バチバチシリーズ

登録日:2012/09/09(日) 02:43:13
更新日:2024/04/09 Tue 10:59:37
所要時間:約 75 分で読めます




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情熱よ、残酷を超えろ!!


バチバチとは週刊少年チャンピオンで連載していた本格大相撲漫画。作者は佐藤タカヒロ。

2009年24号から連載を開始し、2012年19号にて一旦完結(全16巻)。
2012年25号より、第二幕「バチバチBURST」が連載され、2014年36+37合併号にて完結した(全12巻)。
2014年50号より幕内編「鮫島、最後の十五日。」が連載され、2018年33号にて未完で完結(全20巻)詳細は後述。


大相撲漫画であるが、NHKの地上波で我々が観る関取達ではなく、それより下位の幕下以下の力士達の生き様を描いている。
BURSTからは登場人物の番付も上がり関取も登場するが、基本的には上を目指してぶつかり合うストーリーである。
故に現実の大相撲で問題となった八百長や賭博等の馴れ合いの世界ではなく、本気で鍛え上げ、本気でぶつかる非常に熱い漫画。この熱さが、現実の大相撲に対する喝であり、エールでもある。


熱さ

この漫画の最大の魅力。
だが常に熱い訳ではなく、
  • マスコミの叩きによる世間の心無き反応
  • 引退と隣り合わせの怪我
  • 突き付けられる才能の無さ
など鬱展開も多い。

しかし、そういった苦境・逆境にある中で見せる生き様と成長。そしてそれを土俵の上で激しくぶつけ合う迫力と熱気は、筆者の貧弱な言葉ではとても表す事が出来ない。是非本場所(誌上)で感じて頂きたい。

週刊少年チャンピオンで格闘漫画と云えばバキシリーズが有名だが、そことは全くベクトルが異なる。

しかし、2018年7月3日、作者がチャンピオン表紙を飾るカラー原稿を鉛筆絵の未完成のまま急逝、未完で完結を迎えた。
その後、43号で未完成の表紙絵を表紙にし、横綱白鵬関のメッセージとチャンピオン連載作家と「火ノ丸相撲」の川田氏等の追悼色紙を掲載、主人公鮫島の全取組を振り替える追悼企画を掲載した。


【登場人物紹介】

☆空流部屋
主人公の所属する相撲部屋。所属力士が少なく関取もいないが、相撲への熱意に溢れた部屋。
鯉太郎の事件以来、マスコミから暴力的と批難されるがそれに負けぬ気迫と結束を持つ。
その熱意と力により周囲の評価を上げていく。

  • 鮫島 鯉太郎(さめじま こいたろう)
「俺の全部を、くれてやる」

主人公。元大関・火竜の息子。
暴行事件を起こしたとして除名され飲んだくれて死んだ父に勝つ為に、神=横綱を目指す。
幼少期に零落れた父親から手のひらを返すように去って行った世間の人々を目の当たりにし、それが原因で身勝手な世間の人々やマスメディアなどを心から嫌悪している。
名前の「鯉太郎」は、「いつか天に昇って龍になる男」と言う意味で父・火竜太郎が名付けた。

根は真面目で正直な少年であり、育ての親である斉藤一家には終始感謝と礼儀を忘れず、自分を受け入れ護ってくれた空流部屋の家族の信頼に応えるべく人間的に成長していき、悪タレ大関の息子という風評被害、そこからくる観客や世間の悪口雑言も意に介さず、自信に立ち塞がった王虎や、虎城親方の妨害さえ撥ね除けて土俵での生き様を貫く。
その真っ直ぐな信念と情熱は数多くの力士を感化させ、光ある方向へと導いてきた。
彼自身も知らないことだが、彼が火竜から受け継いだその燃えるような生き様こそは、皮肉にも彼を疎み苦しめた虎城親方が、弟弟子である火竜へ刻み込んだものである。

第一部当初は完全な不良で、虎城部屋主導の相撲巡業に乱入し、親方の前で力士を圧倒する。
面子を潰された虎城は、彼を壊そうと当時幕下の猛虎をぶつけるも逆に敗北させられた上に、鯉太郎が火竜の息子であると知った虎城とその息子である王虎に付け狙われる羽目になった。
しかし彼自身は入門した空流部屋の光に照らされ、力士として真っ当な成長を遂げていく。

第二部では幕下に昇進。かつての狂犬ぶりは鳴りを潜めていき、ライバル・王虎との確執や七面倒くさい弟弟子たちに振り回されながらも、次第に自分自身の心と向き合っていく。
父親が相撲を残してくれたことへの感謝、自分を土俵に立たせてくれる人々への敬意、そして戦う相手への礼儀を自覚した彼の心は、ついに闇に堕ちた王虎と虎城さえ浄化した。

第三部では幕内力士に昇進。第二部までとは異なり、押しも押されもせぬ人気力士となっている。
この頃にはファンの求めるサインに、顔を赤らめながらも応じる可愛げさえ見せるなど、人間的にも成長し、周囲を感化させる熱と共に大らかな度量をも持ち合わせるようになった。
どちらかと言えば、やんちゃながらも明るく朗らかだった地の部分が出てきたとも取れよう。

子どもの頃から鍛え上げた足腰と瞬発力で放つブチカマシは幕内でも屈指で、小兵でありながら見上げるほどの巨漢さえ吹き飛ばす押しの強さを持つ。それでありながら本懐の左下手を取れば、食らいついたら離れない握力と、兄弟子譲りの多彩な技で対戦相手を翻弄する技巧派でもあるため、角界指折りのスピードも相まって、最大出力であれば上位でさえ圧倒する程の力を持つ強豪力士

しかし、軽量ながら真っ向勝負を続けてきた体は限界を迎えており、ヤマに行って*1途中休場もザラ。
鯉太郎もそれを理解している節があり、毎回これが最後かも知れないと覚悟と恐怖を抱きながら、彼は目の前の一番に全てのエネルギーを注ぎ込むような、荒々しく燃え上がる相撲を挑んでいる。
それでも一戦ごとに成長していくような本編中では、松明をして「神懸かっている」と言わしめ、虎城親方も「日に日に強く成りつつある」と認め、彼が台風の目になるのではと期待を抱いている。
また鯉太郎自身も、相手の先の先を読みきるという予知能力染みた能力にさえ開眼していく。
しかし日に日にその体は限界にきており、ついには両手が震え続け、記憶にも障害が出始めており*2、親友である石川同様の慢性外傷性脳症を発症していると思われる。


  • 阿形 剛平(あぎょう こうへい)→仁王 剛平(におう こうへい)→空流 剛平(くうりゅう こうへい)
「俺は好きな相撲よりも…オメーらが…この部屋が…大事だ」

空流部屋の部屋頭。最高位は関脇。
怪力無双のゴリラで豪快な性格。実力者だが調子に乗りやすく凡ミスからピンチになる事も多い。
相撲に対してはストイックでシビア。弟弟子も決して甘やかす事はなく、それが馴れ合いにならない空流の魂に繋がっている。

幼いの頃から度を越えた蛮力の持ち主で、ただ必死にやっているだけにもかかわらず、あらゆる競技で怪我人を続出させてしまい、周囲から敬遠されて孤立していた。
そんな時、彼の噂を聞きつけた空流親方にスカウトされ、時を同じくして親友となる吽形に出会う。
以降は自分を受け入れてくれた親方や、対等に付き合える吽形によって人間的にも成長していった。
しかし第一部終盤、膝を破壊された吽形の仇を取るものの、それで彼の怪我が治るはずもなく、吽形との幕下優勝決定戦では彼に引導を渡すべく、涙ながらに死闘を展開。見事優勝を勝ち取る。

第一部のラストで十両に昇進し、第二部では幕内に登り詰める。しかしその時点ではまだ未熟で、一場所に三回も勇み足するという情けない相撲で親方に恥を掻かせてしまう。
それを痛烈に反省した彼は、自信が横綱を目指し、弟弟子たちを関取に引き上げることを宣言。
その言葉通り、自身数年で大関取り目前まで登り詰め、弟弟子3人も関取にまで鍛え上げる。
しかしその直後に親方が事故で急逝。空流部屋を護る*3ため、自ら髷を落とし親方になった*4

第三部では、ついに自分が大黒柱となって、弟子たちを導くことの難しさを否応なしに痛感する。
それでも不器用に弟子を導き、また親方として悩み苦しみ成長する様子が描かれていく。

なお全盛期に引退したため力は全く衰えておらず、白水曰く今でも部屋で最強であるとのこと。
また、その威圧は現役の幕内である空流の三人衆や宝玉光を圧倒し青ざめさせるほどである。


  • 吽形 亘孝(うんぎょう のぶたか)
「立ち向かおーぜ。結局それしかねーんだよ」

空流部屋の力士。阿形とは同期で四股名も対になっている。
投げを得意とし阿形よりも早く番付を上がるが、負傷により休場。番付を落としてしまう。
普段は優しいが相撲への思いは阿形以上にストイック。ドクターストップがかかる程の負傷でも、土俵に立ち最後まで相撲を取りきる生き様は、見る者(勿論読者も含めて)の魂を揺さぶる。

第一部で鯉太郎たちの兄弟子として登場。放任主義型の親方、繊細なフォローの出来ない相方に変わり何かとナイーブで思い詰めやすい白水や鯉太郎を時に優しく、時に容赦なく導く偉大な兄貴分だった。
突っ走り自滅しかねなかった鯉太郎に「プロの自覚を持て、三年先の稽古をしろ」と宥めすかし、その自信のなさゆえに躓いて涙する白水へ「お前が空流の柱になるんだ」と発破を掛けたりと、幕内にまで登り詰めたふたりの心に、折れない芯を通してくれるなどその功績は計り知れない。

しかし、同期だったブタフグこと大鵠に執拗に付け狙われた結果、彼を討ち取るのと引き換えに壊された膝が限界を迎えてしまう*5。最後の場所では遂に悲願の十両昇進が確実になるものの、
ここが自分の終わりだと悟った彼は、阿形との最初で最後の同部屋優勝決定戦に全てを懸ける。
腐りきり対立していた頃の虎城親方も「見事だ」と認める壮絶な取組は惜しくも敗北に終わり、阿形から涙ながらに引退を勧告され、髷を落とす。その最後は鯉太郎にも絶大な影響を与え、彼に「あの人のように燃え尽きるまで土俵で生きる」と誓わせる原点にして到達点になった。

とにかく部屋の潤滑油として欠かせない人物で、後援会や関係者からも非常に慕われていた。
特に目下の者のフォローを一手に引き受けていただけあり、彼が居なくなった後の空流部屋は面倒な新弟子たちに翻弄され、鯉太郎もまたそのせいで調子を落としてしまったほどである。
しかしそこから立ち直ったのもまた、彼が弟弟子たちに残した生き様と教訓のお陰であった。


  • 白水 英樹(しらみず ひでき)
「俺みてーなダセェ凡人でも…必死こけば何とかなるって必ず見せっからよ…」

鯉太郎の兄弟子。作中屈指のコメディリリーフであり強豪力士。
お調子者だが、空流やその兄弟への愛も一際強い兄貴肌でもある。

初登場は第一部。鯉太郎の入門当初は髷も結えない新弟子に毛が生えた程度の実力と年季で、多少背は高くても体はヒョロヒョロ、おまけに自信も技量も無いためうだつが上がらなかった。
鯉太郎の成長と自分の低迷する実力に悲観し諦観すら持っていたが、地力が付いてきたこと、兄弟子たちの指導と発破により強烈な「ゴリラ張り手」に目覚め、以後劇的に成長し始める。
しかし天雷との取り組みでプレッシャーから引いてしまい、鯉太郎との些細な諍いもあり一時期は廃業を考えるほど思い悩むが、その折に吽形の膝の状態*6や覚悟を椿から聞かされ、今度こそ覚悟を決め本当の意味で目覚める。
第一部ラストでは鯉太郎との同部屋優勝決定戦*7を制し頭角を現した。
なお中盤から髷を結った際に、事故で頭頂部の髪を失い時代劇の殿様のような髪型になってしまう*8

第二部でも幕下の有望株となり、第三部では小結に昇進。名実ともに空流の出世頭と相成った。
コメディリリーフぶりは健在で、要所要所で弄られ手酷い目に合うことも多いが、その実力は本物。
仁王が去った後は部屋頭として弟弟子たちをひっぱり、幕内上位の一員として横綱や大関に挑む。
見上げるほどの偉丈夫*9で、相変わらずの殿様カットと独特の愛嬌で人気力士となっている。

初期のヒョロさと自身のヘタレぶりから、未だに自信に欠けているようで自己評価が低いが、全キャラクターの中でも指折りの長身と、そこから放たれる突っ張りの威力は作中でも随一。
その実力は大関・天鳳と互角に渡り合い、「ノンビリしていると過去の人間にされる」と讃えられ、関脇まで昇進した仁王さえ、「アイツは必ず俺を越える」と確信するほどの素質の持ち主である。

押し相撲オンリーで戦うスタイルで、長身故の懐の深さがあるため並の力士ではまわしを取れず、また殆どの相手をその恵まれた体から繰り出す長射程・高威力の突っ張りと張り手で圧倒する。
本人の自信のなさに反して、作中の強豪力士たちの中でもとりわけ指折りの才能の持ち主である。

  • 川口(かわぐち)
鯉太郎の兄弟子。通称川さん。
とにかく謎。台詞は一切なく実力も不明。時折出オチな恰好をしている。常時カメラ目線で夜も目を開けて寝る。
話の熱気が増すにつれて出番が減り、いない事にすらなる時があるが、出た時のインパクトから忘れる事の出来ない愛されキャラ。
とはいえ徹頭徹尾ただのネタキャラでは無く、鯉太郎の曲がった指に見事なテーピングを施したり、動けない白水を(引きずったとは言え)土俵の傍まで運ぶなど、粋な計らいを要所要所で垣間見せる。

なお白水をスカウトしたのは彼の功績。本人曰く「強引に勧誘された」とのことだが、現在を鑑みれば先見の明があったと言える。
ミミズの親分*10であった当時の貧相な白水を思えばなおさら慧眼であろう。


  • 常松 洋一(つねまつ よういち)→松明 洋一(まつあかり よういち)
「あんたは俺に相撲を残してくれたからな…」

空流部屋の力士で、鯉太郎の弟弟子。大吉とは同期である。
奇しくも鯉太郎の父・火竜の兄弟弟子だった天城部屋の元三段目力士・松明(たいまつ)を父に持つ。
対戦相手の取組を徹底的に分析し、その隙や癖につけ込み圧倒する技巧派である。
虎城部屋の古なじみで、王虎を指導したこともある。王虎の危険な相撲は、荒んでいた頃の彼が伝えたもの。

幼いころに父から教わった相撲に惚れ込むが、生活が上手く行かない父に虐待を受け、人格が歪んでしまう。
最終的に父は家族を捨て蒸発。その屈辱を払拭するかのように相撲に打ち込むが、声の掛かった虎城部屋では旧知だった父とその息子である自分を虎城に罵られ屈辱を味わう*11。後に学生横綱となり、幕下付け出しでデビュー。

当初は空流部屋を踏み台にしか見ていなかったが、本場所での経験や連敗でプロとは何かと突きつけられ、鯉太郎と語り合ったことで心境が変化。父が憎くても、父が残した相撲は敵では無いと悟り、殻を破った。
また、負けても言い訳をしない彼の背中を見て、番付では無い本当の強さを学び身につけていく。

