水滸伝

登録日:2012/04/10 Tue 00:55:37
更新日:2024/02/02 Fri 16:11:42
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天に替りて道を行う



あらすじ

中国は北宋前期…天下を疫病が襲い万策尽きた朝廷は龍虎山に住まう仙人・張天師に悪疫払いの祈祷を依頼する。
しかしその際、都から派遣された使者のワガママによって「伏魔殿」に封印されていた百八の魔星が現世に解き放たれてしまう。

事件には箝口令が敷かれ、それを知る者が死に絶えた8代「風流天子」徽宗の御代。
表向きの享楽的な繁栄とは裏腹に都には悪官汚吏、鄙には凶賊、塞外には蛮戎夷狄が牙を研ぎ、まさに大宋国は砂上の楼閣となっていた。

そんな腐敗混迷の世に容れられず、運命の糸に手繰り寄せられ一人、また一人と水の畔の要害・梁山泊へと集う豪傑達。彼らこそかの百八星の魔王が人界へと転生した姿である。


「天に替りて道を行う」「忠と義、双(ふたつ)して全(まっと)し」の8字を掲げ、ある時は奸臣どもと丁々発止、またある時は蛮夷逆賊を成敗して天下国家に尽くすも全てはこれ一炊の夢。やがて豪傑達は散り散りとなり、再び人界から去って行くのであった。


解説

『水滸伝(すいこでん・みずのほとりのものがたり)』とは明代に編まれた白話(口語)小説であり『西遊記』『三国志演義』『金瓶梅』と並ぶ中国四大奇書の一つ。
実在した盗賊・宋江を中心とする百八人の豪傑達が梁山泊に集い、腐敗した北宋末期を舞台に大暴れする物語。

「前世の宿縁に導かれた登場人物がやがて一つに集まって大きな敵に立ち向かう」という筋書きの物語の元祖である。

物語全体の構成としては、
大酒飲みの破戒僧や高官にハメられて地位も家族も失った武芸の達人、虎殺しの拳法使い等様々な豪傑が次々と登場し、次の主人公に物語のバトンを渡していくという講談、演劇等の集合体という性格が色濃く残った前半部分、
物語の中心人物たる宋江が登場し彼を巡る騒動等を縦糸としてバラバラだった豪傑達が梁山泊へと集合し、ついに百八星が集合するまでの中盤部分、
そして梁山泊軍団が悪官悪吏の官軍を打ち破るものの、皇帝を助けるために朝廷に帰順しその戦いと奸臣の悪巧みのために滅びて行く後半部分で構成される。

この流れを全百回の章回(講談時代に「この続きはまた今度」と物語を区切っていた名残)に分けた百回本が一番基本となる形であり、梁山泊の戦いがもっと見たい!という事で二十回が付け加えられた百二十回本が現代日本における『水滸伝』のスタンダードな形式となっている。

その後、清代に金聖嘆という人物が「一介の山賊ごときが天子様の軍隊になって忠臣面とかおかしいだろ! 俺はこんなの認めん!」
と百八星が集結するまでで物語をバッサリ斬り落としてしまった七十回本が存在する。

これは満州民族の王朝である清が梁山泊が(漢民族からみた)異民族を討伐する後半を面白く思わなかった事と、
百回、百二十回本を印刷するとコストがかかりすぎるという版元の利害が一致して中国では長く七十回本がスタンダードとして読まれていた。

今でも、児童向けの訳本等は七十回で終わるものが多い。
一方で日本では梁山泊が滅んでいく姿が無常観とマッチしたのか百二十回本が多く読まれていた。


今でこそ「『三国志』が一番!」な日本だが江戸時代から戦前にかけては『水滸伝』が一番人気だった。
浮世絵の題材も水滸伝が圧倒的に多く、今でも青森のねぶた祭りや、鳶職人や町火消しの彫物等にその名残が見受けられる。(ただし江戸時代や戦前にかけて受け入れられていたのは明で書かれた水滸伝ではなく、日本人向けに書かれた岡島冠山が翻訳したり、歌川国芳や葛飾北斎の描いた浮世絵の方の水滸伝のほうである。明代の方はあまりにも内容がひどかったためか?)

そして江戸時代を代表する水滸伝オタクといえば『南総里見八犬伝』の曲亭馬琴大先生。
八犬伝自体が水滸伝の日本版を目指して書かれたものであり、八犬伝が現代日本のサブカルの源流的存在である事を考えると、
水滸伝は知らず知らずのうちに日本のアニメ、漫画文化等に影響を与えていたのである。

ちなみにこの馬琴先生、『傾城水滸伝』という水滸伝の全登場人物の性別を逆転させた女体化ものの元祖も書いてたりする。
(曰く、当時の規制逃れのためにTSしたらしい)


