無限十字のセイバーハーゲン

登録日:2014/06/05 (木) 15:28:14
更新日:2023/06/01 Thu 21:57:55
所要時間:約 7 分で読めます




無限十字のセイバーハーゲンとは、ヴァンパイア十字界に登場したキャラクター。
各国に五百人以上の弟子を持ち霊力を使う人間の中心となって戦を作り、三十年以上に渡って夜の国と戦った大霊力使いである。
その名の由来は万の術に万の霊具を用い、それらの交差するところに無限の力を生みだすからである。
全身を鎧甲冑に法衣らしきもので覆い隠し、その正体は謎に包まれている。
作中時間から千年前の人間でとっくの昔に亡くなっているため、ブリジットら吸血鬼たちの過去話の中で語られる。





この項目は物語中盤以降のネタバレを多く含んでいるので、これから先はそのつもりで読み進めてください。







【劇中】
物語も中盤。
謎に包まれていた千年前の『真実』が語られる中で森島が漏らした「赤バラの旦那をはめる」という野心に対して、
ストラウスの義娘レティが「人間がストラウスにかなうわけがない」と返した時に、
2人と同席していたブリジットが「1人だけいる」として挙げたのがこの『無限十字のセイバーハーゲン』。

そのやたら仰々しい名前を初めて聞いた二人がドン引きしたのは言うまでも無い。

ブリジットの話では、セイバーハーゲンとストラウスが初めて出会ったのはストラウスが夜の国の将軍職について間もない頃。
夜の国へ戦を仕掛け、五百人の兵を犠牲にストラウスを必殺の結界にかけた。

しかしストラウスの力は予想をはるかに上回り、セイバーハーゲンの罠を一息で破る。
ストラウスの強大な力を目の当たりにしたセイバーハーゲンは、改めて世界をも征服しうるストラウスを危険視し直接交戦、
野心は持たないと反論するストラウスの言葉も「それが可能なら変わらない」と一蹴する。

ストラウスを罠にはめ、さらに単独で競り合う人間の存在はブリジットに大きな衝撃を与えたものの、けっきょくセイバーハーゲンはストラウスを倒すには至らず撤退した。
その後も幾度となくストラウスを倒すべく暗躍するも、そのたび特撮の敵サイドよろしくストラウスに煮え湯を飲まされるの繰り返しだった。

そんなセイバーハーゲンが何故ストラウスに勝ったと言えるのか?
それはセイバーハーゲンこそがストラウスの天敵である『黒き白鳥』を生みだした人間だからである。
例え術者の身が滅んだとしても、生みだされた『黒き白鳥』は宿主を移り変わりストラウスを殺すその時まで、
永遠に存在し続ける以上、最後に勝つのはセイバーハーゲンなのだった。

そしてセイバーハーゲンは物語上もう一つ大きな役割を果たしている。
それはストラウスの妻、夜の国の女王アーデルハイトの魔力暴走『腐食の月光』の脅威から世界を救い、その身を封印したことである。
腐食の月光の被害が広がる中、対応に追われていたブリジットと合流し、彼女の協力を得て本来ストラウスの封印に用いるつもりだった。
(といっても本来は準備が大変でく本人も使用を諦めていたものだが)大がかりな封印術『反転封陣』を実行。

ついでにブリジットに自分の性別は女だということを明かし驚かせた。

多くの犠牲を払ったものの、最終的にはアーデルハイトの封印に成功。
その後、ストラウスの前妻ステラの仇と判明したアーデルハイトを殺害するべく、
ストラウスが国も民も捨てて人類とヴァンパイアの血族全ての敵となった時には(セイバーハーゲン以下多くの人々はアーデルハイトへの愛のためと思っていたが)、
ブリジットをストラウス討伐の指揮官になるよう頼み込み、自身は『黒き白鳥』を完成させるために一時姿をくらます。

