では最大クラスの大きさだが、後のタルボサウルスなどと比べると最大5~6mと小さ目。
骨の構造から、ティラノサウルス科よりも原始的な恐竜とされている。

学名の意味は「孤独なトカゲ*5

・シオングアンロン・バイモエンシス(Xiongguanlong baimoensis)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:中国
アレクトロサウルスに似た肉食恐竜。こちらも原始的な特徴を持っている。
学名は上述したグアンロンに似ているがこちらの方がより新しい時代に生息している。

※ラボカニア・アノマラ(Labocania anomala)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:メキシコ
坐骨などの構造から一応ティラノサウルス上科に分類されているが、アベリサウルスやカルカロドントサウルスなど関係ないグループの恐竜の特徴も有しており、未だにその立ち位置ははっきりしてない謎の恐竜。

③ティラノサウルス科

言わずと知れた、恐竜界全体を代表するグループ。
アルバートサウルス亜科ティラノサウルス亜科、そしてアリオラムスの仲間の3つに分けられているが、種類が多いのはティラノサウルス亜科の方である。
なお、アリオラムス、アパラチオサウルス、キアンゾウサウルスに関しては書籍によってティラノサウルス科から追い出されている場合もある。

・アルバートサウルス・サルコファグス(Albertosaurus sarcophagus)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:カナダ(アルバータ州)
ティラノサウルス科の中でもかなり研究が進んでいるグループの1つ。
ティラノサウルス亜科と比べて体がほっそりしているのが特徴。
アルバータ州では2m程の幼体と11m近くになる成体を含む20体以上の化石がまとまって見つかっており、群れで狩りをした可能性が示唆される。

・ゴルゴサウルス・リブラトゥス(Gorgosaurus libratus)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:カナダ
こちらも名前のイメージとは裏腹にほっそりとした体型。目が比較的横の位置についている。
かつてはアルバートサウルスの一種と考えられた時代もあったが、後頭部の形状が異なるために現在は再び別の種類とされている。
超A級スナイパーとは関係ない。

なお、『ミラーマン』や『ウルトラマンタロウ』に登場する怪獣の名前はゴルゴウルスである。
こちらも宇宙怪獣なので恐竜ゴルゴサウルスとは関係もない。

・アリオラムス・レモトゥス(Alioramus remotus)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:モンゴル
名前の意味は「異なる枝」。
ティラノサウルス亜科やアルバートサウルス亜科とは別の道筋を辿って進化した肉食恐竜で、それが学名の由来になっている。鼻の先に5つの突起が並んでいるのが特徴。
顔は細長めだが、まだ成長中の化石ではないかとも言われている。

・アパラチオサウルス・モンゴメリエンシス(Appalachiosaurus montgomeriensis)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:アメリカ(アラバマ州)
それまでほとんど恐竜の化石の発見例が無かったアメリカ・アラバマ州で見つかった貴重な恐竜。アリオラムスの仲間である。
かつてはアルバートサウルスではないかと言われていた。

・ディナモテラー・ディナステス(Dynamoterror dynastes)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:アメリカ(ニューメキシコ州)
2012年に化石が発見された。
名前はラテン語とギリシャ語に由来しており、「強大なる恐怖」という意味がある。

・キアンゾウサウルス・シネンシス(Qianzhousaurus sinensis)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:中国
2014年に工事現場から偶然発掘された化石。
アリオラムス同様に顔がやたら細長く、特に鼻が長いように見える事から「ピノキオ・レックス」と言うニックネームもある。

・ナヌークサウルス・ホグルンディ(Nanuqsaurus hoglundi)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:アメリカ(アラスカ州)
ティラノサウルス科の恐竜としては最も北の地域から見つかっている種。
当初はゴルゴサウルスだと思われていたが、後の研究で別種だと判明し、「ホッキョクグマのトカゲ」を意味する学名をつけられた。
寒い地域に生息していたため、全身に羽毛が生えていたと考えられている。

・タナトテリステス・デグロトラム(Thanatotheristes degrootorum)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:アメリカ(アルバータ州)
2020年に新種として発表された。
名前はギリシア神話に登場する死の神「タナトス」に由来しており、「刈り取りをする死神」を意味する。

・リトロナクス・アルゲステス(Lythronax argestes)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:アメリカ(ユタ州)
ティラノサウルス亜科の中で最も古い地層から見つかっている種類。名前の意味は「流血の王とかなり物騒である
後のティラノサウルスがトリケラトプスライバルだったのと同様、角竜の「ディアブロケラトプス」がライバルだったようである。