しかし現在、『水滸伝』自体は今ひとつマイナーな存在になっている。
主な要因としては

  • 『三国志』がそれで人気が出たように吉川英治のような国民的作家による翻案が為されなかった事(実は試みられているのだが絶筆)。
  • 『三国志演義』ほど物語として洗練されておらず、突っ込みどころや空気化するキャラクターが多い事。
  • 登場人物の行動や倫理観が現代日本人にはイマイチ共感し辛い所がある。
    例を挙げると、
    ○味方につけたい人物は地位、財産、家族の命を失わせてでも引き込む。
    ○憎い悪漢とはいえ、生きたままバーベキューにして食べる。
    ○それどころか、何の罪もない人を追剥して、その肉を饅頭の具に。
    ○4歳の子供だろうと、無関係の人間だろうと必要とあれば惨殺。
    等。

ちなみにこれらの行為は全て主人公サイドの仕業である(敵方もそれと同等かそれ以上に卑劣…だと思う)。
尤も、前世が魔王な為か世の為人の為に戦う英傑好漢は一部であり、大多数の人物は明確に「悪漢」であり、高潔な思想があるわけでも無く、戦う理由も
「なんかあいつら偉そうだから」
と実にしょうもない事が大半だったりする。

しかしこれらの面に目をつぶって或いはそれらも飲み込んでしまえば、痛快娯楽小説として『三国志』とはまた違った魅力を持つ作品である事は確かである。
機会があれば、一度手に取って見てはいかがだろうか。
ちなみに原典をあたりたいのならば駒田信二訳の平凡社版が忠実で、図書館に置いてある率も高くおススメ。
とっつきにくいという人には岩波少年文庫版(全3巻)が読み易く、話の筋も抑えているので入門に最適だろう。


主な登場人物

百八星(水滸伝)を参照。


主な二次創作

[古典]

『水滸後伝』
百八星の生き残りが活躍し、南の島に独立国を作る。一番人気のある続編。

『結水滸伝』
百八星が官軍に掃討される。断罪ヘイト系の元祖的作品。
2020年現在日本語訳の類は出版されてないようで、作品に触れるハードルは高め。

『金瓶梅』
「四大奇書」のひとつ。だが元々は水滸伝のエロ同人

『傾城水滸伝』
前述の通りの性転換水滸伝。


[小説]

『新・水滸伝』
吉川英治作。七十回までは書かれているが惜しくも未完。

『悲華水滸伝』
杉本苑子作。百回完結している貴重な作品。
少しお耽美な描写が多いので人を選ぶかも。

『絵巻水滸伝』
森下翠・文。正子公也・絵。美麗イラストと筆者の水滸伝愛に溢れた作品。
新品で揃えると値段が張るのが難点。

『北方謙三 水滸伝』
北方謙三作。登場人物や設定を借りてきただけの別作品。
群像劇、革命戦記としてはかなりの読み応え。続編に『楊令伝』『岳飛伝』がある。

『水滸新伝』
中華民国時代の作品。朝廷への帰順方策をめぐり、梁山泊が内部分裂してしまう。

『魔界水滸伝』
栗本薫作。百八星をモチーフにしただけのクトゥルフ神話+妖怪+サイキック伝奇もの(一部BL要素あり)。
これも微妙に打ち切り風味(本編は「俺たちの戦いはこれからだ」的エンド、続編は未完)。
宋江ポジがいない百八星は大規模な軍団を築けないという面も描かれているかもしれない。


[ドラマ]

『水滸伝』(日テレ版)
林冲が主人公。勧善懲悪時代劇となっている。

『水滸伝』(CCTV旧版)
登場人物の配役や、原典の世界観再現がすごい。

『水滸伝』(CCTV新版)
ファンタジーっぽくなったが。百八星が全員登場する唯一の映像作品。


[漫画]

『水滸伝』(横光版)
横山光輝作。少年向けにマイルドになっているので初心者におススメ。

『水滸伝』(沼田版)
久保田千太郎・原作、沼田清・絵。百回完結。読後の無常観が半端ない。

AKABOSHI -異聞水滸伝-
天野洋一作。打ち切り

『月の蛇~水滸伝異聞~』
中道裕大作。原典寄りで梁山泊が敵役。ファンには好評。上同様打ち切り。

『魔獣水滸伝キズナ(KIZNA)』
原作/ビトウゴウ、作画/夏野すいか。全3巻の予定が2巻で未完。

『まんがで読破 水滸伝』
超怪作


[アニメ]

『銀河神風ジンライガー』
水滸伝をモチーフにしたJ9シリーズのロボットアニメ。
公開に向けて製作していた……が、放送どころか完成の目処すら立たず、トドメと言わんばかりに発起人の山本優氏が2018年に逝去した事で企画が完全に頓挫してしまった。


[ゲーム]

『水滸伝 天命の誓い』
光栄SLG。ゲームバランスは歴代屈指との評も。

『水滸伝 天導百八星』
上記の続編。箱庭ゲー。世界観再現度はこっちのが上かも?

水滸演武
格ゲーでバカゲー。

幻想水滸伝
今やこちらがメジャー? 原典から元ネタ探しをしてみよう。

『どきどき†すいこでん』
ギャルゲー化。略して「どき†すい」。



李逵「こんな糞記事はおいらがぶったぎってやる!」

宋江「こら鉄牛、追記修正もせずそんな真似するんじゃない。

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最終更新:2024年02月02日 16:11