本編時点では幕内・松明(まつあかり)になり、東前頭六枚目と番付のみなら鯉太郎を上回った。
しかし前述の事情から、それでも鯉太郎を兄と慕い常に尊敬の念を払っているのは変わらない。
対戦相手のデータを徹底的に分析する観察眼と、それにつけ込めるだけの技巧を有するに至り、初日から負けなしの7連勝を飾るほどの実力と、大きな度量を持ち合わせる一角の力士になった。
またその能力を活かして空流の参謀役としても活躍し、鯉太郎にも効果的な助言を行っている。

そんな最中、突然父・松明(たいまつ)が現れ、あろうことか金の無心を口にし松明を激怒させる。
だがそんなクズ親父への怒りさえ呑み込んだ彼は、金を渡す代わりに取組を見に来いと宣言する。

当日の相手は、屈辱と苦悩にまみれながらも、輝きをその身に宿した松明とは正反対の力士、同じく学生相撲のホープで、挫折知らずの模範生だったはずが突如闇に堕ちた百雲と対戦する。
その鬼気迫る空気にもまったく臆さず、技巧戦では互角以上に渡り合う松明であったものの、相手は格上の関脇であり、また危険な相撲で徐々に身体を破壊され劣勢に追いやられていく。
それでもなお折れなかった松明は、鯉太郎のような殺気を放ち百雲を威圧し遂に退かせるが、心より先に限界を迎えた肉体が土俵に着き、結果的に勝負に勝って試合に負ける形になった。
しかし彼の奮戦は見る者の心に火を点し、敗れてなお万雷の拍手と惜しみない喝采を浴びた。

取組後、松明の姿を見届けた父はかつて抱いた相撲への情熱を思い出し、後悔しながら彼に謝罪する。
松明はそんな父と相撲を取って叱咤激励すると、「相撲を残してくれた礼」を残すと静かに去って行った。

過去の経験から金には煩く、当初は相撲も金を稼ぐための手段だと豪語して憚らなかったほか、ファンのサインにもお金を求めたりと、高給の関取になっても吝嗇家ぶりは変わらない様子*12

なお、父親の四股名と同じ漢字で読みが違うのは「一度も火が灯らなかったこの名を輝かせたい」と相談した常松に、先代親方が「どうせなら自分も周りも照らす力士になれ!」と名付けたもの。
「松明」は、火竜が「生き様に火を付け燃え上がれば皆がお前に気付く」と名付けた四股名であり、前述の通り息子はこの四股名を輝かせるのみならず、それに込められた思いを昇華した形になった。
その輝きの源は、火竜の生き様を受け継いだ鯉太郎に、松明もまた火を点されたからに他ならない。


  • 丸山 大吉(まるやま だいきち)
「僕…支えますから…大した力も無いけど…最後まで…最後まで支えますから…」

鯉太郎の弟弟子。
空流部屋の後援者である叔父の勧めで空流部屋に入門。
鯉太郎が羨むほどの巨漢であるが、本人は全くやる気なし。
空流部屋に入門するまでは引き籠りのアニオタだった。
当初はチャンコだけを食べては稽古をスカす有様で鯉太郎を激怒させ、あまつさえ空流のバッシング記事目的のマスコミにそれらを訴えるという最低の裏切り行為を働いてしまう。
しかし、白水から鯉太郎の過去を聞かされ、さらに鯉太郎本人の思いも聞いてしまい、自分の行ったことの重さを痛感し改心。
以後は愚痴を吐きつつも稽古に付き合い、取り組み後に氷代わりのガリガリ君*13を用意するなど不器用ながらもサポートをしている。
王虎と鯉太郎の取り組みを最後まで見届けた際には、兄弟子のあまりにも大きな背中とかっこよさに感涙していた。

第三部でも序二段で燻っては居るが、空流部屋の猛稽古に着いていけるほどの地力を養っており、
相撲も逃げずに前へ向かっていくスタイルになっている。
黒星のことを鯉太郎たちの前では茶化していたが実際には重く受け止めており、「自分はもっともっと勝つという気持ちが足りない」と自分なりに原因は理解している。
このためか「相手を傷つけるのが怖い」という巨桜丸に対しても(顔が見えなかったので相手が誰かわからなかったとはいえ)
「相手のことを考える時点で全然余裕がある」と叱咤し、その結果巨桜丸は覚醒することとなった。

巨桜丸戦後に改めて鯉太郎の覚悟を受け、どんなことがあっても最後まで支えることを決意する。


  • 空流 旭(くうりゅう あさひ)
「空流部屋(ここ)は…不器用な奴らの、希望でありてえんだよ」

空流部屋の親方。元小結・春風。本名は奥村旭(おくむら あさひ)。右眼が白く、失明していることが示唆されている。
飄々としながらも弟子達への愛情と相撲への思いは深い。
現役時代に横綱・虎城から白星を稼ぎ「虎城キラー」の仇名をもち、それ以来虎城に憎まれ確執を生んでいる。

第三部では突然の交通事故に合い死去。関取が増え、部屋の調子が良くなった直後の悲劇であった。


  • 奥村 椿(おくむら つばき)
「私は…土俵のアンタをずっと見ていたいのよ」

親方の一人娘。16歳。
女将さんのいない空流部屋を切り盛りするが、料理は下手。
鯉太郎のことが好きな様子。

第三部では、鯉太郎の悲壮な覚悟と限界の近い身体を知りつつも、それを止められず懊悩する。


  • 床上手(とこじょうず)
「フフフ…次、オッサンって言ったら殺しちゃうから♡」

空流部屋の美しき毒蛾。本名は山岡薫。二等床山→一等床山。
世にも珍しいオカマの床山で、空流部屋の女将さん・母親的な存在。
椿と違って料理上手で、空流部屋では昼飯は床上手がちゃんこを作ってくれている。

毒ガエルだのオバケだのとさんざんな扱いをされる濃いビジュアルと性格だが、
床山としての腕も一流で、また助言や観察眼もかなり的確という優秀な人物。


  • 斎藤 真琴(さいとう まこと)
「ゆくゆくならね……」

鯉太郎のお姉さん的存在。第一部地点で18歳。正確には空流部屋の一員ではない。通称マコねえ。
元気で喧嘩っ早い所もあるが、鯉太郎の事を大切にしており、力の世界である角界入りも反対していた。
しかし新しい家族である空流部屋を知り、その道を応援し協力し続けることになる。

第三部ではアナウンサーとして活躍。白水や元仁王の親方に惚れられたりと、とてもモテる。


☆虎城部屋
元横綱・虎城の相撲部屋。虎城の名に惹かれた多くの弟子を抱えるが、その実、腐敗と恐怖に満ちていた。
しかし第三部時点では、親方や王虎の更正や昇進も相まって、真剣に相撲と向き合う強豪部屋になった。
それでいながら若手たちも稽古後に明るくじゃれ合う様子を見せるなど、環境が劇的に改善されている。

  • 王虎 剣市(おうこ けんいち)
「やっぱりムカツクヤローだな…テメーは…」

虎城の息子で、虎城部屋の力士。本名は後藤剣市(ごとう けんいち)。
天才的な才能と実力を持ち、マスコミへの対応にも知略を巡らすカリスマ的な男。
一見すると狂気染みた自信に満ちあふれているが、その本質は父親と同じく極めて臆病かつ繊細
全盛期の父の姿を間近で感じられず、またその生き様を受け継げなかったのが彼の苦悩の始まりであった。
結果として彼は虎城の実子でありながら、皮肉にも火竜経由で虎城の信念を継承した鯉太郎と異なり、
「負けたら終わり」という、頂点に登り詰めた父親の艱難辛苦だけをその身に宿すことになってしまう。

幼少期から「大横綱・虎城の息子」としか見られていなかったと思い込み、人格が歪んだまま成長。
また、物心ついた頃には地位と名誉に固執し、敗北の恐怖に怯える父の弱々しい姿しか見られなかった。
この経験で父を小物・偽者と断じるものの、周囲は事あるごとに彼を「大横綱の息子」と持て囃し期待した。
その結果、王虎は幼くして相撲を憎み父親を見下すようになってしまう。また少年期に当時荒々しかった
常松(後の空流部屋・松明)の影響を受けたこともあり、相手を壊す危険な相撲を身につけてしまった。

纏わり付く相撲への期待と父親の雷名を払拭し、自己を確立するために忌まわしき大相撲への道を歩む。
自他共に認める圧倒的な天稟、インターハイ優勝などの高成績も相まって傲慢かつ尊大に成り果てた王虎は、
下位の力士でありながら虎城部屋で横柄に振る舞い、ただでさえ倦んでいた部屋の空気を腐らせてしまった。
しかし前相撲で格下の踏み台として見ていなかった鯉太郎に完敗を喫し、屈辱で荒れ果て引き籠もる羽目に。
そんな彼を引っ張り上げたのは、王虎を餌として登り詰めんとする兄弟子・猛虎だった。押し問答の末に、
互いに喰らい合う関係となった兄弟との稽古で、鈍っていた王虎はかつて以上の凄まじい力を得ることになる。

だがそれでも心技体の心が欠落した状態なのは変わらず、彼は鯉太郎と自分に「負けたら廃業」などという
マスコミを使った追い込みをかけて、己を鼓舞しようとする。しかしそんな綱渡りが長続きする筈も無く、
因縁の鯉太郎を完膚なきまでに撃破し、強敵の天雷さえ打ち倒したところで遂に精神の限界が見え始め
白水戦において実力で勝りながらもその気迫に圧倒され、思わず髷を掴んで*14あまりに手痛い敗北を味わう。

怒り狂った王虎は稽古場で大暴れし、猛虎の「力士としての根本が欠けている」という叱咤にも耳を貸さず、
当時幕内であった彼を圧倒する力さえ見せる。しかしヒビの入った心はもはや補えず、幕下優勝決定戦では
白水戦で綻びていたメッキが石川戦でついに剥がれ、優勝を懸けた鯉太郎との再戦でとうとう剥き出しになり、
全盛期の父の生き様を受け継いだ鯉太郎に大苦戦。今まで取ってきた危険で凶悪な相撲の悪印象もあって、
観客の声援も罵倒に変わってしまう。それでもなお力を恃みに鯉太郎を叩き潰さんと狂気の形相を見せるが、
鯉太郎の必死な瞳を見てようやく、彼らライバルだけは自分を見ていたこと、そしてほかの誰でも無く、
自分自身が「王虎」を真っ直ぐに見ていなかったことを悟り、遂に父の生き様を心に宿すことが出来た。

第三部では、鯉太郎ら黄金世代の出世頭として大関に昇格。また、全盛期の父を彷彿とさせる度量さえ備えており、
同じ大関・猛虎、そして十両となった田上改め稲虎と共に部屋を引っ張り、力士たちに真剣さを充ち満ちさせ、
更に父である虎城の姿と力、そして生き様をそのまま受け継いだ生き写しとも言える壮麗たる姿に成長を果たす。
だが同時に絶対的なまでの泡影の力を痛感しており、それを越えんがために鯉太郎との死闘を切望し続けていた。
鯉太郎のことは横綱・泡影を越えるための餌だと言って憚らないが、内心では彼のことを認めていることが窺える。
とは言え鯉太郎と顔を合わせると闘争心を剥き出しにし、獰猛な笑みを向け合うやんちゃぶりは変わっていない。
父親を尊重し、兄弟子の猛虎や同期の稲虎のことも認めるようになってからは落ち着いたため尊敬を集めており、
部屋の若い衆からは「触れたら斬れそうなマフィアのドン」扱いで畏怖されつつ慕われている模様。*15

十一日目では狂気に取り憑かれた百雲と対戦。直前の取組で満身創痍の鮫島と、号泣する天雷に苛立ちながらも、
しかしまるで隙の無い相撲で、かつての自分のように闇に堕ち暴れまわる百雲を、完膚なきまでに圧倒していく。
血涙を流し、殺意を剥き出しにして挑んでくるその姿さえ「偽者」と断じて容易く叩きのめした王虎だったが、
ついに心をへし折られた百雲が、王虎に引っ張られて見せた底力を受け止めると、心から喜びつつ粉砕してのける。
終始鬱屈とした感情を漂わせながらも、自分と同じ泡影の存在に苦しむ百雲に対する慈悲と敬意を込めながら、
「喰うに値しない」と厳しく引導を渡すと、真に力を引き出し合える鯉太郎との一番に思いを馳せた。
しかしその直後、会場で出くわした鯉太郎の憔悴ぶりに失望し、対峙した際には怒りも露わに荒れ狂う。
だが満身創痍でもなお闘志を剥き出しにする彼の姿に、遂に運命と言うべき時機が来たことを確信し呵々大笑、
高みに昇るための餌とすべく、何の躊躇も呵責も無く「俺に喰われて死ね」と言い放つのだった。

そして十二日目には、まさに彼の原点であり、悲願そのものであった鮫島戦を迎える。
掛け値無しの死力を振り絞る鯉太郎に対して、しかし王虎はその圧倒的な力と器で受け止め、
互いに命を懸ける大一番にまで発展。遂には不屈の鯉太郎さえその前に心も体も砕けかける。
だが全ての力が尽きた鯉太郎は、その先に相撲の喜びと幸福を見出し限界を振り切って反撃。
その貪欲さに消耗を極めた王虎は、己の敗北を悟ると鯉太郎に全てを託して土俵を割った。

取組後は静かに敗北を受け止めたものの、同時にこれが鯉太郎との最後の相撲であるとも理解しており、
結果として残酷にも既に限界を越えた彼の背中を押して、後戻りできない道へと進ませることになる。
しかしそれをお互い理解してなお、同じ生き様を共有するふたりの間には後悔も遺恨もなかった。

  • 虎城 昇(こじょう のぼる)
「ここにガッとあって砕けねぇ…ドンとしたものだ」

天城部屋出身の元横綱。本名は後藤昇(ごとう のぼる)。鯉太郎の父・火竜の兄弟子。左耳の上半分が欠けている。
優勝回数25回、三場所連続の全勝優勝など凄まじい大記録*16の持ち主で、一代年寄になった程の大横綱
人格者として知られているが、実際は腹黒であり、内心で周囲を見下したり弟子への虐待などを行っていた。
過去のトラウマから、弟弟子の火竜や彼を彷彿とさせる鯉太郎を見ると、顔面蒼白になり激しいえずきを催す。
指導では「ガーッと!」など擬音と感覚で相撲論を語る癖があり*17、火竜や王虎などの天才以外で理解できた者は猛虎のみ*18
ただし、指導ではない解説や分析などは極めて精確かつ解りやすく、本場所の幕内中継を毎日勤めているほど。

一方で、横綱だった頃の彼の強さやカリスマから、虐待されてもなお彼を慕っている弟子もいる*19
また、腐っていた時も引退して老いた後も、相撲や力士に対する優れた審美眼だけは濁ることが無かった。
対立していた時期でも空流の力士を認めたりと、根底では相撲への思いを失っていなかったことが窺える。
息子の王虎がそうであるように、繊細で純心かつ余りに真面目すぎる性格が彼を苦しめることになった

現役時代の全盛期は非の打ち所すら無い傑物で、実力・人格・品性の全てを兼ね備えた模範的な力士だった
その輝く生き様は問題児だった弟弟子の火竜を感化させ、鯉太郎に受け継がれた多くの人々を救うことになる。
火竜のことも心から可愛がっており、また四股名も天城の城から取っている見られるように、相撲はもちろん
部屋の親方や兄弟に対しても誠実で真っ直ぐに向き合い、後の鯉太郎のように心から楽しんで相撲を取っていた。

