ノースカロライナ級戦艦

登録日:2015/05/13 (水) 11:33:23
更新日:2022/07/26 Tue 07:05:40
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ノースカロライナ級戦艦(North Carolina class battleship)とは、アメリカ合衆国が建造、保持している戦艦である。

名称の由来はアメリカ12番目の州「ノースカロライナ州」から。




基本性能諸元

設計排水量:35,000t
基準排水量:37,487t
満載排水量:42,330~45,500t
全長:222.11m(ノースカロライナ)
   222.19m(ワシントン)
全幅: 33.02m
吃水: 10.82m(ノースカロライナ)
    10.59m(ワシントン)
機関:バブコック&ウィルコックス式重油専焼水管缶 8基
   ゼネラル・エレクトリック式ギヤード・タービン 4基4軸推進
最大出力:121,000hp
最大速力:27kt
     28.5kt(ワシントン)
     26.8kt(1945年時)
航続距離:15kt/17,450海里
     15kt/16,320海里(1945年時)
乗員:1,880~2,134名
兵装:Mk.6 40.6cm(45口径)3連装砲 3基
   Mk.12 12.7cm(38口径)連装砲 10基
   Mk.2 28mm(75口径)4連装機関砲 4基
   M2 12.7mm機銃 12丁
   40mm(56口径)4連装機関砲 15基
   20mm(70口径)機関砲 36門
   カタパルト 2基
   クレーン 1基
   水上機 3機
   各種レーダー
装甲:
舷側:305mm+STS 19mm
   168mm+STS 19mm(下端部)
甲板中央線:主甲板STS37mm
      二段91mm+STS36mm
舷側甲板:主甲板STS37mm
     二段104mm+STS36mm
水中防御:10mm+10mm+16mm+19mm+11mm
弾薬庫:側面 95mm~56mm
主砲塔:前面 406mm
    側面 249mm
    肯面 300mm
    天蓋 178mm
副砲:STS 59mm
司令塔:前後面 373mm
    側面 406mm
    天蓋 178mm
前級:コロラド級戦艦
   サウスダコタ級戦艦(初代・未完成)
次級:サウスダコタ級戦艦




建造までの経緯

1934年。ワシントン海軍軍縮条約の失効を控え、1936年に開催予定の第二次ロンドン海軍軍縮会議で締結予定の第二次ロンドン海軍軍縮条約によって拡張および修正されようとしていた。
だがそれは、海軍比率1位の座を維持せんとするイギリス本位のものに過ぎなかった。
元々保有数の比率に不満を抱いていた大日本帝国は各国との関係悪化に伴い、とうとう脱退を決意する。


日「…」

日「……」

日「ば~~~~~~っかじゃねぇの!?」

英「ひえっ…」

米「知ってた」


日本が条約を破棄し、新造艦に関する質問に対する返答がなかった為に条約を批准していた国々は条約のエスカレーター条項に基づいて規制緩和が行われた。
結果として

  • 主砲の規制を16インチに引き上げ

  • 排水量制限を10,000t増加

という2点の規制が緩められることになった。

各国は既に条約明けを見越して既に新造戦艦の設計を進めていたが、俺ルールを押し付ける気満々だったイギリスは14インチ砲、排水量35,000tの条件で設計を進め過ぎて盛大に自爆した。

現状維持で概ね同意していたアメリカが建造していた「ノースカロライナ級戦艦」も14インチ砲搭載艦だったが、こちらはイギリス程進んでいなかったので主砲を16インチ砲に変更する運びとなった。

かくして、世界は再び世界大戦への道へと突入していくのだった…




設計と特徴

コロラド級以来約15年のブランクを経て建造された本級だが、海軍休日中に発展した技術を惜しげもなく投入し、それまでの籠型マストから円柱マストへの転換、スマートな艦体など従来の戦艦の要素を残しつつも新機軸となる姿と性能が与えられた。

また、これまでのアメリカ型戦艦は伝統的に火力・装甲を重視して速力は二の次にする傾向にあったが、本級は28ktもの速力を与えられている。
これはこの時期の各国の新戦艦のトレンドであったが、特にアメリカでは初の高速戦艦であった。


攻撃力

ノースカロライナ級最大の特徴は、やはり主砲にMk.6 45口径40.6cm3連装砲を3基9門搭載している点であろう。

元々搭載が予定されていたのはテネシー級戦艦の「Mark 11 50口径35.6cm3連装砲」を改造した「Mark B 50口径35.6cm4連装砲」という4連装の14インチ砲であり、これは第二次ロンドン軍縮会議で規制の維持が確定すると見込んでいた為、排水量制限を守りつつ攻撃力を増加するアメリカのアイディアであった。
4連装砲塔という物に関してはダンケルク級戦艦を参照して頂くとして、フランスのノルマンディー級戦艦で設計*1、で実現して各国の主砲設計に影響を与え、アメリカもその影響を受けたのである。
実の所、アメリカは既に前弩級戦艦のキアサージ級戦艦と準弩級戦艦のバージニア級戦艦という4連装砲に近いレイアウトの戦艦を既に保有していた。
……してはいたのだが、こいつらは主砲の上に副砲が載っているというアレな代物で、各国海軍が「んなもん上手くいく訳ねーだろ。ダメリカ乙」と指摘したように使い勝手の悪い微妙な物だった。
もっとも、この失敗が世界に先駆けて「統一口径の主砲を中心線上に背負い式で持つ」サウスカロライナ級戦艦に繋がるのだが。

