機動戦士クロスボーン・ガンダム

登録日:2011/03/05 Sat 01:07:39
更新日:2024/04/11 Thu 19:54:13
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宇宙世紀0133

地球の誰もまだ

この戦いを知らなかった


月刊少年エースで1994年12月号~1997年3月号の間、連載されていた漫画。
原作は富野由悠季、漫画は長谷川裕一

それまでのガンダムシリーズの漫画では肩書きだけだった富野由悠季が初めて製作に関わった作品でもある。
100%富野脚本というわけではなく、送られてきた富野監督のプロットに対して長谷川氏が率直な意見をぶつけ、
それを受けて監督が脚本に手を加えさらに漫画的なアレンジも加わっているため、長谷川成分も結構強かったりする。
単行本1巻に収録されたインタビューによると「ここは富野要素だな?という部分が実は僕(長谷川)の案だったりします。その逆もまたしかり」とのこと。
また、単行本の巻末にはメカニック解説が載せられるのが定番となっており、その巻で活躍したメカの詳細をそのまま知ることが出来る。
MSだけでなくMAやSFS、さらには戦艦まできっちり解説されている。たまに解説が無くて謎メカになるやつもあるけど。

前半の舞台となるのは、地球から遠く離れた木星
それまでのガンダム作品では木星帰りと呼ばれる者たちによって言及されていたが、直接舞台となるのは初となる。
後半ではお馴染みの地球へと舞台を戻している。

宇宙世紀としては『機動戦士ガンダムF91』の10年後を描く続編で、続投キャラクター達は相応に年を重ねている。
F91で一旦宇宙世紀が仕切りなおされた事や、長谷川氏がSFに造詣が深くファーストフォロワーでもあること、何より富野監督が関わっていることもあって、
ガンダム漫画としては珍しくSF成分が強く、ファーストガンダム的なスーパーロボット風味も混じった作風となっている。

本作のラストは続きがあるような締めとなっているが、執筆当時は後の『スカルハート』や『鋼鉄の7人』は全く想像していなかったという。
続編では作中の時代がどんどん先へと進んでいっているため、本作は結果的に世代を超えた大河ドラマのスタート地点となっている。

また、本作では地球、コロニー、そして木星という環境の違いが描かれており、それぞれに住む人間の思想、能力についても違いが見られる。
この違いは後のクロスボーン・ガンダムシリーズでも同様に描かれており、シリーズ通してのテーマなのかもしれない。


【あらすじ】

宇宙世紀0133年、木星圏付近では「ガンダム」と呼ばれるタイプのMSを使う宇宙海賊が出没し問題となっていた。
海賊の名は『クロスボーン・バンガード』。
コロニー生まれの少年“トビア・アロナクス”は、そんな時勢の中でも希望に胸を膨らませながら留学生として木星に向かっていた。

その途中、トビアは中継ステーション内で何者かに追われていた一人の少女“ベルナデット・ブリエット”と出会う。
彼女を友人達と共にその追っ手から庇っていたその時、宇宙海賊が出現。

木星側の守備隊が次々と撃破される中、作業用MSの免許を取得していたトビアは残されていたMSに乗り込みガンダムを迎え撃つ。しかし、所詮は民間人に過ぎないトビアでは全く歯が立たずに機体を破壊されてしまうが、なんと敵のはずのガンダムから脱出を促され、何とか生き延びる。

仲間の元へ戻ろうと宇宙船内に入ったトビアは、貨物室で木星の人々が地球人を殺すために隠していた「毒ガス」を発見してしまう。
木星の裏の顔を見てしまったトビアは教官のカラスに追い詰められてしまうが、先程のガンダムのパイロット“キンケドゥ・ナウ”に救われる。

その後、宇宙海賊『クロスボーン・バンガード』に保護され、指導者“ベラ・ロナ”から地球攻撃を企む『木星帝国』の存在を告げられたトビアは、海賊たちと共に戦う道を選ぶのだった。


【登場人物】

※CVはGジェネガンダムvs.スパロボなどゲームでの配役

宇宙海賊 クロスボーン・バンガード

かつて地球連邦に対して戦争を起こした貴族主義者達。
地球圏では輸送船を襲う恐怖の海賊とされているが、その実体は地球を木星帝国の魔の手から守ろうとする者たちの集まりである。