しかし横綱になるとその地位の重圧で精神を病んでしまい、次第に立場と権威を護るための相撲に走っていく。
彼なりに横綱の責務を全うしようとした結果なのだが、それはかつての生き様にはほど遠いものだった。
それを良しとしなかった火竜とは次第に険悪になり、その溝はついに稽古場での凄絶な死闘にまで発展した。
そこで虎城は、火竜の中にかつての自分の生き様があり、それを砕いて否定することが出来ないことを悟る。
それでもなお虎城は、過去の幻影や火竜の嘆願も振り切って左耳を引き千切り、自らの信じた横綱道に殉じた。
しかし火竜と訣別したことで心の歪みと錆びは加速していき、彼の後援会長が綱取り前の火竜を陥れた際には、
会長の甘言に乗って彼に追い打ちを掛け除名させ、遂にかつての生き様と輝きを失い腐りきってしまった。

とは言えその心の奥底には後悔が残っており、前述のえずきも火竜や鯉太郎に対する恐怖や憎悪などでは無く、
彼らが秘めた昔の自分の生き様と、それを捨てたことに対する壮絶な罪悪感と自己嫌悪から来るものであった
だが本人もその過ちを受け止め、火竜と向き合えないまま彼を破滅に追いやったことを謝らずに生きていった。
しかし徐々に思い詰めて壊れていく息子の王虎に己の生き様を伝えられず、後悔と苦悩を重ねることになる。

第一部では鯉太郎に関わることで次第に余裕をなくしていき、王虎ともども彼を追い落とそうとするが、
第二部ラストでは遂にその受け継いだ生き様を認め、息子の王虎が立ち直ったことに感謝し確執が消滅。
全盛期の器と誠実さを取り戻し、鯉太郎と王虎に自分たちの相撲道の続きを託し、期待するようになる。

第三部では理事長に昇進。相撲人気復活に貢献し、本場所では毎日解説を行うようになる。理事長の仕事はどーしたッ!
また、遂に憎めなかった弟弟子・火竜の一粒種であり、戦友である空流の忘れ形見である鯉太郎には、
父親代わりとも取れるほどの振る舞いで、厚い配慮と篤い期待を見せるほど肩入れするようになった。

本編時点では鯉太郎の神懸かった相撲に火竜を重ね、内心彼の活躍を我がことのように喜びつつも、
その破滅的な相撲の行く末を憂い、また勝利の果てに待つ横綱・泡影の絶対的な力も相まって、
彼に引退勧告さえ行うばかりか、息子の王虎にさえ「あのバカを止めてやれ」と希うほどに心を配る。
だが自分たち宿命の総決算とも言える鮫島-王虎戦を前にして、かつての自分の生き様を受け継ぎ、
真っ向からぶつかり合ったふたりの姿に人目も憚らず号泣。「なぜ自分と火竜はこうできなかったのか」
嘆き悲しみ火竜に許しを請いながらも、その因縁を遂に昇華した息子たちに心から感謝するのだった。

出番の多さもあるが、息子共々とにかく顔芸が豊富であり、全シリーズ通じて最も感情表現が豊かな人物。
前半の小物臭、過去編におけるカリスマ、それを取り戻した後半での大物ぶりを兼ね備えた秀逸なキャラクターである。


  • 猛虎 哮(もうこ たける)
「お前に足りないのは、力士としての根本の強さだ」

虎城部屋の力士。事実上の部屋頭であり、目下の弟子たちには「先生」とさえ慕われる。
元学生横綱で、虎城にスカウトされて入門した精鋭だったが、腐敗した部屋に失望していた。
しかし巡業先で鯉太郎に敗戦したあと、改めて相撲に向き合い心身共に劇的な成長を遂げる。
虎城部屋の良心であるが、同時に自身の成長のために王虎を利用する野心を持った人物。

だが相撲や、ひたむきな力士に対しては礼儀を尽くす誠実さを持ち合わせた人格者でもあり、
負けてなお有終の美を飾った竹虎には、番付を上回っていたにもかかわらず頭を下げて見送り、
道を踏み外しそうになっていた田上にも鉄拳制裁を加えた上で、叱咤激励し立ち直らせた。

猛虎の面倒見の良さは、自身もまたかつては小柄で細く才能のない子供であったことに由来する。
諦めかけていた彼を救ったのは、「自分に才能があるとすればそれは誰よりも相撲が好きだったこと」と言う
他でもない虎城親方の言葉だった。以来、彼の相撲に対する思いは断固たるものと化していき、
小兵であると笑われながらも愚直に続けた努力はやがて花開き、いつしか学生横綱にまで成長した。

ところがその彼も、大相撲に飛び込んでからは当時の虎城部屋の腐敗に加え、
自身の確かな実力に自信を持ち始めたが故に驕りや陰りを見せるようになる。
しかし巡業で素人でしかなかった鯉太郎に精神面で圧倒され敗戦を喫すると、
自身の自惚れや器を見直し発憤。以後は相撲に対する貪欲さに磨きが掛かり、
王虎を付け人にし、弛んだ力士を振るい落として虎城部屋を牽引していく。
また、火竜や王虎といった天才にしか理解できなかった親方の指導を翻訳まで行い解読し、全てを血肉と化した。
その根底にあるのは努力という言葉ですら生ぬるい、己の強さと鍛錬を確信するエゴイズムであった。

第三部では大関に昇格。初日から10連勝するなど、王虎共々屈指の実力者として君臨していた。
しかしだからこそ、かつての虎城親方や幕内の強豪たちが持つ天分と、自らの非才の差を痛感。
同部屋であるがゆえに真剣勝負で王虎と戦えず、彼を糧と出来ないことを悔やんですらいた。
だが因縁の鯉太郎が王虎を喰らったその翌日、本場所最初で、そして最期であろう鮫島戦が到来。
これを千載一遇の好機と捉えた猛虎は、鮫島と王虎の双方を喰らうべく狂喜の笑みを浮かべるのだった。

本場所の公式戦では無いとは言え、劇中の主要な力士としては
最初に鯉太郎と戦い、またその生き様に感化された男である。
そのため本編中においても鯉太郎を最も高く評価している人物で、
傲り高ぶる王虎に対してもたびたび彼を引き合いに出している。

  • 田上 大(たうえ まさる)→稲虎 大(いなとら まさる)
「王虎(アイツ)は…誰よりも繊細で…誰よりも…臆病だから…」

鯉太郎の同期。大学相撲出身で年長者なため、問題児の多い同期のお母さん的存在。
人当たりも良く、それでいて物怖じしないため、王虎も彼にはある程度心を開いていた。
大学相撲時代にこれ以上伸びないと言われながら大相撲入りし、その壁を痛感。
才能ある同期に囲まれ感じていた思いを王虎に指摘され、闇に堕ちてしまう。
しかし根が善人でお人好しのため、卑劣と正道の狭間で悩み苦しむことになった。
鯉太郎との取組で、激しい猛稽古のお陰で地力が向上していることを悟り、
自分を信じられず卑劣に手を染めたことを猛烈に後悔。引退を申し出る。
しかし止めに入って叱咤した猛虎の鉄拳と激励により立ち直ることができた。
王虎の臆病で繊細な本質を理解していた数少ない人物であり、彼の理解者だった

第三部では十両に昇進。稲虎(いなとら)という虎の四股名を与えられ、
強豪となった虎城部屋の柱として活躍。若手を引っ張り二大関を支えている。
王虎との関係も相変わらず(?)良好のようで、同期との仲も依然良い模様。
関取になっても面倒見の良さは色褪せるどころか磨きさえ掛かっており、
取的衆を率いてちゃんこを作ったり*20、部屋の細やかなフォローを行い
優しい兄貴分…と言うかむしろオカン的な存在として慕われている様子。

余談だが、当時チャンピオンに連載していたパロディ過多の漫画「いきいきごんぼ」では
毎週のようにネタにされており、あまつさえ欄外に彼の登場人物紹介が載ったことさえあった。しかもあっちの主人公よりも先に。


  • 竹虎 昌雄(たけとら まさお)
「もったいねぇ…やめてくれ…せっかくの大銀杏が…俺ごときに…もったいねぇ…」

虎城部屋の幕下力士。15年間力士を続けており、確かな実力を持っていたが、部屋の腐敗もあって伸びずに居た。
親方から相撲教習所で鯉太郎潰しを命令されるも、逆に鯉太郎に覚悟と熱量の違いを痛感させられ引退を決意。
それまでの錆を払拭するかのように奮起し、幕下優勝を懸けた一番で吽形と対峙するまでの結果を叩き出す。
決定戦では親方から吽形潰しを命じられるが、ここでも吽形の決意と信念に圧倒されて真っ向勝負を決意。
力士として胸を張れる熱闘の末に破れ、親方からは罵倒されるが最後まで彼への敬意を失うことはなかった。 
しかしその生き様を見届けた猛虎が、大銀杏に化粧廻し姿で彼に礼を尽くすと、感極まって遂に号泣した。


☆新寺部屋

  • 石川 大器(いしかわ だいき)→飛天翔 大器(ひてんしょう だいき)
「テメーか鮫島ってのは!?ずいぶん騒がれてんじゃねーか!!」

新寺部屋所属の力士。鯉太郎の同期。染めていない天然の茶髪と、鼻の上の向こう傷が特徴。
神奈川では有名な不良だったのだが、彼の余りの素行の悪さに悲憤に暮れた担任教師に叱咤され、
教師の土下座と取りなしで新寺部屋を訪れる。それまで敵なしと自惚れていた石川少年だったが、
当然のように力士たちには歯が立たず圧倒され、対面した大関・天鳳を見ただけで己の弱さを悟る。
心機一転角界入りし、未来の大横綱とまで嘯くほどの怖いもの知らずぶりを見せつける彼はしかし、
場所で出会った鯉太郎の殺気と覚悟に当てられ、自分の小ささと薄っぺらさと改めて痛感させられ、
以後鯉太郎に幾度となく張り合い、やがて互角に渡り合う同期の親友でありライバルとなっていった。

第三部では入幕し、小兵ながらもその才能と度胸、愚直な鍛錬で身につけた張り手主体の押し相撲で
巨漢さえ圧倒するほどの実力を持つに至った。しかし至近距離でぶつかり殴り合う彼のスタイルは、
そのまま脳へのダメージに繋がり、結果として慢性外傷性脳症*21を発症することになってしまった。
しかし相撲以外の人生など考えられない彼は、医者と師匠の制止との狭間で苦悩することになる。
ところが本編初日に偶然組まれた鯉太郎戦を知り、引退前に一番だけ相撲を取ることを決意した。
周囲に病気や引退のことを隠したまま挑んだ現役最後の一番は、全てを出し切る壮絶な死闘の末に
惜しくも敗北。取組後は残酷な事実を振り払うかのように、自分や鯉太郎の意地を込めて咆哮する。
最後は同期や友人の力士たちに別れを告げられ、鯉太郎に後を託すと国技館に頭を下げて去って行った。

とは言え髷を落とすのはまだ先*22で、引退届は出しても未だ関係者であり新寺部屋に残っているため、
その後も場所中はたびたび空流部屋へと遊びに来たり、満身創痍になっていく鯉太郎を気遣っているほか、
ナーバスになる天雷に発破を掛けたりと、肩の荷が下りた故か、同期思いな面をよく見せるようになった。
しかしそのために、限界を超え壊れていく鯉太郎の惨状を目の当たりにしてしまい苦悩することになる*23

鯉太郎のように積み重ねも無く、王虎や天雷のような恵体を持たないにもかかわらず、その才能と情熱で
黄金世代の一角を担った。その天稟は、小兵でありながら押しだけで幕内に在位したことが証明している。
粗野なトンパチではあるが明るく人付き合いも良く、同期にも部屋の仲間にもその引退を惜しまれており、
また鯉太郎と共に幕尻にもかかわらず土俵を盛り上げる華をも持ちあわせるという、本物の力士であった。

  • 飛天勇
「見てろ大器 引退したお前に…これ以上ねぇデッケー餞別を贈ってやる」

新寺部屋の力士で初登場時は十両。
石川の兄貴分で新弟子の頃から石川を可愛がっていた。
第三部では幕内に昇格しており、7日目に横綱泡影と対戦するも、圧倒的な力の差を見せつけられ瞬殺された。

  • 新寺 宗男(にいでら むねお)
「ウザってーと思うが老婆心だと思って諦めてくれや…オメーは先代の…俺の親友の弟子なんだからよ…」

新寺部屋の親方で、元大関・天凱。同門である先代空流とは盟友。
大関・天鳳を始め、多くの関取を育て上げた優秀な手腕を持つ。
空流を受け継いだ仁王のことも気にかけ事あるごとに助力するなど、義侠心に溢れる好人物。


  • 天鳳
「大丈~夫…ダッテ…ホラ…土俵ハマダ、コンナニモ俺ヲ…ワクワクサセテクレルジャ~ン」

新寺部屋所属の大関。本名はアルベルトで、欧州系人種の巨漢力士。
性格は明るく朗らかで、諦めが忍び寄る過酷な境遇にありながら相撲を楽しむ心を忘れない好漢。
第一部開始時点ですでに大関であり、度を越えた怪力で土俵を暴れまわっていた『角界の怪鳥』。
ただの一度も角番も無く、石川も姿を見ただけで次元の違いを悟るなど、その実力は横綱クラス。
しかし彼の在位期間に優勝を独占した横綱・泡影に幾度となく弾かれ、未だ綱取りは叶っていない。
既に盛りは過ぎたと目され、親からは故郷への凱旋、親方からは日本国籍の取得と後継者指名を打診されるが、
それでもなお綱が欲しいと希っており、誰が相手でも折れることの無い凄まじい精神の持ち主である。

四つ相撲を得意としており、緩い一枚廻しで巨漢の白水を強引に投げ飛ばす桁外れの蛮力を誇る。
その膂力たるや、白水を真似て慣れない張り手を打つだけでも上位力士を轟沈させかねないほど。
「決まれば終わる」白水会心の一撃を二度受けてもなお耐えきるタフな肉体と精神も相まって、
間違いなくシリーズでも最強クラスの力士。そんな彼を悉く跳ね返す泡影が異常だと言えよう。


☆若竹部屋

  • 村神 凛太郎(むらかみ りんたろう)→天雷 凛太郎(てんらい りんたろう)
「待つさ…その時が来るまで…いつでも万全の状態で…今の俺は強いぞ、鮫島!」

若竹部屋所属の力士。鯉太郎の同期。角界一と謳われる絶大な怪力を持つ、同期の中でも王虎に匹敵する実力者。
「天雷」という四股名は旧日本海軍の航空機に由来し、元々は彼の兄が使っていた四股名を受け継いだもの。
恵まれた巨躯と膂力、更には明朗で人当たりの良さも備えるが、根は優しく大人しいためナーバスになりやすい。

元々は、明るく優秀なスポーツマンだった兄の影に隠れた大人しい少年で、運動経験も無く身体の線も細かった。
兄は彼の素質を見抜いていた節があり、幾度となく「本気でやってみろ」と諭したが、その頃は聞き入れなかった。
ところが角界入りした兄が失踪したことにショックを受け、その影を追い求めるように相撲に没頭することになる。

地元の相撲教室で鍛え上げた恵体を持ち、入門時点で幕下最重量の大森山を持ち上げ完勝する膂力と実力を有していた。
その圧倒的な才能は、指導員の竹虎をして「王虎と並び立つ怪物」と断言させ、その存在を周囲に瞬く間に刻みつける。
しかし元々控えめだった性格は、地元の星と兄を讃えながら、廃業したとたん手のひらを返した親や周囲に対する
壮絶な不信感で陰鬱なものと成り果ててしまい、当初は前髪で目元を隠し、他人とのなれ合いも拒絶し続けていた。
鯉太郎曰く「死んでいる」と言われ彼を青ざめさせるほどの暗闇に落ちながら、それでも彼は才能で同期を圧倒していく。
しかし本場所で鯉太郎と対峙し、彼の凄まじい熱量と殺気に当てられ振り回されてしまい、最終的に敗北を喫する。
以降は鯉太郎の影響と、兄と同期の阿吽により引退時の裏事情を知ったことで、過去を振り切り生まれ変わった。