だが、日本が軍縮条約を抜けたことで事情が変わり、日本が建造しているのは16インチ砲搭載艦と読んだアメリカは対抗策として急遽主砲を16インチ3連装砲へと変更した。
もっとも、実際に建造された新造戦艦の主砲は46cm(約18インチ)だったのだが。

肝心なMark.6砲の性能だが、この砲は最大射程33,741m、距離22,860mで舷側装甲382mm、甲板装甲146mmの貫通が可能。
近代化改修された前級コロラドのMark.5&8砲よりも強力な主砲であった。
配置もこれまでの前後2基ずつから前部に2基、後部に1基に変更されていて、本級以後アイオワ級戦艦までのトレンドとなった。

副砲として採用されたのはこれまでの弩級戦艦から超弩級戦艦で採用してきたMk.7~9 51口径12.7cm速射砲ではなく新規設計のMk.12 38口径12.7cm連装砲。
これは副砲と対空砲を兼用した両用砲であり、やはりダンケルクから影響を受けた物。
性能も仰角85度・俯角15度の広範囲に25kgの砲弾を最大仰角で高度11,887mと中々優れた砲に仕上がった。

他の対空兵装としてMk.2 28mm4連装機関砲とM2 12.7mm機銃を装備していたが、これらは既に旧式化していたので後に今なお現役である艦載機銃の決定版、ボフォース社製40mm4連装機関砲とエリコン社製20mm機関砲に換装された。


スーパーヘビーシェル

そして、本級から採用されたアメリカ新戦艦の主砲のもう一つの特徴に、スーパーヘビーシェル(Super Heavy Shell、以下SHS)を主砲弾として採用している点がある。
このSHSというのは名前が示す通り、従来の1,016kgから2割増しした1,225kgの超重量砲弾である。
質量が大きい砲弾は落下時のエネルギー損失が少なく、遠距離砲戦でも高い打撃力を維持することが出来た。ただし重量が増したことで弾道安定性や射程の低下などの欠点もあった。
まあ、射程に関してはMk.6砲はMk.5よりも仰角が15度広いので旧来の戦艦よりも射程が長く、特に問題らしい問題はなかった。

ぶっちゃけた話をすれば砲弾を重くしたり砲身を伸ばすよりも大口径にした方が早いのだが*2、地理的要因と第二次ロンドン海軍軍縮条約の為に諦めている。

まあ兎も角、SHSはノースカロライナ以降の戦艦*3の標準装備として重宝された訳である。


防御力

前述した通り、ノースカロライナ級は規制緩和前から設計されていた14インチ砲対応の戦艦に16インチ砲を後から載せた艦だったので防御力は14インチ砲に対応した不十分な物でしかなかった。
その傾斜装甲は14インチ砲弾ならば17,400~27,400mの範囲で耐えられるが、16インチ砲弾だと20,000~25,000mにまで縮んでしまうのである。

水中防御には多層式防御構造を採用しているが、1942年エスピリトゥサント島沖にて日本の潜水艦伊19の発射した酸素魚雷が空母ワスプに致命傷を与えた際、その流れ弾が10km先のノースカロライナの船首にも命中して予想外の被害*4が発生、艦首の防御構造が薄いという構造の欠陥が露呈している。
この欠陥は竣工時には判明していなかった為、ノースカロライナ以降のアメリカ新戦艦はこれ以上に水中防御が弱いであろうことが指摘されている。
幸い魚雷をどてっ腹に叩き込まれることは二度無かったが。


機関と機動力

コロラド級の4倍もの出力を与えられた為、速度27kというそれまでの殆どの戦艦の20~21kt、建造中止になった初代サウスダコタ級戦艦でようやく23kt(予定)を遥かに上回るアメリカ初の高速戦艦となった。
ただし大戦終盤には対空兵装をマシマシし過ぎて26.8ktまで低下してしまっている。

機関配置にはボイラー艦2基とタービン1基を1セットにして並列に4セット並べ、1セットごとにボイラー缶とタービンの順番が前後に入れ替わる『シフト配置方式』を採用、日独で採用されていた『全缶全機配置方式』に比べて構造が複雑だが生存性に優れた造りであった。