・ダスプレトサウルス・タロスス(Daspletosaurus torosus)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:アメリカ、カナダ
比較的スマートな体つきのアルバートサウルスやゴルゴサウルスとは異なり、筋肉モリモリマッチョな体つきになっていたのが特徴。
顎も強化されており、噛む力はかなりのものだったようだ。前脚も少し長め。
この恐竜の系統が大型化したのがティラノサウルスやタルボサウルスではないかとも言われている。

恐竜を題材にした黒川みつひろ氏の絵本『恐竜トリケラトプス』シリーズでは、ティラノサウルスなどを差し置いてトリケラトプスたちのライバル格として登場。
彼らと戦ったり時に共闘したり、様々な活躍を絵本で見た人も多いかもしれない。

・テラトフォネウス・カリエイ(Teratophoneus curriei)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:アメリカ(ユタ州)
怪物のような殺戮者」という、これまた物騒な意味の名前の肉食恐竜。
発見されたのは若者の化石ではないかと言われている。

・ビスタヒエヴェルソル・シーレイ(Bistahieversor sealeyi)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:アメリカ(ニューメキシコ州)
これまでダスプレトサウルスとされていた化石を再調査した結果、新種と認定されたもの。
舌を噛みそうなややこしすぎる学名だが、「ビスタヒ=岩だらけの荒野(原住民の言葉)」「エヴェルソル=破壊者」と言う意味である。

・タルボサウルス・バタール(Tarbosaurus bataar)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:モンゴル
アジアのティラノサウルスとも称される大型肉食恐竜。名前を聞いたことがある人も多いかもしれない。
かつてはそのティラノサウルスそのものではないかとも言われていたが、短い前脚がさらに短かったり、頭の骨が違っていたりと現在は別種であるという説が有力。

なお、「マレエヴォサウルス」、「ラプトレックス」、「シャンシャノサウルス」などのティラノサウルス科の恐竜は、現在はタルボサウルスの別個体か子供の頃の化石とされている
トルボサウルス(Torvosaurus)」という名前がそっくりの肉食恐竜がいるが全くの別物。
ちなみに、学名の「bataar」はモンゴル語で英雄を意味する「baatar(バータル)」のスペルミス

・ズケンティラヌス・マグナス(Zhuchengtyrannus magnus)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:中国
2009年に発見され、タルボサウルスから「アジア最大の肉食恐竜」の座を奪った。推定全長は11.4m以上、体重も最大7tはあったとされている。
歯の化石が多数見つかっており、ティラノサウルス科の仲間は高頻度で歯が入れ替わっていたと言う仮説が出されている。
名前は化石が発見された場所にちなんでおり、「諸城の暴君」を意味する。

・ティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:アメリカ、カナダ
恐竜界の大スターにしてティラノサウルス上科の歴史の最期を華々しく飾った種類。

単独項目に詳細が書かれているのでそちらも参照。


※メガラプトル類

世界各地で化石が見つかっていながら、未だに分類が謎のままである肉食恐竜のグループ。
発見された場所や化石の特徴などから、史上最大の肉食恐竜の1つ「カルカロドントサウルス類」ではないかと言われていたが、ティラノサウルスに特徴的な「D」の断面の歯を持つことが判明した事を受け、ティラノサウルス上科の一員に加えても良いのではないか、と言う論文が2014年に提出されている。
しかし、その際に取り上げたティラノサウルス上科やコエルロサウルス類との共通点が怪しすぎると言う反論もあり、まだ何の仲間か決着はついていない。

今回は便宜上、ティラノサウルスの仲間として取り上げる。

・シアッツ・ミーケロルム(Siats meekerorum)

生息年代:白亜紀前期
発見場所:北アメリカ
2013年に発見された大型肉食恐竜。白亜紀前期のアメリカ・ユタ州に生息していた。
発見された化石の時点で既に9mと言う巨体が推測されているが、これはまだ若い個体と言われている。
発見当初はまだメガラプトル類がカルカロドントサウルス類に分類されていた時期だったために、北米大陸のティラノサウルス類の進化を妨げる存在だったと考えられていた。

まぁ現在こいつメガラプトル類かは怪しいんだけど

名前の由来は現地の先住民の伝説にある人食い怪物。
指圧でもシュワッチでもない。

・プウィアングヴェナトル・ヤエンニヨミ(Phuwiangvenator yaemniyomi)

生息年代:白亜紀前期
発見場所:タイ
非常に原始的なメガラプトル類。現代の生き物に例えるとライオンに相当する立ち位置だったとされる。

・フクイラプトル・キタダニエンシス(Fukuiraptor kitadaniensis)