「天雷」の四股名を名乗るようになった彼は、性格まで兄を彷彿とさせる明るく朗らかなものに変化していき、
その実力を順調に伸ばし続け、黄金世代と謳われる同期の中でも王虎に次ぐ大器として期待されるようになる。
しかし胸の中には未だに鯉太郎に点された炎が燃え盛っており、「アイツにだけは負けたくない」と思いつつも
彼との再戦を熱望していた。しかし、自身の出世の速さと鯉太郎の対格的な不利による昇進の遅さと休場により、
それを果たせなかった彼は、溜めた思いが願いを引き寄せるようにと、黙して語らないまま鯉太郎を待っていた。

第三部では関脇にまで昇格し、次の大関は彼で間違いないとまで言われるほどの圧倒的な実力を持つに至っている。
同期との仲も良好で、王虎とも番付や実力がほぼ互角であることから、彼とも物怖じせずにトークを交わす仲である。
特に前述の事情から、腐っていた自分の目を覚まさせてくれた鯉太郎には心から感謝し、彼の活躍を待望していた。
そして十日目では、遂に来たる鯉太郎戦を前に白鯨力と相打つが、その凄まじい出足で相手の型に嵌められ圧倒される。
しかし「今の俺は強い」という自分の言葉を証明するために発奮。壮絶な腕力で白鯨力を圧し潰し、豪快に勝利を飾った。
取組後、鯉太郎と相対し互いの熱意を確かめると、次の戦いを最高の一番にすると誓い合い、かつてない力を漲らせる。

十一日目は遂に悲願であった鯉太郎との対戦を迎える。序盤こそ興奮と感激の余りに隙を見せて追い込まれるものの、
鯉太郎の殺気と気迫に潜在能力を引き出され、冴え渡る彼の先読みさえ力尽くで潰して渡り合うほどの力を発揮。
泡影への度重なる敗戦で、先が見えていたと思い込んでいた己の底さえ突き破るほどに、互いを高みへ引き上げあっていく。
しかし、戦いの中で鯉太郎の破滅的な心境を悟ってしまい、彼を修羅道から引きずり下ろそうと強引な勝負に出たところ、
それさえをも呑み込むような鯉太郎の神懸かった相撲勘でタイミングを読み切られてしまい、ついに土俵へと叩きつけられた。
敗戦後は人目も憚らず号泣し、自身の同期であり、無二の恩人であり、何より憧れであった鯉太郎を止められなかったこと、
彼が抱える異常な相撲への執念に追いつけず、力及ばぬまま鯉太郎を土俵で孤独にしたことを悔い詫びながら花道を下がる。
類い稀な相撲の才能に恵まれながらも、遂にその心までは修羅にはなりきれなかった、優しい漢の熱く哀しい涙であった。

翌日はその心身の摩耗から後れを取るが、それすら気にしていられないほど鯉太郎のことを気に病み、
唯一彼を止められるであろう王虎に対し、自身の無力と後悔を吐露し、鯉太郎の事後を託そうとする。
しかし鯉太郎の破滅的な相撲を理解してなお、彼を喰らい殺そうとする王虎に圧倒され沈黙するしかなく
支度部屋で垣間見た彼らふたりの死闘も直視できず、狂気すら孕んだその姿にただ堅く瞑目して俯いてしまう。

圧倒的な怪力は登場する度に磨きが掛かり、不利になっても力だけで戦況をひっくり返すほどの規格外ぶりを誇る。
その蛮力たるや、同じくパワー型の白鯨力をも無理矢理力で潰し、取的が4人並んでも容易く吹き飛ばしてしまう*24ほどで、
軽量とは言え取組中の油断も隙も無い鯉太郎を、小指1本廻し一枚で持ち上げて投げに持っていく*25など常軌を逸している。
データが豊富な松明をして「天雷に力で敵う者は居ない」と言わしめており、膂力だけなら間違いなく作中最強であった。

なお、石川を「山本」と関係の無い名前で呼ぶ妙な癖がある*26引退時でさえ正しく呼ばないので筋金入り


  • 村神裕也(むらかみ ゆうや)
「オラ凛太郎!!お前はスゲー奴なんだ!!そんなモンがお前の本気じゃねーだろ!!」

若竹部屋所属の元力士。最高位は序二段。
天雷の兄で現役時代は弟と同じ天雷の四股名を名乗っていた。
空流部屋の阿形・吽形とは同期で現役時代は二人の兄貴分だった。
高校時代に学生相撲で優勝を果たし若竹部屋にスカウトされる。
地元や両親から期待されて若竹部屋に入門したが、大鵠に肘を破壊されてしまい、
完治するも黒星を肘のせいにしてしまう自分に気付き、引退を決意する。
人知れず引退したため両親から勘当され、弟や地元からも失望されていたが、
弟である凛太郎は阿形・吽形の話や鯉太郎との一番で兄の気持ちを理解し、天雷の四股名を受け継ぐ。
第二部での天雷と闘海丸との対戦を通じて両親とも和解した様子が見られた。

弟と比べると、やや強引で周囲を省みない部分が見られる問題児の部類に入るが、
それでもなお部屋の親方や後輩、同期で弟分の阿吽などにも認められる快男児である。

引退後は村神運輸という会社を立ち上げた模様。

☆北里部屋

  • 渡部 仁(わたなべ じん)
「薄れていたんだ…俺も…鮫島くん(あのひと)もまた、幕内の化け物……その中の1人だって…」

北里部屋所属の力士。鯉太郎の同期。同期にはドングリと呼ばれる。大家族の長男で家族に仕送りする為に力士になった。
身体能力はさほど高くないが研究熱心な努力家で事実、その手腕で幕下以下の時代とは言え、後の幕内力士である鯉太郎や松明に勝利しているほど。
しかし彼らほどの才能に恵まれず、第三部時点でも関取昇進は叶っていない。

長男坊故か面倒見が良く、面倒極まりない弟弟子の毘沙門を見捨てなかったりとお人好し。


  • 毘沙門 透(びしゃもん とおる)
「分かってたんだ…全部………鮫島は…あの人は全部…見えてたんだ…全部……怖え……」

北里部屋所属の力士。本名は速川透(はやかわ とおる)。鯉太郎の同期の渡部の弟弟子で松明・大吉の同期。
優れた才能を持つが、トンパチ*27揃いの作中力士でも随一の大バカ野郎
自分より優れた相手は素直に尊敬するが、熱しやすく冷めやすい子どものような性格が災いしてしまい、
いざ相手が自分より格下だと認識すると、かつての尊敬対象でさえすぐに見下すようになる狭量で礼儀知らずな男。
高校時代は柔道を志していたが、世界ランキング一位を投げたことで軽率に柔道そのものを見限ってしまう。
その後力士となり、新弟子時代の相撲教習所で圧倒的な力を見せた鯉太郎を慕うようになったものの、
いざ自分が鯉太郎の番付を追い抜かすと彼を見下し、あまつさえ鯉太郎の負傷による勝利で間違った自信を得てしまう。
また、先輩でありながら幕下から抜け出せない渡辺も小馬鹿にしており、彼の助言にも耳を貸さない有様だった。
ところがそんな態度が災いしたのか、精神にムラが生じ稽古を積んでも番付が上がらず平幕で燻ることになっていく。
それでもなお自らの傲慢を省みないまま、ついには大関である王虎さえ愚弄し踏み台と見なし、彼にも見下げ果てられた。
来る本編の鯉太郎戦では、舐めた立ち合いから一気に流れを掴まれ、追い詰められ才能を開花させるも
それさえ呑み込むような鯉太郎の実力に完全敗北を喫し、取組後は渡辺に縋り付き子どものように号泣。
結果的に全ての力を振り絞った上で鯉太郎に喰われるという、言い訳のしようがない黒星を刻み込まれる。
取組語は顔面蒼白になり「あんな人にどう勝てばいいんだ」「もう嫌だ」と泣き言を漏らし怯える羽目に。
鯉太郎の快勝も相まって溜飲を下げた王虎には「あのガキは当分使い物にならない」と一笑に付されてしまったが、
兄弟子の渡辺は「才能のある人がそんなことを言っちゃいけない」と厳しくも優しい叱咤激励を浴びせられた。


☆山ノ上部屋

  • 蒼希狼 巴亞騎(あおきろう ばあき)
「やっと…何となくわかったんだ…感謝ってのを…」

山ノ上部屋所属の力士。鯉太郎の同期。本名はバットバートル・ムンフバイヤル*28で、愛称はバーキ。
モンゴル・ウランバートル出身の浮浪児で、野生染みた強さの持ち主。口癖は「バカ~」。
鯉太郎の同期の中では最も出世が早く、第二部の時点で幕内に昇格していた模様。*29
兄弟子の大山道のことは「大山兄」と呼んで、まるで実の兄のように慕っている。

色々と不幸な力士が多い本作にあって、最も艱難辛苦を舐めてきたであろう人物。その不幸ぶりは全相撲漫画でも最凶*30
幼くして親に捨てられ、飢えと寒さを凌ぐための僅かな生ゴミやマンホールを巡って浮浪児たちと抗争を繰り返す日々を送っており、
例え勝っても負けても変わらない、先の見えない現状に絶望しかける。しかしたまたま目にした山ノ上親方の後を追いかけて、
相撲部屋へ入門するべくモンゴルのナーダム*31に乱入。その圧倒的な才能で優勝者を投げ飛ばし親方に選ばれた。
飢えた祖国の友を救う為に、絶対に負けない強固な意志を持ち、何度やられても挑み続けるしつこさで相手を乗り越えていく。
鯉太郎戦での敗北や、親方の叱責、そして兄弟子・大山道の指導と支えで急成長を遂げるも、その凄まじい実力に精神が追いつかず、
同部屋の付け人や、後援会長*32の不興を買ってしまう。それでもなお勝ち続けついに小結にまで登り詰めたものの、
仲間たちがよりによって自分の送った金のトラブルにより命を落とすという、最悪に近い結果を招いてしまう。
更に、自分が志した貧しい人のための学校設立を、同郷の横綱・泡影が先に行っていたことを知りどん底に落ち、
その直後に挑んだ泡影戦で次元の違いを悟らされ、ついに彼は相撲を取る理由も情熱も失ってしまった。

その後は堕落しきり、髷を落とすことさえ考えるようになり、後援会長からも罵詈雑言を浴びるようになった。
しかしそれを憂いた山ノ上親方と大山道が、蒼希狼の心に残る鯉太郎との取組を通じて彼を土俵へ引き戻す。
鯉太郎戦ではかつての情熱を取り戻すばかりか、それまで欠けていた感謝や礼儀を遂に理解するようになり*33
最終的には激闘の末敗北はしたものの、土俵の上で必死に生き抜くことを仲間たちに誓った。

その後も鯉太郎や同期の取組に注目しており、口では「今に見てろ」「俺の方が強い」と意地を張り通しながらも
内心では彼らの力や活躍を認めており、以前の屈折した態度が薄れ、かなり素直に感情を表すようになっている。

  • 大山道 豊
「苦しいよな…勝つってよ…」

山ノ上部屋の力士。初登場は第一部で、当時は十両。作中でも最高峰の人格者
育ちが児童養護施設なためか目下の面倒見が良く、厚い配慮と深い思いやりに満ちた好漢。
平幕とはいえ長く幕内を勤めており、蒼希狼曰く「クールでスマートで綺麗な相撲」が持ち味。
弟弟子の蒼希狼のことは「蒼」と呼び、まるで実の弟のように可愛がっている。

第一部では十両として登場。蒼希狼の事情を知らされており、彼を頭ごなしに叱ること無く
先輩のモンゴル人力士・大地狼の付け人時代に習ったモンゴル語で彼の話し相手となる。
その後も貪欲に成長し、物事を吸収する蒼希狼の良き兄貴分として教育を施していくが、
あまりの出世の速さに心が追いつかない弟を導ききれず、闇に落ちるのを止められなかった。

第三部では西前頭七枚目に昇進し、老獪な駆け引きを得意とするベテラン力士として活躍。
故郷の仲間と稼いだ金、そして抱いた夢さえ失い髷を落としかねない蒼希狼に心から嘆き、
親方と共に彼を奮起させるべく奔走。弟分の心に残る鯉太郎と自分の一番が組まれたことで、
それを切っ掛けとすべく、自身の全身全霊を懸けて鯉太郎との取組へと挑んでいく。

本編では六日目に鯉太郎と対戦。大山道は鮫島の優れた危機察知能力を逆手に取り、
殺気を自在に操ってフェイントを掛けるという荒技を披露し、理知的な相撲をかなぐり捨てる
壮絶な死闘を繰り拾げる。最終的には新たな境地に目覚めた鯉太郎に惜敗するものの、
彼の熱意は闇に沈んでいた蒼希狼を再び土俵の上に引き上げ、正道へと立ち戻らせた。
その後、完全復活した蒼希狼の猛稽古には涙ながらに胸を貸していた。

弟弟子が本作…というか相撲漫画至上でも間違いなく最も不幸な力士の蒼希狼であるため目立たないのだが、
彼もまた両親がおらず、幼いころから児童養護施設で育ったという厳しい経歴の持ち主である。
蒼希狼を何かと気に掛けていたのも、程度の差こそあれ自身と境遇が似ていたからだと思われる。
とは言え彼は前述の通り凄まじい人格者であり、関取の高給も施設に殆ど送金しているほど。

  • 大地狼(だいちろう)
「日本のようになるにはまだまだ時間は必要なんだよ…」

山ノ上部屋の元関取。最高位は前頭十枚目で、現モンゴル国会議員。
大山道の兄弟子で、彼を付け人にしていた。モンゴル語を大山道に教えたのも大地狼である。
日本で一旗上げた後は祖国に凱旋。現在は国会議員を勤める傍ら、部屋とモンゴルとのパイプ役も担う。
割と思いつきで行動する蒼希狼には振り回されるが、恩義や同情もあってか面倒ながらも付き合っている。

日本暮らしが長く、また国会議員になって現実を理解しているためか、モンゴルの経済発展を喜びつつも、
蒼希狼に「どうせ恩恵を受けるのは金持ちだけ」と言われた際には、否定せずに神妙な様子を見せていた。


  • 山ノ上 大五郎(やまのうえ だいごろう)
「背負って歩け。己の選択した結果を下ろすことなく責任を持って。最高も最悪も全部。死ぬまで」
「忘れたくとも忘れられないことは…忘れてはいけないことだ」

山ノ上部屋の親方。現役時代の四股名は大山狼で、最高位は関脇。蒼希狼も用いる「バカ~」が口癖。
視察に来ていたモンゴルで、乱入してきた蒼希狼の才能と意地を見出しスカウトした。
カタコトながらもモンゴル語を用いられるため、大山道と並んで蒼希狼を支え指導した人物。
小柄な老人だが、元関脇だったこともあり実力は高く、関取を何人も育てた指導力も相当なもの。
物言いは厳しく愛想も薄い硬骨漢だが、放たれる言葉は誠実で、真っ直ぐに聴く者の心を揺さぶる。


  • 大和田 伸二(おおわだ しんじ)
「関取になったら個人部屋だ。何かと物入りになるだろう…祝いに家具でも買ってやるよ。何がいい?」

山ノ上部屋の後援会長。身なりのいい老紳士だが、立場もあってか強気かつ歯に衣着せない人物。
親方気取りで力士の稽古に指図し反感を買ったり、蒼希狼にも心ない言葉をぶつける面倒なお方で、
とりわけ詳しい事情を知らなかったとは言え、蒼希狼絡みの放言は親方や大山道にも抗議されている。