そして完成した『黒き白鳥』と初代の宿主シンシアをブリジットを引き合わせ、
ざっくり説明した後にストラウスの目をくらますための偽の封印を世界中にばら撒くべく旅に出た。
その後の足取りはブリジットにも不明だが、確かなのは各地に封印をばら撒いたということである。


ストラウスを一方的に敵視し、罠にはめるためだけに一軍を犠牲にする、彼(とアーデルハイト)を殺すために、
罪も無い少女を巻き込み犠牲にする『黒き白鳥』の術を開発するなど傍から見れば彼女もまた危険な人物。

だがそもそもストラウスを敵視していたのは彼の強大な力が、
人とヴァンパイアの血族のバランスを崩すであろうことを見越してのものであり、ストラウスをして「私心がない」と評されていた。
(それ故手段を選ばず諦めもしないと)
実際には疑心暗鬼に狂っているとしか言えず、幾たびも戦争を吹っ掛けたり介入しては返り討ちにあっていた。


そしてセイバーハーゲンの何度目かの戦争誘致工作による開戦気運の高まりに対してストラウスが無害アピールを行おうと日光に体を当てた結果、日光を克服していたことが判明しヴァンパイアが夜と昼の両方を支配下に置く可能性が出てしまった為に、開戦気運が異常なほど高まり『戦争回避』の為にストラウスは元老院の決めた処刑を受け入れ、平和の為に死のうとした。
(処刑前にアーデルハイトがステラの仇と知って復讐を優先することとなったが)。

見えない恐怖によって戦争を誘致を繰り返し何が何でも生き残ろうとするセイバーハーゲンと平和の為に自死すら受け入れるストラウスは非常に対極的である。

『黒き白鳥』の存在についても、ストラウスの強大な力に対してブリジットやセイバーハーゲンですら勝機は薄く、
討伐の最中に命を落としかねない危険性があったうえにアーデルハイトが復活し再び暴走すればそれを止める手立ては二人に無い。
つまり単独でもストラウスたちの力を上回り、未来永劫に渡って命を狙い続ける狩人の存在が不可欠だったという事情があった。

セイバーハーゲン自身もこれらの犠牲に対して内心では心を痛めており、アーデルハイト封印の際に弟子たちが命を落とした時は彼らの尊い犠牲に感謝し、
『黒き白鳥』の悪辣な仕様をブリジットに詰られた時には苦しい心中を吐露し「地獄の業火に焼かれる覚悟はできている」と言い放つなど、根っこは善人である。
城平作品の伝統で、無駄に大きい力と無駄に強い責任感で茨の道を歩く体質なだけで。

彼女が失踪した後、初代『黒き白鳥』……セイバーハーゲンの娘であるシンシアから明かされた本名は『マリア・セイバーハーゲン』。
普段その身を鎧かぶとに包み、名を隠していたのは『マリア』の名に似つかわしくない我が身を恥じていたからなのかもしれない。






















しかしセイバーハーゲンにはまだ隠された『真実』があった。ブリジットの知りえなかった真実が。

アーデルハイトが封印から解放された後に明かされた真実。
それはセイバーハーゲンがステラの母であり、そしてステラとお腹の子供を惨殺した真犯人だったということである。

ステラが惨殺されたその日、彼女は育ての母であるセイバーハーゲンと霊具を用いて連絡を取っていた。
先述のとおり、セイバーハーゲンはストラウスが憎いというよりも、その強大な力が世界のパワーバランスを崩壊させることを恐れていた。
同時に、ストラウスに子供ができその力を受け継ぐことも恐れていた。
しかしセイバーハーゲンにとって、ステラは養った子供の中でも最も幸あれと願った愛娘だった。

最初はステラを叱責し考えを改めさせるかのような発言をするが、
ステラのあまりにも純粋な愛を動かしようがないと悟ったセイバーハーゲンはステラを遠隔地から術を用いて殺害。
その後、現場に乗り込み死体を徹底的に破壊した。(胎児であった子は性別が判別出来ないほど破損させられていた。)

