草加事件

登録日:2014/07/22 (火) 00:11:57
更新日:2023/07/22 Sat 01:40:51
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大人の事件でも、冤罪というのは起こる。
だが、被疑者が少年たちの場合、いきなり逮捕されたとき、周囲に迎合して自分がやりましたと認めてしまいやすく、
冤罪が大人と比べて特に起こりやすいと言われているのだ。



そして、少年法の規定のために、当の少年たちが冤罪に巻き込まれ、被害が悪化した、という事例があるのをご存知だろうか。
それが、この項目で扱う草加事件である。

事件の発生は昭和60年7月。
草加せんべいで有名な埼玉県草加市で、中3の女子生徒が性被害にあった挙句殺されているのが見つかった。
容疑者として逮捕・補導されたのは当時13歳~15歳の少年たち6人だった。

少年たちの多くは、捜査段階で自分たちがやりましたと犯行を認め、自白調書が取られてしまった。

逮捕された人に弁護士たちの負担で弁護士を派遣する「当番弁護士制度」の導入さえも、平成2年に入ってからであった(これ自体は、少年に限った話ではないが)。


捜査段階で自白してしまった彼らは、少年審判に入ってから無実を訴えた。
しかし、少年たちが自白したことや体液が一致したということを根拠に、家庭裁判所は彼らのうち5人を少年院に送り、1人を児童相談所に送った。
少年たちは諦めた者、最高裁判所まで必死に戦った者といたが、いずれも無実の訴えは認められることはなかった。



ところが、被害者についていた、犯人のものと思われる体液はAB型6人は全員B型かO型。
検察や裁判所は、被害者(A型)の細胞と少年(B型)の体液が混ざってしまい、AB型が出た可能性がある、として少年たちを犯人としたのである。
一応これ自体は理論的にありえないことはないのだが、試料を混ぜるように保存すること自体、警察はやらない方法である。
(やっているとすれば鑑識の証拠採取がずさんである証拠だ)
その上、AB型はほんの一部だけでなくあちこちから出ており、全部そうなる、なんてことは無理だったのだ。
もし運悪く少年たちの中にA型やAB型の少年がいたら、少年たちの冤罪は永遠に明らかにならなかったかもしれない…

その上、少年たちの自白も、後になればなるほど内容がコロコロ変わる、
しかもバラバラに収容されている警察署の中で口裏合わせなんてできるはずがないのに揃って自白の内容が変わっていくという、
典型的な「警察が誘導しての虚偽自白」の類型
にはまってしまっていた。

少年たちは、協力してくれる弁護士や鑑定人にこれらを裏付けてもらい、何とかして自分たちの無実を晴らしたかった。
大人の裁判なら、新たな証拠が出てきたようなケースでは、再審という手続で、有罪判決を受けた後でもそれを取り消す手続がある。
ところが、当時、少年審判で少年院に送られたとしても、少年院から釈放されたら再審の適用の対象外。
大人の刑事裁判での再審に当たる手続は、少年法になかった
のだ。
裁判所に訴えても「そんな手続はない以上申し立てられても困る」と門前払いされるばかりであった。
既に少年院から釈放されていた少年たちは、人殺しの汚名を着せられた上、冤罪の主張をするだけでも「遺族を傷つけている上に全く反省していない。ふざけるな!!」と罵声を浴びることとなってしまった。


そんな彼らに追い討ちをかけるかのように、被害者の遺族が、少年やその親たちを民事訴訟で訴えた

だが、これはチャンスでもあった。

この民事訴訟で少年たちが冤罪であるということを理由に勝てば、彼らは民事裁判という司法の場で無実を晴らすことができるからだ。
少年審判より、民事裁判での有罪認定のハードルは低いと言われており、ある意味ではより不利な土俵ともいえる。
それでも、もうこれしか方法はなかったのである。

少年たちは、ここを機会と捉えて徹底的な無罪主張を行っていった。

平成5年3月、これが功を奏し、一審・浦和地裁は少年たちの冤罪を認めた。
平成6年11月、二審・東京高裁はこの判決をひっくり返した。少年たちの自白はやはり信用できるとして賠償を命じた。

平成12年2月。この高裁判決に、最高裁判所が待ったをかけた。

「少年たちの自白は明らかに間違っている内容や誘導の痕跡がある。科学的な証拠からしても第三者の犯行の可能性が出ている。
それなのに、自白や体液などの証拠を根拠にそのまま少年たちの犯行と認めるのは許されない

として、高裁に審理のやり直しを命じたのだ。

平成14年10月、東京高裁は最高裁判決を前提に、少年たちの犯行でないと認定。

遺族は諦められなかったのか、訴訟費用を建替える手続を申し立ててまで再度上告をしたものの、最終的に諦めて上告を取り下げ。

少年たちの雪冤は成った。

他方の遺族は、自分たちの家族を悲惨な形で失っただけではない。
自分たちで起こした裁判のために、「犯人」はいなくなり、裁判にかけた費用も時間も全て無駄になった。
平成12年、奇しくも最高裁判決が出た年の7月に、事件は時効になっており、例え今後真犯人が見つかっても、処罰される可能性はなくなってしまった。

しかし、遺族側からしてみれば、一度確定した裁判の結果を信じるのは当たり前のことであり、真犯人に民事裁判で償わせるのも当然のことである。
(事件の真実を知りたいという希望や、刑事裁判以外でも犯人の責任を認めさせることを被害者への供養と信じ、単なる金銭の損得を度外視した民事裁判を起こす遺族は多い)
遺族は少年たちにとっては冤罪の被害を悪化させた加害者でも、誤った警察の捜査や家庭裁判所の有罪判断に振り回された被害者でもあることは、忘れてはいけないだろう。

もし少年法が、きちんと時間をかけて証拠の有無や信用性をきちんと審理する体制になっていれば、家庭裁判所で少年は無実ということになっていたかもしれない。
もし少年法が、逮捕・勾留された少年にもきちんと弁護士をつけ、支援していれば、少年たちも嘘の自白に追い込まれなかったかもしれない。
もし少年法が、冤罪が後から発覚した場合に取消す手続きを用意していれば、少年たちも裁判を待って無実を晴らすという手を取らずに済み、
遺族も裁判を費用をかけて起こさずに済んだかも知れないし、冤罪が早く分かって再度の捜査が行われたかもしれない。

こんな反省から、現在は少年法などの関係法令の改正がされ、冤罪が後から発覚した場合には、処分を取消す手続が用意され、
捜査段階からの国選弁護など様々な保護が導入されている。


それでも、少年審判で冤罪が起こりやすいことや、短い日程で審理されるといった問題点は、当時から今まで変わっていない
(長くかけすぎると、せっかく冤罪がわかっても社会復帰が難しくなるので、やむを得ない意味もある)
少年法の持つ一つの側面として、ぜひ知っておくべき事件だと思うのだがいかがだろうか。






追記・修正は少年法の一面を知ってからお願いします。

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最終更新:2023年07月22日 01:40