しかし上述の台詞からも解るように、財力や権威のみならずタニマチとしての器も持ち合わせており、
蒼希狼への暴言も、周囲に心を許さず目的のみに凝り固まった彼自身が招いてしまった部分が大きい*34
面倒で口さがない老人だが、決して悪人の類いではない*35、ともすれば子どものように無邪気な好角家である。*36


☆禅譲部屋

  • 泡影(ほうえい)
「あなたなら…同じ横綱だったあなたになら…分かりますか…?」

禅譲部屋所属の力士。第72代横綱。
本人はモンゴル人だが母親は日本人で、父方の祖父はロシア人。そのため、片方の眼が青い。
大相撲史上最強とさえ謳われ、関脇の頃から29回の連続優勝という異常な記録*37を誇る。
その力は大横綱である虎城親方をして「相撲そのもの」「次元が違う」と言わしめるほどの異常さで、
有り得ない柔軟性や見切りで完全に相手の力をコントロールしてしまう、超絶的な才覚と技量を持つ。

当初はモンゴルに住んでいたようで、元横綱・先代泡影である禅譲親方に連れられて日本の地を踏む。
その頃はまだ素人であり、彼を連れてきた禅譲親方や、天稟ゆえの優れた感性を持つ丈影以外には、
彼を省みる者はいなかった。しかしその身に纏った不思議な魅力は、様々な人々を惹き付けていく。

新弟子時代から既に常軌を逸した素質を見せつけ、ただ四股を踏もうとしただけで寒気を及ぼさせ、
四股しか習っていない自然体のまま、突進してきた相手の衝撃を無効化するという離れ業を披露する。
その勢いは紛う事なき怪物だった丈影の存在さえ霞ませる程で、関脇で初優勝するとそのまま本編の場所まで
29回連続優勝、そして最多連勝記録である69回*38を越えかねないほどの連続勝利を積み重ねるまでになった。
余りの絶対的な力ゆえ、彼自身の意思に関係無く関わった力士の精神が歪んでしまう事態さえ起きるほど。
作中の現役力士も、彼に挑んでは容易く跳ね返されてしまい、白水の会心の一撃は逸らされて終わり
頭から突っ込んでも件の無効化からの引き倒し・寄り切りなどで瞬殺という次元の違いを見せ続ける。
大関となった王虎も、彼の纏う菩薩のような雰囲気に準え、化粧まわしのデザインを自身を表す虎が
泡影を表す仏に吼え掛かるものに誂え、また泡影を越えんがために鯉太郎との再戦を望むほど執着している。

立ち合った相手の次の行動を、幾つもの線のように予知しており、相手の動きにほぼ完璧に対処可能。
また覚醒後はその線が一本の道となって、寸分の狂いも無くやってくるのを把握出来るようになった。
このように、余人には理解しがたい世界を見ているためか、浮き世離れした言動を幾度となく見せる。
初めて見る相撲、また理解出来ないものに対しては異常に拘り子どものような笑顔を浮かべる反面、
すでに己の器に収めたものには、まるで興味を失ったかのように否定しあっさりと撥ね除けてしまう。
喰うに値するレベルを求めて、取組相手を勝負中に導くなど、残酷で身勝手で傲慢な優しさの持ち主。

また勝利や記録に興味が無い節もあり、自身が新たな境地に開眼した時には、取組相手だった百雲に
彼の次の動きが寸分違わず解っており、勝とうと思えばいつでもあっさりと勝てた状況でありながら、
自分の悟りを確かめるべく、抵抗もしないまま白雲に寄り切られるという常識外れな行動を披露した。

地方巡業や稽古でも下の者に胸を出すことは滅多に無く、四股ばかり踏んでいると親方衆を悩ませている。
しかしその土俵入りの美しさは、それだけで見ている客を満足させてしまうほど見事なものであるという。
特に覚醒時に踏んだ四股たるや観衆を魅了させしめ、たまたまその場に立ち合ってしまった百雲曰く、
「まるで甘美な絵画のように、深い眠りの中の夢のように、朧げで恍惚とした」ものであったとのこと。
とは言えまともな遣り取りも出来るようで、周囲の信頼や人気は絶大であり、模範的な人物と扱われている。


  • 丈影(たけかげ)
「あぁ…そうだな…うん…まだ行ける…私もここから…今からだ…」

禅譲部屋所属の力士。本名は比嘉ライアンで、父がアメリカ人のハーフ。目が青い。
言葉遣いは丁寧かつ冷静なのだが、その実かなり歯に衣着せぬ態度を取る男である。
口では差別や偏見を悪としながらも、ハーフの自身を異端視する日本社会に辟易し、
自己を認めさせアイデンティティを確立するために国技と呼ばれる大相撲に進む。
しかしそこで出会った同期入門である泡影の、絶対的な才能に翻弄され歪んでいく。

部屋付きである大曲親方がスカウトした精鋭の中でも桁の違う天稟の持ち主だが、
それゆえに次元が違う泡影の潜在能力とカリスマの影響を強く受けることになる。
当初は素人だった泡影よりも出世が速かったが、次第に強大になっていく彼の影に怯え、
次第に荒んでいく。そして番付が上の自分を差し置いて泡影が部屋頭に選ばれたことで、
遂にその確執が爆発。部屋頭で引退予定の兄弟子・輝影と死闘を繰り広げこれを撃破、
その勢いで泡影を土俵に引きずり込み、どちらが上かをきめるべく決闘を申し込む。

しかし泡影の力は既に丈影を圧倒しており、彼は逆に泡影の身勝手で傲慢な優しさにより、
その力を引き出されて餌として強制的に成長させられる。だが丈影はその現象に昂ぶり、
自尊心や拘りを捨て去ってでも泡影の我が儘に応え、遂に彼を喜ばせる会心の一撃を放つ。
以降、丈影は精神性を歪められ泡影に心酔。その目から消えないために泡影を倒すと誓った。
だがそれは、安定した結果をもたらすと同時に彼の成長を押し留めてしまうことになり、
結果的に本心では泡影に勝つ気を失ってしまい、王虎にそれを見抜かれ一笑に付されていた。

第三部本編で八日目中日に鯉太郎と激突。今までは冷静な相撲で鯉太郎に完勝していた彼だが、
直前の支度部屋で自らが煽った王虎に煽り返され、いつものように苛立ちを消せなかった上に、
今場所の鯉太郎が神懸かったことで逆に圧倒され、泡影戦のように心に火を付けられることに。
泡影のように自分を引き上げていく鯉太郎の器に、丈影は自分が自身の底を見ることを恐れ、
誓いを遠くに置き、本気でいなかったこと悟る。限界を突破し会心の一撃を放つ丈影だったが、
満身創痍ながらそれすらも呑み込まんばかりの鯉太郎に突き押され敗北。敗れはしたものの、
鯉太郎の「まだいける」という言葉に涙し、自身も心の靄を振り払って新しい出立を誓った。


  • 禅定(ぜんじょう)
「前を見なさい…君には君の輝ける未来がある」

泡影と丈影が入門した当時の禅定部屋親方。現役時代は元横綱、先代・泡影である。
晩年は部屋付きの大曲親方に部屋運営を一任して自らは腰を上げず、そのため部屋では「置物」と揶揄されていた。
しかし実際には恐るべき慧眼の持ち主で、殆どの者が期待さえ掛けなかった泡影の才能を見抜いた人物でもある。

モンゴルで出会った泡影に惚れ込み、大曲親方にも相談せず独断で彼を日本に招き部屋に入れた立役者。
定年間際で恐るべき才能に出会った幸運と不運に喜び嘆きつつも、彼は泡影を導き、自身の四股名を与える。
力士が踏む四股の神事としての側面を理解しており、泡影すらも感化されるほどの見事な四股を披露して、
並外れた泡影を的確に導き、その絶対的な能力を更に研ぎ澄まし引き出せる優れた指導力の持ち主だった。
胆力も並外れており、弟子の輝影と丈影が激昂し対立した際にも「土俵で語れ」と穏やかに言い聞かせる。

引退時には番付で上回る丈影を差し置いて泡影を部屋頭に指名するなど若干贔屓めいた面も見られるが、
一方で泡影以外の弟子もきちんと気に掛けており、丈影の素晴らしい才能も認めた上で助言を行い、
彼が自分の想像を超えながらも、泡影との一番で歪んだ際にはどこか悲しそうな顔を浮かべていた。


  • 大曲 俊彦(おおまがり としひこ)→禅定 俊彦(ぜんじょう としひこ)
「久し振りに見たな…オヤジの四股…でも今どきそんなこと考えて四股踏む奴なんていないよ…」

泡影と丈影が入門した当時の部屋付き親方。
当時から禅定部屋を実質的に回している人物で、丈影を口説き落として連れてきたのは彼である。
精力的に部屋の経営に注力するが、腰を上げない禅定のことは力士たち共々内心で「置物」と侮っている*39
ただ禅定が引退する時には人目憚らず号泣したり、当時ただの痩せぎすでどう転ぶか解らなかった後の泡影に、
禅定が綱まで張った自身の四股名を譲ると言った際には大反対したりと、敬意自体は持っている様子が窺える。

素人だった頃の泡影の潜在能力を見抜けなかったがために「あんなので貴重な外国人枠が潰れてしまった*40」と悔しがったりと、
禅定と比較するとだいぶ観察眼に劣り、また小人物めいた言動が多々見られるものの、丈影を含めた手練を数多くスカウトして入門させたほか、
紆余曲折あり大曲の功績だけでないとは言え、丈影を幕内まで育て上げていることから親方としての手腕は無能どころかむしろ優秀と言える。

禅定の引退に伴い、その年寄名跡と部屋を正式に継承して禅定親方となる。小人物ゆえか、偉大すぎる弟子の泡影には振り回されている模様。


  • 輝影(きえい)→大曲(おおまがり)
「いや…俺は打算ですよ 泡影に稽古をつけて強くした それだけで俺はきっと名が残る力士になる…」

禅定部屋所属の力士。禅定部屋の部屋頭で、長らく幕内を勤めたベテラン力士。
禅定親方と同じく、早くから泡影の才能を見抜き鍛え上げた。
人当たりのいい人物だが、その実幕内に登り詰めただけはあって内心には凄まじい意地や自信が渦巻いており、かなり歯に衣着せない人物。
泡影に惚れ込む一方で、彼に反発する丈影を侮るものの、これまた激しい気性の丈影に煽られたため禅定親方の引退パーティーで対立。
親方に「土俵で語れ」と導かれ、急遽土俵で彼と対決。終始優勢に立ち回ったが、丈影の見せた執念により敗退し遂に残っていた意地も燃え尽きる。
その後、圧倒的な泡影と、彼と戦い成長していく丈影の才能を見て、自身の潮時を改めて悟ると静かに微笑んだ。

前親方の引退に合わせて自身も現役を退き、現在は大曲の年寄名跡を受け継ぎ部屋付き親方となっている。


☆天城部屋

  • 火竜 太郎(かりゅう たろう)
「相撲ってのは生き様だ…それをバチバチにぶつけ合うのが力士よ。死んで生きれるかってな」

鯉太郎の父親で、天城部屋の元力士。最高位は大関。本名は鮫島太郎。
元は同門の黒森部屋出身だが、火竜があまりに粗野で暴力的なために部屋の関係者が逃げ出してしまい、
兄弟弟子も部屋付き親方もおらず、黒森親方が定年になると厄介払いと言わんばかりに放逐されたトンパチ。
この時はまだ序二段であったが、それでも「頭は足りないが力はある」と称され、才能の片鱗は見せていた。
天城部屋でも当然横柄な振る舞いを見せるが、そこで彼は因縁の相手となる部屋頭の虎城と邂逅を果たす。
優勝を果たし大関に昇進し、更に次代の横綱と持て囃される虎城が気に喰わず速攻で喧嘩を売ったものの、
当時序二段で燻っていた火竜が幕内上位に敵うはずも無く、敢えなく瞬殺されて実力の違いを痛感する。

しかしその気性ゆえか天城親方や虎城に大いに気に入られ、他の力士ではとても敵わない怪力も相まって、
虎城と頻繁に稽古する機会に恵まれ実力を伸ばし、また彼の付け人となって精神的にも成長を遂げていく。
彼が息子の鯉太郎に伝えた真っ向勝負の信念・生き様は、この時期に虎城から刻み込まれたものである。
このころは虎城も火竜を可愛がり、火竜も虎城を慕い感化されるなど、ふたりの仲は極めて良好であった。

ところが綱を取って以降、虎城は真面目すぎる性格が災いして横綱の責務や重圧で精神性が歪んでしまう。
大恩ある親方を蔑ろにし、諫言した自分を付け人から外し、その上かつての生き様を捨てた虎城に火竜は激怒。
当時十両優勝を遂げるなど急成長中だった火竜は、遂に虎城へ稽古場での立ち合いと対話を申し込んだ。
だが腐っても横綱である虎城は、既に幕内級に至った火竜をぶちかまし一撃で撃沈させる実力差を見せる。
それでもなお折れない火竜は、虎城へ必死に食い下がり、その胸にかつての生き様が残っているのを確信。
涙ながらの懇願で虎城に訴えかけるが、虎城もまた泣きながら自分の耳を引き千切り、その声を封殺した。

以降、虎城と訣別した火竜は、かつての兄弟子の生き様を胸に必死に戦い続け、ついに綱取り寸前になる。
しかしこれに水を差したのが、火竜を疎ましく思っていた虎城の後援会長。彼は火竜の綱取りを阻止するため、
何と虎城の名で火竜を呼び出し、チンピラに挑発させ火竜に暴力を振るわせ彼を角界から追放すると言う、
作中最低最悪の奸計を発動する。始めは火竜を愚弄された付け人が手を出しただけだったが、チンピラの口から
虎城の名が出ると咄嗟にその横綱としての生き様を庇うため、チンピラたちを半殺しにして自ら泥を被る。
その代償は大きく、後援会長に唆された虎城の暗躍も相まって、火竜は無念のまま除名処分にされてしまった。

土俵を去り、全ての金や関係者をも失った火竜はもはや飲んだくれて死んだように生きるしかなかったが、
ふとしたきっかけで自分に挑んで来た鯉太郎の中に、自分の生き様が宿っているのを悟って感涙する。
それ以降は鯉太郎に目を掛けるようになるが、なお自分自身の欠落は埋まること無く、有る日酔った勢いで
迫り来るトラックにぶちかましてあっけなく死亡。「四トンなら勝てたのに…」が最期の言葉となった。

紛う事なき問題児で、品格や礼節は欠けていたものの、同時にその実力は間違いなく当時の現役最強だった。
また目下の者たちにも慕われていたようで、当時の天城部屋では猛稽古をしながらも明るい空気が流れ、
後の空流部屋・松明(まつあかり)洋一の父で、付け人の松明(たいまつ)の四股名を名付けた目を掛けたり、
前述のように火竜を愚弄された付け人が、我慢出来ずにチンピラを殴り飛ばした辺りもそれは窺える。

その野蛮ながらも豪快な人格は少なくない人々を惹き付けており、優勝賞金を景気よくバラ撒いたり、
心から楽しみながら相撲を取る様に、不名誉な除名処分をされたにもかかわらず未だに隠れファンが多い。