生息年代:白亜紀前期
発見場所:日本(福井県)
日本で初めて全身骨格の復元に成功した肉食恐竜。学名がつくまでは「キタダニリュウ」と呼ばれていたほか、歯の部分は「ツチクラリュウ」と呼ばれていた時期があった。

キタダニリュウに基づいた初期の研究では小型肉食恐竜・ドロマエオサウルス科ではないかと推測されていた*6が、その後発見された全身骨格は、むしろ巨大恐竜アロサウルスが属する「カルノサウルス類」とそっくりであり、近年までは彼らの仲間だとされていた。

ところが、その当時から化石にはドロマエオサウルス科も含まれる「コエルロサウルス類」とよく似た構造が確認されていた。そして研究が進むにつれ、彼らはアロサウルスよりも上記のメガラプトルに近い種類とみなされるようになっていった。そして上記の通り、そのメガラプトルが近年になってティラノサウルスの仲間であるという説が提唱されている。
つまり、フクイラプトルはティラノサウルスの仲間の可能性がある、と言う訳である。

まだまだ謎は多いが、フクイラプトルはティラノサウルスだったと言う心躍る内容が図鑑やテレビで紹介される日が来る……のかもしれない。

なお、フクイラプトルとは別に、以前から日本各地でティラノサウルス上科と思われる歯の化石が多数発見されているが、まだどれも正式な学名はついていない。

・ヴァユラプトル・ノンヌブアランフエンシス(Vayuraptor nongbualamphuensis)

生息年代:白亜紀前期
発見場所:タイ
フクイラプトルに近縁なメガラプトル類。
ヒンドゥー教の風神の名がつけられた。

・アウストラロヴェナトル・ウイントネンシス(Australovenator wintonensis)

生息年代:白亜紀前期
発見場所:オーストラリア
オーストラリアで発見された肉食恐竜。全長6mの中型肉食恐竜で、大きく鋭い腕や鉤爪を駆使して大きな獲物を襲っていたと考えられている。
後述のフクイラプトルと似た特徴を有し、メガラプトルの一員とされている。

・ラパトル・オルニトレストイデス(Rapator ornitholestoides)

生息年代:白亜紀前期
発見場所:オーストラリア
中手骨一本で記載された狂気の経歴持ち。ラパトルと断言できる標本は中手骨だけだが、ラパトルの可能性のある標本は複数存在する。

・メガラプトル・ナムンフアイクイイ(Megaraptor namunhuaiquii)

生息年代:白亜紀中期~後期
発見場所:アルゼンチン
鋭い鉤爪を持つ獰猛な肉食恐竜。
最初に爪が発見された当初はドロマエオサウルスなど小型の肉食恐竜の系統の最大種ではないかと言われていたが、その後発見された2つ目の化石の研究からそれよりも原始的な種類である事が判明している。

ゾイドジェネシス』に登場したライバル格のゾイド「バイオメガラプトル」のモチーフとなっている。

・キランタイサウルス・タシュイコウエンシス(Chilantaisaurus tashuikouensis)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:中国
脚の部分の化石しか見つかっていないが、そこから推定される全長は約11mほど。
中国の内モンゴル自治区にある烏梁素海層から化石が見つかった。
おまえうまそうだな』にも登場する。

・アエロステオン・リオコロラデンシス(Aerosteon riocoloradensis)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:アルゼンチン
体長9mほどの肉食恐竜だが、発見された化石はまだ若者であったことが推測されている。
骨の構造から、現在の鳥によく似た呼吸器を持っていたことが判明している。

・マイプ・マクロトラックス(Maip macrothorax)

生息年代:白亜紀後期
発見場所:アルゼンチン
2022年にサンタ・クルス州の牧場から化石が発見された肉食恐竜。全長は9〜10mほど。
名前は現地の先住民族の伝承に登場する悪霊に由来する。
肋骨の化石から、がっしりとした大きな胴体をしていたと考えられている。















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最終更新:2023年12月25日 12:47

*1 オルニトミムスやガリミムスなどが属する、ダチョウに似て足が速い恐竜の系統群。

*2 ヴェロキラプトルやデイノニクスなどが属する、後ろ足に鋭い鉤爪を持つ小型肉食恐竜の系統群。

*3 ディスカバリーチャンネルのドキュメンタリー番組『恐竜再生』ではこの説を採用し、ドロマエオサウルスとして登場。

*4 BBCのドキュメンタリー番組『プラネット・ダイナソー』にはこの名前で登場。

*5 1個体あるいは2個体の化石が異なる場所から発見されたことに由来

*6 フルタ製菓より発売された「チョコエッグ 日本の動物」に付属するフィギュアでは、ドロマエオサウルス科とされていた。