トビア・アロナクス
CV:山口勝平
「ならば海賊らしく…いただいてゆく!」
主人公。
地球からの留学生だが、クロスボーン・バンガードの一員として戦うことになる。
ニュータイプでありながらニュータイプ主義を否定し、人間として生きることにこだわる。

◆ベルナデット・ブリエット
CV:夏樹リオ
メインヒロイン
木星から密航して来た謎の美少女。
ステーションでの襲撃騒ぎの中、トビアと出会い、マザー・バンガードのクルーとなる。
実は偽名で、本名は「テテニス・ドゥガチ」。
劇中で「どこも出っ張ってない」と言われるほどの幼児体型で、続編『鋼鉄の7人』のエピローグや20年後が舞台の続編『ゴースト』でも変わっていない。

キンケドゥ・ナウ
CV:辻谷耕史
「奇跡を見せてやろうじゃないか!」
クロスボーン・ガンダムX1を駆るクロスボーン・バンガードのエースで、トビアに戦い方を教える兄貴分。
自身は重傷を負い、機体のコックピットには穴が空いている状態で大気圏を突破した凄い人。
ベラとかなり親密な関係だが、その正体は…。

ベラ・ロナ
CV:冬馬由美
宇宙海賊クロスボーン・バンガードの指導者で、自ら戦艦『マザー・バンガード』の艦長として木星帝国と戦う。
パン作りで気分転換する習慣がある。
キンケドゥとかなり親密な関係だが、その正体は……。

ザビーネ・シャル
CV:梁田清之
クロスボーン・ガンダムX2を駆るもう一人のエース。初出は『F91』。
コスモ・バビロニア戦争から10年が過ぎた今でも貴族主義に未練を持つ。

◆ウモン・サモン
CV:宮澤正/田中和実
クロスボーン・バンガードのMSパイロット。
ニュータイプを自称するお調子者の老人だが、一年戦争の頃から戦線で活躍している大ベテラン(長谷川の描いた宇宙世紀作品に若い頃の彼が客演することもある)。
その時の活躍についてはBガンダムを参照。

◆ヨナ
クロスボーン・バンガードのMSパイロットの女性。
MS操縦の腕はイマイチだが生身での白兵戦に優れる。
続編で明らかになったことだが、ウモンとは家族絡みの付き合いがある。

トゥインク・ステラ・ラベラドゥ
CV:釘宮理恵
スカルハートからの登場だが、ある理由によりここに記す。詳しくは項目参照。

◆シェリンドン・ロナ
ベラの親戚。
ガチガチのニュータイプ至上主義者であり、トビアを自分の下に置こうとするが…。


木星帝国

連邦政府の木星市民への扱いを恨み、地球攻撃を企む秘密組織。
木星の厳しい環境ゆえに人命よりも物資を優先し、任務をしくじった者には容赦無い制裁が行われる、ガンダム史上でも指折りの厳しさを誇る。

クラックス・ドゥガチ
CV:永井一郎/麦人
木星帝国総統。木星に生活圏を築き上げた、木星圏における英雄。
木星の民に地球の大地を与えると宣言するが、その真の目的は…。

◆カラス
CV:茶風林
留学に来たトビア達を迎えた教官の一人だが、実は木星帝国の凄腕の諜報員。
「強い者こそが正しい」という信念に基づき、木星帝国に従う。
強きものであれば敵であろうと賞賛する。
でも教え子達が大活躍。

ギリ・ガデューカ・アスピス
CV:真柴摩利
◆ローズマリー・ラズベリー
CV:まるたまり
◆バーンズ・ガーンズバック
CV:飯塚昭三
対クロスボーン・ガンダムの特務部隊「死の旋風隊(デス・ゲイルズ)」のメンバー。
木星帝国の戦士としてガンダム打倒に燃えるギリ、木星市民の窮状を嘆いて軍に参加したバーンズとは違い、ローズマリーは傭兵として雇われた外部の人間である。
『鋼鉄の7人』にも再登場。当初はギリとローズマリーは名前しかなかったが、続編で苗字も明かされた。