  • 天城 源吾(あまぎ げんご)
「いや…まだまだ軽いよ。アイツの相撲は…」

天城部屋の元親方。現役最高位は関脇。
虎城を大横綱と呼ばれるほどの力士に育て上げ、問題児だった火竜を大関にまで育て上げるなど指導者としては優秀な人物。
虎城から火竜を通じて鯉太郎へと受け継がれた「相撲の重さは生き様で決まる」という信念も、大本を辿ると彼の教え。
しかし、虎城の横綱昇格後は、その地位からくる重圧に苦しむ虎城を支えてやる事が出来ず、闇堕ちさせてしまう。
火竜の暴行事件の煽りを受け、周囲から半ば強制的に引退させられ、相撲協会から追放された。
だが、それでも相撲から離れる気には成れなかったのか、現在は相撲協会のマスコットキャラクターのスーツアクターとして働いている。
追い落とされたとは言え、老いてなお相撲を見る目は確か。また現役の親方衆には彼に敬意を払う者も居る。
第二部ラストの幕下優勝決定戦で鯉太郎と王虎の戦いを観戦し、決着の際は涙していた。
第三部でもまだツッパリ君の中の人として働いており、十一日目の鯉太郎と王虎の取り組みを仕事を放り出してまで観戦していた。

  • 松明(たいまつ)
「そうか……そうか…ありがてーなー…」

空流部屋・松明(まつあかり)の父親。虎城・火竜の所属した天城部屋の元力士。
彼の四股名は、松明に頼まれた火竜が「生き様に火を付けて燃え上がれ」と名付けたもの。
若い頃は息子ソックリで、情熱を持って必死に努力する好青年だったが成果が上がらず、
弟弟子ながら先に関取となった火竜の付け人として、うだつの上がらない日々を過ごしていた。
とは言えこの頃はひたむきに稽古に励んでおり、火竜とも極めて良好な関係を築いていた。

ところがある日の取組で、過去最高の相撲を取っても賞賛の無い自身の境遇に絶望を抱く。
その時点ではまだ立ち直る可能性はあったかもしれないが、最悪のタイミングで虎城の付き人から誘いが来てしまい、楽に金を手にする手段を見つけてしまった。
その後はおこぼれの豊富な虎城の付き人*41として甘い汁を吸い続け、堕落。
火竜にも余りの変貌ぶりを失望され「楽しいのと楽ってのは…違うだろ……」と吐き捨てられてしまった。
やがて虎城の引退とともに資金源を失い廃業。金銭感覚が完全にマヒした上に仕事も上手く行かず*42借金を抱えたまま失踪してしまう。
家族を捨て、息子の歪みを作った張本人だが、その胸に相撲の火を点したのもまた彼であった。

第三部で登場し、なんと自分が捨てた息子が幕内に昇進したのをいいことに空流部屋に現れ、
謝罪を寄越すどころか開口一番金の無心をするという父親失格にも程がある最低の行動に出た。
翌日、金を用意した松明に「金を渡して欲しければ俺の取組を見ていけ」と国技館に招待される。
当初は身に染みた本場所の空気に苛立ち、「楽して金が降って来たあの頃に戻りたい」と呟き、
白けたような顔で取組を眺めていたものの、関脇・百雲との文字通りの死闘に挑む息子の姿を見て、
過去の自分のひたむきさを思い出し、「あの頃に戻ってやり直したい」と後悔の涙を流す。

取組後はもはや自分が金の無心に来たことさえ忘れ、松明の生き様を認めて心の底から彼に謝罪。
更に息子を更正させたのが火竜の息子である鯉太郎であることを知り、感謝の念に打ち震えた。
最早二度と顔を合わせられぬと息子と訣別し立ち去ろうとするが、「最後まで立ち向かって見せろ」と
東前頭六枚目・松明(まつあかり)に三段目・松明(たいまつ)へと勝負を挑まれ、ブチカマシ一発で敗北。
最後まで自分の人生から逃げないと決意し、相撲を与えてくれた礼を告げる息子と和解を果たす。
その後、「相撲を残してくれた礼」を受け取ると、元三段目松明はただただ泣き噎ぶのだった。

前述の通り、元々は熱心な努力家だったのだが、自分の境遇に耐えて可能性を信じる強さを持てず、
その上で虎城という甘い蜜に縋ってしまったがゆえに、力士人生を棒に振ってしまった不幸な人物。
全盛期の火竜の面倒見の良さと、暗黒期の虎城の腐敗ぶりを図らずも身をもって証明したと言える。


☆十文字部屋

  • 大鵠 弘巳 (たいこう ひろみ)
「イラつくんだよ…俺を見る目が…天雷も…吽形も…お前も…見下してんだろ…昔から俺を…」

十文字部屋所属の力士で元十両。先代の天雷や阿形・吽形とは同期。通称「ブタフグ」。
勝ち星のために汚い手段を使うのでは無く、自身の気分で気に食わない相手を壊しにかかるという性根の腐った男。
天雷の兄や吽形に土俵上で故意にケガをさせ引退に追い込むなど被害は甚大で、第一部では間違いなく一番の憎まれ役。
だが、一度は十両の壁を越え関取に上がっただけあってその実力は本物。まともな相撲だけでも十二分に強者である。
第一部開始以前に先代天雷の肘や吽形の膝を破壊しており、そのことが原因で阿吽とは血腥い因縁を結んでいた。
本編でも吽形と対戦。巧妙かつ姑息極まりない反則のオンパレードで吽形を追い込み、いざ投げられ負けが確定すると
悪あがきに吽形の髷を掴んで土俵に叩きつけ、朦朧とする彼の膝に倒れ込んで追い打ちを掛けるというクズ行為を連発
結果的に吽形は自身のツケを払うのと引き換えに、事実上力士生命を絶たれて次の場所で廃業に追いやられてしまう。
次の取組では荒れ狂った阿形と対戦。その殺気に当てられて怒りに震え、あえて真っ向から阿形を潰そうとするものの、
地力と執念の違いに圧倒され、最後は阿形の「徳利投げ」*43によって恐怖を植え付けられ敗北。
そのあまりの迫力は、見ていた観客、鯉太郎や白水、そして本人でさえ思わず殺されたと思わされたほど。
恐怖と屈辱で言い訳をしながら花道を帰るも、向かいからやって来た吽形にスルーされて絶望に沈み込む。

第二部でも登場する。激しい稽古場でも砂一つなく体も弛みきり、これ以上落ちることはないかと思いきやさらに堕落しきっていた。
しかし王虎にその腐った根性を見込まれ、鯉太郎と対戦するための星勘定を合わせる要員として互いを利用し合うことに。
闇に堕ちかけていた田上をそそのかし、兄を侮辱され怒り心頭の天雷を虚仮にするなど蛮行の限りをつくしたものの、
鯉太郎との戦いではその精神に圧倒され、テーピングの下に鉄板を仕込むなどさらに卑劣な手を使うも彼の前に敗北。
最後は番付合わせのために彼を利用した王虎にも見限られ、その恐怖のあまり失禁。今度こそ精神が崩壊した。

才能のある力士なのだが、その反則技や相手への傷害を躊躇しない歪んだ精神は作中でも類を見ないほどの「醜悪」。
親方である十文字の腐敗、根底に抱えたコンプレックスなど情状酌量の要素はあれど余地が皆無な悪役である。
とは言え悪役としては間違いなく秀逸なキャラで、何だかんだで第二部でも登場する辺りがそれを物語っている。

ちなみに、徳利投げは2000年に制定された新しい技であり、幕下でも5回しか決まり手として数えられていない。
そのうち1回は チャンピオン本誌で徳利投げが決まった回が発売された日の前日 に決まっている。何たる偶然。


  • 十文字 正嗣(じゅうもんじ まさつぐ)
「もっとしっかり頑張りたまえ…先代の親方に恥を掻かせるな!」

十文字部屋の親方。虎城と同じ次元一門で、彼の腰巾着的な存在。あのブタフグの師匠で、ある意味本作最大の悪党
放任主義で、大鵠の乱暴狼藉を把握すらしていない節があり、当然指導も叱咤もせずに彼の行為を助長している。

虎城親方には現役時代から付き従っていた様子が窺え、今も彼に金魚の糞の如くくっついて行動することが多い。
とは言え、付き合いの深い虎城のみならず、弟子を痛めつけられた先代空流や苦汁をなめさせられた当代空流、
外野の新寺親方あたりにもその器の狭量さを見切られているようで、割とぞんざいな扱いを受けることもしばしば。
特に親分の虎城には無茶ぶりをされ、彼が生中継の解説を離席する際に代役をやらされ散々な醜態を晒している。

大鵠はもとより巨桜丸を連れてきたハワイ人力士・九曜山など関取を排出しているため指導力が無い訳では無いと思われるが、
ブタフグを生み出した罪や、自分が出来ないことを他人に偉そうに講釈するしょーもなさで色々と台無しになっている人物。


☆田ノ中部屋

  • 宝玉光 直也(ほうぎょくこう なおや)
「ナマイキなんだよお前は…」

田ノ中部屋所属の幕内力士。本名は雨宮直也。
口元に、仁王につけられた縦に走る大きな傷痕がある。そのため彼を逆恨みしている。
恵まれた肉体と桁外れの才能を持ち、特に右の腕力はまわしを取られたら勝ち目がないほど。
当時はまだ格下だった鯉太郎を見下し、事あるごとに空流部屋とその関係者を罵倒していた。
鯉太郎を付き人として従えてた時期があり、そこでの傍若無人なやり取りも彼や空流部屋との確執に繋がっていく。

入門当時は素直で木訥とした好青年で、その才能から兄弟子からも非常に目を掛けられていた。
特に親方は彼を溺愛し、「角界の宝・田ノ中の光」という意味で宝玉光の四股名を授かった。
しかしそれが災いし、宝玉光は次第に増長。親方の制止も聞かず、躾けようとする兄弟子さえ
容易く叩きのめし、誰にも手が付けられない危険人物と化し、部屋を事実上崩壊させてしまう。
結果、本編時点では力士が殆ど廃業してしまい、残ったのは彼と寺井だけという惨状であった。

そんな中、付け人が足りないと言うことで同門の空流部屋から当時幕下の鯉太郎が派遣される*44
そのひたむきさで部屋に残っていた力士を奮起させ、次第に淀んだ空気を変えていく彼だったが、
それが気に食わない宝玉光は鯉太郎を身勝手に罵倒し、楯突いた彼に完勝して送り返してしまった。

数年後、鯉太郎が十両に昇進した後に一門の合同稽古で再び対峙。ここでも彼を圧倒するものの、
当時関脇で大関取りに挑んでいた仁王には全く歯が立たず、口元に傷が残る大けがを負わされる。
怒り狂い次の場所での復讐を誓う宝玉光であったが、何とその直後に空流親方が急逝してしまい、
年寄株を継いで親方となった仁王との再戦が叶わなくなってしまう。怒りのやりどころを失い、
田ノ中親方へ挨拶に来た仁王改め空流親方を嘲笑して罵詈雑言の限りを尽くす宝玉光であったが、
逆に空流に「鯉太郎はお前を越える。その時まで戯言は吐けるだけ吐け」と返されまたも激怒する。

本編の時点でも上述の傲慢は更に酷くなっており、付け人の寺井をことあるごとに痛めつけ、
他の部屋から来た力士にも相変わらず暴力を振るうなど、その性根は腐りきっていた。
二日目で遂に幕内に登り詰めた鯉太郎と対峙。仁王への復讐心を滾らせ全力で挑むものの
この期に及んで鯉太郎を格下と侮り、全く稽古をせず何の準備もしていなかったのが災いし、
完璧な対策の元、鍛え上げた力と技をぶつけてくる鯉太郎に圧倒され完敗を喫してしまう。
敗戦後は改心した親方に諭されるも、それを渡りに船とばかりに責任を擦り付けようとする。
しかし激怒した寺井に鉄拳制裁を喰らい、彼の叱咤激励に涙しながら手を取り改心した様子が見られた。

後日、空流部屋に招かれてちゃんこを馳走になった際にも横柄に振る舞い一触即発となるも、
現れた仁王の威圧と鉄拳に心がへし折れ、人目も憚らず膝を抱えて泣き寝入りする弱さを見せた。
大一番となる鮫島-王虎戦においては、ふたりの激突を見届けたいと言う寺井のワガママを許し、
寺井に誘われてもつれない態度を取ったのも束の間、彼自身もこっそり取組を観戦しに戻るなど、
兄弟関係が劇的に改善された上に、鯉太郎のことも内心では認めるようになるなど一皮剥け始める。
取組では苦戦する鯉太郎を応援するばかりか、彼の勝利に思わずガッツポーズする姿まで披露した。

前述の通り、根は純朴で善良な男であり、親方の甘やかしによって人格が歪んだある意味不幸な人物。
その根底にある自分でも忘れていた思いは、ただ親方に誉められて嬉しかったという気持ちであった。
鯉太郎戦後に見せるようになった感情豊かな態度は、むしろ彼の地の部分の顕れであると言えよう。


  • 寺井(てらい)
「努力もしてねー人間が吐く言い訳は、ただのクソだ」

田ノ中部屋の力士。鯉太郎より一期上の兄弟子だが、よく同期扱いされる。
根は相撲好きで真面目な青年なのだが、入門した頃には宝玉光の独裁が始まっていたこともあり、
臆病な性格ゆえに意見も出来ず、以後何年間も腐った状況に甘んじる日々が続くことになった。
登場初期は鯉太郎たち後輩に先輩風を吹かして、彼らに嫌味や嫌がらせを繰り返していたのだが、
鯉太郎の強靱極まりない精神性に震え上がり、また本場所でも秒殺されたことですっかり萎縮。
同時に内心で鯉太郎に憧れを抱くようになり始め、彼に怯えを見せながらも心を許し始める。

鯉太郎が付け人として出向してくると、相撲に餓えていた彼らはそのひたむきさに引っ張られていく。
その後、宝玉光が鯉太郎を気に喰わず叩きのめし、彼を部屋まで連れ帰った際に空流の絆に魅了される。
しかし田ノ中の惨状と窮乏を理解しつつも、宝玉光を恐れ、同時に彼の才能を誰よりも認める寺井は、
立ち向かう度胸も力も無いままこれ以上の出世を諦め、自分自身に見切りを付け沈黙するしか無かった。

だが第三部本編の鮫島-宝玉光戦前夜には遂に我慢の限界に達し、宝玉光を責めるも敢えなく殴られ、
おまけに親方はそんな横暴を諫めるどころか「寺井を殴って拳を痛めたら部屋が終わる」などと放言。
余りの絶望と失意に、寺井は田ノ中部屋が終わっていることを痛感し、ここに至って廃業を決意する。
涙ながらに鯉太郎に廃業の旨を伝えた寺井だったが、しかし彼はその泣き言を痛快なまでに一蹴。
鯉太郎の潔さと心の強さに触れた寺井は、「俺はお前になりたかったよ」と独白し、望陀の涙を流す。

沈んだままふたりの一番を見届けようとした寺井だが、成長した鯉太郎が宝玉光を圧倒する様を見て激昂、
どうしようもない部屋でも家族だからと、せめて強さだけは尊敬出来る兄弟子でいろと泣き叫ぶ寺井だが、
才能に劣る鯉太郎が最終的に完勝する姿を見ると泣き笑いしながら、心に巣くっていた絶望を払拭された。
その後、敗戦してなお戯言を吐き、自身の非を認め再起を促す親方に責任転嫁する宝玉光に激怒し殴打。
田ノ中部屋のふがいなさ、宝玉光や自分の腐敗ぶりを突きつけた上で彼と和解し、関係も良好になった。
満面の笑みを浮かべる彼は、帰路につく鯉太郎に「残った自分たちで田ノ中を盛り立ててみせる」と誓い、
自分を同期扱いする鯉太郎に自分が兄弟子であると言ってのけ、たじろぐ彼を残し清々しく去って行った。