この一件の内、連絡~殺害までの顛末をたまたま彼女の部屋を訪ねたアーデルハイトが目撃していたのだが、
ステラの願いによって真相は伏せられることとなったのだった。

……だが真実はこれだけに留まらなかった。
その後、ストラウスの口から明かされた衝撃の真実。
なんとストラウスの宿敵である『黒き白鳥』の正体とはステラと、ステラのお腹の中にいた子供の魂だったのである。
セイバーハーゲンは二人を殺害したばかりか、ストラウスの強大な力に対抗すべくストラウスの力を受け継いだ子供と、
そしてその赤子の魂を安定させるために母であるステラの魂を利用したのである。

セイバーハーゲンさんマジ外道。そら二度と使いたくも無いと思うわけである。

ストラウスはシンシアと初めて戦った時にこの真実に気付き、後にセイバーハーゲンを見つけ出し確認した。
上記のとおり、ステラはセイバーハーゲンにとっても愛娘であり、
自らの非道としかいいようのない行為に深い罪悪感を抱えていた。
なのでこの時ストラウスに対しステラの復讐を果たすよう言う(既に自分の勝ち確というのもあるだろうが)も、ストラウスはステラが母の死を望まないだろうとして諦めた。
そしてストラウスに対し自身との相似を指摘し人並みの幸せなど望むべきではなかったと、
ステラを愛するならそばに置くべきではなかったと怒りの言葉をぶつけた。

だが、その後。彼から人間と吸血鬼の双方の共通の敵として立ち続け、自らが守る相手から怨嗟と憎悪を一身に受けながら「愛する相手と我が子が憑依した女性たちを殺し続ける」上に自死も出来ない生き地獄を歩み続けると宣言した彼の背を振るえながら見送った。


ただし、完全に魔への特攻に偏った『黒き白鳥』はそれ故に人としての属性も併せ持つダンピールには攻撃力が激減し、霊力や霊剣をノーリスクで扱え魔力無効の防壁が貫通されるためストラウスが本気でどうにかしようとすれば封印の件も含めてブリジット等を懐柔すればそれで済み『どうにかしようと思えばどうとでも出来る』策でしかなく、意味ある物になったのストラウスの意思に寄るところが大きく、1度自分の死を当たり前に受け入れるという思想の転換が起きれば成立しなくなり、逆に言えば彼女の『杞憂が実現した場合は無意味となる』ため、無駄に悲劇をばら撒いただけである。


『ぶっちゃけコイツが一番の悲劇の元凶じゃね?』と読者から言われるようになってしまったセイバーハーゲンだが、実際その通りである。
別の終焉が訪れたとは作中におけるストラウスの弁だが、同じように悲劇と破滅ではなくもっと緩やかで優しい終わりだった可能性もある。少なくとも一連の悲劇は彼女によるステラ殺害を起点にしており、人類と吸血鬼の融和の可能性を完全に断ち切ったのは事実である。(最終的に吸血鬼の生き残り達が選んだのは月への移住という別離である。)

責任感と強迫観念からか、各国で連合組ませて夜の国に戦争を幾度となく吹っ掛けさせようとしたりステラ殺害も『当時進行中だった和平交渉の決裂』が目的に入ってたり、やってる事は明確に『平和の敵』である。
ストラウス処刑の発端も、彼女がまたまた戦争を吹っ掛けさせようして居る事に対しての『無害アピール』が裏目に出てしまった結果である。
もはや、何のために打倒赤薔薇を掲げてるのか分からない顛末であり客観的に見たら、疑心暗鬼に狂っているとしか言えない始末である。


その強大な力と才気故に「ちょうしにのっていた」ストラウスは最期の時に己を許すことができたが彼女は果たしてどうだったのだろうか。






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最終更新:2023年06月01日 21:57