●地球連邦軍

以前のコスモ・バビロニア建国戦争と同様に、今作でも有効な手立てを打てず、後手後手に回ってしまう。MSパイロットの多くも練度が低い。

ハリソン・マディン
CV:青羽剛→平川大輔
「連邦の青い閃光」の名を持つ、この時代では数少ない連邦軍のエース。専用の青い量産型ガンダムF91を駆る。
続編の言動からロリコン疑惑が浮上。また、彼の祖母と思われる人物は若い頃は超絶ロリだった
こちらも本作ではまだ苗字が設定されていなかった。


【登場メカ】

●クロスボーン・バンガード

◆クロスボーン・ガンダム
本作の顔でもあるドクロマークが刻まれたガンダム。ベラ・ロナの信念に基づき、近接装備が中心。
サナリィが極秘に開発&提供した機体で正式名称はF97。
白いX1黒いX2水色のX3の三機が登場。銀色のX3?なんのことやら。
ザンバスターなど共通の武装は持っているが、パイロットに合わせてか機体ごとに専用の装備が用意されている。
一応は全部同じ機体なので、パーツの使いまわしが効く。

◆ゾンド・ゲー
『F91』時代のクロスボーン・バンガードの機体を開発していたブッホ社製の超小型MS。当時からさらに小型化した結果、全長10m強まで縮んだ。
本作の時点では生産停止した型落ち機という扱いで、後に全機が廃棄された。

フリント
地球圏の環境に合わせて造られたクロスボーン・ガンダムの量産型。
終盤でのクロスボーン・バンガードの主力機になる。

マザー・バンガード
クロスボーン・バンガードの母船。ガンダムシリーズでも珍しい帆船型の戦艦。
ビームシールドなどの高性能な装備を持つほか、マスト部分のミノフスキードライブで地球と木星を短期間で行き来できる程の推力・加速力を持つ。


●木星帝国

バタラ
いわゆる量産型のやられメカ。シュノーケルのようなゴーグルが特徴。
何機かが宇宙海賊に奪われ、一時的な主力機となった。

◆ペズ・バタラ
バタラの突撃仕様。平べったい構造をしており、機体前部にビームアックスを展開して攻撃を行う。
1機が海賊軍に奪われ、トビアの序盤の乗機となった。つまり序盤の主人公機である。

◆エレバド
バタラの指揮官仕様。劇中での出番は少ない。

◆ヴァゴン
地上侵攻用のMS。タイヤ型のパーツを装着しており、後のアインラッドとの繋がりを感じさせる。

カングリジョ
木星軍MA。双眼鏡のような形の双胴型のボディを持ち、片方の半身はジェネレーター、もう片方は強力なメガ粒子砲となっている。
シンプルな造りになっているためコストが安いらしい。
別名、スカイ・ウインク。

クァバーゼ/アビジョ/トトゥガ
クロスボーン・ガンダムに対抗して開発された「死の旋風隊」専用機。
単機でクロスボーン・ガンダムに匹敵するMSの開発を諦め、代わりに攻撃・撹乱・防御のそれぞれの役割に特化した機体を開発し、チームとして運用した。
クァバーゼはギリ、アビジョはローズマリー、トトゥガはバーンズの乗機となり、後にクァバーゼのみ量産されている。

エレファンテ
木星帝国のNT用MA。形がキモい。
機体先端にビーム砲を備えた象の鼻のような形のフレキシブルアーム、更に大型のサイコミュビットを5基装備し、動きは鈍いが死角のない移動砲台。

エレゴレラ
自動操縦のモビルアーマー。バランスに優れた機体。
読者公募機であり、原案は東京都の海老川兼武くん。

ディビニダド
本作のラスボス機。木星帝国の切り札である超大型MA。悪意100%で出来ている


●地球連邦軍

量産型F91
一般兵でも扱えるよう、オリジナルのF91からからデチューンされており、最大稼動モードもオミットされている。
しかし、ヴェスバーの威力は依然として脅威的。
ハリソンの青いF91は専用にカスタマイズされており、最大稼動モードも使える。