翌日、空流部屋に招かれた際には、腰が退けつつも宝玉光に諫言するなど確かな成長が窺えた。
また付け人の仕事を断り、大一番の鮫島-王虎戦を見届けたいと面と向かって宝玉光に頼むなど、
怯えて竦んでいるばかりだった今場所序盤からは想像も付かないほど兄弟関係が良好になった。

やや臆病で面倒な性格ではあったが、根っこの部分では相撲好きで、情にも篤い青年であり、
自分に見切りを付けつつも田ノ中に最後まで残ったのは、その辺りが理由なのだと思われる。
事実、弟子が逃げていく中で「お前だけは逃げるなよ」と宝玉光に希われたこともあってか、
彼は宝玉光がこの上ない醜態を晒してもなお、見捨てることなく兄弟として手を差し伸べた。


  • 田ノ中 稔(たのなか みのる)
「ここから始めよう…変わるんだ!」

田ノ中部屋の親方。ホープだった宝玉光を甘やかし増長させた結果、部屋の退潮を招いてしまう。
それでも幕内の宝玉光に縋るしか無く、諦めながら毎日を送っていたが、かつて付け人だった鯉太郎が
宝玉光を圧倒し打ち倒す姿を見て遂に自分の失態を認め、宝玉光と寺井に詫びを入れて再起を決意した。

後日、空流部屋に招かれた際にはきちんと宝玉光を叱咤していたが、気弱な部分はまだ治らない模様。


☆五大部屋

  • 明王山 憲昭(みょうおうざん のりあき)
「こっからだこっから!!まだまだガキどもには負けられんわ!!」

五大部屋の力士。大関在位62場所という大ベテランで、作中の現役力士としては最も高齢の40歳*45
現在は温厚な紳士で通っているが、全盛期の頃は牛鬼の異名で恐れられており、力は落ちているものの、
その恵まれた体と培った経験から、幾度となく角番*46を繰り返しながらも未だ上位の実力を保っている。
長年続けたせいで覚悟が温くなっており、「のんびり相撲を取らせてくれ」という発言に鯉太郎が激怒。
「ピクニック気分で土俵に上がるな老害!」と支度部屋で喧嘩を売ったことからふたりの因縁が始まる。

本編の先々場所、鯉太郎初の大関戦で初顔合わせ。その余りの殺気に自分が温くなっていたことを自覚し、
ヤキが回ったことを痛感させられるも、10年以上大関として振る舞った意地を以て鯉太郎との一番に望む。
次第に叩きつけられる熱量に引っ張られ、全盛期の気迫と勢いを取り戻して鯉太郎を圧倒するものの、
左下手を取られてからの呼び戻しで敗退。ここが潮時かと考えるものの、鯉太郎の発破で気合いを取り戻す。
結果的にその黒星で大関陥落が決定するものの、かつての熱さを取り戻した明王山は現役続行を誓った。
とは言え老いて鈍った身体は気迫だけでは如何ともし難く、次の場所では大関に復帰出来なかった模様*47

本編時点では関脇として登場。かつての豪快さを取り戻し、何とか勝ち越して上位に踏ん張っている。
自分を大関から引きずり降ろした鯉太郎にも遺恨は無く、それどころか大いに気に入り賞賛を惜しまない。


☆宮野浦部屋

  • 岩の藤 要(いわのふじ かなめ)
「ヒュー。OK!」

宮野浦部屋の力士。英語が混じったおかしな口調と独特の明るいノリが特徴。
線の細さからか間の抜けた所があるからか、親方からはまったく相手にされていなかった。
しかし、先代の急逝で跡を継いだ親方の心ない皮肉に従い、ブチカマシの才能が開花。
その明るくひたむきながらも必死な努力は、親方を改心させかけがえのない絆を繋いだ。
こうして二人三脚の努力の結果、岩の藤は序の口から幕下まで上り詰める強豪となる。

第二部では幕下優勝決定戦で鯉太郎と対戦。互いに正面から渾身のブチカマシをぶつけ合う。
鍛え上げられた体幹と、柔らかくしなやかな筋肉によってあらゆる確度からブチカマシを放つ
変幻自在ながらも強烈な攻撃で鯉太郎を苦戦させるが、最終的に敗北してしまう。
その結果、鯉太郎は一時頼れなかったブチカマシで勝負できる自信と確信を得る。
惜しくも敗れた岩の藤だったが、親方の泣き笑いと共に放つ賞賛の言葉に笑顔を見せた。

第三部では幕内に昇格。五日目に鯉太郎と激闘を繰り広げるが、投げを喰らって敗れる。
この時点でも親方とは仲が良いようで、またかつての明るい精神性は曇っていない様子。

鯉太郎の影響を受けて相撲への思いや熱を抱く力士が目立つ中、岩の藤は比較的珍しく
徹頭徹尾明朗快活で、彼の生き様に触れる以前から前向きな精神を持っている好漢である。


  • 宮野浦 秀則(みやのうら ひでのり)
「必ずお前を…俺が一流にする」

宮野浦部屋の親方。
元々は部屋付き親方だったのだが、先代の急逝で部屋を継ぐことになってしまう。
現役時代は十両止まりで、弟子にも侮られ続々と辞められてしまい苦悩していた折、
一花咲かせようと助言を求めた岩の藤に、心ない皮肉をぶつけたことが彼の転機になる。
「ブチカマシでもやれ」と当たり散らした暴言に、しかし岩の藤は愚直に従い才能を開花。
その必死なまでの努力と、自分の皮肉に縋るしか無かった彼の苦悩を悟って涙した親方は、
岩の藤に頭を下げると「必ずお前を一流にする」と宣言し、以後は関係も良好になった。

第二部の優勝決定戦では、岩の藤が報われるようにと必死に応援するが、惜しくも敗れてしまう。
しかし親方は、そんな弟子の大健闘に涙しながら賞賛。落ち込んでいた岩の藤に活力を取り戻させた。

第三部では宣言通り岩の藤を幕内まで育て上げ、彼との誓いを果たした。
それでも、彼の活躍を我が事のように一喜一憂するのは変わっていない模様。

虎城親方には「ブサイクな相撲」と言われた岩の藤だが、先代空流や新寺親方には高い評価を得ており、
また岩の藤を平幕とはいえ幕内力士にまで鍛えていることから、師匠としての手腕は確かである。


☆鏡川部屋

  • 闘海丸 つよし(とうかいまる つよし)
「鮫島(アイツ)とのあの一番は…俺の中をずっと焦がしてっから…」

鏡川部屋の力士。本名・国丸つよし。
その怪力は天雷に匹敵し、特に右の腕力は一発で状況を変えるほど凄まじい。
学生時代はヤンキーだったようで、親分肌で人から頼られると断れない性分の為、男たちからの人望は厚かった。
同級生だった細川将太に頼まれ相撲の大会に参加。その大会で鏡川親方の目に留まり、将太と共にスカウトされる。
デビュー後は順当に番付を昇り、十両目前まで上り詰めるも、十両の壁に何度も跳ね返され、長く幕下で燻っていた。
遂には幕下から三段目に落ちたことで、一時は引退を考えるも、将太の激励により気合を入れ直し、再び十両目前まで上り詰める。
第二部では幕下優勝決定戦で天雷と鯉太郎と対戦。激戦の末に天雷を破るも、続く鯉太郎との対戦で敗北した。

第三部では小結に昇格。
三役に上がり、親友の将太の手でテレビのタレントとしても活躍しており、押しも押されもせぬ人気力士となっている。
しかし時の人となるものの、本人は力士としての強さを置き去りにした歓声や賞賛に馴染めない日々が続いていた。
未だ胸を焦がす鯉太郎との対戦でその我慢が爆発、ついに衆目を振り切って、猛獣のような姿で取組に望む。

翔太の腹黒さに振り回されることが多々あるものの、彼の根底にある相撲への思いも理解しており、
彼のそう言う黒く面倒な部分を呑み込んだ上で親友で在り続けるなど、懐の深い男である。


  • 細川 将太(ほそかわ しょうた)
「君がそんなコト言うなよ。それじゃ僕があまりにもバカみたいじゃないか」

鑑川部屋出身の力士。最高位は序二段。
線の細い丸眼鏡の少年で、如何にもひ弱な外見だがその実かなり腹黒い。しかし相撲への情熱は人一倍である。
高校では相撲部であり、名うての不良だった闘海丸を一芝居打って土俵に引きずり込もうと奸智を巡らせた。
ところが闘海丸が、将太が口にする度に笑われてきた「プロになりたい」という夢を一笑に付すどころか
これと言って夢中になれることのない俺がお前を笑えるか」と言われたことから彼の転機が始まる。
相撲大会では敗退するも、来場していた鑑川親方の目に留まり、最終的に部屋へスカウトされることに成功した。
ところが身体の細さは覆せず、闘海丸が番付を上げていくのを見ながら序二段で燻るしかなかった。
しかし才能のある闘海丸が弱音を吐くのを聞いて激怒。涙ながらに彼を叱咤激励し立ち直らせた。

第三部では才能の限界を痛感。髷を落としてからは力士や元力士をプロデュースする芸能事務所を立ち上げる。
これが闘海丸の生来の愛嬌や尽力もあって大成功を収め、僅か数年で鑑川部屋の後援会長に就任してしまった。
その活躍は虎城親方でさえ直々に出迎え、鑑川親方も全く頭が上がらないほどの影響力を持つに至っている。

腹黒い部分のあるひねくれ者だが、相撲への想いは本物であり、会社の不利益になると理解していながらも、
闘海丸が本気で戦うことに頷き、最終的に敗北しても思わず声援を送るなど、情に篤い男である。

  • 鑑川 一平(かがみかわ いっぺい)
「土俵には夢がある!!名声・金・女…欲しくば俺のもとに来い!!」

鑑川部屋の親方。サングラスを掛け、どう見てもヤのつく稼業にしか見えない様相をした、柄の悪い人物。
相撲大会で闘海丸と将太を見込んでスカウトした張本人。しかし将太は線の細さから勝ち星を挙げられず、
闘海丸は緊張しすぎる悪癖で負けが込むため苛立たされており、終いにはぶっ殺すぞと口で脅すどころか
刀を持ちだして抜こうとし、弟子たちに止められる有様という、血気盛んで短気な性格である。
その反動か、第三部では成功者となった将太に財政を握られ、彼に頭を下げるようになっている。

とは言え、闘海丸を小結まで育てている辺りはやはり優秀な指導者と言っても差し支えないと思われる。
現役時代は火竜と同時期に活躍していた力士だったが、最後まで火竜に勝つことができなかったと言う。


☆寒河江部屋

  • 巨桜丸 丈治(きょおうまる ジョージ)
「僕はもう、自分を諦めない!!」

次元一門、寒河江部屋の力士。西前頭九枚目。
ハワイのオワフ島出身の外国人力士。屈託のない笑顔と明るい性格で人気者となっている。
角界最重量の278kgの巨躯を持ち、入門から僅か11場所で入幕というスピード出世を果たす。
恐るべき肉体とそれを支える強靭な足腰で、下位とはいえ幕内力士を瞬殺する実力者である。

子どもの頃から人一倍体が大きく怪力だったが、根が穏やかで臆病なためそれを活かせず、
「リトルジョージ」と揶揄されて自信を無くしており、かつては家に引き籠もっていた。
しかし、元幕内力士で島のスターである元十文字部屋の九曜山に導かれて緊急来日。
虎城親方の指示で「楽しむ相撲」を標榜する寒河江親方に引き取られたことから、彼の力士人生が始まる。

寒河江親方や部屋の先輩たちに暖かく迎えられた巨桜丸は、少しづつ前向きになっていき、
生来の臆病さを教わった笑顔でガードし、並み居る力士を蹂躙。瞬く間に番付を駆け上った。
だがそれでも心根の部分までは直らず、むしろ上に行くにつれて相手の覚悟を痛感した彼は
次第に心を磨り減らしていき、遂に鯉太郎戦で精神が限界に達してしまいトイレに引き籠もる。
ところが同じくトイレに籠もっていた大吉にその弱気と覚悟の甘さを叱咤激励されて覚醒、
巨桜丸の無理を察した親方や兄弟たちの制止さえ振り切り、殺意を漲らせた表情を浮かべる。

鯉太郎を叩き潰さんとする巨桜丸はしかし、間違いなく過去最強の相手に気迫で圧倒され、
その凄まじい殺意を浴びて発奮。修羅の如き形相で凄絶なまでの突っ張り合いを展開する。
敗北しかけて勝負を投げそうになるものの、自分の奥底にあった諦めを直視した巨桜丸は
涙ながらに抵抗。最終的に敗退したものの、鯉太郎の見せた笑顔に思わず微笑みを浮かべた。

敗戦後、負けた自分に送られた惜しみない賞賛や、最後に垣間見えた相撲への思いを胸に、
彼は寒河江部屋で教わった「楽しむ相撲」で強くなりたいと心からの笑顔を見せる。
しかしその一方で、鯉太郎の笑顔が刹那で儚いものだと気付いて寂しそうにしていた。

素人の時点すら、力任せに叩いた電信柱がたわんで揺れるほどの怪力を誇っており、
桁外れの巨体も相まって、作中でも最強クラスのパワーと圧力を持つ天才的な人物。
しかしそれを裏打ちしているのは、寒河江親方の優しくも厳しい指導の賜物であり、
自身の並外れた巨体と怪力を、完璧に制御するだけの稽古を積んでいる努力家である。


  • 寒河江 修二(さがえ しゅうじ)
「OKジョージ…大丈夫…君は大丈夫!」

寒河江部屋の親方。小柄で柔和な風体と、キノコカットの頭が特徴。
現役時代に角界の厳しく理不尽なルールに苦労し何度も逃げ出した経験があり、
その反省で自分の部屋では「楽しい相撲」を掲げ、上下関係の無い仕組みを築いている。

親方衆からは弟子への態度が甘いと眉を顰められてはいるが、部屋の空気は良好でありながら
相撲の指導は厳しく身になるものであり、虎城親方も内心ではその手腕を認めていた節がある。
あの十文字部屋に取られそうだった巨桜丸を寒河江部屋に行くよう指示したのも虎城で、
実際に十文字親方が「巨桜丸はウチに入るはずだったのに」と悔しがる様を横目で見ながら
貴様の所ではこうはいかなかっただろう」と断言する辺りにもその名采配ぶりが窺える。


☆尾多留部屋

  • 白鯨力 成行(はくげいりき なりゆき)
「道………無くて…困った…走れない…走れないと…僕……また…いらなく…なる……」

尾多留部屋所属の力士。本名は池川成行(いけがわ なりゆき)。
番付は小結で、色物揃いの小結3人衆の中でもひときわ異彩を放つ人物
「愚直に叩き上げた、決して折れない魂の相撲」と称され、事実凄まじいほどに愚直でひたむきな性格。
幼いころに両親が離婚し祖母の元に預けられていたが、その祖母も亡くなり以降は親戚をたらい回しになる。
尾多留部屋の後援者だった親戚に「手が付けられない」と音を上げられ、たったひとりで尾多留部屋に入門。
見た目は気弱で太った冴えない少年で、当初は親方にも「手が付けられないとはそう言う意味か」と思われた。
親方の息子も好きな「ビクトリースター」というヒーローを好み、彼とすぐ打ち解けるなど穏やかな面を見せるも、
土俵で小突かれ気絶すると人格が豹変。恐るべき怪力と容赦のなさで、部屋の力士たちを叩きのめしてしまう。

その魔物のような暴れぶりにさしもの親方も蒼白になるが、「何がビクトリースター好きだ、この怪人!」と
激怒した息子に一喝されると元に戻る。自分のした事を何一つ覚えていないまま大暴れしたことから、親方も
彼が島流しされた真の理由を悟り頭を抱えるも、その圧倒的な才能を捨て置けずどうにか手綱を取ろうと画策、
試行錯誤の結果、股割や四股よりも先に、息子の指導で変身ポーズを仕込むことで二面性の制御に成功する。

