allo,toi,toi

登録日:2014/07/24 (木曜日) 08:11:00
更新日:2024/04/05 Fri 19:55:23
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「――allo(もしもし)、――allo(もしもし)」
「ねえ、笑って」

「allo,toi,toi」とは2010年4月にSFマガジン上で掲載された中編SF小説である。

作者は「円環少女」シリーズや「BEATLESS」で知られるライトノベル・SF作家の長谷敏司氏。なお本作はベストSF2009の上位入賞者企画として掲載されており、同賞では氏の「あなたのための物語」が国内編2位を受賞している。

現在は創元社のSF傑作選「結晶銀河」及び氏の短編集「My humanity」に収録されている。

■概要
小児性虐待者の埋め込み式機械による矯正実験を通して、ペドフィリアという偏愛を持つ人間の精神構造を読み解く事に焦点を当てた作品。
代表作の多くに幼女ヒロインが存在し、自他共に認めるロリコンである作者が、その嗜好を存分に活かした生々し過ぎるペドフィリア主人公の描写が特徴的な傑作。
……こう書くとロリコン嗜好を賛美したような内容の小説に思えるが、実際はペドフィリアという嗜好の善悪については言及しておらず、あくまで偏愛の構造に関する究明に終始している。
また、「あなたのための物語」や同氏の中編SF「地には豊穣」と同一世界観の物語である共通のガジェットである「ITP」が主軸に据えられているものの、上記二作との直接的な関連性は低い。

○あらすじ
2090年5月22日、当時8歳だった少女メグ・オニールを殺害したダニエル・チャップマンは懲役100年の刑に処され、ワシントン州のグリーンヒル刑務所に投獄された。刑務所において底辺の扱いを受け、他の受刑者の暴力のていたチャップマンは一時でもその扱いから逃れるため、刑務所内での個室と引き換えにニューロロジカル社製の性犯罪者の矯正機器を内に移植する実験台となる。
ITPと呼ばれる構造言語を記述された擬似神経であるそれは「好き」と「嫌い」をより分ける手助けをすることで小児性愛の嗜好を脳内で完結させようとする試みであった。

■登場人物
○ダニエル・チャップマン
主人公。メグ・オニールを殺害した罪により懲役100年の刑を下された囚人。作中のワシントン州においては死刑制度が存在しないため、超長期の懲役刑が実質的な極刑となる。
生粋のペドフィリアであり、メグに対して愛情を抱いていたが、それ故にメグを殺害。小児性虐待という「男らしくない」罪で投獄された事により、同じグリーンヒル刑務所の囚人からの暴力(性的なものも含む)にさらされる。

○リチャード・ゲイ
ニューロロジカル社に務めるITPの研究者。裕福な黒色人種。中国系カナダ人と妻との間にメグと同年代の娘を抱えている。
ニューロロジカル社とチャップマンの窓であり、”アニマ”を使用したチャップマンの精神状態を監視している。

○メグ・オニール
チャップマンに殺害された少女。発見された時は服を剥ぎ取られ、四肢が切断された状態だった。既に死亡しているため、物語においてはチャップマンの回想でしか登場しないが……。

○エヴァンズ
白人の大男。元ギャングで大物のドラックディーラーだった。
チャップマンが実験を受けるまではチャップマンと同室であり、チャップマンを支配することで刑務所内での地位を確立していた。現在ではチャップマンを自室外にて暴力のはけ口としている。

■用語
○ITP(Image Transfer Protocol)
神経伝達言語。脳内に擬似神経を構築することの出来る制御言語。自分の持っていない経験や体験を、その経験、体験を持っている人間の脳を擬似神経として自分の脳内に構築することにより、経験等を簡単に自分の脳に移すことのできるシステムであり、これがあれば、例えばアルバイトの店員に経験豊富な店長の経験を移植することにより、簡単に経験豊富な店長を量産することができる。

○”アニマ”
ITPにより構築された擬似神経。とはいうものの、誰かの経験を移植したものではなく、「脳に本来存在しない機能を獲得させる新しい器官」として構築される擬似神経。
この器官の担う機能は「好き嫌いの分類を手伝う」というもの。
チャップマン視点ではリチャードのたとえ話も合わさり「脳内にいるカウンセラー少女」と擬人化されており、「彼女」との「対話」(分類支援)によって少しづつ彼の心も変化していくが…。

■備考
○基本的に救いがなく、読了感が悪すぎるため注意が必要。
○本作が収録された「結晶銀河」には山本弘氏による中編小説「アリスへの決別」も掲載されていたが、これもまたロリコン小説であった。そのためひとつの短編集に二つのロリコン小説が掲載されるというなんともアレな事態となっている。
○もっともこの時期は「非実在青少年」についての議論が活発化していたため必然といえば必然かもしれない。
○渾身のペドフィリア描写も然ることながら、「偏愛」という普遍的なテーマについて「言語」というキーワードで紐解かれる内容は今でも高い評価を得ている。
とはいえ同氏の他のSF小説同様難解な作りになっているため、これから読もうという人は気合を入れて読むことをオススメする。


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最終更新:2024年04月05日 19:55