133式ボール
予算の関係でこの時代になって復活したボール。キャノン砲が3連装になっている。

ヘビーガン
『F91』から引き続き連邦軍の主力として運用されている。


●その他

◆エオス・ニュクス号
コスモ・クルツ教団が所有するマザー・バンガードの姉妹艦。
貴族主義者達の旗艦となっているが、連邦に目を付けられないよう武装の類はすべて外されている。

◆ザクラオ
ザクⅡを模して作られた小型モビルスーツ。コロニー軍によって使われている。
全体的なレイアウトをザクⅡに倣っているが、シールドは両肩に装備し肩部スパイクはシールドから出るビーム・スパイクへ、
ザクマシンガンはビームマシンガンへと変わっている。


【クロスボーン・ガンダム で どうでしょうか?】

富野監督によって書かれた、クロスボーン・ガンダムの企画書。『機動戦士クロスボーン・ガンダム メカニック設定集』で公開された。
この段階で「ベラ率いるスペース・クロスボーンがジュピター・エンパイアと木星で戦う」という大まかな流れは出来ていた。
一方、トビアに相当するキャラクターが存在せずキンケドゥが主役だったり、本編では出番の少なかったコスモ・クルス教団の存在が強かったり、キンケドゥがテテニスに浮気*1したりと、本編とはかなりの違いがある。

少年エース創刊編集長の井上伸一郎氏からオファーを受けた長谷川氏は「(監督の案を)結構変えますよ」と返し、そのうえで長谷川氏が選ばれたという。
そんな長谷川氏も、この企画書でクロスボーン・ガンダムというタイトルを初めて見た時は流石に面食らったそうな。


【その後】

続編として

がある。

また、本作連載前に制作された『Vガンダム外伝』は本作と世界観がリンクしたものであり、後年の『ゼータガンダム1/2』『MSV戦記ジョニー・ライデン』も同様である。
逆襲のギガンティスは……どうなんだろうね…

【BGM】

今となってはvsシリーズやスパロボでお馴染みとなっている本作のBGM「クロスボーン・ガンダム」であるが、初出は2000年に発売されたPSソフトGジェネレーションFである。
それまで紙媒体だった本作は、このゲームにて初めて音声付きメディアに展開され、その際にゲーム作曲家である大熊謙一氏によって複数のBGMが付けられた。
中でもトビアやキンケドゥ達の戦闘曲として採用されたこのBGMが好評だったことも、本作の認知度を上げた理由の一つとして挙げられるだろう。
ちなみにプロローグ曲やステージ曲等も他作品への出張こそないものの良曲揃いなので、機会があれば聞いてみては如何だろうか。


【余談】

前述の通り企画段階ではキンケドゥが主人公だったが、流石に30歳近い主人公は少年エースの読者層的にどうかという事で、少年主人公のトビアが生まれたのだという。

作者の長谷川氏は本作をキッカケに本作や『F91』近辺の外伝展開が広がらないかと期待していたようだが、
ほとんどゼロと言っていい程誰も描かなかったため、2021年現在でもほぼ一人で『F91』以降の作品を描き続けている状態となっている。
幸いにも『F90 AtoZプロジェクト』でF91前が少しずつ掘られ始めているので、もしかしたらそのうちクロスボーンまで到達する……かもしれない。

長谷川氏は本作が何故アニメ化されないのか?という質問に対して
『クロスボーン・ガンダムは雑誌で載せる漫画企画として始まっている。
 監督が原作を務めていようが、出発点の時点でガンプラやアニメ化といったメディアミックスを想定していないから』
というのが理由ではないか、と語っている。

本編執筆時におけるPCの着脱可能な記憶媒体(メディア)としてCD-R、MO、Zip(テープ)辺りもそこそこ見るようにはなっていたが、
まだ3.5インチのフロッピーディスクが主流だったためか、データのやりとりはフロッピーディスクを介している。
初代原作で古臭い有線電話を使っているのと同じ様に、時代を感じる一コマである。
そしてゴーストで、学生が(異常な性能を有する)自作汎用萌えAIをタブレット端末に搭載していることも時代の流れを色々な意味で感じる。



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最終更新:2024年04月11日 19:54

*1 一応言っておくと、企画書時点では恋人がいる設定なので本編よりも年上のはずであり、危険な関係にはならないと思われる。