以降彼はめきめきと実力を付けていき、やがて関取にまで昇進し三役に手が届くほどに成長することになった。
しかし、その実力は決して才能だけのものではなく、親方に言われた走り込みを道が続く限り走り抜いたり
力士を乗せたタイヤを引っ張り、軽トラックを押したりする猛稽古によって培った地金があってこそのもの。
その突進力は角界でも屈指で、素人の頃から圧倒的だった馬力は鍛えられた足腰により更に磨きが掛かっており、
大型力士をものともしないブチカマシから、パワーと体型を活かした猛烈ながぶり寄りで相手を圧倒する。

取組前に「ビクトリースター」の変身ポーズを取ることで、力士の顔に変身し圧倒的な実力を発揮するが、
変身しない稽古場では幕下以下にも負けるほどで、またそのパフォーマンスを批判され禁止された時期には
見るも無惨な程に番付を落としていったという。事実本人も、変身前には怯えて竦んでいる様子が見られる。
とは言え観客の評判は上々であり、現在では大歓声に包まれる、押しも押されぬ人気力士の一角となった。
第三部本編では天雷と対戦。大関確実と目される彼を追い詰めるパワー対決を展開するも、惜敗する。
素に戻って落ち込む白鯨力はしかし、親方たちの発破と観客からの惜しみない賞賛に笑顔を浮かべた。

普段は人畜無害な男で、件の暴走も親方の息子などの明らかな弱者相手には止めるなど優しい心根の持ち主。
手酷い目にあった兄弟子たちも、次第に彼の性格や扱いを覚えると優しく受け入れるようになっていった。
その人格を形成した根底には、あちこちで誰からも必要とされず、厄介者扱いされたトラウマが垣間見えており、
追い詰められると現れる悪鬼のような顔は、自分自身を守るための唯一の術だったのだと親方は推測している。

  • 尾多留 直哉(おたる なおや)
「大丈夫ですよ…いずれスーパーヒーローになる男を、私は見捨てたりは絶対にしません…」

尾多留部屋の親方で、白鯨力の師匠。濃い目の顔に立て襟という風貌のナイスダンディ。
元々は幕下以下のみを擁する、比較的小規模な部屋の親方だったが、ある日後援者に頼み込まれ、
後の白鯨力となる少年、池川成行を引き取ったことから転機が始まる。当初は特に期待していなかったが、
稽古場で見せた暴走に「何なんだこの生物は」と驚愕しつつも、彼を奇貨として扱うようになり、
「こんなのを飼っていたら部屋が崩壊する」と苦心しながら、息子の手を借りようやくその制御に成功する。

師匠として、親方としての野心に溢れていると同時に、弟子たちに対する人情や愛情も豊富な人物で、
はじめは白鯨力の恵まれない身の上に同情はしつつも、その才能に惚れ込んでいただけだったのだが、
次第に彼の見せる愚かなまでの真っ直ぐさや、その根底にある優しさに絆され本気で入れ込むようになった。

色物のような外見で強かな面もあるが、息子は無邪気でまっすぐ、幕下以下の弟子たちも朗らかで度量があり、
何より白鯨力の育成に成功していることからも窺えるように、親・指導者としての優れた器量を持ち合わせており、
白鯨力の輝きを目にしながらも、その原動力となった彼の半生の悲しさも理解したりと冷静な観察力も有する。


☆新発田部屋

  • 百雲 道明(びゃくうん みちあき)
「たとえそこに讃美がなくとも…たとえ汚濁の中に落ちようと…泡影(あそこ)に溶けちまった誇りを…奪い返すために…」

新発田部屋の力士。本名は登馬(とうま)道明。元々は品行方正にして、将来を嘱望された若手有力力士。
学生相撲出身のホープであり、本人曰く「怖いくらい恵まれた環境」で挫折を知らずに出世する。
「角界の良心」と謳われ、喧嘩腰な鯉太郎や尊大な王虎にも物怖じせず叱咤する人格者だったが、
初の結びの一番に望んだ際、覚醒した泡影を前に有り得ないような奇妙な感覚に襲われてしまう。
自分が泡影の内側に溶かされ、己の一挙手一投足が読み切られているという確信を得ながらも、
必死に突撃した百雲は、横綱が勝とうと思えば勝てたにもかかわらず何もしなかったことを悟る

触れただけで解る圧倒的な実力差を刻みつけられながらも、自分の積み上げた相撲が通じないどころか
勝負さえして貰えずに勝ちだけを譲られたという相撲漫画史上類を見ないほどの悲惨な取組の結果、
堪え難い屈辱と敗北感に襲われ、その上事情を知らず無邪気に自分を祝う部屋の家族や恋人に怒り狂い、
精神が破綻し人格が180度ねじ曲がった挙げ句、殺意と狂気に満ちた悪鬼羅刹の如き力士に変貌してしまう。

以降彼は、それまで積み上げた模範的で美しい相撲をかなぐり捨て、泡影の想像を超える一手を目指し
荒々しく残酷な相撲に首まで浸かってしまい、多数の怪我人と観客からの罵声を生み出すことになった。
しかし性根が善人で真っ直ぐな人格者せいか、どれほど悪し様に振る舞い恐ろしく着飾っていても、
泡影に当てられた絶望の光に染まりきれず、狂おうにも狂いきれない苦心と苦悩が垣間見える。

本編では、艱難辛苦を知らずに居たはずが、突然闇に叩き落とされた百雲とは対照的な力士、
同じく学生相撲のホープであり、挫折と懊悩に塗れつつも光の道に立ち戻った松明と対戦する。
殺気を当てても臆さず、それどころか冷静さと勇敢さで互角に渡り合う松明に苛立ちながらも、
地力と技量で上回る百雲は、精密かつ強引な相撲で松明を破壊し徐々に窮地へ追いやっていく。

ところがそれでもなおまるで折れない松明に苦戦を強いられ、逆に百雲の心が削られてしまう。
まるで鯉太郎のような殺気に怯え圧倒される彼だが、心よりも先に肉体が限界を迎えた松明は
ついに土俵に手をつき、百雲は試合には勝つが勝負には負けたような形で薄氷の勝利を拾う。
しかしそんな白星が誉められるはずも無く、勝ってなお彼は罵声と怒号に晒されてしまった。
更には王虎にそんな姿を嘲笑されてしまい、翌日の彼との一番に憎悪と憤怒を滾らせていく。

来る十一日で王虎と対戦。眼前の彼さえ無視して、土俵脇の泡影を睨み付ける百雲だったが、
鮫島-天雷戦の顛末に苛立っていた王虎の、荒々しくも盤石な相撲にまるで歯が立たない上に、
その狂気さえ「偽者」と断じられ、反則攻撃さえ逆に返され関節を破壊される*48と言う
屈辱と絶望を味わい、遂に心を折られた。しかし最後に残った己の本物の相撲で王虎に反撃。
それすら呑み込まれ敗れたものの、彼は憑き物が落ちたかのような顔で花道を戻っていった。
取組後、元の人格を取り戻した百雲は、自身が泡影戦で力士として終わっていたことを認め、
親方や付け人衆に謝罪。介錯してくれた王虎に感謝しつつ、引退して土俵から去って行く。
国技館を去る彼を待っていたのは、突き離されてもなお戻ってくれた最愛の恋人であった。

地道に、愚直に積み上げ続けた技術と戦略は、闇に堕ちても錆びるどころか磨きさえ掛かっており、
高い攻撃力や出足の速さも相まって、並みの力士では着いていけない機敏さと技量を持ち合わせる。
かち上げやの威力や容赦の無い取り口による恐怖で相手を惑わす誉められない戦法を用いるものの、
それで居ながら、通常の相撲では考慮に入れない荒々しい手を躊躇無く織り交ぜて攻め立てるため、
野蛮だが粗雑では無く、乱暴だが杜撰ではない危険極まりない相撲が高いレベルで成り立っている。
データ相撲の技巧派・松明をして「よく考えられた隙の少ない攻めを構築している」と賞賛させた。

天鳳さえ寄り切る底力を持つ、素晴らしい才能に溢れた力士であったが、泡影の覚醒に立ち合い
力士としての拠り所を奪われてしまったが為に、絶望から立ち直れず狂ってしまった人物である。
しかし己の全てだった相撲を失ってもなお、彼には今まで築き上げてきた暖かい絆が残っていた。


☆柳川部屋

  • 大森山 太一
「気を付けろ弟よ…そいつは悪魔の皮をかぶった悪魔…つまり悪魔だ!!」

柳川部屋所属の力士。
身長198cm。体重230kg
幕下以下では一番の巨漢で、負け越しなしで幕下まで上がってきた。
第二部では幕下から三段目に番付を落とした模様。
体がデカイせいかキャラの力を読者に分かりやすく説明するための噛ませ犬にされることが多い。


  • 大森海
柳川部屋所属の力士。大森山の弟。
日本人力士最重量の体重240kgの巨漢。
元十両。
体がデカイせいか兄と同じく噛ませ犬にされることが多い。

☆その他の登場人物

  • 斎藤正一
真琴の父親で鯉太郎の育ての親。
生前の火竜とは親友同士で火竜の死後、鯉太郎を自分の家に引き取り育てた。

  • 山崎
週刊紙である「日刊トップ」の新聞記者。
火竜とはお互いが新人だった頃からの付き合いでプライベートでは二人で飲みに行ったりなどしていた。
その関係から鮫島にはデビューした時から注目しており、鮫島がマスコミからバッシングを受けた際も、擁護記事を載せていた。
第三部では編集長に昇格している。

  • 青山達夫
大栄大学相撲部顧問。
常松の恩師で常松を学生横綱にまで育て上げた人物。
天城部屋の元力士で松明や火竜の兄弟子に当たる。

  • ドスコイ!ツッパリ君
「………チッ。お前…人気ないな…」

バチバチのマスコットキャラクター。欄外の解説コーナーでは相撲用語やルールの解説などを務める。
興行中に両国国技館に来ると一緒に写真も撮れるぞ!
上述の通り、中の人は元天城親方。火竜に怒鳴りすぎたせいで喉が潰れているため声はガラガラ。
おまけに口を開くとかなりの毒舌で、名前の通りツッパリのような悪人面という濃いキャラクター。
なお元ネタは、日本相撲協会の公式マスコットである「ハッキヨイ!せきトリくん」だと思われる。

追記・修正待ってます。

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最終更新:2024年04月09日 10:59

*1 ケガをする意。病から転じた隠語。

*2 劇中では石川こと飛天翔が引退したことを忘れてしまっていた

*3 相撲部屋からメインの親方が居なくなると、別の部屋付き親方が所属していない場合、取りつぶされて力士は移籍になってしまう。

*4 親方になるための年寄名跡は、継承にも取得にも条件がある。当時の空流部屋所属者で空流を受け継げるのは仁王だけだった

*5 取り組みを制したのちに事故を装った大鵠の手によって膝に全体重を加えられてしまった

*6 すでに靱帯断裂寸前であり相撲どころか歩行すら怪しい状態であった

*7 現在の大相撲では、同部屋同士の対戦は基本的に組まれず、優勝決定戦などのみで対戦する

*8 ちなみに髪はこっそり川口が剃り続けている

*9 身長2mの大関・天鳳と遜色ない

*10 鯉太郎の第一印象

*11 父のことは「クズ野郎」「どうしようもないやつ」と呼び、自分にその血が流れていることを卑下することもあった。しかし父から虐待を受ける以前の、それこそ今では虚飾に過ぎなかったと理解しているはずの思い出も捨てきれておらず、本心では父を憎み切れていないことがわかる。

*12 作中ではタクシー代のお釣りが10円足りないことも見逃さずに請求していた

*13 冷やした後に大吉自身が食べるため

*14 言うまでも無く反則。しかも指が引っかかったなどではなく本当に掴んでいる

*15 その際のイメージは、大銀杏を結ってサングラスと黒スーツを纏い、ワイングラス片手に虎を侍らせソファーに座すというカオス極まりない絵面のため必見

*16 平成の大横綱・貴乃花以上

*17 例を出すと過去に火竜に教えた際には「脇がバーッとなるからギュッとしろ」といったもの。要約すると「脇が開いて力が逃げているのでしっかり締めろ」ということ。

*18 その猛虎にしても、理解できていた王虎の解読により、親方の放つ擬音に法則があることを見抜いて独自で翻訳メモを作成してやっと可能にした

*19 猛虎や竹虎など

*20 通常だと上位力士の関取は雑務を行わず、それ以外の下位力士である取的が殆どを担う。虎城部屋のような大所帯なら尚更である

*21 いわゆるパンチドランカー

*22 幕内力士の断髪式は引退後しばらくして、盛大に催される

*23 その上、鯉太郎には自身と同じ慢性外傷性脳症の兆候が現れているという皮肉ぶりである

*24 その後「あと二人追加な」と軽く言ってのける余力さえ見せる

*25 宝玉光も髷に小指を挿して投げてはいるが、鯉太郎が幕下時代で、更に背後から直立状態を狙ったので比較は出来ない

*26 ちなみに四股名は「飛天翔」と正しく呼んでいる

*27 トンボに鉢巻のなまり。要するに目先の見えないバカ

*28 モンゴル語で「永遠の勇者・永遠の喜び」という感じの意味。なお、前半は父親の名前を名字代わりに使っているもので、後半が本人の名前である

*29 その為、第二部では全く出番が無かった

*30 少なくとも編集者は彼以上に悲惨な生い立ちを持つ相撲漫画の力士を知らない。と言うか哀しいので居て欲しくない

*31 モンゴル相撲などを行う国家の祭典

*32 事あるごとに蒼希狼を詰る彼だが、実は蒼希狼の関取昇進に個人部屋用の家具贈呈を申し込んだりと、それなりの度量はある

*33 「自分を支えてくれる人」の中にはちゃんと後援会長まで入れている

*34 なお上の台詞に蒼希狼は現金を所望して会長の配慮を無下にし、付け人にも粗大ゴミの家具を運ばせて反感を買っている

*35 蒼希狼を罵りながらも、実際にその深刻さを目の当たりにすると嘲笑せず顔面蒼白になっている

*36 朝稽古で楽しそうに口を出し、やる気の無い蒼希狼に怒る辺りはやはり相撲が好きなのだろう

*37 現実では朝青龍及び白鵬の連続7回が最多

*38 実在の大横綱・双葉山の前人未到の記録。

*39 ただ当時の禅定親方は本当に放任主義だったようなので、この評価もある程度仕方ない

*40 現在は日本国籍に帰化した者も含めて、外国籍および外国出身力士は一部屋にひとりという制限がある。ただし部屋の統廃合による移籍や制限設定以前からの在籍者にこれは適用されない

*41 太鼓持ちとして優秀だったため、男芸者と揶揄されていた

*42 虎城からの紹介で仕事を始めたが3日で放り出している

*43 相手の頭を持ち捻じり倒す、危険かつ珍しい技

*44 関取の付け人がいない場合、同門の部屋から力士を借りてくる慣わしがある

*45 なお、現実の大関で40歳まで続けられた者は居ない。40歳時点に関取でいた者さえ、当時平幕の旭天鵬のみ

*46 大関は2場所連続で負け越すと降格し、角番は降格を懸けた場所のこと

*47 大関は陥落した次の場所で二桁白星を挙げれば復帰出来る制度がある

*48 ご存じの通り、王虎は危険な相撲も十八番である。更に劇中屈指の反射神経と対応力も相まって、反則も即座に読み切って逆襲できる