その他

本級の艦尾は後続のサウスダコタ級、アイオワ級に先駆けた「ツインスケグ」という形状になっている。これは船体抵抗の減少を意図した構造だったのだが、この構造は高速航行時に異常な振動が発生を招いてしまった。
特に初採用となったノースカロライナ級は振動に悩まされ、改善策が練られたものの、根本的な解決はアイオワまで持ち越さねばならなかった。




総合

アメリカにとって海軍休日明け初の新戦艦となったノースカロライナ級は、それまでに建造した戦艦群の要素を残しつつも以降の新戦艦に繋がる要素を併せ持つ新戦艦の雛形、叩き台と言うべき戦艦であった。
確かに防御力に不安を抱えてはいたが、そこは運*5と時代*6が味方した。

後続のサウスダコタやアイオワに比べれば確かに劣る部分も多いが、この艦は建造されたことそのものに意味があった戦艦だったと言えよう。





活躍

主に太平洋での対日戦で運用されたが、本級は当初の目的の艦隊主力としてより高速性を活かした機動艦隊の一員として戦線へ投入された。
だが、艦隊決戦にこそ臨めなかったものの、2番艦ワシントンは第3次ソロモン海戦にて僚艦サウスダコタを攻撃していた金剛型戦艦霧島をレーダー射撃で撃沈せしめる大戦果を挙げた。

やがて第二次世界大戦は終わり、ースカロライナ達は戦艦としての役目を終えて退役した。
ワシントンは解体されたが、ノースカロライナは今もノースカロライナ州ウィルミントンにて水上の博物館として市民達の平和を見守っている。





同型艦


◆BB-55 ノースカロライナ
USS North Carolona

起工:1937年10月27日
進水:1940年6月13日
就役:1941年4月9日
退役:1947年6月27日
除籍:1960年6月1日

1番艦。
名称の由来は上記。

就役は1941年だが、本格的な活動は1942年から。
輸送船団や機動部隊の直衛に従事、硫黄島や沖縄など多くの上陸作戦に参加した。

退役後は市民によって記念艦として管理され、港湾都市ウィルミントンの「ノースカロライナ博物館」として運営されている。
現在は改修工事を検討中らしい。



◆BB-56 ワシントン
USS Washington

起工:1938年6月14日
進水:1940年6月1日
就役:1941年5月15日
退役:1947年6月27日
除籍:1960年6月1日

「マイティ・W」の異名を持つ2番艦。
名称の由来は42番目の州「ワシントン州」。
「ワシントン」の名を関する艦としては9隻目である。

大西洋、太平洋の両面で活動し、ノルウェー沖から西太平洋まで駆け回った米軍きっての武勲艦。
特に第3次ソロモン海戦では戦艦霧島を撃沈する大殊勲を挙げた。

陸上部隊を本国に送り届けたマジック・カーペット作戦を最後に予備役となり、退役後は保存されることなく解体された。




アメリ艦小話 ~ワシントンとサウスダコタの確執~

上記のように、ワシントンは第3次ソロモン海戦の折、サウスダコタの窮地を救った。
だが、話はまだ終わっていなかった。

帰国したワシントンの乗員を待っていたのは称賛の声ではなく、侮蔑の目だったのだ。

何故なら、「ワシントンはサウスダコタを見捨てて逃げたのでは?」という噂が広まっていたから。
更にそれを煽るかのようにサウスダコタの艦長は雑誌の取材でこう証言した。

「サウスダコタは勇敢に戦ったが、臆病者のワシントンめは逃げた!」

この出来事をきっかけに歓楽街で両艦の乗員が乱闘を起こし、留置場が満員になる程の騒ぎに発展した。
この禍根は戦後まで続いたという。


この様な事になった原因として

  • 戦闘は第3次ソロモン海戦二日目の夜戦だった
  • サウスダコタは駆逐艦綾波&浦波との戦いと人的ミスでレーダーや通信機器を含む電気系統がダウンしていた
  • 連絡が取れないのでワシントンとサウスダコタは互いの位置を把握出来なかった
  • ワシントンのレーダーは既に霧島を補足していたが、所在不明のサウスダコタである可能性を考えて攻撃をしなかった
  • ワシントンが攻撃可能になったのは霧島が探照灯を照射しているのを確認してからで、その時既にサウスダコタは撤退を開始していた
  • サウスダコタのギャッチ艦長が雑誌でサウスダコタの活躍を誇張した

という点が挙げられる。
いずれにせよ、ワシントンにはとんだとばっちりである。





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最終更新:2022年07月26日 07:05

*1 第一次大戦の勃発で建造には至らなかった

*2 その極みが日本の戦艦大和

*3 同じ16インチ砲艦でもコロラド級はSHS対応への改造が間に合わなかった

*4 慌てて弾薬庫に注水したが、修復に約1月費やした

*5 本級の防御力を越える主砲の長門型と大和型はあまり前線には来なかった

*6 戦艦から航空機の時代へ